こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
ようやく、新学期です。

追記:16年9月28日、18年9月21日、誤字報告により修正しました。


4.血筋

 昨晩にハリー達を捜索したことが堪え、クローディアは普段より遅く目が覚めた。

 ベッロを連れて談話室に下りると、事情を知らない1年生の何人かが、短い悲鳴を上げて逃げ惑う。上級生達は去年の自分達がそこにいると腹を抱えて笑いあった。

 ロジャーは自らの弟シーサーが、ベッロに怯える様子を見て腹を抱えて笑っていた。ペネロピーら監督生が説明してくれたお陰で、その場は収められた。

 リサとパドマがベッロを抱き上げ、苦笑する。

「ベッロは、こんなにいいコなのにねえ。よしよし」

「闇の魔術の象徴とか、ベッロには何の関係ありませんわ」

 寝ぼけた頭でクローディアが2人に挨拶する。

「クローディア、ちょっといいかしら?」

 先に朝食を摂りに行ったはずのサリーが、困惑した様子で談話室に戻ってきた。彼女はクローディアの背を押し、談話室の外に出した。

 まだ眠気が取りきれなかったクローディアは、怒りを露に口元を歪めたハーマイオニーが待ち構えていたので、すぐに目が覚めた。

 

 そして、大広間までの道のり、ハーマイオニーの壮絶な愚痴で埋められた。ハリーとロンが車で文字通り飛んできたこと、それに対してグリフィンドール生(パーシーを除く)から英雄扱いされ、本人達は一向に反省していないことを延々と語った。

「貴重な『暴れ柳』に車で突っ込んだのよ! しかも、車は何処かに逃げたとかいうし!」

 空を映した大広間の天井は、クローディアの心情を映したか如く、曇りのため灰色に染まっていた。席に着いても、ハーマイオニーは治まらなかった。

 不満を口にしてせいか、段々と気持ちが軽くなったハーマイオニーは、クローディアの隣で【ヴァンパイアとバッチリ船旅】を読み耽ける。

 その本に、敵意を向けてしまうので、二重扉に目を向けた。

 大広間に来たチョウが、レイブンクロー席に座るハーマイオニーを目にし、クローディアに耳打つ。

「ハリー=ポッターのことでしょう? 新学期早々、ご機嫌斜めね。頑張って」

「これ以上は勘弁さ」

 気持ちを察したチョウは、クローディアの肩を軽く叩いて労ってくれた。

 噂のハリーとロンが大広間に入ってきたので、クローディアは手を上げて彼らに挨拶する。気づいた彼らはレイブンクロー席まで足を運び、挨拶を返した。

 ロンは何処となく有頂天になっている様子を見せる。皆から賞賛され、浮かれているのが知れる。

「おはよう」

 ハーマイオニーは棘を含めた挨拶で、2人を一瞥しただけで終わる。

「まさか、車の運転なんて無茶するさ。その様子じゃ、怪我はないようさ。それで、どうして車で来たさ?」

「うん、そのことなんだけど……。僕達は9と3/4番線に入れなかったんだ。それで、汽車に乗り遅れてロンの家の車で行こうと思ったんだ」

「僕が運転したんだ」

 それが誇りとロンは胸を張る。

「スネイプ……先生が僕らは目立ちたくてやったんだと思ってたよ。退学にしようとしたけど、校長先生が取り成してくれたんだ。マクゴナガル先生が罰則を受けるだけでいいって」

 それが難点と言わんばかりに、ハリーは眉を寄せた。ロンがわざとらしく、クローディアに耳打つ。

「僕らを退学に出来ないこと、スネイプがすご~くガッカリしてたよ」

 せせら笑うロンの額に、クローディアは人差し指を付きたてる。

「あんたらのことスネイプ先生は、心配だったさ。そうじゃなかったら、わざわざ組分けの最中に抜け出したりしないさ」

「とんでもない! 絶対、僕らを学校から追い出そうとしたんだ。あの顔、君にも見せてやりたかったよ」

 クローディアに反論しながら、ロンがその時のスネイプの声真似をして状況を再現した。やはり、彼らに反省の色がない。

「新学期早々、スネイプ先生に迷惑かけてるさ。もちろん、ハーマイオニーが一番、心配したさ。反省するさ」

「パーシーみたいなこと言うなよ」

 ロンはわざと耳を塞ぎ、クローディアの言葉を遮った。ハリーもロンに賛成らしく、聞く耳を持たない。2人が英雄面だと、ハーマイオニーが腹を立てる理由がよく理解出来た。『賢者の石』の時もここまで酷くなかった。

 寧ろ、ハリーは慎み深く、正義感と責任感があった。周囲の称賛など眼中になかったはずだ。

(やっぱり、男の子さ)

 ハリーとロンの背後から、頬を痙攣させたペネロピーがわざとらしく咳き込んだ。彼女は親指でグリフィンドール席を指差した。

「ミスタ・ポッター、ミスタ・ウィーズリー、ここに座るのはレイブンクロー生と招かれた方のみ! お2人はどうぞ、あちらでお話下さい」

 不快さを隠す様子もないペネロピーに、2人は渋々とグリフィンドール席に向かった。

「クローディア、甘やかさないで頂戴。あの2人は貴重な『暴れ柳』にまで、被害を出したのよ!」

 低い声で眉を顰めるペネロピーもハーマイオニー同様、ハリーとロンが車で到着したことにご立腹なのだと悟れた。

「そういえばさ、私達……スネイプ先生に謝らなかったさ。『賢者の石』のこと……」

「スネイプ先生なら、きっと、気にしてないわ。それに今は絶対、機嫌悪いし」

 事もなげにハーマイオニーは、本を読み続けた。

 幾分か腹が満たされ、眠気が再発したクローディアはコーヒーに何も入れず、苦味を堪えながら飲み干す。

 フクロウ便が大広間に突入し、あちこちに荷物や手紙を運ぶ。クローディアにも、名前を知らないシマフクロウが日本の母からの手紙を携えてきた。

【新学期が始まったそうですね、危ないことがないようにして下さい  かしこ】

 手短だが、母の気持ちを汲み取った。

 

 ――その瞬間。

 

《ロナルド=ウィーズリー!!》

 大広間の隅から隅まで轟く怒号。驚いたクローディアは、反射で口に含んだコーヒーを噴出した。ハーマイオニーは読んでいた本を床に落とし、パドマから餌を与えられていたベッロは食パンを喉に詰まらせて悶えた。

《ウチの車を盗むとはなんてことです! 私とお父さんがどんな思いだったか、おまえはちょっとでも考えたのですか!!》

 テーブルの食器が叫び声の振動で音を立てて揺れ、壁に反響して音量は更に増していく。ベッロは怒号から逃げるようにパドマのローブに身を隠し、配達に来たフクロウ達も急いで大広間を飛び立っていく。

 全員の視線がグリフィンドール席のロンに集中する。

 ロンは様々な感情で顔を真っ赤に染め、額だけテーブルの上に出ていた。その場所で、真紅の封筒が口を開いたように裂けていた。

《昨夜、校長先生から手紙が来て、お父さんは恥ずかしさのあまり死んでしまいそうでしたよ! こんなことする子に育てた覚えはありません。おまえにはもうほとほと愛想が尽きました。お父さんはずっと役所で尋問を受けていますよ。勝手に空飛ぶ車を作っただけでも問題なのに! 息子に車を盗まれた挙句にマグルに見られましたなんて! これを大恥と言わずなんでしょう! それもこれも全部、おまえのせいです。今度ちょっとでも規則を破ってごらん。家に引っ張って帰りますからね!》

《あら、ジニーちゃん、グリフィンドールに決まっておめでとう、パパもママも鼻が高いわ》

 最後だけ優しいモリーの口調を残し、赤い封筒はロンに舌を弾ませる仕草をすると自らを破り捨てて治まった。

 嵐の後のように大広間は静まり返り、スリザリン席ではドラコを始めとした生徒が爆笑していた。

「あれ、何さ?」

 漸く耳元の反響が消え、完全に目の覚めたクローディアが誰にいうわけでもなく問う。チョウの隣で耳元を押さえていたマリエッタが答えた。

「『吼えメール』よ。見ての通りの恐ろしい手紙……。ウィーズリーさん大変だろうなあ、あのマルフォイが黙ってないもの、絶対」

 気の毒そうにマリエッタは、ロンに哀れみの視線を送った。

 すっかり意気消沈したロンは、自分の行動が家族を巻き込んだことを思い知った。ハリーも深刻な表情で項垂れている。完全に反省していた。

 ちなみに、ジニーは『吼えメール』で名前を呼ばれたことに羞恥心のあまり青ざめていた。

 ジニーには悪いが『吼えメール』はロンに良い薬となった。

「こういうのってさ。お母さんに叱ってもらうのが一番なんだろうさ」

「ええ、全くもってその通りだわ」

 満足そうに微笑みながら、ハーマイオニーは床に落ちた本を丁寧に叩いた。後から大広間に来たパーシーが、『吼えメール』の残骸に絶句していた。

 今年度の2年生の時間割が配布され、目を通すと『薬草学』がスリザリンとの合同授業だ。大半の2年生は気分が滅入った。

 しかも、本日の1時限目は『闇の魔術への防衛術』であり、反ロックハート派は更に憂鬱となる。

 クローディアはハーマイオニーと時間割を見せ合い、案の定、彼女は羨ましそうに1時限目を代えて欲しいと訴えてきた。

 ロックハートに対する敵意が増大した。

 

 始業の鐘は既に鳴り終えているというのに、『闇の魔術への防衛術』の教室にロックハートの姿はない。クローディアだけでなく、男子生徒はもとより、女子生徒も苛立ちが募ってきた。

 連れてきたベッロは退屈になり、机に体を伸ばして楽な姿勢を取っている。

「やあ、諸君! 待ち焦がれただろうが、何の心配もいらない。私が来たからにはね」

 初授業に堂々と遅刻した教師の台詞ではない。

 教室にいる生徒の大半から、白い目で見られていることに気づかず、ロックハートは笑顔を振りまく。そして、学力を知るためだと問題用紙を全員に配りだした。

 教壇まで歩き、教室を見渡すロックハートはベッロの存在に気づく。ビクッと肩を痙攣させ、大袈裟に驚いた素振りを見せた。

「おやまあ、皆さんが静かだと思ったら、こんなに大きな蛇が迷い込んでいたんですね。誰か、外に出してあげなさい」

 ベッロを不躾に指差すロックハートにクローディアは不快だ。彼女が口を開く前に、モラグが面倒そうに答えた。

「コイツはちゃんとした使い魔です」

「からかってはいけないよ、ミスタ・マクドゥガル。こんな大きな蛇を誰が……」

 ロックハートの言葉が終わる前に、クローディアは挙手した。

「私です、ロックハート先生。校長先生から、ご説明がいっていると思いますが、まさか聞き漏らしたなんてことありませんよね?」

 ベッロの主人が女子生徒であることが意外だったのか、ロックハートは哀れんだ様子を見せた。クローディアは、更に苛立ちを募らせる。

「それでは、授業のほうに戻りましょう。まずは小テストを行います。皆さんが私の本についてどれ程、勉強しているのかを確かめます。制限時間は30分ですよ」

 高々と腕を掲げてロックハートは指を鳴らした。

 小テストの内容は、ロックハートの趣味趣向に関している。こんなくだらないことをテストにするなど、クローディアは呆れ果てて絶句した。それでも、時間内に答案を埋めて提出した。

 ロックハートはその場で答案用紙を捲り、残念そうに舌打ちする。

「レイブンクロー生は勤勉がモットーだと聞いていますが、全問正解者が半数だけでは、それもたかが知れています。特に、ミスタ・マクドゥガル、ミス・ムーン、ただ答えを書けばいいというわけではありません」

 名指しで注意されたモラグは、屈辱のあまり唇を噛み締めた。セシルは俄かだがロックハートファンのため、悔しさで涙を堪えていた。

(うわあ、悲惨さ……)

 教室の全員が2人に心底同情し、溜息をつく。しかし、何を勘違いしたのかロックハートは快晴な声を張り上げて授業を続けた。

(何処が授業さ。ちっとも楽しくないさ。サイン会と勘違いしてるさ)

 胸中で悪態を付き、クローディアは終業の鐘が待ち遠しくて仕方なかった。出版された書物の内容は、素晴らしいと評価した。何故だが、目の前のロックハートと本の登場人物は一致しない気がする。この違和感の理由を知る気も起きない。

 

 『呪文学』の授業中も、セシルはロックハートに叱責されたことを根に持ち、フリットウィックに隠れて【雪男とゆっくり一年】を読み直していた。

 フリットウィックはその行為に気づいていたが、パドマがこっそり事情を説明していたので、何も言わずに置いてくれた。

 

 昼食では、ロンの機嫌が最悪であった。

 『暴れ柳』に衝突した際に、ロンの杖が折れたのでテープで応急処置をした。しかし、ほとんど使い物にならなくなっていた。元々がチャーリーからのお下がりで古かった。恨めしそうに杖を見つめ、彼は項垂れる。

「売店で買いなおせばいいんじゃないさ?」

 何故、そこまで落ち込むのかとクローディアは疑問しながら、ロンに告げる。素っ気ない態度に、彼は驚いた。

「簡単に杖が買えるわけないだろ? そもそも、売店って何だよ」

 強く否定され、クローディアはハーマイオニーに尋ねる。

「この学校って、売店ないさ?」

 表情を強張らせたハーマイオニーは、必死に答えを探そうと頭を働かせている。

「ないと思うわ……。あるって話聞かないし……」

 自信無げに答えるハーマイオニーに代わり、偶然通りすぎようとしたペネロピーに声をかける。

「学校には、売店はないわ。必要な物は新学期が始まる前に揃えるし、足りなくなったらフクロウ便で送ってもらうものよ」

 いくらなんでも不便すぎる。

「杖は、魔法で直せないさ?」

 ペネロピーは、ロンの杖を見て残念そうに首を横に振るう。

「卓越した魔法使いなら、直せるかもしれない。この学校だと、校長先生ぐらいだわ」

 それを聞いたロンは、杖を直すことを諦めた。

 グリフィンドール席で、クローディアはハーマイオニーと午前中の授業の成果を報告し合った。

 ハーマイオニーから『変身術』で魔法をかけた完璧なボタンを見せてもらい、クローディアは彼女の腕に感心したが、ロンはそれを疎んでいた。

「あ、ハリー!」

 甲高い声がしたかと思うとハリーに向けて眩しい光が浴びせられ、シャッター音に驚いた生徒の何人かが振り返った。

「僕、コリン=クリービーっていいます。グリフィンドールです」

 突然、フラッシュを焚かれたハリーは眩しそうに瞬きを繰りかえし、適当にコリンに挨拶を返した。

「額の傷! 本当だ! 『例のあの人』につけられた傷がある! じゃあ、『賢者の石』を守ったというのも本当ですか! 教えてください!」

 その後、コリンに質問攻めされたハリーは、挙句にサインを求められて追いかけ回された。

 午後が『闇の魔術への防衛術』であるハーマイオニーは、頭に花が咲いた様子でクローディアと廊下で別れた。足元を弾ませる彼女の後姿に、苛立ち、奥歯に力を入れた。思った以上に、歯が音を立てる。

 偶然、傍に来たペネロピーが歯音に驚いた。

「クローディア、大丈夫?」

「へ? うん、大丈夫さ。ポッターがちょっと可哀想だなって思ってさ」

 慌てて取り繕うが、ペネロピーは親しみの籠もった意地悪な笑みを見せる。

「私には、ハーマイオニーがロックハートに夢中なのが、気に入らないように見えるわよ?」

 胸中を当てられ、クローディアはペネロピーから目を逸らした。話題を変えようと、脳内を巡らせた。すぐにパーシーの横顔が浮かぶ。

「パーシーのこと、誰かに教えたさ?」

 今度はペネロピーが硬直し、わざとらしく目を逸らした。照れた様子で彼女は、クローディアの耳元に唇を寄せ、声を細める。

「なんでわかったの?」

「夏の休暇前に、告白しているのを見たさ」

 ペネロピーに倣って、クローディアも声を細めて答える。

「それに、家に来たときのパーシーの態度を見れば、わかるさ」

 まんざらでもない笑みでペネロピーは、クローディアの肩を撫でる。クローディアは、その手に小さな焦りを感じ取った。再び、ペネロピーは、耳元に唇を寄せる。

「フレッド、ジョージに知られると、いろいろ厄介だから、内緒よ」

(ああ、そういうことさ)

 あの双子が、パーシーとペネロピーの関係を知れば、それなりにちょっかいを出してくる。しかも、執拗に巧妙な嫌がらせをする。パーシーはそれを嫌い、誰にも教えたくないのだ。

 納得したクローディアは、内密だと親指を立てた。

「内緒は、秘密と違うんだもン」

 突然、囁かれた声に、クローディアとペネロピーの背筋に寒気が走った。ゆっくりと振り返ると、髪を天に尖らせたルーナがいた。やはり、瞬きをしていない。

「こんにちは……、ラブグッド。どうしたさ?」

「『呪文学』の教室に置いていかれたんだ」

 道に迷ったのだと察したクローディアは、ルーナを教室に案内した。

 

 翌日、『魔法薬学』。

 クローディアはベッロを自室に置いてこようとした。だが、ベッロは無理やり部屋から脱出し、1年生が恐怖で混乱した。嘆息し、仕方なく虫籠に入れた状態で地下教室に連れてきた。

 ジャスティンは虫籠なら平気だと、クローディアの横に腰掛けた。しかし、彼の手先が震えているのを見逃さなかった。

(無理して座らなくてもいいさ)

 少しでもパドマの傍にいたい。苦手なベッロを克服しようとしている。僅かな勇気を示そうとしているジャスティンをクローディアは応援したくなった。

「パドマの隣に座るさ、いいさ?」

「ええ、いいわよ」

 クローディアに薦められ、パドマも承諾した。ジャスティンは、予想外の展開に赤面しながらもパドマの隣に腰掛けた。

 その様子をジャスティンの心情を理解しているリサ達が微笑ましく見守っている。

 授業が始まれば、その雰囲気に構ってはいられない。スネイプの視線は、変わらず他者を硬直させる。

 夏の休暇中に予習をした範囲の調合にも関わらず、またしてもクローディアだけが調合を完成させられなかった。

「どうやら、休暇中は、勉強そっちのけで、お楽しみであったようですな。ミス・クロックフォード?」

 ハリーとロンの1件に納得出来ていないスネイプは、容赦なく夕食後に罰則を与えると宣言した。

(なんで、私にお鉢が回ってくるさ?)

 地下の階段を登りながら、クローディアが罰則を嘆いていた。セシルが優しく背中を撫でてくれた。

「教科書を読んでも、上手く行かないことはある。元気出して」

 慰めを素直に感謝した。

 廊下を歩くと、ジャスティンは仲間から手厚く激励されていた。

「いいぞ、大進歩だ。ジャスティン!」

「やめろよ、アーニー、わかったから、やめろ」

「真面目に相手にされるといいな、ジャスティン」

「ザカリアス、応援してくれないのか?」

 男子生徒の様子に、エロイーズが喉を鳴らして笑う。

「男子っておもしろいにえ。スーザンもそう思うでしょ?」

「あんなに分かりやすいのに、パドマは気づかないのかな?」

 スーザンに話を振られ、クローディアは首を傾げる。

「周囲しか気づけないってことさ」

 肝心のパドマは、ベッロの入った籠を大事そうに抱えていた。

 ジャスティンとパドマの進展で一部、盛り上がりを見せたが『薬草学』でスリザリンと合同であることを思い出し、気分は一転して陰鬱なモノとなった。

 一旦、自室に教材や教科書を置きに来ると、ベッロは急に大人しく自室の寝台で寛ぎだした。クローディアはそのままベッロを放置し、温室に向かった。

 

 温室前では、ふくよかで髪がふわふわしたスプラウトが温厚な雰囲気で生徒達が集まるのを待っていた。

「皆さんは、本日より3号温室で授業を行います。着いて来なさい」

 初めての3号温室に全員、期待を膨らませ歓声を上げる。スプラウトが温室の鍵を開き、生徒達を中へと導く。

「おい」

 尊大な態度で声をかけてきたドラコに、クローディアは自分が呼ばれていることに気づかず温室に入ろうとした。

「クロックフォード、聞いてるのか!?」

 乱暴に呼ばれ、クローディアはドラコを振り返る。仏頂面のドラコとその取り巻き達が、彼女と周辺を見回した。

「蛇はどうした?」

「部屋に置いてきたさ」

 クローディアが素直に答えた。気に入らないドラコは、頬を真っ赤にする。

「なんでだ? 僕は、おまえの蛇を間近で見られるのを楽しみにしてたんだぞ」

 抗議するドラコに、寄り添う女子生徒・パンジー=パーキンソンが賛成の意を表明した。

「じゃないと、レイブンクローとの授業の楽しみがないわ」

 これにレイブンクロー生は全員、足を止め、パンジーを睨んだ。

「行きましょう!」

 パドマがクローディアの背を押して温室に入り、そっと耳打ちする。

「あいつ、知ってる! パンジー=パーキンソン。パーバティが嫌なヤツだって」

 聞こえていたマンディが、静かに話しに加わる。

「スリザリンに、いいヤツなんていないわよ。マルフォイの家なんて、いっつも偉そうにしてるんだから」

 寮生で性格を決めつけるのは好きではないが、パンジーの態度では仕方ない。しかし、ドラコは純粋にベッロのことを楽しみにしていた様子であった。何故だか、クローディアに罪悪感が芽生える。

(温室に連れてくるわけに行かないさ)

 温室の真ん中に立ったスプラウトは、授業でマンドレイクの成長を学ぶことを告げた。セシルがマンドレイクの特徴を淀みなく説明したので、レイブンクローに得点が与えられた。

(ゲームでは、死人の血から生えてくるっていうさ。それは、違うみたいさ)

 胸中で呟きながらも、スプラウトの言葉を聞き漏らさない。

「この子たちは、まだ苗なので泣き声を聞いても死にはしませんが、数時間は気絶するでしょう。安全のために耳当てを配ります」

 生徒達の手に耳宛が配布され、指示通りに耳当てで耳を覆った。すると、誰の声も聞こえなくなった。無音の中で、スプラウトがマンドレイクの苗を植え替える手本を見せた。

「ひとつの苗床に4人です。ああそれと、『毒触手草』に気をつけること、歯が生えていますので、かなり痛いですよ」

 一通りの説明と注意を受け、生徒は思い思いに4人1組になり、分厚い手袋を嵌めて作業に取り掛かる。何故か、ドラコ、クラッブ、ゴイル、セオドールの4人組がクローディア組の隣で作業に取り掛かりだした。

「あの蛇を僕に売れ」

 命令してくるドラコをクローディアは無視した。構わず、ドラコは勝手に喋り続ける。

「父上なら、僕の為に金は惜しまない。遠慮せずに好きな金額を言え」

 土の音でドラコの声は、ほとんど聞き取れなかったが、内容は大体把握出来た。漫画などで登場する金持ちキャラは読むには楽しいが、現実には目障りだと深く理解した。 クローディアは何気なくドラコを見やる。何を勘違いしたのか、彼は語調を強めた。

「嘘じゃないぞ。休暇中にダイアゴン横丁で蛇をあるだけ買ったんだ。でも、あの蛇に勝るものはなかったから、返品してやった」

「私、知っているわ。『魔法動物ペットショップ』で大量に蛇が買われていったって話。あれって、ドラコだったのね。すごいわ」

 酔いしれるパンジーの称賛に、ドラコは鼻を高くする。

(どっかの屋敷って、あんたの家さ! しかも、全部返品って、お店の人に大迷惑さ)

 呆れたクローディアは、嘆息するのも面倒なので作業に集中した。

 マンドレイクに集中し、耳当てをつけたせいか、誰もが自然と無口となる。

 しかも、あまりに暴れる苗に誰もが手古摺り、ドラコは冗談半分でマンドレイクの口に手袋ごと指を突っ込んだため、噛まれて狼狽していた。

 

 泥だらけの体で温室を後にし、皆は疲労困憊で城を目指す。何故か体力の有り余ったドラコがベッロのことで尚、クローディアに言い寄ってきた。口を動かすのも億劫だったため、返事をせずにいる。

 完全に無視されたドラコは、奥歯を噛み締め音を鳴らした。

「『穢れた血』が僕を無視するな!」

 嘲りの言葉が発せられた。途端に、リサ、パドマ、セシルは金きり声を上げ、サリーは慄いて口元を覆い、マンディの顔色が青ざめていた。

「謝れよ、マルフォイ!」

 怒り心頭のアンソニーがクローディアの前に立ち、ドラコを怒鳴りつける。すぐにドラコの前をクラッブとゴイルが壁になった。

 騒然の中、クローディアはドラコの発した言葉の意味が罵倒だと理解は出来たが、周囲が先に怒りを露にしたので、反撃の機会を逃した。

「こらこら、何を騒いでいるんですか? 後がつかえます。早く、城に戻りなさい」

 片付け終えたスプラウトが、温室からゆっくりとした歩調で現れる。穏やかな口調に、厳しさが含まれていた。

 すぐにアンソニーとパドマが甲高い声で、スプラウトに言いつけた。

「マルフォイがクロックフォードを侮辱したんです!」

「最も酷い言葉で罵りました!」

 それに続き、マンディもドラコを強く指差す。スプラウトは、皆の剣幕を落ち着いた様子で受け入れ、クローディアとドラコを見比べる。

「ミスタ・マルフォイ。何を言ったのか、私に教えてくれますか?」

「僕は本当のことしか、言ってません」

 素っ気無く、ドラコはスプラウトから目を逸らす。嘆息する先生に、クローディアは答える。

「毛がどうとか、よく聞き取れませんでした」

「違う!! 『穢れた血』だ! 馬鹿か!」

 反射的に大声を上げたドラコに、スプラウトは息を飲んで慄いた。

「それが、教養のある人は口にしないとわかっているのですか? ミスタ・マルフォイ! スリザリン10点減点! もういいでしょう! さあ、お帰りなさい!」

 普段の態度から、想像も出来ない程、激怒したスプラウトに全員、身を竦めた。レイブンクロー生は、スリザリン生の思わぬ減点に、胸中でガッツポーズをしていた。

 

 夕食後、暗く寒気の篭った地下教室。

 クローディアがたった1人でスネイプからの罰則で、教卓や椅子を整頓していた。床に机の脚を引きずらせてはならないため、腕だけでなく、体を使って机を持ち上げなければならなかった。しかも、机や椅子には誰の仕業か、ガムがつけられ、それをそぎ落とすもの大変であった。

 罰則の監視に来たスネイプは、微妙に机の位置がズレていると指摘し、何度もやり直しをさせた。

 漸く罰則が終えたことが認められ、クローディアは筋肉が強張った腕を解しながら、スネイプにお辞儀する。

 それに、スネイプは反応しない。

(無愛想さ)

 教室を出ようとしたクローディアを闇色の声が呼び止める。

「ミスタ・マルフォイが訴えを起こしてきた。ミス・クロックフォードのせいで我が寮が10点も減点されたとな。どういうことか、説明してもらいたいのだか?」

 思わぬ事態に、焦ったクローディアの肩がビクッと跳ねた。

(マルフォイ……、告げ口はやめて欲しいさ)

 渋々、クローディアはスネイプの前に(距離を取って)立つ。

「スプラウト先生の前で、私を侮辱したんです。私の知らない言葉でしたが、スプラウト先生は、大変お怒りになって減点したんです」

 淀みなく言いえたクローディアをスネイプの黒真珠の瞳は何の反応を示さない。おそらく、どのように侮辱されたのかを聞いているのだと、直感した。一呼吸置き、スネイプの足元に視線を向け、口を開く。

「マルフォイくんは、私を『穢れた血』だと罵りました」

 降りかかってくる言葉に備え、クローディアは拳に力を入れ、待った。

 沈黙。

「よくわかった。帰りたまえ」

 あっさりとスネイプは、クローディアを手で追い払う仕草をする。

 安堵と共に、拍子抜けした。スネイプの足からゆっくりと顔を上げた。

「ミス・クロックフォード。君には関係ないかもしれんが、その言葉は両親とも魔法族ではない……マグル生まれを蔑む呼び方だ。血が穢れているということだ。覚えておきたまえ」

 憂鬱よりも深い沈みを言葉に乗せ、スネイプはクローディアに背を向ける。

 呆然としていたクローディアはスネイプの背にお辞儀し、地下教室を後にした。

 『穢れた血』。

 何とも形容しがたい不快感が込められている。

 人が何処で生まれようと、どのように育つかが重要だとクローディアは考えている。日本で生まれ、育った。何の恥もない。

 しかし、クローディアは自分を顧みる。それは、4つの寮でも当てはまることではないかと自問する。現にスリザリン生は性格が悪いなどと強い偏見を持たれている。

 結局、『穢れた血』と呼ぶ者も、寮で性格を判断することも同じだ。

(ハーマイオニー)

 マグル生まれの生徒は、ホグワーツに何人もいる。クローディアの大切な友達のハーマイオニーも、その1人だ。

 そして、クローディア自身もマグル生まれと変わらない。

 こんな残酷な言葉が存在することが、堪らなく悲しかった。

 




閲覧ありがとうございました。
モリーさんは車を盗んだ事は怒っても、勝手に運転したことは怒らない。寛大、なのかな?
このお城は、売店が欲しいです。
●コリン=クリービー
 映画の俳優可愛かったなあ
●アーミー=マクミラン
 結構、重要な役なのに
●ザカリアス・スミス
 映画に一切、出番なかったなあ
●パンジー=パーキンソン
 ドラコに惚れ込みすぎだよ。純粋な子や(涙
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