『炎のゴブレッド』って、響きがかっこいいと思います。
大広間に設置された『炎のゴブレッド』の周囲に、立候補できない生徒がお祭り気分で見学している。誰が入れたのかを興味があるのだ。
「僕だったら、皆が寝ている間にゴブレッドに名前を入れるよ。だって、落選したら恥ずかしいもの」
ハリーがロンと興奮した様子で見学する。
クローディアとハーマイオニーは、ハリーとロンに無理やり連れてこられたに等しい。
完全に興味のないハーマイオニーはクローディアと協力して作った【改訂ホグワーツの歴史】の草案に読み耽る。
その隣でクローディアは、昨夜のムーディに怯えながら、周囲を警戒していた。
「行けよ。セドリック!」
アルフォンス達がセドリックの背を押しながら、現れる。
セドリックは緊張しつつも、『年齢線』を越えて羊皮紙をゴブレッドに入れた。その後、ザヴィアー達に押されたロジャーが羊皮紙をゴブレッドに入れる。
「やった! 完成したぞ!」
踊りながらフレッドとジョージ、リーが大広間へ飛び込んできた。フレッドの手には、小瓶が握られている。
「「『老け薬』だ。1人1滴。数カ月分、歳が取れる」」
「これで『年齢線』を誤魔化せる!」」
はしゃぐ双子にリーが続く。周囲の生徒は興味に惹かれて拍手を送った。
小ばかにしたようにハーマイオニーがクローディアに問いかける。
「あんなの効くかしら?」
「効いたら、私も飲むさ」
せせら笑いクローディアが答える。
そんなこともお構いなく、フレッドは1滴、口に入れる。続いて、ジョージも1滴飲んだ。双子は液が喉を通る感触を味わってから、2人同時に『年齢線』を飛び越えた。
飛び越えはした。
――刹那。
『年齢線』が浮かび上がり、轟音と共に双子を円の外へと投げ飛ばした。双子は二重扉に激突し、床に倒れ伏した。しかも、双子の顔が白い髭と髪に覆われ、老人と化していた。
様変わりした双子の姿に大広間を爆笑が包み込む。双子を様子見していたリーも腹を抱える。
フレッドとジョージはお互いを掴み合う。罵りあいながら、揉めだした。本気の取っ組み合いというより、ふざけあっている。
その様子を達観したクローディアとハーマイオニーは呆れて息を吐く。
「クローディア、ハグリッドのところに行かない?」
「賛成さ」
大広間を後にする彼女達は二重扉でアンジェリーナと擦れ違った。
線の効果を目撃し、クローディアは不意に思いつく。
「思ったんだけどさ。円を越えられないなら、その手前から投げればいいんじゃないさ? 野球ボールに羊皮紙を包んで、っぽいっと!」
「あら、ユニークな案ね。『年齢線』を越えるよりは現実的だわ」
勿論、2人は冗談を口にしていた。
そんな会話を偶々集まっていたパドマやセシル、はたまた、ネビルやシェーマスに聞かれていたとは、知らなかった。
その後、大広間ではゴブレッドに向かってボールを投げつける生徒が後を絶たなかった。デニスのシュートが見事に命中したが、羊皮紙は吐き出されて白髪の老人にされた。
「こらあ! 繊細なゴブレッドに何さらすかあ!?」
そんな生徒達は激怒したフィルチに追い回された。ゴブレッドの様子を見に来たダンブルドアは阿鼻叫喚の様子に笑顔が引き攣っていたという。
仕舞いには【ゴブレッドに物を投げつけないで下さい】という注意書きが貼られる事態にまで発展した等、クローディア達は知らない。
ハグリッドの家より、少し離れた所に家馬車が固定されている。彼は十二頭の天馬に青々とした草を与えていた。天馬は完全に手懐けられ、親しげに擦り寄っている。
「もうすっかり、ハグリッドが天馬のご主人さ……」
「ハグリッド!」
ハーマイオニーの呼びかけに、ハグリッドは大きく手を振るって返す。
「久しぶりだな。俺の住んどるところを忘れちまったかと思ったぞ」
憎たらしい皮肉にハーマイオニーは苦笑する。ハグリッドの言葉通り、新学期が始まってから授業以外で訪れていない。
「私達、とっても忙しかったのよ」
2人とて、来たくなかったのではない。課題レポートやらで、来られない状態が続いたのだ。反論するハーマイオニーにハグリッドは悪戯っぽく笑う。
「冗談だ。おめえさん達が頑張っとることは、よ~く知っとる」
家の戸を開き、ハグリッドは2人を招こうとした。
「あれ? ハリーとロンがこっちに来るさ」
クローディアが城の方角を指差す。全速力のハリーを必死にロンが追いかけてくる。否、彼らは競争しているだけだ。結局、ハリーが先に着いた。
「……ハグリッドに、会いに行くなら、声かけて……」
肩で息をするハリーは膝に両手をついているだけだが、ロンはそのまま地面に倒れこみ息を荒くしている。
仕方なくクローディアがロンの背中を擦る。
「フレッドとジョージはどうしたさ?」
「リーが医務室に連れて行ったよ……」
弱弱しく答えるロンをハグリッドが抱き起こす。
家には元気よく吼えるファングと、当然のように寝台を占領しているベッロがいた。
「今朝から見ないと思ったら……」
呆れたクローディアが呟くとベッロは首を動かす。何か話したらしくハリーが反応した。
「クローディアが授業や部活ばっかりで、遊んでくれないから、ここに来ているんだって」
「いつも勝手にウロウロしてるさ。ハグリッド、迷惑ならいつでも追い出すさ」
ベッロの頭を掴んだクローディアがハグリッドを振り返る。彼はただ笑うだけで、お茶の仕度に取り掛かる。それを見たベッロが彼女の手を振り払い、手伝いに入る。
食卓に着いたハリーが室内を見渡し、疑問する。
「ハグリッド、バックビークはどうしたの?」
ハリーの疑問にクローディアとロンも気づいて小屋内を見渡す。昨年度、ハグリッドはバックビークを室内で飼育していた。ファングが非常に迷惑を被っていた。
ヤカンをポットに注ぎ、ハグリッドが振り返る。
「もうちっと早く気づいて欲しかったな。バックビーグは元気にやっとるよ。天馬達を驚かすといけねえから、『暗黒の森』に住んじょる」
安心した4人は胸を撫で下ろす。ハグリッドは紅茶をカップに注ぎ、ベッロが4人に配る。
「それで? おめえさん達は立候補してねえだろうな?」
「出来ないさ。ハグリッド、『年齢線』の威力は確かさ。さっきもフレッドとジョージが失敗したさ」
わかりきったようにハグリッドは頷く。
「そうだろう、そうだろう。今朝も『老け薬』で年齢を誤魔化そうとした生徒がいたが、しくじって老婆になってたな。どいつもこいつも校長先生の『年齢線』を甘くみちょる」
確かにそうだ。しかも、『年齢線』だけを乗り越えることしか、考えていない。厳重に保管されていた『炎のゴブレッド』にも、条件に満たない生徒を退ける魔法がかけられているに違いない。二重の防壁を突破できる生徒などいない。
「万が一……、出し抜けて選ばれたらどうなるんだろう?」
ハリーの何気ない問いに、クローディアも何気なく答える。
「後戻りは、できないさ」
腕時計が正午を指した。折角なので、ハグリッドは手料理を振舞う。彼の隣でベッロが鍋から巨大な鉤爪を取り除いていたので、4人の食欲は激減した。
ハグリッド特製ビーフシチューは不味くはなかったが、美味しくもなかった。
「アンジェリーナがゴブレッドに名前を入れてたよ。つい先日、17歳になったんだって」
「セドリック=ディゴリーとロジャー=ディビィーズも、ゴブレッドに名前を入れていたわ」
ロンとハーマイオニーがハグリッドに候補者を教える内に、昼食が終わった。
不意に戸がノックされた。ファングが扉に向かって吼えるので、ハグリッドが宥める。
「ファング、伏せてろ。今、開けるぞ」
口元をテーブルナプキンで拭ったハグリッドが戸を開く。その巨体で戸の向こうが見えないが、彼の応対から初対面らしい。
「クローディア、おめえさんに客だ」
呼ばれたクローディアは驚きながらも急いで紅茶を飲み干す。衣服を軽く叩いてから、ハグリッドの前に出た。
小屋の外にいたのは分厚い外套を脱ぎ、真紅のローブを晒したダームストラング男子生徒だ。濃い茶髪を肩まで伸ばし、毛先だけ無数に編んでいる。細身だが、逞しい体格は雄雄しい印象を与える。目が細すぎて開いているのか、疑問だ。
(誰さ?)
昨日の歓迎の宴でも、ビクトールやカルカロフが目立っていた。正直、他の生徒のことは印象に残っていない。それを察してか、男子生徒が先に口を開く。
「はじめまして、クローディア=クロックフォードさん。僕はスタニスラフ=ペレツと申します。以後、お見知りおきを」
訛りは強いが、発音の良い英語だ。
丁寧に挨拶されたクローディアは礼儀に倣い小屋の外に出てスタニスラフの前で、一礼する。
「こちらこそ、よろしくお願いします。それで私に用件とは何でしょうか?」
「僕の曽祖父イリアン=ワイセンベルクが貴女の祖父と同期でした。ホグワーツ城に滞在の際、必ず貴女に挨拶するように申し付けられました」
納得したクローディアはスタニスラフの挨拶をトトへ報せる旨を告げる。
「折角だから、ホグワーツの敷地内を案内しましょう。『暗黒の森』とか立入禁止の場所を教えてあげないと危険だわ」
様子を窺っていたハーマイオニーが2人の前に出る。クローディアはスタニスラフに彼女を紹介する。
遠慮がちだったハグリッドとハリー、ロンも紹介し、スタニスラフは緊張したように表情を強張らせた。
理由はハリーだ。
スタニスラフの視線は、ハリーの額の傷に釘付けになる。
「それでしたら、僕のほうからも誰か連れて来ましょう。お手数ですが、玄関ホールにてお待ち下さい」
急ぎ足でスタニスラは湖の方角へと向かう。彼の背を見つめ、ロンが期待を込める。
「ビクトール=クラムを連れてきてくれないかな? それだと僕、張り切って案内するぞ!」
勝手に叫んでいるロンを放置し、クローディアとハーマイオニー、ハリー、ハグリッドは玄関ホールに向かった。ファングとベッロは、否応なく留守番だ。
だが、ロンの要望は叶えられた。
スタニスラフは本当にビクトールを連れて戻ってきたのだ。他の生徒は代表選手への緊張が抜け切れないので遠慮したのだ。
「案内しぃてくれることをうれしぃく思います。よろしぃくお願いします」
たどたどしい英語だが、言葉に力がある。
ビクトールの登場にロンは興奮しすぎて赤面する。恋する乙女のように手先が震えていた。
ロンの気持ちはハリーにもわかる。世界最高シーカーが目の前にいる。自身もシーカーであるハリーに緊張するなというのが無理がある。
ビクトールは平然としていたが、やはりハリーの傷を何度も盗み見ていた。
結局、案内したのはクローディアとハーマイオニーとハグリッドだ。
廊下を歩くと、周囲からの視線が痛い。興味と驚きはわかるが、せめて声をかけて欲しい。ハグリッドは、他校の生徒を案内する役割に誇りを持ち、足が弾んでいる。そのせいで廊下を地響きが襲った。
「ここが医務室だ。マダム・ポンフリーが治療してくれる。ちょうど、何人か入院中だな」
「ここが図書館だ。マダム・ピンスは、おっかねえから静かにな」
「ここが職員室だ。質問があるなら、ここに来るといい。必ず誰かがいる」
「ここがトロフィー室だ。歴代の受賞者の名がここで確認できるぞ」
本当に学校案内になり、クローディアとハーマイオニーは口を挿む隙がない。
仕方なく、クローディアはスタニスラフに声をかける。
「ペレツは、部活動はなさっているのですか? 私はバスケ部に所属しています。マグルの競技で私の得意なものです」
案の定、スタニスラフとビクトールはバスケを理解できず、困惑していた。実践あるのみ、クローディアはバスケ部の部室へ全員を連れ込んだ。
一見、ただの使用されない教室。クローディアが杖を振るう。教室が広がり、積み上げられた机や椅子をバスケットボールや器具へと変身させられる。その手際にビクトールは感心していた。
クローディアが手本を見せると、スタニスラフは興味を持つ。ボールを手にし、床に跳ねて感触を確かめた。ただ立ち尽くすビクトールにハーマイオニーが説明を加える。
「バスケ部は校内でも人気があるわ。『マグル学』のバーベッジ先生が顧問をしているのよ」
「僕も出来るんだぜ」
目立とうとロンがボールをゴールに投げつけたが、ボールはバックボードを跳ね返る。しかも、跳ね返ったボールはビクトールめがけて飛んだ。ハーマイオニーは警戒したが、彼は物ともせずボールを片手で受け取った。
流石の運動神経にクローディアは素直に感心する。ロンは失態を演じ、羞恥で顔を真っ赤にした。
粗方、城内の案内が終わり、玄関ホールへと戻る。
「ありがとうございました。僕らの学校にはない設備に感心しました。では、宴の席でお会いしましょう」
「ありぃがとうごじゃいました」
お互い愛想よく挨拶し、スタニスラフとビクトールは湖の方角へ歩いていく。
時計を確認したハグリッドが小さく頷く。
「あと1時間で宴だ。生徒は全員ローブに着替えることになっちょる。俺も着替えてくるぞ。また後でな」
案内をやり終えた達成感でハグリッドは家に帰っていく。クローディア達も制服に着替えるため、それぞれの寮に戻る。
「ねえ、ねえ! ビクトール=クラムと何をしてたの!?」
寮の談話室でクローディアを待っていたのは女子生徒からの質問攻めだった。
何故、ビクトールと歩いていたのか? ビクトールと何を話したのか? ……など。
一から説明することが面倒なのでハグリッドの学校案内に付き添っただけだと説明した。
「そういえば、ミムが立候補するとか言ってたけど、どうしたか知らないさ?」
クローディアの質問にチョウがマリエッタと顔を見合わせ、くすくすと笑い出す。それだけで、ミムが『年齢線』を越えて、しっぺ返しを食らったのだと理解した。
当事者のミムにその話しをしようものなら、容赦なく杖を突きつけられた。
ハロウィンの装飾が美しい大広間は既に満員。
クローディアの向かいには昨日と同じボーバトンの女子生徒が座っている。レイブンクロー男子生徒の視線は、彼女に注がれていた。
教員席にはムーディの姿もあった。昨晩のことがバレていないことをクローディアは、ただ祈る。そのついでに教員席を見渡す。昨日に続いての大事な催しに誰もが緊張している。
(あれはルーピン先生さ?)
ムーディの隣に座るルーピンにクローディアは少なからず驚かされた。
ルーピンは普段の古びた衣服ではなく布地のしっかりした服を着込み、ボサボサの髪は丁寧に櫛を通されている。
整えられた身なりは、ルーピンの誠実さを際立たせた。
(……昨日は普段の恰好だったさ。流石に怒られたさ?)
フィルチも燕尾服で盛装しているのだから、当然といえば当然だ。しかし、小奇麗な恰好のルーピンが珍しい。そのせいか印象も違う。
(……ルーピン先生って、ひょっとしてカッコイイさ?)
その考えが脳裏を走ると、急にクローディアの胸の内が熱くなる。ルーピンと視線が合い、咄嗟に目を逸らしてしまった。
自分勝手に気まずくなったクローディアはルーピンと一切目を合わせなかった。
2日続けた豪華な食事を終え、デザートを平らげる。
大広間にいる全員の食事が終わったことを確認し、金の食器達が忽然と消え去った。
それと同時に3校の校長が席から腰をあげる。皆の口が自然と閉じた。静粛にしている生徒や教員の中でバグマンだけが落ち着かず、生徒に笑顔を振舞っていた。
ダンブルドアが杖を振るうと、大広間の蝋燭が明かりを押さえ、薄暗くなる。中央に設置された『炎のゴブレッド』の青い炎が大広間を妖しく照らす。
「待ちに待ったときがやってきた。代表の発表じゃ。呼ばれた生徒はこちらの奥の扉から、隣の部屋へ行きなさい」
待ちわびた宣言に誰もが全身を奮わせる。
『炎のゴブレッド』の炎が一層、激しさを増して燃え上がり、吐き出されたように1枚の羊皮紙が宙へと舞い上がる。
あれに代表の名が書かれている。両手を組み、祈る生徒が現れる。
その羊皮紙をダンブルドアが手にする。
「ダームストラング代表は、ビクトール=クラム!!」
響き渡るダンブルドアの声、大広間を歓声が支配した。ビクトールは満足げに頷き、同校の生徒から祝福されていた。
しっかりとした足取りで立ち上がったビクトールはカルカロフに熱く抱擁される。教員席の後ろの扉に導かれていった。
「よくやった! ビクトール!」
カルカロフが一番喜んでいた。
拍手が収まると『炎のゴブレッド』が再び燃え上がり、2枚目を吐き出した。
「ボーバトン代表は、フラー=デラクール!!」
クローディアの向かいに座っていた女子生徒が優雅な仕草で立ち上がった。男性陣からの拍手に送られ、フラーはマダム・マクシームに肩を抱かれた後、扉の向こうに消えた。
残るはホグワーツの代表のみ。
3度目の炎が、最後の1枚を吐き出した。
「ホグワーツ代表は……」
一瞬だが、長い時間。
「セドリック=ディゴリー!!」
ハッフルパフから大歓声が上がる。セドリックは選ばれた感動で、拳を振り上げた。押されるように彼は立ち上がる。
教員席に向かう彼をスプラウトが祝福の握手を交わす。
拍手が続く中、クラウチが教員席に布で覆われた何かを慎重に置く。
「よろしい、これで3校の代表者が決定した! しかし、歴史に名を残すのはただ、1人。その1人だけが掲げ――――――」
突然、ダンブルドアが言葉を切る。
何故なら、教員席にいる全員がダンブルドアではなく、中央の『炎のゴブレッド』を怪訝そうに睨んでいるからだ。そして、生徒の視線も『炎のゴブレッド』に引き寄せられる。
青い炎が赤くも燃え上がり、激しく唸っている。まるで苦しんでいるような印象を受けた。そして、炎は4枚目の羊皮紙を吐き出した。
羊皮紙は宙を舞い、ダンブルドアの手に握られた。
「ハリー=ポッター……」
ただの呟き、その呟きが聞き散れる程、大広間は静観していた。
誰も口を開かない。だが、視線だけがハリーに集中する。耳を疑っていた彼は、己の中身が真っ白くなる感覚に襲われる。そして、ここが現実だと認識できなくなった。
――違う。自分は名前を入れていない。
そう叫びたいが、口が動かない。
誰かが背を押す。ハーマイオニーだ。視線だけで行くように示唆している。ハリーは、重い足で一歩一歩、ダンブルドアに近づく。
ダンブルドアを見ていられない。足元だけを見る。
マクゴナガルの手が優しくハリーの肩に触れた。それだけで、嬉しかった。
扉が閉まると、ダンブルドアは大広間を振り返る。
「代表選手は、これより競技の課題についての注意事項を受ける」
ダンブルドアが言葉を続ける中、喜び勇んだバグマンだけが忍び足で扉の中へ向かう。クラウチは布で包んでいた物を丁重に片付けた。
「皆は代表選手を激励し祝福し、応援すること! では、解散!!」
早足でダンブルドアは扉へ進む。それに次いでクラウチ、カルカロフ、マダム・マクシーム、マクゴナガル、スネイプが突入していった。
校長の姿が消えた途端、ハッフルパフ生が騒ぎ出した。
「ズルしたんだ!」
「彼は17歳じゃないぞ!」
それに対抗し、グリフィンドール生はハリーを絶賛しだした。
「俺達のハリー=ポッターがダンブルドアを出し抜いた! やった、やった!」
騒然となった大広間をムーディが一歩前に出る。喉に杖を押し当て、『音声拡張魔法』で叫ぶ。
「とっと寮に戻れ! 戻らん者は蝙蝠にするぞ!!」
大広間の壁を反響した一喝、ムーディの杖が天井に向けられる。杖から光線が発せられると、空を見通す天井から雷鳴が響く。驚いた女子生徒が大広間から走り去る。それを合図に皆が我先にと二重扉を抜けて行った。
騒々しい事態の中、クローディアだけは身動きひとつせず、席に座り込んでいた。その耳には己の心臓音しか聞こえない。緊迫して脈が速い。
(ハリーが選ばれた……違う。嵌められた、……ハリーを競技に紛れて殺すために、抜かった……、まさか……こんな手でハリーを狙う。しかも、これで死ぬことになっても誰も文句を言えない……)
なんという卑劣。なんという策略。
憤慨で指先が震える。
クローディアは犯人に確信がある。イゴール=カルカロフ、奴に違いない。カルカロフを拷問し、真実を吐かせよう。自分は『服従の呪文』を知っている。抵抗されたなら、『磔の呪文』がある。
「クローディア」
親しげな声をかけられ、クローディアは顔を上げる。深刻な表情のルーピンが見下ろしていた。
「部屋に戻りなさい」
「……ルーピン先生、ハリーは嵌められたんです」
絞り出た声は震えている。
「クローディア、部屋に戻りなさい」
「ハリーは嵌められたんです!! そうでしょう! 『闇の印』の後にこんな偶然がありますか!」
張り上げた声が大広間に響き渡り、他の教職員が驚いて振り返る。見かねたハグリッドがクローディアへ駆け寄った。
「クローディア、部屋に戻れ。ここに居ても何にも何ねえ。ハリーのことは心配すんな。ダンブルドア校長先生が良いようにしてくれる。だろ?」
ハグリッドの暖かく大きな手がクローディアの背を撫でる。
焦燥感が消えぬが、立ち上がるしかない。ハグリッドに押されて大広間を出た後、素直に寮へと帰った。
「聞きましたか、代表選手のこと……」
「ええ、ハリー=ポッターが…」
廊下では絵の住人が代表選手の話題で持ちきりだ。
寮の談話室に誰の姿もない。
「遅かったわね。マッド‐アイに蝙蝠にされたのかと心配したわ」
悠々と『灰色のレディ』がクローディアの肩をすり抜ける。
「皆は寝たさ?」
適当な問いかけに、『灰色のレディ』は嘆息する。
「ペネロピーが首席命令で就寝を言い渡したのよ。貴女がハリー=ポッターと友達だから、気を使ったのかもしれないわね」
胸中でペネロピーに感謝し、クローディアも自室に戻る。
部屋ではパドマとリサとペネロピー、クララ、ルーナがいる。寛いだ体勢の6人は、ベッロを撫で回していた。
ペネロピーはクララと視線で言葉を交わし、起き上がる。
「クローディア、貴女の意見を聞かせて、今回のことをどう思う?」
慎重に言葉を選ぶ。感情に任せた意見だけは、レイブンクロー生は納得しない。しかし、今のクローディアは脳内で文章が成立しない。
「ハリーは嵌められた」
絞り出た言葉にクララは顔を顰める。
「根拠はあるの?」
クララを一瞥し、クローディアは速くなった鼓動を落ち着かせるため、深呼吸する。
「ワールドカップに現れた『死喰い人』、その直後の『闇の印』、引退していた『闇払い』がこの学校にいること……」
「それだけ?」
確認の意味でルーナが問う。
「皆に納得してとは言わないさ。でも……わかって欲しいさ」
6人を見渡すクローディアの声は涙が混ざっている。この涙は激昂によるものだ。今回のことで、ハリーへの不信感を募らせるのに最適だ。
それさえも計算していたのではないかと、クローディアは姿のわからぬ犯人に激昂する。
ペネロピーはクローディアの肩に手を置く。
「私は貴女を信じる。ハリーじゃなくて、貴女をよ。首席として下級生にハリーを中傷しないように言い含めておくけど、期待しないで」
「……ありがとう」
反射的に出た感謝の言葉にペネロピーは困ったように笑う。呆れたようにクララがクローディアの肩を軽く叩く。
「どうして、いつも貴女はハリーに振り回されるのかしらね」
パドマとリサもクローディアの肩に飛び付いてくる。
「本当に困ったものだわ」
「くれぐれも無茶しないで下さい」
ルーナがクローディアの体をペシペシと叩きだした。おそらく、心配しているのだ。 最初は軽かったが段々と痛くなってきたので、クローディアはルーナの手を失礼のないように退けた。
閲覧ありがとうございました。
皆さんは、ゴブレッドに物を投げつけないで下さいね。
●イリアン=ワイセンベルク
トトの同級生というオリキャラが欲しかった。
●スタニスラフ=ペレツ
ダームストラングのオリキャラが欲しかった。
●ビクトール=クラム
世界最高のシーカーで、学生。学生なんですよね、彼。
●フラー=デラクール
同級生も嫉妬する美貌の持ち主。人間関係大変そう。