こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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少々、ガールズラブ表現がありますが、一方的な片思いなので、タグはつけません。


10.想いを思って、重くなる

 食パンを齧り、牛乳を飲むクローディアの口の中が痛い。昨日の頬の腫れがまだ治りきっていないからだ。また、治す気もない。

 リサとパドマは頬の腫れに驚いて、朝から医務室に連行しようとしたが、頑なに断った。頬に触れれば痛みがあるが、それが大事なことだと考えた。

「治してあげようか? まだ癒術を試したことないけど、うまくいくよ」

 杖を向けてくるルーナを丁重に断る。

「相手は男の人だと思うけど、どうして言わないのよ? 泣き寝入りなんてダメよ」

 タオルを冷たい水に濡らしたチョウがクローディアの頬にあてる。

 誰に詰め寄られようとスネイプの名は出さない。チョウのいう泣き寝入りではなく、理由を考えたい。殴られた理由を理解した時、土気色の頬へ一発決めようと密かに決めていた。

 痛みに気を遣った朝食を終え、クローディアは大広間を出る。

 二重扉でフレッドとジョージと擦れ違おうとした。ジョージがその頬に気づき、彼女の腕を掴んだ。

「誰にやられたんだ?」

「問題ないさ」

 適当にあしらおうとしたクローディアの腕を引っ張り、ジョージは乱暴な足取りで歩きだした。

 廊下を進み道のりは医務室だ。

 ジョージの腕を振り払い、クローディアは足を止める。

「大丈夫って言ってるさ」

「何処が? 痛々しいよ。なんで治さないんだ? 皆が心配するだろ? ……俺も心配する」

 目を細めるジョージに答えず。背を向けようとした。彼の手が彼女の肩を掴んで引き止めた。

「相手は誰だ? ……まさか、ディビーズ? 喧嘩したのか? そういえば、最近ダームストラングの奴と話してるよな? アイツはなんで君に馴れ馴れしんだ?それとも、ハリー? 対抗試合のことか?」

 肩を掴み手に力を入れ、ジョージはクローディアを壁へ追いつめる。詰問してくる彼にも、段々と腹が立ってきた。

「どれもこれも的外れさ! いきなり何さ! 離せさ!」

 ジョージの手を乱暴に払いのけたクローディアは彼を睨む。

「こっちは心配してるんだぞ。いいから話せよ。誰にやられたんだ?」

「なら、私があんたを心配したら、何でも話してくれるさ? フレッドとコソコソ何を相談してるかとかさ?」

 動じたジョージが一瞬、怯んだ。

「それは俺達の問題だ。君の怪我とは関係ない」

「この怪我は私の問題さ!」

 売り言葉で買い言葉を繰り返し、クローディアとジョージは睨みあう。

「あんたが私のことを知りたがるなら、あんたも私に教えるべきさ」

「それとこれとは別だ。君は怪我を負わされたんだぞ」

 口調が荒くなるジョージに、クローディアは耳を塞ぎたいが我慢だ。

 ジョージに心配されることが不愉快な気持ちになる。今だけは彼の声を聞きたくないという衝動が強い。

「私は言いたくないさ! それでいいさ! それじゃいけない理由は何さ!?」

「俺がクローディアを好きだからだ! 好きな奴のことは、なんでも知りたいに決まっているだろ!」

 ジョージの告白にクローディアは驚きすぎて目が点になる。彼女の反応を見て、彼も自分の口から滑り出た言葉に気付いた。しかし、訂正する気配はない。

「君が……好きだ。ずっと、ずっと前から」

 開き直るような口調だが、その瞳には熱が籠っている。肌が触れてもいないのに、彼の熱がクローディアの心臓を掴んでいた。

 一瞬、クローディアはその熱を受け入れてしまいそうになる。だが、脳裏を掠めたのはルーピンの姿だった。

 もしも、ジョージの言葉がルーピンの口から出たならば――。

「今、ルーピンのことを考えたろ?」

 冷ややかにジョージが吐き捨てた。脳内を覗かれたのかと思い、クローディアは青ざめる。

「な、なんで、そこにルーピン先生が出るさ……」

 しどろもどろになったクローディアを逃がさないようにジョージは彼女の頭を両手で掴む。

「ハロウィンの夜、君はルーピンに惚れたんだろ? 見ればわかる。君を虜に出来るのは、グレンジャーだけだと思っていたのに」

 切なげに顔を顰めるジョージはクローディアを責める目つきだ。言葉と視線で、段々と混乱して来た。

「え? 私って、ハーマイオニーに恋してるさ?」

「ルーピンに惚れてることには驚かないんだな?」

 容赦のないジョージは言葉でクローディアを追いつめる。

 ルーピンを視界に入れる度、心臓が高鳴っては身体の熱が上がっていく。見ているだけで、見つめられるだけで恥ずかしい。

 ハーマイオニーは一緒にいるだけで、心が躍る。彼女が好きな話題でお喋りしたい。同じ時間を過ごしたい。

 感じるモノは違えど、これは恋心と呼んでもよいだろう。

 不意にクローディアの脳裏で冷静な部分が働く。

「あんた、ジュリアとはどうなったさ?」

「ちょいと事情があるんだよ」

 全く動じず、ジョージの顔が近づいた。彼の唇から漏れる息遣いが、クローディアの唇に触れる。もしも、逃げようと頭を動かせば、うっかりお互いの唇が触れてしまいそうな距離だ。

「ジュリアに感謝しとけよ。アイツがいなかったら、俺は今頃、おまえを押し倒している」

(ここ、廊下さ)

 思わず浮かんだツッコミは口に出せなかった。

 ジョージの瞳が一瞬だけ、ギラギラと輝いた。その一瞬、クローディアは彼を異性として恐怖した。

 

 ジョージから解放されたクローディアは医務室を目指す。無論、頬の治療でなく、ハーマイオニーのお迎えだ。

(私、ハーマイオニーが好きで……、ルーピン先生も好き。……これって二股?)

 汽車で出会った日から、ハーマイオニーに心惹かれた。恋愛に興味がなかったのではなく、既に想う人がいただけだと認めた。何ひとつとして、疾しいことはない。

 だが、同時に違う人を好きになる心情は頂けない。ハーマイオニーとルーピンに勝手な好意を寄せてしまい、クローディアは2人に対して罪悪感を覚えてしまう。

 医務室の方角から、快活な足音が迫ってきた。相手が誰か察したクローディアの胸中が暖かくなる。

「おはよう、クローディア。迎えに来てくれたのね」

 上機嫌に微笑むハーマイオニーがより一層輝いて見える。胸の高鳴りに『恋心』と名がついただけで、世界が広がった。

「おはよう、ハーマイオニー。今日も一段と可愛いさ」

 その言葉にハーマイオニーは一段と明るくなる。

「気が付いた? ええ、自分でいうのもなんだけど、私も可愛くなったと思うわ」

「前々から、可愛いと思うさ?」

 首を傾げるクローディアにハーマイオニーは歯を見せて笑顔を作る。

 その仕草でハーマイオニーの表情に違和感に気づく。

「あれ? ハーマイオニー……なんか違うさ? あ? あ!? あ!!」

 歯並びが整っている。以前は前歯が出ていたはずだ。正確には昨日の昼食時まで前歯は出ていた。それが引っ込み、歯が矯正を受けたように揃っている。

「歯……どうしたさ?」

「うふふ。今回だけ、マルフォイに感謝しなくちゃ」

 昨日の『魔法薬学』が始まる前、ドラコ達が『汚いぞポッター』のバッチを使い、ハリーを罵った。それどころか、ハーマイオニーを懲りもせずに『穢れた血』と蔑んだ。

 遂にブチ切れたハリーは杖を取りだした。応戦したドラコから、ハーマイオニーは『歯呪い』を受けた。そのせいで前歯がビーバーにされてしまい、医務室に向かった。マダム・ポンフリーの癒術で治してもらう際、短めにしてもらったというのだ。

 ちなみにハリーの『鼻呪い』はゴイルに命中し、彼の鼻は腫物より巨大に膨れたらしい。

「パパとママは嫌がるかも、でも私、前歯がコンプレックスだったの。だから、すごく嬉しいわ。それでクローディアのその頬っぺた、どうしたの?」

 不思議そうにハーマイオニーはクローディアの頬を指先で突く。

 掻い摘んでスネイプに殴られた経緯を話す。驚いたハーマイオニーは口を押さえる。

「そんなことになっているなんて、マダム・ポンフリーに面会させてくれるように頼めばよかったわ。でも……、スネイプ先生には驚きね。何があってもクローディアだけには、手をあげないと思っていたわ」

 窺うような視線をハーマイオニーは向ける。

「スネイプ先生。よっぽど、腹に据えかねたのかしら?」

 その質問を聞き、クローディアの胸に不安が過る。言われてみれば、スネイプは口汚く相手を罵ることはあっても、暴力に訴えることはしない。

 思い返せば、殴られる前に彼女はドラコを侮辱した。彼は心を痛めた様子に思えてきた。それに関しては、クローディアは反省しない。寧ろ、ドラコを殴って置けばよかった。

(殴られずに、大人になった者はいないさ)

 某引きこもり主人公を殴った艦長の名台詞である。

 スネイプが与えた頬の痛みを無駄にせぬ為にも、クローディアも大人にならねばならない。

 そう結論を得た時。スネイプに殴り返すことは諦めた。悔しさではなく、納得の行く諦めは随分と心地よい。

 ハーマイオニーの勧めもあり、クローディアは頬の腫れを治すために医務室へ向かう。もう傷を晒しておく必要はないからだ。

 案の定、マダム・ポンフリーに早く診せに来いと叱られた。

 

☈☈☈☈

 代表選手の取材を記載した【日刊預言者新聞】が出回ると、スキーターの嘘八百の記事のせいで、ハリーは益々肩身が狭くなった。スネイプの罰則のため地下教室で、ロンと2時間も2人きりだったのに、終始黙りこくって何も進展しなかった。

 深夜1時、談話室に下りてきたハリーは手にした手紙を見つめる。昨晩、ようやく届いたシリウスからの便り、この時間で会おうという内容だ。

 如何にして談話室を訪れてくるのか思案していると、暖炉の火が不自然に燃えていることに気づく。ハリーは興味深く覗き込む。暖炉の炎にシリウスの首があった。正直に言えば、肝が潰れる程に驚いた。

「シリウスおじさん?」

「やあ、ハリー。元気かね?」

 親しげなシリウスの声を聞き、本人だと確認出来た。縋るような思いで、ハリーはこれまでの不満、不安を一気にぶちまけた。

「ロンだけは信じてくれると思ったのに……。クローディアは僕のために皆を説得してくれたらしいんだ。なら、どうしてロンは説得してくれないんだ!」

 暖炉の前で膝をついたハリーは嗚咽する。嗚咽がとまり、騒いだ心臓を押さえる為に深呼吸した。

 シリウスはハリーに心配する眼差しを向け、ゆっくりと相槌を打つ。

「ごめんね、自分の話ばっかり……」

「いいんだ。君の気持が知れて、私は嬉しいよ。君の言葉でね」

 弱音を吐くハリーをシリウスは全て受け止めた。

「ハリー、見た夢の話を聞かせてくれるか? ヴォルデモートの傍にいたのは、クィリナス=クィレルだけだったんだな?」

「うん、後、知らないお爺さんがいたけど、殺された。正直、もう、ほとんど覚えてないよ。確か、そのお爺さんがマグルだったから……、どうしよう、忘れてた!」

 急にハリーは思いつく。少し声が上擦ったので、シリウスが驚いた。

「どうした!? 重要なことか?」

「クローディアにクィレルのことを話してないんだ。クィレルが本当にヴォルデモートの下に行ってしまったなんて……どう伝えればいんだろう?」

 狼狽するハリーをシリウスは慎重に宥める。

「待ってくれ、ハリー。そのクィレルと君の友達とどういう関係があるんだ?」

 説明不足だとハリーは反省した。1年生の折、クィレルとは『賢者の石』を巡って争った。彼はアズカバンに投獄され、出所と同時に姿を消したことを話した。

「クローディアはクィレルがアズカバンにいることを知らなかった。僕もだけど……病院にいるものだと思ってた。クローディアはクィレルがホグワーツに帰ってくるのを心待ちにしていたんだ。それなのに、あいつ、ヴォルデモートのところに……」

 シリウスは呻いた後、頷く。

「その頃、入れられた男が確かにいた。私の房から離れていたから、顔は知らない。そうか、そういう事情か……。折を見て、友達に話すといい。その子はカルカロフとクラウチJrが『死喰い人』であったことを調べ上げている。頼りにしていい」

「頼りとか、そういう意味じゃない。彼女、絶対傷つくよ。自分のせいでヴォルデモートが復活するんじゃないかって……」

 悲しげに眉を寄せて、シリウスに縋るように話すハリーは危うく暖炉の火に手を入れるところであった。

 シリウスはハリーを諌めてから、言葉を足す。

「言葉が足りなかった。その子……クローディアは、既に覚悟を決めているという意味だ。そうだ、まだ君達は犯人探しをしているのか?」

「……探し出すより、警戒してる。ベッロが夜に見回って異常がないか調べてくれるんだ。カルカロフだけじゃない、他の学校の生徒にもクルックシャクスが注意して、危険と思う奴を教えてくれる」

 ゆっくりと話すハリーに、シリウスは満足げに頷いた。

「それでいい。下手に犯人を見つけても、殺されるだけだ。そうだ。最近の新聞、君の記事以外の箇所を読んだかい?」

 読んでいない。読む気も起きない。

「魔法省は行方不明の職員バーサ=ジョーキンズの捜索に乗り出した。私としては、もっと早くても良かったが、これでヴォルデモートが関与していないかハッキリできる」

「でも、バクマンさんはそれ程、重要じゃないって」

 厳しい目つきでシリウスはハリーの言葉を遮る。

「バーサが姿を消したのは、アルバニアだ。ヴォルデモートが最後にそこにいたという噂があるところだぞ。はっきり言うが、バーサ如きではヴォルデモートに太刀打ちはおろか、ベラベラと情報を与えかねない」

 階段を下りる音がハリーとシリウスの耳に届く。

「すまん、君以外に見られんようにとの約束なんだ。友達を大切にな」

 炎からシリウスの顔が消え去った。気兼ねなく、自分の不安を打ち明けられる相手がいなくなり、ハリーは淋しさで眉を寄せる。

 しかも、寝間着姿のロンが邪魔をした。

「誰かいるのか? ハリー、誰と話していたんだ?」

「何の事?」

 剣呑な態度でハリーは冷たく返す。何か言いかけたロンは躊躇いながら口を閉じる。

「どうせ、ベッロと秘密のお喋りでもしてたんだろ」

 そんなことをしていないと言いたいが、ロンは信じてくれない。

 憤りが蘇ったハリーは何も答えず、ロンの横を通り過ぎた。

 

☈☈☈☈

 談話室で【日刊預言者新聞】を黙読し、クローディアは呆れ果てた内容にため息すら出ない。

「ハリーが両親を思って泣くとか、失礼極まりないさ」

 暖炉の火を眺めるルーナがベッロを撫でながら、夢見心地な声でクローディアを振り返る。

「4人の代表選手の記事なのに、ハリー=ポッターのことしか書いてないよ。パパなら、ちゃんと平等に記事に載せるよ。こんな記事、私、よくないもン」

 ルーナはクローディアから新聞を奪い取り、暖炉の火に投げ込む。彼女にしては、過激の態度に驚かされ、口笛を一吹きする。口笛にベッロが周囲を見渡す。

「【ザ・クィブラー】なら、幅広い読者の皆様の意見を取り入れるってわけさ?」

 両手を広げて絨毯に腰かけるクローディアに、ルーナは感心して何度も頷く。

「その通りだよ! クローディア、すごいね。よくわかったね。私、コリン=クリービーに写真を用意させる。クローディアも頼んでくれる?」

「クリービーなら、協力してくれるさ。取材も彼に任せるさ。アイツ、人懐っこい顔してるから、警戒はされないさ。ハリーは……、本人から了解を得て、前に話していたことを載せてもらうさ」

 喜ぶ勇んだルーナはクローディアにしがみついた拍子に、その二の腕が首に直撃した。

 選手達の独占取材と写真撮影を託され、コリンは快く協力を承諾してくれた。

 案の定、ハリーはコリンから逃げたが、セドリック、ビクトール、フラーからの取材を成功させた。

 

 バスケ部の部活中、代表選手・取材記事を記載した【ザ・クィブラー】がルーナに届けられた。コリンにも一部渡し、自分が撮影した写真が雑誌に載るという興奮で踊りだした。早速、デニスや他の1年生と読み始めた。

 クローディアもルーナから一部貰い、目を通す。

【三校対抗試合に起きた異例の事態 4人目は何者かの策略か?

 ボーバトン魔法学校代表選手・フラー=デラクール(17)

 ヴィーラの美貌を己のモノにした魔女、まだ十代とは思えぬ魅力は、まさに非の打ち所がない。代表選手に選抜されたことを誇りに思い、全力を尽くすと述べている。

 ダームストラング専門学校代表・ビクトール=クラム(18)

 先日のワールドカップにおいて、ブルガリアチーム・シーカーを務めた強者。選ばれるなら自分しかないと確信していた分、驚いてはいない。必ず期待に答えると明言している。

 ホグワーツ魔法学校代表・セドリック=ディゴリー(17)

 寮クィディッチチーム・シーカーであり、キャプテンを務めながら監督生。緊張はしているものの、選ばれたからには、全力で挑戦すると意気込んでいる。

 もう1人のホグワーツ魔法学校代表・ハリー=ポッター(14)

 魔法省特別功労賞を授与された『生き残った男の子』。今回の選抜に関し、本人は立候補していないにも関わらず選ばれてしまったと証言。

 この事態に、『国際魔法協力部』バーテミウス=クラウチは、選ばれた時点で強力な制約魔法にかかっている。原因はなんであれ、ポッターは引き下がれないと述べている。『魔法ゲーム・スポーツ部』ルード=バグマンは高名なハリー=ポッターならば、参加に不足はないと判断している】

 4人の個別に撮った写真がそれぞれ一面を飾り、文面も均等に分けられている。最後のクラウチとバグマンの証言は二面だったが、十分と判断する。

「このデラクールの紹介すごいさ」

「あたしが考えたの。男子がヴィーラに違いないっていうし、あたしもあの人はヴィーラの混血だと思うよ」

 ルーナがそこまで断言すると、信じたくなる。

「これおもしろい、良いなあ。僕にも頂戴!」

 ナイジェルに急かされ、ルーナが一部渡した。

「まあ、いいと思うわ」

 ハーマイオニーにも一部渡し、内容を確認してもらう。彼女はスキーターの記事よりマシという反応見せただけで、【ザ・クィブラー】の雑誌そのものには怪訝した。

「私も両親に送りたいわ」

 ダフネが要求してきた時、ハーマイオニーは驚いて雑誌を落としかけた。

 ルーナはセドリック、フラー、ビクトールに雑誌を配る。3人は【日刊預言者新聞】より、選手の情報が明確に記されていることを喜んでいた。そこから【ザ・クィブラー】の話が広がり、少数だが他の生徒も欲しがった。

 クローディアからハリーに渡そうしたが、記事は勘弁と受け取ろうともしなかった。

「それよりも、シリウスから手紙が来たよ! シリウスは公式に『動物もどき』になったんだ。登録の審査とか調査を受けたりしていたから、忙しかっただけなんだ!」

「ちっ、おめでとうさ」

 満面の笑みで舌打ちしたクローディアに、ハリーは何のツッコミも入れなかった。

 多くの人が雑誌を欲しがり、ルーナは喜んでいた。これだけの部数が読まれるのは、シリウスの特集を載せた以来らしい。

「マダム・マクシームがこの雑誌をおもしろいとよ!」

 それが誇りとハグリッドはルーナを褒めていた。

 クローディアがドリスに【ザ・クィブラー】を送ったところ、ルーナに定期購読を申し込んできた。これも彼女を非常に喜ばせた。

 

 第一の課題の日が迫る。

 課題の内容はわからない。ハリーとロンの諍いは終わらない。クローディアは自覚してしまった分ルーピンと顔を合わせられない。ハーマイオニーは課題の役に立つ文献はないかと図書館の本を漁ろうとするが、何故かビクトールが通い詰めている為、ファンクラブの女子どもが騒がしくて集中できない。

 ないこと尽くめだ。

 故に、『ホグズミード村』行きは最高の息抜きだ。

 ハーマイオニーはロンを誘って、ハリーとの仲を取り持とうとした。

 頑固なハリーはそれを嫌がり断った。更に注目されたくないという理由で『透明マント』を被り、ベッロと共に『ホグズミード村』に行ってしまった。

 雪道を歩き、クローディアはハリーの行動に呆れ返る。

「1人でウロウロして、どうするさ?」

「ベッロなら蛇語で話すでしょ? 大声をあげても周囲にわからないと思ったんじゃないかしら?」

 不満そうにハーマイオニーは口を曲げ、頬を膨らませる。

 数少ない娯楽を満喫する為、大勢の生徒が雪道を歩く。ボーバトンとダームスラングの生徒の姿もあった。村に入る手前で、ベッロが雪道を行進している。蛇の周辺には、誰の姿もないのに雪に足跡がついていた。

 クローディアがベッロに声をかける寸前、息を切らしたネビルがやってきた。

「ハーマイオニー、クローディア。ハリー、見なかった?」

「見てないわ」「見てないさ」

 周囲を見渡したネビルは小さく頷き呼吸を整える。

「じゃあ、ハリーを見かけたら伝言してくれる? ディーンからなんだけど、ディーンはパーバティから聞いて、パーバティはシェーマスから聞いたんだ。ハグリッドが呼んでる。城に戻る前に、小屋に寄って欲しいんだって」

 クローディアはベッロを一瞥する。赤い瞳がこちらを見ているので、ハリーも気づいている。

「わかったさ。シェーマスから、パーバティに、ディーンでネビルさ」

「そこは重要じゃないと思うよ。じゃあね」

 微笑んだネビルは小走りに村へと入っていく。

「ネビル、元気そうさ」

「ムーディが本をくれたらしいわ【地中海の水生魔法植物とその特性】、気に入ったのね。ずっと読んでるもの」

 ベッロは既に村へと入っていた。おそらく、ハリーはネビルの伝言を聞いたのだ。

 

 『ハニーデュークス菓子店』には、大勢の生徒で混み合っている。クリスマスに向けた新作お菓子、最後のひとつを手に入れたクローディアは息苦しさに店から出た。店の前で今にも入ろうとするルーピンと鉢合わせした。

「やあ、クローディア。今回の新作お菓子は、まだあったかな?」

 いつもと何ら変わらないルーピンの顔を見ただけで、クローディアの体温は上昇し、耳まで赤くなる。

「え……えと、これが最後でした……。後は、お店の人に、聞かないと……あ!」

 お菓子を両手に持ち、ルーピンに差し出した。

「よ……良かったら、ルーピン先生、た……食べてください、お菓子」

「いいのかい? じゃあ、遠慮なく。ありがとう、クローディア」

 表情を輝かせたルーピンはお菓子の包みを受け取り、礼を述べる。

「クローディア、そこにいると出られないんだけど」

 戸口で立ち止まっていたジョージがクローディアの背中を軽く押しながら進む。

 ジョージは半眼でルーピンを一瞥し、わざとらしく考えるように口を開く。

「店は混んでるから、ここで少し待っているといいですよ。クローディアも連れはお菓子選びに時間がかかりそうなので、じゃあ、そういうことで」

 これまたわざとらしくウィンクし、ジョージはそそくさと立ち去ってしまった。

 無理やり置き去りにされたクローディアは横目でルーピンを見上げる。彼は愛想よく笑いお菓子の包みを開け、クリームチョコを頬張る。

(食べるの早!)

 クリームチョコに舌鼓を打ったルーピンはその一切れをクローディアに手渡した。

「とても甘くて美味しいよ。本当にありがとう、クローディア」

「どう、いたしまして……」

 チョコの一切れを受け取ったクローディアは、騒がしい心拍音を押さえるために、チョコを口に含む。ルーピンが隣にいる緊張感でチョコの味が全然、わからない。

(ジョージの馬鹿が、何を少女マンガみたいな展開をしてるさ)

 胸中で呟くクローディアは、無意識に自分の腕を抱きしめる。

 その仕草を寒気故と誤解したルーピンが、自分が羽織っていたローブをクローディアに被せた。突然、体を覆う暖かさに肩がビクンと跳ねた。

「寒いだろ? 私は平気だから、着ていなさい」

 体が火照って暑いくらいだ。ローブからは微かにルーピンの香りがする。いや、これは薬の香りも混ざっている。

 ルーピンを盗み見たクローディアは彼の衣服が卸したてであることに気づく。ハロウィンのときのような上等な物ではないが、普段着に適している。

「ルーピン先生、最近、恰好良いですね……その服が……」

「他校の客人の前で、みっともない恰好をするなって、マクゴナガル先生やら、シリウスやらが服をくれたんだよ。そう何着も持ってないから、授業中はいつものままだけど、私はそのほうが落ち着くよ。どうも、慣れない恰好は息苦しくて仕方ないからね」

 その中で、誰もローブを贈ろうとしない理由が知りたい。いくら中身を整えても、このツギハギローブで隠されてしまうのでは、意味がないだろう。

「……ルーピン先生は、いつもの服で十分ですよ。そうじゃないとかっこよすぎて話しかけずらいです……」

 驚いたルーピンが目を丸くするが、すぐに微笑んだ。

「そういう感想は初めてだ。いままで一番、嬉しいよ」

 女殺しな台詞だが、ルーピンは素直な感想を述べているだけだ。だから、決してクローディアに好意があるとかではない。彼の性格は理解はしているつもりだ。

 だが、クローディアは口説かれたように心臓が脈を大きくして脳が言葉を放つことに危険信号を出す。それでも口が勝手に動きだす。

「ルーピン先生! あの、私!」

「バウウウウウウウン!!」 

 唐突に横切った黒犬。 

 クローディアとルーピンの間に、悲鳴をあげる黒犬が投げ飛ばされてきた。黒犬は、2人の間を突っ切ると雪に頭を突っ込んだ状態で唸り声を上げた。

 突然の珍客にクローディアはルーピンとお互いの顔を見合う。彼はすぐに黒犬に駆け寄り、胴体を抱えながら雪から救出した。

「盛り上がっているところ、悪いね」

 聞きなれた声に振り返ると、機械的な笑みを不機嫌に変えたコンラッドがいた。その後ろには、小柄でシワシワな老人が顔を顰めていた。

「手紙が来ないから、忘れられていると思ったさ。お父さん」

 コンラッドに会えたというのに、クローディアは少しも嬉しくない。ルーピンのローブを着直し、刺々しい口調で言い放つ。それから、疲れた様子の黒犬を一瞥する。

「まさか、お父さんが投げたさ? 動物虐待さ」

「それは私じゃない。こちらの『闇払い』殿だよ」

 コンラッドの隣にいたはずの小柄の老人がおらず、代わりに肌も麗しく細身の女性がいた。色白に輝く黒い瞳に蛍光色の緑髪、目立つはずなのにクローディアは気づかなかった。『闇払い』は顔を近づけるなり、強張った笑顔で挨拶した。

「ちょっと、ルーピンと話がある。お借りしてもいいかな?」

 有無を言わせぬ迫力にクローディアはただ頷く。満足そうに微笑み、『闇払い』はルーピンの腕を掴んで無理やり歩かせた。

「もう約束の時間だったかな? クローディア、ごめんね。ローブは学校に帰ったら、返してくれ」

 困った笑顔のルーピンは黒犬を抱えたまま、引きずられていった。

 小気味よく笑うコンラッドに見下ろされる。

「いまのところ、誰を最も警戒している?」

 唐突なコンラッドの問いかけにクローディアは悪態をつく。

「客人、全員さ。最初はカルカロフやクラウチだったさ。でも、クラムは図書館に入り浸っているさ。ハリーが図書館に通いだしたのと時期が一致するさ。ペレツはいくらお祖父ちゃんの友達の曾孫さんといっても、城内に関心を持ちすぎてるさ。マダム・マクシームは、ハグリッドとよくいるところを見かけるさ」

「それだけ疑っていれば、世話ないね」

 ほくそ笑んだコンラッドにクローディアは素っ気無く鼻を鳴らす。

「疑い出したらキリがない、それはわかってるさ。失礼にあたることも……。でも、誰かがハリーを罠に嵌めたことだけは確かさ。なんで、ハリーばっかり、こういう目に遭うさ。可哀想さ」

 クローディアは本人の前でハリーを可哀想とは決して口にしない。その言葉が彼を深く落ち込ませると感じるからだ。

 胸の蟠りを抱えたクローディアを横目で見つめ、コンラッドの視線は曇り空を見上げる。

「そこまでハリー=ポッターのことを思いやるとは、予定通りか、予想外か……」

 呟いたコンラッドが嫌悪に満ちた表情で顔を顰める。

 一瞬、クローディアは怯んだ。しかし、その表情の意味はジェームズ=ポッターへの憎悪だと知っている。

「お父さんが何と言おうと、ハリーとは友達さ。ハリーのお父さんと嫌いあっていたらしいけど、私には関係ないさ。変なしがらみを押し付けないで欲しいさ」

 見据えるクローディアにコンラッドは表情を消し、機械的な笑みに変える。

「おまえは誤解している。私達のしがらみの始まりは、ジェームズ=ポッターどもではない」

 その口調はブレーズがドラコ派でないと主張した時に似ている。

「……でも、ブラックがスネイプ先生にしたことをお父さんは憎んでいるんじゃないさ?」

 疑問に答えず、コンラッドはクローディアを一瞥する。

「スタニスラフ=ペレツは問題ない。素性も確かな方だ。それ以外を警戒しておきなさい」

「クラムじゃなくて、ペレツがさ?」

 怪訝そうに見上げたクローディアをコンラッドは口元に弧を描く。

「義父さんの友人を怒らせたくないだけだよ」

 含みを感じ、クローディアが問い返そうとした。『ハニーデュークス菓子店』から、ハーマイオニーがお菓子を手に現れたのでやめた。

 コンラッドに気付いた気づいたハーマイオニーは背筋を伸ばして行儀よく微笑んだ。

 微笑み返したコンラッドはハーマイオニーへお辞儀する。

「マトモにご挨拶するのはこれが初めてですね。ハーマイオニー=グレンジャー。私は、コンラッド=クロックフォード、いつも、クローディアがお世話になっています」

「ご丁寧にありがとうございます。クローディアには、私もお世話になっております」

 礼儀正しくハーマイオニーも挨拶し、コンラッドは微笑する。

「お友達が来たから、私はこれで失礼する。それとこのローブは返しておくよ」

 クローディアの身体を纏っていたローブを剥ぎ取り、コンラッドは『三本箒』に歩いていった。

 

 混雑する『三本箒』で、クローディアとハーマイオニーは隅の席に座る。客人の中には【ザ・クィブラー】を黙読する者もいた。ルーナが知れば喜ぶ。

「クローディアのお父さんって、本当にボニフェース=アロンダイトにソックリね。でも、目の色が確かに違っていたわ。アメジストみたいに綺麗ね」

 バタービールを飲むハーマイオニーが素直な感想を述べる。

「お父さんは翻訳の仕事しているさ。寮の談話室に置いてある小説とか漫画、翻訳したのも、そうさ」

「すご~い、言語に長けてらっしゃるのね」

 そのままクローディアとハーマイオニーは他愛ない話を時間の許す限り話し続けた。

 胸の内に浮かぶ疑問が脳裏に囁いてくる。

 

 ――彼女と彼と何が違う?

 

 ハーマイオニーとなら、何時間でも会話を楽しむことが出来る。しかし、ルーピンとはほんの少しの時間さえ、極度に緊張して言葉が上手く話せない。2人への想いは嘘でも誤魔化しでもない。

 クローディアは、ただ不思議でならない。

 

☈☈☈☈

 騒がしい声が小さくなる『三本箒』の2階。

 スコッチを注いだグラスを片手に持ち、シリウスは窓辺にもたれかかるコンラッドを睨んだ。暖炉の炎を眺めルーピンは親友の態度に複雑な笑みを見せる。

 『闇払い』ニンファドーラ=トンクスは背筋を伸ばし、威厳を保とうとする。

「ハリー=ポッターへの面会はまだ許可できないわ。リーマスに会うっていうから、連れてきたのに、私から逃げてハリー=ポッターに会おうとするなんて……」

「勝手な行動はダンブルドアへの信頼を裏切る。君達2人は裏切り行為がお好みのようだね?」

 機械的な笑みで呟くコンラッドに怒り、シリウスはグラスを乱暴に床へと投げつける。その行動をトンクスは視線で咎めた。

 その後、不機嫌に唇を尖らせ、トンクスはルーピンを見やる。

「それにリーマスもリーマスだ。生徒相手にまあ良い雰囲気ですこと」

「あの子は私に親切だからね」

 呑気に答えるルーピンへトンクスは腕組みし、口中で呟く。

(向こうはかなり本気なのに、鈍感)

 鼻を鳴らしトンクスは、ルーピンから顔を背ける。

「臆病なルーピンが生徒に何もしないよ。まあ、再び、その汚らしい牙が掠りでもしたら、生まれたことを後悔させてあげよう」

 機械的に微笑んだはずが、コンラッドは侮蔑に変わる。本筋から話が逸れてしまい、ルーピンは肩を竦めて苦笑した。

「そんな話をする為に呼び出したのではないだろ? シリウス、手紙では報せられないことか?」

 シリウスは杖を振るい、割れたグラスを元に戻す。

「……リーマス。ハリー達はゴブレッドの名を入れた犯人を探している様子だ。まあ、探していないとは言っていたが……カルカロフとクラウチ氏の息子が『死喰い人』であったという情報も既に掴んでいる。先日、俺はハリーにバーサ=ジョーキンズについて話しておいた」

 やはり、ハリーは大人しくしていない。嘆息も忘れ、ルーピンは髪を掻く。

「……あのバーサか……。今回のことがヴォルデモートに露見したのは、やはり彼女が吐かされた恐れがあるか……。しかし、何も『死喰い人』のことまでハリーに伝えなくてもいいだろう。余計にハリーが不安になる」

「調べたのはクローディアだよ。やはり、君には何の相談もしていないか……」

 話に割り込んだコンラッドをシリウスは再び、睨む。

 だが、ルーピンはクローディアの行動に自然と納得する。もしも、相談してくるならば、教師として彼女達を止める。

 それをクローディアもわかっているのだ。

 ルーピンは瞼を閉じ小さく唸る。

「ダンブルドアはこの件を見守ると判断を下した。私もそれに従う」

「しかし、あなたの娘は少し深入りしすぎじゃない?」

 クローディアの身を案じ、トンクスはコンラッドへ心配そうな視線を送る。視線を受けた彼は微笑み返し、室内の3人に背を向けて窓の外を眺めた。

 窓の外には店から出ていくクローディアとハーマイオニーの姿がある。微笑ましく、2人の少女は手を繋いでいる。

「クローディアは深入りしているのではない。あの子は生まれた時から後戻りのできない渦中にいる」

 端整な顔には似つかわしくない嗤う瞳が部屋を振り返った。無邪気で残酷さが際立った表情にトンクスは寒気で背筋が粟立つ。シリウスも滅多に見ないコンラッドの瞳に、躊躇した。ルーピン1人が淋しそうに眼を伏せた。

「セブルスには、何と伝える?」

 その名にコンラッドから途端に笑みが消える。

「伝えたければ、伝えればいい。そこは君に任せようルーピン。言えやしないだろうけどね」

 冷たく吐き捨て、コンラッドはすぐに機械的な笑みを浮かべる。クローディアは自分達のしがらみを非難していた。まだ彼女には、しがらみが強い絆となることを知らない。

 だが、捨て去るべきモノも確かに存在する。

(セブルス、君がしがらみを断ち切れない限り、私も計画を変えない)

 脳裏に浮かべるスネイプはコンラッドに笑いかけなかった。

 




閲覧ありがとうございました。
ハーマイオニーは、前歯に関してだけドラコに感謝である。ルーナなら、不公平な記事は燃やしそう。誰か、ルーピンにローブ買ってあげて!

●ニンファドーラ=トンクス
 シリウスの従姉の娘。マッド‐アイも認める優秀な『闇払い』。
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