こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
校長先生は言いました。選手を応援するように、と。

追記:16年3月2日、18年10月1日、誤字報告により修正入りました。


9.試練まで

 湖を見渡せるブナの木の下は早朝のせいか少々肌寒い。

 木の根に腰かけ、クローディアはハーマイオニーと共にトーストを頬張るハリーの話を聞き入る。彼が話し終えるまで、2人は決して口を開かなかった。

 マダム・マクシームは頭ごなしにハリーによる不正行為だと決めつけた。カルカロフは、各校の代表が2名ずつになるように『炎のゴブレッド』を使おうと提案した。しかし、炎が消えてしまい不可能になった。バグマンはハリーの当選を祝福し、参加を認めた。

 カルカロフがダンブルドアによる不正を疑うと、スネイプはハリーの独断によるものだと主張した。マダム・マクシームがダンブルドアの魔法の効力が薄かったと責めると、マクゴナガルが否定した。

 ムーディが長年の経験から、ハリーは罠にかけられたと断言した。

 口論の果てにクラウチが『炎のゴブレッド』による魔法契約の力がある限り、ハリーも参加するしかないと宣言するに至った。

「セドリック=ディゴリーも……僕が皆を出し抜いたと思っているよ」

 大広間の裏での起こった詳細を述べたハリーは胸に痞えていた感情がまだ残っている。一呼吸置き、ハーマイオニーが開口する。

「貴方が入れたんじゃないことぐらい、わかっていたわ。校長先生に名前を呼ばれたときのあなたの顔を見ればね。……でも、問題はいったい誰が入れたかだわ」

「それと、何をするつもりかさ」

 付け加えるクローディアにハーマイオニーは頷く。

「クローディアは、やっぱりカルカロフだと思う?」

「勿論さ。本当なら、殴りこみに行きたいけど、慎重にしないといけないさ」

 微笑むクローディアは木にもたれかかる。苦笑するハーマイオニーが肩を竦める。

「慎重にしなくても殴りに行かないで、問題になるわ。それに私はルード=バグマンが怪しいわ。妙に落ちついているし、こうなることを期待していたような……」

 自分なりの考えを口にするハーマイオニーにハリーが不安げに問いかけてきた。

「ねえ、ロンを見かけた?」

 ハーマイオニーが口ごもりながら、朝食で見かけたことを告げる。

「ロンは、まだ僕が名前を入れたと思っているかな?」

 意外な言葉にクローディアはハーマイオニーを見やる。彼女は目を泳がせて口を動かす。言葉を選んでいるからだ。

 今朝のロンの姿をクローディアは知らない為、何とも言えない。

「そういうことじゃないのよ、ハリー……ロンは、貴方を信じてないんじゃないのよ」

「信じてないんじゃないって何?」

 怪訝そうなハリーに、ハーマイオニーは投げやりに言い捨てた。

「ハリー、ロンはね。嫉妬してるのよ!」

 キョトンとハリーは目を丸くした。少々、クローディアも驚いたが、ロンの心情に当てはまる言葉を思いつく。

「もしかして、劣等感さ?」

「ええ、そういうことよ。ロンはいつも、自分が目立たない。注目を浴びるのは、お兄さん達や貴方ばかり、でも、ロンは口に出さなかった。ずっと、それが限界を迎えたんだわ」

 ロンに落胆したハリーは息を吐く。

「傑作だね。ねえ、ロンに伝えてよ。いつでもお好きなときに入れ替わってやるって。何処にいても誰からもジロジロ見られる生活が好きなら、どうぞってね」

 憤りのあまり、ハリーは強く拳を握る。彼から有名人であるが故の苦悩を感じ取ったクローディアは居た堪れない気持ちになった。

「私は何も言わないわ。ハリー、自分で言いなさい。それしか解決できないわ」

 訴えかけてくるハーマイオニーに、ハリーは否定の意味で頭を振る。木の根から起き上がったかと思えば、力の限り叫んだ。

「それでロンが大人になるのを手伝えって? 冗談じゃない!」

 唇を噛んだハリーは城に向かおうとした。すぐにクローディアは引き止める。

「ど~こ行くさ?」

「ロンを蹴飛ばしに行くんだ」

「バカなこと言わないで、他にすることがあるでしょう!」

 ハーマイオニーが鞄から羊皮紙と羽ペンを取り出し、ハリーに手渡した。

「シリウスに手紙を書くの。昨晩の出来事を全部よ。クローディアもお父様に報せなきゃ、【日刊預言者新聞】に載る前に報せないといけないわ。今すぐよ!」

 ハーマイオニーに急かされ、クローディアとハリーはそれぞれの手紙を書く。

 クローディアは自分なりの考えを含めて書いたので、時間がかかった。ハリーは短文だったのか、早く書き終えていた。

 書き終えた頃、見計らったようにヘドウィッグがハリーの肩へと飛んできた。フクロウ小屋からこの場所の動きを察知したなら、優れすぎである。

「私の手紙もお願いするさ」

 ヘドウィッグの脚に2つの手紙を括りつけ、ハリーは空へと放った。

「カルカロフ達をベッロに引き合わせて検分させるさ。ベッロなら『炎のゴブレッド』に名前を入れた犯人がわかるだろうさ」

 ヘドウィックを見送り、クローディアはベッロを呼びに行こうとした。何かに気付いたように、ハーマイオニーが引き止めた。

「それは……、危険じゃないかしら? 例え、犯人がわかっても、ハリーの出場は取り消せないのよ。ベッロが犯人に飛びかかってごらんなさい。国際問題にまでなるわ」

「でも、このまま野放しにするわけにはいかないさ。あ、ベッロ」

 城から、ベッロがクルックシャンクスと競うように走ってくる。ハリーはベッロ、ハーマイオニーはクルックシャンクスをそれぞれ抱き上げた。

 早速、ハリーとベッロが『会話』する。

[あまりにも敵が多すぎる。ハリーへの敵愾心を持たない人間を探すほうが早い]

「『闇の印』……、ヴォルデモートと関わりがありそうな人物を特定はできないの?」

 縋るようなハリーの質問に、ベッロは首を横に振る。

[いろいろな企みが混ざっているというべき感覚だ。猫にも、一通り探らせたが、怪しいモノはいないそうだ]

 ベッロがクルックシャンクスを一瞥し、溜息をつく。絶望的な気持ちでハリーは2人に聞かせる。

「つまり、今回はベッロとクルックシャンクスでは判断できないってことさ?」

 当てにしていた分、クローディアは悔しさで拳を握る。だが、ベッロとクルックシャンクスに非はない。彼らは、あくまでも本能的に察知できるのだ。寧ろ、それに頼り過ぎていた。

「最悪ね……。でも、それを考えるとハリーを出場させようとしている人は『敵』ではないのかもしれないわ。ハリーにも、永久の栄光を与えようとしたとか……」

 冷静にハーマイオニーは推測を口にする。

「どっちにしろ、いい迷惑だよ」

 苛立ちを隠さず、ハリーはブナの木を蹴った。

 

 ハッフルパフ生のハリーに対する批判的な態度は翌日から始まった。

 ハリーだけでなく、他のグリフィンドール生にも降りかかった。コーマックとローレンスが『薬草学』の授業中、乱闘騒ぎを起こしたそうだ。

 現場を見ていたケイティ曰く、授業開始前にコーマックはハリーをハッフルパフ生に自慢をしていた。その時点でローレンスは怒り心頭だった。

 それに加え、コーマックがローレンスの作業ぶりを貶したので、我慢の糸が切れたらしい。

 スリザリン生の冷やかしは毎度のことなのでハリーには耐えられる。レイブンクロー生は首席ペネロピーと監督生達による声がけの効果か、彼を中傷する者はいないが、応援する者もいなかった。

「ビクトール=クラムって素敵よね。見てるだけで感動だわ」

 サリーがわざとらしく、ハリーの話題を避けていた。

「せめて、『年齢線』を誤魔化した方法を教えてくれないかな」

 その部分以外、ミムは何も言わなかった。

「ジャスティンもハリーを疑っているわ。セドリック=ディゴリーの栄誉を妨害しているんじゃないかってね。一応、私は否定しておいたわ。ジャスティンったらね、私がハリーを好きなんじゃないかって言い出しの」

「喧嘩したさ?」

 パドマとジャスティンの関係が壊れるのを恐れ、クローディアは恐る恐る問い返す。笑顔でパドマは胸を張る。

「クローディアを信じているとジャスティンに言ってやったわ。そしたら、疑ってごめんねってキスしてくれたの」

 嬉しそうなパドマは、幸せそうだ。

 のろけ話かとツッコミたいが、クローディアは2人の仲睦まじさに安心した。

「ジニーはハリー=ポッターのことで大喜びだよ。グリフィンドール生から代表が出たって、多分、今のジニーに何を言っても無駄だと思うな」

 仕方ないとルーナは【ザ・クィブラー】を読みだした。

 

 そんな中、クローディアに衝撃的な情報が寄せられる。バーベッジの事務所に呼び出され、彼女は耳を疑う。

「ミス・クロックフォード。クラウチ氏は対抗試合の期間中、ホグワーツに滞在することになりました。クラウチ氏は大変お忙しく、本来の職務を全うする為、ひとつの教室を事務室としてお貸し致します。その……教室に選ばれたのが、私としても残念ですが、バスケ部の部室なのです」

 悲痛に顔を歪めるバーベッジがクローディアの肩に手を置く。告げられ、情報を整理する。

 部室をクラウチに乗っ取られる。よって、部活動ができない。

「な、な、何故ですか? 空き教室なんて、いくらでもありますよ? よりにもよって部室なんですか?」

 狼狽したクローディアはバーベッジの腕を震えながら掴んだ。

「今学期はクィディッチがない分、部活動が盛んに行われています。そのせいで空き教室が埋まってしまったのです。クラウチ氏は顧問の先生方と相談し……検討した結果、……魔法学校にマグルの競技は重要ではないと……判断したのです」

 バーベッジは憤慨する。相当、クラウチから色々と屈辱的な言葉を浴びせられたのだろう。

「私と校長先生でクラウチ氏を説得しましたとも、本当に。ですが、クラウチ氏は、どうしても部室を使いたいと申されたのです。そこで私は粘って、隔週の日曜だけ部室をバスケ部に返すという取り決めを行いました」

 深刻かつ不機嫌なバーベッジに詰め寄りたい。それは無駄であると悟り、クローディアは口を閉じて無理やり頷いた。

 

 即効で部室へと足を運ぶ。

 扉を見るなり、クローディアはノックもなしに部室へと足を踏み入れた。

 だが、そこは既に書類の束、否、山がそこら中に積もれていた。書類の山の向こうに実用的な机が置かれ、散りばめられた書類には数本の羽ペンが、自動で修正を行う。その書類の内容は、ほとんど理解できないが、対抗試合のモノはひとつもない。全て、別件だ。

 あまりの現状に、クローディアは怒りを通り越して呆れ果てた。否、一種の感心だ。これだけの量の職務を持ちえながら、対抗試合にも関与しているのだ。

「誰かね? 勝手に入っては困る」

 誰もいないと思っていた窓際で、クラウチはフクロウに厚い封筒をもたせていた。フクロウを窓から放ち、不快そうにクローディアを一瞥する。

「普段、この教室を使用しているバスケ部・部長のクローディア=クロックフォードです」

 一礼したクローディアは凛として顔を上げクラウチを見据える。彼はこちらを見ずに、手にした書類に目を通す。

「ああ、話はダンブルドア校長から聞いている。君には、すまないとは思っている。だが、これらを入れるのに部屋が必要なのだよ。定期的に片付ける。それで納得したはずだ。文句はダンブルドアから受けるとしよう。まずはバーベッジ教授へ苦情を申し立て給え。では失礼、お嬢さん」

 クラウチは杖を取り出すと、軽く振るった。瞬間、室内にいたクローディアは廊下に押し出されていた。

 理不尽な態度、胸中を言葉に変えられない種類の怒りが湧き起こる。

 気づけば、扉を蹴っていた。

 

 『薬草学』で『ピョンピョン球根』の植え替えは注意力が必要だ。でなければ、すぐに球根が飛んで行ってしまう。作業中、ドラコが大声でハリーを侮辱する行動に出たときは正直、呆れた。

「クロックフォードはポッターのお友達なのに、どうして名前を入れなかったんだい? 仲間外れにされたんだろ?」

 偶然、クローディアの手から『ピョンピョン球根』が一個だけ飛び出し、うまいことドラコの顔面に命中した。

 痛みに驚くドラコの狼狽する姿に、レイブンクロー生は噴出して笑う。ブレーズやダフネなどの取り巻き以外のスリザリン生も隠れて笑っていた。

 第三温室から出たクローディアをドラコは執拗に追い回しては、代表選手になれなかったことを嘲笑した。年齢が達しておらず、立候補もしていないのに無茶だ。

 玄関ホールまでドラコはしつこかった。

「情けないね。ポッターに出来て知識に優れたレイブンクロー生が選ばれなかったなんてさ」

 この発言にアンソニー達も侮辱されたとドラコを睨む。クラッブ、ゴイル達がわざとらしく大笑いしている中、別の声が混ざった。

「代表選手になれなかったのは僕も同じです。僕は情けないですか?」

 頭に包帯を巻いたスタニスラフが他のダームストラング生と城内から現れた。流石のドラコも肝を冷やし、取り巻きとそそくさしながら城内へと逃げていった。

「マルフォイの無礼を私がお詫びします。彼はハリー=ポッターが羨ましいだけなんです」

 一礼するクローディアに、スタニスラフは怪訝そうに首を傾げる。

「同じ学校から、2名も選ばれたことを何故、彼は誇りに思わないのですか? 例え、年齢に達していなくてもハリー=ポッターは代表選手です。応援するのが筋ではありませんか?」

 スタニスラフの疑問にマイケルやモラグが気恥ずかしそうに唇を噛む。レイブンクローはドラコのような態度はとっていないが、その言葉は身に沁みる。

 彼は正しい。

 だが、感情が付いていかない。ドラコの場合は感情以前の問題だ。

「マルフォイの行動で、私達は冷静になれます。そういう意味では彼の行動は無駄ではありませんよ」

 真正面から見据えるクローディアに、スタニスラフの表情が柔らかくなった。

「……どうやら、言葉が過ぎました」

 一礼するスタニスラフに、クローディアも倣う。

「その包帯はどうされましたか?」

「コレは、ちょっと切れただけです。こちらの校医にお会いしたかったので医務室を利用しました。美人の看護は非常に良いですね」

 上機嫌に、それでも悪戯っぽくスタニスラフは笑った。

 

 ドラコの対応は慣れているが、ザカリアスの詰問にクローディアは困り果てた。流石に『魔法薬学』では、スネイプを恐れて私語は慎むが、『魔法生物飼育学』ではそうはいかない。

「実は上級生に頼んで名前を入れてもらおうとしたんだ。でも、駄目だった。僕の名前は入れられることなく、吐き出されたよ。なあなあ、君らは友達だろ? 教えてくれよ」

 羊皮紙にハグリッドの口頭説明を書き込んでいる最中、ザカリアスは遠慮なくクローディアの肩を揺さぶる。

 流石にハグリッドが怒り、ザカリアスは罰則として『尻尾爆発スクリュート』の散歩を命じられた。初めて現れた『尻尾爆発スクリュート』に、悲鳴以外の表現が言い表せない。

「なかなか、散歩させられねえで困ってたんだ。見ろ、楽しそうだろう?」

 上機嫌なハグリッドの優しい言葉は、縄を必死に掴むザカリアス……ではなく、彼を引きずって歩きまわるスクリュートに向けられていた。

 胴体だけの生物、しかも尻尾の先から爆発音が鳴る。

(頭のない伊勢エビさ? ……うげ)

 しばらく、エビが食べられない。

 『尻尾爆発スクリュート』の散歩が効いたのか、ザカリアスを始めとしたハッフルパフ生はクローディアに決して質問しない方針を固めた。

 

 代表が発表されてから一週間。

 クローディアとハリー、ハーマイオニーはルーピンの事務所にて、紅茶を頂いている。最初はハグリッドを訪ねようとしたが、少々神経質気味になっている天馬の面倒で彼は多忙だ。

 この場所を提案したのは、ハーマイオニーだ。【改訂版・ホグワーツの歴史】の草案をルーピンに確認してもらおうと考えたのだ。

 正直、クローディアは気乗りしなかった。ハロウィンの宴から、妙にルーピンを意識してしまう。敵意や嫌悪ではなく、彼には宴のときのような身なりを続けて欲しいという思いだ。

 だが、それを口に出せずにいた。その理由が自分自身でさえ理解できない。

「代表に選ばれたことは、シリウスに伝えたかい?」

 ルーピンの質問に、ハリーは不安な気持ちを押さえ込むように頷く。

「手紙の返事が来ないんです……。ルーピン先生のところに来ていますか?」

「新学期になってから、一度来たきりだよ」

 素直に答えるルーピンに、ハリーは残念だが安心した笑みを見せる。

「お父さんからも返事はないさ。お祖母ちゃんからは、しばらく病院勤務で手紙を出せなくなるかもしれないって来ただけさ」

 ポットのお湯をカップに注ぐクローディアに、ハーマイオニーは考えながら口を動かす。

「きっと、シリウスもお父様も大変なご用がおありなのよ」

 唐突に窓が外から叩かれた。全員が音に注目すると、カサブランカが嘴で窓を突いている。すぐにルーピンが窓を開き、カサブランカを招き入れる。

 反射的にクローディアが腕を上げ、止まり木代わりにカサブランカを止まらせる。嘴に一通の手紙が銜えられていた。

「誰から!?」

 期待のあまり、ハリーが声を荒げる。

「残念、お祖父ちゃんさ。……、あ~、ペレツのことを教えたから、その返事さ」

 さも残念さを露にしたハリーは椅子にもたれかかる。その胸中を理解は出来るが、トトが手紙に何を記そうが勝手な話だ。

「ペレツって誰だい?」

「ダームストラングの生徒です。トトさんのお友達の曾孫さんだそうですよ」

 手紙を読むクローディアの傍で、ハーマイオニーがルーピンに説明する。その説明の中に、トトがダームスラング生であったことは含めなかった。

 それでも、納得したルーピンは感心して頷く。

「君のお祖父さんは顔が広いね」

「……だ、ダンブルドア校長先生には、適いませんよ」

 手紙を読み終えたクローディアはルーピンに声をかけられ上擦った口調で答えた。己の応対が恥ずかしくなり、反射的に手紙で顔を隠す。

「そ、それで、ハリー、最初の試験は何さ?」

 手紙で顔を隠したままハリーに問うクローディアは傍から見れば、間抜けすぎる。

 しかし、ハリーはクローディアの様子を気にかけず、心ここにあらずと呆けている。

「競技の日は11月24日なんだけど、何をするのかは聞かされてない。未知に対する対抗手段を見つけろとか……」

 口に出した途端、ハリーは煙たそうに眉を寄せる。少し期待したハーマイオニーが、ルーピンを盗み見る視線を送る。彼女の視線に、彼は苦笑した。

「残念ながら、話してはいけないことになっているんだ。言っておくけど、ハグリッドに聞いても同じだよ。説得できるなら、バーティ=クラウチかルード=バグマンが教えてくれるかもね」

 悪戯っぽくルーピンは笑う。

 クラウチの名に、クローディアは不愉快な気分で頬を膨らませる。

「クラウチは知ってっても、絶対、口を割らないさ。あの鉄火面のせいで、バスケ部の活動が制限されたさ。もう、ウィンキーのことだけでも、あったま来るのにさ!」

 顔を隠していた手紙を丁寧に折り、クローディアは封筒に戻す。その間、クラウチに対する不満を溢す。その通りとハーマイオニーは同意する。

「ウィンキーとは友達かい?」

「『屋敷しもべ妖精』のことです」

 ハリーに答えられ、ルーピンは取りあえず頷く。深く追求することなく、【改訂版・ホグワーツの歴史】の草案を読み出した。

 クローディアとハーマイオニーがクラウチの悪口を言い合う中、ハリーは窓の外を眺める。

 ルーピンもハリーが『炎のゴブレッド』に名前を入れていないと信じている。しかし、ハグリッド同様にロンとの亀裂を相談する気になれなかった。

 一番、仲の良いロンと仲違したなど、ルーピンには知られたくなかった。ロンにも、告げ口したと思われたくない。

(シリウス……)

 シリウスならば、遠慮なく話せる。彼は自分だけの名付け親で後見人だ。その手紙を求め、ハリーはいつまでも窓の向こうの景色を眺め続けた。

 

 ハリーの前では平静を装えるクローディアだ。

 しかし、コンラッドから手紙が来ないことに不安がないわけではない。この学校に身を置いている間は外の情報が入らない。TVもラジオもない。新聞と雑誌だけが、情報源だ。焦っても情報は来ない。故に待つしかない。

 母からは競技大会の項目に何故バスケがないのかという質問の手紙が来た。それはこっちが知りたい。トトからは、くれぐれもスタニスラフと友情以上に仲良くなると念を押された。

 『魔法生物飼育学』の時間、クローディアはそれとなくハグリッドに問う。

「お祖母ちゃんから便りはないさ?」

「ねえなあ、もしかすっと仕事が忙しいのかもしれねえ。気長に待ってやれ」

 マダム・マクシームから天馬を借り、ハグリッドは授業を続ける。美しい外見とは裏腹に、天馬は生徒に足蹴りを喰らわせようとした。

「ハグリッドは誰が、ハリーを嵌めようとしていると思うさ?」

「見当もつかねえが、マダム・マクシームじゃねえことは確かだ。あの人は、ハリーにカンカンだった。俺はハリーがそんな悪さしねえって言って、ようやくわかってくれた」

 何故、そこでマダム・マクシームの名が出る。

「もしかしなくて、ハグリッド……。マダム・マクシームのこと」

「こら、ブート! 天馬の翼に触っちゃなんねえ!」

 ハグリッドに注意を受けたテリーは驚いて、一瞬制止する。その一瞬のお陰で、天馬の蹴りから回避できた。そのまま触れていれば、彼は城にまで飛ばされていただろう。

 テリーのお陰で、ハグリッドはクローディアの追及を逃れたように思えた。

 

☈☈☈☈

 否応なしに対抗試合の選手になったハリーは心の拠り所が少なすぎる。胸中の不満を受け止めてくれるのは、クローディアとハーマイオニーのみ。

 ハーマイオニーと選択教科が違う授業時間はハリーは独りだ。クローディアは寮すら違い、会える時間は限られる。ベッロは友達だが、頻繁に『蛇語』で話すことは出来ない。

 そして、ドリスやシリウスからの手紙が2週間近く絶たれていることもハリーの孤独感を煽った。

 『魔法薬学』の授業を潰して行われた【日刊予言者新聞】の取材は、ほとんど口煩いリータ=スキーターが引っ張った。人の話は聞かず、自分勝手な文章を書き綴っていた。

 本題はオリバンダーによる杖調べの儀式だ。杖が正常な働きをするか確認する為らしい。フラーの杖は、紫檀にヴィーラの髪の毛から作られていた。そのヴィーラはフラーの祖母の者だと言う。彼女が男性を魅了するのは、当然だとハリーは納得した。セドリックはオリバンダー作の杖で、トネリコ材の一角獣の尻尾だ。ビクトールの杖はグレゴロビッチが作ったものらしい。そんな名にハリーには聞き覚えがない。クマシデにドラゴンの心臓の琴線と強そうな素材だ。

 そして、ハリーの杖はヒイラギと不死鳥の尾羽だ。この尾羽は実はヴォルデモートの杖芯と同じである。そう、同じ不死鳥の尾羽。つまりは兄弟杖だ。この事をハリーは誰にも話していない。知っているのは目の前のオリバンダーだけだ。

 オリバンダーは杖の不思議さだけ語り、兄弟杖については触れなかったことにハリーは安心した。

 杖調べの儀式も無事終わり、スキーターによる不必要な写真撮影が行われた。解放された頃、ハリー、セドリック、ビクトール、フラーはうんざりとした表情で狭い教室を出て行った。

 夕食の為に大広間に行こうとしたハリーをセドリックが引き止める。

「君はクローディアと仲がいいけど、もしかして……」

「ただの友達だよ」

 セドリックが言い終える前に、ハリーは断言する。少し驚き、彼は目を見開きながら胸を撫で下ろしている。

「彼女と同じ寮のロジャーから聞いたんだ。クローディアが君を庇ってるんだ。今年の首席であるペネロピー=クリアウォーターも彼女に同意して、下級生に言い含めている。ハリー=ポッターを責めるなって、だから、レイブンクローはそろそろ治まると思うよ。その、君への態度が……」

 必死に言葉を選ぶセドリックは親しげな口調でハリーを慰めてきた。意外すぎる現状を知り、嬉しい驚きで胸が高鳴る。

(クローディアが……僕を)

 知らなかった。

 クローディアがレイブンクロー生だけでも説得してくれていたなど、考えもしなかった。

「どうして……、皆、クローディアの言うことを信じるの? 僕が入れていないって言っても、信じてくれないのに?」

 我、知らずと口調に批難が混じる。それでセドリックの気に障ったかと思ったが、彼は真摯な態度でハリーに答えた。

「多分だけど、彼女が最初から有名ではないからだと思うよ。1年生の学年末まで無名だった。2年生でも、活躍らしい活躍はしなかった。むしろ、石にされた犠牲者だ。3年生になって、自分で部活を立ち上げ、クィディッチで大活躍した。ロジャーが言っていたけど、レイブンクローが寮対抗に優勝したのはバーベッジ教授とマダム・フーチが彼女の目覚ましい活躍に寮点を与えたのが決定的だったらしい。そうやって、努力して積み重ねた結果、彼女は首席や監督生に信頼されていると思うんだ。その彼女の言葉なら、信じようって思う人もいるんだよ」

 そこまでクローディアが評価されているなど、ハリーは全く知らなかった。思えば、目の前のセドリックが女子に人気だと知ったのも、ハリーが3年生の時だった。

〝ロンはいつも自分が目立たない。注目を浴びるのはお兄さん達や貴方ばかり〟

 何故だが、ハーマイオニーの声が脳髄で反響した。

「それでね」

 続いていたセドリックの声に、ハリーは我に返る。

「クローディアがそんなことをするなんて、君と……そういう関係だからじゃないかって疑ったんだ。ごめんな、変なこと聞いて」

「全然、変なことじゃないよ。でも、僕とクローディアの関係をどうしてセドリックが気にしてるの?」

 何気なく聞き返すハリーに、セドリックは半笑いになる。

「僕じゃなくて、他の奴が気になったんだ」

「もしかして、ロジャー=ディビーズ?」

 思いついた名を口にすると、セドリックは肯定の笑みを返した。

 

☈☈☈☈

 『闇の魔術への防衛術』を終え、クローディア達は寮へ行くため廊下を歩く。

「ルーピン先生の授業もいいけど、またマッド‐アイの講義ないかな~」

「俺ら参加できてないもんな。『許されざる呪文』を実践するなんて、正気じゃねえよ」

 モラグとマイケルが呟き、その後ろでクローディアは眉を潜める。

(ムーディの授業さ。敵と戦う力……、私が学んだのは敵に抗う力だったさ)

 授業風景を瞼の裏で思い返し、クローディアは体の奥底から囁いてくる声を脳髄で聞き取る。

 あれでは足りない。もっと、知りたい。敵をXXX為に。

「クローディア、恐い顔になっておりますわ」

 肩に乗せられた手の感触とリサの声で、クローディアは囁きを掻き消した。

「ごめんさ」

「あなたはマッド‐アイではございません。どうか、彼のようになりたいなどと思わないで下さい」

 真剣な眼差しのリサは深刻に低音で忠告してきた。

 口を開こうとしたクローディアは、リサの向こうにロンの姿を視認した。

 ロンは背を丸くし、目を据わらせている。このところ、シェーマスやディーンといる彼が1人でいるところは珍しい。

 失礼のないようにリサから離れたクローディアはロンへと駆け寄る。近づいても、彼は逃げない。

「どうしたさ?」

「ハーマイオニーが医務室に行った。やったのはマルフォイだ」

 焦燥感で背筋が粟立つ。ハーマイオニーが医務室に行かねばならない事態をドラコがやった。怒りでクローディアの腕が震える。

「ありがとさ。ロン」

 ロンの肩に手を置き、クローディアは医務室へ向かった。ロンは頷いただけで、着いてこようとはしなかった。それに対し、応じる余裕はなかった。

 

 慌てふためいたクローディアが医務室に突っ込んだ。案の定、マダム・ポンフリーが目くじらを立てて、追い出した。

「ハーマイオニーの無事を確認したいだけなんです!」

 思わず大声をあげたクローディアの口をマダム・ポンフリーの杖が魔法で塞ぐ。

「ミス・グレンジャーは今夜だけ入院して頂きます。明日になれば、寮に帰します!」

 声を封じられたクローディアは不満絶頂のまま引き下がるしかなかった。そして、その足でスリザリン寮を目指す。廊下を行きながら、己の杖で声を治した。

 ミセス・ノリスが規則破りを見つけ、早速、フィルチを呼んだ。

「後にしろ!」

 抑えきれぬ怒りと共に、クローディアはフィルチに向かって叫んだ。

 フィルチの反応を見ずに、スリザリン寮を目指す。湧き起こる怒りの矛先をドラコへ向けるためだ。

 だが、廊下を行く途中でドラコの一団と出くわした。彼らのローブには『汚いぞポッター』のバッチが着けられていた。

 ハリーへの侮辱とハーマイオニーへの何らかの魔法、二重の怒りが脳内を沸騰させる。乱暴な足音を響かせ、ドラコへと迫る。

 憤怒に満ちたオーラを背負ったクローディアの登場にドラコやパンジーから馬鹿笑いが消える。

 そして、危険を察知して集団は蜘蛛の子を散らすようにクローディアから逃げ出した。

 無論、逃がすつもりはない。真っ直ぐ、ドラコだけを狙って追い回した。

 ドラコとパンジーは、すぐに地下教室へと逃げ込んだ。そこには自寮の寮監スネイプがいる。だからといって、クローディアが追わない理由にはならない。

 そのまま、地下教室へと降りる。

「スネイプ先生! クロックフォードが僕達を襲おうとしています! 助けて下さい!」

 研究室の扉を施錠しようとしたスネイプにドラコとパンジーが必死に訴える。構わず、クローディアはドラコに掴みかかろうと腕を伸ばした。

 ドラコの前に、スネイプが立ちはだかった。だが、それより先にクローディアの手がドラコのローブを掴んだ。伸ばした彼女の腕をスネイプが掴む。

「手を離したまえ、クロックフォード」

「離すのは先生さ」

 ドラコから目を離さず、瞬きもせずに見開く。暗がりに光るクローディアの赤茶色の瞳が鮮血に輝いている。ドラコは恐怖のあまり、ただ動くこともままならない。

「こういう馬鹿は殴らないとわからないんだ。人の痛みがわからんのだからな! 自分に自慢できることがないから! 平気で人を傷つけられるんだ!!」

 怒号が地下の廊下を反響する。

 刹那、ドラコの表情が痛みで歪んだ。ローブを掴まれた痛みではない。クローディアの言葉が胸を刺したからだ。

 ドラコの表情にクローディアは気づかない。

 気づく前にクローディアはドラコから顔を逸らされた。スネイプが彼女の胸元を掴み、手の甲で彼女の頬を引っ叩いた。

 

 ――パアン。

 

 突然すぎる行動、クローディアは理解するまで時間を要した。ドラコはただ驚いてスネイプを見上げ、パンジーは呆気に取られて自らの口を塞いだ。

 頬がジリジリと痛み、クローディアは自然とドラコから手を離し、自らの頬を擦る。嫌悪に歪んだスネイプに睨まれ、他人事のような感覚で見返した。

「貴様にそこまで人を非難する権利があるのか! 恥を知れ!」

 罵声が何重も耳を打つ。

 何故、スネイプに殴られたのか、理解も納得もできない。

 ただ、いまのクローディアから湧き起こる言葉、ただひとつだ。

「親父にも、ぶたれたことないのに!!」

 某引きこもり主人公の名台詞だ。

 腹の奥底から吐き出した金切り声が廊下を乗り越えて響き渡った。

 

 後の事など、知ったことではない。

 夕食の席でクローディアはハリーと隣り合わせに座る。無論、ハリーは彼女の腫れあがった頬に吃驚していた。

「その顔、どうしたの?」

「勲章さ」

 カボチャスープに血の味が混ざっている。

(口の中が切れてるさ、血の味がするさ)

 舌で咥内を探ると皮膚が切れている。それだけの力で平手打ちされたのだ。痛みよりも驚きが大きい。スネイプが人を殴るなど否、自分を殴るなど、夢にも思わない。コンラッドに殴られると同等に、心に衝撃が走った。

(お父さんに殴られたら、きっと、こんな気持ちになるさ……)

 痛みに耐え、クローディアはカボチャスープを飲み干す。ハリーの膝にいたベッロが、じっとその様子を見ていた。

 その後、フィルチに掴まったクローディアはフリットウィックに突き出された。

「なんですか、その頬は?」

「悪い男と揉めました」

 フリットウィックはクローディアの頬を見て、驚いた。スネイプの名は出さず、適当に言い訳する。それを男女の諍いと受け止めたらしく、追求して来なかった。

 城内持込禁止項目をダームストラング生とボーバトン生の人数分、手書きで書き映す作業を言い渡された。

 

☈☈☈☈

 生徒が寝静まった時間、スネイプは研究室で教材の確認をとる。足りない薬草や瓶を羊皮紙に書き込んでいく。しかし、普段なら月末に行うため、教材は十分足りている。何か作業をしていないと落ち着かないからだ。生徒のレポート採点は既に済んでいる。

 扉がノックもなく、静かに開く。扉の隙間から、現れたのは紅い蛇だ。スネイプは全く動じずベッロを一瞥し、口の端を上げる。

「また抜け出してきたのか? おまえが生徒であったならば、減点と罰則が出来たものを……惜しいな」

 親しみを込めた皮肉にベッロは笑うように頷く。スネイプの身体を這って腕に巻き付き、彼の左手を舐める。

「ああ、左手で……お前の主人を殴った。利き手はモノを掴んでいたのでな。……そんなことは聞いていないか……。謝らんぞ……。言葉は心を傷つけるのだ。意図しようとしまいとな……」

 羊皮紙を適当な場所に置き、スネイプはベッロを撫でる。

 

 ――コンコン。

 

 遠慮がちに扉がノックされた。スネイプが応え、黒いガウンを纏ったドラコが扉を開いた。自分で訪ねながら、彼は困惑した様子で研究室内を見渡す。

「また、ベッロが来ているかと……思いまして」

 最もらしい言い訳を述べ、ドラコは後ろ手で扉を閉める。

「消灯時間は過ぎておる。ほどほどにしたまえ」

 ベッロを撫でながら、スネイプは羊皮紙をローブに入れる。ドラコは適当な場所に腰かけ俯き加減で寮監を見上げた。

「スネイプ先生、どうして、クロックフォードを殴ったんですか? 下手をすれば、体罰で免職ですよ? 勿論、父上に頼んで、弁護させます。だって、クロックフォードが僕に……」

「ドラコ、やめたまえ」

 焦りで口走るドラコを制し、スネイプはベッロを彼に渡した。

「ミス・クロックフォードは抗議すまい。何故、殴られたのか理解できんからな。……だが、我輩としては軽率であった。ドラコ、君もミス・クロックフォードに構うな。ポッターに関しては彼女に悟られん程度にしておきたまえ」

 諌めるスネイプをドラコは返事をせずに目が泳がせる。そして、躊躇いながら口を開く。

「クロックフォードの父親は母上とどういう関係なんですか?」

 唐突だが、ドラコは重要な質問だと言わんばかりに深刻だ。まさか、そこに着眼点が行くとは思わなかった。彼の想像を何となく予想し、スネイプは胸中で溜息をつく。

「母上がクロックフォードの父親について、話す時……すごく、楽しそうでした。まるで、父上との昔話をするように、もしかして、昔の恋人とか?」

「それは違う」

 案の定だ。即座にスネイプは断言する。だが、ドラコは納得できない。相手の感情を読み取り、その隣にもたれかかる。

「では、アイツの父親が僕の母上を想っていた? 母上はそれをご存知だった?」

 それが一番適格だとドラコは期待を込める。

「それも違う。コンラッドは誰も愛していない。……お母上が彼を気にかけるのは、一重に愛情だ。家族愛といえばよいか……、お母上には弟がおられなかった。従弟はおられたがコンラッドのような弟が欲しかったのだ」

「……嘘だ」

 否定の意味ではなく、思わず口走られた言葉。ドラコはベッロを優しく撫でる。手の感触を味わうベッロは嬉しそうだ。

 ベッロをしばらく撫でてから、ドラコはスネイプを見据えた。

「スネイプ先生、クロックフォードは……何者なのでしょう?」

「君が知る限りの生徒だ」

 即答するスネイプにドラコは頭を振るう。

「すみません。違うんです。彼女は……僕にとって何者なんでしょうか?」

 

 ――一瞬の間。

 

 問いかけの意味を理解しかねる。スネイプはドラコの真意を計ろうと、顔を覗きこむ。その視線を問いかけと受け取り、重苦しく話し出す。

「僕は、さっきの彼女の……あれに、すごく、嫌な気持ちになりました。他の連中に言われても、こうはならないと思います」

 自尊心ではない何かが、痛んだ。

「僕は2度と彼女の口からそんなことを言って欲しくないんです。責めて、僕に対してだけは……」

 悔しそうにドラコは唇を噛む。彼の心を占めている感情に付けるべき名をスネイプは知っている。それは、ハリーやハーマイオニーへの妬みとは違う。

 しかし、ここでスネイプが伝えるべきではない。

「ドラコ。君にとってミス・クロックフォードが何者かは君自身が決めねばならんのだ。我輩や父君では、正しい答えを出すことは出来ん。あくまでの君だけの答えなのだ」

 出来るだけ優しい口調で、スネイプはドラコに諭す。まるで、我が子を思う父親の言葉として彼は受け止めた。不意にベッロを撫でる手を止める。

「もしも……僕が、答えを見つけても、それがどんな答えでも、スネイプ先生は僕の味方でいてくれますか?」

「勿論だとも」

 さも当然とスネイプは微笑んだ。ようやく安心したドラコはベッロを再び撫で始める。

 

☈☈☈☈

 以前にも、こんな光景を見た気がする。

 それはボニフェースがまだ学生で、1人の女子生徒についてハグリッドに相談している様子に似ている。ベッロはドラコを嫌いではないが、ハリー程、好きではない。

 どの道、クローディアが決めることだと、ベッロは深く溜息をついた。

 




閲覧ありがとうございました。
主人公の口中が切れるほどの平手打ち。
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