こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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やっと、儀式です。


4.三大魔法学校対抗試合

 停車した駅は、太陽が沈む真っ暗のはずが、雷が眩い光を放つ。土砂降りの中、生徒たちは濡れる覚悟で下車するしかない。

 ハグリッドが1年生を引率し、湖へと導く。

「こんなお天気のときに湖を渡るのは、ごめんだわ」

 寒さで身震いするハーマイオニーの息が寒さで白くなっていた。

 馬なし馬車で城に到着し、生徒は降りしきる雨から逃れようと城へ駆け込んだ。

 玄関ホールの床は水浸しだ。豪雨に濡れた生徒達だけではない。ピーブズが水風船で生徒達を攻撃していた。被害を避けようと、犇めき合う廊下が更に詰めあう。

「どうせ、びしょ濡れなんだろう! ヌレネズミのチビネズミ!!」

「校長先生を呼びますよ!」

 手当たり次第に水風船を投げるピーブズをマクゴナガルが烈火の如く怒鳴りつける。怒りの矛先が飛ばない内に、クローディアはハーマイオニーの手を引き、大広間へ急いだ。

 祝宴に彩られた大広間の生徒達は己の寮席に着く。杖を出し、濡れた制服を乾かす者が多かった。クローディアも席に腰かけると杖を自分に向け、ローブを乾かす。それでも寒い。

「時間をかけた髪が台無しだわ」

 自分の髪を撫でクララがブツブツと文句を述べる。

「水が投げられたんだよ。空にね。だから、落ちてきたんだもン」

 クローディアの隣に座るルーナが髪を振り乱す。水滴が周囲に飛び散る為、彼女の濡れた制服を魔法で乾かした。

「もしかしたら、雨乞いの儀式をし過ぎたさ?」

「雨乞いの儀式? それは何をするの?」

 関心を抱いたルーナにクローディアは雨乞いの儀式について、簡単に話す。彼女は興味深く頷き、瞬きを繰り返していた。

「教員席の椅子がひとつ多いわ」

 パドマがクローディアの肩を叩き、教員席を失礼のない程度に指差す。

 空席が3つ、ひとつは1年生を引率しているハグリッド、ひとつは玄関ホールにいるマクゴナガル。

 教員席の顔ぶれを確認する。校長ダンブルドア。『呪文学』フリットウィック。『魔法薬学』スネイプ。『薬草学』スプラウト。『闇の魔術への防衛術』ルーピン。『天文学』シニストラ。『古代ルーン文字学』バブリング。『マグル学』バーベッジ。『数占い』ベクトル。『飛行術』マダム・フーチ……等など。

 『占い学』トレローニーは祝宴にも顔を出さないので、省いた。

「あれ、ホントさ?」

 教職員が増えるのかもしれない。この城の規模ならば、管理人がフィルチ1人ではキツイ。もう1人いても良いだろう。もしくは、いつも多忙なマダム・ポンフリーの補佐でも構わない。

「まさか、教科が増えるのか?」

 強張ったモラグが眉を寄せる。

(それは嫌さ)

 ただでさえ、時間ギリギリの時間割だ。昨年度のハーマイオニー状態になってしまう。

 大広間の二重扉が開くと誰もが口を閉ざし、新入生に沈黙の祝福を与える。クローディアは祝福よりもタオルを与えたい気分だった。制服のまま水泳の授業を終えたとしか喩えようのない濡れ姿だった。

 組分け帽子の歌が終わり、割れるような拍手で室内の温度が高まった。

「スチュワート=アッカリー!」

《レイブンクロー!》

「マルコム=バドック!」

《スリザリン!》

「エレノア=ブランストーン!」

《ハッフルパフ!》

「オーエン=コールドウェル!」

《ハッフルパフ!》

「デニス=クリービー!」

《グリフィンドール!》

「エマ=ドブス!」

《レイブンクロー!》

「ローラ=マッドリー!」

《ハッフルパフ!》

「ナタリー=マクドナルド!」

《グリフィンドール!》

「ヘンリー=プリチャード!」

《スリザリン!》

「ジミー=ピークス!」

《グリフィンドール!》

「オーラ=クァーラ!」

《レイブンクロー!》

「ケビン=ホイットビー!」

《ハッフルパフ!》

「ナイジェル=ウォルパート!」

《グリフィンドール!》

 組分けが終わり、マクゴガナルは帽子と椅子を片付けた。

 寒さが空腹を増幅させていたせいで、皿に盛られた食事が普段より美味だ。

「皆がレイブンクローに恥じぬ生徒でありますように」

 『灰色のレディ』が1年生へ気取りながらも挨拶する。幽霊の存在に1年生の何人かが悲鳴を上げていた。

「レディ、ピーブズが悪さしてたけど、男爵はとめなかったさ?」

「男爵がいちいちピーブズの行動を把握するもんですか。ただ、スリザリン生に何かあれば、すぐに言いつけられるでしょうけど」

 ごもっともとクローディアは『灰色のレディ』に苦笑を返した。

 

 全員の食事の手が止まった頃を見計らい、ダンブルドアが立ち上がる。笑顔で大広間を見渡し、例年の『暗黒の森』への立ち入り禁止、城内持込禁止に追加項目が加わったことを告げる。

「禁止品は全部で473項目あるはずじゃ、リストは管理人のフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ」

 それだけの数が持ち込み禁止とは驚きだ。一度、確認しておこうとクローディアは思う。

「寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを報せるのは、わしとしては非常に辛い」

 冷たい空気が大広間を抜けていく。その風はクィディッチ選手達の心情ともいえる。現にロジャーは愕然と口を開け、テリーは否定の意味で身震いし、ザヴィアーは小さく悲鳴を上げ、エディーは聞き違いかと耳を叩く。バーナードとチョウはにんまりしていた。

(今年はバスケ部に注目を集める絶好の機会さ!)

 意気込んだクローディアは胸中でガッツポーズを取る。

「これは10月に始まり、今学年の終わりまで続く一大イベントの為じゃ。このイベントに皆は、大いに力を注ぐであろう。そして、それに見合うだけの楽しさを味わうと確信しておる」

 説明を妨げる雷鳴が大広間へ響き渡る。あまりのけたたましさに悲鳴を上げる生徒もいた。

 クローディアは教員席の後ろから現れる人影に気づく。一瞬、幽霊かと思ったが、ただの人だ。

 その人影に覚えがある。

(アラスター=ムーディ……)

 忘れようのない容貌。奇怪な義眼が忙しなく動きながら、ムーディはダンブルドアから抱擁を受けていた。しかも、濡れたまま教員席に座り込む。

「マッド‐アイだ」

「元『闇払い』の……」

「どうして学校に?」

 小声で囁きあう生徒に青い義眼が突き刺さる。怯えた生徒は口を閉ざす。それらの生徒にダンブルドアは穏やかな笑みを見せ、話を続ける。

「発表します! 今年、100年以上ぶりにホグワーツで三大魔法学校対抗試合を行う!」

「ご冗談でしょう!」

 興奮したフレッドが思わず、大声で聞き返した。興奮しているのは彼だけではない。魔法族の家庭あるほとんどの生徒が爛々と目を輝かせ、高揚している。

 何の種目か知らないクローディアはクララに小さく声をかける。しかし、返事がない。

「この試合がいかなるモノか知らない諸君もおろう。掻い摘んで説明させて頂ければ、およそ700年前、ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの3校の親善試合として始まったものじゃ。各校から代表を1人ずつ選び、3人が3つの課題を競い争う。以前は5年ごとに3校が持ち回りで競技を主催しておった」

 ある年、夥しい死者が出たことで競技の中止が余儀なくされた。その光景を想像したクローディアは悪寒で身震いする。だが、周囲は押さえられぬ高揚感に口元を緩ませている。

 死者を出す程のお祭り騒ぎだとでも思っているかのようだ。

「何世紀に渡り、試合の再開を試みたが、どれも失敗に終わった。しかしながら! 今年、我が国の『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』の全面協力の下、開催されるに到った。絶対に死者を出さぬよう、十二分な取り組みが行われたのじゃ。3校は優勝杯、永久の栄誉、選手個人に与えられる賞金一千ガリオンを賭け、戦うに最も相応しい選手を公明正大なる審査員が決める!」

「絶対、立候補するぞ」

 ザヴィアーが拳を握り締め、深呼吸していた。代表選手を己と定めているのは他にもいる。永久の栄誉と賞金1000ガリオンはクローディアですら一瞬、揺らいだ。

「だが、競技の危険性を考慮し、今年の選手に年齢制限を設けることになった。17歳未満の生徒は立候補することを硬く禁ずる!これは参加3校の校長、並びに魔法省も同意の上じゃ」

「「「えええええええええ!!」」」

 確実に誕生日が間に合わない生徒が抗議の声を上げる。

「紹介が遅くなったが、こちらのアラスター=ムーディ氏は今回の選手不正取り締まり委員として、ホグワーツに滞在される。選手の安全をより確実にするためじゃ」

 ダンブルドアに紹介されたムーディの義眼が大広間を一舐めする。途端に生徒の口が『沈黙呪文』でもかけられたように閉じられた。

 教員席から、まばらな拍手が起こる。それに合わせて生徒も少しずつ拍手する。

「ボーバトンとダームストラングの代表団は10月に到着し、今年度はずっと我が校に留まる。外国からの客人が滞在する間、皆、礼儀と厚情を尽くすことを信ずる。更に我が校から選ばれた選手を心から応援することを願う! さあ、就寝じゃ!」

 5年生の監督生に引率され、1年生が大広間を緊張した様子で歩いていく。その間、代表選手への意気込みが周囲を飛び交う。

「審査員を誤魔化してみせる……。栄誉も賞金1000ガリオンも私が手にして見せるわ」

 ミムが霊媒状態のようにブツブツ呟いていた。

「立候補するの?」

 眠そうなルーナの問いに、クローディアは口元を引き締める。

「なんでも、ひとつ願いを叶えてくれるなら、立候補するさ」

「それなら、私も立候補するもン。それが賞品ならね」

 クローディアとルーナはお互いの冗談に笑う。

「僕は立候補するぞ! ハロウィーンまでには17歳になれる!」

 上機嫌のロジャーが小走りで廊下を突き進む。

 

 ドアノッカーの謎かけを解き終え、クローディアが寮の談話室に足を踏み入れる。例年の新学期は機関車乗りに疲労した生徒達は己の自室で朝まで睡眠を取る。はずだが、2年生からの学年はほとんど集まり、立候補者を選抜する審査員を騙す方法について、模索していた。

「未成年の連中はお気の毒だな」

 欠伸をひとつしたバーナードがさっさと男子寮へ向かった。

「夜更かししないようにね」

 ペネロピーが事もなげに言い放ち、女子寮へ向かう。

「マリエッタ、年齢制限の話は聞いてなかったの?」

「流石にそこまで知らなかったと思うわ。局が違うから、試合内容までは把握できないし」

 チョウとマリエッタが他愛ない話をしている。

 審査員を騙す方法とやらに、クローディアも興味がないわけはない。しかし、眠気が勝ったので早々に自室へ戻る。一足先に部屋で寛いでいたリサが楽譜を広げていた。

「どうして、そこまで選手になりたいのでしょう? 私は自信ありませんわ」

「自分の腕を試したいっていう好奇心さ」

 トランクから寝巻きを取り出したクローディアが制服を脱ぐ。

「けどさ、『闇の印』騒動から、あんまり日が経ってないさ。それなのに外部の人を城に招くのは危ない気がするさ」

「あら、クローディア。この城に『死喰い人』がやってくるとでも考えておいでですの? ここにはダンブルドア校長先生がいらっしゃいますわ。それに生徒の安全の為にとマッド‐アイまで、招いたのですよ。心配いりませんわ」

 リサの推論は最もだ。

(つまり、校長先生はこの対抗試合にもヴォルデモートの介入を予感しているってわけさ)

 寝巻きに着替えてからも、クローディアは物思いに耽る。

「クローディア。ワールドカップのパンフレット、ありがとうございます。うちの両親からの託ですわ」

 リサに呼びかけに、我に返ったクローディアは曖昧に返事をする。反応の遅さに、リサが意地悪な笑みを見せる。

「もしかして、クローディアも立候補をなさるの?」

「まさか、……今年はバスケ部を盛り上げる絶好の機会だなって思ったさ」

 疑いの眼差しを向けてくるリサは追及せずに肩を竦める。

「上手くいくといいですわね」

「ねえ! 2人とも!! ちょっとだけ年をとる方法ないかな!?」

 勢いよく入室してきたパドマが審査員を誤魔化す方法を2人に求めてきた。急いで寝たフリを決め込んだ。

「寝ちゃ駄目! ほら! 一緒に考えて!」

 パドマに揺さぶられながら、クローディアは頭から布団を被る。布団の中でムーディがこの城に滞在する理由を考え込んだ。

(ハリーを外部の魔法使いから守らせるだけにしては、あのマッド‐アイは大袈裟さ。絶対の確信があるからさ。ダームストラングとボーバトンに、それ相応の魔法使いが……ん?)

 閃いたクローディアは布団を投げて起き上がる。勢いでパドマが布団越しに床に倒れた。

「パドマ、ごめんさ。ちょっと、行くところがあるさ!」

「え! ちょっと、クローディア!」

 部屋を飛び出したクローディアは、ルーナの部屋に向かう。

 螺旋階段の途中に【3年生・ルーナ=ラブグット】の名札を見つけ、出来るだけ静かにノックする。

 間を置いてから、扉が開かれる。ルーナが覗き込むように少ししか開けない。中から嗅いだこともない香が漂ってくる。

「クローディア、入る?」

 招かれるがまま、クローディアはルーナの部屋に足を踏み入れる。

 新学期のはずが、室内は乱雑に物が置かれている。机や寝台は山積みだが、床だけは塵ひとつ落ちていない。

(ルーナは1人部屋さ)

 目だけを動かし、室内を見渡す。

「どうしたの? 雨乞いの道具なら持ってないよ?」

 絨毯に正座するルーナの正面に、クローディアも正座する。

「寝ているところ、本当にゴメンさ。あんたのお父さんに調べて欲しいことがあるさ。ヴォ……『例のあの人』が倒されてからの『死喰い人』狩りの容疑者さ」

 語調を強くし頼み込むクローディアに、ルーナは何度も頷く。

「パパに頼んでみるよ。だから、もう寝たら? 私の寝台使う? ナーグル避けはバッチリだよ」

「ありがとさ。でも、部屋でもう少し考えを纏めたいから、今度さ」

 残念そうにルーナは頷く。その仕草にクローディアの胸が痛んだ。

「起こしちゃったしさ、ルーナが寝るまで傍についてるさ」

 言い終えた瞬間、ルーナがクローディアに抱きついてきた。首を締め付ける腕の力が息苦しい。

 しかし、ルーナは嬉しさで笑顔が満ち溢れていた。そんな顔を見て、腕を解くことは出来ない。

 クローディアは耳元に寝息がかけられる。抱きついたまま、ルーナは眠っていた。その寝台は、寝かせるには物がありすぎる。仕方なく、彼女を抱えたまま部屋に戻った。

「リサ、ちょっと手伝って……あ」

 クローディアはリサに助けを求めたが、リサは既に寝ていた。パドマも布団越しのリサにもたれかかり、そのまま寝入ってしまった。

「やれやれさ」

 小さく嘆息したクローディアは、仕方なくルーナを自分の寝台へと寝かせる。ついでにパドマも彼女の寝台に運んだ。

 一呼吸、置いてからクローディアは椅子に座る。

(ワールドカップの準備には何年もかかるさ。それと同じくらい、今回の対抗試合も何年も前から準備をしていたさ。警備を万全にしていたワールドカップで、ルシウス=マルフォイが騒ぎを起こしたさ。なら、今回も誰かが何かをするだろうさ。『死喰い人』狩りから生き残った容疑者は、あいつらだけじゃないさ)

 ホグワーツの生徒だけが『死喰い人』の関係者というわけでない。

「かんがえちゃだめだよ~」

 本気の寝言でルーナがクローディアに呼びかけた。

 

☈☈☈☈

 緑の灯りに照らされた談話室でも、審査員を誤魔化す算段は行われていた。それを見越したスネイプは速やかに自室で就寝するよう生徒に呼び掛けた。寮監の指示に逆らう者はなく、生徒は部屋に帰っていく。

「スネイプ先生、少しお話があります」

 ドラコだけが意味深な笑みを浮かべ、スネイプへと声をかける。承諾して2人はソファーへと腰を下ろす。

「父上からコンラッド=クロックフォードの話を窺いました。あのクロックフォードの父親がスリザリン生だったとは僕も驚きました。それどころか……」

「ドラコ、前置きは良い。本題に入りたまえ」

 普段のように贔屓な態度で、スネイプはドラコを窘める。しかし、父親から聞かされたことを誰が聞いているとも知れない談話室で話させるわけにはいかない。

「父上のお力を持ってしても、僕を当選させられませんか?」

「残念ながら、無駄な足掻きだ。この度の審査員殿は厳密にかつ公平な方法で選手を決める。君が立候補したい気持ちは、我輩も理解しているつもりだ。堪えてもらえるな?」

 穏やかな口調でスネイプはドラコに確認する。

「ええ、言ってみただけです。もとより選手になるつもりはありません。永久の栄光を僕が掴めるとは思っていません」

 何の含みもなく、ドラコはあっさりと観念した。無駄だとわかれば、すぐに諦める。自分の実力が他校の選手と渡り合えないと、理解しているからだ。それと同時に彼は人の持つ才能が見抜ける。

 

 ――故にドラコの抱える劣等感も強い。

 

 ハリー=ポッターが名声以外に優れた点がある。彼との友人関係が結べなかったことをドラコ自身が残念に思った。だからこそ、陥れたい相手なのだ。

 ハーマイオニー=グレンジャーを初めとする優秀な生徒に突っかかるのも、その為だ。あのネビル=ロングボトムにも優れた才能があるとドラコにはわかっていた。

「クロックフォードは……父親と違い、何故スリザリンにならなかったのでしょうか?」

「いきなりだな、ドラコ。君はミス・クロックフォードに関してはベッロだけが注目すべき点だと言っていたのではないかな?」

 親身に語りかけるスネイプから、恥ずかしそうにドラコは目を逸らす。

「あいつ、ワールドカップで僕のことを自分の家族に『赤の他人』と言ったんです。友達だなんて思っていません……でも、いくらなんでも……『赤の他人』は酷いと思いませんか? もしも、同じ寮だったなら、同級生くらい言ってもらえたかな、と思いまして」

 悔しそうにドラコは吐き捨てる。

 言うなれば、クローディア=クロックフォードの言動に対し、彼は拗ねていた。まるで、彼女へ微かな期待を抱くようなロジャー=ディビーズのようだ。

 胸中で溜息を殺したスネイプは己の寮生にしか見せぬ笑顔を向ける。

「ミス・クロックフォードのことなど、気にすべきではない。明日の授業に障ってはいかん。もう休みたまえ」

 スネイプの言い回しが気に入らないドラコは、無礼を承知で睨みつける。

「コンラッド=クロックフォードはスネイプ先生の友人ではないのですか? そんな言い方をしながら、僕からクロックフォードを守ろうとしているのでしょう? 友人の娘だから……」

 言いかけてドラコは無理やり言葉を切る。スネイプから笑みが消えたためだ。それだけでなく憎悪を剥き出しに、この場にいない誰かを睨んでいた。

「はっきりと言っておく」

 授業よりも冷淡で、憤る声がドラコの耳を打つ。

「我輩はこれまで一度もミス・クロックフォードを友人の娘として接したことなどない。これからも同じだ。他に質問はないな? ドラコ」

 冷や汗で背が濡れたドラコは必死に頷く。就寝の挨拶を述べ、さっさと自室へと逃げ込んだ。

 心の底からドラコはスネイプに恐怖した。己の寮監なので忘れがちだが、スネイプは生徒に恐れられる教授なのだ。それを改めて実感させられた。

 ドラコを見送ったスネイプはソファーから腰を上げる。誰もいないか、確認の為に談話室を見渡す。急に記憶が思い返された。

 コンラッドはマルフォイとの関わりを拒んでいた。スネイプが間を取り持っても、嫌々な態度を変えることはなかった。

 一度だけ、コンラッドに問うた。

〝おまえは、どうしてルシウスが嫌いなんだ?〟

〝嫌いじゃないよ……あの人は僕にとって赤の他人だ〟

 何の感情も湧かない瞳は笑みもなく返した。その理由をコンラッドは言わなかった。マルフォイにも心当たりがなく、対応に困っていた。

(似たもの親子だとでも言いたいのか……)

 黒真珠の瞳を更に暗くし、スネイプは脳裏に浮かぶコンラッドに悪態ついた。

 




閲覧ありがとうございました。
●アラスター=ムーディ
 元「闇払い」の義眼おっさん。今回は本物です。
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