追記:16年10月3日、誤字報告により修正しました。
レイブンクロー対スリザリンの寮対抗試合。
寝坊したクローディアは、必死の形相で廊下を駆け抜けた。
城から闘技場への道で、既にユニフォームに着替えたロジャーがいつになく深刻な表情で仁王立ちしている。適当に会釈し、彼を通り過ぎようとした。
「クロックフォード、ちょっといいかな?」
肩を掴まれ、クローディアは強制的に足を止めさせられた。急いでいたが、仕方なく深呼吸して息を整える。ロジャーは、ユニフォームの上に手を置き、紳士的な雰囲気で頭を下げる。
「この試合に勝ったら、僕と付き合ってくれ」
また、その話。
「賭けじゃない、僕は真剣に君と付き合いたい! どれだけ僕の気持ちが真剣か、この試合で証明したい」
笑みのない真摯な態度に、クローディアは急に気恥ずかしくなり目を背ける。
「でも私さ、あんたにそういう気持ちはないしさ」
ロジャーは、クローディアの手を握る。緊張なのか、彼の手は汗ばんでいる。
「好きでなくていい、それでも僕は構わない。試合が終わったら、更衣室で待っててくれ」
囁くロジャーの声は、震えていた。
闘技場に走り去るロジャーを見送ると、クローディアは両肩に重みを感じる。
「あ~らら、ありゃ本気だわ」
「どうすんだ? クロックフォード、あいつ孔雀の姿で塔から飛び降りる覚悟で告白してきたよ?」
フレッドとジョージからも笑顔はない。ロジャーの真剣さを感じ取っているのだ。
「そんなさ、だってさ……」
しどろもどろのクローディアに、双子は容赦ない。
「勝敗関係なく、付き合えばいいんじゃね?」
「そうそう、そしたら俺達、毎日歓迎会してやるぜ?」
冗談を含めた口調だが、何処か冷淡さを感じる。まるでロジャーの想いに答えないクローディアを責めている気がした。この空気に、我慢できない。
「放っておいてさ!」
双子を払いのけ、クローディアは闘技場に突進した。
「「出ないと、ジニーのもやもやが晴れないんだよねえ」」
双子の呟きは、クローディアの耳に届かず風に攫われた。
結果は、ドラコの妨害に合いながらも、チョウが寸でのところでスニッチを掴みレイブンクローが勝利を治めた。スリザリンのまさかの2敗に観客席は大歓声が湧き起こった。
クローディアはチョウの活躍を喜ぶ反面、ロジャーへの返事が迫っていることに憂鬱であった。
しかし、胸中は以前のような怒りはなく、淡く暖かい。
「マルフォイの顔見た?」
「超悔しそうだったよねえ」
「後は、グリフィンドールのみ!」
周囲でパドマとサリー、マンディ、セシルが試合内容に盛り上がるのも、クローディアには聞こえない。
友人達に適当に言い訳し、クローディアは更衣室の前まで来た。落ち着つけないので手櫛で髪を溶き、衣服に乱れがないか確認した。躊躇いながら、更衣室を覗く。着替えてないロジャーと目が合う。彼は花が開いた笑顔を見せ、すぐに歩み寄ってきた。
「ちょっと、外出ようか?」
闘技場の裏付近まで、連れて来られクローディアは胸中に不安が過ぎる。
(ドッキリさ? そのほうがいいさ?)
「もう一度、言うよ。僕と交際してくれ」
揺ぎ無い眼差しに、クローディアは戸惑い、手先を弄りだした。
全身が温かい汗を掻く。場の空気が断ることを許さない。
「ほう、これはこれは、泣かせますなあ」
空気を壊す闇色の声に、2人は調子を完全に崩され、肩を落とす。
「勝利を手にし、愛する者さえ、手にいれる。いや、結構結構」
歓迎どころか、明らかな嫌味だ。毅然とロジャーは、スネイプの前に立つ。
「それが何か? 男女のことは生徒の自主性に任せるべきであり、スネイプ先生の関与されることはありませんが?」
「勿論だとも、ミスタ・ディビーズ。故に我輩は、2人を讃えよう。但し、ミス・クロックフォード。君には色恋沙汰に興じる前に、自身の惰弱ぶりを矯正してはどうかな? 大事な使い魔も守れず、我輩の授業ではマトモに調合を成功させた試しもない。英知を誇るレイブンクロー生が聞いて呆れる。それに、ミスタ・ディビーズ。そこにいる君のお仲間がこの件について賭博に興じているようだ。彼らは君の発案と供述しているが?」
スネイプが指差し物陰に、何人かの男子生徒が何度も必死に頭を下げる。
クローディアは鋭い目つきで、ロジャーを睨む。
「賭けさ! 私が交際を受けるか、賭けたさ?」
「誤解しないでくれ、君と付き合いたいのは本当だ! 去年の学年末のパーティーから、君のことが気になってた! こんな気持ちは初めてなんだ」
うろたえるロジャーに、クローディアは暖かな気持ちが冷めていくのを実感した。
「あんたなんか、お断りさ!」
怒声を返しクローディアは、ロジャーを横切り走る。スネイプがせせら笑うのが聞こえた。
誰もいない地下教室で、クローディアは暗くも冷たい空気を肌で堪能していた。スネイプから罰則のため、ここにいる。それは1時間も前に済んだ。
自寮の談話室に戻りたくないのだ。
あの試合の日から、クローディアの周囲は異常にロジャーとの関係について迫ってきた。談話室でペネロピーやチョウと話し込んでいると、気がつけば彼と2人にされた。大広間で食事を摂ろうとすれば、隣や正面にロジャーが座ってくる。
酷いときは、女子のお手洗いから出てきたクローディアをロジャーが待ち伏せていた。
どういうわけかクローディアが向かうところに、ロジャーが現れる。情報源は、フレッド、ジョージだ。
原因は、誰が言い出したか知れない話が広まったからだ。
『クローディア=クロックフォードとロジャー=ディビーズの仲を取り持ってやろう』
これに賛同した生徒(主にロジャーの友人)達が、異常な統率力を見せつけてきた。それだけの能力を授業や試合で発揮すればよいものを、無駄なことに尽力している。
正に、少女漫画な展開だ。
最悪なことにクローディアが落ち着ける場所は、地下教室だけとなった。ベッロがいる研究室はスネイプによって施錠されているので入れない。貴重な二角獣の角が盗難に遭ってから、警備を厳しくしたのだ。
椅子に腰掛け、ため息を付く。腕時計を見れば、もう消灯時間が迫っている。
(帰らないと、減点くらうさ)
重い身体をゆっくりと立ち上がらせる。
「まだ、いたのか?」
教室を出ようとしたクローディアに、闇色の声が嗤う。
「いまから、寮に戻ります」
「ミスタ・ディビーズは人望が厚い。大変であろうな、ミス・クロックフォード」
黒真珠の瞳を細め、弧を描いた口元は皮肉っぽく笑う。会釈だけして、さっさと階段を上がろうとしたが、声は続く。
「ここを休憩所に使うのは、これっきりにしたまえ。今度、見かければ減点だ」
事情を知らないはずのないスネイプは、逃げ場所を奪う。
振り返ったクローディアは、睨まない程度にスネイプを見据えた。やはり、彼は上機嫌に嗤っている。
正直な気持ち、腹が立つ。
「何もしていません。ただ、いるだけです」
不機嫌さを露にしたクローディアは、吐き捨てる。
「その理論で行くなら、ミスタ・ディビーズもいるだけではないか? そう煙たがる必要もあるまい?」
珍しく柔らかい黒真珠に、クローディアは胸中で嘆息する。
この人に何を期待しても無駄だ。
苦悩するクローディアを見て楽しんでいると感じた。憎むべき相手が苦しむ姿を喜ぶとか、どんな性癖だ。結局、彼が憎むのは、十中八九、コンラッドが原因だ。その理由を彼女は知らないが、憎悪を向けて来るのは全くのお門違いだ。
スネイプとコンラッドは学生時代は仲睦まじかったとダンブルドアは語った。コンラッドは今でも、スネイプを信頼している。それなのに、この男の態度は何なのだろう。理由など絶対、知りたくない。
「以後、気をつけます。おやすみなさい。スネイプ先生」
嫌味を込めた口調で、クローディアは階段を登った。その後を闇色の声が負け犬を嘲るように追いかけてくる。
「君の周囲で起こる流行は、すぐに去るとも。それまで楽しむがいい」
返事は、しなかった。
逃げ場をなくしたクローディアは、ハーマイオニーの案でハグリッドの小屋に身を寄せた。ハーマイオニー、ハリー、ロンも一緒に小屋で、ひと時の平穏を堪能する。
この時はハグリッドへの疑いを完全に忘れた。勿論、ハーマイオニーは宿題の持込を忘れない。
「やあ! ミス・クロックフォード! ミスタ・ロジャーとのことは私に任せておきたまえ!」
いきなりロックハートが乱入してきたが、ハグリッドによって追い払われた。
急にハグリッドは愉快そうに肩を揺らす。それを見たクローディアは仏頂面で彼を見上げた。
「何がおもしろいさ? ハグリッド」
「いや、すまねえ。こうやってクローディアが逃げてくるのが、懐かしくてな」
「つまり、前にもあったの?」
何気なく、ハリーが問いかける。それがボニフェースのことだと、僅かに期待してのことだ。
「ああ、クローディアの親父さんだ。あいつもよくここに来て、女子生徒から隠れてたもんだ」
密かに落胆したハリーを尻目に、クローディアは意外なことに少し驚いた。
「お父さんが、ここに逃げてきたさ?」
「そうとも、コンラッドは美人だったからな。女どもが放っておかなかった。あの虫籠もな。実はコンラッドが女どもから、隠れるために作ったらしいんだ。いけね、これも内緒だった」
衝撃の事実に、4人は笑いが込み上げて噴出した。
「そういえば、おめえさん達はクローディアの親父をしっとるのか?」
素朴な疑問に、クローディアが答える。
「うん、そうさ。3人とも、お父さんがスリザリン生だったこと知ってるさ」
ハグリッドが柔らかく目を細めた。
「おっと、そろそろ時間だ。名残惜しいが、おめえさん達を城に送らねえとな」
残念そうなハグリッドの声に、ロンが腕時計を確認する。
「本当だ。もうこんな時間になってんの……」
渋々、4人は席を立つ。ハグリッドがファングを連れ、4人を城まで同行した。
「やあ、クロックフォード! 今から帰り? 僕もだ」
玄関ホールで、ロジャーが偶然を装って待ち構えていた。心底、呆れたクローディアは、完全無視を決め込み、乱暴な足取りで寮を目指した。その後を彼は必死に声をかけて着いていく。
他人事であるハーマイオニー達は、失礼を承知で腹を抱えて笑った。
2月14日。
大広間を訪れた生徒、教職員一同は我が目を疑う光景に唖然となる。
ド派手なピンクの花で覆われた壁、朝を告げる青い空を映した天井からハート型の紙吹雪が無限に舞い降ちる風景、呆れるなと言うほうが無理だ。
〔なんじゃこりゃ〕
日本語が炸裂するクローディアの横で、ハーマイオニーを初めとしたロックハートファンは口元に手を置き、必死に笑いを噛み殺している。
教職員席では、ド派手なピンク一色のロックハートが満面の笑顔で堂々と座っている。マクゴナガルは頬が痙攣し、スネイプは苦渋に満ちた表情を浮かべている。
生徒が全員、大広間に入ったのを確認したロックハートは優雅に立ち上がり、注目を集める。
「ハッピーバレンタイン! 46人の皆さんが私にカードを下さいました。ありがとう!」
溌剌と手を叩き、二重扉から可哀想な衣装を着付けた小人が12人、入ってきた。
あれが愛のキューピッドだとすれば、まさに冒涜である。
しかも、ロックハートはスネイプに『愛の妙薬』の調合を勧めた。彼は憤怒を通り越した表情で大広間を見渡した。
挙句、フリットウィックが『魅惑の呪文』の達人であると公言した。恥辱を感じた彼は、青ざめた表情を隠すように両手で顔を覆う。
度は越えているが、一応楽しい催しだ。
(まあ、これで多少は気分も変わるさ……)
甘かった。
『薬草学』の為、温室に篭る生徒にも容赦なく小人は乱入し、パドマやドラコにバレンタインカードを届けた。気を悪くした『毒触手草』が小人をなぎ払う光景を見逃したことを、スプラウトは残念がっていた。
昼食中、小人は大広間に手紙を運びまくった。それを嫌う生徒や教員は、何処かに隠れてしまった。だが、小人は執拗に追い回して手紙を届けた。
クローディアは1人で『魔法史』の教室を目指す。過ぎ去ろうとした廊下で、ハリーが小人に捕まり鞄を引っ張り合っていた。その様子を1年生が何事かと、遠巻きに見学している。1年生の中にはジニーの姿も見える。
(ありゃりゃ)
ハリーに加勢しようと、クローディアは小人を上から押さえ込んだ。しかし、寸でのところで間に合わず、彼の鞄が破れ、裂け目から筆記用具が零れ落ちた。
その中には、なんと黒い日記帳も含まれていた。
「ポッター、これは持ち歩いたらダメさ。部屋に置いとくさ」
クローディアの腕で暴れる小人を無視し、日記帳を拾い上げる。
「僕が行くまで、そいつを押さえてて」
「わかったさ」
ハリーは鞄の裂けた部分を手で押さえる。必死の形相で鞄を抱え、彼は早足で階段を駆け上っていった。
「待て!」
小人はしゃがれた声を出し、クローディアを振り払おうと小人は手に噛み付いた。痛みで手の力を緩めた隙に、小人は彼女の腕からすり抜け、ハリーを追いかけた。
噛まれた箇所を撫で、クローディアは見学していた生徒達に振り返る。
「ほら、見世物は終わったさ。教室に行くさ。後、5分さ」
その声に1年生は蜘蛛の子を散らすように廊下を駆けていった。
(あ、日記……)
手にある日記帳を見つめ、取りあえず鞄に入れた。ジニーはクローディアの行動を見逃さないように凝視していた。
「ジニー、どうしたさ? ああ、あんたは、そこの教室さ」
見上げてくるジニーに、優しく微笑みかける。しかし、彼女はクローディアを怪訝そうに見つめる。
「あなたもハリーに出した? バレンタインのカード……」
「出さないさ、ポッターはただの友達さ」
安心したように、ジニーは頷いた。
「そうよね。あなたには、ロジャー=ディビーズがいるもの」
無邪気なジニーに、クローディアの頬が痙攣した。
「私、2人なら、うまく行くと思うわ。だって、お似合いだもの。皆、言ってる。だから……」
「ジニー、それは私が考えることさ。あんたじゃないさ」
大人気なく、クローディアは冷たく言い放った。笑みを消したジニーは乱暴に教室へ飛び込んだ。
「クローディア=クロックフォードですね?」
だが、今度は別の小人がクローディアの前に現れる。悪寒の走り、脱兎の如くその場を離れた。
しかし、小人は授業をものともせずに教室に入り、クローディアの前でハープを奏でた。
《愚かな自分を許しておくれ
美しき大和撫子の君
太陽が昇るように、君は僕の心を照らしている》
羞恥で頭を抱え、教科書で小人を薙ぎ払った。良い音が教室に響く。
「ミス・クロックフォード、暴力はいけませんが、5点差し上げましょう」
フリットウィックが小さくガッツポーズをしているのを誰もが目にし、賛成の声を上げた。
「多分、ロジャー=ディビーズからよ。あなたが無視しているから強行策に出たのね」
朝からバレンタインカードを大量に貰ったパドマが同情し、嘆息する。
夕食になっても小人の乱入は治まらず、悪戯の名人・フレッドとジョージも悪態付いていた。
「僕達のイタズラもこれには、遠く及ばないな」
「全くだ。ピーブズも逃げちまう。ある意味、最強だな。ロックハートは」
賞賛に程遠い2人の会話、クローディアも賛同した。何故、双子が彼女の傍にいるのかといえば、バレンタインチョコを強請っているからだ。
去年までクローディアは、バレンタインを都市伝説だと思っていた。それはマグルの行事でもあり、日本では好意のある異性にチョコを贈る。
それを知った双子は食事中のクローディアの両隣を占拠し、チョコを求めている。勿論、チョコなど用意していない。
「それで? ロジャー=ディビーズはどうするんだ?」
フレッドは付きまとう小人を追い払いながら、尋ねる。
「お断りさ」
即答、双子は大袈裟に肩を竦める。
「「ほんと、クロックフォードはお堅いこと」」
堪忍袋の緒が切れ、乱暴に机を叩いた。衝撃で周囲の食器が揺れる。
「私は他人に決め付けられたくないだけさ! もしかしたら、あんたら双子のどっちかと、恋人になるかもしれないでしょうが! 私としては、そのほうが嬉しいけどさ!」
喚いたクローディアは乱れた髪を靡かせ、怒りに顔を顰めて大広間を後にした。
残された双子は呆気にとられ、お互いの顔を見やる。
「あいつ、僕達となんだって?」
「全く、的外れもいいところだよ。クロックフォードと俺たちが恋人なんて」
口に出したジョージは、皿に盛られたサンドイッチを手に取った。必死に噛むが全然、切れない。よく見ると、手にしていたのはテーブルナプキンだった。
「何をわかりやすい動揺してんだよ。ジョージ」
「ここは空気を読んで動揺するところだ」
言い張ったジョージは、そのままテーブルナプキンを噛み続けた。
悪態付きながら、クローディアは寝台に飛び込んだ。
「もう! あの双子は何なのさ!」
フクロウの鳴き声に顔を上げ、窓の向こうにいる見慣れないフクロウを目にした。
怒りを治め、窓を開けてフクロウを招き入れた。フクロウにクッキーを与え、四角い封筒を受け取る。封筒には差出人の名はなく、中には1枚のカードがあった。
白くて何の装飾もないカードだが、クローディアの心を感嘆に満たすには十分だ。
【クローディア=クロックフォード様へ
ハッピーバレンタイン クィリナス=クィレルより】
これまで来なかった返事がやっと来た。手紙が書けるまでに、クィレルは回復したのだ。よく見れば、字が微かに歪んでいる。きっと、気力を込めて書いたに違いない。
(先生……、よかったさ。先生)
嬉しさで目に涙を浮かべ、クローディアは急いで返事を書いた。見慣れないフクロウは、返事の手紙を受け取り、空へと飛び去った。
クローディアにとって、人生最高のバレンタインだ。
ハーマイオニーに報せるべく、クローディアは急ぎ足で寮を飛び出す。足元で妖精を蹴りそうになった。
「そこのレイブンクロー生」
突然、絵の住人が呼びとめる。そこには、数人の魔女・魔法使いがいた。
「こっちへ、はやく」
緊迫した雰囲気にクローディアは従う。絵の住人に導かれ、ひとつの空教室に辿り着いた。教室の中で、シーサーと他3人の男子生徒がルーナを囲んでいた。
「このルーニー! どの口が言うんだ!」
シーサーがルーナの髪を掴もうと手を伸ばす。その光景を目にした途端、全身の血が熱くなった。
「何している」
低い声が教室によく通る。
驚いたシーサーがクローディアを振り返った。動揺した男子生徒は、ルーナから離れていく。
手招きでルーナを呼べば、するりとクローディアの後に隠れた。
「こいつがロックハート先生の悪口を言ったんだ」
シーサーはルーナを指差し、必死に弁解した。
「ロックハート先生の本の内容はでたらめだって! 先生は嘘つきだと、このルーニーは言ったんだ!」
「それは、私が言いだしたことだ!」
拳を振り上げてクローディアは、1年生を見渡す。彼らは信じられないと仰天していた。
「この子は、私が言った事を鵜呑みにしただけ。ロックハートにチクりたいなら、そうしろ! ただ! この子に手を出すことは絶対に許さん! わかったら、行け!」
感情が爆発したクローディアの怒声は、シーサー達を震え上がらせるのに十分だった。半泣き状態で彼らは教室から走り去った。
荒くなった呼吸を整え、クローディアはルーナを見やる。
「もし、ロックハート先生に責められたらさ。私が言いだしたと言って欲しいさ。他の人に言われても同じさ」
ルーナの瞳が瞬いた。
「そんなことしたら、嫌われるよ?」
「いくら、鈍感なロックハートでもさ。私が嫌っていることくらい、勘づいているさ。構わないさ」
当然と、クローディアは微笑んだ。
俯いたルーナは、遠慮するように手つきでクローディアの服の裾を掴んできた。その仕草を可愛らしく思え、ルーナの頭を撫でる。一瞬、身構えた彼女は、すぐに緊張を解いて手の感触を味わった。
閲覧ありがとうございました。
ロックハートは、ある意味・最強。