こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
ゆっくりな展開で、すみません。暴かれるのは、別の事柄です。


17.暴かれる

 寒気が治まらない土曜日。

 午前中の『ホグズミード村』は、視界が霞む程の猛吹雪に襲われた。そんな状態にも関わらず、生徒達は、吹雪に負けぬ活気で貴重な外出時間を堪能する。

 『ハニーデュークス』で十分な御土産を手にした。クローディアはハーマイオニーと城に戻ることにした。

「量は持てても、手持ちが問題さ。お小遣いがスッカラカンさ」

「この鞄に入っちゃうから、つい買いすぎちゃうわね」

 ハーマイオニーが鞄を撫でる。

 店を出た2人に、入れ違いのドラコがわざと肩をぶつけてようとした。その前に、クローディアは彼の肩を手で受け止める。

「負け犬が僕に触れるな」

 悪態付くドラコをクローディアは聞き流す。一瞥もせず、さっさと歩きだす。

 それを無視と受け取ったドラコは、忌々しく舌打ちする。後から続く取り巻きに聞かせるように、彼は腹の底から叫んだ。

「どうせ、レイブンクローは今年も寮対抗杯の優勝を逃したんだ。レイブンクローが寮対抗杯を得たのは、クィレルをアズカバンにぶち込んだ時だけだもんな」

 耳に入った言葉にクローディアの首の後ろが熱い。自然と足がとまり、ドラコを振り返る。

「気に障ったか? 本当のことだろう! おまえ達は、アズカバンに囚人を入れた手柄で寮対抗杯を勝ち取ったんだぞ!」

 嘲笑ったドラコは、彼女達を指差した。

 笑い声など、クローディアには聞こえない。信じたくない情報が脳内で繰り返された。

『クィレルは、アズカバン』

 喉の奥が痙攣する。痙攣ではなく、嗚咽だ。吐き気を認識し、クローディアは口元を手袋越しの手で覆う。

「でたらめを言わないで!」

 憤怒の形相でハーマイオニーが怒鳴る。言葉を失くしたクローディアは、城に向けて一直線に走り出した。慌ててハーマイオニーもそれを追う。

 ドラコは何か言いかけたが、その前に雪玉が放り投げられた。一か所からではなく、四方だ。

「マルフォイ! 雪合戦はいかが?」

「こっちこもだ!」

 フレッドとジョージ、リー、ロジャーやクララ、マリエッタ達がドラコ達に向けて雪玉を投げて付けていた。多勢に無勢と彼らは、散りじりに逃げた。

 

(嘘だ!)

 身体は走る。ただ、走る。

(クィレル先生がアズカバンのはずがない!)

 荒い呼吸と共に、心拍も速くなる。だが、息苦しさはない。もっと早く、足は進められる。

 城門の吸魂鬼を抜け、玄関ホールに着く。廊下の左右から、下級生達が騒いでいる。天井を見上げれば、幽霊が優雅に漂い笑いあう。

 向かうのは、職員室だ。誰かを捕まえて問いただすしかない。思えば、クィレルが何処にいるか聞いていない。

 問うたことはない。一度もない。

 問うべきではないと、考えていた。勝手に考えていた。必要なことは、向こうから話してくれる。話すべきときに話してくれる。

 本当のことを答えるだろうか?

 誰も本当に知らなかったら、どうする?

 真実だったら、どうする?

 脳髄から囁く疑問の声がクローディアの足を止める。足が止まれば、身体の痙攣を感じる。痙攣に耐えられず、柱にもたれた。肩で息をしても、激しい動悸が煩い。

「クローディア、どうしたの?」

 ネビルが心配そうに声をかけてくる。

「顔色、悪いよ。医務室に行こうか?」

「具合が……悪いんじゃないさ」

 絞り出した声は、震えている。これでは、説得力がない。

「いた!」

 疲労困憊のハーマイオニーに発見し、安堵の息を吐く。ネビルは怒られる予感でもしたらしく、柱の陰に隠れた。

「心配したわ」

「うん、ごめんさ」

「2人とも、大丈夫?」

 おそるおそるネビルが2人を心配する。走り疲れたハーマイオニーは、手振りで返す。

「クローディア、ハーマイオニー、ネビル」

 穏やかな声に振り返れば、ルーピンだ。

「ルーピン先生、僕、吸血鬼のレポートでわからないことがあります」

 絶好の機会とネビルは、ルーピンに質問した。呼吸を整えたハーマイオニーも閃いた表情で、鞄を漁る。

「ルーピン先生、吸血鬼のレポートを提出します」

「ああ、受け取るよ。ハーマイオニー」

 ハーマイオニーが鞄からレポートを取り出した。まさにその瞬間、玄関から血相を変えたマルフォイが走り去った。

 その勢いでハーマイオニーのレポートが何枚か宙を舞う。冷静にルーピンがレポートを回収した。

「吃驚した……。あれって、マルフォイだよね?」

 ネビルが瞬きを繰り返す。

 今は、ドラコを話題にしたくないクローディアは、頑なに口を閉じた。代わりにハーマイオニーが悪態をつく。

「幽霊でも見たんじゃない?」

 思わず、クローディアは噴き出す。幽霊達もドラコの行動が気になり、首を傾げている。

「おもしろい冗談だね。冴えているよハーマイオニー」

 微笑むルーピンに、ハーマイオニーは誇らしげに照れた。気分を良くした彼女は鞄からいくつかお菓子箱を取り出し、ルーピンに差し出した。

「ルーピン先生、『ハニーデュークス』の新作です。どうぞ」

「ありがとう、ハーマイオニー」

 遠慮なく、ルーピンはお菓子箱を受け取った。ネビルが物欲しそうに眺めてきたので、ハーマイオニーは彼にも分け与えた。

「ありがとう!ねえ、ハーマイオニー。僕の吸血鬼のレポート、見てくれる?」

 堂々とルーピンの前で、ネビルは宿題を手伝えと言ってのけた。この鈍感じみた勇敢さに時々、呆れを通り越して感動すら覚える。

「ええ、いいわ。クローディアもレポートするでしょう?」

 ハーマイオニーの視線が「今は、クィレルのことを忘れろ」と語る。無論、クローディアは真実を知る勇気がない。

 そして、知ってしまった場合、どうすればよいのかもわからない。

 クローディアが小さく頷き、ハーマイオニーは安心した。

「2人には、今日中に出させますので、お待ちください」

「頼もしいね、ハーマイオニー」

 愉快そうにルーピンは微笑んだ。

 

 図書室の席を確保したクローディアは、さっさと吸血鬼のレポートを仕上げる。はずだが、頭を過るのは、やはりクィレルのことばかりだ。間の悪いことに、このレポートが彼を思い出せる。よく吸血鬼について、授業していたものだ。

 ハーマイオニーは、丁寧にネビルのレポートを見ている。彼は、ニンニクの使い方に細かく疑問を何度もぶつけた。

「本当はね、ハリーとやるはずだったんだけど。寮に行ったきり、戻ってこないんだ」

 半開きの窓からフクロウが突入し、ハーマイオニーの眼前を横切った。羽ばたきと共に、レポートの上に封筒が置かれる。2人はハグリットからだと直感した。吃驚するネビルを余所に、急いで封を切る。文字が殴り書きされた羊皮紙が入っていた。

【クローディア、ハーマイオニーへ

 俺達の勝ちだ。バックビークが危険じゃないと認められた。

 ロンドンも楽しめた。おめえさんたちのお陰だ。感謝しても、し足りねえ。

 本当にありがとう  ハグリッドより】

 激震が走り、クローディアとハーマイオニーはお互いを見つめ合う。そして、図書館にいることも忘れて力の限り嬌声を上げ、喜びを分かち合った。必死にネビルが2人を宥めたが、無駄だ。

 ネビル共々、マダム・ピンスに図書館を追い出された。

「なんで、僕まで……」

 落ち込むネビルを見ても、2人の興奮は冷めない。

「皆に報せて祝うさ!」

「ええ、そうよ。とっても、おめでたいわ!」

「一体、何の話なの?」

 困惑したネビルに、ハーマイオニーは手紙を見せつけた。彼は瞬きし、じっくり手紙を読み返す。そして、気付いた。

「ハグリッドが勝ったんだね。じゃあ、マルフォイは負けたんだ」

「その通りさ! ネビル、皆に教えるさ。ほら、走ってさ!」

 クローディアに言われるがまま、ネビルは走る。一度、曲がり角を曲がってから、戻ってきた。

「何処に行けばいいの?」

「談話室よ!」

 ハーマイオニーに言われ、納得したネビルは再び走り出した。

「私達は、大広間に行きましょう!」

 廊下で2人は手を取り、ひたすら円を描いて廻る。回転によって、少し気分が悪くなったが気にならない。回転する力は弱めながら、彼女達は廊下を進む。腹から笑い声を上げ、足元がふらつく。

 ミセス・ノリスが迷惑そうに逃げ去った。

 大広間の傍まで来ると、ハリーとロンがとぼとぼと歩いてくるのが見えた。2人とも、絶望した表情で落ち込んでいる。

 ハリーは彼女達の姿を目にし、怯えたように肩をビクッと揺らした。

 構わず、クローディアはハリーとロンに飛びついた。

「ポッター、ロン! ハグリッドが勝訴したさ! バックビークは無罪放免さ!」

 一瞬、理解するまでにハリーとロンは黙り込んだ。情報が脳髄まで行き渡り、2人は我が事のように手放しで喜んだ。

「すごいよ、ハグリッド! わあ、嬉しいな!」

「遂にやったんだ! すげえ!」

 感動を分かち合う為、ハリーとロンはお互いの手を叩き合う。

「マルフォイも、ざまあないわね。ところで、ハリー? ネビルが探してたわよ」

 笑顔のままハーマイオニーは強い口調で、ハリーを睨む。

「そうだね。僕もネビルとレポートをすべきだった。実は、……その……。マルフォイが、ホグズミードで妙なモノを見たらしいんだ。僕の生首が宙に浮く姿を……」

 一気に場の空気が凍る。

「それで、さっきスネイプ……先生に呼び出されて、どういうことかって……。スネイプ先生は、僕のポケットに入っていた羊皮紙に興味を抱いて、魔法で羊皮紙の正体を暴こうとしたんだ。でも、羊皮紙はスネイプ先生を馬鹿にした言葉だけ返したよ。その後、ルーピン先生とロンが『ゾンゴ』の玩具だって言って助けてくれた。羊皮紙は、ルーピン先生に没収されたよ」

「ルーピン先生は、すごく僕らに失望してた。本当、僕らは馬鹿なことした」

 しゅんっとロンは項垂れる。心から反省し、2度と過ちを犯さないと誓う意思を感じ取れた。

 眉を痙攣させたハーマイオニーは、腕組みをする。

「あなた達にも、困ったものだわ。でも、マルフォイったら……。本当に、あいつはどうしようもないわね」

 怒りに震えるハーマイオニーの姿に怯えたロンは、そそくさとクローディアの後に隠れる。

「何? マルフォイと何かあったの?」

「いや、別に……」

 クローディアははぐらかそうとしたが、耳ざとく聞き取ったハーマイオニーがロンを凄む。

「マルフォイったら、クィレル先生がアズカバンにいるなんて、でたらめを言ったのよ。クローディアが傷つくだろうと思って!」

 クローディアの胸の奥が重く沈む。そんな感触がする。

「クィレル先生がアズカバンって、それは酷いね」

 ハリーは、ドラコに純粋な怒りを持って答える。

「マルフォイは、クィディッチの試合で僕を驚かせようとしたけど、駄目だった。腹いせでクローディアに八つ当たりしたんだ」

「全く、言っていい嘘と悪い嘘があるわ」

 頬を膨らませたハーマイオニーに、ハリーは同意した。しかし、ロンだけ顔色を青くして黙り込んでいる。

「クローディアは、クィレルから手紙が来たんだよね?」

 おそるおそるロンは、確認してきた。

「バレンタインの時だけだけど、来たさ」

「それなら、クィレルはアズカバンにはいないよ。あそこは、囚人宛に手紙を送れない規則がある。クィレルが手紙を受け取って、返事を出したなら、そういうことだよ」

 ロンの声は上ずり、手は震えている。何故だが、焦りがみえる。

「マルフォイの言うことなんて、信じちゃ駄目だ。さあ、皆にハグリッドのことを教えに行こう」

「そうだね、パーシーも喜ぶぞ!」

 ロンはハリーと肩を組み、大広間に入って行った。

「行きましょう」

 ハーマイオニーの背を見つめ、クローディアは納得し切れない部分を考え込む。ドラコは話を誇張する癖はあるが、根拠のない嘘はつかない。必ず、事実を元にした虚実を生み出す。それがドラコの陰湿かつ狡猾な部分だ。

 全速力で駆けてきたネビルが肩で息をし、クローディアを呼びとめる。

「吸、吸血、鬼のレポート……、一緒に出しに行こう」

「おお」

 ハグリッドのことで有頂天になり、すっかり忘れていた。

 

 夕食の大広間は、ハグリッドを欠いたまま軽く勝訴祝いが行われた。

 フレッド、ジョージが軽く改造した『唸る花火』が星空の見える天井に『ハグリッド勝訴』の文字を書き込んだ。その文字に、ドラコは悔しそうに睨んでいた。

「見て、マルフォイの顔」

「お家の力が及ばなかったのでしょうね」

 パドマとリサが、ドラコを尻目に嘲笑する。

「クローディア、これ食べると熟睡できるから夢遊病も安心だよ」

 コーヒープリンを勧めるルーナに、クローディアは遠慮する。残念そうに彼女はコーヒープリンを向かいに座るシーサーに押し付けた。彼が嫌そうな顔をしたので、ベッロがコーヒープリンを一飲みする。

 今度は、クリームを大量に盛り込んだケーキを勧めてきた。二度も断れず、クローディアはルーナからケーキを受け取る。

「ねえ、ジョージ=ウィーズリーから何か言ってきた?」

 ケーキを頬張り、クローディアは首を横に振る。

「いいや、どうしてさ?」

「クローディアが箒から落ちたとき、すごく心配してたもン。でも、オリバー=ウッドが敵のことは放っておけって怒鳴って、放ってたんだもン。少しだけ、辛そうだったもン」

 試合を回想すれば、『コメット260号』が折れる直前に、ジョージは確かに危険を報せてきた。

 当の本人は、マクゴガナルから『唸る花火』を取り上げられていた。

「試合中は、誰が倒れても続行するのが決まりさ。それに勝ったのは、向こうだし、忘れてるさ」

「クローディアは泣いたから、もう大丈夫だもンね」

 ルーナは、紙の皿で作った冠をクローディアの頭に乗せる。

「勝ちに酔ってるときは、忘れるよ。ナーグルの常套手段だもン。でも、酔いから覚めたら、忘れてたことも思い出すよ」 

 忘れていたことで思いついたのは、試合前のジョージの態度だ。仲間割れを狙う言い草で、クローディアを責め立てた。脳裏に甦った感情で、胸中に沸々と怒りが湧く。

「ちょっと、話してくるさ」

 不機嫌に席を立ち、クローディアはジョージに迫ろうとした。しかし、双子はクローディアが席を立つより先に大広間を出た。追いかけて、廊下に出る。

「ミス・クロックフォード。バスケ部の今後の活動のことでお話がある」

 真剣な口調でバーベッジに声をかけられた。

 

 バーベッジが報せた内容に、クローディアは大いに不満である。ブラックの襲撃により、平日の部活動が禁止されたのだ。休日の昼間のみだ。しかも、顧問のバーベッジが見張りとして必ずつかなければならない。だが、彼女にも生徒のレポート、授業の下準備があるため毎週同じ時間に開ける余裕はない。

 寝台に寝転がり、ため息をつく。

「聞いて下さい。フリットウィック先生ったら、『楽団部』の活動を控えるんですって」

 半泣き状態でリサが扉を開き、寝台に飛び込んだ。

 何処の部も同じ目に合っている。

「クィディッチは、どうするさ? 週末の練習だけじゃ間に合わないさ」

「それでしたら、先生が2人つくそうですわ。マダム・フーチと寮監」

 枕に顔を埋めたままリサが、投げやりに答えた。

「ああもう、どれもこれもシリウス=ブラックが悪いさ! 部活の計画表は何処さ」

 写真立ての傍に、置いていた計画表を取りだす。乱暴に引っ張ったせいで、写真立てが倒れた。その衝撃で、1枚のカードがひらりと宙を舞ってしまう。クィレルからのバレンタインカードだ。クローディアは慌てて拾おうとしたが、カードは手をすり抜けてリサの上に落ちる。

「なんですの?」

 カードを目にし、リサは目を丸くする。

「それは……」

「へえ、スネイプ先生も粋なことをなさいますわ」

 感激したリサの言葉は、クローディアには意味不明だ。

「それはスネイプ先生じゃないさ」

「いいえ、これはスネイプ先生の字ですわ。おそらく、利き手とは逆で書いたのだと思います。だから、字が歪んでおられるの」

 脳内が真っ白になる。

 嬉しそうに、リサはカードを返してくる。反射的にクローディアはカードを受け取った。

 カードに書かれた文字を読み返すが、クローディアにはこれを彼の筆跡だと判断出来ない。

 もしも、本当にリサの言葉通りならば、クィレルは一度も返事を寄こさなかったことになる。それはアズカバンの牢獄にいると証明している。

(違う!)

 浮かぶ答えを否定し、クローディアはカードを握りしめる。リサに適当な言い訳をし、飛び出した。

 

 走らずに、ただ歩く。

 今度はスネイプの研究室だ。きっと、様々なことで機嫌が悪い。だが、今のクローディアには心底、どうでもいい。避けてきた真実を聞かねばならない。

 研究室の扉を叩き、クローディアは返事も待たずに押し入った。

 紅茶を飲もうとするドラコがいた。スネイプは菓子を差し出していた。2人は乱入者に驚き、一瞬、目を丸くした。しかし、相手がクローディアとわかり、スネイプは溜息をつく。

「入室を許可していない……」

「お話があります!」

 スネイプの言葉を遮り、クローディアは怒鳴り声に近い口調で言い放つ。

「ミスタ・マルフォイ。行きたまえ。これは、持って行くがよい」

「ありがとうございます」

 スネイプはいくつかの菓子をドラコに握らせた。嬉しそうにドラコは、クローディアに自慢しようとした。しかし、彼女から放たれる迫力に恐れをなす。関わりになるまいと、彼は研究室を去る。丁寧に扉を閉めて行った。

 クローディアは、勢いをつけてバレンタインカードを机に叩きつけた。反動で、カップが揺れる。気にせず、スネイプを凄む。

 全く臆せず、黒真珠の瞳はクローディアを見返す。

「マルフォイくんが御親切に、クィレル先生はアズカバンにいると教えてくれました」

 僅かにスネイプの眉が痙攣する。

「そして、友人がこのカードの筆跡はスネイプ先生のモノだと鑑定してくれました。何故、こんなことをしたんですか? それに! どうして、私がクィレル先生に手紙を出していることを知っていたんですか? クィレル先生は、本当にアズカバンなのですか!? あそこは手紙を受け取れないはずです!」

「くだらん」

 一蹴したスネイプは、カードを手に取る。

「アズカバンにいる囚人に手紙が届けられんというのは、方便だ。受け取る意思があるならば、囚人は手紙を受け取れる。だが、貴様の手紙は最初の一通から、校長に送り返されていた。クィリナスが手紙を拒み、校長に処分を頼んだからだ! 何故だが、わかるか? 監獄所は外界から隔離され、吸魂鬼により活力を奪われる。手紙などというものは、囚人に活気を呼び起こし、更なる吸魂鬼の犠牲となるのだ! 貴様が自分勝手に行ったことは、クィリナスを苦しめていた!」

 受け入れたくない事実を耳にし、クローディアの焦燥が強くなる。これ以上、何も聞きたくない。しかし、両手は硬直して動かない。

「何故、我輩がこんなくだらん真似をしたか? 校長がやろうとしたからだ。校長の手を煩わせるわけにいかず、不本意ながら我輩が書くしかなかった。認めよう、我輩はこんなくだらんことをすべきではなかった」

 カードがスネイプの手の中で、くしゃりと音を立てる。

「あ……」

 縋るようにクローディアは、スネイプの手からカードを取ろうとした。しかし、無情にも紙くずとなったカードは、暖炉へ放り投げられる。彼女が手を伸ばしたが、間に合わなかった。

 これまでクィレルからの返事と信じていたモノが燃えて行く。

「あ……、あ……」

 クローディアの中で、積み重ねてきた我慢や辛抱も消える。堪えてきた感情が全身を走り、制御が効かない。混濁とした感情に脳髄が付いていけず、自然と口を閉じる。

「何も知らずにおれば良かったものを……まあ良い。これも持って帰りたまえ」

 クローディアの足元に乱暴な音で木箱が落ちてきた。両手に収まる大きさの粗雑な木箱。落ちた拍子に箱の蓋が外れて中が見えた。中には、封筒が敷き詰められている。その封筒には、見覚えがある。当然だ。これは全て、彼女が出したものだ。

 咄嗟に、箱の中の封筒をぶちまけた。手紙の封は、どれも切れていない。

「それと、その中に入っていない分は、不本意ながら我輩が読ませて頂いた。あまりにも、稚拙すぎて読むのを飽きたがね」

 授業中に出来の悪い生徒を教える口調でスネイプは、せせら笑う。

 クローディアの全身が痙攣し始める。混ざり合った感情がひとつ、ひとつ、バラバラになり、身体を走り回る。激昂、悲哀、失望、絶望が自らを主張する。それを受け入れ、目を見開く。小刻みに震える両手は、ゆっくりと我が身を抱きしめる。

「嘘吐き……」

 痙攣するクローディアの唇が紡ぐ。不快げにスネイプは眉を寄せるが、彼女は気にしない。

 気にかける余裕などない。

「あなたはクィレル先生を見捨てた。お父さんは……あなたは誰も見捨てないと言っていたのに! あなたは、お父さんに嘘をつかせた!」

 悲痛な響きは、スネイプの表情を怒りへと変えた。

「貴様の父親が、だと……。……揃いも揃って、気色が悪い! 我輩がどんな人間か勝手に決め付けるな! あんな裏切り者に我輩の何がわかるというのだ!」

 胸に湧き起こる怒りを以てクローディアは、スネイプを睨んだ。

「私を憎むのは、構わない! けど、お父さんを裏切り者呼ばわりするな! あなたはお父さんの親友はずだ! どうして、そこまで親友を憎める! 私は何があってもハーマイオニーを恨んだりしない! どんなに長い歳月、連絡が取れなくても!」

「例え、知らぬ異国で家庭を築いていたとしてもか? しかも、誰にも知らせず黙って姿を消されてもか?」

 幽鬼の如く、冷淡な声に寒気を感じる。

 そうだ。目の前の教授は、クローディアとコンラッドは親子ではないと確信を持っている。臆してはならない。決して、スネイプは正しくないのだ。

「お父さんは、私にも同じ血が流れていると言った!!」

 絶対の宣言が齎したのは、憤怒を超える否定。

「ありえん……。その肉体にコンラッドの血があるなど、断じて認めん! 奴は……女を愛せない男だった! どんな女に迫られても、奴は見向きもしなかった。奴には、子種がなかった!女を愛したところで、子供が作れぬ身体だったのだ!」

 耳にしたくない闇色の声は、拒絶するには脳裏に焼きつきすぎた。

「あ、あ、ああ、あああ、ああああ!」

 耳を塞いでも意味はなく、それでも耳を塞いでクローディアは絶叫する。苦悩と拒絶と失望を吐き出すため、ただ叫んだ。

 叫びながら、クローディアはスネイプを突き飛ばした。彼は押された箇所が悪かったため、そのまま床に倒れこんだ。

 勢いでクローディアは、スネイプに馬乗りになる。無意識に彼女は、相手の首に手をかけた。

「取り消して、取り消して、取り消してええええ!」

 怯むことなくスネイプは、口を開く。

「我輩が取り消したところで、真実は変わらん! 大方、貴様の祖父がコンラッドに『愛の妙薬』か『魅惑の呪文』を仕掛けたのだろう? 父親のいない貴様への贈り物としてな! そうでもなければ、ヤツが我輩を裏切るものか!」

「取り消せぇぇぇ!!!!」

 教室に絶叫が反響した。クローディアの痙攣は激しくなり、その振動でスネイプの首にかけられた手に力が籠もらない。

「ならば、コンラッドがいかに貴様の母を愛したか、我輩に証明してみせろ!」

 黒真珠の瞳が、赤茶色の瞳と重なった。

 

 思考が急速に何処かへと引き込まれていく。視界にある教室の風景が消える。代わりにこれまでの出来事が多数のTV画面となって並んだ。

 

 ――――それは、五歳。

 ――――母の泣き声に私は目を覚ました。隣で寝ていたはずの母は、庭で父に抱きしめられていた。父は母の髪を優しく撫でて、「大丈夫だよ」と慰めていた。

 ――――それは、××。

 ――――××が川原に蹲っている。××の葬儀に、父が私に××と言った。

 ――――それは、七歳。

 ――――学校で田沢と喧嘩した私を母が宥めている。それを父が遠巻きに見ている。父は私に「喧嘩しても仲良くしたいなら、それは友達だ」と諭した。父を父らしいと思ったのは、これが初めてだった。

 ――――それは、十二歳。

 ――――空港に向かうため、私は車に荷物を積んでいた。居間を覗くと、父と母が口付けていた。祖父がまだ早いと私の目を両手で隠した。

 ――――スピナーズ・エンドの札が着いた路地を父と歩いた。

 ――――それは、十五歳。

 ――――酔っぱらった父がスネイプ先生のことを「大切な親友」と語っている。

 

(もう、やめて!)

 拒絶して叫ぶとTV画面は、消えて行った。

 

 意識を覚醒させたクローディアは、周囲を認識する。地下教室の天井、床から起き上がろうとするスネイプ、散らばった封筒を視認した。

 ようやく、クローディアは仰向けに倒れていると自覚した。

「いまのは……?」

 強制的な回想。夢のように曖昧ではなく、実際の記憶を辿らされていた。覚えていることもあったが、完全に忘れ去っていたことも含まれている。

「記憶を視たんですか? 私の……?」

 スネイプは何も答えず、封筒を木箱に集め直している。

 追求せずにクローディアは起きあがる。勝手に記憶を掘り返されたというのに、不思議と怒りが湧かない。それどころか、先程のまでの感情さえも空虚なまでに消え去っている。

「ミス・クロックフォード」

 呼ばれ、スネイプを睨むわけでもなく見上げる。彼が木箱を突き出していたので、彼女は黙って受け取る。見た目よりも軽いはずの木箱が今のクローディアには、鉛のように重い。

 スネイプの杖が振るわれ、扉が開く。退室を命じていると察し、クローディアは会釈もせずに研究室を出ていった。

 

☈☈☈

 杖を振るい、スネイプは扉を閉める。何気なく、暖炉を視界に入れた。脳裏を掠めるのは、手紙の返事についてダンブルドアと口論した時だ。囚人が外界に手紙を出すなぞ、前例にない。

〝前例がないなら、今から作ればよいだけの話じゃ。わしがアズカバンに赴き、クィリナスに事情を説明しよう。少々、彼には酷じゃろうがな〟

〝なれば、我輩が書きます!〟

 ただの衝動だ。誰の為でもない。偽物だとしれても、恨まれる覚悟ぐらいはしていた。しかし、コンラッドの名を出されたことは誤算だった。感情に任せて『開心術』を使ってしまった。

 先程の言葉ではないが、偽の手紙は用意すべきではなかったと後悔した。

 燻った火に、もう紙切れの姿はない。

 

☈☈☈

 木箱を抱きしめたクローディアは、バスケ部の部室にいた。ここにいると、随分と気持ちが安らかになる。

 床に寝ころび、研究室でのやりとりを冷静に纏める。

 クィレルは本当にアズカバンだ。手紙はひとつも読まれていなかった。それどころか、手紙を送る行為そのものが、吸魂鬼からの拷問に拍車をかけていた。何も知らず、クローディアは手紙を出し続け、偽の返事を出させるはめになった。

(ごめんなさい)

 スネイプはクローディアを憎んでいる。彼に憎まれるのは、コンラッドとの諍いか何かが原因と勘違いしていた。親友を奪った女の娘だから、恨んでいたのだ。親友を裏切り者と呼んだのは、決して本意ではない。

(ごめんなさい)

 コンラッドは確かにクローディアの父親だ。あの回想の記憶にいるコンラッドは、父親の顔をしている。娘が悲しめば父として慰め、時には激励し、応援もした。ずっと、放任主義だと思い込んでいた。理由はわからないが、父から離れていたのは自分だ。

(ごめんなさい)

 クローディアは涙を流さない分、木箱を抱きしめる。

「よく、そんなところで眠れるな」

 覗きこんできた双子の片割れが感心して、クローディアを眺めてくる。返事する気力もなく、腕で顔を隠す。

「クローディア、消灯時間はとっくに過ぎてるぞ。フィルチに見つかっても知らねえからな」

「あんたは、ジョージさ?」

 ジョージは、にんまりと笑う。

「ハグリッドが勝ったっていうのに、浮かない顔してどうした?」

 クローディアの隣に寝転がり、ジョージは天井を見やる。横目で彼を見つめ、思いつく。ハーマイオニーとハリー、リサはクィレルの件を知らない。なら、ドラコの情報源は、おそらく父親だ。マルフォイは魔法省にコネがある。つまり、魔法省勤めのアーサーも知っているはずだ。動揺したロンの態度に納得した。

 ロンはクローディアに知られまいと嘘をついたか、励まそうとしたのだ。

「ジョージ、私さ。……クィレル先生のことを聞いたさ」

 ジョージの肩がビクッと痙攣する。

「皆が私に黙っていたのは、気を遣ってくれていたんだと思うさ。何も知らない方が幸せってこともあるさ」

 ブラックがハリーの両親を裏切った。その真実から、周囲はハリーを守ろうとした。彼は必ず両親の仇を討とうとする。その命を賭しても、成そうとするだろう。

「わかっているさ、でもさ……。どうして、教えてくれなかったのって、考えてしまうさ。私、おかしいと思うさ?」

「おかしくない」

 ジョージは片腕に身を預け、クローディアと視線を絡ませる。一切の笑みはなく、軽蔑もない。それなのに、優しく慰められている気分になる。

「どうして、クィレル先生はアズカバンに行っちゃったさ?」

「わからない。ただ、自分の意思で行ったんだと思うな。ダンブルドアの考えじゃない。ジニーを罪に問わなかった人だから、俺はそう思うよ」

 かつて、ダンブルドアはクィレルの処遇について意見を求めた。あの時、然るべき病院に入れて欲しいと願い出れば良かったかもしれない。だが、ハグリッドは短い期間でもアズカバンに収容され、無事に学校へ帰って来た。

 クィレルも思うところがあって、アズカバンを望んだかもしれない。

 全てはただの憶測だ。

「話を聞いてくれて、ありがとうさ」

 クローディアの視線は、天井に向けられる。

「もう少ししたら、部屋に帰るさ」

「付き合うよ。勝手にな」

 仰向けになったジョージの視線も天井を見る。

「何しているんだい?」

 いきなり、ルーピンが部室に入って来た時は本当に吃驚した。

「こんな時間にいちゃいけないよ。寮まで送ろう。今回だけだからね」

 本来なら、寮監に突き出されて罰則と減点モノだ。ルーピンに感謝しつつ、ジョージは渋々、起きあがる。次いで、クローディアの手を引いて起こした。彼の手の感触に逞しさを覚える。以前もこの手を羨ましがったことがある。

 いつだったかは忘れた。

「ルーピン先生が巡回ですか?」

「いいや、私は探し物をしていたんだよ。生徒から没収したはずの代物なんだけど、事務所の何処にも見当たらなくてね」

 ルーピンとジョージの他愛ない会話を聞き、クローディアは非常に嫌な予感がした。そういう予感は当たりやすいので、無視を決め込んだ。

 

☈☈☈

 強い力で頬を引っ叩かれた。感触からして、鱗だ。

 朦朧とした意識でハリーは、眼鏡を探す。月明かりだけで室内を確認すれば、ベッロが古い羊皮紙を銜えている。驚いて目を見開く。それはルーピンに没収されたはずだ。

「まさか、盗んできたの?」

[必要だろう? それに、これでネズミが城にいるとわかるはずだ。もっと早く思い付けばよかった]

 素晴らしい思い付きだとハリーも納得した。ルーピンへの罪悪感はあるが、スキャバーズの為だと言い訳した。

 杖を取りだし、先端を羊皮紙に軽く触れさせる。

「――我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり――」

 無地の羊皮紙に線が広がり、それは繋がり地図の形を取った。しかも、ただの地図ではない。足跡のような点には、それぞれ名前が表示されている。まるでスパイ映画に出てくる発信機を彷彿させる。

 廊下を歩くフィルチ、教室を浮遊するピーブズ、玄関ホールにいるミセス・ノリス。何故だが、ルーピンとジョージ、クローディアが廊下を歩いている。

 視界に入り込んだ名に、我が目を疑う。

 死んだはずのピーター=ペティグリューの名が大広間を徘徊しているのだ。

「どうして?」

 彼は、小指だけ残して死んだ。ブラックに殺された。

[ほら、見ろ。ネズミは生きているぞ]

 意気揚々とベッロの尾がペティグリューを指した。その行動が理解できず、ハリーは絶句する。

「え? 何を言っているの? これは殺されたはずのピーター=ペティグリューでしょ?」

[そうだとも。あのネズミは、コイツだ]

 ベッロの言葉を理解するまで、ハリーは一瞬の時間を要した。彼の反応から察したベッロは、首を傾げる。いびきを掻くロンを振り返り、ベッロは溜息をつく。

[ハリー、まさか。鼠が人間の化けた姿だと気付かなかったのか? 知らずに、あいつと一緒に寝させていたのか?]

 脳髄の奥に電撃が走ったハリーは、思わず杖を落とした。

 ほとんど衝動で、眠っているロンを叩き起こす。眠りを妨げられた彼は、狼狽するハリーの説明を鼻で笑い返した。

「ピーター=ペティグリューが『動物もどき』でスキャバーズだった? おいおい、ハリー。エイプリルフールには、まだ早いって」

 侮辱されたと感じたベッロが、尾でロンの頭を叩く。

「嘘じゃないって、ベッロがスキャバーズはペティグリューだって言うんだ。だから、危険だと僕らに教えていたんだ。だって、普通の人は変身したままペットになったりしないだろ? ペティグリューは小指を残して死んだじゃなく、小指を切って生き延びたんだ。スキャバーズに小指はなかっただろう? それに鼠にしては、長生きしすぎだって」

「スキャバーズは、僕らがちゃんと世話したから長生きなんだ。それに元々パーシーのだ。指だって、仲間の鼠に苛められたに違いないよ」

 ぶっきらぼうにロンは、ハリーから顔を逸らす。緊張が解けないハリーは、震える手を握りしめる。

「ロン。ベッロは、危険がわかるんだよ。ヴォルデモートや蛇の王バジリスクも、ベッロには敵なんだ。だって、ベッロの味方は僕らなんだから! そのベッロがスキャバーズを危険だという理由は、他に何があると思う?」

 事の重大さを理解したロンは、真っ青になる。大切にしていたスキャバーズが自分達の敵かもしれないなど、受け入れがたい真実だ。

「でも……そうだ! そのペティグリューを捕まえよう! そいつが本当にスキャバーズの姿をしていたら、信じる」

 ロンにしては、最大の譲歩だ。

 ハリーは再度、ベッロにスキャバーズを連行するように強く頼んだ。

 

 レポートの手伝いと称し、ハリーはクローディアとハーマイオニーを図書館に連れ込んだ。その時、彼らは、まだ吸血鬼のレポートが終わらせていないと気付いた。本当にレポートを見てもらいながら、ハリーはスキャバーズのことを包み隠さず話した。

「「ペティグリューが『動物もどき』?」」

 案の定、彼女らは怪訝した。 

「ハリー、あなたちゃんと『動物もどき』のレポートをやったの? 『動物もどき』は魔法省に変身の特徴を登録する義務があるのよ。私、登録簿を調べたわ。勿論、マクゴナガル先生は登録されていたわ。けど、ペティグリューの名前はない。今世紀の『動物もどき』は7人しかいないはずよ」

 胸を張るハーマイオニーと違い、クローディアは深刻に受け止めている。

「法の抜け道があるのかもしれないさ。例えば、登録を怠った『動物もどき』さ」

「そんな、ホグワーツの生徒が魔法省の登録を……怠る……」

 ハーマイオニーは、口を噤んだ。その態度に、彼らは思いだした。『動物もどき』ではないが、クローディアも影に変身が可能なのだ。

「最近、変身してないけどさ。ペティグリュー探しに夜を闊歩してみるさ」

「でも、最後に変身したのは一昨年のクリスマスよ。危険じゃないかしら?」

 1年分の空きがあるにも関わらず、クローディアは自信に溢れている。

「今の私なら、平気だって確信がするさ」

「ならいいけど、毎晩は駄目よ。お勉強があるんだから」

 ハーマイオニーは心配そうだが、自信満々のクローディアに賛成した。

「そうだ。これ、クローディアが持っててよ。僕が持っているところをルーピン先生に見られると不味いんだ」

 周囲を警戒し、ハリーは懐から羊皮紙を取りだす。一瞬、ハーマイオニーの視線が厳しくなる。しかし、緊急事態と自分を諌めた。興味深そうにクローディアは羊皮紙を眺めて、慎重に触れる。

「一応、使い方を教えておくね」

 レポートの余った紙にハリーは、『忍びの地図』の使い方を書き込んだ。

「なんで、クローディアに預けるんだ?」

「ルーピン先生に僕らの部屋を探されたら、厄介だろ? ハーマイオニーは、耐えられずにマクゴナガル先生に提出しちゃうかもしれない。クローディアはそんなことしないもんね?」

 ハリーの指摘に、ハーマイオニーは咳払いする。

「ジョージとの約束もあるからさ。大事に預かるさ」

 説明の紙と羊皮紙をクローディアは懐に入れ、優しい手つきで叩く。

「くれぐれもハリーとロンは、スキャバーズを探しに行っちゃ駄目よ。特にハリーには、クィディッチの練習に専念してもらうわ。スリザリンを負かせてもらわないと困るわ。いいこと? 絶対、ボコボコにしてやるのよ」

 殺気立ったハーマイオニーに念を押され、唾を飲み込んだハリーは必死に頷いた。

 無事に吸血鬼のレポートを仕上げた彼らは、ルーピンに提出する。レポートを受け取るルーピンの目つきが2人を疑っていたと、ロンは感じた。

 




閲覧ありがとうございました。
たくさんの生徒から、応援され勇気を得たハグリッドは勝訴しました。一人の力ではなく、大勢の力がバックビークを救う。この辺りは、自分でも気に入っています。
ペットが実は人間なんて言われて、即決で信じたら、怖い。
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