こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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追記:16年3月7日、16年10月3日、誤字報告にて修正しました。


13.補習

 日付が変わろうとする時間。

 『変身術』の教室、ドリスはいた。傍には娘・ジニーの誘拐を知り、悲しみに打ちひしがれるモリー、それを宥めるアーサーだ。

 マクゴナガルに勧められ、3人は魔法で用意されたソファーに腰掛けている。

 ジニーが誘拐されたという報せが『隠れ穴』に届けられたとき、ドリスはモリーに昼食に招待されていた。

 報せに狼狽したモリーはそれでも冷静にアーサーを帰宅させた。ホグワーツに向かおうとしたので、ドリスも同行させてもらった。

 出迎えてくれたのは、なんと理事会により強制退職させられたはずのダンブルドアであった。

 それから時間が過ぎ、誰も口を開かない。

「そろそろかのう」

 暖炉前に立つダンブルドアが誰にいうわけでもなく、呟いた。

 教室の扉が開かれ、泥だらけのハリーとロン、ジニーにロックハートが入ってきた。

「「まあ、ハリー! どうして!?」」

 嬉しさと驚きの混ざり、ドリスとモリーがハモってハリーに詰め寄る。アーサーが2人を押しのけて説明を求めた。順序だててハリーが『秘密の部屋』での出来事を話した。

「学校の教科書と……一緒に……これがあって……」

 ジニーが半泣きになりながら、その場にいる全員に黒い日記帳の説明をした。

 目尻を痙攣させ、アーサーはジニーの行為を激しく叱咤する。

「脳みそが何処にあるのか見えないのに、1人で勝手に考えることができるものは信用してはいけないと、パパは口を酸っぱくして教えたはずだよ!」

 叱責を食らい、堪らずジニーは泣き出す。嗚咽を繰り返しながらも、ドリスに向かい、深く頭を下げた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。私、クローディアが……」

 続きを言おうとしたジニーの口へドリスは人差し指で止めた。

「誰にでも、人の不幸を思う気持ちはありますとも。表に出さないだけでね。貴女は、ヴォルデモートに感化されすぎて、その感情が強くなってしまっただけですよ。どんな些細な羨みさえ、利用するのがヴォルデモートなのです」

 ハリーは驚いて口を開けた。ジニーのクローディアに対する行いを許した言葉でなく、ドリスは簡単に『例のあの人』の名を呼んだからだ。

 モリーも色々なことに驚いてアーサーと目を合わせた。

「ドリス……いま……。いえ、それよりも校長先生。ジニーは罪に問われるのでしょうか?」

 不安に駆られるモリーへダンブルドアは優しく頭を振った。

「この場に罪に問うべき者はおらん。卓越した魔法使いでさえ、ヴォルデモートに惑わされたのだからのう。ミネルバ、お2人と共にジニーを医務室に連れて行っておくれ。それと、ドリス。すまんが、アズカバンに手紙を出してきておくれ。森番を呼び戻してもらわねばならん」

 蝋付けされた手紙を差し出され、ドリスは神妙な顔つきで受け取った。

(いつの間に用意したんだろ?)

 ダンブルドアは全てを見通している。ハリーは、思わず表情を綻ばせた。

 そして、ロックハートの異常に気づいたダンブルドアはロンに医務室へ連れて行くよう命じた。

 この場にはハリー、ダンブルドア、ベッロだけとなった。

「さて、ハリー。わしの考えが正しければ、君は何か思い詰めておる。違うか?」

 それさえも見通されていた。今なら、全て話すことが出来る。

 暖かな火を焚いた暖炉の前で、この数ヶ月間、心に押し込んでいた不安をハリーはダンブルドアに打ち明けた。

「僕の『蛇語』は遺伝でしょうか? それとも突然変異でしょうか?」

 それらを聞き、ダンブルドアはハリーの『蛇語』は『例のあの人』から受けた傷によって分けられた能力だと教えてくれた。ならば、ハリーはスリザリン寮に入るべきだったと絶望した。

「『組分け帽子』は僕をスリザリンに入れようとしました。でも、僕はグリフィンドールに入れてくれるように頼みました」

「それで良いのじゃ。ハリー、それが大切なのじゃよ。自分で選択した。それこそがヴォルデモートと君の大きな違いじゃ」

 そして、ダンブルドアは銀の剣に刻まれた『ゴドリック=グリフィンドール』の名を見せ、ハリーが真のグリフィンドール生であることを示した。

 ハリーの心が強く高鳴った。

[嬉しそうだな。いいことか?]

 傍らにいるベッロが、ハリーを見上げる。

「校長先生、あのもうひとついいですか? ボニフェース=アロンダイトという人のことなんですけど」

 ダンブルドアが白い髭の中で弧を描き、丁寧に頷く。

「トムは、ボニフェースのことを何か言ったのかね?」

「はい……。その……酷く罵ってました。純血の誇りを捨てたとか、……でも……、ベッロから死んだと聞いたとき……。笑って嗤って……そして、泣いてました」

 呼吸を整えるため、ハリーは口を閉ざして深呼吸した。

 ダンブルドアは確かめるように虚空に目を向け、瞼を下ろす。暖炉の傍にある椅子に腰掛け、小さく息を吐く。

「こういうのもなんじゃが……、わしは嬉しく思う」

 言葉の意図が理解できず、ハリーの肩がビクッと痙攣した。

「トムは決して認めんじゃろうが、その涙はボニフェースへの友愛の証じゃ。あやつは、たった1人でも心の底から人を愛したのだ。それがわかって、わしは嬉しいのじゃ。だが、悲しくもある。大切な人を失う痛みを知りながら、変わることはできなかった……」

 そして、大勢の人から大切な人を奪った。ハリーもその内の1人だ。

「でも、トム=リドルがボニフェースと友達だったのは、ベッロがいたからだと……」

「そうじゃろうとも、トムはアグリッパという言い訳を作り、ボニフェースと交友を持とうとした。そうでもなければ、ボニフェースに関心を持たぬと思い込みたかったのじゃ。魔法族としてでなく、ただの人間としてのボニフェースに惹かれていた己を誤魔化すためにのう」

 その通りだとハリーも思う。ボニフェースの話をするリドルは、ただの16歳の少年だった。

「だったら……ボニフェースは、どうして殺されてしまったのでしょうか?」

 問うハリーの裾が、引っ張られた。見やるとベッロが口で裾を銜えていた。

[それ以上、聞くな。こいつは、よくやっている]

 ハリーの裾から口を離したベッロは、ダンブルドアの膝に首を乗せ懐くように摺り寄せる。

「おお、わしを許してくれるか、アグリッパ……いや、ベッロ」

 歳月を刻んだシワのある手が、ベッロの喉元を優しく撫でた。

 

☈☈

 月の淡い光の中、ドリスは手紙を括りつけたカサブランカを空に放つ。羽ばたきが暗闇に消えていき、医務室を目指して廊下を歩く。

 ジニーのことを気に病んでいたモリーの心配がなくなり、後は石化された生徒達の回復だけだ。『蘇生薬』の調合には、まだ日数がかかる。それも、すぐのことだ。

 ダンブルドアも校長として復帰し、ハグリッドも釈放される。

(それにしても、クローディアが妬まれるとは……)

 夏の休暇中に夕食を共にしたとき、ジニーはクローディアに何かしらの感情を抱いている様子だった。

 不意にベッロの姿が脳裏に浮かぶ。

(あら、いけない。ハリーのところだわ)

 廊下に飾られた絵の住人達の睡眠を妨害されないように、小走りで廊下を進む。

 『変身術』の教室まで、曲がり角を進むだけであった。というところで、人の気配を察したドリスは本能的に足を止めた。

「いけない! ハリー=ポッターに近寄るな!!」

 甲高くも敵意の籠もった叫び声と共に、轟音が廊下に響く。瞬間、ドリスの目の前に黒い塊が吹っ飛ばされてきた。あのまま廊下に出ていれば、塊と衝突するところであった。

 大の字で床に倒れたんだ様子から、黒衣に身を包んだ男だと認識した。

 何事かと、ドリスは廊下を覗き込む。呆然と立ち尽くしたハリーが腕組みをして威張った仕草の汚い小人と一緒にいた。

「ハリー? これは、一体……何が起こったのですか?」

 ハリーを一瞥し、ドリスは倒れた男に視線を移す。憤怒に顔を歪ませ、口元を痙攣させ、青筋さえ立てた男を知っている。

 コンラッドから決して接触せぬように言い含められていたと思い返した時には、相手にドリスの存在が気付かれた後だった。

 羞恥で更に顔のシワを深くした男に睨みつけられ、ドリスは悲鳴を飲み込んだ。

「ルシウス=マルフォイ……、どうして…床に寝転んでいるのですか?」

 指摘されたマルフォイは乱暴に起き上がり、恥辱に震えながら必死な笑顔を保ち、ドリスを見下ろす。

「ようやく会えたな、ドリス……。コンラッドは何処にいる? 知らないなどとは言わせんぞ!」

 怒声に竦んだドリスは唇を小刻みに震わせ、不安そうに眉を寄せる。

「私……は……何も……あなたに話さなければ…ならないことなんて」

 慄きながら、ドリスは両手で顔を覆う。

「ドリスさんに手を出さないで下さい!」

 横からハリーが声を上げ、マルフォイを睨みつける。

「黙っていたまえ、ハリー=ポッター! 私はドリスと話しているのだ! いいか、ドリス! コンラッドが消えたと聞いたとき、私や妻は死ぬほど心配したんだぞ!」

 マルフォイは怒鳴りと共に、ドリスの腕を乱暴に掴む。

「マルフォイさん! やめて下さい!」

 堪らずハリーはドリスの前に立つ。マルフォイの後ろに小人が構える。

「その手を離せ」

 小人を睨み、マルフォイは投げるようにドリスの手を離した。

「ドリス、コンラッドに伝えたまえ。逃げられはしないとな」

 恨みを籠めた視線をハリーに向け、高貴なマントを翻したマルフォイは去っていった。

「ドリスさん、大丈夫ですか?」

 心配したハリーは顔を伏せたドリスの肩に手を伸ばす。幼い手の感触にゆっくりと手を離し、優しく微笑んだ。

「ありがとうハリー。ところで、そちらはどなた?」

 足元で2人を見上げる小人は『屋敷しもべ妖精』ドビーと名乗った。

 生まれて初めて『屋敷しもべ妖精』を目にし、ドリスの感想はなんとも可愛くない生物であった。やせ細った身体にとってつけたような頭、見開かれた瞳の色は美しく輝いているが、それが返って不気味だ。

 ハリーは日記帳と靴下を使い、ドビーをマルフォイ家から開放したと説明した。

 解放されたトビーはハリーに恩返しを申し出た。これに対し、彼はたった一言、告げる。

「僕を助けようとしないで」

 複雑な笑みを見せるドビーは靴下を片手に、全身で喜びを表現する。

「ハリー=ポッターはドビーが考える以上に、偉大でした!」

 これ以上にない感謝の言葉を述べ、光のように消え去った。

「嵐のような方でしたねえ」

 ドビーが消え去った場所を見つめ、ドリスは小さく微笑んだ。それから彼女はハリーの背を押し、医務室に連れて行こうとした。

「さあ、ハリー。あなたも医務室に行きましょう」

「僕は怪我をしてません。不死鳥のフォークスが傷を癒してくれたので……。あのっ、スプラウト先生がもうすぐマンドレイクが採れるから、『蘇生薬』はもうすぐです」

 クローディアのことでドリスが気落ちしていると考えたハリーは、必死に励ました。

「ありがとう、ハリー。クローディアなら、大丈夫ですよ。スネイプ先生がすぐに薬を調合して下さりますから」

 ドリスの口から意外な名前が出たので、ハリーは目を丸くした。

「スネイプ……先生をご存知なんですか?」

 ハリーの態度にドリスは自分の口から出た名前に気づく。自身の口元を軽く押さえてから、開き直ったように肩を竦めた。

「ええ。私に息子がいることはご存知でしょう? スネイプ先生は息子の友達なんです」

「えええ!!!」

 衝撃の告白に、ハリーは音程のズレた声を上げた。それが廊下に反響し、飾られた絵の住人たちが、騒音を訴えた。

 予想以上のハリーの反応に、ドリスは苦笑する。

「息子はね、人馴れする子ではなかったんです。人見知りというより……人を避けていました。そんなあの子が、私に紹介してくれた友達がスネイプ先生なんですよ」

 我が子を愛おしむ母親の表情を浮かべるドリスに、ハリーの胸中が淋しさに襲われる。どんなにドリスがハリーに優しくしようと、彼女は彼の祖母ではなく、ましてや母親でもないのだ。

「1年生の時、ハグリッドが僕とクローディアが友達で嬉しいって言ってました。それは、その僕の父さんとコンラッドさんが……その」

 言い終える前にハリーは口を閉ざす。ドリスもまた淋しそうに眉を寄せたからだ。ドリスは一旦、ハリーから視線を外す。窓の向こうにある月を見上げてから、視線を戻した。

「ハリー、貴方がスネイプ先生をよく思っていないことは知っています」

 反射的にハリーの肩がビクッと痙攣し、嫌な汗が頬を流れる。

「好きになれとは言いません。もし逆の立場なら、私もクローディアにそういうでしょう。ですが、スネイプ先生は表立って優しさを見せない方だということだけは、覚えて置いてください」

 暗がりでドリスの表情はわかりなくいが、口元は普段のように弧を描いている。

 正直、ハリーはスネイプのことなどどうでもよかった。なんといわれようと嫌悪感が消えるはずがない。優しさとやらが表立っても、同じだ。

 そんなことが口に出せるはずもなく、ハリーは去年のクローディアに倣う。

「パパ達の間に何があろうと、僕とクローディアは友達ですから」

 ハリーの精一杯の笑顔に、感極まったドリスは震えだした。

「まあ、ハリー。なんとお優しい。クローディアのことを友達と思ってくれるのね……」

 微笑んだドリスは感涙した。その涙にハリーの胸がチクチクと痛んだ。

 日が昇る頃、ハグリッドはホグワーツ城に帰ってきた。入れ違うように、ドリスは全ての処理をダンブルドアに託しアーサー、モリーと共に城を後にした。

 

☈☈

 『蘇生薬』が完成し、スネイプ、スプラウト、マダム・ポンフリー、フィルチは寝台にいる石化した生徒達に順番に飲ませた。無論、フィルチは愛猫ミセス・ノリスだけだ。

 ミセス・ノリス、コリン、ジャスティン、『ほとんど首無しニック』、ハーマイオニーは薬の効果で早々に意識を取り戻した。そして、バジリスクに襲撃されたときの現状を慄きながら説明した。

 しかし、薬を飲ませてから半時間経っても、クローディアの石化が解けない。

 襲撃の恐怖がようやく解されたハーマイオニーは、無残に横たわるクローディアを見つめて不安になる。コリンやジャスティンも落ち着きを取り戻し、彼女の回復を祈りながら待った。

 

 ――最後の記憶は、鏡に巨大な蛇の金色の瞳。

 

 だが、瞬きしただけの刹那の間、クローディアの視界は激変した。手鏡が医務室の天井に変わった。

「バジリスク!!」

 声を張り上げ、クローディアは勢いをつけて起き上がった。背中に柔らかい感触がしたので、寝台に横になっていたのだと気づく。

 周囲には石化されていたはずのコリン、ジャスティン、『ほとんど首なしニック』、そしてハーマイオニーがクローディアに釘付けになっていた。

 ミセス・ノリスはフィルチから熱い抱擁を受け、出目金の目を半眼させ迷惑そうに顔を顰めていた。

「クロックフォード、目が覚めたのですね! 良かった、貴女だけ回復が遅くて心配していたんですよ」

 慌てたマダム・ポンフリーが呆然とするクローディアの額に手をあて、異常がないかを簡単に診察した。校医の後ろでスプラウトは胸を撫で下ろし、スネイプは素っ気無く顔を背けた。

 横の寝台にいたハーマイオニーが嬌声を上げ、クローディアに抱きついた。

「良かった! クローディア、もう大丈夫なのよ、私達!」

 ハーマイオニーの腕がクローディアの首に回り、耳元で少し震える声が囁かれた。

 そこで、クローディアはハーマイオニー共々、石化していたことを悟った。最悪の失態に、悔しさが込み上げた。

 眉を寄せたクローディアは、ハーマイオニーの背に手を回す。彼女の鼓動する体温を全身で確認した。柔らかな感触に、独特な匂いが生存を伝える。この命を危なく失いかけたのだ。

(そうさ、ロックハートのことを校長先生に言うさ)

 生還を喜び合う医務室に、カサブランカが翼を広げ舞い込んできた。

 気づいたクローディアは名残惜しくもハーマイオニーから身を離す。瞬間、その手に赤い封筒が落された。

 その封筒を見た全員が一斉にクローディアから離れた。

 封筒の正体を知る故に、恐怖のあまり、絶句する。誰が宛てたのか、想像したくない。

「開けて……いいから……」

 寝台の向こうに逃げ込んだハーマイオニーが開封を促す。

 力強く頷くクローディアは深呼吸する。手を震わせつつも、慎重に封を剥がした瞬間。

《〔この大馬鹿者が!!〕》

 野太くも高さを持つ声が医務室中に反響した。

 クローディアは手近な布に頭を突っ込み、ハーマイオニーは寝台の下に隠れ、コリンとジャスティンは耳を塞ぎ、マダム・ポンフリーとスプラウトは壁まで遠のいた。フィルチはミセス・ノリスを抱えて医務室を飛び出し、『ほとんど首なしニック』は壁の向こうをすり抜けて消えた。ベッロは慣れたように寝台の下でトグロを巻いたまま、悠然と構えていた。

〔この声はお祖父ちゃんさ〕

 クローディアがその声を懐かしむ余裕なく、怒号は続く。

《〔石にされとったとはどういう了見じゃ! なんのために薬を渡したと思っとるんじゃ! そういう事態を避けるためじゃろうが! 去年に続いて学校の先生様方に多大なる迷惑をおかけして、恥を知れ! ワシの目が届かん所で好き放題にしよって、日本に連れて帰るからな! その根性を叩きなおしたる! 覚悟しとけよ!〕》

 急に赤い封筒は医務室を見渡す。

《こんなヒヨッコですが、皆様どうぞ、これからも宜しくお願いします》

 淀みのない英語で深く頭を下げ、封筒は自らを破り去る。

 沈黙を取り戻した医務室で、誰かが安堵の息を吐いた。

(なんでお祖父ちゃん、『吠えメール』の使い方知っているさ?)

 深くため息を付いたクローディアはやけに厚く暗い布から顔を出した。見上げると、スネイプの顰め面が見下ろしてきた。掴んでいる布は彼のローブである。

「すみません!」

 焦燥と驚きでクローディアはローブから手を離した。

「クローディア、『吼えメール』はなんて言ったの?」

 耳に反響が残るハーマイオニーが瞬きしながら、寝台を這い上がる。 

「お祖父ちゃんが、夏は日本で過ごすようにってさ」

 反響を振り払う為、頭を振るクローディアにハーマイオニーは苦笑した。

「そのまま帰ってこないほうが、身の為ではないか?」

 闇色の声が放つ痛烈な皮肉に、反論の材料がないクローディアは口を噤んだ。

 

 蘇生した生徒4人と幽霊1人、マダム・ポンフリーの最終検査の為、一晩入院した。

 城中(マートルを除く)の幽霊が『ほとんど首なしニック』の復活を喜び、見舞いに訪れ、『血みどろ男爵』でさえ、『ほとんど首なしニック』を訪れた。

 それどころか、両名は親しげに会話を弾ませていた。

 ダンブルドアから、4人はこれまでの経緯を説明された。1週間前に犯人も怪物も倒され、事件は完全に解決した。

 吉報は続き、事件解決の祝いとして、学期試験が取りやめられた。そしてロックハートは記憶喪失に陥り、学校を去ることになった。

 ハーマイオニーは試験取りやめと、ロックハートの辞任を深く残念がった。

 落ち込んだハーマイオニーを見て、クローディアは胸が痛んだ。少しもロックハートを哀れだと思わない。しかし、決闘クラブで防衛術を教えようとしたり、自分達が入院した時、彼は見舞いに来てくれた。学校中の気分を盛り上げる為に、馬鹿みたいなバレンタインイベントを行った。

 彼は空気を読めないのではなく、あえて読まなかったのかもしれない。それは時として必要な事だと今なら思う。

 栄光や名誉に囚われなければ、もっと適切な人生があっただろう。あくまでも仮の話だ。

(記憶喪失で、これまでの罪を贖うがいいさ)

 誰に言うわけでもなく、クローディアは胸中で呟いた。

 

 退院した4人はマクゴナガルに連れられ、既に全校生徒が犇く、大広間に通された。生還した4人に拍手が送られる中、ジャスティンはすぐにハリーに飛びつき、猜疑心に駆られたことを心の底から詫びた。

 クローディアとハーマイオニーはハリーとロンに駆け寄り、背中や顔を叩きまくった。

「やったさ、カッコイイさ!」

「事件を解決したのね、おめでとう!」

 ハリーは痛い称賛に堪えながら、頭を振る。

「2人がヒントを残してくれたからだよ。ベッロも助けてくれたし」

 グリフィンドール席に堂々とベッロがトグロを巻いて座り込んでいた。

 複雑に呆れたクローディアはベッロを連れてレイブンクロー席に戻る。嬌声を上げ、ロジャーが抱きついてきた。

 それに便乗した何人かが抱きついてきたので、クローディアは窒息しかけた。ベッロが威嚇しても、なかなか離れてもらえなかった。

「心配させないでって、言っているでしょう!」

 去年と同じようにペネロピーから、ビンタを一発貰った。

 事件を解決したハリーとロンの活躍により、グリフィンドールは2年連続寮対抗優勝杯を獲得した。

 

 だが、4人には皆からの祝福だけではなく、大量の補習授業が待ち構えていた。

 クローディアとハーマイオニーは復活祭休暇前であったことは、不幸中の幸いだ。何故なら、ジャスティンとコリンは石化している間に年を越えてしまい、分刻みの時間割を与えられ、死に物狂いで講義を受けるはめになったからだ。

 パーシーは親身にコリンの勉強を見ていた。

 クローディアにとって、ハーマイオニーとの合同授業は寧ろ、褒美であった。隣同士の席に座って講義を受ける。最高の補習授業だ。

 やがて、図書室でジャスティンがパドマから勉強を見てもらっている姿が当たり前になり、2人の仲は交際まで発展した。

 補習の合間、クローディアとハーマイオニーはハリーとロンから『秘密の部屋』で起こったことを聞いた。リドルが後のヴォルデモートであり、ジニーを操ってバジリスクで皆を襲わせた。

 真実を聞き、ハーマイオニーは驚きを通り越していた。ロンがジニーはリドルに利用されていただけだと、強く主張した。実際、ダンブルドアの考えも同じであり、校内では『例のあの人』が怪物を解き放ったと公表した。

「あのトムくんがヴォービートとは、畏れ入ったさ。しかも、自分の名前を文字って付けたとか……女優みたいさ」

「ええ、見事に騙されたわ。本当に名役者ですこと!」

 日記の内容を半分でも信じていたハーマイオニーは怒り心頭だ。

「なあ、ハリー。ドビーは今回の件には『例のあの人』は関係ないって、そんなこと言わなかったか?」

 ロンの質問にハリーは苦笑する。

「ドビーなりのヒントだったらしいよ。ヴォルデモートの名に変わる前の彼の仕業だって」

「すっくないヒントさ。ジニーも不憫な目に遭ったもんさ」

「酷いのはルシウス=マルフォイよ。ロックハートのサイン会の時、トム=リドルの日記をジニーの学用品に紛らせておいたなんて!」

 その責任をマルフォイは理事会追放という形で償った。ドラコはそれをハリーのせいだと逆恨みしているのが現状だ。

(そりゃあ、お父さんも赤の他人になりたいだろうさ)

 親子揃って面倒だ。

 クローディア、ハーマイオニー、ジャスティンの2年生は3年生から始まる選択科目を決めなければならなかった。ジャスティンはスプラウトとパドマに相談し、ほとんど彼女と同じ科目を選んだ。

 レイブンクローは『数占い』が必須科目になるといわれ、クローディアは落ち込んだ。残りはドリスやコンラッドに相談の手紙を出し、『古代ルーン文字学』、『魔法生物飼育学』の2科目を登録した。

 ハーマイオニーは誰にも相談せずに、全科目を登録していた。

 




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10代の男の子が二年連続で死にかける学校ってそうはないと信じたい。
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