本屋でのサイン会は、宣伝にもなるけど、営業が…営業があ…。
念入りに支度を整えたドリスは、自らに言い聞かせた。
「ハリー=ポッターに挨拶したら、私はすぐに帰りますよ」
何度もその言葉を繰り返すので、少し鬱陶しい。
(無理に来なくていいさ)
今日は、ハーマイオニーとの約束でもある。
彼女に恥をかかせないために、クローディアは身だしなみを十二分に気遣う。誕生日にペネロピーから貰った純白のワンピース、ハーマイオニーがくれた白いリボンで髪を自分にしては上出来なおさげを作り上げることが出来た。
「よく似合っているよ。クローディア」
コンラッドに褒められ、気分が良い。
何故か、ドリスも普段より少しお洒落な余所行きを着ていた。クローディアとコンラッドは敢えて触れないことにした。しかし、彼は出かける支度もせずに机で書類と向き合う。
「お父さんは、来ないさ?」
「私が? 何しに行くんだい?」
即答され、何も言えなくなった。
待ち合わせ場所はグリンゴッツ銀行。
早くハーマイオニーに会いたい気持ちが募りながら、クローディアは昨日の少女がいないことを切に願った。
純白の建物が近づくにつれ、階段の一番上に数人の人影が見える。
ドリスはその人影をハリーと認識したのか、大股で人ごみを抜けて階段を登っていった。その動きは、まるで階段を滑り上がっていくようであった。
(置いてかれたさ)
人々を避けながら歩くと、クローディアの後ろから聞き覚えのある野太い声がした。
「腐れマグルめ。俺がそのことを知っとったらなあ」
急いで振り返る。案の定、大男のハグリッドが威風堂々と歩いてきた。彼に駆け寄り、嬉しさでその場を跳ね上がった。
「ハグリッド! おはようさ!」
「おお! クローディアか! すっかり女らしくなっちまって、一瞬、誰だがわからんかった」
コンラッドだけでなく、ハグリッドにまで褒められた。
「ほ、本当さ? ……ありがとうさ」
急に気恥ずかしくなりクローディアは、ハグリッドから視線を下げる。驚いたことに、埃まみれで眼鏡の割れたハリーが微笑んでいた。
「おはようさ、ハリー。元気さ?」
「うん、クローディアも元気そうだね。よく似合うよ」
ハリーの視線がクローディアの後ろに向けられた。つられて振り返ると、待ち望んでいたハーマイオニーが階段を駆け下りてくる。自然と頬が緩む。
「おはようさ、ハーマイオニー!」
「おはよう、クローディア。あら、そのリボン、着けてくれたのね。嬉しい、あなたの髪によく似合っているわ」
微笑んでくるハーマイオニーに、胸中に気恥ずかしさとは違う感情が湧き起こる。急に顔が熱くなり、返事をしたくても口が上手く動かなくなってしまった。
(えとさ、なんかさ、言わないとさ……)
その間、ハーマイオニーはハリーとハグリッドに向かって交互に笑いかける。
「ハリー、ハグリッド、こんにちは。また会えて嬉しいわ」
「「こんにちは、ハーマイオニー」」
2人がほぼ同時に答えると、ドリスが階段を物凄い勢いで降りてくる。勢いをそのままにドリスがハリーに差し迫った。その迫力に押されたハグリッドが思わず、身を引いていた。
「ハリー=ポッター! お元気そうで! 先日はとんだご無礼を致しました!」
「……ドリスさん。こんにちは、ええ、本当に、もう大丈夫です」
少々、引き攣った笑みでハリーはドリスから引くように一歩下がる。
その時、ドリスはハリーの眼鏡が割れていることに気づいた。彼女が杖を振ると、彼の眼鏡は直り、服に付着していた埃は綺麗に取り払われた。
ハリーは自分の眼鏡を見つめて感動し、ドリスに感謝した。
「ハリー、もう大丈夫じゃぞ」
優しい口調で告げるハグリッドの視線の先には、ウィーズリー家の男性陣が駆け寄ってくるのが見えた。
漸く熱が治まったクローディアは、ハリーとハグリッドを見比べて疑問が浮かんだ。
「あれ? ウィーズリーの家でお世話になってるんじゃなかったさ?」
「うん、そうなんだけど、『煙突飛行術』で来ようとしたら失敗しちゃって……、『ダイアゴン横丁』って言わなきゃいけないのに、『だいにゃご横丁』ってなって」
正しい発音を告げなければ、近いが別の場所に飛ばされる。ちなみにハリーは、『夜の闇横丁』の『ボージン・アンド・バークス』の暖炉に辿り着いたらしい。
「まあ、あんな場所でよく無事でしたね」
「俺がちょうど肉食ナメクジの駆除剤を探しに寄っていてな。ハリーは運が良いぞ」
満面の笑みでドリスは、ハグリッドの手を取り、何度も礼を述べていた。
その隙にハリーは、ロン達にも『夜の闇横丁』へ行っていたことを説明した。
「いいなあ、ハリー。くそ、僕も着いて行けば良かった」
「危険な香りがするぜ」
「こらこら、子供の遊び場じゃねえぞ。行くなよ、絶対行くなよ」
フレッドとジョージはイタズラ心満載の笑みを隠す様子もなく、感嘆の声を上げていた。その2人をハグリッドが鋭く注意した。
「治安の悪い所さ?」
「そうよ、名前からしてね……。あれ、誰かしら?」
ハーマイオニーが少し驚いたように人ごみに目を向けるので、クローディアも同じ方向に目をやる。
赤毛でふくよかな体形の女性が片手で少女を引っ張りながら、こちらに突進してきた。鬼気迫る雰囲気に圧倒されて、クローディアはハーマイオニーと顔を見合わせた。
「……僕のママだよ」
恥ずかしそうにロンが声を落とし、遠慮がちに紹介してくれた。
何の疑いもなく、2人は納得した。
「ハリー! 遠くに行っていたらどうしようかと!」
当の本人は彼女らが眼中にない。ハリーの顔を何度も触り、五体満足か確かめている。
その様子は、ドリスと酷似している。きっと気が合うだろう。
「こいつは妹のジニーだ、今年からホグワーツに入るんだぜ」
ロンに紹介されて、少し髪が乱れた赤毛の少女が笑みを見せて挨拶した。
「こっちは、僕たちと同じ寮のハーマイオニー=グレンジャー」
「こっちは、レイブンクローのクローディア=クロックフォード」
口を開こうとしたクローディアとハーマイオニーより先に、フレッドとジョージが親切に紹介してくれたので、手間が省けた。
「しかし、ウィーズリーに妹がいたとは思わなかったさ」
思えば、クローディアはロンに興味がなさすぎる。
「……なんかさ、ウィーズリーって変さ。いっぱいいるしさ、ええと、ロナル……」
「ロン! 僕のことはロンでいい!!」
本名を口にしようとしたクローディアをロンが大声で遮る。あまりの必死ぶりにハーマイオニーとジニーが顔を見合わせて笑いあった。
「じゃ、俺は行くからな」
ハグリッドは学校での再会を約束して、その巨体を揺らして人ごみへと進んでいった。
銀行の階段を登りながら、ハリーは『ボージン・アンド・バークス』でマルフォイ親子を目撃したことを話した。店の道具に身を隠し、様子を窺ったらしい。
「マルフォイですって!」
突然、ドリスが悲鳴を上げたので、その場に居た全員が面を食らった。
「もう帰られたかしら?」
唇に手を当てて、不安そうに呟くドリスにハリーが困ったように首を横に振る。
「箒を買うとか言っていましたから、まだいると思います」
更に不安が増したのかドリスは目を泳がせながら、クローディアを一瞥する。ここまで動揺する様は珍しい。
「お祖母ちゃん、マルフォイがどうかしたさ?」
心配になり声をかけると。ドリスは周囲を見渡して自分に視線が集まっていることに気づいた。
「さあ、銀行に参りましょう」
笑顔を取り繕い、ドリスは階段を先に登っていった。
「マルフォイって、そんなに評判悪いさ?」
歩きながら、ロンに尋ねる。フレッドが大袈裟に肩を竦め、クローディアに耳打ちする。
「父親のルシウス=マルフォイは『例のあの人』の腹心の部下だったヤツだ」
代わってジョージが反対側の耳元に顔を寄せる。
「『例のあの人』がハリーに倒されて、真っ先に戻ってきたんだ。本心じゃなかったって、嘘をついて罪を逃れたんだ」
2人の説明を受け、クローディアの脳裏に『賢者の石』を安置していた最後の部屋での出来事が甦る。クィレルの後頭部に寄生していた人面相が嗤う。あの時の異様な感覚に寒気が走った。
「だから、君のお祖母さんが恐がるのも無理ないんじゃないかな」
ロンが最後に付け加えて、クローディアは相槌を打つ。
守衛からお辞儀され、銅製の扉を抜けて壮大な大理石のホールに入る。美術館のように装飾され、清潔感が行き届いたホールには、忙しなく働くゴブリンがテキパキと行動している。
(なんか、こんなのゴブリンじゃないさ)
失礼と思いながら、クローディアは気落ちした。
ハーマイオニーは受付の傍で不安そうに佇んでいる夫婦に向かって大きく手を振る。その夫婦は、魔法族とは違う雰囲気を持っており、マグルであることが一目で知れた。 クローディアもキングズ・クロス駅で何度も目にしているハーマイオニーの両親だ。
夫妻は、先に着いたドリスと挨拶していた。
「なんと、マグルのお2人がここに!」
珍しいモノを発見した子供のように浮かれた声を出したアーサーがグレンジャー夫妻に嬉しそうに詰め寄り、昼食に誘ったかと思えば英国紙幣を指差して興奮している。
「モリー、見てごらん!」
アーサーは嬉しそうに、はしゃいでいる。
「うちのパパはマグルに超興味があるんだ。ママはそれをちょっと嫌がっているけどね」
フレッドがわざとらしく嘆息する。
「魔法界だけでなく、他にも視野を広げる意味では、父のなさっていることはもっと評価されるべきだ」
不満そうにパーシーが声を上げる。
「パーシー、フレッド、ジョージ、ロン、ジニー、お父さんは放って置きなさい」
モリーが呆れたように自らの子供達に声をかけた。ロンがクローディアとハーマイオニーに呼びかけた。
「あとで、ここで会おう」
ハリーとウィーズリー家がゴブリンに連れられて奥に進んでいくのを見送っても、アーサーはグレンジャー夫妻を放さなかった。
困り果てた両親を見て、ハーマイオニーがクローディアに微笑みかける。
「クローディアも外国のマグルに育てられたのよね?」
耳敏く聞き取ったアーサーは、目標を切り替える。
「何処の国だね? そこにも魔法使いはいるのかな? そこのマグルは、この国とはどう違うのかね?」
次々と質問され、クローディアは胸中で悲鳴を殺す。
(生贄にされたさ)
恨めしくハーマイオニーに視線を向けると、彼女はご両親と共に申し訳なさそうに生暖かい目で微笑んでいた。
粗方、アーサーの質問に答え終わると、クローディアは息が切れていた。満足したアーサーは、彼女を確かめるように眺めて、小さく唸る。
「君は、去年の夏に『漏れ鍋』に滞在していなかったかい?」
「はい、入学の準備で『漏れ鍋』に泊まっていました」
自分の考えが当たっていたことに、アーサーは嬉しそうに微笑んだ。
クローディアの背中を擦っていたドリスが、彼女に耳打ちする。
「お友達とも十分、話せたのです。そろそろ帰りましょう」
「嫌さ嫌さ! まだ、ハーマイオニーと全然話してないさ!!」
帰宅宣言され、抗議すれば、ドリスは厳しい顔つきで頭を振る。
「新学期でも、会えます」
強引に予定を繰り上げるのは、あまりにも不自然であった。こうして、話しているときもドリスは周囲を警戒している雰囲気を醸し出している。
このような態度になったのは、先ほどルシウス=マルフォイの名を聞いてからだ。
「お祖母ちゃん、マルフォイが恐いさ?」
「……恐くなどありません。関わり合いにならないことが優先なのです。さあ、帰……」
「大丈夫ですよ! お孫さんは必ずヤツの手から守ります! 勿論、マダムあなたのことも!」
意気込んだアーサーが大声で宣言するので、係りのゴブリンに厳しく注意された。それでも彼の勢いは治まらず、ドリスに無理やり硬い握手をした。
戸惑うドリスは曖昧に頷く。
「大丈夫よ、クローディアのお祖母ちゃん。私もいるわ。それに、ロンもハリーも」
ハーマイオニーが告げると、金庫から戻ったハリー達の姿にドリスは優しく微笑んだ。
「クローディアには、良いお友達がいるのですね」
穏やかな声とは裏腹にドリスの手が若干、震えている。
(マルフォイのお父さんが……ヴォービートの腹心だったのと関係があるさ?)
理由が何であれ、ドリスがここまで怯える相手ならば、要注意人物だ。クローディアは、しっかりとルシウス=マルフォイの名を胸に刻んだ。
1時間後に『フローリシュ・アンド・ブロッツ書店』へ集合となり、一旦は解散した。
クローディアはハーマイオニー、ハリー、ロンの4人でお菓子を買い食いし、『高級クィディッチ用具店』、『ギャンボル・アンド・ジェイズいたずら専門店』を見て回った。
雑貨を見回り、ハーマイオニーは『現れ消しゴム』などの魔法の文具を真剣に物色する。
「ハーマイオニー、それが欲しいさ?」
問うと、ハーマイオニーは曖昧に頷く。閃いたクローディアは、すぐに彼女が手にしていた文具を会計し、簡易包装して貰う。
「はい、早めの誕生日おめでとうさ」
少し緊張しながら、クローディアは文具を入れた袋をハーマイオニーに手渡した。彼女は満面の笑みで感嘆の声をあげ、袋を優しく抱きしめた。
「ありがとう、クローディア。すごく、嬉しい」
微笑むハーマイオニーに、クローディアは胸の辺りが花開いた感触で満たされる。今日一番の幸福を味わった気分だ。
「クロックフォード?」
気分の良かったクローディアは微笑んだまま、その声に振り返る。
統一感のある服装をしたロジャーが小洒落た服装のクララと腕を組んでいた。明らかにデート中だ。
「寮杯を勝ち取った仲間同士でデートかしら?」
「違います!」
クララの軽口に、ハーマイオニーが声を荒げて否定した。
「てっきり、ハリー=ポッターとは、そういう関係だと思っていたけど、へえ、付き合ってないのか……」
ロジャーは興味深そうにクローディアを見つめてきた。その視線にから逃れるため、たまたま通りかかったジョージの背中に隠れた。
「なんだよ? クロックフォード」
怪訝するジョージに言い訳しようと、クローディアは思いつく。
「ポッターを連れ出す作戦が成功したら、なんか欲しいって言ってたさ? それ買いに行こうさ」
「おっ、マジか。それじゃあ、『ギャンボル・アンド・ジェイズいたずら専門店』で新作のヤツを頼むぜ」
上機嫌にジョージはクローディアの手を握り、店を目指した。
色々買わされると予想していた。しかし、彼は新作の玩具をひとつだけ選んだ。
(意外と謙虚な奴さ)
フレッドと玩具を品定めするジョージを見つめ、クローディアは奇妙に感心した。
約束の時間。
書店は、ロックハートの横断幕に吸い寄せられたような人で溢れていた。ハーマイオニーが黄色い声で浮かれている姿に、クローディアは不愉快に思えた。
折角、来たが、中に入ることを強く拒んだ。ハーマイオニーはそれに構わず、ハリーとロンを連れ、人垣を押しのけながら、中に入っていった。
残ったクローディアは、横断幕の横でドリスが不愉快そうに立ち尽くしているのを見つけた。
〔なんかさ、バーゲンセールみたいさ〕
日本語で誰に言うわけでなく呟く。
隣にいるドリスはと周囲を見渡し、常に何かを警戒していた。
「ドリス=クロックフォード?」
馴れ馴れしい口調で魔女がドリスを呼んだ。ビクッと肩を痙攣させた彼女は、その魔女を煩わしそうに睨んだ。
「ご機嫌麗しゅう。バーサ=ジョーキンズ」
ドリスに煙たがられていると知りながら、バーサ=ジョーキンズという魔女はゆっくりと瞬きをして笑みを崩さない。
「あらあら、あなたがこんなところにいるなんて、ロックハートにはもう興味がなかったと思っていたわ。それとも、気が変わったのかい?」
ジョーキンズは親切そうな雰囲気だが、大きめの口がおしゃべりな印象を受ける。確実に噂好きだろう。この魔女に秘密の相談などしたら、皆に喋ってくれと言っているようなものだ。
初対面のクローディアでさえ、あまり話をしたくない。
「お祖母ちゃん、向こうに行こうさ」
この場を逃げようとクローディアがドリスの服を掴んだ。
突然、ジョーキンズは目を輝かせてクローディアを凝視した。興味津々に彼女を眺めた後、その視線をドリスに向ける。
「お祖母ちゃん? まさか、このお嬢ちゃんがあなたの孫だって言うの? それって息子が無事だったってこと? ねえ、ドリス。そうなの?」
「あなたには関係ないでしょう。ほらっ、最後尾にでも並んでらっしゃい」
しっしっと手で払うドリスにジョーキンズは含みのある笑みを見せた。嬉しそうに足を弾ませジョーキンズは、列の最後のほうへ向かった。
不審そうに眉を寄せたドリスは、クローディアの肩を掴む。
「ああいう人とは、大事な話をしてはいけませんよ」
「はいさ、お祖母ちゃん」
おそらく、ジョーキンズがドリスをロックハート嫌いにさせた原因となった知人の魔女だろう。
ロックハートが現れたのだろうか、書店の中から拍手が沸き起こっていた。拍手の音が耳に障り、クローディアは深い溜息をつく。
心地よい地響きと共に、見慣れた巨体がこちらに向かって歩いてきた。それだけでクローディアの気持が安心させられた。
「ハグリッドもサイン会さ?」
「俺にはそんなもん必要じゃねえ、『漏れ鍋』に行くにはこっちしかねえからな。おめえさん達はいいのか? ……こりゃあ、通るのも一苦労だな」
ロックハートのファン行列を一瞥し、ハグリッドが頭を掻いた。
「ハグリッド!」
小さい悲鳴を上げたドリスが、急にハグリッドの巨体を引き寄せる。まるで周囲から自分達2人を隠しているようだ。
「お祖母ちゃん?」
クローディアが声を出すと、ドリスが鋭く咎めた。
何故だが、黄色い声援の魔女達が水を打ったように静かになった。
何事かと、クローディアがハグリッドの陰から行列を必死に見やる。魔女達は、2人の親子連れに道を譲っていた。子供のほうはよく見えないが、父親らしき男の姿は見えた。銀髪を背中に流し、貴賓に溢れた上等な衣服を身に纏った魔法使い。まるで、物語に出て来る吸血鬼の印象を受けた。
「おっととい、ありゃあ、マルフォイだ」
「マルフォイのお父さんさ?」
呻くハグリッドにクローディアが驚く。肝心のルシウス=マルフォイは誰にも目もくれず、書店へ入っていく。
「ふう、良かったな。おまえは、鉢合わせなくて済むぞ」
優しい声でハグリッドにかけられ、ドリスが安心したのも束の間、一気に青ざめた。
「ウィーズリー氏が中におられます」
「へ!?」
素っ頓狂な声で上げるハグリッドをクローディアが見上げた瞬間。
書店から、金属音が鳴り響き渡る。次いで、本棚がぶつかり崩れる音がした。
「「やっつけろ、パパ!」」
合わさったフレッドとジョージの叫びが外まで飛び、女性の悲鳴が上がる。人垣が騒動を避けようと後ずさりしたので、また本が崩れる音がした。
「一大事だ!」
ハグリッドが慌てて、書店に飛び込んだ。皆が心配になったドリスとクローディアもそれに続いた。
「やめんかい、おっさん達、やめんかい」
いい歳をして本気で取っ組み合いをする中年2人を、ハグリッドが強引に引き離した。
騒動よりもクローディアは、ハーマイオニーの安否が心配だった。彼女は自分の両親の前で大きく手を広げて騒動に巻き込まれないように庇っている。
すぐさまハーマイオニーに駆け寄り、グレンジャー夫妻の背を押すように書店の外に出た。夫妻は騒動を目の当たりにして、すっかり怯えている。
「大丈夫さ?」
「ええ、平気よ。私はね」
唇を震わせたハーマイオニーは、深呼吸して両親の腕を掴んでいた。
「一体、何事さ? いきなり、喧嘩になったように思えたさ」
「マルフォイが悪いんだよ」
眉を寄せたハリーがウィーズリー一家と共に書店から出てきた。
『漏れ鍋』を目指す道、クローディアはハーマイオニーから書店での騒動について説明を受けた。
マルフォイがアーサーの魔法省での仕事を貶し、マグル生まれのハーマイオニーを蔑んだ。それに我慢の限界だと言わんばかりにアーサーがマルフォイに掴みかかったのだ。
「ウィーズリー氏とマルフォイ氏との対立は、私の耳にも届いています。寧ろ、知らぬ者はほとんどいないでしょう」
耳打ちするドリスが締めくくりとなり、クローディアはげんなりした。
「もしかしなくても、お父さん達もホグワーツの同窓さ?」
「勿論、そうだぜ。学生時代から、あのマルフォイは親父とよく衝突してたってよ」
ジョージがさも当然に答える。
それがクローディアの胸で煙が立ち込めたようにもやもやした。
(もし、ポッターのお父さんが生きていたら、うちのお父さんともそんな風になっていたかもしれないさ?)
コンラッドはハリーとの交友を快く思っていないが、付き合いをやめろとは言ってこない。だが、『仮に』両親の諍いが原因で友情が結べないのは、正直に嫌だ。
そういう意味では、ロンとドラコが友人でないのは、ある意味救いかもしれない。彼らは遠慮なく、互いを憎みあえるのだ。
急にロンとドラコが仲良く手を繋ぐ様子を想像してしまい、クローディアは笑いを必死に堪えた。
「また、新学期に会いましょう」
グレンジャー一家は、『漏れ鍋』の扉からマグルの世界へと帰っていった。
「今日はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ」
ドリスとモリーはハリーのことですっかり意気投合し、仲睦まじく手を取り合った。
「このままじゃ、ハリーもロックハートのようにサイン会しなきゃな」
からかうフレッドにハリーは、疲れ切った溜息をついた。
閲覧ありがとうございました。
本屋での乱闘はお控えください。
●バーサ=ジョーキンズ
知りたがりの魔女、学習しない困った人。