こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

24 / 150
閲覧ありがとうございます。
長文です。

追記:16年4月11日、9月28日、誤字報告により修正しました


6.生徒の不安

 ミセス・ノリス襲撃事件後以来。

 レイブンクロー生は図書館からあるだけの【ホグワーツの歴史】を借り、親族にOBがいればフクロウを飛ばし、『秘密の部屋』に関しての情報収集に明け暮れた。

 クローディアもコンラッドに手紙を出したが、警告めいた返事が来ただけで、『秘密の部屋』については触れられていなかった。

【蜘蛛が逃げ去った場所に近づいてはならない。

 ベッロは決して手放してはいけない。どの授業でも連れて行きなさい。 コンラッド】

(蜘蛛さ……?)

 首を傾げるクローディアは、ドリスからの警告として、ベッロを他の授業にも連れ込むことを皆に説明すると、珍しくパドマまで露骨に嫌な顔をした。

 意外な反応に驚くと、リサが躊躇いながら説明してくれた。

 『秘密の部屋』の伝説では、学校の創始者の1人、サラザール=スリザリンが自らの認めぬ者を葬り去る恐怖を封印しているという。つまり『継承者』とは、彼の意志を継ぐ者であること告げた。そのことで、ベッロが蛇であるという恐怖が学年を問わず震え上がらせた。

「私たち、ハリー=ポッターがそうじゃないかと、疑っておりまして、それで……あなたは彼と仲がよろしいでしょう? 色々なことに皆、怯えているんですの」

 意図を理解し、クローディアは嘆息し頭を抱える。

「あの状況を見て、ポッターが継承者だと思っているなら、それは逆さ。『継承者』は何故、壁に文字を書いたさ? 自分の敵に、正体を知られたくないからさ。だから、あの場に居たら、台無しさ」

「逃げ遅れただけかもしれないぞ」

 テリーの批判に、大半が同意する。

 クローディアは、同級生を見渡し、頭を振る。

「あの場には、ハーマイオニーがいたさ。サラザール=スリザリンはマグル出身者を認めない魔法使いさ。彼女がいたことが、ポッターがやっていない一番の証拠さ」

「でも、グレンジャーのいないときに書いたなら……」

 モラグが怯えた声で尋ねる。

「ピーブズの証言で、彼が最後にあの場を通ったときには、何も書かれていなかったさ。その後、『絶命日パーティー』で3人の姿を目撃してるさ」

「ピーブズが嘘をついてるのかも……」

 サリーが不安げに声を出す。

「あいつは人を馬鹿にし、からかい、イタズラはするさ。でも、嘘はつかないさ」

 言い切ったクローディアに、同級生達はお互いの顔を見合わせる。ピーブズに隠し事を露見された生徒の何人かが、曖昧に頷いた。

「でも、疑うなとは言わないさ。ただ、ちゃんと自分で考えて欲しいさ。ポッターが『継承者』であるかどうか、レイブンクローが得意とする知識でさ」

 クローディアは自分のこめかみに、人差し指を押し当てる。それを見た『灰色のレディ』が小さく拍手してきた。拍手の音は、パドマからリサ、アンソニー、やがて同級生全員に伝わった。

 胸中に抱えたハリーへの疑念を晒したことと、クローディアが主観的ではなく、客観的事実に基づいて、彼を弁護したことでレイブンクロー内では完全ではないが、落ち着きを見せていた。

 だが、ハッフルパフとグリフィンドールはハリーが『継承者』だという噂は消えず、その疑いはベッロにまで及んだ。

 その為、フクロウ便でクローディアにベッロの処分を望む嘆願書が届くようになった。無論、遠慮なく嘆願書を焼却処分した。

『魔法薬学』では、ベッロを恐れ、以前のようにパドマ以外はクローディアに近づかなくなる。『薬草学』では、ドラコ達が隙を見てベッロを取り上げようとするのを防ぐのに、一苦労であった。

 

 水曜日。

 スネイプが生徒を見渡し、チョークで書かれた黒板の文字を叩く。

「『ポリジュース薬』は変身術を用いずに、自らを他人に変身させる薬である。だが、この授業でその調合法を教えることは出来ん。興味のある者は、図書館の『閲覧禁止』の棚に行くがよい」

 それは教師から許可証にサインを貰うか、上級生に進級しろという意味だ。

 気の重い『魔法薬学』を終えたクローディアは虫籠を抱え、ハーマイオニーと待ち合わせている襲撃現場に向かった。

 既に3人が到着していた。お互いの情報交換に役立つ場所があると、得意げなハーマイオニーにお手洗いへと連れ込まれた。

 そこは『嘆きのマートル』の住処で知られる場所だ。去年クローディアは、濡れ鼠にされるという嫌な思い出がある。その時、クィレルの前で魔法を使ったのもこの場所だ。感傷に浸る間もなく、ハーマイオニーは遠慮せずにお手洗いに入る。

「こんにちは、マートル。お元気?」

 静かに親しみを込めるハーマイオニーは上を仰ぐ。空中を浮かぶおさげで眼鏡をかけたマートルが横目で睨んできた。

「この人たち、女じゃないわ」

 睨まれたハリーとロンは反射的に、ビクッと肩を痙攣させる。

「それは、そうさ」

 クローディアも『嘆きのマートル』の機嫌を取るために、愛想よく相槌を打つ。

「ねえ、『絶命パーティー』の時のことを聞きたいんだけど」

「嫌なことを思い出させないで!」

 マートルは癇癪を起こし、便器へと逃げ込んだ。

「あれでも機嫌のいいほうよ」

「あれでかよ」

 ハーマイオニーは肩を竦め、ロンは吐くフリをした。漸く、数日間で集めた情報を交換しあった。

「蜘蛛が逃げる場所か……、あの夜も蜘蛛が逃げてたわね」

「やめてよ。僕、蜘蛛が嫌いなんだ」

 大の蜘蛛嫌いなロンが身震いした。

「それよりも、継承者が誰か僕は絶対、マルフォイだと思う。言ってたろ? 『次はおまえたちだ!』って」

「いや……ないと思うさ」

「マルフォイなんかが継承者?」

 意気込むロンを失礼ながらもクローディアは否定し、ハーマイオニーはドラコを小馬鹿にした。ただ、ハリーだけはロンに賛成した。

「そうかもしれない。マルフォイ一族は代々、スリザリン出身だ。あいつの父親も何処から見ても悪玉だよ。ありえない話じゃない」

 同意して頷くロンは、小さく唸る。

「クラッブとゴイルを騙して何か聞き出せないかな?」

「それよりも良い方法があるわ。ただし、学校の規則を50も破ることになるし、おまけに危険なの、とってもね」

 じれったく話すハーマイオニーは、突然クローディアに熱い視線を向ける。急にそんな視線を向けられ、心臓が温かい意味で跳ねた。

「あなたのお祖父さま、魔法薬に詳しいわよね? 『ポリジュース薬』についてご存知か、聞いてもらえない? それと、よければ材料の調達もお願いしたいわ」

「ああ……スネイプ先生が今日の授業で話してたさ。なるほど、それならいけそうさ」

 跳ねる心臓の動悸に気づかれないように、クローディアが曖昧に頷く。しかし、ハリーとロンが目を丸くして『ポリジュース薬』について尋ねてきたので、ハーマイオニーは嘆く。

 クローディアは眉間のシワを指で解し、簡単に説明した。

「調合法は『閲覧禁止の棚』にあるからさ、先生の許可がいるさ。だから、お祖父ちゃんに先に聞くさ。日本にいるから時間かかるけどさ」

 急にハリーは自分の顎に手を当て、瞬きを繰り返す。

「スリザリンの談話室の場所……、クローディアのパパから聞けないかな?」

「どうして、クローディアのお父様に聞くの?」

「うちのお父さんがスリザリン生のOBだからさ」

「え、嘘!?」

 衝撃の事実だと、ハーマイオニーとロンは目を丸くした。

「その辺は、ハグリットが詳しいと思うさ」

 敢えて、スネイプのことは口にしない。話がややこしくなるし、今は関係ない。

 納得したロンが自らの肩を抱いて、身震いする。

「君のお祖母さん、マルフォイが苦手だろ? きっと、君のお父さんから、いろんな悪事を聞かされたからなんだ」

 その後、簡単に話を纏め、お手洗いを後にする。

「ロン! どうして女子トイレから出て来るんだ!」

 だが、運悪くパーシーと鉢合わせしてしまい、口論となったロンは、減点されてしまった。

 

 金曜の昼食中に、カサブランカが祖父とコンラッドからの返事を携えてきた。

 手紙の内容には祖父がドリスの家に滞在していることが書かれていた。何でも、病院の院長から働き過ぎの為、休みを押しつけられたらしい。

 他にも、大広間からスリザリン寮への明確な地図と、意外にも『ポリジュース薬』の調合手順の詳細、しかも材料は後日にでも配達することを約束されていた。

 癇癪を起こす『嘆きのマートル』を無視し、4人はお手洗いで手紙を広げる。

「スリザリンは、壁に向かって合言葉を言うさ。お父さんの頃は7年間、ずっと『純血』だったらしいさ。これって合言葉って言うさ?」

 予想より事態が順調に進み、ハリーとロンは冒険心が芽生えて興奮していた。クローディアは、順調すぎて不気味に感じた。

「難しそう、こんな複雑な薬、見たことないわ。あ、注意があるわ。……『動物の変身には決して使わないこと』……。へえ……」

 ハーマイオニーは丁寧に調合法を読み直し、歳月の部分に注目した。

「一ヶ月か……。この手順なら妥当ね」

「一ヶ月!! そんな悠長にしていたら、マグル生まれの半分がやられちゃうよ!」

 憤慨したハリーが、乱暴に怒鳴った。クローディアは、彼の肩に顎を乗せて頭を叩く。

「大声出したら、聞かれるさ。それに、他に方法がないさ。スリザリン生の誰かが『継承者』である確率は高いさ。なら、どうするさ?」

 叩かれた箇所を擦り、ハリーは渋々承諾した。

 

 土曜の朝は、グリフィンドール対スリザリンの寮対抗戦の為か、この日ばかりはハリーが『継承者』だと口にする者はいなかった。

 大広間で、サラダを平らげていたクローディアは、勝利したわけでもないのに、誇らしげなドラコが目に止まった。それにチョウが悪態を付く。

「もう勝った気かしら? 『ニンバス2001』を持っているからって」

 マリエッタが苦虫を噛み潰したように、顔を顰めて教えてくれた。

「さっき、廊下でマルフォイの父上がスネイプ先生と挨拶しているのを見かけたわ。きっと、そのせいよ。うう……嫌だわ。魔法省でも、評判悪いのよ」

「そうそう、うちの両親もルシウス=マルフォイをアズカバンに収容できなくて残念がってるわ」

 怯えるマリエッタに、クララも同意する。チョウが2人の親が魔法省に勤めていると教えてくれた。

(ロンのお父さんも魔法省さ。もしかして、大半の人って魔法省勤めさ?)

 つまりは役所関係、または公務員ということだ。政治関連の知り合いなどいないクローディアは、突然、胃が緊張してきた。

(私は、マルフォイパパに会わないようにするさ。色々と面倒さ)

 牛乳を飲み干し、クローディアは自身に喝をいれるために頬を叩いた。

 

 競技場を目指すと、ルーナとジニーが一緒に歩くのを見かける。気落ちした様子でジニーは歩き、ルーナはそんな彼女へ必死に話しかけている。

「ナーグルはあんたのせいじゃない、今日は楽しまないといけないもン」

 クローディアには、理解不能な会話であった。だが、ジニーは少し笑顔でルーナに感謝の言葉を述べていた。

 曇り空が少しずつ晴れる中、ほぼ満員の観客席で、クローディアはパドマと後方に席を取り、持ち込んだ双眼鏡で貴賓席を見渡す。

 フリットウィックが指揮する『楽団部』の部員が緊張の面持ちで楽器を握り、その中には硬直したリサもいた。

 不意に視線を変えると、普段の黒衣を纏ったスネイプを双眼鏡で捉えた。その隣には、目立つ銀髪に尊大な風貌をしたルシウス=マルフォイが堂々と腰掛けている。

「あら~、こわ~い、おっさんがいるさ」

「距離があってよかった……」

 安堵するパドマは、座りなおして試合開始を待った。

 ハリー達が入場すると、グリフィンドールへの声援が競技場を包んだ。

 マダム・フーチの合図で試合が開始される。

 正攻法とは言い難いが、状況はスリザリンに優位であった。スリザリンが点を入れる度に、貴賓席のスネイプが上機嫌に微笑み、ミスタ・マルフォイが満足そうに頷く。

(箒の力も、あるだろうけどさ。もう少し、マトモな試合して欲しいさ)

 コンラッドも元スリザリンのビーターだったことを思い、クローディアは複雑な気分に駆られた。

 スリザリンチームに優位な状態が続く中、観客席にいる何人かが、試合の異常さに気づいた。ブラッジャーがハリーのみを狙い続けているのだ。

「おかしい! あんな動き見たことない」

 3年生エディー=カーマイケルが叫ぶとレイブンクローの選手も口々に叫んだ。

「誰かが細工したんだ!」

 ブラッジャーを凝視する全員の前で、恐れていた事態が起こった。突進するブラッジャーがハリーの肘を強打し、彼は箒の上で悶え、何故か地面に突っ込んでいった。

 クローディアは軽い悲鳴をあげ、パドマも思わず手で顔を覆った。

 ハリーは体を回転させながら、芝生に倒れこんだ。その手には、金のスニッチが握られていた。

「ハリー=ポッターがスニッチを掴んだ! グリフィンドールの勝利!」

 実況のリーが興奮して、勝利を叫ぶ。しかし、ブラッジャーの動きは止まらず、地面のハリーを狙って何度も襲ってきた。

 すぐにマダム・フーチがブラッジャーに杖を向ける。

「フィニート・インカンターテム(呪文よ終われ)!」

 空中でブラッジャーは粉々になり、ハリーは折れた腕を押さえながら、安堵の息を吐く。クローディアも安心のあまり、力が抜けてその場に座り込んだ。

「私が治してあげよう!」

 だが、愚かなロックハートが呪文に失敗した。ハリーの骨を抜いてしまい、医務室に担ぎ込まれた。

 

ハリーはマダム・ポンフリーから散々、叱責された。

「癒術を甘く見て、全くロックハートったら」

 マダム・ポンフリーは、ひたすらロックハートを批判した。それを聞き、ハーマイオニーは不機嫌になっていた。見舞いに来たフレッド、ジョージは夜通しで騒ごうとしたが、校医に追い出された。

「折角、厨房から失敬してきたのに…」

 フレッドが手にしたポテトサラダを見て、わざとらしくため息をつく。

「ハリーが退院してから騒げばいいだろ」

 リーが身体を弾ませて廊下を突っ切る。

「クロックフォード、グリフィンドール寮に来ないか? 勝利の杯を共に交わそう!」

 ジョージが、クローディアの肩を抱いて勧めてきた。ハーマイオニーの自室に宿泊できる絶好の機会だ。

 クローディアは快く承諾しようとした。しかし、ジョージは突然、顔色を真っ青する。

「小娘、こちらを見よ」

 低いしわがれ声が頭上から降り注ぐ。嫌な予感がしても、ゆっくりとは彼女後ろを振り返る。

 虚ろな瞳に銀色の血を滴らせた『血みどろ男爵』がクローディアを眺めていた。他の幽霊は何処となく陽気な一面もある。しかし、この『血みどろ男爵』は違う。おそらく、自分が死した姿のままなのだ。

 この学校一の恐怖すべき風貌であるスリザリンの幽霊に、悲鳴を上げかけた。

「用件がある。着いてまいれ」

 こちらは用などない。

 無視して逃げようとすれば、『血みどろ男爵』はクローディアの身体に纏わりついた。氷が全身を駆け抜ける感覚に、寒気が走る。

「わかったさ。はい、行きます。行かせて頂きます」

 震える身体を撫でながら、クローディアは『血みどろ男爵』に着いて行った。

「えらいこっちゃ」

 すぐに、ジョージは『ほとんど首なしニック』を探しに走った。

 

 連れて来られたのは、スネイプの研究室。ここは教室とは違い、スネイプ自身の研究のために用いられる部屋らしい。一度も足を踏み入れたことのないクローディアには未知の領域だ。

 ただ、ここに来たということは、用件があるのはスネイプだ。非常に安心したクローディアは、胸を撫で下ろす。

 それは、一瞬のぬか喜び。本日のクィディッチ試合を考えると、今のスネイプは猛烈に機嫌が悪いに違いない。

「入るがよい」

 扉の前で『血みどろ男爵』が見下して命じた。ここで逃げても追いかけて来るだろうし、下手をすればピーブズまで襲ってくる。

 覚悟を決め、扉をノックした。聞きなれた闇色の返事が、入室を認める。

「クロックフォードです。失礼いたします」

 壁に直接設けられた棚には、瓶が整頓されて並んでいた。灯りがあるはずなのに、教室よりも更に暗い部屋だ。魔法使いの研究室と呼ぶには打ってつけである。

 部屋の中心に、スネイプとマルフォイが円卓を挟んでお茶会をしていなければの話だ。

 ほとんど勢いで扉を閉めようとしたクローディアは、背中から強烈な蹴りを食らって部屋に放り込まれた。ピーブズの笑い声が聞こえた。ご丁寧に、扉が勝手に閉まる。

 背中の痛みに耐え、クローディアは行儀よく背筋を伸ばす。

 マルフォイの見下し切った視線が、突き刺さった。同じ部屋にいるだけでも、緊張で手が汗ばむ。その上、全く好意を感じぬ瞳が捕食する蛇のように鋭い。同じ尊大な態度でも、ドラコとは格が違い過ぎる。他者に対して、有無を言わせぬ迫力が醸し出されている。

 スネイプとは別の意味で、恐怖を覚えた。

「こちらはホグワーツの理事をしておられるルシウス=マルフォイ氏である。挨拶をしたまえ」

「はじめまして、クロックフォードです」

 腰を折って挨拶するクローディアに、マルフォイは何も返さない。

 十分に眺めてから、マルフォイは蛇の頭を模した杖の柄で彼女の顎をしゃくり上げる。金属の冷たい感触が下斜めから押しつけられ、寒気がする。

「頭を下げるとは、良い心がけだ。君のことは、ドラコからよく聞いているよ。なんでも素晴らしい蛇を飼っているそうだね。名前は……そうベッロ。昔、私がこのホグワーツに在籍していた折にも、同じ名前の蛇がいたよ。まるで宝石のように美しく赤い鱗を持った蛇だった。飼い主だった生徒の名は、コンラッド=クロックフォード。おや? 偶然にも同じ姓だね」

 コンラッドの名に、クローディアは瞼が痙攣した。視界の隅にスネイプを入れる。どうやら、コンラッドとの親子関係をマルフォイに話していない様子だ。

『何も恐れることはない。スネイプ教授を信じていればいい』

 こんな場面でスネイプを信頼し切る余裕はない。

「本当に偶然ですね。でも、よくある名前です」

 音程がズレたのが、恥ずかしかったが構っていられない。

「君は外国から来ているそうだが、どうして、ドリス=クロックフォードが君の後見人なのかな?」

 柄を押しつける力が込められ、痛い。

「祖父が……、仕事でイギリスに来ることができません。それで、ドリスさんに後見人を頼みました」

 半分は嘘ではない。医者として開業している祖父は、おいそれと国を離れられなかった。コンラッドが表立った行動を取らないならば、自分にもしものことが起きれば、真っ先に対応できるのはドリスだけだ。

 マルフォイは冷笑し、スネイプを振り返る。意味を悟った教授は、ゆっくりと頷く。やっと、マルフォイの杖が離れた。

「どうやら、君は私の知人とは関係がないようだ。いや、失敬」

 詫びている様子は、まるでない。

「もうよい、下がれ」

 スネイプに命じられ、クローディアはお辞儀する。若干、痛む顎を撫でながら扉を開く。

「私の寮生を連れて行ったとは! どういうことなの! 男爵!!」

「……そんな、誤解だ! ヘレナ……」

 廊下で『灰色のレディ』が『血みどろ男爵』を凄まじい剣幕で怒鳴りつけていた。怒り心頭の『灰色のレディ』も珍しいが、狼狽して許しを請う『血みどろ男爵』はもっと貴重だ。

「レディ、レディ、落ち着いて。男爵が生徒に危害を加えたりしません」

 『ほとんど首なしニック』が仲裁に入るが、『灰色のレディ』が彼の首を弾いたので、ぼとりと落ちかけた。1枚の皮で繋がれた首がクローディアを見る。陽気に笑う彼の姿が、返って気色悪い。

「ほら、来ましたよ。あの子、え~と」

「クローディア=クロックフォード!」

 『灰色のレディ』はクローディアの姿を確認し、触れられないのに背を押すような仕草で急かしてきた。

「レディ、男爵はスネイプ先生の使い走りをしただけさ」

「いいえ、一切油断してはいけないわ」

 『灰色のレディ』が『血みどろ男爵』に構わず、クローディアと階段を上がった。階段近くの柱でジョージがこそこそと様子を窺っていた。

「大丈夫か?」

「うん、ちょっとスネイプ先生に呼ばれただけさ」

 そのままジョージとグリフィンドール寮に行こうとしたが、『血みどろ男爵』に連れて行かれたことを心配したペネロピーに見つかり、連れ戻された。

 

 深夜にベッロが騒ぎ出した。クローディアは安眠妨害だと虫籠に押し込み、縄で括りつけた。しかし、虫籠が激しく騒ぐので、魔法で硬直させ一晩放置した。

 朝になると完全にへそを曲げたベッロは虫籠から、出てこなくなった。

 大広間で寝ぼけながら、食事をしているとカサブランカが小包を運んできた。祖父から『ポリジュース薬』の材料が届けられたのだ。しかし、最も入手困難なニ角獣の角が仕入れられなかった。添えられた手紙にも、祖父の謝罪が綴られていた。

 クローディアはハーマイオニーと手紙と読み、お互いの顔を見合わせる。

「少し私に考えがあるわ。あなたはハリーを呼んできて、私とロンは、先にあそこにいるから」

 耳打ちに頷き、医務室を目指して先に大広間を出た。

「おい」

 尊大なドラコが呼びとめた。珍しく取り巻きを連れていない。用件もないので、無視して行こうとしたクローディアの髪をドラコが掴んだ。

「おまえは何なんだ?」

「髪を離すさ。マルフォイ。意味もわかんないさ」

 クローディアがドラコの手を弾くと、彼は不貞腐れたように下唇を出した。

「スネイプ先生まで、ベッロを諦めろと僕を諌めた。前は欲しければ、奪っても構わないと言っていたのに、どうしてスネイプ先生がおまえを庇うんだ? それだけじゃない。父上がおまえに構う必要はないと言ってきた。それに対して理由を教えてくれない。父上は僕に何でも話して下さるのに」

 屈辱を受けたと言わんばかりに、ドラコはクローディアを睨む。幼稚な彼の視線は、怯えるに値しない。

「親だからって何でも話してくれるわけないさ。ちょっと、教えて貰えなかったからってへこんじゃってさ。あんた、そんなに自分のお父さんが信じられないさ?」

「失礼なことを言うな! この『穢れた……」

「「はい、クロックフォード。おはよう♪」」

 突然、現れたフレッド、ジョージの片手がドラコの口を塞いだ。ドラコは嫌悪を剥き出しにして暴れるが、双子は決して離さない。

 大袈裟に双子は、喉を鳴らして笑う。

「昨日の試合、すごかったなあ。だって相手は全員『ニンバス2001』に乗ってもんな。でも、勝てなかったねえ。俺達に」

「シーカーの腕が悪いんだよ」

 それから飛び切りの意地悪な笑顔で言い放つ。

「「あれ? シーカーって誰だっけ?」」

 完全に喧嘩越しの双子をドラコの顔色が段々と赤くなる。そして双子の足を思いっきり蹴った。痛がる素振りを見せ、双子はドラコを離す。

「父上に言うからな!」

 憤慨するドラコは、双子を強く指差す。

「父上だってよ」

「わざわざ試合まで観に来たけど、昨日の試合はがっかりしただろうな」

 せせら笑う双子に、ドラコの顔がトマトのようになる。最後にウィーズリー家は貧困だとか喚きながら、大広間に向かった。

 もしも、ドラコがあのまま『穢れた血』と口にしていれば、クローディアは迷うことなく彼を殴っていた。そうなれば、スネイプとマルフォイは絶対に黙っていない。

「あんたら、私のこと助けてくれたさ?」

「さあ、どうだか?」

「ちょっと、マルフォイをいじりたかっただけって考えもあるぜ」

 ウィンクするフレッドとジョージに、クローディアは噴き出して笑った。

 

 医務室に行くと、運良くハリーが退院してきた。

 そのままクローディアはハリーを連れ、ハーマイオニーと待ち合わせた『嘆きのマートル』のお手洗いに直行した。

 ハーマイオニーとロンは小部屋で鍋を焚き、薬を煎じていた。鍋の中は、かなり怪しい色をしていた。まだ完成していないが、これを飲むことを遠慮したくなった。

「僕が眠ってたら、ドビーに起こされて警告していったよ。僕は学校から去るべきだって。しかも、9と3/4番線を通れなくして、ブラッジャーに細工をしたのも、ドビーだった。僕がドビーを問いつめようとしたら、逃げられちゃった」

「学校で良くないことが起きるだったけさ? もしかして、継承者がそれさ?」

 確認するクローディアにハリーは頷く。

「それにね、悪いことも起こった。コリンが石にされたんだ。校長先生とマクゴガナル先生が医務室に運んできて、そして、言ったんだ。「再び、『秘密の部屋』が暴かれた」って」

「コリンが襲われた……。可哀想ね。でも、再び開かれたってことは」

「ルシウス=マルフォイが学生だった時だよ。絶対。そして、ドラコに開け方を教えた」

 腕を組んだロンが、自信満々に頷く。

 クローディアは、先程のマルフォイよりも当てはまる人物が浮かんだ。

「ヴォービートの手口に似てる気がするさ。なんか、挑発するようなあの壁の文字とか」

「ヴォルデモートはホグワーツでスリザリン生だった。前にハグリッドが教えてくれたよ。だから、最初は僕もそうだと思ったんだけど。ドビーがヴォルデモートは関係ないって言ってた」

 『例のあの人』の名を聞き、ロンが青ざめて小部屋の壁に張り付いた。

「ハリー、やめてくれよ。『例のあの人』の名前を呼ぶのは……」

 ロンを無視して、クローディアは項垂れる。

「そう何度も、ヴォービートが学校でもめ事起こすのも嫌さ。前みたいに餌もないしさ。というか、あいつが学生やっている姿なんて想像できないさ」

 4人の思考は、取りあえず制服を着込んだ『例のあの人』を思い浮かべる。

 クローディアとハリーはクィレルに寄生していた時の姿が印象強く、顔が2つある生徒になった。

 ハーマイオニーはドラコなどのスリザリン生を一緒くたにした風貌で、かなりやぼったくなった。

 ロンは想像するのも恐ろしいと震え上がった。

「ヴォービートの若い頃を想像するなんて、ダースベーダーの若い頃を想像するようなもんさ」

「確かに難しいわね。私みたいな子供の頃があったなんて不思議だわ」

 それから2人は、例のマスクをつけた少年ダースベーダーを思い浮かべて笑う。数年後、ダースベーダーの若き日の物語が放映されるが、それはまた別の話だ。

「だから、ダースベーダーって何だよ」

「マグルの物語に出て来る悪役だよ」

 不貞腐れたロンの為に、ハリーは簡潔に告げる。

「それよりも薬はどうするんだい? 材料が一個足りないよ」

 話題を変えたロンに、ハーマイオニーは自信を込めて微笑む。

「スネイプ……先生の薬棚にあるじゃない。場合が場合だし、分けてもらいましょう♪」

 ハーマイオニーのあまりに大胆な発言が聞き違いかと、3人は耳を疑う。

「まさか、盗むさ? どうやるさ? ポッターの『透明マント』でも使うさ?」

「その手があったわね。仕掛けるとしたら、クローディアが授業中…水曜日がいいわ。私達は『魔法史』だし、適当に言い訳すればいいわ」

「容赦ないねえ、ハーマイオニー」

 更に大胆なハーマイオニーをロンは感心を通り越して、呆れた。

「それと、頂いた材料が3人分しかないの。クローディアは影に変身して欲しいの」

「へ……。ん。ああ、影。そうさ。そうするさ」

 今日まで、クローディアは影に変身していた事実をすっかり忘れていた。

「お! あの部屋の時以来だけど、大丈夫かよ?」

 ロンは興味津々にクローディアを見つめた。

「あれから、一回も変身してないさ」

「練習すればいいわ。大丈夫、一度、変身出来たなら、また出来るわ」

 絶対の確信を持つハーマイオニーにそこまで言われては、クローディアは断る理由を探す気にもならない。それに『ポリジュース薬』を飲まずに済むのも有り難かった。

 

 コリン=クリービー襲撃は瞬く間に広がり、1年生は襲撃を恐れ、集団で移動した。教員の目の届かぬ所で、魔除けの防犯グッズが流行りだした。

 レイブンクロー内では、蛇のベッロが逆に魔除けになると吹聴され、学年を問わず脱皮した殻を求めてきた。何故か、ネビルの耳にも入り、彼が一番しつこく殻を求めてきた。

「あんたは、マグルじゃないさ」

 呆れて呟くクローディアに、ネビルは半泣きで述べた。

「だって、僕が『スクイブもどき』だって皆知ってる。絶対、狙われるよ」

 怯え切ったネビルを哀れに感じた。そして、ベッロの脱皮した殻を分けると彼は喜びのあまり激しく踊りまくった。

 その状況が幸いしたのか、ベッロが『秘密の部屋』に関与の疑いは霞のように消えていった。

 そして、ハーマイオニーは『ポリジュース薬』の調合の傍ら、クローディアを影への変身を成すための特訓を指導した。

 クローディアは徐々にだが、影になる感覚を物にしていった。お手洗いに2人だけになれる時間が出来たことを不謹慎だが、少しだけ『継承者』に感謝した。

 

 特訓を終えたクローディアとハーマイオニーは、周囲を十分に警戒し、お手洗いを後にする。消灯時間が近いので小走りで廊下を突っ切っていく。

 寮の別れ道で、ジニーが階段の手摺りにもたれていた。

 ジニーは、コリンと仲が良い。彼が石化されてから、笑顔が完全に消えていた。フレッドとジョージが必死に励まそうとしているが、まるで効果がない。挙句に、双子の悪ふざけにパーシーが堪忍袋の緒が切れたとペネロピーが話していた。

「ジニー、1人でいたら危ないさ」

「そうよ。私と寮に帰りましょう」

 ハーマイオニーが優しい口調で、ジニーの手を引く。ジニーは小さく頷き、ハーマイオニーの手を取った。すると、動く階段の向こうから、ハリーとロンが降りてきた。

「ジニー、何処にいたんだ。心配したんだぞ」

 眉を寄せたロンがジニーに駆け寄り、ハリーがクローディアに気づいて声をかける。

「クローディア、1人で寮に帰るの? 僕が送るよ」

「いや、大丈夫さ。ありがとうさ」

 即答したクローディアの前に、『灰色のレディ』がスカートを翻す。

「グリフィンドールの皆さん、御機嫌よう。クローディア、戻ってない生徒は、あなただけよ」

 心配で迎えに来てくれたことに、感謝した。4人に手を振り、クローディアは『灰色のレディ』と自寮を目指して歩いた。

「どうして……、あんな……」

 怨めそうにジニーがか細い声で呟く。誰にも聞きとられることはなかった。

 

 12月の最初の土曜。

 レイブンクロー対ハッフルパフとの寮対抗試合は、例年よりも観戦する生徒が増加していた。少しの娯楽を味わい、襲撃事件を忘れようとしているのだ。

 クローディアもパドマ、セシル、サリー、マンディと観戦のために競技場を目指す。

 ハーマイオニーは試合よりも調合の見張りが優先した。ハリーとロンはネビルやシェーマスと約束があるので、クローディアとは別行動になる。

 競技場の手前で、フレッドとジョージ、リーと寄り添い、試合の勝敗を賭けているのを発見した。

「クロックフォードも賭けないかい? 自分の寮にいくら、賭ける?」

 ジョージが手招きし、賭けに誘ってきた。

「嫌さ」

 賭博に興味のないクローディアは、適当に流そうとした。

 急にパドマ達が忍び笑う。

「俺達の試合を賭けているのか?」

 クローディアの背後に、イタズラっぽい笑みを浮かべたロジャーが仁王立ちしていた。

「ディビーズ、私はしてないさ!」

「そうだよな、俺達が勝つに決まっている。賭けにならない」

 胸を張るロジャーに、フレッドが大袈裟に肩を竦める。

「なら、僕はハッフルパフに有り金全部♪」

 ロジャーは自分の唇に手を当て、閃いたように唇に弧を描く。

「俺も賭けよう。うちのチームが勝ったら、クロックフォードと付き合う。これでどうだ?」

 慣れた手つきで、クローディアの肩に手を置くロジャーに、彼女は変な音程で返した。その反応を見たサリーが綺麗な口笛を吹く。

「いやいや、クララと付き合ってるんじゃないさ?」

「彼女との関係は、休暇と共に終わっているから、問題ない。クロックフォード、試合が終わったら、更衣室で待っててくれ」

 反論も聞かず、上機嫌にロジャーは更衣室に入ってしまった。

「良かったじゃない、クローディア! 男の子から誘いよ!」

 嬉しそうなマンディがクローディアの腕を小突く。にんまりと笑うセシルが拍手した。

「クロックフォードは、ああいうのが趣味なのかい?」

「手が早いから、お勧めは出来ないよ」

 からかうフレッドとジョージがクローディアの頬に指で突く。

「アイツ、ホグズミードに行くとき、アンジェリーナを誘ってたらしいぜ。振られたけど」

 リーの言葉を受け、クローディアは横目で威嚇するが如く男性陣を睨む。

「勝っても断るさ!」

「ええ! 勿体ない」

 パドマが文句を言っていた。

 天が不遜な賭けを罰したのか、試合はハッフルパフが勝利した。フレッドは臨時収入を得たと満足していた。

 

 フリットウィックがクリスマス休暇中に居残る生徒を確認に来た。早速、クローディアは名簿に自分の名を記した。ドリスは残念がっていたが、ハリーが詫びの手紙を送ったことで承知してくれた。

 事情があるにせよ、学校のクリスマスパーティーに参加できる。それに胸躍らせた。

 

 水曜日。『魔法薬学』の授業中、クローディアは普段より派手に調合に失敗し、鍋が天井に吹っ飛んだ。スネイプに烈火の如く罵られた。その間、自らの授業を抜け出したハーマイオニーは『透明マント』を纏い、スネイプ個人保管室から二角獣の角を見事に盗み出した。

 代償として、レイブンクローは10点も減点され、クローディアは罰則を言い渡された。

 調合はハーマイオニー達に任せ、夕食後に重い足取りで地下教室を目指した。

(あんなに飛ばせるはずじゃなかったさ)

 せいぜい正体不明の煙が上がる程度で済ませるつもりだったが、クローディアはわざと失敗することも出来なかった。

 失敗の現場に着くと、そこには他の生徒の姿も見受けられた。

 珍しく片割れと離されたジョージ、ハッフルパフ4年生セドリック=ディゴリーだ。3人は、それぞれ調合中に爆破を起こして床や壁、天井を焦がした。

「我輩は貴様らを見る時間が惜しい、戻るまでに全て終わらせろ。でなければ減点だ」

 3人を残し、スネイプは教室を去った。

 各自、雑巾やモップを手にし、作業に取り掛かる。

「最近の罰則でも、生徒を1人に出来ない。だから、こうして集められたんだよ」

 丁寧な口調でセドリックは、クローディアに教えた。

「僕はロジャーと友達だ。君の話もよく聞くよ。彼は君を魅力的な子だって言っていた」

「ディゴリー、スネイプ先生に聞かれたら怒られるさ」

 素っ気なく、クローディアがモップで天井を磨く。

 無駄口を叩いていると、スネイプの足音が廊下から聞こえてくるのだ。

 1時間後、教室にスネイプが戻る頃には、3人の作業は終了していた。退室を命じられ、3人は我先にと階段を上がる。ジョージは1段飛ばしで走って行った。

「ロジャーのことなんだけど、彼を許してあげて欲しいんだ」

 クローディアをセドリックが呼び止めた。ロジャーの名に、悪態を付く。

「怒ってないさ。ただ、賭けにされたことが嫌なだけさ」

「君は頭が固い。そういうことを賭けにするのは、よくあることだよ。これはきっかけなんだ。彼が自分に合わないかどうか、付き合ってみてから決めればいいじゃないか?」

 背筋に寒気が走る。好意のない相手と交際するなど、考えられない。

「ディビーズのことは好きじゃないさ」

「他に好きな男がいるのかい?」

「いないさ!」

 詰問され、クローディアは声を荒げた。しかし、セドリックは噴出して笑う。

「怒ることないだろ? いないなら、尚の事、誰かと交際したらいい。まあ、ロジャーは少し遊びすぎだけどね」

「必要ないさ」

 これに意外そうに、セドリックは首を傾げる。

「君は恋をしないのか?」

 悲しそうな視線に、言葉を失う。傍から見れば、クローディアがセドリックを攻め立てているように見える。

「お取り込み中に悪いが、ここでそういった話はゴメンこうむる」

 闇色の声に、クローディアとセドリックは急いで階段を上りきった。

 別れ際に、セドリックは念を押す。

「ロジャーは悪いヤツじゃない。彼にチャンスを与えてあげて欲しいんだ」

 返答せず、会釈だけしてクローディアは自分の寮を目指した。

 螺旋階段の手前で、ジョージが壁にもたれていた。壁の絵が睡眠妨害を訴えているが、ジョージはそれを無視している。

「ディゴリーのヤツ、なんだって?」

「ロジャーをよろしくってさ」

「付き合うのか?」

 先程の会話の続きかと思い、クローディアは再び嘆息する。

「違うさ……。もうやめて欲しいさ、おやすみジョージ」

「僕はフレッドだよ」

 苦笑する赤髪の男をクローディアは不傾げに見つめる。

「いいんだ。ママだって、僕らの区別がつかない。僕らを見分けられるのは、僕らだけさ」

 俯き顔を隠す仕草に、クローディアは胸が締め付けられる。

 パチル姉妹と違い、赤毛の双子は一緒にいないとクローディアも見分けられない。本人達はそれを利用し、周囲を和ませているがその心情は穏やかではないのだと悟った。

「ごめんさ」 

 呻くと、急に含み笑いが降り注ぐ。

「じょーだんだよ♪本当は俺がジョージ!」

 活発な声を上げるジョージに、クローディアは呆気に取られて口を開ける。

「さっきのは、嘘さ?」

「ママは俺達を見分けられないのは、本当だって。もしかして、それを俺とフレッドが悲観してると本気で思った?」

 イタズラっぽく笑うジョージの脇に、クローディアは拳を叩きつけた。痛みで彼は腹を押さえて悶絶する。

「悲観したことはないさ?」

「ないよ。これは俺達の最大の利点なんだ。最高だよ」

 不快か安心か判断出来ない。そんな複雑な気分でジョージと別れた。

 

 談話室には、宙を漂う『灰色のレディ』がいる。クローディアを見るなり、『灰色のレディ』は興味深そうに首を傾げる。

「男のことで悩んでいるわね?」

「……顔に書いているさ?」

 心を見抜かれたようで恥ずかしい。『灰色のレディ』は、くすりと気取った笑みを見せた。

「経験よ。あなたの場合は、興味のない男に言い寄られて困っているってところかしら?」

 またも当てられ、クローディアはビクッと肩を跳ねる。

「気をつけなさい。蔑ろにされた男は何をするか、わからないわ」

 深刻な口調で『灰色のレディ』は警告してきた。心に留めておくとクローディアはお辞儀した。

 自室では、パドマとリサが宿題をせっせと仕上げていた。クローディアも教科書を取り出して、宿題に取りかかる。

 ロジャーに肩入れするセドリックの言葉が脳裏を掠める。

〝恋をしないのか?〟

 その刹那の間、真っ先にハーマイオニーを連想した。

(彼女に相談したいから……?)

 それが理由だと結論づけた。

 だが、こんな色恋沙汰を相談する気になれない。それよりも知られたくないという気持ちが強かった。

 




閲覧ありがとうございました。
『灰色のレディ』、すごく優しいです(勝手な妄想)。
スネイプとマルフォイパパの茶会は、個人的には萌えます。
●エディー=カーマイケル
 原作五巻にて、下級生にインチキ薬を売って小銭を稼いだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。