こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
締めです。

追記:2月23日・誤字報告にて修正入りました。


16.寮杯

 4階の廊下で待っていたのは、ハーマイオニーとロンだけではなかった。2人の後ろには、マクゴナガルとスネイプ、フリットウィックが待ち構えていた。2人は逃げられないように肩をしっかり掴まれていた。

 逃げ足の速いベッロは、とっくにいなくなっていた。

 ロンは無事だった。

 それを認めた瞬間、クローディアは背負っていたハリー諸共、床に倒れ込んだ。

 悲鳴を上げたハーマイオニーとロンが駆け寄り、クローディアとハリーを呼び続けた。

 フリットウィックが2人を引き離し、マクゴナガルがハリーを抱えた。クローディアは、スネイプに抱えられた。

「ポピーを起こしておくれ。生徒達を……クィリナスを診てもらわねばならん」

 ダンブルドアの背後で浮いているクィレルを見て、マクゴナガルが小さく悲鳴を上げる。

「生徒達とは別の場所で治療させる。まだ彼は、安全ではない」

 クローディアは朦朧とした意識の中で、ダンブルドアがクィレルの処置について話していた。

 

 目覚めれば、当然、医務室にいた。

 ハーマイオニーは軽い擦り傷しかなく、ロンも塗り薬のお陰ですぐに退院した。

「一体、何をしたらこういうことになるのですか!」

 何故だが、クローディアはマダム・ポンフリーから散々絞られた。

 意識を取り戻さないハリーは、絶対安静が必要とされた。

 クローディアが医務室から開放された頃には、城中でハリーの活躍が『秘密』に広まっていた。

 ハリーの枕元には、お見舞いの品が山のように積まれた。フレッドとジョージが便器を贈ろうとしたが、不衛生を理由にマダム・ポンフリーが撤去した。

 生徒の誰もがこぞってクローディアから真相を聞きだそうとした。寮や自室、お手洗い、何処に行っても付きまとわれた。

「ねえ、教えてよ」

「俺らの仲だろ、『賢者の石』は何処にあったの?」

 一番粘りを見せたのは、勿論フレッドとジョージであった。2人は寮とお手洗い以外の如何なる場所も着いて回った。しかも、ジュリアが2人にクローディアの居場所を教えるので、彼女からも逃げなければならなかった。

 ペネロピーから質問ではなく、叱責のビンタを貰った。『秘密』を耳にした時、彼女は心配のあまり多泣きしたとパドマが教えてくれた。ペネロピーの心配を頬に受け、クローディアは素直に謝った。

 

 しかし、翌日になればグリフィンドール対レイブンクローとの寮対抗試合。今学期最後の催しは、クローディアを質問の嵐から助けた。

 試合の最中、競技場の外にクローディアはいた。ハーマイオニーとロン、そしてベッロが傍にいる。3人と一匹はチョコで出来た紙を使い、折鶴を作っていた。

 その間、クローディアは最後の部屋での出来事について話した。

「ターバンには、そんな秘密があったんだ。うわ~、僕らの授業が『例のあの人』に聞かれてたなんて、やだなあ」

「『暗黒の森』にいたのも、クィレル先生なのね。校長先生は本当に気付いてなかったのかしら?」

 最高の冒険談に感動しつつも、微かな恐怖も2人を興奮させた。

 高揚した口調でロンが、興味本位に呟く。

「でも、ハリーはどうやって石を手に入れたんだろう? それにどうなるのかな?」

「さあ? 私は結局、鏡を覗かなかったらさ」

「元気になったら、教えてもらいましょう。はい、出来た」

 ハーマイオニーの手で、折り鶴が一羽完成した。これで4羽仕上がった。本当は千羽鶴を用意したいが、マダム・ポンフリーから「見舞いの品は1人ひとつまで」と御触れが出てしまっている。

 自分達3人と1匹からのハリーへの想いだ。

「そういえばさ、ウィーズリー。あんたがチェス得意だったなんて知らなかったさ。ハーマイオニーなら、ともかくさ」

「一言多いな。僕はチェスでハーマイオニーに負けたことないぞ」

 頬を含ませるロンがハーマイオニーに同意を求めたが、悔しそうに彼女はそっぽ向いた。

 競技場から歓声が沸き起こった。3人がこっそり覗いてみると、チョウがスニッチを手にし、魅力ある笑顔を振りまいていた。

 レイブンクローが勝利したのだ。

 その後、敗北したフレッド・ジョージは八つ当たりの如く執拗に、クローディアを追い回した。

 

 

 あの事件から3日過ぎた。

 今日もハリーの様子を見る為に、クローディアはハーマイオニー、ロンと医務室へ向かう。絶対安静の為に面会謝絶だが、扉の外で様子が窺える。

 すると、医務室からダンブルドアが出てくるのを目撃した。

「ハリーの意識が戻ったんだわ」

 喜び勇んだハーマイオニーが駆け込む。寸前でマダム・ポンフリーが仁王立ちして遮断した。

「面会謝絶です!」

 ロンがこっそり入ろうとしたが、マダム・ポンフリーは見逃さない。

「校長先生は、ハリーに面会しました」

「校長は特別です!」

「顔を見るだけでも、良いのでお願いします」

 クローディアとハーマイオニーが懇願したが、駄目だ。

「5分でいいんです。お願いします。マダム・ポンフリー」

 ハリーがマダム・ポンフリーを説得し、5分だけ面会を許された。

 漸く3人は医務室に入ることが出来た。寝台で横になるハリーは、寝巻き姿で弱弱しく3人を迎えてくれた。その様子から、まだ起き上がれるまで体力が戻っていない。

「皆、元気?」

「見ての通りさ」「ええ、元気よ」「まあまあかな?」

 それぞれの反応見て、安心したハリーは微笑んだ。

「大体のことはクローディアが教えてくれたけど、君はどうやって石を手に入れたんだい?」

 目を輝かせたロンにハリーは頷く。

「『みぞの鏡』に隠されたよ。僕が鏡を見た時、『鏡に映った僕』が石を渡してくれた。あの鏡には、石を『見つけたい人』に手に入るようにダンブルドアが細工してあった。但し、見つけるだけで、『使いたい人』には決して触れられなかったんだ」

「だから、クィレル先生は取り出せずに困ってたさ。私が鏡を見ても、取れなかったろうさ。石を見つけたいなんて思ってなかったからさ」

 『みぞの鏡』を見たいなど、露も思わなかった。

「触れられないといえばさ。ポッターがクィレル先生に触ったときに、火傷したように見えたのは、何だったさ?」

「ママの力だよ。ママが僕を守ろうとした力が、僕の肌に残っているんだ。クィレルのようにヴォルデモートと魂を分け合う奴には、痛みでしかないって……教えてくれた」

 殊更、嬉しそうにハリーは自分の手に触れる。

「それで、石はどうなるの?」

「壊してしまったよ。誰にも悪用されないように、ダンブルドアがニコラス=フラメルと相談してね。フラメル氏は身辺をきちんと整理したら、逝くだろうって」

『ニコラス=フラメル』がこの世を去る。ロンは深く衝撃を受けていた。

「偶然でも、ハリーが『みぞの鏡』を知っていて良かったわね」

 ゆっくりとハリーは頭を振るう。

「『透明マント』を僕に送ってくれたのは、ダンブルドアだった。パパから預かっていたって、僕が興味を持つだろうから渡してくれたんだ。ダンブルドアは最初から全部知っていたんだと思う。クィレルがヴォルデモートの為に石を狙っていたこと……そして……僕達がやろうとしていたことすらも。僕らをとめず、むしろ、僕らの役に立つように、必要なことだけを教えてくれた。鏡の存在を知ったのも、偶然じゃない」

「……校長先生は『賢者の石』を使って、ヴォムヴォムを学校に誘い出したさ? ポッターと引き合わせる為にさ? ……もしかして、私が校長先生に報せようとする度にピーブズが邪魔してたのも、そのせいさ?」

「可能性はあると思うわ。思うけど……、そんなこと……」

 段々とハーマイオニーが怒りで震える。

「ひどいじゃない……。……2人とも殺されていたかもしれないのに……」

「ひどくないよ。ダンブルドアはね、僕がヴォルデモートと対決する権利があると思ったんだ。そして、僕にそのつもりがあるのか試した……かもしれない……」

「……権利ってさ、あんた。ヴォムヴォムに会いたかったさ?」

 クローディアの皮肉に、ハリーは深刻な表情を見せる。

「多分、会いたかったんだ。いや、僕は会わなきゃいけなかったんだ。ダンブルドアはそれをわかってくれていた」

「本当、ダンブルドアは変わってるよなあ」

 ダンブルドアに尊敬と敬意を込めて、ロンは笑う。

 己の命を賭けてまで、両親の仇と対決する感情はクローディアに理解しにくい。ハーマイオニーも同意見だと感じた。

 ヴォルデモートをその目で見、声を聞き、存在を記憶した。噂でしか知らなかった相手を知り、ハリーはより強い意思を持てるだろう。

 ただ、同じことは起きて欲しくないとクローディアは願わずにおれない。

「さて、ポッター。元気になったらさ、一緒にスネイプ先生に謝りに行くさ」

「「「なんで?」」」

 3人のツッコミにクローディアは首を傾げる。

「誤解したんだから、謝るのは当然さ。違うさ?」

「それはやめたほうがいい」

 ハリーが初めて不機嫌な顔つきになった。

「ダンブルドアが話してくれた。スネイプ、先生は、本当に僕のパパと嫌い合ってた。僕とマルフォイみたいにだ。だから、僕が憎いんだ」

「お父さん達に何があろうとさ。私達は守られてたさ。それに対してお礼は言うさ」

 これだけは、ハリーは頑として譲らなかった。

「もう15分経ちましたよ。さあ、出なさい」

 約束された時間は過ぎていた。マダム・ポンフリーに追い出されたのは、仕方ない。

「私はスネイプ先生に会ってくるさ。2人も一緒に……」

 ハーマイオニーとロンは柱の陰に隠れ、断固拒否を訴えた。

 無理強いせず、クローディアは1人で地下室に行くことにした。正直、スネイプに会うのは怖い。勝手に嫌疑をかけた罪悪感はあるが、何よりコンラッドを知った時の態度が問題だ。

 手早く謝って逃げよう。

 そんな気持ちでクローディアは階段を下りた。

 

 空気の冷たい地下室。

 そこにいたのは、場にそぐわないダンブルドアであった。意外な人物だが、クローディアを安心させるには十分な御仁だ。

「来ると思ったよ」

 優しく微笑むダンブルドアに、クローディアは良い意味で緊張し畏まる。

「……スネイプ先生はどちらに?」

「ここには、おらんよ。少し用事をしておられる」

 折角、覚悟を決めたが無駄足だ。落胆と安堵が複雑に絡み合う。

 だが、それならダンブルドアは何故ここにいるのか推測する。

「……私にお話があるのですか?」

 何気なく尋ねるとダンブルドアは、肯定する。

 『解呪薬』、突発的な影への変身、どれを聞かれるのか?若干の冷や汗に襲われながら、クローディアは息を吐く。

「君は、何故、クィレル先生を助けようとしたのか、聞かせて貰えるか?」

 優しい声は、質問でなく確認の意味を込めて問うてきた。

 クローディアにとっては、意表をつかれた質問だ。何故なら、明確な理由などない。『賢者の石』に関与していたのも、石そのものを守りたいなどという殊勝な気持ちはなかった。あくまでハーマイオニーと一緒にいたいという感情が働いたからだ。

 だが、仕掛け扉に挑んだことにハーマイオニーは関係ない。まして、クィレルを助ける理由にすらならない。

 一瞬の思考で、クローディアは胸中で「ああ、そうか」と呟く。

「私、こういうセリフを言う日が来るとは思っていませんでした。人を助けるのに、理由はありません」

 ダンブルドアは微笑みを消さない。

「クィレル先生は、どうしていますか?」

「休んでおられるよ。ヴォルデモートが引きはがされたこともあるが、どういうわけか一角獣の血による呪いさえもクィレル先生から消えておった。全く、不思議なこともあるもんじゃ」

 何故だろうか、蒼い瞳が悪戯小僧のように笑っている気がする。

 苦笑してクローディアはポケットから折り鶴ひとつを取りだし、ダンブルドアに差し出す。

「これ、クィレル先生に渡して下さい。早く、元気になれますようにっていうマグルのまじないです」

「よかろう、渡しておこう。君はクィレル先生をどうすべきだと思うね?」

 質問の意図がわからず、クローディアは首を傾げる。

「どうとは……また授業をしてもらうしかないと思いますが」

 それ以外思いつかないが、ダンブルドアはキョトンと目を丸くさせた。その回答が信じられない様子だ。

「そこまで元気になれないのですか?」

 優しく眼を細めたダンブルドアは、クローディアの頭にそっと手を置く。

「何年も先になるやもしれんが、可能じゃろう」

「では、待っています」

 ダンブルドアは満足そうに微笑んだ。

「他に君から聞きたいことはあるか?」

 脳裏に浮かんだのは、コンラッドとスネイプだ。2人の関係をダンブルドアなら何か知っているかもしれない。だが、知るのも恐い。

 急にダンブルドアが喉を鳴らして微笑んだ。

「君は、コンラッドのことで悩んでいたのではないのかね?」

(心読まれたさ!)

 胸中を当てられて驚くクローディアに、ダンブルドアは続ける。

「おそらく君は、こう思っておる。スネイプ先生が学徒の折、君の父上を嫌い、そして憎んでいる」

 そうでなければ、クローディアは憎まれたりしない。肯定を恐れ、次第にクローディアの動悸を激しくなっていく。

「それは違うぞ。むしろ、逆であった。君とハーマイオニー=グレンジャーのように仲睦まじかった。レモン・キャンディーに誓おう」

 反対の回答は、クローディアの動悸を穏やかな心音に変えた。暗くて眩暈が起こりそうな暗闇に光が見えた気がする。

「それだけ、わかれば十分です」

 クローディアでさえ自分の落ち着き払った声に驚く。

 ダンブルドアもそれ以上何も言わず、柔らかな動きでクローディアの頭を撫でただけだった。

 

 階段を登り去っていくクローディアを見送り、ダンブルドアは振り返る。扉が開き、黒衣の教員スネイプが幽鬼の如く姿を見せた。

「人が悪いですな。校長、クィリナスはアズカバンに送られるのですぞ。そんな人間が再び教鞭をとれると本気でお考えなのですか?」

 苦々しく言い放つスネイプに、ダンブルドアは小さく頭を振るう。

「それは、クィリナスが決めることじゃ」

 ダンブルドアはスネイプを伴い、地下牢の突き当たりにある壁を叩いた。壁はなかったように消え去り、奥に続く廊下が現れた。奥には鉄格子でできた本物の牢屋がひとつだけ存在した。

 その牢屋には、簡素だが清潔な寝台が置かれ、クィレルが蹲っている。まだ衰弱から回復できず、弱弱しい呼吸を繰り返す。また、彼はヴォルデモートが離れたことで精神的に病んでいた。

 昨晩、目を覚ましたクィレルはうわ言で「ご主人様、ご主人様」と呟き、ダンブルドアの質問に一切答えなかった。

 人の気配を感じたクィレルは、視線だけを鉄格子の向こうに送る。

 ダンブルドアは鉄格子をすり抜けて、牢屋に入り込んだ。

「クィリナス……、大分顔色が良くなったの」

 微笑むダンブルドアに対して、クィレルは無表情に視線を外した。構わず、ダンブルドアはクローディアから預かった折紙をクィレルの枕元に置き、次いで彼女の言葉を伝える。それにもクィレルは、反応を示さない。

「何かして欲しいことはないか?」

 クィレルは身動きひとつせず、瞼を閉じた。

「校長、参りましょう。ここにいても時間の無駄です」

 スネイプが苛立ち、ダンブルドアを外に出るよう催促する。残念がるダンブルドアは、クィレルに背を向けた。

「……校長……、……ひとつだけ……お願いがあります……」

 消えてしまいそうな小さな声が静かに響いた。

 

 大広間に入ると、スリザリンの象徴である蛇を描いた巨大な横断幕が壁一面に飾られていた。緑と銀の配色が視界に入るのを不愉快に感じたのは、クローディアにとって今夜が初めてだ。

 無論、スリザリン以外の寮生全員が同じ気持ちであった。

(そういえば、7年連続だっけさ。そう考えるとすごいさ)

 但し、称賛はしない。

 周囲は先日のクィディッチの試合に話題に入る。 

「ハリー=ポッターがいなかったから、勝つのは当然だろう」

 マイケルの余計な一言で、場の空気が悪くなる。たまたま隣に座っていたアンソニーが彼の頭を叩いていた。それに何人かが、笑いを噴出した。

 二重扉が開き、ハリーが姿を現した。全員がハリーに気づき、声を止めた。しかし、すぐに雑談に戻った。気に留めずハリーは、グリフィンドール席でハーマイオニーとロンの間に腰をつけた。

 頃合を計ったように、ダンブルドアが教員席に現れた。

 皆、自然に口を閉じた。

「また1年が過ぎた! 一同がご馳走にかぶりつく前に、寮対抗杯の表彰を行うことになっておる。点数は次の通りじゃ」

 ダンブルドアが朗らかに挨拶を述べ、寮の得点を発表した。

 グリフィンドール、312点。ハッフルパフ、364点。レイブンクロー、432点。スリザリン、472点。

 スリザリン生から歓声と拍手の嵐が湧き起こり、クローディアの癪に障る。

(来年こそ、負けないさ)

 クローディアが密かな闘志を燃やしていると、ダンブルドアがわざとらしく咳き込んだ。

「よしよし、スリザリン。よくやった。しかし、ここでいくつのかの駆け込み点を勘定にいれなければならない」

 その発言にスリザリン生から、笑みが消え、疑念が浮かぶ。

「……まず、最初はロナルド=ウィーズリー。久しぶりに素晴らしいチェス・ゲームを披露してくれたことを称え、50点」

 グリフィンドール席から、歓声が沸いた。パーシーが他の監督生に、ロンを自慢しているのが聞こえた。肝心のロンは、緊張で固まり耳まで真っ赤になった。

「次にハーマイオニー=グレンジャー、火に囲まれながら、冷静に論理を用いて対処したことを称え、50点」

 更なる歓声がハーマイオニーを称えた。感涙したハーマイオニーは、涙を隠すために自らの腕に顔を埋めた。

 100点の増加は、グリフィンドール生は優勝したような騒ぎを見せる。

「3番目はハリー=ポッター、その完璧な精神力と並外れた勇気を称え、60点」

 今度はレイブンクロー、ハッフルパフも混ざった歓声が起こる。何故なら、これでグリフィンドールとスリザリンは同点となったのだ。

 実に惜しいという声が何処からか聞こえた。

 ダンブルドアが手を上げ、静粛を求める。

「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かうのにも大いなる勇気がいる。しかし、味方に立ち向かうもの大切な勇気じゃ。よって、ネビル=ロングボトムに10点を与える」

 つまりは、グリフィンドールの勝利。席では誰もが立ち上がり、雄叫びを上げた。ネビルは驚きのあまり青白くなり、彼の周りに集まる人々で埋もれてしまった。

「更に!!」

 一喝に似た声に全員、制止した。これ以上、何があるのか?皆の視線がアルバス=ダンブルドアに釘付けだ。

「人は行動に理由をつけたがる。だが、理由は問題ではない。要はそれがどんな結果を齎すかじゃ。人を助けることに理由などいらぬ。それは論理でも勇気でも不可能じゃ、故にクローディア=クロックフォードに50点、与える!」

 

 ――一瞬、大広間に沈黙が走る。

 

 そして、レイブンクロー席で歓声の嵐が巻き起こった。

 クローディアは事態が理解できず、唖然とする。両側にいたリサとパドマが抱きついてこなければ、状況を飲み込めなかった程に信じられない。

 向かいの席にいたペネロピーが発狂しながらテーブルをよじ登り、クローディアにしがみついた。女生徒はとにかく彼女に抱きついて、頬に唇を落とした。

 名も知らない7年生の男子達がクローディアを抱き上げ、皆に見せるように高く掲げた。貴賓溢れる『灰色のレディ』が狂喜のあまりに何度も喚いた。

 グリフィンドール席とレイブンクロー席が自らの勝利を称えあい、ハッフルパフはスリザリンが寮杯を手放したことを喜んで、拍手喝采を送っていた。

 スリザリンだけが、明かりを消したように静かになった。

「したがって、飾りを変えねば」

 ダンブルドアが指を鳴らすと、スリザリンの蛇の絵が、グリフィンドールの獅子とレイブンクローの大鷲に変わり、大広間に真紅と金、青と銅の配色が並んだ。

 スネイプが見たこともない作り笑顔で、マクゴナガルとフリットウィックに握手していた。

 漸く高揚感が全身を駆け巡ったクローディアは、喜びの咆哮に変えた。それを真似して、レイブンクロー席の皆も咆哮した。

 豪華な料理が今日ほど、美味であったことはない。皆が空腹を満たすために、文字通りかぶりついた。

 クローディアも食欲が出て、色々口に含んでいると職員席を目にした。いつもクィレルが座っていた席が空席のままだ。

 思い返すのは、いつも何かに怯えるクィレルの姿だ。あの部屋で見たクィレルは、実は夢だったかもしれない。ぼんやりとそんな考えが浮かぶ。

 視界の隅でダンブルドアがクローディアを見ていた。何かを報せたい眼差しを感じ取った。ナプキンで口元を拭き取ってから、彼女は校長の前に進み出る。

 ダンブルドアは待ち焦がれたように、微笑んで迎えてくれた。

「是非とも、聞いて貰いたいことがある。君に得点を与えたのは、わしではない。……思わぬ人物が君に得点を与えたのじゃ」

 クローディアはスネイプの姿を思い浮かべたが、彼のほうは絶対見ないことにした。あの作り笑顔で、それはないと踏んだ。

 ダンブルドアがクローディアの耳元に囁く。

「クィレル教授じゃよ。彼が君に得点を与えたんじゃ」

 驚愕にクローディアの体が張り付いた。

「君は本当の意味で、クィレル先生を救った。彼は君に感謝の気持ちをこめたのじゃ」

 命だけでなく、クィレルの心さえも救えた。

 これを感涙せずにはいられない。涙腺が潤みクローディアは、ダンブルドアに深く頭を下げた。ただ、ただ、深く、深く、頭を下げて嬉し涙を隠した。

 

 翌日、クローディアはハーマイオニー、ハリー、ロン、ネビルの活躍による寮対抗杯の結果をドリスに報告した。ドリスは、祝いにと様々な花の花吹雪をハリーに贈りつけた。おかげでハリーは花びらに埋もれ、窒息寸前にまで追い込まれた。

 日本の祖父は薬が活躍したことを聞き、満足であった。母はヴォルデモートとの対峙はよく理解されなかったが、命を粗末にしていると叱った。

 待ちに待った試験結果の発表。

 クローディアは我が目を覆う。成績自体は良好なのだ。しかし、『魔法薬学』の成績だけがネビルと競って悪かった。ハーマイオニーは勿論、全科目が学年トップである。それがクローディアは自分のことのように誇らしく思った。

 成績結果を母に送ろうと、フクロウ小屋に向かう。フクロウを物色しているジュリアと鉢合わせた。

 ジュリアはクローディアに気付き、一瞬、怪訝そうに顔を顰めた。だが、急に猫を被った表情を見せる。これまでジュリアからそんな笑顔を向けられたことはない。

「最後に寮杯を獲ってくれてありがとう。クローディア」

 ますますおかしい。

 入学してから、ジュリアは一度も彼女を名前で呼んだことはない。あくまで、クローディアの記憶の限りではある。

「最後って何さ?」

 ジュリアは勿体ぶるような笑顔でクローディアの隣に立った。

「私ね、落第したの。フリットウィック先生は、もう一度3年生をやればいいっていってくれたけど、やめることにしたわ」

 淡々と笑顔で語るジュリアに、クローディアは驚きを通り越して言葉を失う。

「元々、私は魔女に向いていなかったのよ。少し魔法が使えるだけの一般人なの。3年生でそれがよくわかったわ。これ以上、私の魔法は伸びないって」

 その瞳は物悲しそうに揺らいでいる。

「辞めてどうするさ?」

「魔法使いにも、私塾があるの。そこでとりあえず魔法の勉強は続けるわ。後は、マグルの学校に通うだけね。将来の為に」

 言葉を切るジュリアは俯いて、適当なフクロウを撫でる。

「楽しかったわ……、すごく……。ああ、ホグワーツに来られて良かった……」

 思い出に耽るジュリアの姿は、クローディアの心に淋しさを与える。特に仲が良かったはずがない。寧ろ、彼女は意地悪であった。

 それも振り返れば、クローディアに気を遣った意地悪ではないのかと思えてしまう。

 不意にクローディアは、ジョージの顔を思い浮かべる。ジュリアとジョージはとても親しい。

「ジュリア……。ジョージにそのこと……」

 ジュリアの手が、クローディアの口を塞ぐ。

「皆とのことは、卒業するの。だから、私に手紙なんて送らないでよ。さようなら、クローディア」

 涙を堪えているジュリアの声は、震えている。

 何を思ってか、クローディアはジュリアに手を伸ばそうとした。手が届く前に、彼女は一目散にフクロウ小屋を後にした。

 虚空を掴みながら、ジュリアに何を言うべきだったのかを模索した。しかし、言葉は見つからない。慰めや励みは、彼女の役に立たないとわかっていた。

 ただ、自らの意思でホグワーツを去る者がいる。それだけを深く心に刻んだ。

 

 帰省が迫り、クローディアはトランクに荷物を詰めていた。全てを片付け終えた時、何故かベッロがいなくなっていた。『呼び寄せ呪文』を試してみたが、上手く発動しない。

 仕方なく、クローディアは足で探しに行く。

 空き教室を探していると、パーシーがペネロピーに交際を申し込み、彼女が承諾しているのを目撃した。クローディアは、声に出さず2人を祝福した。雰囲気の邪魔にならないように足音を立てずに去った。

 城の中のほとんどを探したが、ベッロはいない。

「お~い、ベッロ。帰るさ」

 クローディアは中庭で草むらを這いながら、ベッロを呼んでいた。

「みっともないと、思わないのかね?」

 背中に闇色の声がかけられた。条件反射で跳ねるように立ち上がり、クローディアは背筋を伸ばす。

 スネイプが眉間にシワを寄せて、怪訝そうに見下ろしてくる。こうして相対するのは、『賢者の石』の日以来だ。

「あ……すみません。ベッロを探していて、その……」

 深呼吸し、動悸を抑えながらスネイプを見上げる。すると、彼の表情がいつもと違っていることに気づいた。黒真珠の瞳は、何処か憂いを帯びている。

 

 ――パシャッ。

 

 突然、2人を包むシャッター音。同時に2人は振り返る。木の枝に体を絡めながら、ベッロがカメラを抱えていた。入学前にカメラを持ち込もうとしたが、止められたはずだ。

〔嘘……、いま撮ったさ?〕

 日本語が出ていたが気にせず、クローディアはベッロを掴もうと手を伸ばす。

「「捕まえた!」」

 ベッロが絡まっている枝の上から手が伸びて、クローディアの腕を掴んだ。手の出現に驚いたが、見上げるとフレッドとジョージがイタズラ丸出しで笑っていた。

「あんたか、いま撮ったさ?」

 呆れたクローディアは、力なく2人を指差す。

「せいかーい♪リーから借りたんだ。スネイプ教授との密会シーン。バッチリ」

「バラされたくなかったら、俺らと写真撮ってよ」

 流石に苛立ちを感じ、クローディアはフレッドの腕を力の限り引っ張った。

 引力に逆らえず、フレッドの足を掴もうとしたジョージも巻き込んで、2人は地面に落下した。2人は乾いた笑みを見せて、間髪入れずに校舎に全速力で駆け込んだ。クローディアも我を忘れて2人の後を追う。

 残されたスネイプは、木に絡んでいるベッロを自分の腕に招く。大人しくベッロはその腕へと絡み、喉を撫でて貰う。クローディアに伝えようとしていた言葉が口から漏れる。

「クィレルは、アズカバンに送られた」

 スネイプの呟きは、ベッロがしっかりと聞いた。

 聞かせるはずだったクローディアは時間が許す限り、フレッドとジョージを追い回した。

 

 汽車に荷物が積みこまれていく中、クローディアはハグリッドに挨拶をしに行く。丁度、ハリーも彼に挨拶していた。

「ハグリッド、色々とお世話になったさ。ありがとうさ」

「おう、クローディアも良い休暇にな」

 ハグリッドは、クローディアとハリーを繁々と眺めて微笑む。

「本当におまえらは、いい友達だ。俺はそれがすごく嬉しい」

 口下手なハグリッドの最上級の称賛と知れる。照れくさくなったクローディアは、ハリーの頭を撫でた。

 ハリーは複雑そうに笑いながら、クローディアの手を失礼のないように払った。

 

 生徒全員はホグワーツ特急に乗り込んだ。

 クローディアは、ハーマイオニー、ハリー、ロンとコンパートメントを独占した。

 夏の休暇に、クローディアはハーマイオニーをドリスの家に招待することを約束した。何処から聞きつけたのか、フレッドとジョージも招待を受けたいと騒ぎ立てた。ロンと共に彼らを招待すると嫌々ながら約束を交わした。

 当然、ハリーも招くことになった。しかし、ハリーは特急に乗る前にドリスから招待の手紙を貰っていたらしく、その熱愛振りにクローディアは頭を抱えた。

 汽車の中は、最後に魔法を使う生徒の姿があちこちで見られた。【休暇中魔法を使わないように】という注意書き用紙が跳ねまわり、生徒を追いかけていた。

 何の問題もなく、汽車はキングズ・クロス駅のホームに着いた。

 下車する生徒の中から、クローディアはジュリアを見つけた。

 電撃が走るように、ジュリアにかけるべき言葉が浮かんできた。迷わず、叫んだ。

「ジュリア! ありがとう!」

 クローディアの声は、ジュリアに届いた。驚いた彼女は振り返り、普段の意地悪そうな笑顔を見せる。その言葉を待っていた態度だと、わかった。

 ジュリアは何も言わず、マグルの世界に続く柵に消えていった。

 不意にクローディアが振り返ると、ハリーと握手しているドリスを見つけた。

「お祖母ちゃん、何してるさ?」

「クローディア! ああ、ハリーと友達であることでさえ素晴らしいのに! まさか、寮杯まで勝ち取るなんて!」

 感謝感激と今にも泣き出しそうなドリスは、クローディアを抱きしめる。

「僕らはいい友達ですよ。ドリスさん」

 ハリーの言葉がトドメとなり、遂にドリスは泣きだした。ドリスにハンカチを渡しながら、クローディアはジュリアのことを想う。

(ジュリアは良い……悪友さ)

 その確信にクローディアは満足した。

 




閲覧ありがとうございました。
寮杯は、グリフィンドールとレイブンクローの引き分け。
地味ですが、クローディアの活躍です。
これにて、賢者の石編終了します。
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