こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。

原作において、マルフォイ家には3月のイースター休暇中です。
この回では、2月に突入しています。
マルフォイ屋の地下室は何故にあんなに音が聞こえやすいのでしょうか? 魔法で音を消せばいいのに(謎)

残酷な表現があります。


10.受け取って

 

 ルシウス=マルフォイとの取引。コンラッドに相談し、様々な助言を受ける。無論、その材料にグリフィンドールの剣を使い、目的はハッフルパフのカップの在り処を知る為だとは伏せてある。

「今の奴は『闇の帝王』の信頼を取り戻そうと躍起になっている。どうやって、ルシウスに会うつもりかは知らないが、些細な取引だろうと応じるはずだよ。基本的な事は、取引の最中に嘘を吐かない。聞かれた事以外は話さない。答えられない質問には話題を変えてでも、逸らす。今なら、このくらいで十分だよ。あまり気を張れば、逆に疑ってくるからね」

 機械的な口調で締めくくり、コンラッドは疑わしげな視線をウォーリーへ送った。

「地下室は何処にあるんだ?」

「客間の真下だ。ちょっとした大声を上げれば、すぐにバレてしまう」

 淡々と告げるコンラッドは目を伏せる。父親のトラウマを抉ってでも、話題を逸らすウォーリーにロンは「惨い……」と呟いた。

「何故、そんな場所? 普通は騒いでも気づかれない場所にあるもんじゃないのか?」

「多分、マルフォイの屋敷って、元はマグルの貴族が使っていたんだと思うわ」

 ハーマイオニーの憶測にも、ウォーリーは疑問が解けない。ロンも同じだ。キョトンされた反応にハリーが手を上げた。

「……えーと、昔はね。マグルの使用人はほとんどの場合、屋敷の地下に住んでいて……ご主人様が何か用があれば、すぐに行動できるようにわざと音が聞こえやすい作りになっているんだ。その地下牢も使用人の居住区をそのまま使っているんだと思うよ」

「へえ……じゃあ、映画でよく見るチリンチリンって鳴らしてメイドさんを呼ぶのはそう言うことか」

「博識じゃん、ハリー」

 2人に褒められ、ハリーはハーマイオニーの顔色を窺う。彼女は消化不良を訴えるように眉を寄せていた。

「……大体、合っているわ」

 ハーマイオニーがそう答え、少しだけ空気が和んだかと思えば、ハリーはコンラッドに頼んで取引の練習を行った。

 取引はハリーが行う。正体がバレても、ルーナ達を逃がす時間稼ぎになると主張し、この役目だけは彼は頑として譲らない。嫌味ったらしく尊大なコンラッドの態度は演技に見えず、傍から見て気分が悪くなった。

「……あの話し方、初めて会った時のルシウス=マルフォイそっくり……」

 就寝の際、気力を使い果たしたハリーはげっそりと呟いた。

 彼の涙ぐましい努力を尻目に、ハーマイオニーは『ポリジュース薬』の調合に勤しみ、ウォーリーとロンは万一に備えてグリフィンドールの剣の偽物を作り始めた。

 理由は話さず、必要な道具は全てコンラッドから貰った。

「いつも、思うんだけど……どうして、誰も食べ物を作り出す魔法を学ばないの? ママはいつもパッと出して見せるよ」

「それは『呼び寄せ呪文』を使っただけよ。『ガンプの元素変容の法則』の5つの主たる例外のひとつにより、無から食べ物を生み出せないわ」

 ロンは肩を竦め、ハリーに簡潔な説明を求める。

「魔法ばかりに頼るなって事だよ」

「へえ、ウォーリーの焼いた魚を食べても同じセリフが言えるんかね?」

 意味深に笑うロンへウォーリーは脅しで杖を向け、黙らせた。

「新しく、ゴブリンが捕らえられておりました」

 ドビーとクリーチャーにはウィンキーの監視とルーナ達の様子を逐一、報告して貰う。話の内容から、同じように監禁されているのは杖作りのオリバンダー、そしてゴブリンはグリップフックだとわかった。

 

 一週間経ち、ウォーリー達は出発を決めた。

 ホグワーツも新学期に入り、『不死鳥の騎士団』やそれ以外の人々の出入りが激しさを増した事やこれ以上、コンラッドを頼るのは「油断大敵」というものだ。

「上手く行っても、ここに連れて来ないようにね。避難先も別に決めて置きなさい」

 散々世話になった4人はコンラッドに礼を述べている最中、最後の助言を貰う。ロンが反論を言いたげな表情だったが、ハーマイオニーの肘打ちで黙らされた。

 雪の積った庭を足を取られぬように歩く。ドビーとクリーチャーは雪に足が触れぬように歩いていた。

 自分の足で此処を去る。旅立ちの高揚より、寂しさが胸に溢れ出た。

 ウォーリーは3人から遅れて歩き、玄関口で見送るコンラッドを振り返る。声に出さず、日本語の発音で「行ってきます」と唇を動かす。読み取った彼も声を発さず、「行ってらっしゃい」と返した。

 その表情からドリスの面影が見えた。

 もっと、何か話さなければならない。そんな衝動に駆られた。

 しかし、ハーマイオニーに呼ばれて先を急いだ。

 

 

 以前と同じように一か所に留まらず、各地を転々としながら、『ポリジュース薬』の完成を待つ。お手製の模造刀は【ゴドリックグリフィンドール】の文字を歪ませる違いを付けた。

 更に『呪い返し』の魔法を刃に宿らせた。

「ステューピファイ! (麻痺せよ!)」

 ハーマイオニーの呪文を刃に当てさせれば、見事、彼女に跳ね返って麻痺させた。

「エクスペリアームズ! (武器よ去れ)」

 ハリーのお得意の『武装解除の呪文』も剣を構えれば、彼の杖が飛ぶ。交代で魔法の効果を試してみれば、今のところは成功だ。

 剣の製造に関して素人2人が作ったにしては、お世辞抜きで上出来だ。

「『呪い返し』なんて、おっそろしい魔法じゃん。何処でそんな魔法を覚えたの?」

 興奮して微笑むロンはハリーから教えて貰った命がけの護りの魔法を忘れている。

「日本だと割とポピュラーな魔法だが、イギリスではなかったか? まあ、実際の『呪い返し』をこの目で見たわけじゃないから、上々だ」

 さりげなく、ヒントを交えて答えたがロンは感心して剣を眺めるだけで、その脳髄には掠りもしなかった様子だ。

 ハリーとロンは体を動かす目的で二つの剣を使い、チャンバラごっこを始める。真剣の刃で遊ぶなど危険極まりないが、ハーマイオニーは許した。

「……よくもこんな出鱈目な物が作れたわね」

 自分の魔法で倒れたハーマイオニーは今にも破壊しそうな形相で偽物の剣を睨む。

「出鱈目なもんか。ロンがいたから、作業を分担出来たが、ひとつひとつ、真似て作……」

「そういう意味じゃないわ。貴女の言うとおり、呪いを跳ね返す魔法は確かにあるわ。でも……それはあくまでも『護り』なの、返す事は前提じゃない。ハリーのお母様も最初から、あの人に『死の呪い』を返させるつもりはなかった。結果的にそれが護りの形だっただけ」

 感情を抑え込むハーマイオニーはハリーの傷跡を一瞥し、ウォーリーに耳打ちする。記憶力の良い彼女はすぐに何を基準に『呪い返し』を施せたのか、察した。

 ハリーも気づいているだろう。リリー=ポッター護りはある意味、『呪い返し』の一種だ。

「私も似たような物を作ろうとはしたわ。けど、全然、上手く行かなかった……貴女は自分以外の為なら、やってみせるのよ。それを今、実感したわ……心配になるくらい……」

 不安げに瞳を濡らし、ハーマイオニーはウォーリーの手を握る。

「私達、自分の身は自分で護れるわ。だから、絶対に私達の盾にならないで……貴女は自分の身を護って……約束よ」

 親友の手は怯えで震える。ウォーリー否、クローディアの二度目の死を予感している。

「私は死なない、死んではいけないもの。だから、貴女も死なないで」

 クローディアの時、シリウスにそう告げた。彼は今も、言葉通りに生きている。彼女はその名を殺してしまった。

 今度こそ、守って見せる。その誓いがハーマイオニーにも通じ、彼女は安心して手を離した。

 

 

 完成した『ポリジュース薬』を1人分、ハーマイオニーはウォーリーの髪の毛を入れて試飲する。すぐに効果は表れ、ふわふわとした栗色の髪は脱色した濁った髪になり、目的の姿に変じた。

「……前の姿になると思っていたが……」

 何とも言えぬ感情を抱え、ウォーリーはハーマイオニーを眺めた。

「今の状態に変身しないと意味がないから、この姿は『ポリジュース薬』の効果だと思うわ。整形した人に変身した事ないから、検証は必要ね」

 自分の声でハーマイオニーの喋り方をされ、鏡を見るより気味が悪く感じる。この姿を自分の物として完全に受けていると実感した。

 

 ドビーが偵察から戻り、4人……正確には6人はそれぞれの役割とルーナ達の避難先について確認し合う。

「先ずはマンダンガスに変身した僕がウォーリーと一緒に屋敷へ行く。きっと、最低限の持て成しをウィンキーにさせるだろうね。マルフォイが彼女に下がるように命じるか、僕が下がらせるように仕向ける。その後はクリーチャーに頼むよ。ドラコは『変幻自在の呪文』を使って、ウィンキーと連絡を取り合っている可能性がある。そこに注意してくれ」」

「お任せ下さい、ハリー坊ちゃま」

 クリーチャーは丁寧な仕草で頭を下げた。

「その後、ドビーはルーナから順番に『貝殻の家』へ送ってくれ。僕の兄貴がグリップフックと同僚なんだ。少しは安心でき……」

「はい! ドビーにお任せ下さい!」

 ロンが言い終える前にドビーは溌剌とした返事をした。

「救出が終わった合図として、マンダンガスに変身したロンとウォーリーに変身した私が乗り込むわ。わざと混乱させるから、その隙に逃げましょう」

 真剣な表情でハーマイオニーは『デラックス大爆発』を見せ、締めくくった。

 

 夜明け前、ウォーリーとハリーはお互いの『ポケベル』をハーマイオニーとトビーに渡す。救出の報告はそれで行う為だ。日本語の「終わった」との発音をドビーはすらりと覚えてくれた。

「ルーナ達も助けて、カップの在り処も聞き出す。大仕事だ」

 ロンは武者震いを起こした。

 マンダンガスが着そうなボロボロの衣服に身を纏い、ハリーは『ポリジュース薬』を飲む。ウォーリーはボロボロの服を着ただけで顔はそのままま。念の為に帽子は被った。

 本物と偽物、二振りを丁寧に布で包んでウォーリーは背負う。時間切れ対策でハリーも『ポリジュース薬』入りの小瓶水筒を持った。

 ハーマイオニーとロンは『透明マント』で身を隠し、ドビーに捕まる。彼の『付き添い姿く現わし』で4人は何処かの森にある小道へと移された。

「あちらでございます」

 ドビーはそれだけ告げ、消えた。彼の指示した方角には遠目でわかる古城と呼ぶに相応しい屋敷が見えた。両開きの門の位置から、少し歩かなければならないが問題ない。

〔連絡が来るまでここで待っててくれ〕

 ウォーリーが日本語で呟き、姿のないハーマイオニーに手を握られた感触がした。

 土の小道はやがて整然された馬車道になり、両開きの門へを見上げる。お互いの緊張が心拍音となり、聞こえ合う錯覚へ陥る。

(ヴォルデモートはまだ杖を探している……ここにいない……。いるのは夫妻だけ……)

 ドビーの報告を信じ、ウォーリーはハリーと目配せして頷き合う。マンダンガスに言われた通り、顔を探して門へと手を伸ばした。

 すると鉄が文字通り、歪んで険しい顔の形へと変貌した。

「目的を述べよ!」

 レイブンクローのドアノッカーより乱暴な口調で問われ、ハリーはマンダンガスらしい低姿勢で媚びた笑顔になった。

「ルシウス=マルフォイ様に良い話を持って参りやした。決して損はさせやせん」

 険しい顔は無言を貫いた。相手にする価値なしと判断されたのだ。

 ハリーは焦らず、またマンダンガスの真似をして勿体ぶった態度でウォーリーの背中にある本物を見せるように指示した。

 慌てた演技をしながら、ウォーリーは本物の巻いている布を柄の部分だけ解いて、険しい顔へと見せつける。これに視力があるのかは正直、怪しい。

「グリフィンドールの剣を持って参りやした。グリンゴッツにあるのは、偽物。俺は本物を持って来やした」

 周囲に聞かれぬように手で声を押さえ、険しい顔へと囁く。途端に門は開いた。

 ハリーはマンダンガスらしくわざと安堵の息を吐いて、ウォーリーは剣を背負い直す。2人は堂々と砂利道へ足を踏み入れた。

 いきなり脇から、羽ばたくような音がして警戒して振り返る。美しい孔雀が立っていた。

「……そういえば、ルシウス=マルフォイは孔雀を飼っていたっけ……」

 一安心したウォーリーは言い終える前に気づく。孔雀の後ろから見慣れた蛇が這い出て来た。

 太く逞しい鱗は健全な状態で過ごしていたと教える。

「ベッ……」

 実際、会えた喜びに思わず、ベッロの名を呼ぼうとする。しかし、蛇はずっとマンダンガスの姿をしたハリーしか見ていなかった。

「よおー、ベッロじゃねえか、元気してっか」

 マンダンガスの態度のまま、ハリーはベッロへと近寄る。蛇は恐らく見抜いているのだろう。哀愁漂う雰囲気で地面に這いつくばったまま、見上げて来た。

「まだ、ここにいろ。心配すんな。必ず、迎えに来てやっから」

 ハリーは屈んでベッロに触れる。以前のような優しい手つきだ。蛇は撫でてくる手を拒まなかった。

 寧ろ、この手を離さないで欲しい。そんな懇願が伝わってきた。

 正面の扉はホグワーツの城とは違うが、それでも複雑な文様が彫刻され、上品さと冷徹さを教える。音もなく、扉は開いて僅かな隙間からウィンキーが現れた。

 最後に見た時より、げっそりしている。以前のクリーチャーと重なった。

 唇を引き締めハリーはマンダンガスとして、取引に来たと伝える。ウィンキーは変身に気づいていないのか、読み取りずらい表情だ。ただ、ウォーリーがクローディアだとは一切、気づいていない。それだけは確かだ。

 水晶のシャンデリア、深紫色の壁には似た顔の肖像画がずらりと並ぶ。自尊心が内装に現れた絢爛豪華な客間だが、何処となく陰湿な雰囲気を醸し出している。一度だけ入ったスリザリンの談話室がまだ賑やかな気がした。

 ウォーリーとハリーは座らず、ウィンキーの用意した紅茶にも手を出さずに待った。

「グリフィンドールの剣を持って来たと――?」

 急に衣服を整えたらしく、眉間にシワを寄せたルシウスは客間に入るなり切羽詰ったように問う。自信に満ち溢れていた頃と比べれば、正直、病を患ったように覇気を感じない。

 ただ挨拶もなく、取引に来た相手の顔も一切見ず、名も聞かぬ。剣だけを探す目つきは腐っても傲慢というべきだろう。同情する気も起きない。

「へえ、旦那さま。こちらでございやす。……その前に、買って頂けるのでしょうかね?」

「何?」

 低姿勢で愛想笑いしながら、ハリーは勿体ぶった態度で剣を見せない。ルシウスはゴミを見るような冷たい視線で返事ではなく、独り言を呟いた。

「こちらとしても命がけで手に入れたもんでしてねー、お見せした瞬間に奪われては商売になりやせん」

 小悪党みたいな喋り方が本物よりマンダンガスっぽかった。

 ルシウスはあからさまに溜息をつき、後ろ手を出す。背後にいたウィンキーがいつの間にか両手程の袋を持ち、彼の手へ乗せる。それを見せつけて来た。

 わざとらしく口笛を鳴らし、ハリーから目線で合図される。ウォーリーは本物の剣を布から半分だけ解いて見せつけた。

 銀に輝く刃を目の辺りにし、ルシウスは雷に打たれたように目を見開いてから、剣をじっくりと眺める。半信半疑と言った反応だ。

「何処で手に入れた?」

「川に沈んでおりやした」

 本当だ。

「ウィンキー! ゴブリンを連れて来い。すぐにだ!」

 ウィンキーはお辞儀してから、部屋を出て行った。

 今だ。

 2人はクリーチャーが成功する事を祈り、思わず、息を飲む。それを別に解釈したルシウスは見下す視線で更に睨む。

「ゴブリンなら本物かどうか、すぐにわかる」

 グリップフックは判別はしても、正直に答えないと知っている。だが、どちらを答えても問題ない。

 時間にして1分、5分と過ぎてもウィンキーは戻らない。成功したか、まだ途中か、ウォーリーも流石に焦燥感に襲われる。ハリーは『ポリジュース薬』を飲む為に気だるい態度を装った。

 彼女の心配はせず、ルシウスは段々と苛立ちを露にした。

「ウィンキー!! ゴブリンを連れて来いと言っているだろう!」

 扉に向かって怒鳴った瞬間、乱暴に開かれかと思えば、荒い呼吸のドラコが現れる。ホグワーツにいるはずの彼は着る物も疎かにしていた。

 吃驚しすぎたハリーは口に入れたばかりの『ポリジュース薬』を吐きだしてしまった。

「ドラコ!? 何故、学校はどうした!?」

 息子に駆け寄ったルシウスは心底、心配して問い詰める。しかし、父親に答えず、ドラコは客間を見渡した。 

「ウィンキーは? あいつは何処に行った?」

 ドラコの口からウィンキーの名が出て、2人はゾッとした。

 失敗した。

 それしか判断できない。ウォーリーはそそくさと剣を布で覆い、ハリーと視線で撤退を乞う。彼も同意した。

「そんな事よりも、学校は……」

「ウィンキーは何処に行った!! 貴様ら、行くな!」

 ルシウスの胸倉を掴んでまで、ドラコは怒鳴る。息子の態度に父親はすっかり狼狽し、親子が揉み合う隙に逃げようとしたが、駄目だった。

「何事なの……?」

 困惑して現れたのは、マルフォイ夫人たるナルシッサ。見た目が汚い客人は一切、視界に入れずに夫と何故か帰ってきている息子だけ返答を求めた。

「緊急事態らしいよ。セブルスどもを出し抜いてまで、帰りたいってねえ」

 別の嫌味ったらしく、しゃがれた声にハリーは演技でなく怯える。疲れた顔をしているが、残忍さが服を着た魔女ベラトリックスまで現れてしまった。

 初対面のはずだが、ウォーリーとハリーは新聞記事やベラトリックスの姉アンドロメダを通して顔は知っている。しかし、対峙してわかる本人からの威圧感は、ヴォルデモートと同等の恐怖を教えた。

「ウィンキーにはゴブリンを連れて来るように命じてから、戻ってきていない」

 それを聞いた途端、ドラコは廊下へ飛び出した。

「ゴブリン……? こいつらがゴブリン製でも持ち込んだかえ?」

「ベラ、ドラコが学校を抜け出す手助けをしたのね! なんてこと……」

 心底、興味なくベラトリックスはナルシッサの咎めを物ともせず、近くの椅子へと乱暴に座り込む。彼女には剣の存在を教えてはならない。このまま、やり過ごすして欲しい。そんな強い直感が働いて、2人はルシウスを見ずに祈った。

「グリフィンドールの剣だ」

 願いも空しく、ルシウスはベラトリックスに対して僅かに勝ち誇ったような口調で答えた。

 剣の名を聞き、ベラトリックスは硬直する。重そうな瞼を見開かせ、ウォーリーの背にある荷物を凝視した。

 視線を感じ、ウォーリーは咄嗟に床へ転がって避ける。ベラトリックスの杖が鞭のように伸び、彼女の背にあった偽物を掴んで引き戻した。

 椅子から立ち上がったベラトリックスは布を引き裂いて、目玉が飛び出そうな程に見開いて剣を改めた。

「……いや……文字はこんなに……歪んでいなかった……いなかったずだ」

 剣にわざと付けた違い、それを触りながらベラトリックスは焦りを露にしつつも、冷静さを取り戻した。

「これは贋作だ!」

 悪辣に笑うベラトリックスはウォーリーに向かい、叫ぶ。従いたくなる程の恐怖に負けじと、叫び返した。

「お持ちした剣は本物です!」

「アッハハ、本物はグリンゴッツの私の金庫にある! ゴブリンに確認させるまでもないねえ!」

 哀れな馬鹿者を蔑んで笑うが、欲しかった情報は手に入れた。

 出来れば、その金庫にカップがあるかどうかの確認も取りたかったが、ここまでだ。

 憤慨したドラコはグリップフックを連れて戻り、まだ救出は成功していないと知る。騒動も物ともせず、彼は真っ直ぐマンダンガスに変身しているハリーへ詰め寄った。

「蛇に触ったのは、おまえか?」

「……確かに触りやした……お坊ちゃんの蛇とは知りやせんで……」

 一瞬、動じたハリーは演技をやめずにわざと狼狽えて答える。会話から、ドラコはベッロに触れば伝わる魔法を施していた様子だ。

 誰かに奪われまいとする対策までは見抜けなかった。

「ドラコ、蛇とは何のことだ?」

 ルシウスとナルシッサはドラコばかり気に掛け、椅子の上に立つべラトリックスの行動を咎めない。

「どうだ? 本物の剣か?」

 ドラコの行動など気にもせず、ベラトリックスはグリップフックに剣を見せつけ、余裕綽々に問いかけた。

 小柄なのに剣を掲げられているせいで、グリップフックは見上げる。僅かな間を置いてから、口を開いた。

「はい、本物です」

 嘘の返事だ。

 ウォーリーとハリーには予想内の答えだが、ベラトリックスは笑みを消して青褪めた。

「確かか?」

 それは確認ではなく、独り言。

「確かです」

 グリップフックは動じず、続けて答える。今にも叫びそうな表情になったベラトリックスは椅子ごと彼まで蹴り、文字通りにウォーリーへ迫った。

「この剣を何処で手に入れた!」

「本物は川から拾い上げました。買って頂けるのでしょうか?」

 爪が皮膚に食い込み、殺意の籠った声に恐怖はすっかり麻痺し、ウォーリーは逆に冷静になった。

「そいつらは、偽者だろう」

「バーティ!」

 クラウチJr.の声がした途端、扉が蹴破られる。乱暴な振舞いをルシウスは咎めた。

「両手が塞がってんだ。文句を言うな。俺は何度も呼んだぞ」

 ウォーリーとハリーはクラウチJr.の両脇に抱えられた2人を見て、目を疑う。『透明マント』で隠れていたはずのハーマイオニーとロンが2人の姿に変身していた。

 マンダンガスに変身しているロンは物のように床へ投げ放たれた。

 ルシウスは同じ顔の2人組を交互に見やり、急いでハリーをドラコから引き離した。

「何が起こっている? 説明しろ、バーティ」

「どうもこうも、俺はドラコが学校を抜け出したと言うので連れ戻しに来ただけだ。そいつらは門のところで倒れていた」

 クラウチJr.の言い分が本当なら、救出計画は失敗して2人は乗り込もうとしたのだろう。だが、現われた『死喰い人』に気絶したフリをしてやり過ごそうとした可能が高い。

「それで……グリフィンドールの剣で何してんだ? 試し切りか?」

「違う! こいつらが売りつけにやってきたとか抜かした! 拾ったなんて大嘘だ! 私の金庫から盗んだんだろう!」

 喚き散らすベラトリックスの手が強まり、痛みが走った。

「馬鹿を言うな。グリンゴッツから盗めるわけないだろう。模造刀じゃないのか? 剣が2本もあったら、チャンバラゴッコが出来るな。今度、やるか。ドラコ?」

「何を暢気な事を言っている! 事態は貴様が思っている以上に深刻なのだ!」

 チャンバラごっこ。この単語から、クラウチJr.はロンが変身した姿ではないかと結論付ける。目配せしたハリーも同じ考えだ。

 ならば、一瞬の隙を作る。ハーマイオニーが『デラックス大爆発』を放って、4人ともに逃げられる隙だ。

 首筋から血が出るのも構わず、ベラトリックスの手を払う。ハリーの傍へ跳び、窓を背にしてから、ウォーリーは腹の底から叫ぶ。

「私は本人で本物だ! その人達は偶然、この国に生まれ、偶然、同じ性別に生まれた。赤の他人だ!」

「――え?」

 刹那の静寂、ルシウスの背中に守られたドラコの声が響いた。

「盗人めが! あの方を前にしても、同じ事が……」

 ベラトリックスは全く気にせず、服の袖を捲り上げる。露になった『闇の印』に触れる直前、ドラコはルシウスを押しのけ、伯母の手を掴んだ。

「この屋敷で勝手な事をするな!」

 唐突な行動にベラトリックスは目を丸くし、ドラコを凝視する。まるで、大人しい飼い犬に手を噛まれた表情に似ていた。

「そいつらが偽者であろうとなんだろうと、剣を売りに来たんだろう。剣はドラコ=マルフォイが買った! とっと失せろ!」

 険しい表情だが、ドラコはこの場を治めんと尊大な態度で仕切った。

 呆気に取られる両親と伯母より先に、クラウチJr.の姿をしたロンは空いた手で後頭部を掻いた。

「ドラコもこう言うし、それでいいよな。ベラトリックス。んじゃあ、俺はこいつらを庭に捨ててくる。グリップフック、手伝え」

 ロンはクラウチJr.の演技を忘れず、またマンダンガスの姿をしたクラウチJr.をグリップフックに任せる。蹴られた部分の痛みに悶えていたゴブリンはヨロヨロと起き上った。

 これなら穏便とは行かずとも、流血沙汰は避けられる。ウォーリーは心の中でガッツポーズを取った。

 しかし、表情を一変させたベラトリックスを見て、ゾッとした。思いっきりドラコを振り払い、ロンへ向かって杖を振りかざしたかと思えば、彼は足の力を無くして膝から倒れ込んだ。

 ドラコは暖炉に背をぶつけ、痛みに顔を歪めた。

 その隙にグリップフリックは我先に廊下へと飛び出し、バチンという音が弾ける。『姿くらまし』の音だ。彼ではなく、廊下でドビーが待ち構えていてくれたのだ。

「貴様……バーティじゃないねえ?」

 目をギラギラさせたベラトリックスは口が裂けるような笑い方をし、寒気がする高い声を上げる。ロンは倒れた体勢で恐ろしい形相の魔女に恐怖した。

 この魔女は指一つ分の不愉快さで人を殺せる。

 咄嗟にウォーリーが前に出ようとしたが、ルシウスが立ちはだかる。ナルシッサはドラコへ駆けより、その手の杖はハリーに向けていた。

「殺す前に教えてやろう! バーティはねえ、私を「ベラ」としか呼ばないんだよ!」

「やめて!」

 気絶したフリをしていたハーマイオニーは起き上がり、ロンを守るように手を広げる。勿論、ベラトリックスは止まる筈もない。2人とも、一度に殺すつもりだ。

 ハーマイオニーがロンの盾になる。

「やめろお!!」

 全身の力を持って叫び、ウォーリーの影はベラトリックスを捕らえる。突然、身動きひとつ出来なくなった体に彼女は動揺し、動けずとも困惑が伝わった。

 かつて、影で数人の動きを封じた事がある。その時とは違い、止められたのはベラトリックス1人だ。

「先に逃げろ!!」

 ハリーの声にハーマイオニーはロンを引っ張るが、ベラトリックスの魔法で拘束されて動けない。

「僕を置いて行って、行くんだ!」

 ロンの必死の懇願をハーマイオニーは拒む。その間にも、ウォーリーとハリーを敵と判断したルシウスとナルシッサとの攻防で助けに行けない。

 ドラコは打ち処が悪かったらしく、ぐったりと座り込んでいる。代わりにマンダンガスの姿にさせられていたクラウチJr.が起き上った。

「……俺がいる? その女……病院で会った……。同じ女が2人? 双子か?」

 マンダンガスの声で朦朧とした意識の中、クラウチJr.は状況を確認する。自分の喉に触れ、手の平や体を触った。

 魔法の光線が飛び交う中、ウォーリーは奇妙な音を聞く。金属が擦れる音だ。確かめたくても、杖なしでのルシウスの激しい攻撃に首も動かせない状況だ。

 

 ――キュルキュル

 

 刹那、偶然に魔法の音が消えた時、軋む音を耳にした。

 ルシウスが天井を見上げた時、水晶のシャンデリアが音を奏でて落ちてきた。

 ナルシッサはドラコを庇うように身を屈め、ルシウスは飛び退く。流石のクラウチJr.も立ち尽すベラトリックスの横腹を思い切り蹴ってから、避けた。

 破片が頬に刺さるのもを気にせず、ウォーリーはロンを引っ張るハーマイオニーに手を貸す。シャンデリアが落ちた衝撃で魔法は解け、ようやくロンは動けた。

「ドビー!!」

 凄まじい剣幕でナルシッサはシャンデリアを落とした犯人の名を叫ぶ。何故だろう。こちらまで叱られる気分になった。

 そのドビーはハリーにシャンデリアの破片が当たらぬように避けさせていた。

「おまえが、シャンデリアを落としたのか!?」

 今にも折檻しそうなナルシッサの勢いにドビーは震えがっても、負けじと背筋は伸ばした。

「貴女はこの方を傷つけてはならない」

「そうか! そいつはハリー=ポッターだな! ドビーが助けるなら、奴しかいない!」

 ルシウスの見事な推理にロンは歯噛みした。

「女のほうはアラスター=ムーディか!?」

 驚愕し、ベラトリックスは叫ぶ。彼女もウォーリーの影から解かれていた。

 ハーマイオニーは大きく振りかぶり、『デラックス大爆発』を投げる。瞬時に客間の中を爆裂音と共に花火が轟音を立てる。ルシウスはナルシッサとドラコを庇うように2人を抱きしめて、伏せた。

 クラウチJr.はまだボケているのか、花火を綺麗とか呟いていた。

 その隙にハリーはドビーを抱え、ウォーリーへと駆け寄る。役目を終えた偽物の剣は放置した。

 ドビーはハリーとハーマイオニーの手を掴み、ウォーリーとロンも咄嗟に2人の手を掴んで輪になった。

 

 ――一瞬の無防備。

 

 そこをベラトリックスは見逃さなかった。

「アバダ ケダブラ(息絶えよ)!」

 杖から出た緑の光線が届くのが先か、『姿くらまし』するのが先か――。

 ウォーリーは0.1秒の動きを目で捉えた。

 5人と迫りくる緑の光線の間に赤い鱗が割って入る。鱗は緑の光線をマトモに食らい、ベッロは息絶えた。

「ベッロ!!!」

 絶叫に吸い込まれるようにベッロの体は5人の輪へと落ちて来る。咄嗟にウォーリーは鱗を噛んだ。絶対に離さない意思を持ち、歯を立てた。

 そうしなければ、2度と会えない。ウォーリーは自分の考えに絶望していた。

 

 光速の先は青空。

 だが、ウォーリーは自分の居場所を見ない。腕の中で冷たくなったベッロを抱きしめる。太陽の下にいるのに、心は肌寒く。この体勢になって、1分か1時間か、体感時間も狂う。まるで世界に独りになった気分に浸っていた。

 亡骸の重さだけが自分の生存を教える。

 潮の香りに血が滲む、波の音に混ざって知らない声が耳を通り過ぎた。

[……受け取って……]

 確かに聞こえた声に我に返り、周囲を見渡す。変身の解けたハリーとハーマイオニ―、ロン。3人とも、目を真っ赤にして泣き腫らしていた。

「今、誰が言ったの?」

 ウォーリーの問いに泣き声が返ってきた。

 呆然とベッロの顔を見たが、濁った瞳は死骸そのもの。ガーネットのような美しさは見る影もなく、銀色に濡れている。自分の涙かと思ったが、違う。指先で掬うと液体ではなく、柔らかい糸のような感触だ。

「……『憂い』だ、それはベッロの『憂い』だ……」

 涙声でハリーは呻き、ハーマイオニーのビーズバッグを拙い動きで漁る。試験管を見つけ出し、ウォーリーの手にある緑の瞳から絶えず、ウォーリーの手を掴んで銀色の糸を入れた。

 ハリーの動きを他人事のように眺め、彼は『憂い』の入った試験管をウォーリーに握らせた。

「埋めてやろう。ベッロを……」

 ベッロの鱗に触り、ハリーは沈痛な声で告げた。

 ようやく、ウォーリーは周りを認識し始める。3人以外にも、ルーナ、ビル、フラー、そして、ドビーがいた。

「他の……オリバンダーさんとグリップフックさんは?」

「家の中にいるよ、2人とも無事だ」

 ビルが優しい声でウォーリーの肩を撫でた。

「ベッロを埋めたい……何処か……見晴らしのいい場所を……」

 言葉を思い出そうと声を絞り出す。そんなウォーリーをフラーは慈しむように抱きしめてくれた。

 手伝いを申し出たドビーに本物の剣と『憂い』を預ける。ハーマイオニーはフラーと一緒に清潔な布を選びに行った。

 ウォーリーとハリーは無心で地面に穴を掘る。魔法や道具を使わず、素手だ。これが一番、良いと2人は勝手に思った。

 爪に土が入り、固い小石で皮膚が裂けても一切、手は止まらなかった。

 並みの蛇より巨大なベッロを埋めるに十分な穴が掘れ、肩で息をしながら額の生え際から滴る汗を土だらけの手で拭った。

 いざ、埋めようとベッロの亡骸を目にし、知らずと目に涙が浮かぶ。

「これで包んであげて下さい」

 家から出て来たフラーは真新しい白い布を持ってくる。それにはホグワーツの校章が刺繍され、ビルの手を借りてベッロの顔が見えるように包む。ウォーリーとハリーは墓穴へそっと置いた。

「あたし、何か言うべきだと思う」

 ルーナはベッロだけを見て提案した。

「あたしから始めてもいい?」

 ウォーリーはしゃくり上げる様に頷く。こんな状況になり、ハグリッドのアラゴグを失う気持ちをようやく共感した。今更ながら、彼をもっと労わるべきであった。

 ルーナはベッロの頭に触れ、語りかけた。

「学校で何度も、あたしを助けてくれてありがとう。皆を助けてくれて本当にありがとう。あなたは皆をずっと助けてくれたとっても良いヒトなのに、死んでしまうなんて、とっても不公平だわ。あたし、大好きだよ。あなたが今、幸せだといいな」

 惜しむ手つきでベッロから離れた時、ドビーも彼女に倣って小さな手で頭へ触れた。

「ドビーは悲しいのです。悔しいのです。お話したかったのです。ハリー=ポッターの最高のお友達、どうか、安らかに眠るのです」

 出目金の目から涙をひとつ流し、ドビーは離れる。続いたロンも「ありがとう、おやすみ」と優しい声でベッロを撫でた。

 ハーマイオニーは言葉と共にベッロの瞼を下ろしてその上にキスを落とした。

「さようなら、ベッロ」

 ベッロに触れず、ハリーは絞る出すような声を出した。

 ウォーリーには何も言える資格がない。口を開こうとしても、躊躇いで筋肉が動かない。何も言わないまま、埋めてしまえばよかったのだ。

 

 ――嫌だ。

 

 ドリスもトトも、ベッロまでもいなくなる。

 

 ――嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 心が駄々をこねて絶叫し、食いしばった奥歯が音を立てる。土に汚れた拳を強く握りすぎて血が滴り落ちた。誰も何も言わず、ただ、彼女の送る言葉を待っていた。

 足の力が抜けた拍子にウォーリーは屈んで、ベッロの顔を眺める。こんな時に脳髄には何の回想も浮かばなかった。

「……ごめん……なさい……。ごめんなさい……」

 紡いだのは許しを乞わない謝罪、それ以外、言葉を忘れたように繰り返した。

 話す呼吸もなくし、ウォーリーはフラフラと立ち上がる。ビルが杖を掲げれば、掘った土がなだらかに穴を埋め、小さくも形が綺麗な赤みがかった塚が出来た。

 『貝殻の家』は以前見た時より、風景画の印象を強くした。

 フラーに連れられ、バスルームに押し込まれる。勝手に動くブラシ達に体を洗われながら、指先や手の平、頬や瞼の傷が沁みる。痛みが頭を悲しみに支配された脳髄の一部を冷静にして行く。

(ドラコは……ベッロを家族にも隠して匿っていた……。ウィンキーだけが協力者だった……)

 だから、ウィンキーを異常に心配した。

(ルシウス=マルフォイは……私達をハリーと組んでいるのはマッド‐アイだと思い込んでいた……)

 だが、地下牢の囚人が消えた責任はウィンキーにあると考えるだろう。彼女はこのまま、クリーチャーといさせなければならない。

 シャワーで泡を流し、水を止めた。

「順調だ……、旅は……順調だ」

 剣呑な眼光で何処となく見つめ、泥のような声で呟く。ウォーリーは意識せず、濡れた体を魔法で乾かした。

 借りた服に着替え、礼を言おうとフラーを探して居間へ行く。そこにはハーマイオニーとロン、ハリーの3人が待つ。

「ドビーは?」

「クリーチャーの所へ行って貰った。ウィンキーを絶対に戻らせないように」

 ハリーの判断に感謝した。

「ウォーリー、グリップフックと話す。彼に頼みたい事があるんだ。一緒に来て欲しい」

 グリンゴッツにあるレストレンジの金庫。剣を預けたなら、そこには『分霊箱』のカップもきっとあるはず、確かめるにはグリップフックの協力がいる。

「……そうだな」

「駄目よ」

 何故か、ハーマイオニーは頑として反対した。

「ハーマイオニー……」

「ハリー、時間がないのはわかるわ。けど、ゴブリン族との交渉は危険よ。どうしても、グリップフックの協力が必要なら、彼らと仕事で慣れているビルに任せたほうがいいわ」

 ハーマイオニーはウォーリーとハリーを交互に睨む。ベラトリックスが金庫を訪れるまでに自分達が先回りし、カップを探し出す。そうしなければ、より強力な魔法で金庫を護らせるか、中身を別へ移されてしまう。既に実行されて居てもおかしくない。時間はないのだ。

「彼は……僕が初めて銀行に行った時、対応してくれたんだ」

「だから? ドビーのように貴方を助けてくれるって言うの?」

 ハリーはジロリとロンへ視線をぶつける。

「僕もハーマイオニーに賛成。グリップフックに本当に頼みたいなら、僕らだけじゃ無理だ」

 肩を竦めるロンは階段の方角を見やる。階段の上にでも、ビルはいると察した。

「けど、これは僕らに託された任務だ」

「その通りだ。これ以上、誰も巻き込めない。だが、グリップフックは私達の力で助かった。その分の働きを要求してもいいはずだ」

 

 ――パアン。

 

 ウォーリーの頬をハーマイオニーの掌が打つ。一瞬、何が起こったか理解できない。ハリーとロンも吃驚仰天していた。

「貴女はお父様が屋敷行くって言ったのと同じ、向こう見ずになっているだけよ。ベッロが死んで辛いのは貴女だけ? ベッロが死んだのは貴女の責任? 違うでしょう? 皆、辛いし、皆の責任よ!」

 頬の痛みと批判の声、鈍っていた思考がぐにゃりと曲がり、ほとんど衝動的にウォーリーは何も言わずに外へと飛び出した。

 太陽が地平線に沈んでいく光景を気にせず、作りたての塚へと縋るように座り込んだ。

 石の表面に去る前にはなかった2つ文章が深く刻まれていた。

 

 ――最も親しき友 アグリッパ・ベッロ ここに眠る――

 

 その下にはハリーの両親の墓石にもあったという言葉。

「……『最後の敵なる死もまた亡ぼされん』」

 口にした言葉が耳に浸透し、知らずと指でその文章をなぞった。

 ベッロはアグリッパだった頃から、どれだけの死別を経験した事だろう。ボニフェースを失ってから、どれだけの悲しみに沈んだだろう。その妻たるドリスの死に何を感じたのだろう。自分を慰める声の中に蛇への慰めはなかった。

(ホグワーツに行こう……)

 ベッロの遺した『憂い』、『憂いの篩』が必要だ。それの所在はホグワーツしか、知らない。死の間際に伝えたかった想いや言葉をウォーリーは否、クローディアは知らなければならない。

 思えば、ベッロにとってクローディアは主人ではなく、ボニフェースに連なる庇護すべき存在でしかなかった。 

 ハリーにあれだけ懐いていたのは、『ハグリッドの無罪を証明する』という亡き主人の目的を果たしてくれたから、クリーチャーのように感謝の気持ちを態度で示していたのだ。

 ダンブルドア殺害の罪は全てが終わった後、必ず弁明しよう。それでトトとの入れ替わりが明るみになっても構わない。

 太陽は沈んだ。

 だが、行くべき道は見える。そこは独りで歩くのではない。かといって、自分達だけでは決してない。誰かが先に歩いてくれた道、誰かが後から歩いてくれる道だ。

 目を伏せて、瞼の裏に浮かぶのはかつて、自分の手で死に追いやった老女の姿。

(貴女は決して蘇らない、だから決して忘れない)

 抱えていた罪悪感との決別。故に忘れてはならない我が人生の教訓の象徴である。

「ベッロ、……確かに受け取ったよ」

 胸の苦しみは消えぬ。故に別れの言葉は言わない。

 かけるべき言葉だけを塚へ降り注ぐ。何処からともなく、ベッロのクスッと笑う声が聞こえた気がした。

 




閲覧ありがとうございました。

さようなら、ベッロ。今までありがとう。
ハッフルパフ、スリザリン、レイブンクローの生徒の使い魔として仕え、グリフィンドールの生徒の友だった。
ホグワーツの紋章はそんな彼の人生を象徴しています。

ハーマイオニーのビンタは助けた命に利益を求めた発言をしたからです。
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