こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
よくよく考えると、オリバー=ウッドとマーカス=フリントは、卒業試験も控えているんだなあ、すごいなあ

追記:16年3月7日、18年1月7日、18年8月12日、誤字報告にて修正しました。


19.試合が終わると試験

 ハッフルパフ対スリザリンは、接戦の末、ハッフルパフの勝利に終わった。スリザリンは完全に優勝から遠退いた。しかし、グリフィンドールとスリザリンの勝敗が、レイブンクローの優勝に深く関わる。非常に強力な博打だ。誰もが休暇明けの試合が待ち遠しかった。

「あんな授業! こっちから願い下げよ!」

 我慢の限界が来たハーマイオニーは、遂に『占い学』を辞めた。3年の初授業からの不満を延々とクローディアは聞かされ続けた。

「私も『占い学』を辞めたいものですわ……」

 リサがポツリと呟いた。

 

 

 迎えた復活祭の休暇、3年生にとって見たこともない大量の課題が言い渡された。

 いくら勤勉なレイブンクロー生といっても、限度がある。マイケルは頭を働かせすぎて熱を出し、セシルはノイローゼ気味になり、サリーは発狂して倒れた。

 課題と共に休暇が終われば、今度はグリフィンドールとスリザリンの小競り合いが始まる。段々と激しさを増し、上級生の間で耳からネギを生やす事件が発生。他の寮生は巻き添いを恐れて逃げ回った。

 クローディアがハーマイオニーと話をしている最中も例外ではない。

 パンジーが『クソ爆弾』を投げつけてきたので、クローディアは偶々居合わせたフィルチのブラシを拝借し、彼女に打ち返した。その後、3人とも管理人に散々叱られた。

 

 母から手紙が届き、クローディアの友人たちが皆、高校に進学したことを知った。日本がその時期であることをホグワーツでは忘れてしまう。

 

 

 明日の試合を楽しみに消灯を迎える前、皆は早々に寝静まった。談話室を占領したクローディアと泊まりを決めたハーマイオニーは暖炉の前にいる。2人は暖かい炎を頼りに『忍びの地図』を眺めている。

 ムーニー、ワームテール、パッドフット、ブロングズ。4人の『魔法悪戯仕掛け人』によるご自慢の品、それが『忍びの地図』。

 トム=リドルの日記に近い性質を持っている。彼はたった1人で、日記帳に人格そのものを植えつけた。『例のあの人』は、確かに優れた魔法使いだ。4人とはいえ、これ程のモノを製作した魔法使いも尊敬に値する。

 初めて目にする『忍びの地図』、ハーマイオニーは好奇心に悶えている。

 見つめるのは一点、ペティグリューの名のみ。

 これまで、クローディアは何度も夜中を抜け出して探した。見つけることは出来なかった。ベッロは今も、探しに城中を徘徊している。

 

 ――何故、生存を隠す必要がある?

 

 マグルの目撃者の証言が確かなら、ペティグリューはポッター夫妻の仇を討とうとし、返り討ちにあったとされる。アズカバンにいるブラックが逆恨みし、彼の命を狙いに来ることを恐れていたからにしても、辻褄が合わない。

 何故なら、アズカバンは脱獄者がいない刑務所だったからだ。わざわざ脱獄を予知していたとは、考えにくい。

 地図ではベッロがペティグリューを追いかけている。だが、段々と距離が開きペティグリューは逃げ切った。

 残念そうにハーマイオニーは息を吐く。

「影への変身で身体に影響はないかしら?」

「今のところは、何もないさ」

 以前は、一時間の変身で影が大変な事態に陥った。しかし、現在のところ後遺症はない。変身の際に杖はいるが、解くだけなら杖もいらない。

「そうさ、影を操れる程度にはなったさ」

 クローディアは手と杖を使わず、影を伸ばしてソファーを動かす。これは、ソファーの影を動かしただけだ。影の力は、本人の筋力に比例している。一度、『隻眼の魔女像』を動かそうとしたが、ビクともしなかった。

「まあ! クローディア。これってすごいことよ。あなたはまだ3年生で『動物もどき』を会得したも同然だわ」

「し~!! 聞かれるさ!」

 気付いたハーマイオニーは自分の口を塞ぐ。それから、声を押さえて口を開く。

「私、このペティグリューは『動物もどき』じゃなくて、誰かに鼠に変えられたんじゃないかと思うの。それなら、ずっと鼠のままだった理由も納得が行くでしょう?」

「そうなると、誰が、いつ、変身させたかってことになるさ。ペティグリューがブラックに殺される姿は大勢のマグルに目撃されてるさ……」

 口に出してから、クローディアは疑問点を見つけた。

「なんで、マグルの目撃証言しかないんだろうさ?」

「それはマグルしか目撃者がいないからでしょう? ペティグリューは親友の仇を討とうと、1人でブラックに立ち向かったのよ。大勢のマグルの前で……?」

 ハーマイオニーも疑問を感じ、口ごもる。

「……ねえ、お父様かドリスさんに相談しましょう。お2人なら、ペティグリューが『動物もどき』である可能性とブラックが捕まった時の詳しい証言を教えて下さるわ」

「でも……、それは……、……巻き込むのは悪いさ」

 難色を示すクローディアに、ハーマイオニーは毅然とする。

「先生達には聞けないわ。ブラックに関することに口を閉ざしているし……!!」

 急にハーマイオニーは短い悲鳴を上げ、青ざめる。視線の先を目にし、『暗黒の森』付近にいる名前に寒気が走った。

 クルックシャンクスとブラックだ。

「クルックシャンクスが……危ない」

 悲痛なハーマイオニーは、震えた手でクローディアの腕を掴んだ。

 自然と息を潜め、地図を凝視した。ブラックはそのまま森に入ったのか、地図から消えた。クルックシャンクスは城に戻り、玄関ホールでベッロと出くわしていた。

 ブラックも猫には手を出さない。安堵の息が漏れる。

「ブラックは、まだ学校の敷地にいるんだわ。どうして誰にも発見されないの? 吸魂鬼だって、全然、見つけられてないじゃない」

「……『動物もどき』で変身していたりしてさ」

 不安がるハーマイオニーを笑わせようと半分本気、半分冗談で口にした。小馬鹿にしたように彼女は笑う。

「まさか、何人も非登録の『動物もどき』がいて堪るもんですか」

「だろうさ」

 悪戯っぽく笑い、クローディアは地図に視線を落とす。グリフィンドールの談話室を視界に入れ、ある名前に気付く。

「このジネブラ=ウィーズリーって、ロン達の親戚さ?」

 素朴な疑問にハーマイオニーは目を丸くし、瞬きを繰り返す。

「……それ、ジニーのことよ。ああ、そうね。ジニーって、ジネブラの愛称なの」

 衝撃の事実にクローディアは、表情が強張った。確か、教師も彼女を『ジニー=ウィーズリー』と呼んでいる記憶がある。ロンも教師から本名の『ロナルド=ウィーズリー』で呼ばれているはずだ。

「ジニーの組分けの時、マクゴナガル先生もそう呼んでいたでしょう?」

 覚えてなどいない。家族や友達ならまだしも、教師まで愛称で呼ぶことが驚きだ。

「紛らわしいさ。けど、これで地図は本人の名前を表記するってわかったさ」

 動揺した声で咳払いし、クローディアは地図を杖で叩く。

「――イタズラ完了――」

 インクは消え去り、地図は白紙の羊皮紙となった。

 

 競技場は歓声と拍手喝采で爆発した。

 結果、グリフィンドールの勝利だ。そして、レンブンクローの合計点と比較し、僅か20点差でグリフィンドールがクィディッチ優勝杯を獲得した。スリザリンの完全敗北に、ハッフルパフは狂喜乱舞で抱きしめ合う。優勝を逃したレイブンクローは複雑な心境だが、彼らの勝利を祝福した。

 感涙の号泣がハリー達を包んだ。滝の涙を流したオリバーは、ダンブルドアから優勝杯を受け取る。オリバーは涙で嗚咽しながら、チーム最高のシーカーであるハリーに優勝杯を手渡した。

 ハリーは皆に見えるように優勝杯を掲げ、喜びを表現しきれない表情で笑った。

「ハリー=ポッター! おめでとうさ!!」

 クローディアの歓声を聞き、周囲も真似して叫んだ。その胸中には、友への祝福と優勝を逃した残念さがある。これが普通だ。ふたつの感情を受け入れ、拍手を大きくする。

 ロジャーも拍手していた。拍手というよりも、怒りを両手に叩き込んでいる。

「スリザリンは惨敗だ! これを喜ぼう!!」

 引き攣った笑みで叫ぶロジャーが少し不気味だ。

 それでも悔しさでのあまり、スネイプにしがみ付いて泣いているドラコよりはマシだろう。

「ハリー、ハリー、素敵だ!」

 コリンがジニーと抱き合いながら、歓声を上げていた。

 感激感動の嵐が冷めやまぬ内、誰もが城へ帰る。既にグリフィンドール優勝は広まっており、『ほとんど首なしニック』が『血みどろ男爵』と『太った修道士』から祝われていた。その分、『灰色のレディ』の機嫌がすこぶる悪い。ピーブズに八つ当たりしている姿を見かけ、生徒は震えあがった。

「そんなことしたら、男爵に怒られるさ」

「あの男爵の了解は得ております」

 クローディアに品良く返答した『灰色のレディ』は、再びピーブズに八つ当たりを開始する。哀れなピーブズに向け、胸中で合掌した。

 寮に行こうとしたクローディアをフリットウィックが呼びとめる。

「ミス・クロックフォード、少々、お話があります」

「はい、フリットウィック先生」

 『呪文学』の教室で、勧められるままクローディアは椅子に腰かける。フリットウィックは自分の監督する寮が優勝を逃し、少し残念そうにしていた。

「以前、グリフィンドールとの試合であなたは折れた箒で飛びましたね。このことについてですが、私達は職員会議を開きました。悪い意味ではありません。寧ろ、名誉と思ってくれて構いません。あなたは、箒なしで空を飛んだ可能性があるのです! 僅か3年生の身で! マダム・フーチは折れた『コメット260号』を調べました。そして、こっそりと『飛行術』の授業中にミス・クロックフォードの飛行能力を確認させて頂きました」

 恐るべき事実にクローディアの肝が冷える。『飛行術』の折、マダム・フーチはそんな素振りを少しも見せなかった。

 段々と興奮してきた寮監は椅子から落ちぬように、手すりを掴む。

「やはり、あなたは箒なしで飛んでいました! これは『O・W・L試験』、または『N・E・W・T試験』を遥かに上回る高度な魔法をやってのけたのです」

 遂に金切り声を上げたフリットウィックは椅子から、転げ落ちた。色々と吃驚したクローディアは、一先ず、彼を起こす。

「ありがとう、ミス・クロックフォード。それで、職員会議の結果、レイブンクロー50点差し上げることになりました。本来なら、100点でも少ないと思っています。それもこれもスネイプ先生が……げふんげふん」

 語尾だけわざとらしく、咳き込む。

 50点という高得点にクローディアは胸が奮えた。それと同時に疑問も浮かんだ。感激を押さえ、質問する。

「質問があります。私のしたことは、そんなに珍しいのですか?」

「入学前の幼い頃ならば、むしろ普通です。勿論、箒を使わず飛行する魔法使いはいます。ですが、それは稀です」

 クローディアは祖父との会話を思い返す。祖父は、身一つによる飛行術を当たり前のように語っていた。てっきり、熟練の魔法使いや魔女はピーターパンのような飛行をするのだと思い込んでいた。

(もしかしなくて、お祖父ちゃんってすごいさ?)

 ここに来て、今更ながら祖父の偉大さが身に沁みた。

「あなたのような生徒を持てて、私は幸せです」

 感極まったフリットウィックは、それでも涙を堪える。クローディアには、寮点より寮監の言葉が胸を打つ。最高の賛辞を受けたのだ。嬉しさで彼女は、まるでハリーのように表現しきれない笑顔を作った。

「私もフリットウィック先生が寮監で嬉しいです」

 2人の頭上をピーブズが泣きながら、飛んで去る。その後を『灰色のレディ』が追いかけた。感動に浸っていたが一気に台無しとなった。

 

 

 試合の興奮に浸るのは、短い。

 誰もが学期末試験に向け、取り組んだ。『O・W・L試験』のあるフレッド、ジョージでさえ勉強で悪戯がピタリと止んだ。ハーマイオニーは『占い学』をやめたが、誰よりも科目が多いので殺気立っていた。しまいには、グリフィンドール寮は落ち着かないといってレイブンクロー寮に入り浸った。

 

 城の廊下、暖かい日差しに包まれている。人を探すには絶好の日和だとクローディアが思う。だが、誰を探していたかを思い出せない。

 それでも、足は歩いている。きっと、探し人の元へ向かっていると確信があった。『禁じられた廊下』を抜け、隠し扉を下りる。鍵の鳥がいなくなった部屋を通りすぎ、チェスが片付けられた部屋についた頃、クローディアは焦燥感に襲われる。

 

 ――嫌だ。行きたくない。

 

 足は止まらない。

 

 ――そっちは、駄目だ。

 

 叫んでも、足は廊下を進む。トロールのいない部屋、薬瓶のなくなった部屋も難なく通る。

 行きついたのは、鏡のなくなった最後の部屋だ。

 そこに探している人がいた。馬鹿馬鹿しいターバンを着けたクィレルがクローディアに笑いかける。

 

 ――クィレル先生!

 

 再会を喜んだクローディアは、クィレルに飛びつく。

 

 ――会いたかった。ずっと、会いたかった。

 

 涙するクローディアはクィレルの胸元に縋りつく。彼は笑ったまま、両手で彼女の首を絞めた。息苦しさで顔を上げる。そこには、手配書のブラックがいた。

 

 ――何故?

 

 疑問した瞬間、ブラックはスネイプに変わった。

 

 ――先生、やめて。

 

 叫んでから、クローディアは瞬いた。首を絞めているのはコンラッドだ。

「MURDER」

 軽蔑の眼差しでコンラッドは吐き捨てた。

 

 意識が覚醒し、荒い呼吸が耳に入る。全身の肌は汗にまみれ、首筋に痛みが走っている。確かめるように触れ、鏡を覗きこんだ。クローディアの首に引っ掻かれた爪痕がある。自分の爪が赤く滲んでいた。首を絞める手を振りほどこうとして抵抗した跡だ。

 夢だと理解できても、動悸は更に激しくなる。

「大丈夫?」

 寝惚けた表情でパドマが聞いてきた。

「うん、大丈夫さ」

 クローディアの返事を聞き、再びパドマは布団に倒れる。リサも静かな寝息を立てて起きる気配がない。時間を見ると、日を跨いだだけだ。

 今日から学期末試験だ。

 『賢者の石』の事件は、確か最終試験の日だった。どうやら、心の何処かで意識する自分がいたようだ。そうでなければ、クィレルの夢を見るはずもない。ブラックが現れたのは、アズカバン関連だ。スネイプは手紙の件がある。だが、コンラッドが出てきた理由はわからない。

(クィレル先生……)

 夢の中の彼が思い出せない。おおまかな風貌はわかるが、肝心の顔が霞んでいる。そして、記憶の中のクィレルでさえ、顔が思い返せない。悔しさと情けなさで、髪を乱暴に掻いた。

 

 月曜から始まった試験をクローディアは順調にこなした。『魔法生物飼育学』の監督たるハグリッドは、試験内容を寮で区別した。レイブンクローとハッフルパフは、バックビークへ礼儀正しく挨拶し、翼に触れるというものだ。これは面白みがあり、生徒は喜んだ。反対にグリフィンドールとスリザリンは、アクロマンチュラの子蜘蛛への餌やりだ。

 ロンやドラコが悲鳴をあげ試験会場から逃げ去ったが、すぐハグリッドに連れ戻された。

 木曜の『闇の魔術への防衛術』は実技試験だ。戸外にわざわざお化け屋敷のような会場を作り、生徒を1人1人、中へ招いた。最初に入ったアンソニーは、全身ずぶ濡れで出てきた。次のセシルは、髪が泥だらけだ。試験内容に大いに期待し、皆は順番を待つ。

 クローディアの順番になり、お化け屋敷へと足を踏み入れた。水魔が泳ぐ水槽プールの上に細い板張りがある。水魔に足を取られそうになったが、板張りを無事に渡る。赤帽が潜む穴倉を進み、それらを警戒した。ヒンキーパンクがカンテラを持ち、沼地を案内しようとした。

 その後には、ガタガタと揺れるトランクだ。ボガートが閉じ込められているとわかる。

 緊張と恐怖で心拍数が早くなる。

(恐怖に立ち向かう)

 胸中で呟いて、クローディアは深呼吸する。震える手でトランクを開き、躊躇いながらも中へ顔を突っ込んだ。暗いトランクの中にいたのは、囚人服を着た男だ。だが、ブラックではない。その顔が懐かしく、今のクローディアには最も恐ろしい。

「ミス・クロックフォード、許してくれ」

 やつれ果てたクィレルの顔をしたボガートは、死にそうな声で訴えかけた。

「――――!!」

 試験中など忘れ、クローディアは絶叫が弾けた。あまりの叫びにヒンキーパンクが逃げ出すのが見えた。駆け付けたルーピンに何度も呼ばれ、ようやく我に返る。

 痙攣する手足に力を入れ、クローディアはルーピンにしがみ付いた。

「……無理でした」

「いいんだよ。君は恐怖に立ち向かおうとした。随分、成長したね。さあ、もう終わりだ。行きなさい」

 慰めでなく、真剣にルーピンはクローディアを褒めた。彼は最初の授業を覚えていた。あの頃なら、トランクを無視したに違いない。

「ありがとうございます」

 胸の息苦しさが抜けず、冷淡な声で返事してしまう。ルーピンは全く気にしていない。居た堪れない気持ちで、クローディアは城へ帰る。

 昼食が終えるまで、ボガートが見せたクィレルの姿が網膜に焼き付いていた。

 

 全科目の試験が終わり、レイブンクロー寮では自己採点が行われた。採点が確かなら、クローディアは同級生で一番になっている。結果を知るのが楽しみで仕方ない。

「我々は、自由だ!!」

 7年生の監督生の叫びと共に、学期末試験は終了した。

 解放感で校庭に向かう。クローディアも談話室を出ようとしたが、窓から現れたカサブランカから手紙を受け取る。もう1枚、カサブランカは手紙を持っていた。失礼ながら、宛名が見えてしまった。

「またお祖母ちゃんがポッターに手紙さ。ヘドウィックよりも、カサブランカのほうがポッターの為に働いているさ。もうカサブランカがヘドウィグの代わりでも、いいさ」

 深い意味はなく、冗談で呟く。それを称賛と受け取ったカサブランカは上機嫌に飛び去る。

 

 カサブランカがハリーに手紙を届けようしたが、ヘドウィグの妨害にあったなど、クローディアは知らない。

 

 クローディアは差出人を確認し、眉を寄せる。

 コンラッドだ。

 緊急事態を察し、自室にて開封する。ベッロが興味深そうに見上げてきた。

【あのピーター=ペティグリューが『動物もどき』の可能性は低い。何故、おまえがそこに気にかけるのか知りたい。今夜、8時に校長室で会おう。ダンブルドア校長の許可は得ている。本当は早くに返事をしたかったが、試験のことを踏まえて遅らせた

                追伸 夏は予定を入れないこと コンラッド】

 読み終えると手紙は、勝手に燃え出した。

 燃えカスを見つめ、クローディアは深呼吸する。ダンブルドアとコンラッドへ個人的に面会が可能になった。

 それは、戦慄ともいえる緊張が内臓を刺激した。スネイプの真偽とクィレルの処遇の件で、真実を問いたい。その衝動を抑制しきれる保障がない。それと同時に、知りたくもない。矛盾した葛藤を寝台の下に詰め込んだ木箱の如く、蓋をしてきた。決して開かせないため、『施錠呪文』まで仕掛けた。

(どうしたもんさ)

 『忍びの地図』を誤魔化して説明するより、そのことだけが気がかりでならない。

「クローディア! 良かった。ちょっと来て!」

 ハーマイオニーに急かされ、グリフィンドールの談話室に招かれた。ハリーとロン以外、誰もいない。試験が終わったというのに彼はクローディアより顔色が悪い。

「さっきの試験のとき……トレローニー先生の……様子がおかしかった……」

 ハリーの口は、その時の言葉を神託のように告げる。

〝闇の帝王は、朋輩に打ち棄てられている。だが、12年間の鎖から、解き放たれた召使がご主人を助けるだろう。今夜だ。真夜中になる前、召使は自由の身となり、ご主人のもとに馳せ参ずるであろう。それにより、闇の帝王は、更なる力を手にいれる〟

 これまで聞いてきたインチキ臭い印象はなく、逃れられない予言に思えた。

「その後、先生に話しかけたけど、何のことかわからないって言われた」

「つまり、トレローニー先生はトランス状態だったってことさ?」

 口寄せの霊媒師は、霊を憑依させるとその間の記憶がないらしい。トレローニーの『予言』も本人の意思とは関係なく行われるかもしれない。

 普段はインチキだと罵るロンも『例のあの人』に関する内容なので、寒気に身震いしている。

「その予言が本当なら、今夜、ブラックが自由になって……『例のあの人』の下に?」

「でも、ひとつだけ変さ」

「私もそう思うわ」

 クローディアとハーマイオニーの疑問は一致している。

「ブラックは夏の時点で脱獄していたわ。それが今夜だなんて、今更すぎるわよ。そうでしょう、クローディア?」

 これに、ハリーが殺意に満ちた声を放つ。

「僕を殺して自由になるってことかもしれない」

 殺すという単語にクローディアは、一瞬、背筋が凍る。

「その予言を校長先生に話すさ。私が今夜8時に会う約束があるさ」

「え! なんで?」

 ロンが過剰な反応で聞き返す。

「お父さんがペティグリューについて、聞きたいから学校に来るってさ。校長室が待ち合わせさ」

「僕も行きたい!」

 背筋良くハリーは、挙手する。すると、虫籠にいたベッロが顔を出した。彼はベッロと目を合わせ、『蛇語』で会話する。急に彼は手を下ろす。

「コンラッドさんは、僕に会いたくてくるわけじゃないから駄目だって」

「でも、校長先生に大事な話さ。そのくらい考慮してくれるさ」

 クローディアの意見をベッロは頭を横に振り、否定した。

(そこまでポッターに会いたくないもんさ?)

 それとも、ハリーに聞かれなくない話をするつもりかもしれない。

「僕もコンラッドさんに会いたい! 校長先生の話が聞きたい!」

 癇癪を起こすハリーは、絨毯に寝転がり大の字になる。

「駄目よ。勝手に付いていったら、クローディアがお父様に叱られてしまうわ」

 ハーマイオニーの言葉を無視し、ロンは呟く。

「『透明マント』さえ、あれば……着いていけるのに……」

「まさか、無くしたさ?」

 大事態を想定し、クローディアはロンに凄んだ。慌ててロンは首を横に振り、代わりにハリーが答えた。

「『隻眼の魔女像』に隠したんだ。ホグズミードに行って、マルフォイに見られた日にね。いま、僕があそこに行くところをスネイプ……先生に見られるわけには行かないんだ。スネイプ先生もあの像に仕掛けがあるって勘付いているから」

 罪悪感かそれとも羞恥心か、ハリーは段々と口ごもる。呆れたクローディアは、溜息をつく。ローブから杖を取り出し、唱える。

「アクシオ!(来い)」

 杖に引き寄せられ銀色のマントがクローディアの手に、飛び込んできた。

「言ってくれれば良かったさ」

 クローディアは『透明マント』をハリーに投げ渡す。魔法に吃驚した彼は、唖然と呆然しながらも『透明マント』を受け取った。

 ハーマイオニーは、感心の意味で驚いていた。

「クローディア、それ……『呼び寄せ呪文』よね……?確か、4年生からの……。それを使えばハリーから、簡単に地図を取り上げたわ」

 思いも寄らない発案に、絶句する。こういう発想が抜けていることが多い。不意に思いつき、ポケットから『忍びの地図』を取り出す。

「この地図は、ポッターが持つさ。これで、ブラックとペティグリューの動きを見張るさ」

「え、いいの? でも、これを僕が持っているところをルーピン先生に見られたら」

 不安がるハリーの口をクローディアの人差し指が止める。

「我が身第一さ。ルーピン先生に見つかったら、私のせいにしていいさ」

 ウィンクし、『忍びの地図』をハリーに渡した。

 『忍びの地図』と『透明マント』を交互に眺め、ハリーは表情を輝かせる。だが、微かな緊張も感じ取れた。彼はふたつの魔法の品が戻った事を深刻に受け止めている。

「僕らは8時になったら、校長室の前にいるよ。もちろん『透明マント』を被ってね」

「OKさ、ベッロも護衛で着いてくるさ?」

 問われたベッロは尻尾を拳のように使い、空を切る。護衛の任を引き受けたと解釈し、クローディアはベッロを抱き上げた。

 ロンが震える手つきでベッロを撫でる。彼なりにベッロを信頼しているからだ。

「『透明マント』は私が預かるわ」

 承諾したハリーは『透明マント』をハーマイオニーに渡す。受け取った『透明マント』は、彼女の鞄に片付けられた。

 3人の友人を眺め、クローディアは心が安定する自分を自覚する。

(皆がいるなら、私も大丈夫さ)

 後は時間を待つだけだ。

 




閲覧ありがとうございました。
ウィーズリー家は、普段は愛称で呼ぶけど、本名で呼ぶのは怒ったときだけ。区別しているのかな?
ハリーはふたつの魔法アイテムを手に入れた!
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