こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
あの大広間を数人で独占だと! 羨ましい!

追記:18年10月1日の誤字報告にて修正しました。


13.クリスマス

 クリスマス休暇で学校に残るレイブンクロー生は、クローディアただ1人だ。

 ブラックと吸魂鬼で、『楽団部』も演奏どころではない。彼女も帰宅を選ぶつもりだったが、ドリスの意向で残ることになった。ハーマイオニーも理事会がハグリッドの件に対応した結果を知るために残るらしい。

 学期最後の週末、吉報が舞い込む。マクゴナガルがクローディアの『ホグズミード村』行きを許したのだ。

 私服に着替えた生徒達と共に、喜び勇んだクローディアは吹雪の中を突き進む。

 茅葺屋根の小さな家、同じ材質の店が点々としつつも、クリスマスの雰囲気に飲まれた村。それが『ホグズミード村』の全景だ。

 映画や絵本の舞台に招かれた高揚感に、クローディアの頬が赤く染まる。

〔可愛いさ〕

 感嘆してクローディアは村を見入る。ハーマイオニーが背中を押してきたので前に進んだ。

「ハリー、1人で大丈夫かしら?」

「ベッロを残してきたし、話し相手には不自由しないさ」

「今度のお土産どれだろ?」

 ハーマイオニーとロンに案内され、クローディアは一番の人気店『ハニーデュークス』や郵便局、イタズラ専門店『ゾンコ』を巡る。

「向こうに行くと『マダム・パディフット』っていう喫茶店があるの。そこはね……その恋人達のための喫茶店なのよ」

 その瞬間、ハーマイオニーがロンに視線を送った気がしたが、クローディアは無視した。

 『叫びの屋敷』に向かおうとした3人は、村の喧騒から外れる。英国一、恐怖の館と呼ばれる屋敷。誰も入れないように内側から、窓という窓を塞がれているという。双子が何度も侵入を試みたが、無駄に終わったらしい。

「ジェイソンとか住んでないさ?」

「クローディア、キャンプ場じゃないわよ」

「ジェイソンって誰?」

 不意にクローディアは、背後に雪を這いずる音と1人分の足音に気づき、振り返る。

「何してるさ?」

 クローディアの声に、ハーマイオニーとロンも振り返る。ベッロが当たり前のように着いてきていた。

「ハリー」

 ハーマイオニーに呼ばれ、『透明マント』を脱ぎ捨てたハリーがイタズラっぽい笑顔で現れる。

「「なにやってんの!!」」

 クローディアとハーマイオニーに詰め寄られ、ハリーはロンの後ろに隠れた。

「どうやって抜け出してきたの!? 『透明マント』だって、『吸魂鬼』には見抜かれるはずよ!」

「フレッドとジョージが、早めのクリスマスプレゼントだってくれたんだ。『忍びの地図』をね。それには、城の抜け道が記されていたんだ。フィルチが知らない道だよ。『吸魂鬼』だって、わかりっこない」

 『忍びの地図』の説明を受けたクローディアは、フレッドとジョージに憤慨した。

「あの2人は状況をわかって……、ハリー! 地図を寄越すさ! 校長先生に渡してやるさ!」

 吼えるクローディアに、ハリーとロンは慄いた。ハーマイオニーは彼女に賛成し、付け加える。

「許可証に署名をもらってないんだから、誰かに見つかったら、それこそ大変よ!」

「この吹雪だよ。いちいち、生徒の顔なんて見えやしないって?」

 吹雪を見やり、ロンが余裕の笑みを見せる。

「つーか、ベッロ! なんで連れてきたさ! 一緒に留守してろって言ったさ!」

 責められるベッロをハリーは抱き上げ、媚びる。

「ブラックが出たら、ベッロが報せてくれるよ。だから、僕は来ようと思ったんだ」

「ほお、それが最後の言葉になりたいさ?」

 怒りを通り越した笑み、ハリーとロンは震え上がる。急いで、2人は走り出す。追いかけようとしたクローディアの足をベッロが絡まり、邪魔をした。ベッロを引き剥がしに、彼女とハーマイオニーは苦戦する。

「ほら、ベッロも僕に味方してくれるんだよ」

 彼らは勝ち誇った。

「こら! 大人しく帰らないと、絶対後悔するさ!」

 クローディアは拳を振り上げ、金きり声で叫ぶ。ハリーとロンは笑顔のまま、村の方角へ走って行った。

 

 『三本の箒』でハリーとロンに追いついたが、2人は暢気にバタービールを飲む。怒るのも疲れたクローディアとハーマイオニーも同じ席に座った。

 ロンは2人が追い付いてくることを見越して、その分のバタービールも注文してくれていた。わざわざ、ベッロの為にカエルの唐揚げまで用意していた。机の下で、蛇は美味しそうに食べ始めた。

 出入りする客の中、マクゴナガルとフリットウィックを見つけた。ハグリッドが細縞マントの魔法使いと入って来た。焦ったクローディアは自分の上着、ロンは『透明マント』をハリーへ被せた。

 二重に布を被せられ、ハリーは呻いた。

 人が多いせいか、4人に気付く者はいなかった。

「(マクゴナガル先生の傍にいるのは、誰さ?)」

「(コーネリアス=ファッジ大臣だよ。パパの上司)」

 ロンの小声で聞き、納得した。

 あれがコーネリウス=ファッジ魔法省大臣。しかし、政治家の雰囲気を感じなかった。何処となく、気の弱そうなお爺ちゃんに失礼ながら思えた。

「大臣、魔法省が吸魂鬼を村に警護してくれたお陰で、商売は上がったりですわ」

 麗しい店主マダム・ロスメルダはファッジに臆することなく、文句を言い放った。

「仕方ないんだ。私だって、やりたくない。だが、シリウス=ブラックが捕まれば、元通りだ、今少し、我慢しておくれ。奴は本当に普通ではない。私が視察に訪れた時、ブラックは正気を保っていた。おそろしいよ、他の囚人はブツブツと独り言を言うだけなのに。私を見てブラックは読み終わった新聞を寄こせと言ってきた! 信じられるかい?」

 口に出したファッジ自身、それが信じられない様子だ。

「シリウス=ブラックは、ジェームズの親友だった。本当にあいつらは兄弟のようだと俺は何度も思った。ジェームズは他の誰よりもブラックを信用していた。だから、リリーとの結婚式で新郎の付添役を任せた。2人を『例のあの人』から守る為に『秘密の守り人』の役目さえも!」

「ハグリッド、声が大きい」

 マクゴナガルが窘めた。

「それなのに、……奴は裏切った。ハリーは、ジェームズとリリーから離されちまった」

 ハグリッドは啜り泣いた。

「まさにイカれているとも。腰巾着だったピーター=ペティグリュー! 覚えているかい? 勇敢なピーターはブラックに仇打ちを挑んだ。それをブラックは、ピーターの小指一本だけ残して吹き飛ばした!」

 激高したフリットウィックは甲高い声を上げ、マクゴナガルは悲しげな口調で語った。

「ハリーにとってシリウス=ブラックは後にも先にも、名付け親なのです」

 途端、場の空気が重くなった。

(それは……ブラックがハリーの名前を付けたって事さ?)

 父親の親友にして、名前を付けてくれた相手が仇など惨過ぎる。

 大人達がいなくなってから、クローディア達も外に出た。

 ベッロが明後日の方角に進みだしたので、ハリーが歩き出したのだと気付く。クローディアが声をかけようとしたが、ロンに止められた。

「やめてやれよ。名付け親が……仇なんだぞ」

 絶望的に青褪めるロンは怯え、クローディアは疑問してしまう。

「クローディア……、名付け親の意味わかる?」

「いいや、あーもしかして、イギリスの常識さ?」

 唇まで真っ青なハーマイオニーに問われ、素直に否と答えた。

「そう……だから、平然としていられるのね。……名付け親はもう一人の親なのよ……。血の繋がりとは別の……そうね、代父という言い方もあるわ」

 今にも泣きそうな程、追い詰められ尚もハーマイオニーは淡々と説明される。ヴォルデモートに家族を殺され、叔母夫婦に育てられたハリーにとって、この真実がどれだけ残酷なのか嫌と言う程、伝わった。

 脳髄が吐き気に襲われ、クローディアは怒りが込み上げた。

 ハリーの身だけでなく、その心を守ろうと必死になってくれた大人達の気持を踏み躙る行いをした未熟さに――。

 

☈☈☈

 城に戻る抜け道の中で、ハリーは首に巻いたベッロが謝罪してくるのが聞こえる。

[行かせるべきではなかった、すまない。本当にすまない]

 一言も答えず、ハリーはただ歩いた。

 そして思い出す。浮かぶのは『秘密の部屋』で出会ったトム=マルヴォーロ=リドル。ボニフェースの死を知った彼でさえ、哀悼の涙を流した。それでも、親友を死に追いやったのだ。シリウス=ブラックがヴォルデモートの腹心中の腹心であることに妙に納得した。

 

☈☈☈

 クローディアは走り出す。ハーマイオニーとロンが必死に止めるのも聞かず、フレッドとジョージを探し村中を走り回った。『ゾンコ』店を満喫していた双子を発見し、とにかく、その笑顔に拳を叩きつけた。

 手にしていたイタズラ道具が、床にばら撒かれフレッドはその上に倒れこむ。ジョージは手近な棚で身体を支えた。

「見損なった!」

 他の生徒が悲鳴を上げるにも構わず、クローディアは声を張り上げる。

「おもしろければ、何がどうなろうといいというわけか! そんなことがおもしろいか!」

 口の中が切れたフレッドは、リーの手を借り起き上がる。

「いきなり、殴るなよ。説明してくれよ」

「そうそう、ただの癇癪野郎になってるぜ」

 普段の余裕を崩さない双子に、無意識に力が入った口から歯が軋む音が鳴る。

「馬鹿!!」

 飛び掛ろうとしたクローディアの身体が、背後から伸びた手に制される。睨みつけると、ロジャーだった。暴れる彼女を店から引きずり出す。抵抗して、ロジャーを殴り、引っかいたが動じない。それどころか締め付ける力は増していく。

 路地に引き込んだところで、ロジャーはクローディアを離した。

「問題を起こしたら、罰則になるんだぞ」

 丁寧な口調だが、クローディアは苛立ちが募る。

「あいつらがやったせいで……」

 『忍びの地図』さえなければハリーはここに来ることなく、残酷な真実を知ることはなかった。それに口に出さないように、歯を喰いしばる。

「あいつらのせいで……」

 目頭から零れる涙が、寒気に凍る。

 見下ろすロジャーは、何も聞かない。触れることもなく泣き止むまで、クローディアの傍を離れなかった。知らずと、彼に感謝の言葉を吐いた。

 双子に向けた暴力は、問題だ。マクゴナガルに知られかけたが、マリエッタが状況を誤魔化してくれた。そのお陰で、クローディアにお咎めがない。

「借りは返したわよ」

 マリエッタは事情を聞かず、それだけ言った。

 

 大勢の生徒にとって、この学校では今年最後の夕食になる。

 クローディアは大広間でフレッド、ジョージと顔を合わせても、お互い自然に避け合う。ハリーは言葉をなくしたように黙り、周囲の喧騒をただ見つめていた。

 クローディアがお手洗いに行く際、不安を隠さないハーマイオニーが震えていた。

「ハリーが……ブラックを探しに行ったら、どうしよう」

「行かせなければいいさ。私達でさ、そうしないといけないさ」

 『例のあの人』と対峙した時、ハリーは『賢者の石』を守る使命感があった。親の仇を討つという復讐心を微塵も持ち合わせていなかった。そんな彼が両親を裏切ったブラックを討とうするかもしれない。別の意味でも、ハリーを見張る必要がある。

 

 休暇初日の朝。

 帰宅する生徒が我先にと玄関ホールに集まり、馬なし馬車に乗り込む。それを見送るクローディアに、ドラコが極上に意地悪な笑みを浮かべる。

「おお、とうとう帰る家もなくしたか? クロックフォード」

 ドラコを横目で見、クローディアは不意に思いついた。

「あんたのお父さんは、ヴォルデモートの腹心だったさ?」

 その名に、ドラコの表情が恐怖に強張る。

「なのにシリウス=ブラックは、どうしてそっちに助けを求めに行かないさ? これって、妙だと思うさ。まるで、最初から当てにしていないみたいさ」

「馬鹿な……、ブラックが僕の家に来るわけがない。そこまで愚か者ではないはずだ。ブラックは確かに闇の帝王の為にポッターの両親を売った。だが、結果的に闇の帝王はポッターに滅ぼされたんだ。奴の裏切りは、何の役にも立たなかったと父上が……」

 震えるドラコの声は怯えを隠せない。話の内容から察するに、マルフォイはブラックがポッター夫妻の無二の親友であり、同時に最悪の裏切り者だと知っていた。つまり、奴の裏切りはハリーが『生き残った男の子』と同様に知れ渡っている。

 当時の後に生まれた子供達は、ブラックのことを知らないのだろう。ロンも知らない様子だった。

 言葉を交わす意味をなくしたクローディアは、嘆息する。

「腕が治ってよかったさ、休暇中に怪我しないように祈ってあげるさ」

 心にもない言葉を吐き、クローディアはドラコに背を向ける。

 無防備な背。

 今なら、魔法は確実にあたる。その衝動がドラコの中で湧き起こる。杖を向けようとしたが、手は凍りついたように動かなかった。きっと、その背に自分の魔法は届かないという奇妙な確信が生まれていた。

 

 マラソンの如く、校内を駆け足で廻る。

 身体を動かせば、思考する必要がない。ただ、走るだけを楽しむのは久しぶりだ。

 玄関ホールの所で、速度を落としたクローディアは、足を止める。深呼吸を繰り返し、肩で息をする。寒気が嘘のように、全身が汗だくになる。

 息が白い。それだけが、寒さを教えてくれる。

 見るとはなしに城門を見やると、吸魂鬼が映る。幸福を吸い取り、活力を奪い取る生物。それは、人の心の恐怖を写す『真似妖怪(ボガート)』と大差ない。

 脳裏に浮かんだ『闇の魔術への防衛術』の授業、職員室の洋箪笥。

(やめて……)

 強制的に回想を拒絶する。

 代わりに『三本箒』で名付け親の存在を知ったハリーの姿が浮かぶ。次には、憤慨する大人達その中にいるハグリッド。彼の親友ボニフェース。展覧会のパンフレットに写るベンジャミンと祖父。【ザ・クィブラー】に掲載された記事。リサが告げた一言。

〝ルーピン先生、誰かに似ていると思っていましたわ。ベンジャミン=アロンダイトです〟

 思考がクローディアの意思とは関係なく、巡ってくる。

(何も、考えたくないさ)

 もう一周、城を走ろうと空を仰いで深呼吸した。

「クローディア」

 防寒着を着込んだハーマイオニー、ハリー、ロンに声をかけられた。3人は一瞬、クローディアの半袖半ズボンと汗だくの姿に躊躇う。

 昨日と変わらず、ハリーは暗い表情で物々しい雰囲気を纏っていた。憤怒と憎悪、強い殺意が窺い知れる。やはり、彼は仇討を決意している。

「ハグリッドのところに行くの、貴女も来て」

 都合よく、水筒を銜えたベッロが現れた。クローディアは水分補給しながら、美しい雪景色の一部になった小屋を訪れた。

 室内はハグリッドの泣き声で充満していた。人の声に聞こえない音程に、獣が泣いていると思ってしまった。

「バックビークのことを聞いたのか!」

 ハグリッドは、滝の涙を流した。理事会から、バックビークの処遇に関する報せの用紙が机に置かれていた。彼の講義には、何の落ち度もないと判断された。しかし、バックビークだけは『危険生物処理委員会』にその采配が委ねられた。

 これに対し、ハグリッドはバックビークが確実に殺されえると嘆いた。

「だけど、ハグリッド。バックビークは悪いピッポグリフじゃないって、言ってたじゃないか。大丈夫だよ。きっと……」

「おまえさんは『危険生物処理委員会』ちゅうとこの怪物どもを知らんのだ!」

 ロンの慰め空しく、ハグリッドは嗚咽する。

 肝心のバックビークは、小屋の隅で床を血まみれにしていた。クローディアは、初めて目にするヒッポグリフに、一瞬見とれた。ただ、この生き物はゲームでも悪役として登場することが多かった気がする。

 無論、ハグリッドにそんなことを教えるつもりはない。

「こいつを雪ン中に繋いで放っておけねえ。クリスマスなのに!」

 しかし、部屋が尋常なく汚れてしまう。 

「ハグリッド。しっかりとした強い弁護を打ち出さないと、バッグビークは助からないのよ。そうだわ、私、ヒッポグリフの裁判の記事を読んだことあるわ。探してきてみる」

「そうだよ。僕らも裁判を手伝う。証人に呼んでくれていいよ」

 ハーマイオニーとハリーの発言が嬉しかったらしく、ハグリッドは感動で更に泣きだした。

「お茶を入れるよ。気が動転している人は、これが一番だって、ママがよくお茶を入れるんだ」

 ロンが入れたお茶の効果は、思ったより泣き虫に効果を見せた。主の様子を窺っていたファングが机の下から、顔を出す。ベッロと顔を見せ合い、意思の疎通を行っている。

「俺がしっかりせんと、いかんな。いつまでも、めそめそしてられん」

 ようやくハグリッドは、我に返ったらしい。

「バックビークの心配ばかりして、授業を適当にやりすぎた。いけねえことだ。皆、俺の授業を好きじゃねえ」

「それはマルフォイが悪いさ。ハグリッドは自分らしく、授業してくれればいいさ。ハグリッドが素晴らしいと思う動物達を教えて欲しいさ」

 クローディアの素直な気持ちに、またハグリッドは感涙し出した。

「この冬、ベッロの面倒見てほしいさ。ファングとも仲良いし、そのほうが良いさ」

「そうしてくれるか?」

 クローディアの提案をハグリッドは、喜んで受け入れた。ロンは殊更嬉しそうに、賛成した。少しだけベッロが嫌そうに身を捩じらせていた。

 城に帰る途中、クローディアは門を見張る吸魂鬼を見上げた。

「ハグリッドってさ、しばらくアズカバンにいたさ?」

「うん、ちょっとだけね。それがどうかしたの?」

 ハーマイオニーもつられて、吸魂鬼を見上げた。

「吸魂鬼がここにいると、アズカバンであった嫌な気持ちを思い出すだろうと思ったさ」

「そうだね。囚人になったら、四六時中、あいつらがいるんだ」

 ロンが怯えて身を震わせた。

「そんな状況でブラックは、正気だった」

 憎々しげにハリーは、吐き捨てた。

 

 

 翌日から、4人はバックビークの弁護をするため、図書館から大量の書物を借りた。誰もいないグリフィンドールの談話室で、ひたすら記事や書類を読み漁った。まずは、弁護か否かを分ける必要があった。

「これはどうかな……、あ、有罪だ」

 目を凝らしたロンは、必死に文章を読んだ。ハリーも記事を読むことに専念し、ブラックの話題を決して口に出さなかった。

 

 足早に迎えたクリスマス。

 布団の上に積もれた贈り物の重みで、クローディアは目を覚ました。友人達からの贈り物は、チョコを使用したお菓子ばかりだった。

 この時だけは、吸魂鬼の存在を強く疎ましく思った。

 コンラッドは珍しく白いフリルのワンピース、ドリスは箒の手入れ道具だ。祖父からは、何故か男物の着物が入っていた。

【その恰好で、明後日の午後。『ホグズミード村』に来ると良い。わし特性の課外授業をしてやる。寮監のフリットウィック先生には許可を得ておる。連れには、ハグリットが良いじゃろう。  草々】

 手紙を読んだクローディアは、嘆息する。

(課外授業ってさ……)

 きっと、鍛錬を怠っていないか試すつもりだ。陰鬱になりつつも、クローディアは『ホグズミード村』で用意していた3人への贈り物を抱えて談話室を下りた。

「おはよう、クローディア。メリークリスマス」

 不機嫌な顔つきが、祝いの言葉を台無しにしている。それでも、ハーマイオニーの手には、クローディアへの贈り物が握られていた。彼女の足元には、クルックシャンクスが座っている。

「謎かけが簡単だったから、勝手に入ってきたわ」

 笑顔でお互いの贈り物を交換する。途端にハーマイオニーは、緊迫した。

「ハリーに『ファイアボルト』が贈られてきたの。しかも、誰がくれたかわからない」

 高級な箒が差出人不明で、ハリーに届いた。彼とロンは、それに何の警戒心も持っていない。それどころか、クルックシャンクスがスキャバーズを襲おうとしたので、ロンが箒の話題を打ち切らせた。

 クローディアは緊張で我知らずと髪を指先で弄んだ。暖炉の火に目を向けてから、ハーマイオニーに視線を返す。

「……ハーマイオニーは、それを誰かの罠と考えてるさ? 例えば、シリウス=ブラックとかさ?」

 言い当てられたハーマイオニーは、何度も頷く。

「確認するけど、あなたのお祖母さんではないわね?」

「いくら、お祖母ちゃんでも、ポッターより私にくれるさ」

 おどけて肩を竦める仕草に、ハーマイオニーは納得する。おどけた表情をなくし、クローディアは声を低くする。

「呪いがあるなら、調べたほうがいいさ。でも、強い魔法だったら……私達に負えないさ」

「そうね、こればっかりは私たちじゃ無理ね」

 確認しあう2人の頭上で、『灰色のレディ』がクリスマスの賛美歌を披露していた。

 ハーマイオニーを帰したクローディアは、ハグリッドに『ホグズミード村』への引率を頼んだ。彼は夜通し、飲み明かしたらしい。室内には散乱した酒瓶、薬品めいたアルコール臭が満ちていた。ベッロも酔っ払いのように、いびきを掻いている。

 寝不足状態のハグリッドは、引率を承諾してくれた。

 クローディアは逃げるように、城へ舞い戻った。

 

 フリルワンピースに着替え、おさげを白いリボンで結んだ。漆黒の髪に、白い服装はとても映える。

 最後に『灰色のレディ』が、身だしなみを確認して満足そうに頷く。

「私、他の方々と集まるから今夜は帰らないわ。1人が怖くなったら、他の寮に泊まりに行きなさい」

 上機嫌な『灰色のレディ』は、壁の向こうに消えた。

(幽霊だけのクリスマス会さ?)

 去年のハロウィンの日、ハリー達は『絶命パーティー』に参加し、散々な目に合ったと聞く。故に、この城の幽霊達のクリスマスパーティーには興味を持たないほうが賢明だ。

 柊と宿り木を丁寧に編みこんだ植物のリボンが廊下中に張り巡らされ、絵の住人達も蝋燭で神秘的な雰囲気作りを手伝っている。

 それらの美しさがクローディアから、裁判や吸魂鬼、脱獄囚のことを忘れさせた。胸を躍らせ、絵の住人達と挨拶を交わし、彼女は大広間へ辿り着いた。

 大広間は各寮席が壁に立てかけられ、中央に長くも細工の利いた食卓がひとつだけ置かれていた。そこには、14人分の食器が用意されていた。

 校長、4人の寮監、ルーピンが並び、礼儀用・燕尾服のフィルチが座る。その向かいに、緊張に震え上がったハッフルパフ1年生デレク=ガーションとペロプス=サマービー、不機嫌に天井を見やるスリザリン5年生グラハム=モンタギュー、そして、ハーマイオニー、ハリー、ロンのグリフィンドール生だ。

(少ないさ……)

 去年に比べるとあまりにも少ない人数に、一瞬、拍子抜けした。考えを変えれば、この状況は貸し切りなのだ。特別な待遇だと、胸が高鳴る。

「メリークリスマス!」

 朗らかに挨拶してくるダンブルドアに、クローディアも反射して挨拶した。

「これだけの人数じゃ、寮席を使うのは贅沢じゃよ。さあ、お座り!」

 勧めてくるダンブルドアに、クローディアは必死に頷く。食卓の隅には、ハリー、ロン、ハーマイオニーが座っていた。ヘンリーとハリーの間の席が空いていたので、そこに座る。向かいのルーピンに会釈した。

 すぐにハーマイオニーがクローディアの隣に移ってきた。

「クラッカーを!」

 陽気な態度でダンブルドアは、何処からともなく銀色のクラッカーを取り出す。クラッカーの紐をスネイプに差し出した。口元を歪め、彼は渋々受け取り紐を引っ張った。大砲を思わせる派手な音と共にクラッカーが弾ける。消えたかと思えば、ハゲタカの剥製を載せた三角帽子に姿を変えた。

(……ネビルの……お祖母ちゃんの帽子さ)

 ハリーとロンは、目配りして口元をいやらしく歪めた。2人の心情を察したクローディアは、ハーマイオニーの背を越え、ハリーの腹を摘まんだ。油断した彼は、悲鳴を上げないように身悶えた。

「なあ、クローディア。河童はモンゴルにいるって本当かよ?」

 妙に口調を弾ませたロンに、クローディアは煙たそうに首を振る。前にハーマイオニーも同じことを聞いてきた。

「モンゴルは中国の隣だよ? 河童はいても、おかしくないんじゃないかな?」

 ルーピンの穏やかそうな笑みに企みが見える。授業でも彼は、そんなことを言っていなかった。当然だ。チョウが中国で最も生息できる地域を事細かに教えたからだ。

「河童は、湖や河を住処にします。モンゴルは草原地帯です。河童が生息できるような水場はありません。どうやって暮らすさ?」

 真剣に説明するクローディアに対し、ハリーとロンは口を押さえた。どうやら、2人は必死に笑いを堪えている。その態度が彼女の気に障る。

「本当さ! 大体、河童がモンゴルにいるなんて、誰がそんなこと『馬鹿なこと』言い出したさ!」

 小馬鹿にする口調で、吐き捨てた。途端に、ハーマイオニーが慌ててクローディアの口を塞いだ。ハリーとロンは肩を揺らし、それでも口から笑いを出さないようにした。

 3人の様子に、クローディアは奇妙な感覚に襲われる。ルーピンの隣から、殺気とは違う異様な視線が送られてきた。そこに座るのは、スネイプだ。

 ぎこちない動きで、クローディアはスネイプを振り返る。彼は己の理論を侮辱されたことに不快に感じていた。

 その表情から全てを悟り、己の失言を認めた。

「まあ、夢があっていいさ。考えたら、河童が水辺にいるなんて……、人間の勝手な想像さ」

 嫌な汗を流し、クローディアは必死に取り繕う。その姿に、ついにハリーとロンは耐えられなくなり、腹を抱えて笑い出した。

「さあて、もう良いかの? ドンドン食べましょうぞ!」

 ダンブルドアの促しに、各々が応じた。

 見えない力で、湯気を上げる七面鳥が切り分けられ、生徒達に配られていく。豪華なご馳走に、クローディアは早速、齧り付いた。柔らかな歯ごたえ、舌を満足させる味を堪能する。

「誰のフクロウだろ?」

 天井を見やるハリーの声に、クローディアもつられる。

 黒いフクロウが大広間へ舞い込んできた。そのまま、フクロウはクローディアへ1枚の黒い封筒を落とし、翼を翻して大広間を去っていった。

「誰から?」

 興味に駆られたハーマイオニーが首を伸ばす。クローディアは、テーブルナプキンで口元を拭いてから、黒い封筒を手にした。赤い封蝋に押された紋章は何処か尊大な印象を与え、差出人には金色の文字でイニシャルだけが綴られている。

(N・Mさ?)

 封蝋を剥がそうと手をかける。何気なく周囲を見やると、ハーマイオニー達は警戒する顔つきで、少し離れていた。

 理由は、簡単に想像がつく。

「『吼えメール』は、赤い封筒さ」

「そ、そうだよね?」

 ハーマイオニーの背後で口ごもるハリーに呆れながら、クローディアは封筒を開いた。

 異常な反応はなく、封筒の中には黒いクリスマスカードと写真が1枚ずつ入っているだけであった。カードの文字も金色だ。

【メリークリスマス これは、貴女のモノ】

 しかも、短い。筆跡はクローディアには、全く覚えがない。首を傾げつつも、写真を手にする。

 クィディッチ選手のユニフォームを着込んだ7人の選手。その7人の真ん中に、アザラシ……いやセイウチを思わせる風貌の魔法使い(おそらく教員)が上機嫌に手を振ってくる。背景には、スリザリンの紋章が横断幕となって掲げられ、6人の選手は何処か緊張する面持ちでそれでも笑顔であった。しかし、教員に肩を掴まれた生徒だけは、映ることを拒む手つきで自身の顔を隠している。教員と他の選手が、その生徒の腕を押さえつけ、前を見るように促していた。仕方なく、生徒は愛想の良い笑みで正面を向く。

 その顔は、他の誰でもないコンラッドその人であった。ボニフェースの写真と比べれば、同一人物だと錯覚する程、まさに瓜二つだ。

「これって、もしかしてクローディアのお父さん?」

 耳打ちするハーマイオニーに、クローディアは小さく頷く。

 ハーマイオニーは興味津々であったが、クローディアの胸中は複雑になる。何故なら、コンラッドの学生時代の写真を目にしたのは、これが初めてだからだ。

 それも、『N・M』という見知らぬ人からの手紙。

 何気なく、視界の縁でスネイプを見やる。彼でないことは確かだ。まずイニシャルが合わない。従ってダンブルドアとハグリッドも除外される。そもそも、2人なら手渡しする。

「僕も見てもいい?」

 頼んでくるハリーに、写真を渡そうとした。

 突然、大広間の扉が開いたので、自然と全員の目がそちらに向く。 

 細身でひ弱そうな目よりも大きいレンズの拵えた眼鏡をかけた魔女であった。スパンコールで飾られた碧のドレスが、占い師を連想させる。寧ろ、それ以外を許さない雰囲気を持っている。

「(誰さ?)」

 目にしたことのない来客に、クローディアはハーマイオニーに耳打ちする。彼女は、口元を歪めて耳打ち返した。

「(『占い学』のトレローニー先生よ)」

 『占い学』シビル=トレローニー。ハーマイオニー曰く、インチキ科目。レイブンクローでも、彼女の授業は悪評ではないにしろ、好評でもない。胡散臭い雰囲気に、クローディアは科目を取らなかったことを良い選択と判断した。

 ダンブルドアが席から立ち、トレローニーを歓迎した。

「シビル、これはお珍しい!」

「校長先生。あたくし水晶玉を見ておりまして、皆さんと昼食を共にする様子が見えましたの」

 小さくて聞き取りにくい声は、重要な未来を告げている気がするが、ようは宴に参加したいのだ。

「椅子を用意いたさねばのう」

 表情を輝かせたダンブルドアが、杖を振るう。マクゴナガルとスネイプの間に椅子が瞬時に現れた。勧められるままに、トレローニーは腰掛ける。途端に、彼女の前に食器が用意された。

 座席がズレたので、クローディアの正面がスネイプになってしまった。河童のことを根に持っている様子で、敵意に似た視線が襲う。

(罰ゲームさ)

 視線に堪えられないクローディアは、マクゴナガルから臓物スープを受け取るトレローニーに質問した。

「トレローニー先生がわかるのは、未来だけですか?」

 ピタッとマクゴナガルの動きがとまり、不愉快そうに眉が痙攣した。スープにスプーンを入れたトレローニーは、初めてクローディアの存在に気がついたような仕草で凝視してきた。

「あなたは私の授業をとってらっしゃらないのですね。よいですか、『占い学』はあなたが知る魔法の中でも、最も難しい学問なのです。それは『眼力』……『天分』が与えられた者のみが理解し、会得するのです。従って、初歩的なことですが、占いは俗世の彼方を見るのです。それは未来にしかありません。ええ、ありませんとも」

 冷ややかな態度に、クローディアは疑念する。下手に反論しては、折角のクリスマスの雰囲気が悪くなる。適当に聞き流そうとした。

 トレローニーは眼鏡の縁を押さえて、凝視してくる。

「しかし、あなたは存在していることが、まず間違いです。何処にも存在してはいけません」

 突然の存在否定発言に、呆気に取られた。

(こういうのは、電波? いや、不思議ちゃんさ?)

 返答に困るクローディアに構わず、トレローニーは断言する。

「あなたがここいることは、死者が甦るに等しい程、ありえないのです」

「もうよいでしょう、シビル! 七面鳥が冷めます!」

 我慢の限界が来たとマクゴナガルは叫んだ。これにより強制的に、会話は終了した。

 僅かに苛々したハーマイオニーは、安堵の息を吐く。対話を聞くとはなしに聞いていたハリーとロンも、食事に手をつける。

「デレク、チポラータ・ソーセージを食べてみたかね?」

 ダンブルドアに声をかけられたデレクが緊張に手を震わせ、皿のソーセージを受けとける。

 

 クリスマスにしては、静か過ぎる昼食はただ過ぎていく。

 その中で、ロースト・ポテトを取り分けていたハーマイオニーは、クローディアの皿が空であることに気づく。それどころか、彼女はまるで葬儀の場であるかのように、不気味に静まり返り、手にある写真を見つめていた。

(きっと、トレローニー先生のせいだわ。存在していないなんて、デタラメをいうから)

 ワインを口にするトレローニーを視界の隅で睨んだハーマイオニーは、クローディアの皿にロースト・ポテトを盛りつける。

「たくさん、食べましょう」

 返事がない。

 それほどまで重症だと解釈したハーマイオニーは、クローディアに優しく耳打ちする。

「(トレローニー先生のいうことなんて、気にしちゃダメ。あてずっぽうより酷いんだから)」

 途端に、クローディアの肩が痙攣する。  

「そうだよね……」

 聞き逃してしまう程、か細い声がクローディアの口から漏れる。その声からハーマイオニーには、普段の彼女よりも冷淡な気がした。

「死んだ人間が、甦る……なんてこと……そんな……おぞましい魔法があるわけない」

 この上ない至福の微笑み。

 ハーマイオニーは、その表情に言い知れぬ戦慄を覚えた。

「クローディア、このカボチャジュースは、いかがかね?」

 声をかけることを躊躇うハーマイオニーに代わり、ダンブルドアが普段の口調でクローディアにグラスを勧める。写真を握ったままだと気づいた彼女は、急いで写真をスカートのポケットに仕舞い込んだ。

「はい、頂きます」

 背筋を伸ばしたクローディアは、失礼のないようにダンブルドアからグラスを受け取る。

(カボチャジュースって、いままでグラスに入れてたさ?)

 素朴な疑問を後回しにし、クローディアはグラスの中の液体を一気に飲み干した。

 これまで口にしたカボチャジュースとは、比べ物にならない舌触りが美味を伝える。少し重い感触が、食道を通り抜ける感覚が終わると、あっさりと後味が残る。

「美味しいです!」

 反射的に叫ぶと、満足げなダンブルドアが指を鳴らし、空になったグラスに同じ色の液体を注いだ。それと同じように、心が満たされる。

 それが最後の記憶だった。

 

 後頭部を襲う激痛と共に、視界に飛び込んできたのは、何故か逆さまになった医務室。

 否、クローディアが寝台から上半身を床につけている。

正しくは、寝台から落ちたのだ。窓から差し込まれる光の加減が朝を教えてくれる。状況を冷静に分析し、奇妙に目が覚めていた。鈍い痛みを発する箇所に手をあて、足に力を入れて寝台へと起き戻った。

「おはよう、クローディア」

 医務室の扉で、洗面器を抱えたハーマイオニーとクローディアは目が合った。彼女は毅然とした態度で、それでも困り顔を見せる。

「おはようさ……。ハーマイオニー…」

 手を振ろうとしたクローディアの頭が、鉛が詰まったように重く痛みとは違う感覚が脳内を侵食していた。頭の重さに堪えられなくなり、両手で額を支えた。

「あまり良くなさそうね。横になって頂戴」

 分厚い本が詰まれた机に、洗面器を置いたハーマイオニーが、気遣うようにクローディアに手を添える。改めて、自身を見下ろすと、自室にあるはずの寝巻き姿だった。

 浮かぶのは、疑問のみ。

 クローディアの最後の記憶は、非常に曖昧であった。ダンブルドアにカボチャジュースを勧められ、何度もおかわりした。

 思考を巡らせていると、頭の重さが増していく。

 ハーマイオニーに手伝ってもらい、クローディアは枕に頭を預けた。彼女は作業をひとつひとつ確認し、クローディアに布団を被せ、その額に冷たいタオルを置いた。

「私、風邪引いたさ? あれ? マダム・ポンフリーはさ?」

 弱弱しく開く口をハーマイオニーは、諭すように黙らせる。

「マダム・ポンフリーは休暇中よ。それにあなたは風邪じゃないわ。二日酔いよ」

「……え?」

 我が耳を疑えば、ハーマイオニーはイタズラっぽい笑みを浮かべて椅子に腰掛ける。

「校長先生が、うっかり間違えてあなたに飲ませてしまったのよ。カボチャ味のお酒をね」

 絶対、うっかりではない。ある種の確信犯だ。

「見事にあなたは酔いつぶれたわ。魔法で花びらを出したり、フランシュタインを力説したり、挙句に吸魂鬼とダンスするって言い出して、……流石に校長先生がとめたけど。とにかく、凄まじかったわ。昼食の後に、ルーピン先生が運んでくれたのよ。あなたを捕まえるのに、本当に苦労したわ」

 目を伏せるハーマイオニーの頬が、段々と痙攣してきた。怒りと呆れによるものだ。しかし、原因がダンブルドアにあるので、クローディアを叱ることが出来ない悔しさを訴えているのかもしれない。

 アルコールかも判断できない己に、クローディアは失態を恥じる。

「そういえばさ、ポッターとロンはさ?」

 何気ない問いかけに、ハーマイオニーは引き攣る。彼女は口元に力を入れ、間を置いてから、目を泳がせ眉を寄せる。そして、意を決したように昨晩のことを話しだした。

 クローディアが医務室に運ばれた後。ハーマイオニーは、マクゴナガルにハリーが『ファイアボルト』が無記名で贈られたことを報せた。事の重大さを察した教頭は、箒に異常がないかを徹底的に調査するため、没収した。

 ハリーとロンは、烈火の如く腹を立てた。

 事情を一通り脳内で整理したクローディアは、労いの意味でハーマイオニーの頭に手を置く。

「ありがとう、ハーマイオニー。本当なら、私がマクゴナガル先生にいうべきことだったさ」

「いいのよ……。クローディアがわかってくれるから、だから……全然」

 力をなくしたようにハーマイオニーの声が、小さくなっていく。彼女は自然に震える手でスカートを握り、涙を堪えるため口を閉ざした。

 ハリーの身を案じるためとはいえ、折角、手に入れた箒を一時的にでも手放す羽目になった彼の心情を汲んでいるのだ。そのことで、彼らが彼女を突き放すことになっても、当然の感情と理解している。

 それが、ハーマイオニーなのだ。何処までも聡く賢い。

 だが、友達に嫌われることを平気とする子ではない。それほどの覚悟で、ハーマイオニーはマクゴガナルに報せたのだ。

 頭に二日酔いの重さが残っていたが、クローディアはそれを無視してハーマイオニーを抱きしめる。逆らわず、彼女も胸に頭を預けた。

 不意に、机に置かれた本を目にする。どれも、魔法生物の裁判の記録だ。

「ハーマイオニー、もしかして、ずっとバックビークの裁判を調べたさ?」

 胸の中で頷くハーマイオニーに、クローディアは嘆息する。

「さきに異常に多いレポートを片付けるさ。書類とかは私が調べるさ」

「駄目よ! あなたまで、私を遠ざけるの?」

 勢いよく顔を上げたハーマイオニーは、苦渋に満ちた顔つきで訴えてきた。

「裁判はレポートが終わるまでおやすみするさ。それに私は調べるだけさ。弁論のまとめは一緒にやるさ」

 おどけて微笑んだ瞬間、クローディアの頭の重みが増した。眩みで、寝台に倒れこむ。

 ハーマイオニーは、涙を堪えて胸を張る。

「ダメよ、あなたこそ、やすまないと……」

 無礼を承知でクローディアは、ハーマイオニーの言葉を遮った。

「なら、ひとつだけ答えて欲しいさ。あんたの時間割さ」

 青ざめたハーマイオニーは、口を噤んで不安そうに口元を押さえた。

「言えないさ?」

 イタズラっぽく笑い、クローディアは寝台の上であぐらを掻く。

「誰にも、言わないっていう約束なの。ごめんなさい」

 震えた声でハーマイオニーは詫びる。それだけでも、クローディアは彼女の状況を大凡ではあるが推測できる。彼女の時間割は、寮監にして教頭のマクゴナガルが作成している。約束の相手は、十中八九、あの方だ。

「成程さ。わかったさ」

「私は、言えないのよ?」

 目を見開いてハーマイオニーは驚く。

「ハーマイオニーは、時間割のことを『誰にも言わない約束がある』って教えてくれたさ」

「それだけ? それだけでいいの?」

 驚愕したハーマイオニーの瞳に、嬉しさで涙が溢れる。それだけ、クローディアは彼女を信頼していると理解できたからだ。

「ハーマイオニー、ハグリッドみたいさ」

 快活な笑顔でクローディアは、ハーマイオニーに濡れたタオルを差し出した。遠慮なく、タオルを受け取り、顔を拭く。

 彼女の顔を見ながら、クローディアは不意に昨日のことを考える。

「私を捕まえるのに、苦労したってどういうことさ?」

「それは知らない方が良いわ」

 やっと、ハーマイオニーは素直な笑顔を見せた。

 




閲覧ありがとうございました。

クローディアの名付け親に対する反応を変えました。バレンタインデーを都市伝説程度にしか知らないのに名付け親の風習を知っているのは、不自然に感じましたので。

生徒がいるなら、マダム・ポンフリーは休まないと思いますが、まあいっか!
●デレク=ガーション
 原作三巻にて、名前のみ登場。寮不明生
●ペロプス=サマービー
 原作五巻にて、苗字のみ登場。
●グラハム=モンタギュー
 原作にて、マーカス=フリントの後任キャプテン、歳も合うので、ここに登場。
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