こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
お馴染みの杖選びです。ちょこちょこウィズリー達がいます。
電話やラジオの表現を<>とします。

追記:17年3月4日、誤字報告により修正しました。


1.杖選び

 クローディアは魔女のドリスから、魔法界の一般常識を学んだ。

 魔法界唯一のグリンゴッツ銀行、魔法界の通貨、ホグワーツ魔法魔術学校、その現校長にして偉大なる魔法使いアルバス=ダンブルドア。

 そして、『例のあの人』を打ち破り、『生き残った男の子』ハリー=ポッター。

 更なる追い打ちは日本への電話。『漏れ鍋』には電話がなく、外に出かけなければならない。夜は危険であり、昼間しかない。しかし、時差がある。イギリスの昼は日本では深夜だ。流石に何度も深夜にかけては迷惑。週一程度しか、連絡取れないのだ。

〔私が魔女だって知っていたさ?〕

<〔当り前さ。お母さんがお父さんと結婚したときに教えてくれたさ〕>

 日本を発つ前に何故、説明しない。

 母の反応に本気で苛立った。

 息詰まるような日々にも、クローディアに救いはあった。

 食事はコンラッドが店主に厨房を借り、用意してくれるのだ。店主のトムは彼が食材まで持ち込んで作る日本料理を怪訝した。

 ドリスは息子の手料理を口にし、感涙していた。

「幼い頃から家事はやっていましたが、ここまで美味しい物を作れるなんて……」

 クローディアとしては実家でもコンラッドが料理当番、涙するには至らない。しかし、山芋の煮っ転がしを食せる為に感謝している。

 

 7月が終わる頃、爆睡していたクローディアはコンラッドに叩き起こされた。

 しかも、早朝だ。

 ダイアゴン横丁へクローディアの学用品を買い出しに行くためだ。眠い顔を擦りながら、コンラッドとドリスに着いていく。

 しかし、案内されたのは居酒屋を抜けた壁に囲まれた小さな中庭だ。正直、ゴミ箱が並べられ、庭ですらない。

 ドリスを覗き見れ、その長袖から指揮者棒のような……おそらくは杖を取り出す。質量と大きさに絶対、裾へ入りきらない杖が出てきたことに驚く。

 そんなクローディアを余所に、ドリスは壁のレンガを三度叩く。叩かれたレンガが小刻みに震えだし、壁全体が積み木のように積みなおされ、どんな長身も通れる大きさの入り口が出来上がった。

 レンガの動きは一瞬に過ぎないが、少なくともクローディアの目はそう捉えた。

 脳髄の奥が感動に沁みこまれるには十分だ。

 入り口の向こう側には石畳の通りが続き、更なる高揚感が胸中を駆け巡る。

「ダイアゴン横丁よっ」

 得意げな言葉の主がドリスだと気づき、クローディアは我に返る。小さく微笑んだコンラッドが先導し、一向は進んだ。

 近所にある町内の商店街など、目ではない。まさに魔法使いの為の横丁だった。

 日本やイギリスとは違う造りの看板や建物、魔法の品物が何処を見ても視界に入ってくる。

(カメラ持って来れば、良かったさ~♪)

 両手でカメラを持つフリをし、クローディアは口でシャッター音を口ずさんだ。それは傍見ると不審人物に見えるのだが、興奮して全く気づかない。

 完全にドリスもドン引きしてしまう。肩を竦めたコンラッドがクローディアの頭にチョップしたので、妄想カメラは終了した。

「では、役割分担をしよう。私はグリンゴッツ銀行に行く。その間に2人は買い物を済ませておきなさい」

 返事も聞かず、コンラッドは歩を速めて人混みに消える。彼の背を見送り、ドリスはクローディアへ微笑んだ。

「さあ、クローディア。制服を見に行きましょうね」

 それよりも、少年の一団が杖を見せびらかしている姿に釘付けになる。

「杖がいいさ! お祖母ちゃん、杖は何処で売っているさ!?」

 クローディアは前を見ずに走り出し、ドリスが咄嗟に止めようとした。時すでに遅し、前方に立っていた赤髪の少年にぶつかった。

「ご、ごめんなさいさ!」

 慌てて頭を下げ、クローディアは詫びる。赤髪の少年は活発な笑みを返した。

「俺は平気だ。ただちょっと、問題が」

 自分の顎を押さえる赤髪の少年の向こう側から、瓜二つの少年がひょっこり現れた。

「「ぶつかった衝撃で二つに割れちゃった♪」」

 そばかすの数さえ同じ顔がクローディアに笑いかけてきた。

 驚愕した。声を上げることさえ忘れ、目を見開き、限界まで口を開ける。腕を震わせながら、2人の少年を指差した。

「「あれ? 反応が薄いな? そんなに驚かなかった?」」

 2人の疑問、クローディアは勢いよく首を横に振る。

「クローディア、その子達は双子よ。そうでしょう?」

 ドリスの手が優しく肩に乗せられ、クローディアは気付く。

「双子さ!?」

「「正解~♪我々はホグワーツのウィーズリー兄弟、以後お見知りおきを」」

 悪戯が成功したと言わんばかりに、親しみのある意地悪な笑みが降りかかった。

 考えなくても理解できたことだ。クローディアは恥ずかしさで耳まで赤くし、両手で顔を隠す。

 騙された悔しさで、赤髪の双子に文句を言おうとした。だが、自分の手を顔から離した時、既に赤髪の双子はいなくなっていた。

「ちょっと、むかつくさ。本当にちょっとだけさ」

「はいはい、わかりましたっ。杖を先に見に来ますから、ついてらっしゃい」

 案内されたのは輝きを持たない暗い店。言葉を選ばなくてよいのならば、ボロい。

「本当にここで魔法の杖が売ってるさ? 創業が紀元前とか、老舗もいいとこさ」

 『オリバンダーの店』を見上げ、クローディアは怪訝する。

「私はここでしか杖を買ったことがありませんよ。私は教科書を買ってきますから、中で杖を選んでいなさい。人によってはすごく時間がかかりますからね」

 ドリスに従い、クローディアは扉を押した。

 奥のほうで来客を知らせるベルが鳴ったのが聞こえた。店内を物色するが、天井近くまで整然と積み重ねられた何千という細長い箱の山しかない。

(これが全部、杖さ?)

 見上げて足を進めたクローディアは爪先が物に触れ、見下ろす。その山から弾き出されたような箱がひとつ無造作に置かれている。何気なく、その箱に手を伸ばそうとする。

「いらっしゃいませ」

 背後から声をかけられ、吃驚した。悪さをしようとしたわけでもないのに焦ってしまい、跳ねるように振り返る。

「すみません、こんにちは」

 クローディアの強張った笑顔に店主オリバンダーは銀色の瞳を細める。湿った視線で彼女を見つめた後、口を開く。

「どちらが杖腕ですかな?」

「え~と、右です」

 右腕を出す。いつの間にか取り出した巻尺が勝手にクローディアの全身の細かい箇所を測り、感激だ。

 巻尺の動きを見逃さないように凝視すれば、視線が煩わしいのか、巻尺は逃げつつも計りを止めない。

 その間にオリバンダーは先ほどクローディアが拾うとしていた箱を手にしていた。巻尺を目で追いつつ、尋ねる。

「それも杖ですか?」

 少し間を置き、オリバンダーは重く口を開く。

「どの棚から、これを見つけなさった?」

「いえ、そこに置いてありました」

 クローディアの答えが意外だったのか、オリバンダーは箱をじっと見つめる。

「この杖は以前、スクイブが買っていたのじゃよ。どうしてもと頼み込むので。いまより青かったワシはつい売ってしもうたのじゃ」

(スクイブ?)

 知らない単語に目を丸くする。箱を手にしたままオリバンダーが指を弾き、巻尺が丸まって床に落ちた。

「しかし、可哀想なことに一度も使われることなく、持ち主が死に、またここに帰ってきたが……」

 オリバンダーは慎重に箱を開く。そして、期待を込めた眼差しで、クローディアに箱から出した杖を差し出した。

「柳にグリフォンの羽、24cmじゃ」

 落さないように両手で杖を受け取る。クローディアは杖の感触に興奮しつつ、何気なく振ってみた。すると、冷たかった杖の感触が命を込められたかのように鼓動を上げ、杖自体が淡い光を放つ。彼女の全身が良い意味でゾクッと粟立った。

(これが……私の杖さ……)

「なるほど! そうか、よかった」

 機嫌の良い口調でオリバンダーは杖を箱に戻し、赤紙で包みだした。

「おいくらですか?」

「いらん」

 即答したオリバンダーは尚も続ける。

「よいかな、杖は持ち主を選ぶ。それを無視して売った。これで、ワシの心配がひとつ減ったのじゃ」

 包装された箱を受け取り、クローディアは胸に暖かいモノで満たされていく感覚に襲われた。それは念願の杖を手に入れたというよりも、重要な役目に選ばれた喜びに似ていた。

 箱をしっかり握り、何度もお辞儀してクローディアは店を出た。

 

 外ではドリスが教科書、コンラッドが大鍋などの学用品を手に提げていた。

 2人にオリバンダーとのやりとりを話して聞かせた。ドリスは店主が無料で杖を渡したことを気味悪がったが、クローディアの手前、良いことだと喜んだ。怪訝な表情で丸分かりだ。

 コンラッドは一瞬、眉を寄せる。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 

 『漏れ鍋』に戻り、部屋の寝台に倒れるように飛び込んだ。学用品は買い揃えたのだ。多くのモノを見すぎて、目が疲れたのか、乾燥している気がする。

 クローディアが全身で欠伸をすると、視界の隅で赤いものが動いた。

 いや、蠢いていた。

 思わず、飛び起き、弾みで寝台が大きく揺れ、赤いものは寝台の下へと引っ込んだ。得体の知れない恐怖、寝台の縁に手を置いて、恐る恐る下を覗き込む。

 ガーネットのような光沢を放つ、円らな瞳と目が合った。燃えるような真っ赤な鱗を持ち、2メートルはある大きさを持つ。

 蛇だ。

 気付いた時、クローディアは恐怖に駆られて悲鳴を上げていた。人生でここまで悲鳴を上げたことは恐らくない。そんなことを頭の隅で考えていた。

 駆けつけたコンラッドが蛇を自分に首に巻き、珍しく愉快げに喉を鳴らして笑っている。

「この子はベッロ。学校に連れて行く使い魔だよ」

 愉快そうに笑うドリスの後ろに隠れながら、クローディアはベッロを注意深く観察する。

 直視するのは難しく、恐怖で動悸が激しい。

「フクロウと猫とヒキガエルと鼠しか、項目になかったさ!」

 精一杯、声を出そうとするが擦れてほとんど出ていない。

「項目に書かれていない動物を持って来てはいけない。そんな事は書かれてないだろう? 学徒の折、私はこの子を連れて行ったが、何も言われなかったよ。心配せずとも、ダンブルドア校長先生に許可は貰っている。安心して連れて行きなさい」

 ベッロの顎を人差し指で優しく撫でるコンラッドの説得は諦め、ドリスに助けを求める視線を送る。彼女は笑いを堪えているのか、唇を噛み締めている。

「私、下で飲み物を頂いてきますね」

 そう言ってドリスは笑いを堪えた笑顔のまま、部屋を出て行った。いや、逃げていった。

「大丈夫、ベッロは誰も襲わないよ。私が命じない限りね。勿論、クローディアも」

「私、命令できるさ?」

 コンラッドの頷きは肯定を意味している。

(つまり、命令があれば、襲うさ)

 クローディアはコンラッドから顔を背け、胸中で悪態を付く。

「命じなければいい、それだけのことだよ」

(心読まれたさ!?)

 的確な助言に、クローディアの肩は震えた。その震えを納得したものと受け取ったコンラッドはベッロを肩に巻いたまま手近な椅子に座る。

「日本が恋しいか?」

 急な問いかけに、クローディアは心臓を鷲摑みされた気がした。突きつけられた現実に引き戻され、動揺する。

「ホグワーツには電話がない。代わりにフクロウ便で手紙を送ることになるよ。ドリスがカサブランカを持っているから、借りて手紙を書きなさい」

「日本に手紙が出せるさ?」

「出せるさ、フクロウ便は何処にでも届けられる」

 なら、クローディアにもフクロウを買って欲しい。だが、疑問もある。

「疲れないさ? 飛行機でも時間がかかるのにっ、何か可哀想さ」

 ここ何日かでコンラッドがフクロウで手紙を届けているのを見ている。しかし、イギリスと日本の距離を考えれば、易々と使えるモノではない。

 クローディアの言葉が、意外だったのかコンラッドが大きく目を見開いている。

「ああ、そういう考え方もあるのか…。いや、大丈夫だよ。彼らの翼はヤワじゃない」

 いまいち、納得仕切れなかったが、日本との連絡手段がそれしかないなら承諾せざる終えまい。

 唐突にコンラッドの雰囲気が厳しくなる。

「これから言うことをよく聞きなさい」

 笑顔のままだが、何処か緊張感を与える表情だった。その表情に応えるように、クローディアも椅子に座り、向かい合わせになった。

「ホグワーツで聞かれない限り、私の名は出さないように。また私のことを聞いてくる者がいたら、マグルの母に育てられた為、私のことは知らないと答えなさい」

「はい、お父さん」

 疑問はある。しかし、コンラッドはその疑問に答えることはない。アメジストを連想させる紫の瞳、彼の思考を読み取らせない。

「よろしい、他に私に聞きたいことはあるかな?」

「……マグルって何さ?」

 これにコンラッドは笑みのまま口を開いて固まっていた。しかも、彼の首でウネウネと動いていたベッロの硬直したように動かなくなった。

(拙いこと言ったさ?)

 沈黙はドリスが勢いよく戸を開く音によって破られた。

 ドリスは満面の笑みに肩を大きく揺らして呼吸。何か興奮したように、体を躍らせながら、コンラッドに歩みよりその頬にキスをした。

 家族間のキスを目の当たりにしたクローディアは驚いて目を丸くする。ドリスは彼女の額にも嬉しそうにキスを落とした。

「いま! 誰に会ったと思い!?」

 興奮冷め止まぬドリスは嬉々として、息子と孫を交互に見つめる。

 コンラッドが口を開く前に、ドリスの甲高い声が部屋いっぱいに響いた。

「今、私はハリー=ポッターにお会いしたのです! 握手して下さいましたわ!」

 ハリー=ポッター。

 その名が出た瞬間、コンラッドから笑みが消え、男にしては麗しさもある顔が怒りと嫌悪で歪められた。

 初めて目にするコンラッドの表情、クローディアは鳥肌が総立ちする。

 興奮したドリスはコンラッドの変化に気づかない。あまりに正反対の反応に、クローディアは『生き残った男の子』の人間性に疑問を抱く。

 そして、その名をコンラッドの前で言うまいと強く心に誓った。

 

 入学日までの残りをクローディアはドリスと『漏れ鍋』で過ごした。

 その間、勉強は勿論のこと、フクロウ便で早速、日本の母に手紙を書いてみた。すると、2日後には母から返事が来た。電話が使えないことが残念だが、手紙を貰えて嬉しいという内容。母の文字が妙に懐かしく、クローディアは嬉しさで手紙を抱きしめていた。

 そして、ドリスから生身のハリー=ポッターの印象を何度も聞かされた。同時に『例のあの人』が如何に恐ろしく偉大だったかという話も繋がる。だが、いくら説明されても『例のあの人』という何とも呼びにくい響きが、クローディアには納得できない。

「『例のあの人』って本名ないさ?」

「ですから『名前を言ってはいけない』のです! いいですか? ホグワーツで『例にあの人』の名前を聞かない!」

 これに関して、ドリスは頑として譲らなかった。冗談でパブの客に聞こうものなら、酷く叱られた。

 しかも、ハリー=ポッターの偉大さを理解すべしと【近代魔法史】【黒魔術の栄枯盛衰】【二十世紀の魔法大事件】を熟読するよう命じられた。

 昼食を摂る際も読まされ、正直、クローディアはうんざりしてきた。読み飛ばそうとすれば、ドリスの厳しい視線がそれを許さない。

(どんだけ、ポッターが好きなんだろうさ?)

 食事を済ませ、食器を店主のトムに返す。クローディアはパブへと階段を下りる。昼食目当てに訪れる客人の姿がある。

「まさか、グリンゴッツが襲われるなんてな。本当に何も盗られていないのかい?」

「ゴブリン達が入念に調べたから、そのはずだ。それでも、一番厳重にしていた713番を狙うなんて尋常じゃないよ」

 隅の席で赤髪の2人組の男がグリンゴッツ銀行の話題をしていた。

(いま、ゴブリンって言ったさ?)

 ゲームの序盤で必ず登場するゴブリン。

 何故、銀行にいるのかとクローディアは首を傾げる。馴染みになったトムに食器を返す際、尋ねてみる。

「グリンゴッツ銀行に、どうしてゴブリンがいるんですか?」

 トムは不可解に眉を寄せ、食器を片づける。食器は誰の手にも触れず、勝手に動いている。

「そりゃあ、ゴブリンどもが管理しているからに決まっているからだろ。あいつらは、取引に関して最も徹底した種族だ。融通が利かないことが玉に瑕だが、世界一安全を誇れるのは、ゴブリン族だからこそできることだ」

 まさかゴブリンが銀行員をしているなど、クローディアには思いつきもしない。ゲームや映画のせいで、寧ろ銀行強盗をしている印象が強い。

 不意にトムはクローディアの耳元まで顔を寄せる。

「だが、ここだけの話……。最近、盗みに入られたらしいぞ。だが、何も盗られてないそうだ。そこに銀行で働いている奴がいるから、聞いてみるといい」

 指差して教えられたのは、先ほど通りすぎた赤髪の2人組だ。トムに礼を述べてから、クローディアは2人組に近寄ってみる。

「グリンゴッツ銀行で、何か盗まれたのですか?」

 突然、声をかけてきたにも関わらず、年配の額が広い男が優しく微笑み返した。

「何も盗られていないよ。皆が話しているのは、グリンゴッツ銀行に侵入したってことに驚いているんだ。坊やはまだ小さいから、わからないかもしれないけど、とっても危険なことなんだよ」

 誰が坊やだ。

 否定するのも面倒なのでクローディアは礼だけ述べ、2階へと上がっていった。

「アーサー、あれは女の子だぞ」

「え? そうなのかい?」

 トムが赤髪の男性にそう告げるのが聞こえたが、クローディアは振り返らなかった。それよりも、グリンゴッツ銀行に侵入できたのに何も盗まずに帰った泥棒が気になる。

 問いかけに困惑しつつも、クローディアは必死で考えを巡らせる。

([世界一安全な銀行]から、何も盗らなかったさ? それとも、盗りたいものがなかったさ?)

 考え込んでいると背後からコンラッドが肩を叩く。

「グリンゴッツ銀行の話を聞いたのかい?」

「うん……、どうして銀行から何も盗らなかったさ?」

 唐突な質問にコンラッドは指先で己の顎を触って、機械的に笑う。

「危険を冒してまで、盗みに入ったことよりも、そっちが気になるのかい?」

「だって、銀行はお金がいっぱいあるさ。もし、お金が目当てじゃなくても、本命を誤魔化すために盗んでもいいさ」

 興味深そうにコンラッドが頷く。

「なら、犯人は金銭には何の価値も見出さなく、尚且つ、わざわざ侵入した痕跡を残していく余裕があったということだね?」

「侵入の痕跡を残す余裕さ?」

 コンラッドの解釈にクローディアは困惑で目を丸くする。余裕がないから、痕跡が残ってしまうのが常識だ。

「そうだね。例えば、誰かを挑発するために貸金庫に侵入したとも考えられるね。おまえなら、誰を挑発していると思う?」

「……銀行員……」

 それがクローディアは精一杯の答えだった。そう答えたとき、コンラッドは嘲笑するように目を細めた。

 

 ホグワーツ出発の朝。

 目を覚ました視界にベッロがトグロを巻いているに驚かされる以外、快適に目覚めることが出来た。

 普段着に着替え、学用品に抜かりがないか入念に確認し、ドリスがベッロを専用の檻籠に入れた。その檻籠は一見すると昆虫用の虫籠に見えるが、中を覗くとベッロが大人しくトグロを巻いている。

〔すごいさ〕

 感心して虫籠を乱暴に振るう。ベッロが怒って顔を出し、思わず寝台に投げてしまった。クローディアは校内を撮影する為にカメラを持って行こうとしたが、コンラッドに取り上げられた。

「入学式の予行練習とか、しなくていいさ?」

「ホグワーツは基本、ぶっつけ本番だよ」

 最終確認を終え、コンラッドからホグワーツ行きの切符入り封筒を受け取る。

(駅か、汽車か電車かな?日本にいるときもよく乗ったさ)

 荷物を手に戸に向かおうとすると、コンラッドが呼び止める。

「私はここまでだっ。ドリスが駅まで見送る」

「お父さんはどうするさ?」

 それには答えず、コンラッドは続ける。

「クローディア、あそこにセブルス=スネイプっていう先生がいるはずだけど、その人の機嫌は損なわないほうがいい。おまえの為にね」

「はい、わかりました」

 返答しながらも、コンラッドにしては珍しい助言を胸中で繰り返す。

(私の為か……)

 コンラッドの口から出た言葉はクローディアが覚えている限りでは初めてだ。心配されている気がして妙に嬉しかった。

 今ので、完全に話が終わったとばかりにコンラッドは椅子に座って寛いでいた。

「行ってきます、お父さん」

 クローディアはそう言ってドリスと共に部屋を後にした。




閲覧ありがとうございました。
いきなり、2メートルの蛇をペットにしろ言われた主人公。余程の爬虫類好きでないと、厳しいですね。
赤髪の2人はアーサー=ウィズリーとビル=ウィズリーです。ビルは、この時期はエジプト勤務でしょうが、ま、いっか!
●コンラッド=クロックフォード。
親世代と言えば、やっぱりスネイプと同窓ですよね!
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