こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。

まさかの3話に渡った祈沙視点。
タイトル通りに後日談です。
英語を「」、それ以外を〔〕と表記します。


砂が如く祈った後

 『隠れ穴』の庭では6回目の結婚式が慎ましく行われる。瑠璃ちゃんのヘア・メイクが来織を花嫁として映えさせた。勿論、ジョージも花婿として着飾り、男前が上がっていた。

「息子の決めた式ですもの、けど……ロンの時より招待客も少なくて」

 私としては十分に素晴らしい式だが、モリーは物足りさを訴える。

 花嫁側から、母親の私、祖父としてダンブ……トト、友人代表・藍子ちゃん、瑠璃ちゃん、田沢くん、佐川くん、木本くん、木下くん、恩師代表・玉城先生、何故かイリアン=ワイセンベルク魔法省大臣とスタニスラフ=ペレツ。国境を越える式である為、宿泊や飛行機の手配、全員のスケジュールを考えて呼べた人数だ。

 共通の友人が多い花婿側に自然と人数が偏ってしまう為、最低限の人数にして貰った。

 ウィーズリー一家はそれぞれ仕事もあり、ご両親とフレッド、ロン、ジニー、その伴侶たるアンジェリーナ、ハーマイオニー、ハリー。

 ホグワーツ同窓代表、パチル姉妹、リサ、ルーナ、ディーン=トーマス、クリービー兄弟、デレク=ガーション、リー=ジョーダン、ドラコ=マルフォイ。恩師代表・ルビウス=ハグリッド。

「マグルはどんな式をするんだね?」

「昔は神前式が主でした。今ではほとんどウェディングドレスとタクシードです」

 アーサーは大勢のマグルに喜び、玉城先生は片言の英語で必死に答える。

「おじさん……デカイ!」

「はっはあー! 俺は半巨人だからだあ」

 酔っ払った藍子ちゃんがハグリッドと絡み、瑠璃ちゃんは佐川くんと一緒に撮影に夢中だ。

〔佐川ーちゃんと写真撮ってね、出来ればデータで頂戴。今後の参考にするから〕

〔はいはい、メモカをコピーして渡しますって……なあ、あの人……戦場カメラマンのコリン=クリービーに似ているんだけど……〕

 そのコリンもカメラを構え、必死に撮影している。

〔なんであいつら、写真ばっかり撮ってんだよ。飯食えよ、イギリス料理が不味いとか嘘だろ。メッチャ美味しい〕

〔俺もそんな噂があるなんて知らなかった。マグルの料理ってそんなに不味いのかな?〕

 田沢くんはずっと料理ばかり食べ、日本語が上達したジョージの質問に笑いながら首を傾げる。

「貴方、お医者さんですって? うちの両親は歯科医なのよ」

「俺は整形外科医です。ところで……皆さんはどんなお仕事をしているのか……想像つかないんですけど」

 木下くんは話が噛みあうハーマイオニーに安心し、色々と質問している。

 ちなみに玉城先生達に魔法界の話は一切していない。ただの文化の違いだと思っているのだ。

 ただ、糸も風船もないのに浮かぶ料理を乗せた皿、何処からともなく現れる酒瓶、数々のフクロウが入れ違いで贈り物を送ってくる等、誤魔化しきれない部分も多々ある。

「君、動画サイトに出ていただろう。確か……ウッドブック!」

〔!! あんた、俺の動画見てくれてんの!? サンキュー!!〕

 木本くんはドラコに話しかけられ、感激で喚いていた。魔法族も動画サイトを見るのだと知り、驚いた。

〔おまえはいつ、日本魔法省に入省するんだ? 私が現役の間に頼むよ。年々衰えておる。後20年が限界なんだ〕

〔今、誰より食事を平らげとるんじゃぞ。後50年は平気じゃよ〕

 ワイセンベルクとトトはおそらくブルガリア語で話しているが、何を言っているかわからない。

「ハリー、ジニー。子供達はどうした? ジェームズに会いたかったのに」

「シリウスに預けて来た。ディーンは最近、どう? サリーと良い感じだってね、ジニー?」

「先週に別れたって聞いたわ。スタニスラフ! ビクトールの活躍は聞いているわ、彼と会っているかしら?」

「ええ、彼はいつも絶好調です。本当は今日も来たがっていましたが……残念です。お祝いを預かってますので、あの中にあります」

 ジニーに答えるスタニスラフは文字通り、山のように積まれた贈り物を指差した。

「フレッド、あのカメラ持ってる子……どう思う? さっき話しかけたら、英語は喋れないみたいだった」

「行けよ、相棒。言葉なんて関係ない、情熱は伝わるとも」

「フレッド! リーをけしかけるな!」

 アンジェリーナに怒られても、フレッドは何処吹く風だ。

「恋をしてるね、デレク。その子はとてもいい子。逃しちゃ駄目だよ」

「……すごいね、ルーナ。僕ってわかりやすいかなあ」

 お喋りに興じる皆を見渡し、私の隣で延々と喋り続けるモリーへ顔を向けた。

「いろんな人が来たがったわ……仕分けが大変だわ。お返事も書かなきゃ……」

「娘がやります。新婚夫婦の最初の仕事、祝ってくれた人へのお返し」

 その来織はリサとパチル姉妹と会話で盛り上がり、ジョージは何故かアンジェリーナを苦笑いで宥めていた。

 

 いつの間にか私は眠りこけ、目を覚ませば居間のソファーにいた。

「では記憶の修正はお任せします」

「うむ、わしはこの子らをホテルへ送ってくるのでな。娘を頼むよ」

 宙に浮く7人は熟睡中だ。

「記憶を消す?」

「ああ、キサ。お目覚めで! ご心配なく魔法が関わる部分を修正するだけですよ」

 アーサーはほろ酔い加減で私に説明した。

「わしが戻るまでは片付けを手伝っておやり」

 トトはウィンクし、7人と一緒に姿を消した。

「今日はありがとう、大臣。スタニスラフも」

「いえいえぇ、美しい花嫁が見れて嬉しかったぁ」

 ドレス姿の来織は2人以外にも次々と別れの抱擁を交わす。式が終わったのだと理解した。

 会場だった庭ではジョージとフレッドが慣れたように杖を振るい、散らかったゴミに意識があるようにゴミ袋へ吸い込まれ、椅子は整然と片づけられていく。汚れた皿は何故かハリーが手作業で洗っていた。

「おはよう、キサ。シャワーでも浴びて来なさいな。貴女の寝相、凄まじかったわ。その髪型も凄いけど」

 モリーから紅茶を貰い、言われた通りにシャワーを借りた。

 来織が用意してくれた普段着に着替え、居間へ降りてみればシリウスがいて驚いた。

「おはよう、キサ。昨日は良い式だったようだ」

 来織とジョージが贈り物の開封をする様子を見ながら、シリウスは微笑んだ。

「貴方はどうして?」

「片付けを手伝いに来たんだ。と言っても、もう終わったに等しいんだが……」

「シリウス、ハグリッドに朝食を届けて頂戴!」

 シリウスが言い終える前にモリーは特大サンドイッチとミルクを手渡した。

「キサも一緒にいってあげて」

 モリーの指示に私達はハグリッドのテントを目指す。彼はテントが吹き飛びそうな程の寝息を立てて寝ていた。

 サンドイッチとミルクをテント内へ置き、すぐに帰ろうとしたがシリウスは私を呼びとめた。

「実は……貴女に話があって……、モリーにわざと2人っきりにして貰ったんだ」

 思い当たるのはジョージの国籍に関する話、モリーは息子の婿養子に今だ文句を述べるのだ。

 シリウスは耳まで真っ赤に染め、深呼吸を何度も繰り返す。そして、片膝を付いて私の手を掴んだ。

「どうか、私と結婚して欲しい」

 脳髄が揺さ振られる衝撃を受けた。

 目の前の光景よりも、脳裏に浮かぶコンラッドの姿が鮮明だ。

〔来織! 来織! 『めぞん一刻』持って来てさ!〕

 気付いたら、来織に『めぞん一刻』を持って来させていた。飛行機内で時間潰し用に文庫版全巻持ち運んでいたのだ。

 私は持ち切れない全巻をシリウスへ渡した。

「これを全部、自力で翻訳して読み切って。返事はそれから」

「……わかった」

 予想外の返事を受け、シリウスは全巻をマジマジと見つめた。彼よりも、私が困惑している。ハッキリと断るのではなく、相手に期待を持たせる返答だ。

 来織が何かを言いたげに口を開きかけたが、私は無言で首を振り、発言を制した。

 

 正直、シリウスは途中で諦めるだろうと考えていた。

「なんでひらがなとカタカナがあるんだ!」

「アルファベッドも大文字と小文字、筆記体があるでしょ」

 彼が辞書を片手に金切り声を上げ、頭を悩ませる姿をハリーがご丁寧に教えてくれる。日本語が理解出来ても、漫画そのものに興味がなければ、同じ日本人でも最後まで読まない。

 

 シリウスの求婚は周囲に知れ渡り、予想外の珍客が勤務先に現れた。

「素敵なお店ですね、奥様」

 不精髭を生やしたクラウチJr.。恐怖と驚きに肝が冷えた。

 何も知らず、外国人のお客さんだと喜ぶ店長さんを守る為に平静を装って接客した。

「お久しぶり、まだ捕まっていなかったんですね」

「シリウス=ブラックが求婚したという噂を聞いた。断らなかったと――」

 髪に鋏を入れているが、クラウチJr.は平然と私に質問した。

「返事をしていないだけです」

「貴女は随分と意地悪だな……、けど……そこが良い」

 整った顔で薄らと浮かべる笑みに慄きながら、クラウチJr.への散髪と髭剃りを終えた。

「流石、手際が良い」

 何処から手に入れたか、シワシワの一万円札を渡してきた。

「このまま貴女を浚っていきたいが時間切れだ。また会いましょう」

 頬にキスされ、私はもう反応する気力もなかった。

 店長さんは物凄く喜んでいたが、その後ろの店・往来では来織と見慣れぬ……おそらく日本の闇払いとの文字通りに火花を散らす交戦が始まっていた。

 勿論、取り逃がした。

 

 孫の成長と共に、返事の件も薄れて行った。

 それが5人で5歳の七五三について話している最中、轟音が庭を襲う。音に見合う振動に私は怯えたが、トトは忍ぶように笑った。

 障子を開ければ、大破したバイクの破片とシリウスが庭に転がっていた。

「よ……読み終わった……」

 『めぞん一刻』の最終巻を見せ、シリウスは地面に這いずりながら軒下へと手を伸ばす。ボロボロになった巻の擦り切れ具合を見れば、彼が内容を理解せんと何度も読み直したのだとわかった。

「シリウス、久しぶりー! どうしたの!」

 去年のクリスマス以来の再会で、史英は完全に喜び、はしゃぐ。それを来織は無情にも引っ張り、トトとヘレナも着いて行った。

 2人きりにされ、私は言葉を求めてキーホルダーを知らずに弄り、無意識に手の中で3回、転がした。

 

 ――視界に映ったのはいないはずの人々。

 

 幽霊のように透明でもなく、かといって生きている人の気配とは違うコンラッドと『父』、祖母と父。思い返すことさえ出来ない筈の肉親は、確かにその2人だとすぐにわかった。

 呆然と言葉を失う私へ4人は微笑み、背を押すようにゆっくりと頷いていた。

「……響子が裕作に出した返事が私の答えです」

 緊張で震えながら、舌に言葉を乗せる。シリウスは気付いた表情で私を見上げた。

「一日でもいい……長生きして」

 それはコンラッドと『父』に対しても言いたかった。

 自分の策略に満足して勝手に死んだ。無残に置いて行かれ、私は今も寂しい。ずっと蓋をしていた感情に応えるように彼らは手を振ったかと思えば、背を向けて消えて行った。

 ただの幻覚だろう。しかし、ようやく私は『家族』を喪っせた。

「私は貴女よりも……長生きする……」

 疲労困憊のシリウスは手袋を外し、両手で私の片手を包む。こんな時に感激の涙で応じれば良い物を私はその逞しい手を握り返すことしかできなかった。

 

☈☈☈☈☈☈☈☈

 オーストリア・ウィーン行きの列車の中。

 車掌にチケットを見せた後、私はゆったりと【ザ・クィブラー】を開く。シリウス=ブラックが結婚し、日本国籍になったという記事を読む。新居の庭、藤の木の下に写った新妻の部分を指でなぞろうとすれば、逃げられた揚句にその夫は私の指を追い払う手つきを見せた。

 不意に記憶が刺激され、あの娘が着ていたドレスの模様が藤の花だったと思い返した。

(妨害も無駄に終わったか……、今は……手に入れた気でいるといい。アズカバンにいただけ……、幸せを味わうのを許してあげようとも……。だが、すぐに私の番だ)

 知らずに口の端を上げ、私は視線を感じて正面の席を意識した。くすんだ赤髪の老人に雑誌を覗きこまれていた。

「……失礼しました。写真の人が動いているように見えましたので……」

 歳の頃は70を過ぎ、流暢なイギリス英語を話してくるが強いドイツ訛りだ。面倒事を避けようと私は彼から見えない位置にある片手の指を鳴らそうとした。

「……【ザ・クィブラー】、懐かしい。昔、父が投稿したんですよ。とは言っても、父も私もマグルですけど」

 疲労感丸出しだが、魔法界を知っていて記憶を消されていないマグルならば、魔法使いを身内に持つ者だ。しかし、指名手配されている私の顔を知らない。

 指を解いて、雑誌を持ち直す。警戒を忘れず、愛想良く尋ねた。

「最近の記事はお読みにならないので?」

「ええ、お恥ずかしながら、自分達の生活に精一杯で魔法界どころではありませんでした。魔法族の方とお話するのも、あの子が亡くなった時以来……」

 あの子という言い方から、この男が関係する魔法使いはずっと若い世代だろう。赤髪、ドイツ……記憶を探れば、1人だけ心当たりがあった。

「ジュリア=ブッシュマンのご親族ではありませんか?」

 お悔やみを込めて問えば、男の顔色がみるみる青褪めて行く。当たりだ。

「……彼女は決して折れる事のない、芯の強い女性でした」

「……そう思われますか? 本当に?」

 不安がる男に私は微笑んで答える。ジュリアは自分に正直な性分だったと言えるだろう。その為、対立も激しかったに違いない。今は亡きベラとのやりとりを久しぶりに思い返し、思わず、くすりと笑った。

「お名前をお伺いしても? 私は」

「いえ……お互い、名乗らずに置きましょう。そのほうが良い」

 隠しているが完全に怯えている。

 鋭い。

 私が誰かはわからずとも、『死喰い人』の残党だと察したのだ。だが、魔法省に通報する気もない様子だ。

 とても都合が良い相手。故に私は人指しを杖代わりに動かし、一切の質問に嘘偽りなく答えるように魔法をかけた。

「お名前は?」

「ゲルルフ=ブッシュマン」

 再度の問いに、何の抵抗もなく男は怯えも消して答える。

「貴方は何をしにウィーンへ?」

「ウィーンにはジュリアの弟が住んでいます。私の父の死を伝えに行きます。彼の分の遺産を渡すのも目的です」

 素直に答えるブッシュマン氏から、聞きたいだけ聞き出す。聞けば聞く程、脳髄に高揚感で満たされ、心が躍ってきた。

 隠し持っていた杖を振るい、同じ車両に乗り合わせた人々の記憶を弄る。私とブッシュマン氏が話を弾ませていたと知られている可能性があるからだ。

 杖を懐に仕舞い込み、【ザ・クィブラー】も消失させる。何事もなかったように席へ座り、ドイツ紙を広げる。先程までのやり取りを失ったブッシュマン氏は私への関心なく、窓の外の景色へと視線を向けて到着まで黙りこんでいた。

 私は西駅で降り、まだ席に座るブッシュマン氏を盗み見ながら、あの人の事を思い浮かべる。そして、あの娘の存在もだ。

 殺された娘の遺体へ縋り泣く姿。そんな様子を勝手に想像し、口笛を吹いながら改札口を目指した。

 

 ――私は今、小僧のように舞い上がっている。




閲覧ありがとうございました。

シリウスがめぞん一刻を完全読破するまで7年かかったのは、クラウチJr.による地味な妨害があった為です。

『蘇りの石』とは逝ってしまった人へ直接、別れを告げる為の道具だと思います。
熟年婚した2人は来織達とは別に家を構えました。その庭には美しい藤の木があるそうです。

●リー=ジョーダン
 その後の人生不明。きっとやりたいようにやっている。
●デレク=ガーション
 原作3巻において、デレクと呼ばれた生徒。
 この話の翌年に結婚する。
●イリアン=ワイセンベルク
 原作4巻にて、オブランスク(オバロンスク)と紹介された大臣。
 この話の5年後に引退する。
●スタニスラフ=ペレツ
 ダームストラング生が欲しいという理由で出来たオリキャラ。
 イリアンの後任として魔法省大臣に就任する。
●藍子
 来織の幼馴染にして、良きママ友。
●瑠璃
 美容師として生涯現役、独身を貫いた。
●佐川
 佐川はこの式でコリンと知り合い、様々な経験を経て戦場カメラマンへ転身する。
●木本
 ジョージが店の宣伝も兼ね、魔法界に動画サイトを発信した際に動画編集者として雇う。動画投稿者の生活に悩んでいた木本は二重の意味でジョージを恩人と崇めている。
●木下
 この話より前に結婚。後に田沢病院を継ぐ。魔法界については何も知らされず、何も知らないままである。
●玉城先生
 この話より前に引退。
●田沢
 バスケット選手として活躍し、引退後はチームの監督を務める。息子の一を切欠に一族が魔法使いだと知り、腰が抜けるほどに驚いた。
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