帽子に話しかけられてみたいです。
回想台詞は〝〟、大音声は《》と表記します。
追記:2月29日にラベンダーが組分けで2回呼ばれているという指摘を受け、修正しました。
追記:9月12日パーバティがレイブンクローになっているという指摘を受け、修正しました。
古城の真下に位置する船着場へ到着。ハグリッドは生徒達の人数を確認し、先導の為に巨体を揺らす。
駅からの長い道程の果ては上等な樫の木の扉、古城への入り口だ。ハグリッドが扉を3回叩けば、音もなく勝手に開いた。
美しい緑のローブを優雅に纏い、厳格な魔女が立つ。
「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
マクゴナガルと呼ばれた魔女は口調にも、厳格さが備わっている。
クローディアの脳裏にコンラッドの言葉が過ぎる。
〝あそこにセブルス=スネイプっていう先生がいるはずだけど、その人の機嫌は損なわないほうがいい。おまえの為にね〟
目の前に居る魔女でさえ、威圧感で緊張する。尚且つ、機嫌を損なってはいけない教員も存在する。バスケの試合より緊張して胃が痛い。
マクゴナガルに案内されたのは、小さな部屋だ。詰め寄らなければ全員入りきれない為、息苦しい。
「ホグワーツ入学おめでとう」
よく通る高い声に反射し、クローディアは背筋を伸ばす。
寮の組分けの説明、得点制度、全く経験のない試練が待っている。
(凄まじい連帯責任さ)
これが生徒の成長を促す仕組みなのだろう。
「静かにっ、待って居てください」
マクゴナガルが部屋を出ても、生徒に私語なし。それだけ不安だ。否、ハーマイオニーだけが何か呟く。それに構う余裕もなかった。
突如として生徒達の間で悲鳴が上がった。
何事かと部屋中を見回す。壁から煙が形になったように白く、存在感が薄いモノが壁を通り抜けて部屋の中に入ってきたのだ。
〔オバケェ!!〕
日本語で悲鳴を上げ、クローディアは恐怖に慄く。
幽霊が何か話しかけられ、皆、怯えて口を開く者はない。幽霊は気を悪くせず、壁の向こうへ去った。
マクゴナガルの姿を再び目に、全員が安心した。
「一列になって、着いて来てください」
自然と皆が列を作り始め、クローディアは困惑する暇さえない。
(出席番号とか、良いのさ?)
クローディアの後ろにハーマイオニーが付き、歩みの波へと流されて行った。
――小学校の体育館など、ここに比べれば物置小屋同然だろう。
比較する対照にすらならないが、クローディアの大広間に対する感想を言葉にするなら、そうなる。
数え切れない蝋燭が宙を浮かび、天井がないかのように、星の輝きを映している。
かつてこれ程、広大かつ美しい大広間を見たことは一度としてない。世界を探してもここだけしかないと断言できる。
「本当の夜空に見えるだけ、魔法がかけられてるのよ。【ホグワーツの歴史】に書いてあったわ」
ハーマイオニーの言葉にクローディアも思い出す。しかし、魔法だとわかっていても素晴らしい。
〔すげえさあ〕
口に出来る精一杯の賛辞だ。
マクゴナガルは教員席と生徒席の間に1年生を一列に並ばせ、その前に上品な椅子を置いた。椅子の上には如何にも、魔法使いの帽子が置かれた。
(年季が入った帽子さ)
1年生全員が帽子を胡散臭そうに見つめ、視線に反応するように動き出す。しかも、歌まで歌ったのだ。
各寮に関する歌のようだ。
歌い終わると教員、生徒ともに拍手が巻き起こり、帽子はお辞儀までしたのだ。
いよいよ、組分けが始まる。
ふうっと深呼吸し、クローディアはハーマイオニーを盗み見る。彼女と同じ寮になりたい。それだけが胸を支配していく。
「名前を呼ばれたら、帽子を被り椅子へ、組分けを受けてください」
それを合図に、1年生全員が背筋を正した。
「ハンナ=アボット!」
《ハッフルパフ!》
「サリー=アン・パークス!」
《レイブンクロー!》
「スーザン=ボーンズ!」
《ハッフルパフ!》
「テリー=ブート!」
《レイブンクロー!》
「マンディ=ブロックルハースト!」
《レイブンクロー!》
「ラベンダー=ブラウン!」
《グリフィンドール!》
「ミリセント=ブルストロード!」
《スリザリン!》
次々と組み分けられ、クローディアは不安に襲われる。
同期と2歳も年上。魔法学校、しかもこれ程までに素晴らしい場所だと知れば、日本の小学校を放り、すぐにでも入学しただろう。
何故、2年前に一言も相談しなかったのか、勝手な配慮に段々と腹が立ってくる。
「クローディア=クロックフォード!」
自分の番だ。
条件反射でハーマイオニーを振り返り、彼女からウィンクを貰った。
不安や緊張で縮んでいた心臓が温かいお湯をかけられたように広がっていく。クローディアは唇の隙間から息を吐き、椅子に座る。
帽子の中は暗かったが、暖かい感じがした。
「こんなことが続くとは……」
耳元、歌とは違う低い声がした。
「困ったのお、実に困った……、以前と同じにすべきか、しかし、この子にはない」
前と同じとは、何のことだがわからない。
咄嗟に、これは組分け儀式の一部なのだと考えた。クローディアは目を瞑って、必死に頭を廻らせる。何処の寮に入りたいか、入るべきかを自身に問いかけた。
だが、考える必要はなかったと思い立つ。
「レイブンクローにして下さい」
懇願して、呟く。
「ふむ、なるほど、それならレイブンクロー!」
確信的な叫びが広間に響くと同時、左から2番目のレイブンクロー席から拍手が湧いた。帽子を取り、小走りで席へ行く。男女混合で席に着くことがなく、しかも出席番号もない。不安な気持ちのまま、先に座っていた強い茶色の金髪の少女マンディ=ブロックルハーストに会釈してから座った。
「ディーン=トーマス!」
《グリフィンドール!》
「ジャスティン=フィンチ‐フレッチリー!」
《ハッフルパフ!》
「シェーマス=フィネガン!」
《…………グリフィンドール!》
「ハーマイオニー=グレンジャー!」
待ち遠しかったクローディアは席に座り直し、ハーマイオニーの顔がよく見えるように首を上げた。彼女は笑顔で椅子に座り、自ら帽子を強く掴んだ。
クローディアはローブの裾を掴み、自分の時よりも緊張して、帽子の言葉を待った。
《グリフィンドール!》
帽子の叫びはクローディアの耳で何十という木霊を作り、反響した。
〔そんな……〕
深く残念に思い、重く肩を落とす。今すぐ帽子の元へ行き、組分けの訂正を願いたかった。ハーマイオニーは今までと違う眩い笑顔で、グリフィンドール席に座った。
「ダフネ=グリーングラス!」
《スリザリン!》
「ネビル=ロングボトム!」
《…………グリフィンドール!!》
ネビルは嬉しさのあまり、帽子を被ったまま席に走ってしまう。その様子にクローディアも腹を抱えて、爆笑した。
恥ずかしそうに、ネビルは帽子をモラグ=マクドゥガルに渡す。彼はレイブンクローになった。
「ドラコ=マルフォイ!」
《スリザリン!》
「エロイーズ=ミジョン!」
《ハッフルパフ!》
「セシル=ムーン!」
《レインブンクロー!》
「セオドール=ノット!」
《スリザリン!》
「パーバティー=パチル!」
《グリフィンドール!》
「パドマ=パチル!」
《レイブンクロー!》
そして、遂に彼の番になった。
「ハリー=ポッター!」
彼の名が出た瞬間、それまで黙っていた上級生や1年生が思い思いに囁きあった。
「あれがハリー=ポッターよ」
向かいに座る白に近い金髪の少女サリーが口元尾を押さえ、目だけ笑っている。
「レイブンクローになったら、どうしよう? 私、ちゃんと勉強できるかしら?」
「静かにっ」
健康的な小麦色の肌をした少女パドマ=パチルがサリー=アン・パークスに耳打ちして黙らせる。
(有名人だからこその反応さ)
クローディアがハリーを哀れに思うと、彼は帽子を被って椅子の縁を握り締めている。
《グリフィンドール!!》
帽子の叫びが広間に伝わり、グリフィンドール席だけでなく、ハッフルパフ、レインブンクローも盛大な拍手喝采を巻き起こした。スリザリン席だけが不快げに沈黙していたのが、不気味だ。
ハリーは覚束ない足取りでグリフィンドール席に辿り着くと上級生と握手していた。見覚えのある赤髪の双子が息の合ったハモリで叫んでいる。
「「ポッターを取った!」」
双子の言葉に、クローディアはある疑問が浮かぶ。
(自分で寮を選んではいないさ?)
しかし、帽子は意見を聞いてきたのだ。
「ザカリアス=スミス」
《ハッフルパフ!》
「リサ=ターピン!」
《レイブンクロー!》
「ロナルド=ウィーズリー!」
《グリフィンドール!》
「ブレーズ=ザビニ!」
《スリザリン!》
クローディアが考え込んでいる内、組分けは終わる。マクゴナガルは帽子を片付けていた。
上座の中心。凝った装飾が施された金色の椅子、そこに1人の魔法使いが座る。柔らかな大きな髭を持ち、穏和と威厳を兼ね備えたアルバス=ダンブルドア校長。両手を大きく広げ、家族を迎え入れるような優しい声で歓迎の挨拶を述べた。
(本当に魔法使いさ、あの人)
しみじみと呟けば、目の前にあった大皿が料理で埋めつくされている。感動することだらけで、腹が鳴るまで料理を見つめていた。
皆が食事をしていると幽霊達が新入生への挨拶だと、料理から顔を出す。生徒の体を通り抜けていくなどの行為に、悲鳴を上げる生徒もいた。
〔味が濃いさ……〕
これまで食べたこの国の料理で比較的食べやすいが、やはり、量が多い。
生徒全員が腹を満たした頃、皿に残った料理は消え、代わりにデザートが現れた。何故か、クローディアの前には好物のプリンが添えられている。別腹というのは存在するもので、まだ食べられる気がした。
「私もパーバティと一緒になりたかった。まあでも、私のほうが賢いかもって思っていたのよね。ほら、レイブンクローは賢い子が選ばれるっていうでしょ?」
パドマは灰色に近い黒髪の色白肌の少女リサへ自慢げに話す。それを聞き、クローディアの予想は確信に変わる。
(やっぱり、帽子が選んでいるさ。なら、どうして、私の時は聞いてきたさ? こんなことが続く?)
プリンを口に頬張りながら、クローディアが考え込む。
「そのデザート、私にも分けられる?」
少し離れた位置にいる銀髪赤目の少女セシル=ムーンがクローディアのプリンを指差すと、彼女の前にも同じプリンが現れた。
面白い仕組みだ。
気持に余裕ができ、クローディアは上座に目をやる。ダンブルドアやマクゴナガル、ハグリッドが見える。他は当たり前だが、全然、知らない教員ばかりだった。
適当な上級生にクローディアは尋ねた。
「セブルス=スネイプ先生ってご存知ですか?」
急に上級生だけがざわめきをやめて口ごもった。その反応で、どれだけ脅威か推し量れた。
「『魔法薬学』の先生よ。あそこで、紫のターバン巻いた先生の隣にいる黒髪の先生」
東洋系の顔つきをした上級生がおそるおそる上座を示した。
視線の先には、ねっとりとした黒髪に土気色の顔をした黒衣の男性が隣の紫ターバンで青白い顔の男性と話している。
(あれがセブルス=スネイプ先生)
雰囲気から、マクゴナガルとは違う厳格さを感じ取れる。
「ありがとうございます。先輩」
「チョウ=チャンよ。チョウでいいから、ねえ、どうしてスネイプ先生が気になるの?」
チョウの質問に他の上級生も聞き耳を立てている。
「機嫌を損ねないほうがいいって忠告されたから、どんな先生かと思いまして」
クローディアの返答に上級生たちは納得した。
「わかるけど、諦めたほうがいいわ」
別の上級生が哀れそうに呟く。彼女はマリエッタ=エッジコムと名乗った。
「教授はスリザリンの寮監ですごく、贔屓するの。スリザリン以外で教授の機嫌を取るのは無理よ」
チョウが付け加える。
冗談ではないと悟ったクローディアはもう一度、上座のスネイプを見やった。彼がこちらを見ることはなかったので、幸いした。
デザートが消えるとダンブルドアが再び立ち上がり、注意事項を告げた。
「最後に、今年いっぱいは4階の右側の廊下に入ってはいけません。苦しい死に方をしますよ」
簡単に死ぬなどと口にされたので、クローディアは少し驚いた。これが校長ならではの冗談なのだと解釈するが、監督生が小さく緊張のある声で1年生に告げる。
「冗談で済まないのが、ホグワーツだ。油断すると死ぬぞ」
軽く笑っていた金髪碧眼の少年テリーが青ざめた顔をして口元を引き締めた。
「では、寝る前に校歌を歌いましょう」
当たり前のように告げられ、クローディアは焦った。ホグワーツの校歌など知りもしないし、一度も練習していない。
ダンブルドアが杖を指揮者の如く振り上げ、生徒全員がバラバラの音程と音調で歌い出す。クローディアも適当に歌った。
グリフィンドールの双子を最後に歌が終わると、ダンブルドアは何に感動したのか、涙を流して拍手していた。
(よくわかんない人さ)
宴は終わり、1年生は監督生に続いて広間を出た。
クローディアはハーマイオニーに声をかけようとしたが階段にて、双方の向かう方角が違ってしまう。彼女はすぐに見えなくなる。少し寂しい気もしたが、寮が違うので仕方ない。
「ホグワーツにようこそ」
壁にかけられた絵たちが微笑みながら、挨拶。絵が喋ると思わなかったクローディアは思わず、仰け反った。
細い螺旋階段を下りると、行き止まり。1年生が辺りを見回すと、監督生の前の壁に鷲型で銅製のドアノッカーが扉もないのに着けられている。
鷲型のドアノッカーが生きているように口を開いた。
「あらゆる国に住んでいて、あらゆる人の友達で、自分と同等の者を我慢できないもの」
「太陽だ」
監督生が答え、壁だと思っていた場所が開けた。それはダイアゴン横丁の仕組みを髣髴させた。1年生は声を出さずに感嘆した。
「談話室に入るには、入り口で謎かけに答えないといけない。覚えておくんだ」
通された談話室は広い円形になっており、カーテンも絨毯も青一色。天井はプラネットドームのように星が描かれていた。隅に何故か大理石の女像が置かれ、その像が見えるようにソファーや肘掛椅子が配置してある。その女像につけられた髪飾りには、小さな文字が刻まれていた。
【計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり】
(え、偉そうさ)
何処となく、女像の表情も威圧的に感じた。
椅子には、既に腰掛けた先客がいた。細身で何処となく憂いを帯びた女性の幽霊だ。大広間にも現れたレイブンクロー憑き幽霊『灰色のレディ』であった。
「女の子はあっちよ」
『灰色のレディ』は女生徒に向かって、扉を指差した。
ここから男女が別れ、それぞれの寮の戸を開ける。また螺旋階段があり、その途中、途中に部屋があり、扉には名札が掲げられていた。
ようやく、クローディアは自分の名のある部屋に辿り着いた。疲労で重くなった足取りで入ると、天蓋付き寝台が3つあり、その中心に円形のテーブルが置かれていた。やはり、カーテンは青かった。
寝巻きに着替え、眠気に襲われた。同室となったパドマとリサに簡単な自己紹介を済ませて、3人とも寝台に倒れこんだ。
意識が遠のく前に、これが夢ではないことを願った。
閲覧ありがとうぎざいました。
主人公は、レイブンクローです。
●パドマ=パチル、リサ=ターピンの2人が同室です。
●セシル=ムーン
原作一巻にて、苗字のみ。
●テリー=ブート
多分、アメリカ人じゃないかと勝手に思う。
●マンディ=ブロックルハースト
原作一巻にて、苗字のみ。
●モラグ=マクドゥガル
原作一巻にて、姓名のみ。
●サリー=アン・パークス
原作一巻にて、苗字のみ。ミーハーだと思う。
●マリエッタ=エッジコム
原作五巻にて、登場。母親が魔法省役人。
●チョウ=チャン
原作三巻から、登場。