こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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変わらず、長文で申し訳ありません。


9.伝承

 太陽の傾きを確認しながら、ウォーリーはテントを畳む。ハーマイオニーは必死に作戦を述べた。

「まずは町に入れるか、どうかよ。無理なら、ハリーかウォーリーの守護霊を家に送り込みましょう。魔法族の誰かがいれば、反応があるわ」

 野宿の形跡を消す。それぞれのマントをハリーとロン、ウォーリーとハーマイオニーで被った。

「私達から、あの話をしては駄目よ。あくまでも向こうから、その話題を振って貰いましょう」

「そうだな、私達が何処で知ったのか……知る誰かかと接触したと推測されるのは……良くないな」

 念を押すハーマイオニーにウォーリーは小声で了解した。

 

 雪に覆われている光景もまた懐かしい。初めて訪れた時、1年生のクリスマス休暇だった。

 日本やハリーの家に電話する為に何度も利用した公衆電話、自転車を乗り回した道路、駅へ行く為に乗車したバス停。

「雪が降っている、ラッキーよ。足跡が消せるわ」

 感傷に浸りすぎて耳打ちしたハーマイオニーの声を聞き洩らすところだ。

 お互いのはぐれないように足音を聞き合いながら、久方の我が家の入口たるアパートを探す。ところが建物は見つけたが、裏手の路地は行き止まりになっていた。

 すぐに『忠誠の呪文』が影響していると見当を付けた。

「どういう事? ク……ウォーリーも追い出しちゃってるの?」

 『透明マント』から顔を出し、用心深くロンは周囲を見渡す。傍から見れば彼の生首が浮いているが、それに反応する変化は起きない。

「(顔を出しちゃダメ、作戦通りに守護霊を出して!)」

「いっそ、保護呪文を破ったほうが早くないか?」

 小声のハーマイオニーに対し、ウォーリーも堂々とマントから顔を出す。視線を合わせたロンは怪訝そうに眉を寄せた。

「まさか『禁句』じゃないだろうね?」

「いいや、その辺の石でも投げれば、硝子みたいに割れるんじゃないかと……」

「……そういう映画、僕も見たよ……。割れないから!」

 石を拾おうとしたウォーリーの手はマント越しにハリーが止めた。

「(ちゃんとマントを被って、ハリー。守護霊を!)」

「(一度下がって、僕を前に出してよ)」

 1人分の狭い路地は、どんなに避けてもハリーを前に出せない。仕方なく、ウォーリーとハーマイオニーは男2人が先に下がってくれるのを待った。

 だというのに彼らは驚愕に目を見開き、彼女達の後ろに見入っている。ハリーはマントが取れるのも気にせず、それを指差した。

 降り積もる雪が塀の上に集束して銀色に輝き、泳ぐように浮かぶ。否、雪ではない。『守護霊の呪文』による輝きだ。

 誰かからの伝言か、とにかく手がかりだと理解した瞬間、ウォーリーはマントをハーマイオニーに渡して身一つで跳躍から空へ駆けた。

 追うのを期待したように銀色の輝きは揺れながら、空を泳ぎ出す。ウォーリーもそれに続いた。

「おい、待てよ!」

 背の高いロンが咄嗟に手を伸ばし、ウォーリーの足首を掴む。無視して、彼女はそのまま彼ごと、飛んだ。

 ハーマイオニーが何か叫んでいたかもしれないが、聞こえなかった。

 守護霊はウォーリーとの距離を保つ、町の外へと向かう。目を凝らしてみれば、その形が軽快な足取りで駆けゆく牝鹿に見え始めた。

(罠か!? それでもいい。コンラッドが騒ぎに気づけば、ハリー達を……)

 そこでようやく、足を掴まれた感触で振り返る。ロンの姿に驚いた。

「なんで、そこにいる!」

「君が勝手に行くからだよ! 戻ろ……!?」

 言い終わる前に2人の横をスノーボードに乗ったハリーとハーマイオニーが追いつく。彼女はしっかり防寒ゴーグルで目を守る。1人乗り用のボード故、2人は落ちぬように必死だ。

 荒れゆく天候の中、牝鹿は軽やかに立ち止まる。その周辺だけは晴れているではないかと錯覚する程、神秘的な雰囲気だ。一瞬、魅せられてしまい、飛ぶ勢いを殺した。

 ロンは重力に従って川に足が沈み、慌ててウォーリーの足を離して川岸へと歩き出す。彼の膝まで沈む程度の浅さで助かった。

 ハリーとハーマイオニーもボードから降り、牝鹿を気にしつつ、濡れたロンへ手を伸ばす。彼が岸へ足を上げた瞬間、異物を感じた。

 足にかかったのは、間違いなく剣の柄だ。雪降る暗闇でも、嵌め込まれた宝石は赤い輝きを損なわれない。

「……グリフィンドールの剣」

 正直、混乱しすぎてウォーリーは宙に浮かんだまま、冷静になろうと呟く。聞かれた言葉に疑問したハリーとハーマイオニーは彼女の視線の先であるロンの足下を見やった。

 本当に驚いた人間は声も上げず、ただ条件反射的な行動しか取らない。ハリーとハーマイオニーはロンの手を離し、競うように剣へと縋り付いた。

 

 ――ザバーン!

 

 2人に手を取られていたはずのロンがいきなり手を離されたせいで支えを失い、川底へ尻もちを付く羽目になった。

「ごめん……本当に」

 心底詫びながら、ウォーリーは濡れ鼠状態のロンを空から持ち上げ、川岸へと下ろす。ハリーが急いでビーズバッグから毛布を取り出して彼へ被せた。

「さっきの守護霊は!?」

 剣を触り続けて存在を何度も確かめ、ようやく納得したハーマイオニーは叫ぶ。当然ながら、騒いでいる最中に姿を消している。どんなに見渡しても、牝鹿どころか、銀色の光も見えなかった。

「あの守護霊は……剣まで導いてくれたんだよ。ここは……ボニフェースが埋められた場所なんだ。……あいつが魔法でそこに木を生やしてね。僕はこの場所をダンブルドアに話した……。前に来た時にちゃんと調べれば良かった……」

 ハリーは岩石を指差し、意外な話をした。

「だとしたら、コンラッドさんの守護霊かな?」

 毛布に包まり、ロンはウォーリーの作り出した炎で暖を取る体勢で問う。彼女もコンラッドの守護霊は知らない為に首を横に振り、不明と答えた。

「違うね、私は守護霊を創れないんだ。では、先程の守護霊は君達ではないと……」

 炎の前に座っていたコンラッドは機械的にそう述べる。驚いたロンは毛布ごと引っくり返り、ハリーとハーマイオニーは杖を構える。彼女が後ろでて隠した剣をウォーリーは影を操り、ガマグチ鞄へ入れた。

「こんばんは、さてとウォーリー? 私達の合言葉はなんだったかな?」

 愛想の良い笑みなのに炎に照らされ、蛇の如く一切の隙を見せない不気味さがある。ウォーリーは臆する事なく肩を竦めて息を吐きながら笑った。

「ないね、そんなもの」

 ロンが変な声を上げ、ウォーリーに抗議する。しかし、コンラッドは更に笑みを強くしてゆっくりと立ち上がる。そのまま、背を向けると跳躍で川を飛び越えた。

 ウォーリーは炎を消し、3人に目配せしてコンラッドに着いて来るように促す。但し、杖を手にしたまま警戒だけは解かないように合図した。

 

 岩場を伝い、町の境界線を越えたかと思えば、一瞬で探していた家の敷地へ踏み込んでいる。慣れた体験よりも、やはり懐かしさでウォーリーの足が止まった。

 同時に心臓の脈打ちが耳触りに鳴る。

 脳髄の奥にドリスの顔がチラつく。一瞬、瞼を閉じて湖の霊園を思い浮かべる。脈は静かに穏やかな音となり、体に溶け込んだ。

「うお、一瞬で移動した」

 素直に驚くロンの声を最後に4人は揃った。

「……川の隣に家を動かした? ……でも、周りの景色は町の中……この家は町の何処にでも繋がっているんでしょうか? それとも、貴方が繋げているんでしょうか?」

「半分、正解だ。お義父さんの仕業でね。私はエレベーターのボタンを押しているに過ぎない」

 探究心と自分達の保護呪文にも応用したいハーマイオニーに質問し、コンラッドは肩を竦めて機械的に笑う。エレベーターの例えは実に分かりやすい。ただ、ウォーリーは彼が「トト」ではなく、「お義父さん」呼びする口調が妙に気にかかった。

 雪に埋没しそうな白い背中へ視線で訴えれば、玄関の戸に手をかけるコンラッドは一瞬、ウォーリーへ口元を皮肉っぽく曲げた。

(……お祖父ちゃん本人が遺した魔法か……)

 以前、トトは『結界』という単語を口走っており、指の動きひとつで『検知不可能拡大呪文』に類する魔法をやってのけた。

 そして、今見えている風景も本物ではないだろう。この家は町の何処にでもある。だから、半分正解というわけだ。

 居間の内装は新築同然のコンクリート尽くし、暖炉は消えて、2階へも階段もなく、台所、お手洗いの配置まで違う。見た目に反し、空調と温度は外から来たウォーリー達に適して暖かい。ロンの衣服は玄関マットに触れた瞬間、乾いた。

「会議室みたいね……」

「言えてる……」

 ハーマイオニーとハリーの反応にウォーリーは頷いた。

「そちらへどうぞ」

 窓際に4つのパイプ椅子が現れ、コンラッドに勧められる。まずはウォーリーが椅子に触れ、異常を確かめてから腰かけ、3人も倣って座った。

「ルーナが捕まった。居場所に心当たりはありませんか?」

 いきなり本題に入るハリーに対し、ハーマイオニーは動揺して手で顔を覆う。打ち合わせして念押しまでしていた彼女としては、今にも「油断大敵!」と叫びそうな衝動を我慢しているように見えた。

 ウォーリーは取りあえず、ロンを睨む。彼は目を伏せ、無言だ。

「紅茶かコーヒーはいるかい?」

 一度、玄関を見てからコンラッドは台所へ杖を向ける。戸棚からポットや食器が勝手に動き出し、コンロの火を点した。

「いいえ、飲み物は要りません。コンラッドさん、ルーナの……」

「今、探させている。ゼノに魔法省へ捜索願を出させた。ルーナは様々な方面から、行方を追っている。捜索隊には私の協力者もいるから、情報はすぐに伝わる……砂糖やミルクは?」

 何処からともなく現れた【日刊預言者新聞】の四面にルーナの写真が掲載され、情報を呼び掛けている。写真の彼女は背景に映る鳥を追いかけて写真の外へ行ってしまった。

 新聞を失礼のないように手で払い、ハリーは拳を自分の膝に叩きつけた。

「魔法省が何ですか、あいつらはとっくに奴らの手に落ちています。仮に魔法省が見つけ出せても、ルーナは奴らに引き渡されるだけです!」

「陥落はした。だが、本腰で支配されていない。父親からの正式な捜索願を出したなら、魔法省は純血ルーナ=ラブグッドを捜さなければならないんだ。だが、『マグル生まれ登録委員会』による尋問によって、魔法省は深刻な人手不足に陥り、捜索隊を外部に依頼するしかない。お分かりかな?」

 声を荒げるハリーを防ぎ、コンラッドは自分のコーヒーに砂糖とミルクを入れる。淡々と語る内容に含まれた意味に気付き、ウォーリーはハーマイオニーと視線を合わせた。

「ルーナはアズカバンにはいないんですね」

「……魔法省の名を出しても調べられない場所、そこにルーナはいる!」

 ハーマイオニーに続き、ウォーリーが問えば、コンラッドは視線で肯定した。

「魔法省の外部で依頼……ホグワーツ……レイブンクロー寮の卒業生辺りかな? バーナード=マンチやマリエッタ=エッジコムとか」

 ロンが捜索隊の面子を推測した時、コンラッドは滑らかな動きで杖を振う。彼の唇が「喋るな」と動いた。

 玄関の扉が開き、吹雪と共に防寒具で顔を覆った男女が2人、入って来る。ハリーは席を立とうとしたが、性急な彼をロンが引きとめて人差し指で沈黙を示した。

「あ……暖かい。生き返る」

「お邪魔しますー。早速ですが……コンラッド、私も飲み物下さい!」

 顔を晒したのはロジャーとミム。見た目通りに凍えており、コンラッドはカップを渡し、紅茶とコーヒーをそれぞれ注ぐ。突如、現われたソファー椅子へ迷いなく座った2人には先客が一切、見えていなかった。

「何か食べるかい?」

 膝を歪めて覗き込むコンラッドへ2人は手ぶりで断った。

「いいえ。これ、飲んだら行きます」

 ミムが緊張した面持ちで答えた瞬間、コンラッドはカップを宙に浮かせたまま両手を叩く。途端に安心したロジャーはソファーへ深くもたれかかった。

「合言葉……長すぎ……」

「これ、毎回やるの嫌になるわ」

「そう言わないでくれ。手間は大事だよ」

 げっそりした様子を見て、コンラッドが手を叩くまでの一連の動作が本人確認の合言葉だったそうだ。

 呆気に取られる4人を置いてきぼりにし、音もなく螺旋階段が現れる。そこからスタニスラフとテッドが降りて来た。

「寒い中、ご苦労様。進展をお聞きしても?」

 丁寧な物腰のスタニスラフに問われ、ロジャーは座り直す。コンラッドは更に椅子を2席用意し、テッドにも進めた。

「魔法省はルーナの捜索を打ち切った」

「バーナードとコーマックが頑張って説得したけど、駄目ね。これが2週間の間に捜索出来た箇所、言われた通りにバーティ=クラウチJr.、クリィナス=クィレル、ジュリア=ブッシュマン、ソーフィン=ロウル……等、『死喰い人』の家も調べて来た。貴方の読み通り、どの家も空き家状態だったけど、誰も隠れてなかったし、隠されてなかった」

 いくつもの町の地図を取り出し、宙に浮かせて広げる。赤い丸印が光り、コンラッドは慎重な手つきでそこをなぞった。

「では……強力な保護魔法をかけた『死喰い人』の屋敷にいると? ヤックスリーか?」

「その辺はコーマック達の仕事。あいつと組んだマリエッタが可哀そうよ」

 テッドの質問にミムはわざとらしく身震いして答え、青の丸印を地図に付け加えた。

「青いのがコーマック達が捜索した家だ。とは言っても、ほとんど門前払いでな……。言われた通り、オリバーとクレメンスに各家の『屋敷しもべ妖精』からも話を聞けば、何処にもルーナはいないという反応をされたそうだ」

 会話から推察されるに、目の前のロジャー=ディービーズ、ミム=フォーセット以外にも、バーナード=マンチ、オリバー=ウッド、クレメンス=サマーズ、コーマック=マクラーゲン、マリエッタ=エッジコムが魔法省に雇われた外部の捜索隊。記憶が確かなら彼らは全員、純血の家柄。特にバーナード、コーマック、マリエッタは魔法省も依頼しやすい面子と言えるだろう。

(待て……ミムは魔法省狙いだった……そうか、役人の彼女が外部の皆を頼った……。コンラッドの協力者だとは知らず……)

 ウォーリーが考えを纏める最中にハリーの歯軋りの音を耳にする。彼を見れば、悔しそうに歯を食いしばり、眉間のしわを深くしている。それをロンの手が彼の腕を抑え込んで制していた。

 意見したいのだ。

「ルシウス=マルフォイの屋敷は?」

 コンラッドは機械的な声を重くし、地図を見ない。ウォーリーの考え通り、彼もマルフォイ家に見当を付けている。ただ、確信がないだけだ。

 ハリーも狙っていたのだろう。ようやく、歯ぎしりが止んだ。

「コーマックの叔父さんまで出向いたのに誰1人として応じなかったそうだ」

 ロジャーはお手上げと両手を上げ、ソファーへもたれ込んだ。

「ありがとう、少し休んでいきなさい」

 普段よりも愛想よく、コンラッドは勧める。その表情から、彼はマルフォイ家に当たりを付けたと察した。

「これからザヴィアー達に会いに行きます。ルーナの捜索を打ち切られたって、愚痴を言いにね」

 ミムは悪戯っぽくウィンクし、紅茶を飲み干す。ロジャーも紅茶を一気飲みし、2人は席を立った。

 紅茶の礼を述べ、2人は外へ出る。スタニスラフは窓から完全に姿を消すまで彼らを見送り、疲れた息を吐いた。

「テッド、ゼノに報せてくれるかな? それと、スキャマンダー夫妻には彼から絶対に目を離さないようにと」

 激しく頷いたテッドは階段を駆け上がる。2階の部屋に連絡手段があるようだ。

「『死喰い人』は実質のリーダーをバーティ=クラウチJrとしています。しかし、ルシウス=マルフォイには人脈があります。今だに『死喰い人』側に偏り切れないのも、彼の声がない故でしょう」

「……そうだね。一時期はドリスの死の責任を追及されたが『闇の帝王』の帰還に皆、口を閉ざした……。ルシウスを敵に回したくないから……君はペネロピーの所へ、準備を急がせてくれ。最悪を覚悟するように」

 コンラッドは地図へ視線を向け、今度はスタニスラフを振り返らない。一礼し、彼は一瞬で防寒具に身を纏い、吹雪の外へと飛び出した。

「ルーナはマルフォイの屋敷だ! 乗り込むんですか!? スタニスラフにその準備をさせるつもりですか!?」

 階段が天井へと折り畳まれていく様子を見ながら、ウォーリーより先にハリーがコンラッドへ詰め寄った。

「……君には関係ない……大人しく旅でもやっていろ」

 機械的な顔に敵意を込め、コンラッドはハリーを睨む。ゾッとする目つきに睨まれていないウォーリー達をも怯ませた。

「マンダンガス=フレッチャーは?」

 深呼吸してから、ウォーリーは問う。睨みを利かせたアメジストの瞳がこちらへ向けられた。

「彼とは連絡が取れない。……生きてはいるだろうが、もう騎士団や私にも関わりたくないんだろう。私の後はスタニスラフに任せてある……。彼は優秀だ、心配いらない」

 機械的な声から更に情が抜け、機械音が偶々、人の言葉に聞き取れたような印象を受ける。その様子が切なく感じ、ウォーリーの胸を締め付ける。コンラッドは単身で乗り込むつもりだ。

 トラウマの元凶ともいえる屋敷へ、ルーナの為にだ。それとも、過去に置き去りにしてしまった幼い自分を取り戻そうとしているのかもしれない。

「だが、マルフォイの屋敷に行くなら、フレッチャーの協力は必要だ! コンラッド! どうしても行くなら、私達も一緒に連れて行け、ルーナを助けたいんだ!」

 ウォーリーはコンラッドの腕に縋り付いた。そうしなければ、彼がすぐにでもいなくなってしまいそうだったからだ。

「……旅をしていろと言って……」

「ドビー!」

 コンラッドの声を遮り、ロンは叫んだ。

「ドビーの力を借りようよ! 元は仕えていた屋敷だ。絶対に助けてくれる!」

「ホグワーツに行くって事?」

 色々な意味で震えるロンにハーマイオニーは冷静にツッコむ。何かに気づいたハリーは突然、ビーズバッグを漁り出した。

「それに……」

 怯えを残した表情でロンはコンラッドへ迫った。

「コンラッドさんは残って下さい。貴方だってマッド‐アイやトトと同じ、皆に必要な人だ」

 拳を握りしめ、ロンは力説する。それは彼はお世辞でもなく、自分の本音そのもの。長すぎず、短すぎず、されど単刀直入の言葉に込められた想いは強い。

 そんな彼を真っ直ぐに見つめ、コンラッドは僅かに開いた唇の隙間から諦めたような息を吐く。失礼のない程度にウォーリーを引き剥がした。

「ダングにもう一度、連絡してみよう。ドビーに比べれば劣るだろうが、いないよりはマシだ」

「……いきなり、フレッチャーの扱いが雑になったな」

 コンラッドの辛辣な物言いにウォーリーは彼が普段の調子を取り戻したと判断した。

「あった!」

 ハリーは『両面鏡』を取り出し、ウォーリー達に振り返る。

「シリウスに連絡して、クリーチャーに頼むんだ。ドビーとマンダンガスを連れて来て貰う」

「そうよ、クリーチャーにロケットの事も伝えなくちゃ! ハリー、くれぐれもロケットについて話したいって言うのよ!」

「そうだった……レギュラス=ブラック」

 ハーマイオニーに言われるまで、レギュラスとのロケットの関わりをすっかり忘れていた。

「ほお、ロケットを壊したんだね……勿体ない……」

 脳髄の奥さえ震え上がらせる呟きはウォーリーにしか聞こえず、彼女も聞かぬ振りをした。

「シリウス、シリウス=ブラック!」

 ソファーに座り、ハリーは両面鏡に向き合ってシリウスを呼ぶ。鏡は白い布のような物しか映さない。しばらく彼は何度も、名付け親を呼んだ。

 5分以上経過し、ハリーが負けじとシリウスを呼び続けてようやく反応を見せる。布が取り払われたように動き出したのだ。

 期待を込め、4人は『両面鏡』を覗き込む。コンラッドもその後ろに控えた。

「ヘスチア=ジョーンズだ。生憎、シリウスは取り込み中だ。後にしてくれ」

 何度か面識のあるジョーンズに困惑すらできず、反応に困る。彼女の様子も緊迫し、交戦中であると踏んだ。

「シリウスは無事なの?」

「一応な。今はクラウチJr.と殴り合っているところだ」

 鏡越しにジョーンズは少しだけ周囲の様子を映してくれる。場所は沼地らしく、誰かが『悪霊の炎』を放ち、真昼のように明るい。遠巻きだが確かにシリウスはクラウチJr.と取っ組み合いになり、拳を振りかざしていた。

「シリウスに伝えて、ロケットについてクリーチャーと話したいって」

「わかった、安全を確保してから連絡する」

 ジョーンズはそう言い放ち、鏡を布に包んだであろう何も見えなくなる。ハリーは残念そうに鏡をビーズバッグへ片付けた。

「殴り合っている場合じゃないわ? 何を考えているの!?」

 この場にいないシリウスにキレたハーマイオニーは紅茶を一気飲みし、怒りを抑えんと深呼吸した。

「知らんがな」

 溜息を吐きつつ、ウォーリーは呟く。取っ組み合う人の組み合わせにとてつもなく嫌な予感がするが、考えるのを止めた。

 一応、コンラッドへ視線で訴えれば、含みのある笑みが返ってきた。

「クリーチャーを待つとして、何処で寝る? 庭を借りる?」

「そうだね、そのほうがいいかも」

 ロンの質問にハリーが席を立つ。コンラッドは引き留めた。 

「そっちの部屋を使ってくれ。2階には行かないように、テッド達がいるからね」

 示された壁から扉が浮き出て開く。窓のない部屋には2段寝台が2つと別の扉が1つ、お手洗いへ続いていた。

 ハリーは最初、断ろうとした。何人も入れ違いで訪れ、しかも、2階にいる先客から隠れなければならない。だが、ロンは遠慮なく早々に寝台へと飛び込んだ。

 信頼に足る魔法使いによる保護魔法の中で追手を気にせず、眠れる。ハーマイオニーも意外とあっさり、陥落した。

「どの道、ルーナの救出に作戦を立てたいだろう? 実行までの一休みだ」

「……確かに……旅の間、僕はずっとハーマイオニーに頼りっぱなしだった……。今だけでも、休んでて」

 意識を失っているハーマイオニーはハリーに答えなかったが、口元は僅かに微笑んだ。

 クリーチャーが来るまで、ハリーも眠る。ウォーリーは見張りとして、居間の窓から外の景色を眺めた。

 もう深夜の時間帯。

 空が曇っており、街灯の明るさが目立つ。それだけ家々の住人も夢の中だ。

 此処から、剣を見つけた川辺は見えない。

(……ボニフェースは埋葬されていた……ヴォルデモートに? それで死体さえも見つかっていなかったのか……。しかも、なんでこの町の傍に? 結局、さっきの守護霊は誰のものだ?) 

 窓越しにコンラッドを見やる。彼は宙に地図と魔法界の雑誌を浮かべ、コーヒーを飲む。ロンの言葉が脳裏を掠めた。

(……コンラッドの優先順位……、この人の決着は……ヴォルデモートの滅びじゃない……)

 勘よりも確信に近い。だが、間違いではないだろう。ロケットを『分霊箱』と知らずとも、冗談でも惜しむ発言が出来るのだ。

 だが、ウォーリーはそれを責めない。彼女もクィレルに拘っている。ヴォルデモートは物のついでだ。

「似た者親子か……」

 知らずにほくそ笑んだ。

「何か言ったかい?」

 改装されたとはいえ、この家で再び2人で過ごす。ウォーリーはコンラッドを父とは呼ばないが、子としての敬意は持っているつもりだ。だから、彼の父たるボニフェースに関して教えたい。勝手な気持ちだが、剣を手に入れた事に触れなければ良いのだ。

「……さっき私達がいた場所に、ボニフェースは埋められていた。トム=リドルの魔法でな……」

 コンラッドはコーヒーが零れたのも気にせず、珍しく驚愕に目を見開く。ゆっくりとウォーリーを一瞥し、胸に溜まった息を吐いた。

「この家は元々、ボニフェースの家なんだ。アロンダイト家と言えばいいかな。『闇の帝王』は温情のつもりで、自分の家が見える場所に葬ったのかもね」

「え、ここがお祖父ちゃんの家!? ……前に誰かに聞いたような……??」

 叫びすぎを自覚し、ウォーリーは自分の口を塞ぐ。ハリー達の寝ている部屋と2階へ意識を配る。誰かが来る気配はない。安堵の息を吐いた。

 コンラッドの秘密主義に動じた自分を恥じた。

「先祖代々受け継がれたアロンダイト家ってわけか、まさかサー・ランスロット縁の一族なのか?」

「縁もゆかりもないが、サー・ランスロットの熱狂的なファンはいた。サーペンタイン湖に霊園があるだろう? 最初はサー・ランスロットの慰霊碑を建設させようとしたそうだ。魔法省から許可が下りず、霊園になったわけだがね」

 嫌味を込めて皮肉ぶれば、とんでない話を聞いてしまう。本人と全く関係のない湖に大それた真似をしたものだと呆れを通り越して感心した。

「フレッチャーが生まれる前に霊園は出来たと聞いたが、誰が作ったんだ?」

 コンラッドは杖を振い、興味本位なウォーリーに紅茶を勧めた。

「ルクレースの夫・エルマー=アロンダイトだ。あまり知られていないけど……ルクレースが霊園の建設を恥と思ったらしくてね」

「そこまで嫌なら、建設を止めさせろ」

 思わず、ツッコんだ言葉がおもしかったらしく、コンラッドは喉を鳴らして笑った。

「嫁さんに反対されてまで、エルマーはサー・ランスロットに心酔していたのか? 偶々同じ名前の剣を持っていたというだけで?」

「正確には大好きな偉人が自分と同じ名前の剣を所持していたと知り、運命を感じたんだよ。作り話まで考えていたそうだ。アロンダイトというのは剣ではなく、サー・ランスロットに仕えた魔法族であるとね」

 ゾッとした。

「勝手に脚色するな、気色悪い……」

「お伽話や伝承なんて、そんなものだよ。誰かが勝手に脚色したり、後日談を付け加える」

 首筋を押さえ、吐く真似をするウォーリーへコンラッドは皮肉っぽく口元を曲げた。

「『死の秘宝』もか? あれは本当の話だろう? ペベレル三兄弟の墓もあると聞いたが……確かイグノタスとか、偶々の他人?」」

「イグノタス=ペベレル……その通り、その名はゴドリックの丘にある。彼には実際に兄が2人いた。アンチオク、カドマス……『死の秘宝』の三兄弟は彼らだと見解を述べる人もいるね」

 興味なさげに答え、コンラッドは杖を振う。空中に光の文字を描き出しだ。

「『ニワトコの杖』」

 縦線を真っ直ぐ一本。

「『蘇りの石』」

 縦線を丸で覆い。

「『透明マント』」

 更に二つを三角で囲んだ。成程、【吟遊詩人ビートルの物語】に書き加えられた落書き、ゼノフィリアスのペンダントにあった印だ。

「三つ揃わなければ、意味がないな」

 そんな感想を漏らした。

「これは揃うとどうなるんだ? 三兄弟の出会ったとかいう『死』でも召喚されるのか?」

「……死を制する者になるそうだよ。具体的にどうなるかは、私は知らないね」

 コンラッドが答えた時、背後に気配が増えて勢いよく振り返った。

「クリーチャー、無事だったね」

 コンラッドは当たり前のように挨拶し、ハリー達のいる部屋の扉を魔法で無理やり開く。その衝動で扉にもたれかかっていた3人は床へ崩れながら倒れた。

「なんだ、起きていたのか」

 話に夢中で気付かなかった。

 クリーチャーは落ち着かない様子で両手の指先を弄ぶ。ウォーリーは彼がロケットの確認を強請っている。と察する。ハリーも気づき、起き上りながらポケットへ手を入れる。クリーチャーの傍で片膝を付いて、壊れたロケットを差し出した。

「やったよ、クリーチャー。僕達、君のレギュラス様の命令、やり遂げた」

 レギュラスの本懐を遂げた。

 クリーチャーは今にも目玉が飛び出そうな程に目を見開き、垂れ下がった耳をピンと立てて、ロケットを眺める。感極まり、声にも出せない状態だ。

 ハリーは彼の首にロケットの鎖をかけた。

「これは君の物だ。君が僕らに話して成し遂げたんだ」

 予想外の行動だ。ハリーは唐突だが、自然に相手を思いやる。クリーチャーも大好きだったレギュラスの形見が欲しかったに違いない。彼ら種族が魔法族から与えられるのは体罰の暴力か、解雇を示す衣服だけだ。

 クリーチャーは涙を溢し、床へ頭を擦りつけて平伏する。最大級の感謝が伝わる。ハーマイオニーは貰い泣きし、ロンの腕に抱かれて慰められた。

 コンラッドは皆から背を向け、宙に描いた印を消す。彼の口元がレギュラスへの哀惜に歪むのを確かに見た。

 

 涙を落ち着かせたクリーチャーはすぐにお願いを聞き入れ、文字通り消え去った。

「どうして、ここがわかったんだろう?」

「ヘスチアは私に気づいていたから、彼女が教えたんだろうね」

 ロンの素朴な疑問にコンラッドは答え、皆に眠るように部屋へと押し込んだ。

「そういえば、起きていたなら声をかけてくれ。折角、ペベレル兄弟の話をしていたのに」

 布団へ潜り込んだウォーリーは欠伸をひとつし、3人へ聞く。

「……だって、ほら、その……君だって、コンラッドさんとあんまり話してないじゃん? 皆の前でも、他人のフリをしないといけないし……。こういう時ぐらい、親子水入らずでさ……」

 ロンは口ごもってそう答え、ウォーリーは急に気恥しくなる。気遣いは嬉しいが、照れくさくこそばゆい感覚に襲われた。

「ところで、ウォーリー。サー・ランスロットの剣がアロンダイトって、どの文献に載っていたの?」

 ハーマイオニーの質問にウォーリーはキョトンとしてしまう。

「……え? アーサー王のエクスカリバー並に常識じゃないのか!?」

「「知らない」」

 ハリーとロンに問えば、2人から否定された。

「ウォーリーって時々、凄い事を知っているよ。そう言えば、ニコラス=フラメルも知っていたものね」

「……ああ、覚えているよ。僕らが図書館を百回も調べたのに、君は知っていた」

 思い返したハリーにロンは懐かしむ。

 途端にハリーは硬直する。急にビーズバッグを漁り、スニッチを取り出した。

「石はここだ!」

 いきなり、ハリーは叫んで皆にスニッチを見せつける。

「『賢者の石』?」

「違う、『蘇りの石』だよ。ダンブルドアはスニッチに『蘇りの石』を隠したんだ! 指輪の石の大きさを考えるとピッタリ合う」

 フラメルの話題だった為、ロンは推測したが否定される。大発見を訴えるハリーにハーマイオニーは驚いて口を両手で塞いだ。

「つまり、石は盗られる心配はないな」

 ウォーリーはそう告げた後、疲労が極限に達して意識を失った。

 

 

 年が明けても、クリーチャーは戻らない。

 家には何人も入れ違いで現れ、2・3日寝泊まりする人もいた。しかし、誰もウォーリー達がいる部屋に気付かず、存在も疑わなかった。

「その顔はどうしたんだい? クラウチJr.にやられたのかな?」

「笑い事じゃないぞ、あいつ、まだ貴様の細君を狙ってやがる」

 テッドを迎えに来たシリウスにコンラッドは容赦なく、嘲りを見せる。半ギレ状態の上、すぐに去った為にハリーは名付け親と話す機会もなかった。

「最近、『ポッターウォッチ』を聞いた?」

「スタジオが家宅訪問されたらしくてね、どうなっていることやら」

 ラジオの周波数を弄り、ロンは苛立つ。コンラッドの返事にも、片手で返した。

「ロン。暇なら、メモを纏めるのを手伝って」

 部屋で荷物の整頓をせんと、ハーマイオニーはビーズバッグとガマグチ鞄を漁る。ウォーリーも賞味期限切れや腐った食べ物を分別した。

 ハリーはグリフィンドールの剣を見つめ、何気なく呟く。

「グリンゴッツに偽物が保管されたって言っていたけど、誰の金庫かな?」

「……スネイプ校長先生?」

 ウォーリーが答えれば、ハリーはあからさま嫌な顔をした。

「そうだよね……。あいつは金庫を持っていないはずだ……だったら……」

 居間からの騒音がハリーの言葉を遮り、ハーマイオニーは急いで剣をビーズバッグへ入れた。

「コンラッド! 『屋敷しもべ妖精』なんざ、嗾けやがって! どういうつもりだ!」

 待ちかねたマンダンガスにコンラッドはいつもの笑顔で肩を竦める。ウォーリーは部屋を出て、彼の体に纏わりついたクリーチャーとドビーへ挨拶した。

「ハリー=ポッター! ドビーめをお探しとか!」

「こんにちは、ドビー。クリーチャー、ありがとう。マンダンガス、用事があるのは僕です」

 ドビーがハリーを呼んだ時、マンダンガスは初めてもうひとつの扉に気づき、ウォーリー達の姿を認識していた。

「おおう? ハリー、こんなところで……俺に何の用だ?」

「マルフォイの屋敷に行きたい。力を貸して欲しい」

 真っ直ぐに見つめられ、マンダンガスは頭にしがみ付くドビーを忘れてコンラッドを振り返った。

「何をしようって言うんだ? あんな場所に行くなんざ、おめえさん……」

「ルーナが捕まった。そこにいる。私達は助けに行きたい。貴方は屋敷に侵入した経験があるだろう」

 ウォーリーの説明にマンダンガスは青褪める。そして、何度もコンラッドを盗み見た。

「あの頃は若かったんだ……今はもう無理だあ」

 嫌がるマンダンガスは過去の出来事を回想して怯えた。

「ドビーはお手伝いします! ハリー=ポッターがお友達を助けるのを歓迎致します!」

 元いた屋敷での不当な日々、体に染みついた恐怖に震え上がる。それでも、ドビーは必死に声を張り上げた。

「ありがとう、ドビー」

 ハリーは笑顔で返す。ガタガタと体を痙攣させても、ドビーは笑顔を取り繕った。

(惨い……)

 思わず、同情したウォーリーはドビーとは正反対に断るマンダンガスの対応に悩む。

 正直、ドビーがいれば事足りる。しかし、妖精の感性は人間とは違う。2年生の折、『秘密の部屋』の怪物騒動から、ハリーを助けんと迷惑な行動を取った。

 説明の仕方に齟齬が生じては危険だ。せめて、魔法族が可能な侵入方法を知りたい。ウォーリーはコンラッドに視線を送り、説得を頼んだ。

「ダング、やり方だけ教えて欲しいな。それだけ教えてくれれば、この件にはもう巻き込まないよ」

「……おめえは行かねえんだな?」

 視線の意図を理解し、コンラッドはマンダンガスの肩に優しく手を置き、その耳元で愛嬌を込めて囁く。傍から見れば、親しき間柄の2人がおねだりしてように見えるだろう。

 ウォーリーには恐怖の前触れに感じ、背筋に寒気が走る。その間にハリーはドビーにマルフォイ家の偵察に行って貰った。

「……わかった、俺がやった方法だけだあ。もう俺はそれ以上、関わらねえ。いいな?」

「勿論だよ、ダング」

 ずっとコンラッドから笑顔の催促を受けたマンダンガスは観念し、力強く念押しする。ハーマイオニーはメモを用意し、2人の傍まで寄った。

「タネも仕掛けもねえ、堂々と玄関から入りゃあいいんだよ。客としてな。『ボージン・アンド・バークス』が訪問販売に行くのに紛れ込んだ。苦労したぜ、あいつらを屋敷に行かせるように仕向けるのは……時間もかかっちまったしよお」

 監禁されてから一月後に救出されたのは、それが理由だった。

「マルフォイの屋敷はブラックの屋敷には劣るが、強力な保護魔法を施してやがる。招待客も必ず、正門からしか入れねえ。招かれざる客も門の顔に、用件が認められねえといけねえんだ」

「顔……?」

 ロンの疑問にマンダンガスは「行けばわかる」と答えた。

 当時は上手く事が運び、成功した。それだけにしてはいくら若さがあったとはいえ、マンダンガスの怯え方はおおげさに感じた。

「……まさかと思うが『フェリックス・フェリシス』を飲んだりしていないか?」

 疑わしく思い、ウォーリーは問う。ビクッと肩が痙攣した反応から見るにマンダンガスは貴重な『幸運の液体』を入手し、コンラッドの為に使った。

 ピクッとコンラッドは目尻を痙攣させ、動揺を示す。ウォーリーとハリーもそれだけの豪胆さに吃驚した。

「……流石に作れないわ、材料もないし」

「……材料と言えば『ポリジュース薬』、もうないんじゃない?」

 小声で話し合うハーマイオニーとロンが聞こえ、閃いたウォーリーは影を使ってマンダンガスの髪の毛を頂戴した。

「俺はもう帰っていいなあ?」

「ああ、十分だよ」

 返事も聞かず、マンダンガスはそそくさと玄関へと向かう。その背に向け、コンラッドは表情を崩さずに杖を向けて魔法を放つ。手早い動きに見逃しかけた。

「……『忘却呪文』ですか?」

 吃驚したハリーは倒れたマンダンガスといつの間に杖をしまったコンラッドを交互に見比べ、問う。

「正解だ。クリーチャー、マンダンガスを拾った場所へ捨てて来てくれるかい?」

 頼まれたクリーチャーは一礼し、意識のないマンダンガスを腕を掴んで消え去った。

「何も記憶まで消さなくても良かったのでは?」

 油断を許さぬ元『闇払い』ムーディですら、マンダンガスが騎士団に関わったという記憶を消さなかった。それは『死喰い人』に対して情報を売らないという信頼故だろう。

「……魔法使いが魔法使いを助けると、絆が生まれるんだよ……。元がどんなに憎み合っていてもね……」

 機械的な笑みと口調に僅かな切なさを込め、コンラッドは自分の胸にそっと手を添える。自分とマンダンガスと言うより、別の誰かの関係を示している。

「わかります……ピーター=ペティグリューがシリウスを助けたのも、……僕が彼を助けたから……今はそう思います」

 ハリーの意見は半分、彼自身の希望に聞こえる。ウォーリーも正解と答えたくなった。

 口を動かす前に脳裏をクィレルの顔が横切り、やめた。

 

 クリーチャーは一時間もせず、戻る。そのまま、ドビーの帰還を一緒に待つ。肝心の彼は丸一日経ってから帰ってきた。

「ウィンキーがいたのです、ウィンキーがお友達を見張っておいでです」

 出発前の意気揚々とした雰囲気は消え、ドビーは青褪めていた。

 ルーナは確かにマルフォイ家の地下牢に囚われ、他にも老人がいたという。それをウィンキーが世話という名で監視している。幸い、今回のドビーの侵入には気付かれなかった。

 寝台の上に座ったハリーは息を飲んで皆を見渡し、事の重大さに溜息を吐く。

「……? ウィンキーも一緒に連れ出せばいいのではないか?」

「見張っていたなら、誰かに命令されたんだろ。クラウチJr.にでも……、ウィンキーは命令を絶対に守る。守れなかったら……」

 ウォーリーの疑問にロンは批判的な口調で指先を動かし、首筋を掻っ切る。ハーマイオニーが視線でロンを咎め、この場にいるドビーとクリーチャーに気を遣うように促した。

 囚われた人々を救い出す為にはウィンキーを退けなくてはならない。つまりは妖精同士の争いになる。しかし、こちらの成功は即ち、彼女の責任であり、その失態は死を以て償わされるだろう。

 まさに最大の妨害。

「ウィンキーを説得できない? 皆と一緒に逃げるように」

 ハーマイオニーの懇願に『屋敷妖精』は顔を背けて答えない。ウォーリーとハリー、ロンは正直、ウィンキーは切り捨てたい気持ちがある。しかし、それをすればヴォルデモートと同じだ。

「ハリーお坊ちゃま」

 クリーチャーに呼ばれ、皆は驚く。今までハリーの名を彼は呼ばなかった。

「クリーチャーがウィンキーを連れ出します。クリーチャーがいる場所へウィンキーをお連れ致します。ハリー坊ちゃまのお邪魔はさせません」

 協力を申し出る提案であった。

 誰かの命令ではなく、クリーチャーの意思でハリーを助けようとしている。ウォーリーは驚き過ぎでロンと視線を合わせ、ハーマイオニーは感極まり、目に涙を浮かべたがすぐに拭った。

 深刻な表情でハリーはクリーチャーの前に片膝を付き、礼を述べる。

「ドビー。マルフォイの屋敷には今、誰がいる?」

 ハリーの質問にドビーはマルフォイ親子他、ベラトリックス、クラウチJr.が滞在中と答えた。

「……それから……ハリー=ポッターのお友達の……蛇がおりました」

 意外すぎて驚愕し、ベッロの存在を先に言えと胸中で悪態吐く。一先ず、使い魔の無事は確認できた。

「……大方、ドラコが匿っているんだろうな。ベッロが好きだから……、今は置いておこう……」

 ハリーに視線を送った時、不意に先日の会話を思い返す。偽物のグリフィンドールの剣は誰の金庫に保管されたかという疑問だ。

 もしかしたら、その金庫に残りの『分霊箱』たるハッフルパフのカップが保管されている可能性が大いにある。スネイプには聞けないなら、ルシウスは確実に知っているはずだ。

「……ハリー、剣を使わせて欲しい」

「何を思い付いたの?」

 確認してくるハリーは既にウォーリーに剣を貸す気でいる。ビーズバッグから柄を握り、銀色の刃に気を使いながら取り出した。

 この手に握るのは初めてだ。杖や箒より、ずっと重い。

 汚れひとつない刃はバジリスクを屠り、猛毒の力を得て物に宿った魂を殺せる。だから、重いのだ。

「ルシウス=マルフォイと取引する。この剣で」

 絶句する皆の顔が予想通りでウォーリーは武者震いも加わって、微笑んだ。

 




閲覧ありがとうございました。

そういう映画『バンデットQ』より、80年代のお勧め映画。12年にブルーレイが出ています。
極寒の中、水を浴びるロン。ごめんね
長い合言葉、大好き。
ランスロットの剣がアロンダイト。現在ほど認知度は高くなく、90年代は知っている人は知っている程度でした。
ウォーリーはゲーム知識で知り、コンラッドは翻訳の仕事と祖母ビアンカから聞いていた。

・エルマー=アロンダイト
 オリキャラ、ルクレースの夫。ランスロットが好きすぎて、フランスのボーバトン校へ入学したロマンチスト。
 いつかランスロットのような御仁に仕えることを夢にし、自分の血統には彼に相応しい魔法族である事を望んだ。
 その為、孫のベンジャミンがスクイブで生まれたショックで倒れた。これにより、ルクレースの洗脳教育はより苛烈さを増した。
 彼を知る人は「純血主義になったゼノフィリス=ラブグッド」と答える。

・アンチオク、カドマス、イグノタス
 ペベレル三兄弟。
 原作において、ハリーは自らがイグノダスの子孫だと推論した。
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