こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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タイトル通りの授業です。

追記:16年9月22日、17年9月29日、18年9月20日、誤字報告により修正しました。


4.授業開始

 監督生から1年生用時間割表が配られる。期待に胸を膨らませ、クローディアは目を通す。

 日本では馴染みのない週休2日制、全教科移動教室、一番驚いたのは固定の教室がない。

(ロッカーがないのに、何処に荷物置くさ? あ、寮に置けばいいさ)

 学校生活に慣れるまで、クローディアは城で右往左往する様が目に見える。だが、不安に駆られているのは他の1年生も同様。1年生全員を見渡し、監督生が咳払いする。

「学校生活に慣れるまで時間がかかるだろう。わからないことがあったら、恥ずかしがらずに先輩達に聞きなさい」

 自然と1年生は監督生に返事。他に問題があるクローディアはもう一度、時間割表を見る。どう見ても、他寮との合同授業がハッフルパフしかない。

(ハーマイオニーと全然会えないさ)

 酷く残念に思い、クローディアは誰にも気づかれないように、小さく嘆息する。

「パーバティと授業が重ならないわね。別にいいけど」

 隣にいたパドマも少し残念そう。

 ベッロを虫籠に放置し、クローディアは寮生活初の朝食を目当てに螺旋階段を上がる。動く階段の向こうから、ハーマイオニーが降りてくるのが見えた。

 ハーマイオニーも気付き、上品に手を振り、挨拶を交わす。2人で大広間を目指し、お互いの寮の内装を話し出す。

「寮に入るには、ドアノッカーの謎かけね。おもしろそうだわ。こっちは『太った婦人』の肖像画が決めた合言葉よ。女子寮が3人部屋なのは、変わらないか」

「ハーマイオニーもこっちへ来ればよかったさ」

 意味深ではないように口調に気を遣い、何気なくクローディアは言い放つ。ハーマイオニーは口元を緩め、胸を張る。

「組分け帽子がね、グリフィンドールかレイブンクローのどちらにすべきか悩んでいたの。でも、最終的にグリフィンドールにしたわ。あなたと離れたのは残念だけど、嬉しいの。校長先生もグリフィンドールだったから、この寮に入りたいなって思っていたの」

(そういうことは、先に言って欲しかったさ)

 それならば、昨晩は組分け帽子にグリフィンドールにしてくれと懇願したことだ。しかし、それで配される保証はない。クローディアが懇願せずとも、レイブンクローになったかもしれない。あるいは、懇願しなければ、グリフィンドールだったのかも…など、そんな憶測が出てくる。

 いつまでも不満を感じてはいけない。同じ学校内にいるのだから、ハーマイオニーと過ごせる時間を自分で作ればよいのだ。そう自らに言い聞かせる。

「昼食の後は図書館に行くけど、一緒にどう?」

「もちろん行くさ、何か調べ物?」

「ううん、本がどれだけあるか確認するの」

 ハーマイオニーからの申し出、クローディアは心を弾ませた。ついに大広間に着いてしまい、2人はそれぞれの寮の席に着いた。

 寮席にはベーコンや焼き立てのパン、フルーツの盛り付け皿が並べられていたが、バイキング方式らしく、わざわざ取り皿に寄せなければならないらしい。

(パンよりも米食べたいさ。コックさんに頼めないさ?)

 コッペパンにジャムを塗りたくり、クローディアはそんな贅沢を思う。

「料理の注文は出来ないね。食べたい物があったら、家族から送ってもらいな」

 2年生・ミム=フォーセットがそんな助言をくれた。

 突然、数え切れないフクロウが大広間に乱入。4つの寮のテーブルを旋回しながら、手紙や小包を生徒の膝や目の前に置いていくという光景に圧倒される。驚いて口からパンを溢してしまった。

 勿論、クローディアの膝にも手紙と小包が落ちてきた。ドリスのフクロウ・カサブランカだった。

「ありがとさ」

 お礼を述べてから、パンの残りをカサブランカの口に投げる。美味しそうに平らげ、すぐに大広間から飛び去ってしまった。

【愛しの孫娘クローディアへ

 学校はどうですか? 組分けは何処になりましたか、お祖母ちゃんとしてはハリー=ポッターと同じが好ましいです。もし、別の寮になってしまってもハリー=ポッターとは仲良くなって下さい。それから、お祖母ちゃんは日本にいるおまえのお母さんとも手紙をやりとりすることになりました。とても嬉しいです。

 追伸、コンラッドに手紙を送りたい場合は私宛にしてください。 ドリスより】

 ドリスのハリーへの熱意ぶりに呆れたが、追伸の部分に密かに眉を顰めた。

(お父さんは、何をそんなにコソコソしているさ? まさか、校長先生に借金でもしているさ?)

 ここに理由を書いていないなら、聞いても答えない。ならば、何も聞かない。

 小包を開けると、小さな写真入れだ。母と祖父で撮った家族写真が填め込まれていた。

【入学おめでとう 勉強は大切だけど、元気でいることが一番よ  かしこ】

 短い文面だったが、クローディアの胸は母への感謝で溢れた。

「見てみて、ハリー=ポッターよ」

 何処からか聞こえた声、クローディアは大広間にハリーがロンと共に現れたのだと知る。何人かが、遠目でハリーを盗み見ている。注目され、彼はその視線を快く思っていないように見受けた。

(仲良くしろって言われてもさ……)

 クローディアとしては寮が違う分、手厳しい相手だ。

 

 『魔法史』の授業はただの歴史。幽霊が弁を取り、幽霊嫌いの身でも大変、面白みがある。だが、幽霊のカスバート=ビンズはただ教科書を壊れかけのテープレコーダーのように雑音混じり読み上げ、自分が何故、幽霊になってしまったのかを2回も説明してくれた。

 しかも、年号や人名を取り違え、見るに見かねたアンソニー=ゴールドスタインが訂正した。

「よかろう、君の指摘は正しい。ミスタ・ゴルンド」

「ゴールドスタインです!」

 色白の顔を苛立ちで真っ赤にしてアンソニーは何度も名乗ったが、ビンズは何もなかったように講義を続けた。

 1年生、誰もが待ち望んでいる『闇の魔術への防衛術』は全くの肩透かしであった。

「クィレル先生は、ゾンビを倒したと聞き及んでおります。どのように成し遂げられたのですか?」

 サリーが期待に胸を膨らませ、質問する。しかし、クィレルはターバンの裾を手で弄びながら、頬を染めて恥ずかしそうに身体を揺らすだけで、結局、説明されなかった。しかも、教室がニンニク臭で充満し、生徒全員その臭いで強い吐き気に襲われた。

 授業が終わった瞬間、我先にと全員が新鮮な空気を求めて廊下に飛び出した。

 

 昼食を手早く済ませ、クローディアとハーマイオニーは図書館に足を運んだ。

 司書マダム・ピンスことイルマ=ピンスに挨拶して辺りを見回し、その貯蔵量に圧倒された。まるで世界の英知がこの場所に集中しているのではないかと錯覚し、クローディアは興奮する。思わず、身体を大きく揺らした。

 ハーマイオニーは宝石を見るが如く、舞い上がる。本を手にして早速、読み始めていた。何度も話しかけたが、集中しすぎて無反応だ。

 仕方なく、クローディアはドリスと母へ手紙の返事を書くしかなかった。

「ねえ、『魔法史』と『闇の魔術への防衛術』の授業どうだった?」

 何冊か本を読み終え、満足したハーマイオニーがついに口を開いてくれた。クローディアは忘れられておらず、安堵した。

「ビンズ先生は見かけ通りのおじいちゃんだったし、クィレル先生は授業する気があるのかさえ、わかんないさ」

 午前の二科目がマトモな授業ではなかったことを報告する。ハーマイオニーは気の毒そうにクローディアを慰めた後、『薬草学』と『呪文学』の充実した授業を聞かせてくれた。

「それで、フリットウィック先生ったら、ハリーの名前を言った途端、可愛い悲鳴を上げちゃって、本から転んじゃったのよ」

「フリットウィック先生、ポッターにお熱さ」 

 ハーマイオニーが話す授業の内容、笑いのツボを押され腹を抱える。

「ちょっと、あなた」

 不意に声をかけられ、騒ぎすぎたと慌てて振り返る。だが、背後にいたのはマダム・ピンスではなく、レイブンクローの3年生の女子生徒3人組であった。何故か含み笑いを浮かべ、クローディアを見ていた。

 赤毛で青い瞳の女子生徒が嘲るように目を細めて、口を開く。

「次の授業は外よ、早く行きましょうよ」

 クローディアが面を食らっていると、白金の女子生徒がクスクスと喉を鳴らして笑う。

「ダメよ、この子。まだ(・・)、1年生だもん」

 急にクローディアの心臓が耳元で大きく鳴った気がした。

「そうだっけ? この子、私たちと同い年だから、忘れていたわ♪」

 木霊する3人の嘲笑、クローディアは呆れて言葉が出なかった。

 ハーマイオニーが手にしていた本を乱暴な音を立て、机に叩きつける。マダム・ピンスの目が鋭く光ったが彼女は気にせず、3人を睨んだ。

「だーれだ♪」

 赤毛の女子生徒の背後から手が伸び、両目を覆っている。3人組は一瞬、沈黙したが、すぐに微笑んだ。

「今度は外さないわ。フレッドよ」

「ぶぶ~、ジョージでした」

 赤毛の女子生徒の背後から、生えるように現れる。誰もが知るこの学校の有名人・グリフィンドールのフレッド=ウィーズリーとジョージ=ウィーズリーだ。双子は溌剌とした笑みで、赤毛の女生徒の両肩に並んだ。

「珍しいわね、フレッドとジョージが図書館なんてどうしたの?」

 先ほどとは打って変わり、しなった仕草を見せる。明らかな猫かぶりだ。

(気持ち悪いさ)

 胸中で毒づく。クローディアはハーマイオニーと目配り、お互いの意見は合わさっていた。

「「ん~、用はないよ。ただ、北の塔はすごく遠いから、もう行かないと3人とも、午後の授業に間に合わないと思ってさ」」

 完全にハモる双子に、3人組はお互いの顔を見合わせる。

「わざわざ、それを言いに来てくれたのね。ありがとう、フレッド、ジョージ」

 赤毛の女子生徒が双子の頬にキスをし、3人組はクローディアとハーマイオニーを振り返らずに図書館を後にした。その後ろを双子が付き添う。一瞬だけ、彼らはクローディアに片目を閉じ、ウインクした。

 完全に置いてきぼりを食らい、2人はただ肩を竦めた。

(もしかして、助けてくれたさ?)

 ただの憶測かもしれない。5人と入れ違い、胸に監督生のバッチを付けた赤毛のグリフィンドール生が近寄ってきた。

「ロンのお兄さん、パーシーよ」

 ハーマイオニーが耳打ちした。

「君がクロックフォードだね。ネビル=ロングボトムから、君の話を聞いている。監督生として言っておくが、年齢のことで君をからかう上級生がいるだろう。それは自分で解決するしかない。わかるね?」

 いかにも模範生らしい口調、クローディアは相槌を打つ。日本にいた時も父親のことでからかわれた経験があり、この程度では動じない。

 

 フクロウ小屋でクローディアは母に手紙を運ばせる手ごろなフクロウを物色。ハーマイオニーとのささやかな時間に乱入した3人組へ腹を立てる。

(ハーマイオニーに、みっともないとこ見せたさ)

 クローディアもハリーと形は違うが、寮内で注目を受けている。

 まずは同期より年上、ホグワーツでは重大な事情があっても1年遅れがせいぜい、2年は極めて異例の処置だ。異例な人間は(特にレイブンクロー)受け入れにくく、嫌な思いをすると監督生から警告を貰っていた。

 軽く見ていた分、少し反省する。

 だが、何より問題なのはベッロだ。蛇は闇の魔術の象徴。ホグワーツ創設者の1人、サラザール=スリザリンも闇の魔術に精通し、『例のあの人』の信奉者も全てスリザリン出の魔法使いや魔女だ。故に蛇は『例のあの人』を髣髴させるというほとんど偏見に近い理由で、ベッロは疎まれている。

 リサはベッロが虫籠から顔を出せば、恐怖で部屋から逃げ出してしまう有様。しかし、パドマは故郷のインドで蛇と遊ぶことが多かったため、免疫がある。それだけが救いだ。

 使い魔は出来るだけ、授業に付き添わせるのが義務らしい。クローディアは学校に慣れるまで、ベッロは部屋に置いてきたのだ。

(まだ1日も経ってないのに、この調子で大丈夫さ?)

 胸中で嘆息しながら、白いフクロウを撫でる。

「クローディア」

 少々暗い思考を脳内で巡らせていると、ハーマイオニーの優しい声がした。

「そのフクロウは他の学生のよ。借りられるのはこっち」

 撫でていた白いフクロウ、ハリーのヘドウィグであった。しかも、眠りを妨げられ、機嫌を悪くし嘴で突いてきた。

「あ~、ごめんさ、ごめんさ~」

 ハーマイオニーと一緒にヘドウィグを宥めてみたが、クローディアの手は嘴跡が無数に残ってしまった。血が出なかっただけでも幸いだ。

「ハーマイオニー、ありがとうさ」

「どういたしまして、大丈夫? 痛そう…」

 クローディアの手をハーマイオニーが心配そうに撫でる。柔らかい手の感触、己が怒りは浄化されたように消え去った。

 

 木曜日となり、朝食の席でクローディアにフクロウ便が届いた。

【レイブンクローに決まっておめでとう。

 スリザリンでなかったことにお祖母ちゃんは安心しています。ハリー=ポッターとは離れてしまいましたが、前にも言った通り、ちゃんと仲良くして下さい。『例のあの人』のことで変に注目されていることでしょう。あなたはお姉さんですから、守ってあげなさい。

 追伸、コンラッドから言付けです。『魔法薬学』の授業、頑張ってね。 ドリス】

 読み終えてから、クローディアは苦悩する。眉間を指で摘んで、解した。

(どんだけ、ポッターファンさ? 確かに、ポッターは注目されてるけどさ。……私だって、いろいろ注目されてるのにさ)

 グリフィンドール席のハリーを盗み見る。トーストを齧りながら、何も運んでこないヘドウィックと戯れていた。

 その様を何人かの生徒たちが観察するように見ている。

「ハリー=ポッターに興味があるの?」

 わざとらしく嫌味の含んだ3年生の声、振り返る気も起こらない。クローディアは食パンに目玉焼きを乗せ、口に含んだ。

 反応しない苛立ちに、3年生は吐き捨てた。

「確か、1年生は『魔法薬学』よね。せいぜい、機嫌を取って来なさい」

「ジュリア=ブッシュマン」

 別の高い声で、この3年生がジュリアだと分かった。クローディアも振り返る。

 巻き毛の強い4年生の女子生徒、杖を振ろうとするジュリアに厳しい視線を送る。彼女は舌打ちして、杖をしまった。

「苗字で呼ばないで、嫌なの知っているでしょう? ペネロピー=クリアウォーター」

 構わず、ペネロピーはジュリアを見下す。

「ジュリア=ブッシュマン。スネイプ先生から伝言。あなただけがレポートの提出がないから、今日中に出しなさいということ」

「待って! 締め切りは来週の月曜のはずだわ? クララ、そうでしょう?」

 ジュリアの向かいに座り、傍観していたクララは突然の質問に目を泳がせる。

「クララ=オグデンはとっくに提出済み。他人をからかう暇があるなら、さっさとしなさい」

 怒りにジュリアの顔が歪み、ペネロピーを睨む。

「命令しないで、もう監督生のつもり!」

 乱暴に席を立ち、ジュリアは紅茶を飲もうとしたクローディアにわざとブツかる。おかげで、残りの紅茶がローブを濡らした。

 詫びることなく、ジュリアは大広間を後にする。

「ごめんなさい、大丈夫?」

 心配したペネロピーが魔法で汚れを落とそうと、クローディアに杖を向ける。手振りで断り、自分の杖で唱えた。

「スコージファイ!(清めよ)」

 唱えるとローブを濡らした紅茶が消え、その腕前に何人かが感心の声を上げる。

「必要なかったみたい」

 満足げに笑い、ペネロピーは杖をしまう。

 グリフィンドール席で、事を見ていたハーマイオニーも力強く頷いた。

(魔法って素晴らしいさ)

 心躍らせ、クローディアは得意げになる。空になったカップへリサが紅茶を注いでくれた。感謝して、彼女と紅茶で乾杯した。

 教室に向かおうと大広間を出た瞬間、クローディアとリサは珍しいモノを目にした。パドマがベッロを首に巻いて、楽しそうに足を弾ませて歩いてくる。

「どうしたさ?」

「この子が談話室にいてね。上級生がびびっちゃってさ。おかしいったらないのよ。だから、私が連れ出したの。この子、一度も外に出してないでしょう?」

 優しい手つきでベッロの鱗を撫でるパドマを見て、クローディアとリサは笑みが凍りついた。

 リサはさ~っとベッロから距離を取らんと後ずさる。彼女を見ていたクローディアの首へベッロが巻き付き、鱗の感触に吃驚した。

 

 人生初の地下牢で授業を行うのは正直、不気味。しかも、今まで授業を受けたどの教室より、寒気が強く、壁にはアルコール漬けの動物が詰められたガラス瓶が整然と並んでいる。

(こいつらも薬になるさ?)

 爬虫類が薬として用いられるのは、知っている。ならば、ベッロも薬にしてやればよいではとクローディアは思う。

 後から、教室に入ってきたハッフルパフ生がベッロを見て、軽く悲鳴を上げる。彼らはクローディアを遠ざけるように座っていく。蛇嫌いのリサも距離を置いて座るしかなく、傍にはパドマしか寄り付かなかった。

「どいつもこいつも度胸がないわね」

 せせら笑うパドマが異常に逞しく見える。

「パドマの家って、蛇は何匹飼ってるさ?」

「家では飼ってないわ。蛇使いの魔法使いが住み込みで働いているの」

 パドマの実家がそれなりに裕福だと思い知らされただけだった。

 全員が教室に揃うのを見計らい、黒衣の教授セブルス=スネイプが教壇に現れた。自然と沈黙をもたらす雰囲気に全員、姿勢を整えた。ベッロまでも席へトグロを巻き、動かなくなった。それに一番、驚きだ。

 スネイプは出席を取る姿、クローディアは緊張する。

(機嫌を取るって、言われてもさ)

 しかし、コンラッドからは機嫌を損ねるなと言われているので、授業で失敗しなければいい。それが甘すぎた考えだったことをすぐに思い知らされることになる。

 出席を取り終えると、スネイプは教室を見渡す。睨まれてはいないが、誰の口も開かせない威圧感。それが教室を支配している。

「このクラスでは、杖を振ったり、馬鹿げた魔法を唱えたりはしない。魔法薬の微妙な科学と厳密な芸術を諸君らが理解できるとは期待していない」

 呟くような口調、一言も聞き漏らさないように聴覚を働かした。

 演説じみた話が終わると、スネイプが教壇から一歩、踏み出す。足音が地下牢に響いた。

「クロックフォード!」

 呼ばれたクローディアの頭の天辺から爪の先まで、痙攣したようにビクッと震えた。

「聞けば、日本教育の都合上、入学を遅らせることになったらしいな。本来なら、受諾か拒否のどらかだ。君に施された処置は贔屓目に見ても特例だ。我輩が校長なら君の入学は、白紙に戻して終わりだ」

 クローディアは緊張で震え、動悸が耳の奥で鳴りつづける。口が存在を忘れたように動かない。スネイプの黒真珠のような瞳が光の届かない深海よりも、更に深く重く濁っている。その視線、敵意とは違う威圧的なモノを感じる。

 一歩、足音が重く響く。

「1年ばかりか、2年も遅らせての入学。余程、日本の環境が心地よかったのでしょうな」

「いえ……、2年前に手紙が来たことも教えてもらってま……」

 必死に言葉を紡ぎ、絞りだすような声が終わるのを待たずに、スネイプは鼻で笑う。

「自らの無知をご両親のせいにするつもりか! もしや、自分1人の力でホグワーツに入学できたと考えているのではあるまいな! だとすれば、なんという傲慢、滑稽して愚像だ」

 一歩、一歩、スネイプが声を荒げながらも、重く吐き捨て近づいてくる。

「挙句に、持込事項にない動物を堂々と授業に連れてくるとは」

 スネイプはベッロに見向きもしない。

「校長先生より、許可は頂いております」

 今度は綺麗に言葉に出来たが、スネイプの雰囲気に変化はない。

「ご両親の次は校長か、日本人は責任転嫁がお好きなようだ」

 胸に太い杭が突き刺さったように、身体が重い。クローディアは瞬きも忘れてスネイプを見上げる。涙腺が弱まり、目頭が熱くなっていく。

「『ポリジュース薬』の調合には、どのくらいかかる?」

 急に質問に変わり、クローディアは思わずパドマを見た。しかし、彼女は首を横に振る。

「では、『縮み薬』の効能は?」

「わかりません」

「モンクスフードとウルフスベーンの違いは?」

 これはテリーやリサも挙手したが、無視。しかし、クローディアは知っていた。

「ふたつともトリカブトの別名です」

 声は震えていたが、ハッキリと答えた。

 スネイプは嘆息して、踵を返し、教壇まで戻る。背を向けられたことに安心して、クローディアは気を抜いた。

「安心したぞ、ミス・クロックフォード」

 全く変わらない口調で、スネイプは生徒全員を見渡す。

「それだけの知識では、3年生では到底、授業に追いつけまい。編入ではなく、入学扱いで正解だったわけだ。校長の判断に感謝するがいい! ちなみに、『ポリジュース薬』は2年、『縮み薬』は3年にならねば、諸君らが耳にすることはない。どうした? 諸君、何故今のを全部ノートに書き取らんのだ?」

 合図といわんばかりに全員、一斉に動き出した。

「クロックフォードの勉強不足にレイブンクロー、2点減点」

 止めを刺された気分になり、クローディアは頭を抱えた。

 その後、無気力に黙々と調合する。作業中、あちこちでスネイプが注意しているのが聞こえる。せめて、これ以上の減点を免れようと、手早く大鍋に山嵐の針を入れかけた。パドマが気付き、即座に止めた。

「火から鍋を下ろして」

 忠告に感謝し、山嵐の針を手にしたまま、大鍋を火から下ろした瞬間。薄い緑の煙が上がり、蒸発の音が辺りに広がったと思えば、大鍋の中身が消え去っていた。スネイプが即座に苦々しく顔を歪めて駆け寄った。

「火から下ろさない内に、山嵐の針を入れたな?」

 しかし、クローディアの手には針が握られている。

「材料を持ったまま、鍋を持ち上げるヤツがあるか! 針の欠片が入ってしまうと思わなかったのか!? レイブンクロー更に3点減点!」

 確実にクローディアに責任がある。理解はしても、初授業で5点も減点されたことにうな垂れた。涙する余裕すらない。

(お父さん、私、ダメな子さ)

 脳裏に満面の笑顔を向け、コンラッドが手を振る姿が浮かんだ。

 初の合同授業で、全員が精神力を大量に消費した。レイブンクローは次の授業が『魔法史』であったことに深く感謝し、地下牢を早々に退散した。

「パドマ、怪我ないさ?」

「全くないわ。それにしても、どうして中身が消えたのかしら?」

 『魔法史』の教室を目指しながら、クローディアはパドマの安否を気遣う。授業を終えたハーマイオニーが歩いてくるのが見えた。

 ハーマイオニーもクローディアがベッロを首に巻いていることに驚いていたが、すぐに駆け寄ってくれた。

「夕食の後に図書館に行きましょう。明日の授業の予習をしたいの」

「わかった、夕食後さ」

 約束を取り付け、互いの授業の教室を目指して別れた。パドマが不思議そうにハーマイオニーの後姿を見つめる。

「ベッロを恐がらないのね。あの子」

 パドマの指摘は尤もだ。こうして廊下を歩くとベッロを目にした生徒達が引いた表情で、クローディア達を避けていく。興味深そうな視線を向けるのは、スリザリン生だけだ。

 だが、スリザリン生の視線にベッロは不快そうに身じろぐ。

「うん、それどころかベッロを綺麗だってさ」

「確かにそうだわ。ここまで赤いのは、見たことないわ。日本の特色かしら?」

 パドマはベッロの頭を撫でようとし、クローディアはそれを止めた。

「ベッロは顎を撫でられるのが、好きさ」

 承認したパドマはベッロの顎を撫でる。ベッロは心地良く瞼を下ろし、舌を出し入れしている。

「良かったじゃない、ベッロを怖がらない子が他にもいて」

「最初は、恐いさ。私も恐かったもん。実を言うと、今も少し」

 クローディアの小さな告白に受けたのか、パドマは口元を押さえて肩を震わせた。目が笑っていた。自分で言っておいて、こちらも可笑しくなり、声を抑えて笑う。それで、少しだけ元気が出た。

 

 午後の『変身術』の授業、クローディアは意外な才能を発見した。

 マクゴナガルから授業に対する姿勢について、警告のような忠告を受け、複雑なノートを取り終えた後、マッチ棒を針に変える練習をしている時だった。

 クローディアが杖を振るい、瞬きの合間、マッチ棒はミシン針に変わっていたのだ。

 何かの間違いかと、辺りを見回す。机の上、床にマッチ棒は落ちていない。パドマやリサ、テリーやアンソニーも自分のマッチ棒に向かって何度も杖を振るっていたが、変化はなかった。

 クローディアの挙動不審な態度にマクゴガナルの細い目が鋭く光り、彼女の前に立つ。いきなり先生が目の前におり、クローディアは反射で背筋を伸ばした。

「ミス・クロックフォード、何を……、もう針に変えてしまったのですか?」

 マクゴナガルの驚きの声、全員がクローディアを振り返る。

「はい。多分、何処にもマッチ棒がないので、針に変わったと思います」

 上擦った声で報告すると、マクゴナガルは丁寧にミシン針を品定めした。

「これは、見たことあります。マグルがよく使うミシン針ですね」

「はい、母がよくミシンを使うので、針と聞いて、その針を連想してしまいました」

 全身が緊張に震える。

 マクゴナガルはマッチ棒をもう一本、その細い手に摘んでクローディアに差し出した。

「このマッチ棒を縫い針に変えてごらんなさい」

 聡明な雰囲気から放たれる威圧感に命じられる。緊張した手を落ち着かせるため、深く息を吐いた。皆が自分の作業の手を止め、クローディアに集中した。

 注目の的になりながら、クローディアは杖を構える。頭に母が使う縫い針を思い浮かべて、杖を振るう。皆が瞬きを忘れる中、マクゴナガルの手にはマッチ棒ではなく、細く尖った銀の縫い針が摘まれていた。

 クローディアは安堵の息を吐く。

「素晴らしいわ。皆さん、よくご覧になって」

 マクゴナガルは教室の生徒全員に縫い針を見せ、滅多に見せない柔らかく暖かいな笑顔を浮かべた。

「見事です。2回も出来たので、レイブンクローに20点、差し上げましょう」

 その言葉にクローディアは有頂天になり、満面の笑みで万歳していた。

 

 授業が終わり、クローディアはこれまでにない興奮を胸に秘め、パドマやリサと『変身術』について話しながら、廊下を歩いた。

「初めて、褒められたさ♪」

「羨ましいですわ。私なんて、少しも変化できなくて恥ずかしいですわ」

 リサが嘆息し、パドマが何かを思い出した。

「パーバティから聞いたけど、グリフィンドールでも、針に変えたの、ハーマイオニー=グレンジャーだけなんですって」

「安心しました。他の寮の方もそうはいらっしゃらないんですね」

 リサが胸を撫で下ろしていると、クローディアの肩に後ろから誰かが力強くブツかってきた。

「マイケル!」

 リサが声を荒げると、浅黒い肌の少年マイケル=コーナーが細い目でクローディアを振り返る。

「2歳も上だ。アレぐらい出来て当然だろ」

 低く、怒りを混ぜた言葉にクローディアの口元が怒りで痙攣し、マイケルを睨んだ。

「まずはブツかったことを謝るもんさ、OK!?」

 反論に驚いたマイケルは、逃げるように走っていった。怒鳴りはしたクローディアだったが、胸の辺りに塊のようなモノがつっかえている感触がした。

 リサが感心したように頷く。パドマがイタズラっぽく、片目を閉じてウインクした。

「あなた、ちゃんと怒れるのね。そうよ、ちゃんと怒らないと」

 クローディアは深く息を吐いてから、2人に自信を持って笑いかけた。だが、気分の悪い怒り方をしたので、胸中は不満だった。

 

 図書館は夕食後だというのに、上級生でごった返していた。

(ベッロをパドマに任せて、正解さ)

 クローディアとハーマイオニーは図書館中を歩き回り、奥のほうに空いている席を見つけて、腰を落ち着けた。

「明日の授業は、何さ?」

「『闇の魔術への防衛術』と『魔法薬学』よ」

 クローディアは今日の授業のことを思い出し、陰鬱な気分になった。ハーマイオニーはそんな様子に気づいたが、構わずに授業の内容の説明を求めた。

 渋々、スネイプから受けた洗礼と調合中での失敗を話して聞かせた。思い出すのは正直、辛かったが、クローディアは悔しさを声に含ませながらも、話し終えることができた。

「私、スネイプ先生に嫌われているみたいさ」

 ハーマイオニーは、自分の唇に手を当てながら考え込む仕草をした。

「でも、それって当たりよね?本来なら、あなた3年生よ。それなのに、自主的に勉強しなかったのよ。1年生であることに甘えすぎじゃない?」

 ハーマイオニーの表情に笑みはない。真剣に彼女は考え、クローディアに説教している。

(甘えすぎ……)

 これまでで一番、深く頭に響いた。

 確かに甘えがあったのは、事実だ。それを2歳年下のハーマイオニーに諭されなければ、気づけない自分に絶望した。急に彼女の真っ直ぐな瞳を見ているのが、恥ずかしくなり、クローディアは視線を泳がせていた。

 ハーマイオニーは何も言い返さない相手へ嘆息し、教科書を開いた。

 マダム・ピンスが閉館を告げたので、2人は図書館を出た。

 寮への分かれ道まで、お互いに口を利かなかった。ハーマイオニーが別れの挨拶をしたが、クローディアは会釈だけして返した。

 

 自室に戻り、クローディアは宿題と日本語の勉強を黙々とこなしながら、スネイプとハーマイオニーの言葉を思い返していた。

 スネイプの授業は週一しかないので、そのときを耐えればいい。しかし、明日からハーマイオニーにどんな顔をして会えばいいのか、何を話せばいいのか、そればかり考えていた。

 不意に家族の写真を手にし、コンラッドに今日の授業でスネイプから受けたことを手紙に書くことに決めた。体裁を整えるため、直接的な言葉は控えたが、罵倒されたことをさりげなく、したためた。

 一気に書き終え、文書を読み直して自己満足に浸る。そこでパドマとリサが既に就寝中と気付いた。時計を見れば、日が変わっていたので慌てて布団に潜り込んだ。

 

 午前が終わり、昼食になると1年生は1週間の行程が終わったことを素直に喜んだ。

 クローディアも自分の得意科目を見つけて喜んだが、昨日の『魔法薬学』だけは好きになれないという確信を持った。

「ここの食生活をどうにかできないものかしらね……。ママの料理が恋しいわ」

 パドマがサンドイッチを頬張り、ため息を吐く。

「確かに、すっごく米が食べたいさ」

 パドマに同意し、クローディアは紅茶に牛乳をたっぷり入れて飲み干す。そこにマイケルが遠慮がちに、声をかけてきた。

「さっき、グリフィンドールのディーンってヤツから聞いた。ハリー=ポッターもスネイプ先生に相当、絞られて減点されたらしいぞ」

 何処からともなく、サリーが現れて話に入り込む。

「スリザリンと合同だもの。可哀想だな~、私に何かできるかな? それで、何かしてハリーに気に入られたら、きゃ~♪」

 サリーの妄想劇場が始まったので、セシルが彼女の口をサンドイッチで塞ぐ。

「わざわざ、教えてくれて、ありがとさ。コーナー」

 特に知りたかったわけでもないが、折角、教えてくれたのでクローディアは紅茶のカップを掲げて礼をいう。マイケルは満足したように胸を張った。

「なんで、お礼なんか、マイケルってあなたに意地悪よ?」

 パドマが不思議そうに耳打ちしてきた。

「礼儀を忘れるのは、よくないさ。どんな相手でも、礼儀を欠けば、自分の質を落とすことになるって、お祖父ちゃんの受け売りだけどさ」

「それ、お人好しって言うのよ。そのうち、悪い魔法使いに騙されても、知らないから」

 呆れるパドマに、クローディアは困った表情を浮かべつつも笑顔を見せた。

 見るとはなしにグリフィンドール席を見つめていると、ハーマイオニーが視界に映った。彼女はレイブンクロー席に背中を向けるように座っているので、表情はわからない。

 昨日の今日で、クローディアはハーマイオニーに何を言えばいいのか思いつかなかった。彼女の背を見つめていると、視界をリサが遮った。

「私、午後からハッフルパフの子と課題を致しますので、図書館に参ります」

「私もパーバティにグリフィンドール寮に招かれているの。クローディアも一緒に行かない?」

「いや、ベッロの散歩に行くさ。昨日しか、寮から出してやれてないからさ」

 3人はそれぞれの場所に向かい、大広間を出た。

 寮からベッロを連れ出し、湖にでも連れて行こうと螺旋階段を登る。動く階段に悪戦苦闘しながら、階段を下りてくるハーマイオニーとクローディアは視線が合う。

「ハーマイオニー、また図書館に行くさ?」

 自分で思ったより自然に言葉を出せたので、安堵の息を吐く。

「いいえ、医務室よ。ネビルに午前の授業のノートを見せにね」

 ネビルが医務室と聞いてクローディアは驚いた。症状が心配になり、お見舞いに行くことにした。

「ネビルの鍋が爆発したのよ。火を下ろさずに山嵐の針を入れたからね。中身が飛び散って、ネビルが火傷したの」

 ハーマイオニーから『魔法薬学』の時間で起こったことを聞かされ、クローディアは寒気がした。

「幸いっていうのも変だけど、ネビルだけよ。もう、スリザリンとの合同はちょっと嫌だわ。スネイプ先生ったら、本当に贔屓するし」

 そこで区切ってから、ハーマイオニーは胸を張り、意気込んだ。

「絶対、私が理解してやるわ、微妙な科学と厳密な芸術を完璧にね」

「出来るさ、ハーマイオニーなら」

 彼女なら可能だと、クローディアは思う。

 応援の意味を込めてハーマイオニーの肩に手を置く。何故かベッロが、クローディアの手から彼女の首に巻きつく。突然の鱗の感触に、彼女は短い悲鳴を上げた。

 焦ったクローディアが無理やりベッロを引き剥がして、何度も頭を下げて謝罪した。ハーマイオニーは首筋を押さえ、引きつった笑顔を見せて許してくれた。

 

 クローディアはマダム・ポンフリーから門前払いを受け、廊下で待機させられている。

 理由は勿論、ベッロ。

 ネビルが寝台からベッロの姿に気づき、怯えて甲高い悲鳴を上げた。そのせいでマダム・ポンフリーから、患者が安静にできないと追い出された。

 ハーマイオニーは好きな場所に行くことを薦めたが、折角、医務室まで来たので待つ。

(ネビルの奴、びびりすぎさ)

 医務室に置かれていた【日刊予言者新聞】を拝借し、適当に流し読みながら時間を潰す。

 ベッロはクローディアの心情を察することなく、床にとぐろを巻いて窓から降り注ぐ日光を満喫している。冷ややかな視線で、ベッロを一瞥する。

(いっそ、スリザリンの誰かに献上したいさ。スネイプ先生にあげようさ?)

 そんなことをしたら、コンラッドに手痛いお仕置きを食らうだけなので、やめておく。

 新聞をめくっていると、『グリンゴッツ』の文字が見え、その記事を目で追う。

(狙われた713番金庫は、事件の前日に空だったさ。こうして堂々と記事になったら、713番を借りていた人は危険を感じるさ)

 胸中で呟いて気づく。

(そうか、強盗が挑発しているのは713番の借主さ! つまり、他のどんなものより、ここにあったモノに価値があると…、中身は何処に行ったさ?)

 想像を膨らませていると、新聞しかないはずの視界にクローディアより大きな手が現れた。顔を上げると、悪戯双子の片割れが怪訝そうに立っている。

「なんで、医務室の外で新聞読んでんだ?」

「……ちょっとした事情でさ……。あんたは、どっちさ? フレッド? ジョージ?」

 質問を適当に返し、クローディアは聞く。双子の片割れは親しみのある意地悪な笑みを見せ、無防備な女子の頬を指先で摘まんだ。

 これが地味に痛い。

「聞いちゃ駄目だよ。わからなくても、答えてくんないとさ。さ、どっちかな?」

 わからない。パドマとパーバティは、双子だが若干の違いがわかる。しかし、赤髪双子は全く同じだ。本当に見分けがつかない。

「……実は、3つ子の3人目とかさ!?」

 人差し指を立てて言い放ったクローディアを小馬鹿にしたような視線が降り注ぐ。

「その発想はなかったわ~。でも、いいね。実は3つ子か……。そのネタ、何かのときに使わせてもらうよ」

 豪快に笑いながら、双子の片割れはクローディアの肩をバンバン叩く。叩かれた箇所が痛くて、その部分を擦る。

「それで、あんたは誰さ?」

「俺に呼び名があるなら、それはジョージ=ウィーズリーだと思う」

 思うだけなのかとツッコミを入れたかったが、クローディアは敢えて流した。

「私は……」

「クロックフォードだろ? その蛇のご主人さま」

 クローディアが名乗る前に、ジョージの親指がベッロを示す。

「見事な蛇だな。ジュリアの言っていた通りだ」

 ジュリアの名を出され、クローディアの眉が不快に痙攣する。

「そんな顔するなって、ジュリアと仲良くしておいて、損はないぜ。人望厚いからな、ジュリアは」

 丁度よくハーマイオニーが医務室から出てきたので、クローディアはジョージに新聞を押し付ける。

「ネビルの具合どうだったさ?」

「消灯時間までには、戻れるみたい」

 クローディアはジョージを振り返らず、ハーマイオニーと廊下を歩いていく。

 新聞を棒に丸めたジョージは、普段の親しみある笑みを消して冷たく笑う。

「ジュリアの言うとおり、俺が好きになれない性格だ」

 クローディアの背に向けられた呟きは、日光を浴びていたベッロだけが聞いていた。

 

 2人と湖の畔でベッロを十分に遊ばせた(ハーマイオニーは読書のみ)。夕食の時間が迫っていたので急いで城へと駆け出す。

 別方向から、ハリーとロンが歩いてきた。ハーマイオニーが驚いたように足を止め、冷たい視線を2人に向ける。

「あなた達、まさか、『暗黒の森』に入ったの!?」 

「違うよ、ハグリッドのところでお茶してたんだ」

 不快そうにロンは返したが、ベッロを見るなり引いた顔をして一歩下がった。そのベッロは何故か、クローディアのローブのフードに顔を突っ込んでしまった。

「珍しいさ、ベッロがこんな態度とるのはさ」

 クローディアがハーマイオニーと顔を合わせて肩を竦める。

 方向が同じ4人と1匹、自然と一緒に大広間を目指す。ハリーは思い出したようにクローディアにスネイプの話題を振った。

「レイブンクローの子から聞いたよ。君もスネイプにひどい目に合わされたってね」

 弱弱しく微笑んだハリーに、クローディアは曖昧に頷く。スネイプを餌に仲間意識とは若干、複雑な気分だ。

「ハグリッドは生徒を嫌ってるって、でも絶対違うよ。僕と君は憎まれてるんだ!」

 突拍子もない発言に思わず、クローディアは苦笑。

「憎まれる? 私たちが? ポッター、それは飛躍しすぎさ。スネイプ先生だけじゃないと思うさ。私の入学に不満があるのはさ。他の先生も態度には出さないだけさ。上級生には実際いるしさ」

 出来る限り笑顔を見せたが内心、ハリーの言葉は的外れではないと思う。スネイプの視線の正体が『憎悪』なら、見事に当てはまる。

 だが、クローディアはハリーを窘める為、その考えを無視した。

「ポッターの有名人ぶりもそうさ、不満を持っているヤツは態度に出さなくても必ずいる。スネイプ先生はそれを目の当たりにさせてくれたのさ」

 ハリーは納得いかない表情を見せたが、大広間に着く。別々の寮席へ行く為、別れた。ベッロは寮に帰るまで、ローブに顔を突っ込んだままであった。

 




閲覧ありがとうございました。
●アンソニー=ゴールドスタイン
 多分、同級生で一番正義感がある。
●マイケル=コーナー
 現実主義だと思う
●ペネロピー=クリアウォーター
 原作二巻からの監督生。
●クララ=オグデン、ジュリア=ブッシュマン
 同年代が欲しいオリキャラ。
●ミム=フォーセット
 原作四巻にて、苗字のみ。
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