こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
まずは日本での暮らしから始まります。

追記:18年10月30日、誤字報告により修正しました。


死の秘宝
序章


 旅行鞄の中は窓のない六畳間の部屋、代わりに掛け軸が外の景色を教えてくれた。

 しかし、飛行機の荷物棚に突っ込まれてから何の変化もない。仕方なく、私は杖を振ったり、教科書を読んで過ごした。 

 空港に着いたと思いきや、コンラッドは田沢院長に出迎えられる。そのまま地元とは違う方向に車は進み、規模の大きな病院に連れて来られた。

 ようやく鞄から出れた私は、田沢院長自ら手術の説明を受けて承諾した。

「魔法界の事をご存じだったのですか?」

 個人的な事を質問せざる負えなかった。

「勿論、何を隠そう私はスクイブである。……否、三代前からと言ったが正しいか……、甥も魔法の魔も使えんわ」

 この院長は田沢の伯父、つまりアイツは魔法族。新たな事実に衝撃し、開いた口が塞がらない。

「甥には内緒で頼む」

 おっさんに愛嬌良くウィンクされなくても、田沢に話す機会はないだろう。

 

 麻酔で眠らされた後に目覚めれば、生家だった。

 空の微妙な明るさがイギリスと違い、時計を見るまで夜明けと気付かない。

 眠気で頭が重く、以前よりも5cm縮んだ身長に悪戦苦闘しながら、私は洗面台で顔を洗う。タオルで水を拭い、鏡に写る私は母・祈沙と瓜二つではない。祖父・十悟人の面影がある顔つきだ。

「あーあー、本日は晴天なり」

 もっと言えば、アイリーン=プリンスを基本に十悟人の特徴が混ざられている。思いの外、顔の筋肉が違い喉を通じて声帯にまで影響を及ぼす。以前よりも高めの声になる。それでも東洋人の容貌だ。

「おはようさ、来織」

 背後に現れた母は普段と同じ態度だが、私の顔を見て寂しそうにしていた。 

 白米、ちりめんじゃこの味噌汁、焼いた鮭を卓袱台に並べ、母と朝食を共にする。晴れていた空は曇り、雨音が音楽代わりだ。

「コンラッドは?」

「私達に気を遣ってくれたさ」

 私達ではなく、母にだろう。コンラッドはこの人を想っている。確かな絆を持つ夫婦なのだ。

 自然とジョージに思いを馳せる。

「朝ご飯を食べたら、藍子ちゃんに会いに行くさ。来織が帰ってくるって聞いて喜んでいたさ」

 幼馴染の存在に私は青褪める。

「私の顔のこと……藍子には……」

「田沢院長から、聞かなかったさ? 院長と私以外、来織はお祖父ちゃん似って事に記憶を改竄したさ。私は……そこまでしなくてもって思ったけど、下手な変装は魔法で看破されるらしいからさ」

 憂いを帯びた笑みでとんでもない事態を暴露された。

「……写真とかは?」

 私からの指摘に母は口元に手を当て、目を泳がせる。急いで2人でアルバムを確認してみれば、卒業写真、証明写真、パスポートに至るまで今の顔に差し替えられていた。

「仕事が無駄に早い……」

「一枚くらい、残してくれてもいいさ……」

 しょんぼりと項垂れる母に私は肩を叩き、ロンに倣って昆布茶を入れて差し上げた。

「藍子ちゃんに会う前に、言い訳という名の設定を教えておくさ。来織は17歳の時に事故で重体を負って、ずっと療養中だったさ。……その事故でドリスのお祖母ちゃんも亡くなった……そうなっているさ」

 人の死にさえ嘘の理由を伝える。それが母には祖母への侮辱のように感じており、口に出すのも躊躇っていた。

「お母さんがそんな顔しないで、お祖母ちゃんなら納得してくれるよ」

 コンラッドが行方不明だと偽り続けた祖母ならば、自分の死因を偽っても「そうするしかないなら」と受け入れるだろう。慰めではなく、私は心の底からそう思う。

 用意されていた手土産を持ち、藍子の家を訪れた。

「おはよう、来織! お祖母ちゃんの事、お悔やみ申し上げます。本当によく頑張ったね!」

 待ち伏せしていたように玄関口にいた藍子は涙目だ。

 4年ぶりの藍子は成長に加えて髪が紫の他、爪も黒い。一瞬、「誰?」と言いそうになった。

「再会の感動がぶっ飛んだ……」

「あーこの髪か! 私、今、バンドやってんの! んで、来年の誕生日に結婚するから、式に来てね」

 突然の予定に驚きもぶっ飛んだ。

「あんたの誕生日って……12月だろ? 相手はバンドメンバー?」

「まさか、女ばっかだし! 相手は高校の時の……ああ、来織は知らない奴だったわ。しばらく日本にいるんでしょう? 絶対、紹介するから!」

 私の知らぬところで藍子は自分の人生を自分で決めて歩む。生き生きと表情を輝かせる彼女は羨ましいくらい、美しい。

「私も……婚約してた……駄目になったけど……」

 負け惜しみではないが、このくらいは言いたい。藍子は驚いて目を見開き、居間へと引っ張り込んだ。

「駄目になった理由は聞かないから、相手を教えて! その前に瑠璃も呼んでいい? っていうか、呼んでたわ。お茶、お茶!」

 藍子がアタフタしている間にインターホンが鳴る。瑠璃以外にも田沢、佐川、木本、木下も一緒だった。

 15歳の夏から顔つきも変わり、すっかり大人びている。髪型も変わっているが、木本の頭が虎刈りなのは驚いた。

「これは瑠璃にやられたんだ……バリカン使いたいって」

「あたし、美容師に転向してね。県外だけど、専門学校の寮に入っているのよ」

 ここで「授業はどうした?」と聞くのは野暮だ。しかし、瑠璃のお母さんは我が子への学歴に拘りが強かったはずだ。

「あんたのお母さんがよく許したもんだ」

「いろんな人に味方して貰ったの。最終的に勝手にしろって言われたわ」

 瑠璃はアタッシュケースを大事そうに抱え、微笑む。他の皆もリュックやら持ってきていた。

 TVから流れる川本真琴の『1/2』を聞きながら、私達は連絡の取れなかった間の出来事を語り合った。

「俺は医大生やってまーす。将来はブラックジャックです」

 木下のブラックジョークに乾いた笑いが沸く。

「俺は大学生を卒業したら、プロ契約を結ぶ! という夢を持ってます」

 田沢は大学でもバスケを続けている。彼が実は魔法族だと今でも信じられない。

「バイトに明け暮れる毎日です! 正社員? 何だね、それは?」

 だから、木本は虎刈りにされても特に問題がないのだと納得した。

「とある企業の新入社員です! 趣味はカメラ撮影に目覚めました」

 満面の笑顔で佐川は新型のカメラを取り出し、木本から逆恨みの視線を貰う。ここでも「勤務はどうした?」とは聞けない。

「それでそれで、来織の話を聞かせて……元彼の話!」

 合コンのノリで再会の挨拶を交わし、藍子は私に詰め寄る。驚いた皆の視線が怖い。

「大家族の4、5番目? 双子だから……赤毛で……」

 魔法界を省き、同じ学校の先輩で今は兄弟と個人店舗を経営していると説明した。

「よくあの先生が許したな、自分の目が黒い内は来織に結婚なんてさせないと思った」

 田沢はジョージという人間に感心していた。

「理由はどうであれ、失恋は辛いわよねえ? 髪を切るとサッパリするわよ。大丈夫、道具なら揃っているから」

 瑠璃の鞄には本当に散髪道具が揃えられ、やる気満々である。思わず、木本が頭を手で押さえた。

 私は自分の髪を撫でる。伸ばし続けた理由はハーマイオニーにも勿体ないと言われたからだ。けど、彼女はもう気にしない。

「なら、肩までバッサリやってもらおうか。ついでに染色も頼む」

 断髪を受け入れた私に、何故か瑠璃は硬直した。

「脱色しなよ、私の使ってない脱色剤あげるから! 男ども、おかんの三面鏡運ぶの手伝って」

 藍子に従い、彼らはわざわざ藍子のお母さんの鏡を運んできた。

「本当にいいのね」

 素人ながら、意外と大がかりに準備して貰う。クロスを付けた私以上に瑠璃も緊張しながら、髪に刃を入れた。

 髪はよくリサに編むのを頼んでいた。こうして、切る為に触れさせたのは何年振りだろう。水飛沫がかかり、櫛を入れられる。挟みが音と共に髪の重さを消して行った。

 脱色は藍子に任せる。ドライヤーで乾かし、ブラシで整えた髪は金色を濁らせている。ルーナには似てもにつかないが、私はとても気に入った。

「ながーく待たされた」

 その待ち時間を持ちこんだPSで『峠MAX』しながら過ごし、お土産のお菓子を食いつくした4人に言われたくない。

 掃除と片付けを済ませた時には昼はとっくに過ぎ、藍子のお母さんが仕事から帰ってきた。

「こんのお、馬鹿娘! 日無斐のお嬢さんになんて事してるだあ!」

 物凄い剣幕で私の髪について、藍子を責めた。

「おばちゃん、私が頼んだんです」

「この可愛さがわかんないおかんが古いんよ。おかんが白髪染めやめたら、私も黒に戻したるわ」

 白髪を気にするお年頃のご婦人は般若の形相になり、私達は藍子を連れて飛び出した。

「怒らしちゃったから、今日は来織ん家に泊めてね」

「自分のお母さんにあれだけ言えるなんて、藍子は肝が据わっているぜ」

 ウィンクしてお願いする藍子に田沢は呆れる。このまま解散も寂しい為に私達はカラオケに行き、夜まで歌い過ごした。

「明日は学校に戻るから、夏休みに入るまでは日本にいてよね。あたしのいる県には、なんとジャスコがあるの! 案内させて」

 まさかのジャスコ、行きたい。

「瑠璃、車の免許持ってたってけ?」

「それなら、俺が運転する。日曜なら親父の車借りれるし」

 木下の疑問に佐川は答え、皆で運転手に感謝した。

 家に帰ったら、母とコンラッドは私の髪に絶句した。

「来織が不良になったさ!」

「えー! おばちゃん、私の時は一緒におかんを説得してくれたじゃん」

 そんなやりとりをしながら、藍子は玄関で靴を揃える。母は客である彼女を持て成す為に居間へ案内した。

 コンラッドは何とも言えぬ渋い表情で私を責めていた。

「切ってしまって残念か?」

「おまえには黒髪が似合っていたよ」

 それ以上、本当に何も言わずコンラッドは書斎に籠ってしまった。

 夕食と風呂を済ませ、私は藍子の分の布団を居間へ敷く。湯船に浸かり、足の傷も綺麗に無くなっていると知った。

「来織、本当に変わったね。その喋り方、良くなったわ」

「……まさか、ダサかったというつもり?」

 昔、ルーナから指摘された時の衝撃を思い出し、ビクビクしながら聞き返す。藍子は頭を振った。

「あの喋り方、おばちゃんの口真似だったでしょう。いつも自信満々なあんたにしたら、おじちゃんにおべっか使っているように見えたから、私は好きじゃなかったんだ」

 幼かった私はコンラッドとの間に壁を感じ、気を引こうと様々な手を使った。その内のひとつが母の喋り方を真似た事だった。

「似合わないおべっかを使っているから……ダサいか」

 初めて会った時のルーナはそう言いたかったのかもしれない。

「うーん? 誰かにそう言われたの? ひょっとして噂の双子さん?」

「それは秘密♪」

 意味深に笑う藍子へ同じ笑みを返せば、枕を返された。

 

 翌日。

 何故か、自動車の教習所へ連れて行かれる。あれよあれよと受講手続きを取らされた。

「のんびり講習受けている時間はない! 免許証を何に使うんだ!」

「一か月もあれば十分じゃないかい? パスポート以外の身分証明書は持っておきなさい」

 簡単に言ってのけたコンラッドは更に魔法の訓練まで強いた。

「杖を左手に持ち替えたか、いいね」

「あんたに褒められたいからじゃない」

 魔法界の新聞や雑誌も読まされ、ベッロがダンブルドア殺害容疑で指名手配された揚句、懸賞までかけられていると知った。哀れな使い魔が今は何処に逃げのびているかは、コンラッドさえも本当に知らない。

 どんなに詫びても探しに行かない私は主人失格だ。

「こんなに長い追悼文は初めて見たさ」

「文章を纏める時間がなかったんだよ、ドージは骨の髄までダンブルドアの崇拝者だからね」

 エルファイアス=ドージの追悼文を読みながら、母はそんな感想を漏らす。コンラッドは皮肉っぽく口元を歪めた。

「妹……」

 弟のアバーファースは知っていたが、妹のアリアナという存在に何故か小さな衝撃を受けた。

 

 仮免は筆記試験に問題はないが、実技試験は2回も落ちました。

 担当教官から有り難い笑顔のお説教を食らう。その次は路上に出た実践訓練、ギアの切り替えを何度も間違える。体で覚え込まないと本当に危険だ。

 しかも、本免試験の路上運転は怖かった。

 教習所を出発し、無事に戻ってくる。それまでの道順は自分で決めるのだ。いつも助手席の教官に案内という指導を受けていた為、いざ好きに走れと言われたら道に迷う。

 これにまた2回落ちる。卒業証明書を受け取ったのは、小学校以来だ。

 免許センターの試験はひっかけ問題も難なく解け、その日の内に免許を発行して貰う。ここまでくるのに一月半かかった。

「早いほうだって、俺半年かかったもん。原付の講習、楽しかったろ?」

 佐川曰く、やはり路上運転で迷子になり、落ちるそうだ。

「もう少しかかると思ったけど、驚いたね」

 朝食の席でお吸い物だけ啜りながら、コンラッドは【日刊預言者新聞】を読む。ある記事を目にした途端、噎せ出す。滅多に見ぬ、動揺に驚いた。

〔……器官に汁が〕

 慌てて母がコンラッドの背を撫でている隙に記事を読み、私も飲みかけの渋茶を噴いた。

「ええ!? ルーピン先生が結婚!? しかも、トンクスって……え?」

「ルーピンってあの作曲家さんにソックリな人さ? へえ、おめでとうさ」

 動揺しまくりの私達と違い、母だけが冷静にルーピン先生の結婚を祝福した。

 

 噂のジャスコは従来のデパートより開放的な構造をしており、日曜日ということもあり大勢の客で賑わっていた。

「商売繁盛で何より」

 ダイアゴン横町の寂れ具合を思い出しながら、私はしんみりと溢す。鞄専門店を見て回り、ガマグチショルダーバックに一目惚れして買った。

「来織。いろんなお祝いを纏めちまったが、おめでとな」

 フードコートにて田沢は6人の代表となり、私に腕時計を贈る。以前は貰った時計を思い出す。しかも、今回は文字盤がふたつだ。

「これ結構なお値段がするんじゃないか?」

 素直な嬉しさより焦りが出るのは、私の性根が歪んでいるのだろう。

「また向こうに行くなら、時計は必需品だろ?」

「田沢が今日の為にカタログ集めて選んだぜ?」

「俺の就職祝いは千円のネクタイだったよな? 使っているけど」

 田沢の後ろから男3人がやいのやいのと茶々を入れる。

「うるせーな、時間は有限なんだよ!」

 言い返す田沢は何故か真赤に顔を染めている。

「ありがとう、大切にする……今度こそ」

 割れた腕時計については、もう思い出すまい。感傷に浸る私へ藍子と瑠璃は微笑ましい眼差しを送った。

 

 帰りは私の運転。あんなに楽しんだはずの皆は私に気遣い、一言も喋らなかった。

 精神的に疲れた私を待っていたのは、十悟人がいた。

〔おお……、これ程とはな……〕

 私の容姿に驚き、寂しそうな表情を見せるが母に耳掻きされている体勢ではギャクにしか見えない。

〔……ダン……お祖父ちゃん〕

 ダンブルドアは背が高かったのに、今では私よりも小柄で髭もない十悟人だ。怒りっぱやい頑固な老人は中身が違うせいか同じ姿でも、温厚そうな印象を受けた。

〔ダンブルドアでも構わんとも、コンラッドもその名で呼んでくれんからのう〕

「呼びませんよ、当たり前でしょう。後、ここにいる間は日本語でお願いします。来織もそうしなさい」

 人生で初めて来織と呼ばれ、今の環境を強調されているようで無性に腹立つ。母が台所へ行く為、コンラッドも着いて行く。

「お体の調子はいかがですか?」

「まだ違和感はあるのう、それでなくても記憶が重なって自分が誰だったか……時折、忘れてしまうんじゃ」

 ダンブルドアは起きた瞬間、体と記憶の異変に気づいたという。

 脳髄を引っ掻きまわれる苦痛、それに伴う吐き気。時間の感覚も狂い、一日が幾日も幾日も経った気分を味わう。コンラッドに看病されて一週間、ようやく1人で布団から起き上がれるまでになった。

 設定された記憶が脳髄に馴染んだ後、体を慣らす時間が必要だった。

「マーミッシュ語が喋れんなっておった……。わしの人生で苦労して覚えた言語のひとつであったのに……」

 それだけが至極、残念そうであった。

「今日まで傍にいてやれんで、すまん」

「良いよ、気にしなくて。ダンブルドアしか出来ないんだ。ハーマイオニー達を守れるのは、今はどうしている?」

 【日刊預言者新聞】には閉鎖を匂わす記事が多く、【ザ・クィブラー】には今も尚、ホグワーツに今だ生徒・教職員が残り、再開を待ちわびていると載っていた。

「希望者は全員、家族の所へ帰した。何人かは学校に残っておる。ミネルバに任せてきた。ハーマイオニー=グレンジャーとディーン=トーマスは『漏れ鍋』じゃ。ジャスティン=フィンチ‐フレッチリーは聖マンゴ病院におる。事件の後遺症で心を休ませねばならん」

 ディーンがマグル生まれだと今、知った。それよりも、ジャスティンの身が心配だ。もう私は見舞いにも行けない。

「ハーマイオニーはハリーの件で予想しておったが、ディーンはわしらの仕事をしたいと言ってきおった」

「……ハリーの? ああ……あれか、成程。けど、ディーンは騎士団に入りたいってことか?」

 十悟人は顔を動かさず、台所方面にいるコンラッドを壁越しに見やる。

「いいや、正確にはコンラッドの仕事じゃよ」

「私に助手はいりません」

 何処から聞いていたのか、コンラッドはイワシのトマト煮を4皿並べる。

「わしはもう以前のような魔法は使えんからな。ディーンのほうが力になろうて」

 以前とは、十悟人が使っていた魔法だ。空間に扉を出現させたり、『解呪薬』を作ったり、贔屓目に見ても並の魔法使いではなかったと思う。

「ペティグリューやクラウチJr.のように死を偽装した人がいる。なのに、どうして私達は整形までしたんだ。正直、やりすぎだ」

〔魔法族に限らず、生死の判断は死亡届を出されて魔法省で受理された時じゃ。ここはマグルでも同じじゃが、聞いた事あろう? 彼の人は死んだが遺体は見つかっておらぬ――と〕

 確かに目撃者もなく、遺体の一部もないのに死んだとされる人は多い。

〔長く行方不明になれば、魔法省の霊魂課に依頼して本当の生死を判定できるのじゃ。しかし、あくまでも最後の手段ゆえに依頼の条件も非常に厳しくて、おいそれとは使えぬ〕

 急に英語に切り替えたのは、日本語では発音しにくい為だと察した。

「霊魂課って……霊界との交信とかそういう? ちょっと待て、それだと」

 この世に留まる幽霊は生死が判る。ならば、ホグワーツにいる幽霊の誰かが本当の事を明かす危険もあるのだ。

「幽霊は総じて、誰の生死も告げられぬ。それが世に残る条件のひとつと言えよう。学校にいる間、一言でも聞いたかの?」

 ヘレナと魔法族の死について話した時、ドリスの死に触れなかった。

「制約のようなものか……生きているわけじゃないから……」

 全く気にしていなかったが、真実を知りながら話せない。その情報が生きている者達を助けるとしても、何も伝えられないのは辛いだろう。

「この世にいる死者……」

 自分で呟いておきながら、脳裏を過ったのはペベレル三兄弟。次男の『蘇りの石』。すっかり忘れていたが、その石は指輪に填め込まれていたのだった。

「ダンブルドア、お祖父ちゃんに呪いをかけた指輪についてなんだが」

 コンラッドはわざと湯呑を乱暴に置く。余計な事を聞くなという牽制だ。

〔あれはゴーント家……遡ればペベレル家の品。ペベレル三兄弟の『死の秘宝』は御伽話じゃなく、実在していて指輪には『蘇りの石』が填め込まれていたんじゃないか?〕

 不安で心拍数が上がり、つい英語で問う。

「それを言う前に、石が本物であったなら欲しいのかね?」

 温厚そうな口調に警戒を混ぜて、私の返答を待つ。

「いいや、いらないな。……死んだ人間は生き返らない。腐敗していない部位同士をいくら繋ぎ合せても、死体は死体。怪物として動くことは絶対に、ない」

 そんな魔法があるなら、私は絶対に破壊する。十悟人は満足そうに、寧ろ恥ずかしそうに笑った。

「君は秘宝を手にすることはあるまい、……素晴らしい」

 なんとも穏やかな口調で褒められ、意味不明だった。しかし、思い出す。ルーナから『死の秘宝』に興味を持つなと念押しされていた。

「……お祖父ちゃんは興味を持ってしまった……」

 呪いはその報い。

「今はそれについて、考える必要はないじゃろう。まずはお互い、この体に慣れんとな。どうしても気になるなら、これを読みなされ」

 何処からともなく表紙の汚れた古そうな本が現れる。【吟遊詩人ビートルの物語】と書かれ、ロンが教えてくれた『ぺちゃくちゃうさちゃん』も載っていた。

「わしが子供の頃から持っておる。お気に入りじゃ、よおく読んでおくれ」

 明らかに、はぐらかされた。「今は」何を聞いても答えないつもりだ。

「貴方自身はこれからどうするんだ?」

「まずは君とイギリスに渡る。ハーマイオニーとディーンにわしの弟子として紹介しようぞ。というわけで……また国を離れなければならん……」

 キャベツ捲きと白米を持ってきた母へダンブルドアは詫びた。

「それまでは、一緒にいれるさ」

 母は正直な笑みで答えた。

「箸を使うのは慣れんのう……フォークとナイフを……」

「手先が器用になりますよ」

 コンラッドに冷たくあしらわれ、十悟人は苦渋に満ちた顔で箸を掴む。冷汗を掻き、箸に悪戦苦闘する姿は不謹慎ながら見ものだった。

 夕食の後、ガマグチ鞄に『検知不可能拡大呪文』をかけ、必要最低限の荷物だけ入れる。もう教科書はいらない。けど、【吟遊詩人ビートルの物語】は持って行く。

「非常食も持って行くさ。これ新作ラーメン、後は寝袋とか」

 母は四次元ポケット並に物が入る為、興奮して勝手に色々と突っ込んだ。

「向こうへ行く前にわしから、助言しておこう」

 十悟人の手にはドリスの杖がある。それは置いて行こうと思っていたのだ。

「あちらでは、この杖を使いなさい。君の杖は予備で持っておれ、出来るだけ使わんように」

 私の杖に見慣れた人は多い。納得して受け取った。

「それから、ハーマイオニーの名を呼ぶ時は正しく発音せぬように、英語に不慣れなフリをしておくのじゃ」

「ん? それとハーマイオニーの名前がどう関係してくるんだ?」

 私の疑問に十悟人はチラリと母を見やる。視線の意味に気づき、母はわざとらしく咳払いしてから声を出した。

「ハゥワイオヒィ」

 その発音は決してわざとではない。ハーマイオニーの名は相当に難しいと思い知る。ハリーとロンが私の姓を「テムカー」と聞き違えていたのは仕方なかったのだ。

「そういえば、お母さん……向こうにいる時、あんまり私の友達を名前で呼ばなかった……ね?」

「ハリーとか、ロンは言えるさ!」

 必死な母の顔に私は笑いのツボが刺激され、堪えた。

〔楽しんでおるところ悪いが、ルーナ=ラブグッドは偽装に気づいておる。じゃが、決して口外せぬように誓ってくれた。それがなくても、あの子を頼む〕

 重々しく告げられ、笑いは硬直した。

 ルーナは元々、人とは違う独特な感性を持つ。他が誰も気づかぬ事柄に気づく。しかも、彼女はミセス・ノリスが石化した姿を見ている。倒れた私の姿から石化事件を思い出したのかもしれない。

「……ルーナにも隠れてもらったほうが良さそうだ」

「それが出来れば苦労はない」

 真面目に返され、私は思わず乱暴に頭を掻いた。

 

 夜明け前に起き、私の運転で空港へ向かう。追従してくる佐川に何度も当たりそうになった。

「次は私の結婚式ね。その後は私達をイギリスへ連れて行ってガイドしてよ」

 藍子の結婚相手は私達より大柄だが、根は優しそうだった。藍子の幸せ一杯の表情が眩しい。

「イギリスで、どっか行きたいところある?」

「ジミー=ペイジの家!」「ベーカー・ストリート!」「ロンドン橋!」「大英図書館!」「紳士クラブ!」

 藍子、佐川、木本、木下、瑠璃はどっからか自前の日本表記地図を取り出す。

「バラバラじゃねえか! 瑠璃、女は紳士クラブに入れないって何度言えばわかんだよ!」

「田沢……女性が入れるクラブもあるよ。それ以前に観光客は無理だから」

 多分、私が突っ込むべきところはそこじゃない。

 再会を約束し、母と藍子達に見送られる。搭乗口から機内へと足を踏み入れた。

 

 ――瞬間、私は飛行機から降りる人の流れにいた。

 着いた先は勿論、イギリスの空港。

 腕時計を見れば、日本にいた時間から1分も経ってない為に記憶は飛んでいない。ならば、考えられるのは私の後ろにいる十悟人、もしくはコンラッドの仕業だ。

「これは一体……?」

 コンラッドはやれやれと肩を竦め、返答を拒んだ。

「12時間も乗るのは嫌じゃ……、誰じゃ? たった8時間と言いおったのは……4時間の差はデカイ」

 子供っぽい言い訳をしながら、私を追い越した。

「以前のような魔法は使えないって聞いたけど、これは随分とおおがかりだな」

「全てを使いこなせはせんとも、じゃが、使えるモノは全部使うぞい」

 剽軽な笑い方は、本来の十悟人に近かった。

〔私は追手を退けてから、合流します〕

 私達の後ろから囁き、コンラッドは気配を消す。追手という単語から、空港が何者かに見張られている事を指している。

「奴らですかね?」

「おそらくは……祈沙のストーカーじゃ、奴は本当にしつこいからのう」

 それを聞いて、別の意味でげっそりした。

 

☈☈☈☈☈☈☈

 キングス・クロス駅に着いた時、トトは僕とハーマイオニーだけを先に呼んだ。

「君達は『漏れ鍋』に行っておれ、わしは皆を送ってから行く」

 ハーマイオニーはロンやジニーに着いて行きたがったが、素直に従う。僕も逆らう理由はない。

「ディーン、気を付けて」

 ハリーの隣に寄り添うジニーから挨拶され、僕は手を上げて答える。マグルの世界へ行こうと壁を通り抜けた。

 その先は見慣れた駅ではなく、何処かの部屋。そこにたイタリアにいるはずの両親がいた。

「おおディーン、本当に来たな! あのジイサン、おまえを魔法でこっちへ寄こすって言ってたぞ」

 騙された。

 僕は父と呼ぶのも不愉快な男が正直、好かない。寧ろ、嫌いだ。

 母が僕を身籠ったと知り、男は簡単に僕らを捨てて逃げた。

 それなのに僕が入学した日、キングス・クロス駅で見かけてから罪悪感に苛まれ、男は母に復縁を申し出た。最初は烈火の如く怒り狂い、母は拒んだ。めげずにそれでも焦らず、細い線のように関係を繋ぎ保った結果、母は折れてしまった。

 僕が知ったのは去年の今頃。

 心底、どうでもよかったがトトから海外への脱出計画もあり、打算で受け入れた。母は男の姓になったが、僕はトーマスのままにするのを条件にした。

 男と対面してわかったのは、僕は父親似であり生粋のマグル生まれだ。

「一か月もこっちに居られるなんて、嬉しいわ」

 その一か月の後、僕にどうやってイギリスに渡れというのか、疑問しながら荷物を解くと作った覚えのないパスポートが入っていた。

 イタリアへの入国手続きも済んでいる。トトに恐怖しつつ、挟まれた手紙を読んだ。

【扉は君の望み通りに開かれる】

 入ってきた玄関口を眺め、そっと外を見てみたが廊下しかない。仕方なく、一か月はここにいる事を受け入れた。

 

 ――親子との仲がほんの少し、縮まったようで遠のいた一月を過ごす。

 杖と時計、小銭の入った財布とほとんど身一つで行くと決めた。

「ディーン、本当に行くの?」

 母に惜しまれ、男は別れの言葉を探して黙りこんでいた。

「行くよ、やり残したことがあるんだ」

 一度決めたら、変えない。僕の性格を知る母は溜息をついて、納得した。

 今日まで何度も開けた玄関の戸を開け放つ。着いた先は勿論、『漏れ鍋』の居酒屋だ。

「ディーン! 久しぶり、私が早かったわね」

 店主のトムと喋っていたハーマイオニーが手を振る。彼女も僕と同じ仕掛けを食らったらしい。お互い、ここに来る選択をした。

「クルックシャンクスは置いてきたわ。貴方のは?」

「僕もだよ、連れて来てもちゃんと世話できないから」

 ハーマイオニーの隣へ座った瞬間、トトは『煙突飛行術』にて暖炉から現われた。

「トム、煙突から失礼おば。2人とも、遅くなってすまぬな」

「「一か月は長かったです」」

 僕達の皮肉にトトは嬉しそうに目尻を下げた。

「皆はご家族の元へ送れたんですか?」

「大体はな、ジャスティン=フィンチ‐フレッチリーだけは聖マンゴ病院に入院させたわい。しばらく、心の療養が必要じゃ」

 ジャスティンは2人の死を目撃し、医務室にいる時の態度も不安定だった。機会があれば見舞いたい。

「それでこれからじゃが、具体的な予定を聞こうかの」

 僕達だけが学校に戻らないと告げた。トトはその真意を理解し、あんな仕掛けをしたのだ。

「コンラッド=クロックフォードの仕事を手伝いたいです」

 トムにまで吃驚された。

「……もしも、コンラッドが騎士団のような働きをしていると思っておるなら」

「いいえ、違います」

 ダンブルドアが創設した『不死鳥の騎士団』、その活動は【ザ・クィブラー】で拝見していた。任務の詳細は載らずとも、文章から誰が活躍しているか憶測を立てていた。

 その中にクローディアの父親は含まれていない。彼はそれ以外の活動を行っているのだ。トトの仕事は僕の手には負えない。出来る事をしたい。

「良かろう、では……まずはこれを……」

 【日刊預言者新聞】が机に置かれ、3人で注目する。トトが指さした四面記事にはマグル学教授、チャリティ=バーベッジの主張が載っていた。

「……ダンブルドアもいねえ御時世にマグル生まれを堂々と擁護するなんざ、自殺行為だ」

 トムは恐怖に慄く。

「先生が危険よ! すぐに逃げて貰いましょう!」

「そうじゃが、バーベッジ女史はちっともわしの話に耳を傾けん。そこでディーン=トーマス、最初の仕事は説得と護衛じゃ。助けを借りても良い、彼の魔女を守り切れ」

 信じて託された人の命。

 僕は不謹慎だとわかっていたが、心が奮えた。

「トトさんはこれからどうされるんです?」

「わしの弟子を連れてくる。まだまだ未熟じゃが、今のわしよりは力となろう」

 未熟なのか、力になるのか、どっちなんだろう。

「コンラッドが弟子じゃねえのか?」

 僕らの疑問をトムが代弁してくれた。

「魔法は国や民族によって細かな系統が異なり、似通っておっても勝手が違うんじゃ。コンラッドには出来る範囲しか、教えておらん」

 トトが自ら弟子と呼ぶその人に早く会いたい。期待に胸膨らんだ。

「わしはもう行く、君らが集まる場所で会いまみえようぞ」

 そう告げた瞬間、トトは『姿くらまし』した。

「何にも注文しねえで行きやがった。ディーンはお茶だったな」

 やれやれと悪態つき、トムは僕にお茶を入れた。

 

 数日かかったバーベッジ先生との逃走劇を割合させてもらえるなら、一言。

 

 ――疲れた。

 

 先生はいつか授業で実践する為と自宅に十種類の銃を所持しており、『死喰い人』を相手にガトリング砲で応戦した。

 この国で銃の入手方法を聞けば「苦労しました」としか答えてくれなかった。

 僕らに『姿現わし』の講師をしてくれた指導官・ウィルキー=トワイクロス、そして卒業生のペネロピー=クリアウォーターの協力を得て、先生を国外へ逃がし切った。

 一仕事終えた僕らはハリーの名付け親・シリウス=ブラックの屋敷へと文字通り飛び込み、倒れ伏した。

「ようこそ、お越しくださいました。お嬢様、お坊ちゃま」

 やたらと愛想が悪く、声の低い『屋敷しもべ妖精』に出迎えられる。動けない僕らは彼の魔法で居間のソファーに運んで貰う。暖かいポタージュまで差し出され、遠慮なく飲み込む。熱くても五臓六腑に沁み渡り、嬉しさで涙が浮かんだ。

「ありがとう、クリーチャー。とっても美味しいわ」

 ハーマイオニーの感謝にもクリーチャーは渋々とお辞儀で返した。

「あの子はクリーチャー。2年前までこの屋敷で1人ぼっちだったから、人見知りなの」

 絶対に違うと思う。けど、空気を読んで言わない。

「けどね、去年からホグワーツでも働いてくれたから、お喋りしてくれるようになったわ」

 ハーマイオニーは豆知識を語るように屋敷の説明し出す。純血主義の魔法族で排他的であり、マグル嫌いのブラック家が決して他人に見つかるまいとあらゆる保護魔法を屋敷に施している。

 最初からここに来れば良かったのではと思いもしたが、隠れ家として打って付け故に最後の手段なのだろう。

「皆で協力して大掃除したのよ」

 話終えたハーマイオニーが一息つく。それを待っていたように来訪のベルが鳴り、クリーチャーは出迎えに行った。

「ようこそ、お越しくださいました。旦那さま、お嬢様」

 トトだ。連れている濁った金髪の女性、弟子だろう。血縁らしく顔立ちがよく似ている。本当に僕らが集まった時に現れた。

「息災であったな」

 僕らがいるのにも驚かず、挨拶してくる。疲れた体に鞭を打ち、挨拶しようとソファーから立った。

「そのままで良い、仕事をこなしたばかりじゃろう。休んでおれ」

 クリーチャーは2人の為にソファーの向かい側へ長椅子を用意した。

「ありがとう、クリーチャー」

 弟子はクリーチャーに感謝したが、彼はやはり渋い顔でお辞儀しただけだ。

「こちらはハーマイオニー=グレンジャーとディーン=トーマスじゃ。2人とも、この子は以前話したわしの弟子じゃ」

 幼子を呼ぶような口調だが、弟子の見た目は魔女として成人している印象を受けた。

「初めましてディーン=トーマス。ハゥワイヲン……グレンジャーさん」

 噛んだとは違う口調で弟子はハーマイオニーの名を言い間違えた。

「クスクス……良いの。英語に慣れていない人には、私の名前は呼びにくいわ。ハーミーと呼んでね。貴女の名前は……」

 ハーマイオニーに促され、名乗った弟子は僕には聞き取りにくい。僕よりも日本語に慣れている彼女も同じ反応だ。

「……ウィーンさん?」

「何処の首都だ」

「……クーフーリン?」

「英雄か!」

 僕らが交代で発音し、その度に弟子がゆっくりと丁寧に唇を動かして名乗る。そんなやりとりが何度も続く。その間、トトは我関せずと黙りこんだ。

「……ウォーリー?」

 何だが、聞きとるのが面倒になる。僕は自分が発音しやすい名前を口にした。

 苦虫を噛み潰したような顔で溜息をつき、弟子は片手で降参を申し出る。途端にトトが腹を抱えて笑った。

「決まりじゃ、ここではウォーリーと名乗るがよい」

「男性名よ!」

 ハーマイオニーは納得できず、抗議した。

「いいよ、本当の名前は私が知っていればいい。では改めて、よろしく。ハーミー、ディーン」

 さっさと立ち直り、ウォーリーの名を受け入れた彼女はトトにソックリの笑顔を見せる。少しくらい亡き同級生の面影を期待して、僕はガッカリした。

 

☈☈☈☈☈☈☈

 闇の帝王がマルフォイ家に滞在し、父上も母上も怯えて縮こまる。喜んでいるのは、伯母のベラトリックスだけだ。屋敷の住人でもないくせに伯母は主人面な態度だ。

 一枚岩ではないが、皆、闇の帝王を恐れて従っている。

 命乞いするように正しい情報を競って出し合う。スネイプもそうだ。

「『闇払い』のドーリッシュからの情報ですぞ!」

「あやつは『錯乱の呪文』にかかりやすい、自分の情報が偽りだと気づきもしていないでしょうな」

 ハリー=ポッターの出発する日がヤックスリーと食い違い、闇の帝王はスネイプの情報を信用する素振りを見せた。

 ヤックスリーは躍起になり、『魔法運輸部』に手勢を送り込んでいるから『姿現わし』と『煙突飛行術ネットワーク』状況は把握できると主張する。

 そうすれば、スネイプは更に否定して『不死鳥の騎士団』は魔法省とは別の組織、故に信用しておらずに別の手段を取ると説明した。

 またも闇の帝王は後者を選んだ。

 土曜日までルーファス=スクリムジョールを殺すか、彼を含めた高官を陥落して魔法省の実権を握れば待つ必要もない。今のところ、『魔法法執行部』の部長パイアス=シックネスに『服従の呪文』をかけただけで到底、間に合わないと闇の帝王は宣言した。

 魔法界の実権を闇の帝王が握る日は、近い。その証拠にアズカバンの囚人達は既に解き放たれている。魔法省はメディアに黙らせているが、もう知れ渡っている事実だ。

 それより、父上の杖が奪われた事が重要だ。ポッターを殺すには兄弟杖では反発し合う為に駄目だと闇の帝王に求められ、差し出すしかなかった。

 アズカバンから戻り、父上は人が変わったように弱弱しい。どんな事態に見舞われても、毅然とした態度を貫いていた誇り高き魔法使いではなくなった。

 僕は失望以上の暗い感情を父上に抱いた。

 解散して各々が闇の帝王と共に敷地の外で出て『姿くらまし』した。伯母はまだ暖炉の前におり、スクイブもどきのジュリア=ブッシュマンといがみ合っている。

「えー、人狼が怖いんだ? 嘘でしょう、ベラトリックス様程のお方が!」

 僕の従姉妹にあたるニンファドーラ=トンクスがリーマス=ルーピンと結婚した記事で、闇の帝王にからかわれて伯母は憤慨している。そこを狙っているのだ。

「その生意気な口を閉じろ! 『穢れた血』贔屓さえ連れて来れんかっただろうが!」

 チャリティ=バーベッジの誘拐に失敗したと聞いた時、正直に嬉しかった。クローディアの作った部活の顧問だったから、自宅が爆発してもどうにか生き延びて欲しいと心から願う。

 けど、その為に僕は何もしてやれない。

「大丈夫か、ドラコ?」

 クィリナスに声をかけられ、手振りで答える。口喧しい争いはカロー兄弟が間に入って諌めていた。

「よおし、よしよし。碌な任務も与えられないからって僻むな」

「カッカするんじゃないよ、ケタケタッ」

「貴様ら、誰の味方をしている!」

 理解できないが、ブッシュマンは微かでも人望がある様子だ。

 不意に両親からの心配してくる眼差しを感じる。

「孔雀の様子を見てくる」

 そう言い訳して庭へ出た。

「坊主も来たか」

 父上の孔雀にクラウチJr.が勝手に餌をやり、戯れる。孔雀達は普段なら、父上以外から餌を取らない。しかし、状況の変化を察して対応している。

〝いま、この瞬間だけ、あんたのお父さんを尊敬するさ〟

 以前、父上の孔雀を目にしたクローディアは胡麻擦りでなく本心から感動していた。

「……その暗い顔は何だ? 任務失敗を嘆いているのか? それとも、小娘の死を惜しんでいるのか?」

「別に関係ないだろ。貴様はどうなんだ。コンラッド=クロックフォードを捕らえ損ねたと聞いた」

 露骨にクラウチJr.は顔を歪めた。

「あいつ、逆に俺を追い回しやがった……」

 どういうわけか立場が逆転した激闘の果て、クラウチJr.はテムズ川に浮かんでいるところを発見された。

 ちなみに伯母とブッシュマン達はこの件を知らない。知るのは闇の帝王を含めた一部だけ、あの男が本気を出した結果だと、誰もクラウチJr.を責めなかった。

「セブルスはまだか?」

「いいや、さっさと行ったよ」

 杖を奪われ、嘆く父上を慰めもしない。所詮、スネイプも闇の帝王へのおべっかに忙しいのだ。

 それ以上、クラウチJr.は追及しない。群がる孔雀を避けながら、彼らの為の寝床へ向かう。寝床と言っても、慎ましい暮らしを望む者には一軒家に見えるだろう。

 寝床の中は侵入した気配に応じ、勝手に灯りがともされる。突然の明るさを嫌うようにスルスルと赤い蛇が影へと隠れた。

 つい先日、この寝床に紛れ込んでいるベッロを見つけた。誰かに攻撃されたらしく、何か所にも深い傷を負っていた。

 誰にも気づかれぬように隠し、必死で介抱した。回復しても出て行かず、ベッロがいるのは自分だけの秘密だ。

「ドラコ様……」

 違った。

 『屋敷しもべ妖精』のウィンキーに見られていたのだ。せめてクラウチJr.には報せるべきだと意見された。

 今もそう考えているだろう。

「駄目だ、懸賞もかけられているんだ。誰にも言うな」

 強い口調で命令すれば、ウィンキーは不満そうに口元を八の字にした。

 本来、マルフォイ家はおろか魔法族は『屋敷しもべ妖精』に意見などさせなかった。しかし、今は協力者として手を組むべきだ。実際、ウィンキーはクラウチJr.から借り受け、こちらは勝手に命令すべきではない立場だ。それでも秘密を守るのは、妖精の性だろう。

「……頼む。今はそっとしておいてやってくれ」

 なけなしの自尊心さえ抑え、懇願する。それが効いたらしく、耳を尖らせたウィンキーは恭しく頭を下げて消えた。

「おまえだけは……僕が守る。絶対に」

 潜んだ影に手を入れ、傷の残った鱗に触れる。強張った蛇の筋肉が少し緩んだ気がした。

 




閲覧ありがとうございました。

黒髪ヒロインも好きだけど、断髪ヒロインも大好きです。

本免許の自由コースはやっていないところがほとんどです。ナビが普及した現在では、試験で見る必要がなくなったそうです。

ダンブルドアが嘆くとしたら、マーミッシュ語を無くしたことぐらいだと思います。

後半はディーン視点。彼の父親は原作では生死も不明です。
クローディアはこれから「ウォーリー」と呼ばれます。

ベッロはドラコが手厚く保護しています。安心して下さい。

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