なんでフリットウィック先生がやってくれなかったんでしょう。不思議。
蛇語などの人外語は[]と表記します。
追記:16年10月2日、17年3月5日、18年9月20日、誤字報告により修正しました。
玄関ホールの掲示板に、新しい告知が貼られていた。この掲示板は重要なことにしか、使用されない。大方の連絡事項は、各寮の寮監、もしくは監督生が口頭で報せる。
つまり、この告知は全校生徒への最新の御触れということだ。
誰もが、告知の内容を知りたがり、群れとなって掲示板に押し寄せた。
「夕食の後に、『決闘クラブ』を開催します? 場所は大広間、参加は自由ってさ」
読み上げたクローディアの隣で、パドマが首を傾げる。
「『闇の魔術への防衛術』があるのに、こんなことしていいのかしら?」
「実際、あの授業で学ぶことなんて、あんまりないしねえ」
後にいたマンディが呟く。確かに、あれは授業と呼ぶよりもロックハート自慢大会になっている。彼女のように、ロックハートに幻滅し出す生徒もチラホラと現れ出す始末だ。
「私は『楽団部』の練習がありますので、残念ですが参加できませんわ」
残念とリサは肩を落とす。
「ハーマイオニーはどうするさ?」
「勿論、行くわ。おもしろそうだし♪あなたも行くでしょう?」
当然と笑うハーマイオニーが、クローディアの腕を掴んだ。
「ハーマイオニーと一緒なら、何処までもさ」
『決闘クラブ』にクローディアだけでなく、他の生徒も期待に胸を躍らせた。
余分な荷物を置きに、自室へ戻る。ベッロを虫籠に戻そうとすると、強い力で抵抗された。余分な荷物扱いしたことが気に入らないのか、ベッロはクローディアの腕に絡みついてくる。
「着いてくるさ?」
ベッロの顎を撫でながら、談話室に下りる。炎が燃える暖炉の傍で、ルーナは教科書を読み耽っていた。
「ラブグッドは、『決闘クラブ』に行かないさ?」
「今読まないと、ナーグルが隠すから」
勉強に集中したい。そういう意味だと捉え、ルーナに「頑張れさ」と声をかけた。
午後8時前、大広間は生徒でごった返した。寮のテーブルは取り払われ、代わりに趣味の悪い金色の舞台が用意されていた。
(嫌な予感がするさ)
遠巻きに見学しようと、クローディアは壁際に寄る。だが、ハーマイオニーに腕を引かれて舞台の傍に連れて来られた。ベッロのお陰か、周囲は自然と2人に場所を空けた。
「誰が教えるのかしら? フリットウィック先生が決闘の達人だって聞いたことあるけど」
「フリットウィック先生は、『楽団部』で来れないさ」
クローディア達に追いついたハリーが耳聡く話題に入る。
「誰だっていいよ。あいつでなければ」
アイツとは、ロックハートのことだ。
「それだと、後はスネイプ先生しかいないさ」
「それも嫌だ」
ロンが吐くフリをする。ハリーの願い空しく、蝋燭の光の反射を強く受ける深紫のローブを自意識過剰に纏うロックハートが優雅に舞台に現れた。
クローディアは心の底から、ガッカリした。
「さあ、集まって、集まって! 皆さん私がよーく見えますか? 声はよーく聞こえますか?」
舞台に生徒が集まるのを確認したロックハートは、選挙演説を行う政治家のように大きく両手を広げる。
「最近は物騒な事件が続いていますので、校長にお許しを頂き、『決闘クラブ』を開くことになりました。万が一に備えて皆さんを鍛えます。私も何度か危険な目に合ってきました。詳しくは私の著書を読んでください」
結局、本の宣伝をした。
気取ったロックハートはローブを脱ぎ、適当に生徒の群れに投げる。喜んだ女子生徒がローブを取り合った。
「私の助手を紹介しましょう。スネイプ先生です!」
紹介と同時に、スネイプが舞台に足を踏み入れる。満面の笑みのロックハートと対照的に、スネイプの表情は不機嫌よりも不快に満ちている。授業の時よりも、確実に恐ろしい事が起きると大半の生徒は予感した。
「勇敢にも模範演技を手伝って下さるそうです。ご心配なく、『魔法薬学』の教授を消したりなどしませんから、ご安心を」
寧ろ、ロックハートがスネイプに消されそうである。
「相討ちで、両方やられっちまえばいいと思わないか?」
ロンがハリーに囁くのが聞こえた。
「んじゃ、ロンは相討ちに1ガリオンさ? 私はスネイプ先生が圧勝に1ガリオンさ」
冗談を口にするクローディアに、ロンは噴出して笑った。
「良いですか、決闘において礼儀は重要です。まずは、お辞儀をする。決闘の相手に敬意を込めてね」
ロックハートとスネイプは向き合い、一礼する。
「そして、3つ数えてから、お互いの魔法を放つ。3、2、1」
ロックハートが余裕綽々で数え終えた瞬間。
「エクスペリアームズ!(武器よ去れ)」
スネイプの詠唱に合わせ、杖から紅の閃光がロックハートに直撃した。気が付けば、ロックハートは壁際に衝突し、無様な姿で床に倒れていた。ドラコ周辺のスリザリン生と何人かの男子生徒が歓声を上げた。ハーマイオニーは不安で震える。
「先生、大丈夫かしら?」
「知るもんか」
ロンは笑みを隠さずに声を上げた。ロックハートの哀れな姿に笑いを抑えきれないクローディアは、ロンに手を差し出す。
「ロン、1ガリオンさ」
「げっ!?」
冗談とクローディアが返すと、ロンは安心した。
ロックハートは平静を装い、覚束ない足取りで舞台に上がり直す。
「今のは、『武装解除の術』ですね。思った通りです! 生徒にあの技を見せたのは、素晴らしい思い付きです! あまりにも、初歩的過ぎたので、私はわざと術を受けました。それが生徒の為にもなります!」
「流石は、ロックハート先生! 身を犠牲にして手本になったのね!」
サリーが黄色い声で叫んだ。
「それよりも、魔法の凌ぎ方を教えることが先ではありませんかな?」
皮肉っぽく口元を曲げるスネイプに吐き捨てられ、ロックハートは口を噤んで生徒達に振り返る。
「では、誰かにやってもらいましょう! 挑戦者はいますか!?」
「はい! 僕たちです!」
突然、クローディアの腕が上がった。いつの間にか、傍にいたフレッドに腕を掴まれていた。
「よろしい! ミスタ・ウィーズリー、ミス・クロックフォード、前へ」
「頑張ってね」
ハーマイオニーに応援され、クローディアは渋々、ベッロをパドマに預けた。フレッドに引きずられるように舞台に上がった。
「我輩からも、生徒を選ぼう。ミスタ・ポッター。ミスタ・マルフォイのお相手はいかがかな?」
意地悪く笑うスネイプの挑戦を受け、ハリーは舞台に上がる。指名されたドラコは、意気揚々と乗り込んだ。
(バスケの試合の時を思い出すさ。大丈夫さ)
観衆の目に晒されたクローディアは、激しくなる鼓動を宥める。完全に悪戯を企むフレッドと向かい合い、礼儀に倣って一礼した。
「恐いか、ポッター?」
「そっちこそ」
その後ろでハリーとドラコは睨み合い、乱暴に一礼した。
「杖を構えて、私が3つ数えたら、『武装解除の術』をかけなさい。いいですか? 取り上げるだけです」
ロックハートが数え終える前に、フレッドは叫んで杖を振り上げる。
瞬間、クローディアの足元から風が起こり、ローブとスカートが捲れ上がった。彼女の下着が丸見え……になることはなかった。日頃から、スカートの下にはブルマを穿いている。
「何それ!? カボチャパンツ!?」
「違うさ! ブルマ! 短パンみたいなもんさ!」
急に男性陣からブーイングが起こり、不謹慎だと女性陣が騒いだ。
「男子のスケベ!」
「事故だよ。事故!」
スカートを押さえたクローディアは油断したフレッドを抱き上げ、有無を言わさずバックドロップで舞台に叩きつけた。
フレッドは急な衝撃で脱力し、目を泳がせている。
「かっこいい! やっちゃえ~!」
女子生徒から歓声が上がり、ジョージと数人の男子生徒がフレッドに駆け寄る。
「しっかりしろ、傷は浅いぞ」
怪我などしていない。
クローディアが嘆息すると、フレッドは仲間にしか聞こえないように呟いた。しかし彼女には、はっきりと聞き取れた。
「Bだ……去年より大きくなっている……。体重も」
「てめえの○○○ちょん切って! フライにしてやんさ!」
我を忘れたクローディアは、フレッドに飛びかかろうとした。その前に、スネイプが彼女のローブを強く掴んだので、身構えていたフレッドは助かった。
「なんという下品な言葉を、恥を知りたまえ! レイブンクロー5点減点!」
「ウィーズリーが、失礼なことをしたんですよ!?」
ロジャーが周囲の生徒と抗議するが、無視された。クローディアは投げ捨てられるように舞台から下ろされた。
ロックハートはわざとらしく咳き込み、周囲を注目させる。
「では、ミスタ・ポッター、ミスタ・マルフォイ。真面目にお願いしますよ」
呆然と成り行きを見守っていた2人は、我に返りお互いを睨みなおす。
スネイプはドラコに近づき、屈みこむように彼の耳元で何かを囁いた。クローディアが声を顰めてハリーに呼びかける。
「マルフォイの杖の動きをよく見るさ。危なくなったら、避けるさ!」
不安そうにハリーは曖昧に頷く。
ロックハートが号令しようと口を開く。その前にドラコは、意気揚々と杖を振り上げる。
「サーペンソーティア!(ヘビ出でよ)」
杖から光と共に、黒く太いコブラが床に参上した。
生徒は悲鳴を上げ、クローディアも息を呑んだ。ベッロと違い、野生の本能丸出しのコブラは殺気立っている。
「動くな、ポッター。追い払ってやる」
コブラを目にし、硬直したハリーを嘲笑するスネイプが前に出ようとした。何故だが、ロックハートがスネイプを引きとめた。
「ここは、私にお任せあれ! ヴォラーテ・アセンデリ(蛇よ踊れ)!」
コブラは音を立てて跳ねるだけで、床に戻ってきた。しかも、挑発され怒り狂ってしまった。コブラは近くにいたジャスティンに向かって威嚇する。
コブラの興奮に煽られたのか、ベッロはパドマの手から離れ、恐怖で体を竦めるジャスティンの前に飛び出した。
2匹の蛇が舞台で睨み合う。大きさは、ほぼ互角。互いを牽制し、隙あらば食らい付こう。命を賭けた彼らの姿に、皆、恐怖を覚えた。
興奮したベッロは、クローディアの命令など利かない。かといって、明確な命令が浮かばない。
[何もせずに去れ!]
途端にハリーが叫んだ。
それはクローディアがこれまで耳にしたことのない不思議な響きであった。しかも2匹の蛇は、急に気を静める。主の機嫌を伺う下僕のように、蛇達はハリーを見上げる。
(なんて言ったさ?)
ベッロだけでなく、この場に現れただけの蛇までハリーに従ったのだろう。
困惑するクローディアを余所に、スネイプがコブラに杖を向ける。
「ヴィぺラ・イヴァネスカ(蛇よ去れ)」
杖から軽い閃光が放たれ、コブラは塵と化してこの場から消えた。
コブラが消え、安堵したクローディアは、ベッロを抱きかかえた。スネイプは不機嫌さや嘲りを消し、黒真珠の瞳はハリーを鋭く探っている。
その表情に見覚えがあった。クローディアの脳裏に回想が浮かびかける。必死に頭を振り、拒絶した。
代わりに、クローディアはスネイプに叫んだ。
「そんな目で見ないでください!」
敵意とは違う目で、スネイプはクローディアを見据えた。
生徒の誰もが、ハリーに対する不穏の声を口走りだした。機転を利かせたハーマイオニーがハリーの腕を掴んで、大広間から走り去った。
クローディアとロンもそれに続いた。誰1人、止める者はいなかった。
誰もいないグリフィンドール寮の談話室。
「あなた、蛇と話せるの!?」
ハーマイオニーに問いつめられ、ハリーは目を丸くする。
「何言っているんだ。蛇となんて、誰でも話せるだろ? だって、僕が魔法使いだって知る前に従兄のダドリーに蛇を嗾けたことあるよ。クローディアだって、ベッロを連れてるじゃないか。話せるでしょう?」
当たり前だと、ハリーはクローディアに同意を求めた。残念だが、首を横に振るしかない。
「ベッロが賢いだけで、うちの家族では誰も蛇と話せたりしないさ」
「じゃあ、あの蛇も賢いんだよ。だって僕が『何もせずにされ』って言ったら、大人しくなったし」
「ハリー、君は人の言葉を喋ってなかったよ。あれは『蛇語』だった!」
『蛇語(パーセルタング)』。
それを駆使した魔法使いを『パーセルマウス』と呼ぶ。ホグワーツ創始者であるサラザール=スリザリンが最も有名であり、彼の特異体質だった。魔法界で『パーセルマウス』とは、彼の血族であるという認識が強い。
つまり、ハリーはサラザール=スリザリンの末裔であると思われてもおかしくない。
ようやく状況を理解したハリーは、真っ青になり絶句した。
「そんな……、だって、僕は知らなかったんだ。『蛇語』という言葉だって、本当に知らなかったんだ」
「スリザリンは、千年以上前の人よ。だから、あなたが末裔だとしても、ありえないことじゃないわ」
現実を突きつけられたハリーは、弱弱しくソファーに座りこんだ。
「まあまあ、ポッター。そう落ち込むなさ。あんたの言うとおり、ただの偶然かもしれないさ」
「暢気だな、クローディア。ただの偶然で『蛇語』が喋れると思うのか?」
厳しい口調でロンが迫ると、あっけらかんと答えた。
「そりゃあ、そうさ」
まるで、今日の天気は晴れだというような簡単な口ぶりに、ロンは呆気に取られた。
「だってさ。ハーマイオニーみたいにマグル出身の魔女がいるし、フィルチのような魔法族生まれのマグルがいるさ。それなら、ひょいっと『パーセルマウス』が生まれても、何の不思議もないさ。私がバスケ好きなのだって、私自身の趣味だしさ」
弱気だったハリーに、微かな喜びが浮かんだ。
「クローディアは、僕がスリザリンと関係ないと思う?」
「ポッターが関係ないって言うんなら、私はそれを信じるさ。そうだろうさ?」
クローディアがハーマイオニーとロンに声をかける。2人は、戸惑う仕草を見せたがハリーの味方だ。
「蛇といえば、……ベッロは何処に行った?」
ロンに言われて、周囲を見渡す。確かにベッロの姿はなかった。
レイブンクロー寮の談話室にベッロはいた。しかも、ルーナの膝で寛いでいた。
「ただいまさ、ラブグッド。ベッロと遊んでくれたさ?」
声をかけ、ルーナの隣に座り込む。
「『決闘クラブ』は、おもしろくなかったさ。スネイプ先生が『武装解除の術』を披露したぐらいしか、身に着いたことはないさ」
話しかけられたことが意外だったらしく、ルーナは瞬きした。
「スネイプ先生が教えた?」
「いいや、ロックハートさ。あの人、本に書いてある通りの人物とは思えないさ。やることなすこと適当だしさ」
気の毒そうにルーナは頷く。
「あたしもね、ロックハート先生は本の通りの活躍はしてないと思うもン」
「へえ、ラブグッドもそう思うさ? 人を見る目があるさ」
クローディアが笑いかけ、ルーナは瞬きせず笑顔を浮かべる。口を月のように曲げて笑う表情は、少し不気味だ。それでも、何処となく愛嬌を感じた。
大吹雪で窓の外は完全に白さで消されていた。
廊下より比較的、暖房の効いた教室でも若干寒気が漂い、クローディアは寒さに震えた。ベッロは虫籠の中で蹲り、出てくる気配はない。
「では、皆さんには、自分の使い魔をゴブレッドに変えてもらいます」
マクゴナガルが寒気を物ともせずに、教室全員に指示する。
リサはキュリーに向けて、杖を振るうと細長い尻尾をつけたグラスに変身した。パドマは、フクロウのシヴァを見事なゴブレッドに変身させたので、マクゴナガルを喜ばせていた。
しかし、セシルの使い魔は手の平の大きさもあるタランチュラで、冬眠に入ってしまったのだ。半透明の巣箱から、使い魔が起きてくる気配がない。セシルは気が滅入っていた。
「ベッロは、起きているのに……」
羨ましそうに、セシルがベッロを眺めてくる。
クローディアの後ろの席で、テリーが寒さで震えだした。隣にいるアンソニーが彼を摩擦で暖めようと背中を擦っていた。それを見ていたマイケルがイタズラ心を芽生えさす。
「なら、毛深くなればいいんじゃね?」
アンソニーが止めるのも聞かず、マイケルはテリーに杖を振るった。瞬間にテリーは、白と黒の縞模様で中途半端な形態のアナグマとなってしまった。
「ミスタ・コーナー! 何をしているんですか!」
気づいたマクゴガナルが激怒し、マイケルを頭から怒鳴りつける。剣幕に竦んだ彼は、すっかり項垂れた。
横目で見ながら、クローディアは十分体を暖めたベッロを虫籠から取り出す。
「さあさ、あんたをゴブレッドにするさ」
クローディアが杖を振り上げようとすると、突然ベッロは開眼した。そして、素早い動きで教室の扉を器用に開けて教室を出て行ってしまった。
「何さ、あれ?」
呆然するクローディアはパドマと顔を見合わせたが、彼女も肩を竦めるだけであった。
「ミス・クロックフォード。本日の課題をお忘れですか?」
当然、授業中に使い魔を逃がしたと、マクゴナガルに責められた。
「襲われた! お~そわれた! 生徒がまたポッターに襲われたぞ!」
愉快げなビーブズの叫び声が教室にまで響いた。一気に教室内は騒然となる。
「お待ちなさい! ミス・クロックフォード!」
瞬時にクローディアは、マクゴナガルが制するのも聞かず、乱暴に扉を開けて廊下に飛び出した。
クローディアの瞳に映ったのは、恐怖に強張り虚ろな目で倒れたジャスティン、煙が固まったように浮かぶ『ほとんど首なしニック』だ。その2人を焦燥し激しく頭を振るうハリーが立ち尽くしていた。
「ちがう……、僕じゃない! 僕が来た時には、もうこうなっていた!」
クローディアが駆け寄る前に、マクゴナガルが押しのけて廊下に出た。他の教室から生徒が溢れ出そうになるのを防ぐためだ。
「誰も教室を出てはなりません!」
反論を許さぬ厳格な声に、生徒は全員足を止めた。代わりにフリットウィックとシニストラが廊下に現れた。
「ミス・クロックフォードも教室へ、はやく!」
生徒達は廊下に出ないように扉から、犠牲者2人を目にした。
「ベッロ! 何処に行ったさ! ベッロ!」
廊下の何処にも、ベッロの姿はない。教室からマンディが引っ張り込むまで、クローディアはベッロを呼び続けた。
「ハリー=ポッターがまた犠牲者を出した。今度は2人もだ」
「あいつは、『パーセルマウス』だ。継承者はハリー=ポッターで確定だ」
襲撃事件の噂が飛び交う昼食中、クローディアはベッロの身を案じた。勿論、ジャスティンのことも心配だ。彼はパドマと仲が良かった。そのパドマは、襲撃を知って医務室に走って行った。
グリフィンドール席にいるジニーと目が合う。彼女の顔色も青く、今にも泣き出しそうだ。コリンの時に受けた恐怖が蘇ったのだろう。
不意に足が何かも触れた。見下ろすと、ベッロがいた。一安心したクローディアは、心配と喜びで軽くベッロを叩いた。
昼食を手早く済まし、ハーマイオニーとの待ち合わせに急ごうとした。しかし、ペネロピーが深刻な表情で呼び止められる。
「先生から大切な話があるわ。その子も一緒に来て頂戴」
ペネロピーからただ事ではない雰囲気を感じた。クローディアは慎重に頷き、虫籠を下げながら、ペネロピーに付き従った。
案内されたのは、職員室だ。
ここには、良い思い出はない。回想を停止し、気を引き締める意味でクローディアは背筋を伸ばす。ペネロピーが緊張な面持ちで職員室の扉をノックする。中からフリットウィックが現れ、中へと誘導した。
室内には、フリットウィック、マクゴナガル、そしてスネイプが複雑な表情で立つ。3人が取り囲む中心に、硝子で出来た透明の箱が置いてあった。
「ミス・クロックフォード、一連の襲撃事件で皆が蛇を恐がっているのは、ご存知ですね。その為、ベッロはしばらくの間、スネイプ先生が預かることになります」
理解の及ばぬ感覚に、全身の毛穴が粟立った。
「ベッロは誰も襲いません! 襲っていません!」
「わかっております。一時的な処置です」
マクゴナガルの厳格な物言いの中に、悲痛さが含まれていた。安易に決定したことではないと悟れたが、首を縦に振れない。
脳内で弁明を模索する内、事情を悟ったようにベッロが虫籠から身を乗り出し、硝子箱へと体を吸い込ませる。自らの尻尾で、硝子箱の蓋を閉じた。
――ガタンッ。
その音がこれまで聞いた中で最も、重くクローディアの胸に響いた。
「ベッロ……」
硝子箱に駆け寄るクローディアを尻目に、スネイプは硝子箱を持ち上げる。
「我輩の研究室なら、スリザリンの生徒達も喜びましょう。皆、こやつを気に入っておりますのでな」
スネイプの口元は、一切笑っていなかった。
思い返せば、ベッロは時折、警戒の叫びを上げていた。ベッロにしか、感じ取れぬ危険を教えていたに違いない。それに気付かず、再び、ベッロを失う事態を招いてしまった。
自分は何も成長していない。自責の念に駆られた。
午後の授業中、クローディアは上の空で過ごした。だから、ジャスティンのことで憔悴したパドマに声をかける余裕などなかった。
一ヶ月の間に、4人にとって馴染みとなったお手洗いに集合した。
襲撃の後、ハリーは校長室でダンブルドアに詰問されていた。
「校長先生は、僕を疑ってすらいなかったよ。でも、僕も流石に退学させられるんじゃないかと思った。ハグリッドなんて、駆けつけて来て『ハリーはそんなことはしない! 魔法省に証言する』って言ってくれた」
クローディアは、職員室でベッロを奪われたことを報告しあった。
「ベッロが没収されただって? しかも……スネイプ先生に、不味いな」
「なんかあんの?」
悩むハリーに、ロンは怪訝する。
「僕らの『薬草学』はこの吹雪で温室が使えなかった。それで、図書館で自習をしていたんだけど……僕はちょっと外に出たくなって、そしたら、ベッロを見かけたんだ。それで、僕は聞いたんだ。……ベッロの声を」
3人は口を開かず、ハリーの話を聞き入る。
「『あいつがいる、そこにいる』って、ベッロは確かに言ったんだ。それで、そのまま何処かを目指してた……。ハロウィンの夜に、僕2つの声を聞いたって言ったよね?その内のひとつはベッロだった! ベッロは怪物の正体を知ってるんだ」
興奮したハリーは呼吸を乱す。ロンが彼を宥めるため、背を擦る。
クローディアは、知りうる限りの知識を検索する。
「なら、怪物は……、蛇に属するモノ……メドーサ? 神話だと、相手を石化させる力があるさ」
嫌そうな顔つきでハーマイオニーが呻く。
「神話の怪物がホグワーツにいるの?」
「三頭犬がいるんだよ、ないとは言えないぜ」
ロンがフラッフィーを思い出し、身震いする。この魔法界なら、マグルが存在を否定する生物が闊歩している。メドーサがいてもおかしくはない。
「ちょっと待って……、なら『継承者』は『蛇語』が話せるってことよね? そうよ! だから、スリザリンの『継承者』なんだわ!」
明るくハーマイオニーがクローディアの手を叩く。
「怪物関係なら、ハグリッドに聞くとかさ? もしくは、『魔法生物学』のケトルバーン先生とかさ?」
「そうか、ハグリッドがいたね。もしかしたら、ハグリッドが学生だった頃に『継承者』は現れたかもしれない」
ハリーが呻く。ハグリッドの学生服姿を想像し、ロンは爆笑した。
「ハグリッドって、ここの学生だったさ。知らなかったさ」
「うん、3年生の時に退学になっちゃったんだって。でもダンブルドアが森番として教育してくれたらしいよ。ハグリッドもグリフィンドール生なんだよ」
クローディアは、ハグリッドはハッフルパフ生の印象があった。三頭犬やドラゴンをペットにしたいという器のデカさは、ハッフルパフの性質に近い。
(そういうのは、偏見になるかもしれないさ)
個人の性格が寮に関係するという考えは、捨てよう。
「知ってたとしても、ハグリッドも他の先生達同様に話してくれるもんか」
ロンが正論だ。
「だったら、私が図書館で調べておくさ。ハーマイオニーは『ポリジュース薬』の調合があるしさ。ポッターは、逆に普段どおりに何もしないほうがいいさ。ロンも同じさ。ポッターについてて欲しいさ」
今後の方針が固まり、クローディアは女子トイレを出た。
(そうさ。ベッロがいないからって、何もしないわけにいかないさ)
「クロックフォード、そこは壁だぞ」
呼ばれた声にクローディアは、視界を確認すると目の前に壁があった。そのまま進んでいれば、確実に激突していた。
「一応、聞くけど。何処に行くつもりだったんだ?」
声に振り返ると、赤髪双子の片割れが壁にもたれていた。
「フレッド?」
「ジョージだけど、お、ちょっと動くな」
指先に赤い液体を付けたジョージは、それをクローディアの頬に塗りつけた。
「何これさ?」
「唐辛子をすり潰したヤツ、スプラウト先生が栽培してたのを拝借した」
驚いて、急いでローブで顔を拭う。
「阿呆さ! 唐辛子を皮膚につけたら、痛いでしょうが!!」
そうこうしている間に、沁みこんだ唐辛子の成分が皮膚を刺激し、痛みを伝える。目に近い部分を塗られたので、涙腺が刺激され涙が溢れてきた。
「痛い痛いさ! ジョージの馬鹿さ!」
抗議のあまり、ジョージの足に蹴りを入れようとするが、避けられた。
「これで思いっきり、泣けるだろ? 我慢すんなよ」
「ジョージ、お待たせ」
扉から出てきたフレッドがクローディアの泣き腫らした顔を見て、唐辛子水の効果を確認した。
「「いい顔だ。クロックフォード。医務室、行っとけよ」」
青春を満喫する笑みで双子は、去って行った。
悪戯されたクローディアは、本来なら激怒するところだが、涙を流せる理由が出来たことを胸中でジョージに礼を述べた。図に乗りそうなので、絶対に口にはしないが。
閲覧ありがとうございました。
ルーナは、ロックハートの詐欺を一番に見抜いていたと思います。
唐辛子を皮膚に塗る行為は、大変危険です。絶対に真似しないでください。
「てめえの○○○ちょん切って、フライにして食ってやる」は90年代の洋画でよく使われた言葉です。今も言うのかなあ?