四巻の見どころのひとつ。それは誰と踊るかです!
追記:19年5月3日、誤字報告により修正しました。
12月最初の土曜日、惰眠に限る。
クローディア、パドマ、リサも例外なく寒さから身を守るために布団の中へと潜り込む。だが、カサブランカとシマフクロウが連打して窓を叩いてくれば、嫌が応でも起きなければならない。
「小包さ、後で開けるさ」
2羽へポッキーの欠片を与え、運ばれた包みを寝台の下に置こうとした。寝台の下でトグロを巻いていたベッロが包みに興味を持ち、牙と尻尾で開けてしまった。
「ベッロ、……あんたさ」
重い瞼を擦り、ベッロを包みから引き離し中身を確認する。
青と白が鮮やかに混ざり合った袖なしドレスだ。布地が軽く、細やかな刺繍に小さな硝子玉が装飾されている。しかも同じ配色の袖が2本と靴まである。
「変な服さ……? 何処で着るさ?」
ドレスを眺めるクローディアに布団から顔だけ出し、パドマが瞬きする。
「クローディアにも、届いたのね。パーティローブ。私も夕べ、実家から届いたのよ」
パーティローブ。あまり聞きなれない響きだが、用途は推測出来る。
「パーティローブ……何でさ?」
「全員起床!!」
意味不明と疑問している部屋に現れたペネロピーに3人は容赦なく、叩き起こされた。
理由は各々の寮監が講義を担当する教室に集合をかけられたからだ。レイブンクロー生が『呪文学』の教室に行けば、そこには教壇も席もない部屋になっている。心なしか普段よりも広く感じるが、それは錯覚ではなく、本当に広くなっていた。そうでなければ、レイブンクロー生が全員入りきれるはずがない。
「部室と同じ……拡張魔法ってところさ?」
確認で呟くクローディアに、リサは口元を曲げる。
「模擬試験のときも、この魔法を施して欲しいですわ」
「密集されているから、緊張感もあがるわけよ」
リサの肩に手を置いたペネロピーが首席として下級生達を指導し教室に並ばせる。整列が成された頃、フリットウィックは教室に姿を現した。
「皆さん。今年のクリスマス休暇に置かれまして、他校との親睦の為に舞踏会を行います。これは3校対抗試合の伝統でもあります。この舞踏会には4年生から参加できますが、それより下級生も上級生の招待を受ければ参加できます。この夜だけは大いに羽目を外すと良いでしょうが、品位を忘れてはなりません。よろしいですね?」
フリットウィックが杖を振るうと、教室の何処からともなく、淡くそれでいて心を弾ませる音程が流れ出す。いまからでも宴が始まりそうな雰囲気に舞踏会が迫っている緊張感が生徒に伝わる。
「尚、『楽団部』は宴の席で演奏を披露いたします。こちらは来週までに希望者を募ろうと思っていますので、『楽団部』の生徒は演奏かダンスか帰宅か、いずれかを選んでください。以上で、私からの話を終わります」
手短に説明を受けたレイブンクロー生は、そのまま解散を言い渡されて教室を後にする。我先にと小走りで突き進むのはクローディアだ。上機嫌な彼女の足は弾んでいる。その姿を見送るリサとパドマ達は興味津々に頷く。
「クローディア、もしかしてペレツのところに行くのかしら?」
「いえ、きっとハリーのところに違いありませんわ」
ルーナがリサとパドマを眺めて胸中で呟く。
(ナーグルが邪魔するかもしれない)
友人達がそんな予想をしているとは、露知らずクローディアは『変身術』の教室に直行したが、そこには誰の姿もない。少々残念がり、心当たりを探すために一先ず図書館へと向かう。
廊下を歩く女子生徒達は身を寄せ合い小声で会話している。クリスマスの宴に誰を誘うのか、もしくは誰が誘ってくれるのかを口にし、期待と不安が混ざり合う。そんな声達はクローディアを聞き流しながらも、探し相手がいないかを聞き分ける。図書館への道のりには、探し相手はいない。それもそのはず、探し相手は図書館から出てくるところだった。
心を弾ませたクローディアは手櫛で髪を梳き衣服の埃を払う。相手は気づかず、口元に手をあてて考え込む仕草をしている。
「ハーマイオニー」
極力普段どおりに声をかける。それでも緊張しているせいか、音程が狂う。クローディアの声で我に返ったハーマイオニーは目を丸くして応じる。
声をかけなければハーマイオニーはクローディアに気づかずいたかもしれない。
「考え事さ?」
「ええ、考えていたよりも、驚いていたかしら……、私も人を見る目がまだまだかも知れないなって……」
再びハーマイオニーは口元に手を添えて思考する。彼女が考え込む事柄は思い当たらないが、クローディアは舞踏会への誘い文句を脳内で作成する。臆する己に喝を入れ、腹に力を込めて口に出した。
「わ、たしと、踊りの相手として、ダンスしよう!」
用意していた文章は口の中で崩壊し、支離滅裂と化した。
だが、ハーマイオニーには十分すぎる程、伝わる。理解力と長年の付き合いが手助けしたのだ。ただ驚く彼女は、口元に当てていた手を胸元で組む。
「いま、私とダンスパーティーに行きたいって言った……のよね?」
問答ではなく、確認。
若干、心臓の鼓動が激しくなるクローディアは胸を張り、己の胸に手をあてる。
「それ以外に意味はないさ。だって、女子同士で舞踏会に参加しちゃいけないって規則はないさ」
自身に恥じる物はなく、溢れる自信を込め、クローディアは微笑む。
対するハーマイオニーは困り果てたように詫びる視線をクローディアに与える。その視線で断られるのは察しが着くが、生憎、承諾されるまで、説得するつもりだった。
「ごめん……なさい。クローディア、私、さっき申し込まれて、受けた後だったの」
説得以前に、先を越されていた。
心の弾みが消えたクローディアは微笑んでいた唇を引き締める。自分からは表情が見えない自分の代わりに、ハーマイオニーがその表情をする。
酷く悲嘆を露に歪んだ表情だった。
「クローディア、どうして私のところに来たの? 貴女と踊りたいって人なら、いるでしょう?」
純粋な疑問に、ただ素直に答える。
「ダンスの相手って聞いてさ。真っ先にハーマイオニーが浮かんださ。ただ、それだけさ。でも、遅かったさ。その相手に遅れたさ」
僅か一歩の差だが、クローディアは出遅れた。それが悔しくて堪らない。
「嬉しいわ」
溌剌としたハーマイオニーがクローディアの手を取る。
「すごく嬉しいわ。私を選んでくれるなんて、ありがとう。でも、だから、ごめんなさい」
歓喜と懺悔を口にするハーマイオニーは、おそらくクローディアが間に合っていたならば、承諾していたに違いない。その確信だけで、胸中がほんのりと暖かくなる。
「相手を聞いてもいいさ?」
確認するクローディアの耳元に、ハーマイオニーは唇を近づけて囁く。
「(クラムよ)」
告げられた名にクローディアは自身が驚く程、納得していた。
居残り名簿が生徒の名で埋め尽くされている様を見るのは、初めてのことだ。正直、クローディアはハーマイオニーに断られた時点で、学校に残る理由はなかった。ドリスが舞踏会を楽しむように手紙を送ってきたので、帰宅も出来なくなった。
部活動中も生徒の関心はダンスパーティーだと一目でわかる。ハリーがロンとボールのパスをする姿を扉から、女子生徒が覗きこんでくる。
ここぞとばかりに男子生徒は、かっこ良い自分を見せようと躍起だ。コーマックやブレーズが良い例だ。彼らがゴールにボールを入れる度、ボーバトンの女子生徒が黄色い声を上げる。
男性陣だけでなく、女性陣も同じだ。
「ねえ、ケイティは誰か誘った? 私はローレンスと行くわ」
「私はアンドリューよ」
ミムとケイティは内緒話をしているつもりだろうが、こちらには丸聞こえだ。
「ネビル=ロングボトムに誘われたの? いいなあ、ダンスパーティー」
「デルメザが思い切って誘ってみたら?」
いつも真面目に取り組んでくれるジニーもやはり、女子である。ルーナは興味がないらしく、壁に向かってボールを跳ね返して遊んでいた。
「対抗試合の為、クィディッチを取りやめる理由が今更、わかりました」
バーベッジが浮ついた生徒を見ながら、溜息をつく。
「そうですね。皆、心、此処にあらずですから」
同意したクローディアは日程表に修正を加える。お喋りに夢中になっていたアリシアのボールが手元を狂わせ、バーナードの後頭部に激突した。
「クロックフォードさんは誰とダンスを踊るのですか?」
緊張気味にデレクが問う。彼を視界に入れ、クローディアは思い付く。
「一緒に踊るさ? 私の相手は決まってないしさ」
「え? 僕が……」
デレクの表情が輝いたが、すぐに消えた。
「すみません、僕……。今年は帰らないといけないんです。去年、帰れなかったから、家族と過ごさないと」
「それは、残念さ」
本当にデレクは残念そうだった。
部室の隅で、ダフネがボーバトンの男子生徒にダンスを申し込まれていた。勿論、彼女は即答で了承した。
クローディアの周囲は順調だ。踊りの相手を誘い、誘われた。
パドマは、ジャスティン。リサは『楽団部』の演奏の為に踊りは不参加。サリーはアンソニー。セシルはボーバトンの男子生徒、マンディはエディー、マリエッタはコーマック……など、チョウは意外にもセドリックに誘われた。
ブレーズは意中のダームストラング女子生徒に誘われたようだ。
一番の話題はロジャーがフラーとの組だ。
男性陣はロジャーに歓声を上げていたが、女性陣はフラーへの妬ましさで歯噛みしていたのが、恐い。それに彼のクローディアへの求愛振りを知り尽くした面子は予想外の浮気癖に呆れる者もいた。
付き合ってもいないので、浮気も何もない。
お陰でクローディアはレイブンクロー内で同情の視線を浴びる羽目になる。当に本人は一切気にしていないので、無視した。
休暇が近くになると皆は浮き足立ち、授業への集中力が欠けていく。勤勉さを絵に描いたペネロピーも例外でなく、談話室で読書していたクローディアに喜び勇んで、踊りの相手を報せた。
「ジョージと踊ることになったわ。ほとんど、ジュリアに頼まれたようなモノだけど、私も舞踏会に参加できるのよ」
――元彼の弟が踊り相手。
頭を過ぎ去る文章をクローディアは振り払う。そんな言葉で宴を楽しみにするペネロピーに水を指したくなかった。
寮の入り口から、今度は足を弾ませたクララが談話室に駆け込んできた。
「聞いて、誘われたわ! ダームストラング生で、スタニスラフ=ペレツって人に誘われたわ!」
感心した祝福の拍手がクララへ送られる。クローディアも拍手したが、少し気分が滅入った。心の何処かにスタニスラフなら、誘うかもしれないという期待があったのだと自覚した。
「クローディアは誰とも踊らないの?」
肩に顎を乗せてきたルーナがクローディアを覗き込む。
ルーナを見つめ、不意に閃く。
「ルーナ、私と踊るさ。一緒に舞踏会に行くさ」
唐突な誘いにルーナは瞬きを繰り返し、己の耳を叩く。聞き違いでないかを確認する仕草と察する。
「あたしとクローディアが? 本当に?」
喜びを込めた口調は戸惑いを見せる。そして、小さく唸ると首を横に振る。
「休暇はパパとケサランパサランを調べる約束があるから、帰らないと行けないの。ゴメンね」
心底、ルーナは詫びる。クローディアは残念な思いを残しつつ、了解した。
「なんで、ケサランパサランを調べに行くさ?」
寧ろ、ルーナがケサランパサランを知っていることが驚きだ。彼女は項垂れるように、クローディアの首に深くもたれかかった。
「あたしはあまり興味ないんだ。でも、パパはちょっと気になるみたい。すごく楽しみにしてるよ」
「マグル側のケサランパサランの解釈でよければ、教えるさ」
途端にルーナはクローディアの首に強くしがみつき、教えを乞う。首が絞まる息苦しさに耐え、ルーナにケサランパサランについて、話して聞かせた。
本格的に行きたい相手がいない。
『魔法薬学』の授業中だというのに、クローディアは怠慢さが抜けない。初歩的な解毒剤の生成を終えてスネイプに提出終え、鍋や試験管を片付けながら深く溜息をつく。
溜息を耳聡く聞き取ったスネイプが、睨みを効かせてクローディアの席へと足を運んだ。
「ミス・クロックフォード。自分の提出物が済んでいるからといって、気を緩めるのは感心しませんな。今だ調合を終えぬ者に、失礼とは思わぬか?」
秤皿を布で拭き続けるクローディアは胸中を満たす陰鬱さでスネイプに怯む余裕すら失っている。だが、パドマは彼女がわざと無視していると思い、気が気でない。周囲も緊張を強くし、冷や汗を書き出した。
クローディアは何気なくスネイプを見上げた。無気力だが、その言葉は教室に響く。
「スネイプ先生、一緒にダンスパーティーに行ってくれませんか?」
途端に教室は瓶、鍋、試験管が机から転げ降りる音で騒々しくなった。
沸騰した湯を入れた鍋がひっくり返ったアーミーは、ズボンにかかってしまい思わず悲鳴を上げた。すぐに、ジャスティンが杖を振って水をぶっ掛けたが、集中を欠いたせいで彼は全身濡れ鼠と化した。
ハンナは鍋が小指に直撃したため、耐えがたい痛みで悶絶した。悶えるハンナがスーザンに助けを求め、もたれかかったので体勢の均衡を崩し、椅子から落ちそうになる。
その反動でエロイーズの鍋がひっくり返った。鍋の中身を避けようとしたザカリアスは、後ろの席のアンソニーの顔面に拳をぶつけた。痛みに顔を撫でようとした彼は視界が悪くなって鍋を倒してしまった。モラグが咄嗟に鍋を掴んだが、無謀すぎる。案の定、熱さで悲鳴を上げた。
阿鼻叫喚の教室を見渡し、スネイプは眉と唇を痙攣させる。目くじらを立ててまで怒ることかと、クローディアは呆れながらも、少し怯んだ。
「レイブンクロー5点減点! 更に、ミス・クロックフォードは、夕食後に罰則を言い渡す!」
怒鳴りつけられたクローディアは臆しつつも流石に苛立ちが募る。出来るだけ余裕を含んだ笑みを浮かべ、スネイプを見上げた。
「罰則は分かりましたが、踊りの相手は務めてくださらないのですか?」
飄々と言ってのけるクローディアに、スネイプ以外の人間は、戦慄が走る。スネイプは拳を強く握り締め、無理やり笑みを作り、口を開く。
「ミス・クロックフォードは、君は頭を冷やさなければならないようだ。今宵の罰則は取りやめ、『上級魔法薬』を書き取りたまえ。月曜の朝までだ。出来なければ、レイブンクローは50点失うことになるぞ! よいな!」
理不尽すぎる決定に、クローディアは承諾する意思を見せない。終業の鐘が鳴り終わるまでスネイプと睨み合った。
『古代ルーン文字学』を終えたクローディアは、リサとマンディから散々責められ続けた。興味半分、警告半分だ。
「よりにもよって、スネイプ先生をお誘いするだなんて、どうかしています。いくら、ロジャー=ディビーズに誘われなかったからといっても、自棄を起こしてはいけませんわ」
「そうよ。ホグワーツをよく見て! 男子なんて腐るほど、いるわ」
マンディが両手を開き、男子生徒の存在を教え込もうとする。面倒そうに周囲を見ながら、クローディアは鼻で笑う。
「今日まで、誰も私を誘ってないさ」
「なんと!」
余程、意外だったのかマンディは素っ頓狂な声を上げた。
「私も『楽団部』で演奏したいさ。いまからでも、ダメさ? リコーダーなら、きっと大丈夫さ」
適当に言い捨てるクローディアに、リサは『楽団部』が侮辱されたと受け取った。頬を膨らませて睨む。
「いいえ! クローディア、その発言はよろしくありません! 我が部は栄えある舞踏会に自らの誇りを賭けて演奏いたします! 踊る相手がいないから、なんて失礼極まりますわ!」
烈火の如く叱責するリサは、完全に頭に血が昇っている。滅多に怒らぬ彼女の剣幕に、クローディアとマンディは驚いた。
失言を認めたクローディアは、両手を合わせて深く頭を下げる。
「ごめんなさいさ。いまのは私が全面的に悪いさ。反省しました」
頭の一部を冷静にしているリサは、クローディアが心底謝罪していると察した。
「まだ許しきれませんが、貴女の誠意に免じて友情は続けますわ。クローディア、先生をお誘いしたいのでしたら、せめてルーピン先生になさったらいかがです? そのほうが私も安心できます」
突然、リサが口にした名に、クローディアの身体の奥が熱くなる。その選択肢だけは意識していなかった。本気で考えていなかったか、わざと考えることを避けていたのはわからない。
「それは名案だわ! 同じ先生でも、ルーピン先生がいい! 誘ってごらんよ」
明るい声でマンディは、リサの提案に乗った。乗っただけで、他意はない。
「いや、でも……」
口ごもるクローディアの姿に、リサは意地悪だが親しみのこもった笑みで胸を張る。
「最後の授業は『闇の魔術への防衛術』ですから、ちょうどよいですわ」
リサなりの最大の提案か、それともクローディアの心情を理解した上での後押しか、聞くに聞けない。反応に困り果てたクローディアは、複雑な笑みで頭を掻く。
「ぜ……善処します」
精一杯の答えに、リサは愉快げに微笑んでクローディアの脇を肘で小突いた。
学期最後の日、ホグワーツ城は最高のクリスマス装飾に彩られていた。階段の手摺りに、触れても冷たくない本物の氷柱がブラさがり、廊下の鎧兜は通行人に反応し賛美歌を口ずさんだ。大広間は、12本のクリスマスツリーに、これまた見事な飾りつけが施されていた。中でも、金色に輝くフクロウは、作り物ではなく本物であり、興奮した下級生は記念にと羽をもぎ取ろうとする者まで現れた。
時間は瞬く間に過ぎ、終業の鐘が鳴り響く。羽根ペンを動かしていたクローディアは、これからなすべきことを考え緊張して呻く。
教科書を閉じたルーピンは、黒板に文字を書き込んでいく。
「はい、今学期はこれでお終い。待ちに待った休暇だ。休暇を堪能できるように、たくさん課題を出しておくから、張り切ってくれ」
黒板には『水中生物・人魚と遭遇した場合の対抗策』と書かれていたので、教室の誰もが宿題の範囲と理解できた。半魚人嫌いのモラグが思わず「ゲッ」と鳴いた。
皆が早々に教室を出て行く中、クローディアは手間取るフリをしながら、鞄に筆記用具を詰め込む。リサとパドマは彼女にウィンクし、そそくさと教室を去っていく。テリーがルーピンにゾンビ退治の質問をしたので、何度も鞄の中を確かめるフリを繰り返す。
十分経ち、質問に満足したテリーがルーピンに礼を述べて教室を出ようとした。しかし、まだ鞄に教科書を詰めるクローディアに気づき、疑問する。
「おまえ、何してんの?」
「こっちが知りたいさ」
ぶっきらぼうに言い捨てるクローディアに、テリーは追求しなかった。
教室には鞄を抱えたクローディアと教材を片付けるルーピンの2人だけとなる。緊張して、心臓が速く脈打ち、下半身に余分な力が入ってしまう。
背を向けるルーピンに慎重な足取りで歩みより、覚悟を決めて腹に力を入れて吐き出した。
「ルーピン先生! わ、私とダンスパティいたい!」
噛んだ。
声をかけられたルーピンは愛想笑いのまま瞬きを繰り返す。彼の理解不能と言わんばかりの反応にクローディアは羞恥が全身を駆け巡り、顔面の熱が上昇する。
「ごめんね、クローディア。もう一度、言ってもらえるかな?」
顔を近づけてくるルーピンにクローディアは冷静さを得るために生唾を飲み込んだ。
「わ、私と踊ってくれませんか? 舞踏会の!」
今度こそ、ルーピンは鳩が豆鉄砲を食らった表情になった。
「その為に、君はずっと待っていてくれたんだね。でも、ごめんね。教職員は生徒が羽目を外し過ぎないように、監督しないといけないんだ」
詫びるような視線でルーピンは優しく告げる。それが返ってクローディアを情けなくした。断られる事がわかりきっていたから、最初から誘わなかったのではないかと自問しだす。
何故だが、クローディアは情けない己に腹が立ち、毅然とルーピンを見上げた。
「ルーピン先生。正直に言いますと、先生は最後の手段なんです。ルーピン先生に断られたら、私、舞踏会の間は、部屋でシクシク泣くしかないんです。私にそんな惨めな思いをさせるつもりですか?」
強気で迫るクローディアに、ルーピンはたじろぐ。
「……クローディア? 私は君と行きたくないんじゃなくて、行けない」
「私と踊りながらでも、監督はできます。生徒同士だけという規則はありません」
もう一押しとクローディアはルーピンの腕に手を添えて、上目遣いで瞬きする。以前読んだ少女マンガでこうして男子に媚びる女子の話があった。それをこの身で体現する日が来るなど、まさに不思議だ。
一瞬、目を泳がせたルーピンは小さく微笑み口を開こうとした。
――バンッ!
唐突に教室の扉が乱暴にノックされ、クローディアとルーピンは振り返る。扉に拳を叩きつけたスネイプが目を細めて2人を睨んでいる。
「ルーピン、話がある。ミス・クロックフォード、外したまえ」
冷徹に命じるスネイプをクローディアは臆せず、ルーピンの腕を掴んだまま、睨み返した。
「お言葉ですが、ルーピン先生には私が先に話しかけたんです。スネイプ先生こそ、後にしてください」
反論されたスネイプは、わざとらしく溜息をつき床に足音を響かせてクローディアに迫る。彼女は、ルーピンの前に立ちスネイプを迎えた。
「君には我輩が与えた罰則があるはずだ。寮に戻って励んでいたまえ」
「それでしたら、既に書き終えています。夕食後にお届けに参りますので、ご心配なくスネイプ先生」
嫌味を込めたクローディアが挑戦的に語尾を強くする。眉間のシワを深くしたスネイプが口を開く寸前、ルーピンがその口を手で塞ぐ。
「セブルス、ちょっと待った。クローディア、外してくれるかな?」
反論しようとしたクローディアは、微かに懇願する視線を送るルーピンに、仕方なく頷く。
「それと、やはり私は駄目だから諦めて欲しい」
スネイプが介入したせいで不機嫌になっていたクローディアは、更に気分が憂鬱になった。
☈☈☈☈
肩を落として教室を出たクローディアを見送り、ルーピンはスネイプの口から手を外す。スネイプが手を振るうと、教室の扉が閉められた。
「『脱狼薬』は、明日からの服用だ。貴様にも宴に顔を出してもらわんと面子が立たない。リータ=スキーターなる記者が変に勘繰るかもしれん。いろいろ口実を作っては、城の敷地に入ろうとする。全く、けしからんな」
適当に話すスネイプにルーピンは微笑んで肩を竦める。
「そのこと、クローディアの後でも良かったんじゃないかな?」
皮肉を込めた口調に、スネイプの眉が痙攣する。
「ルーピン、ハッキリ申し上げておきましょう。ミス・クロックフォードに貴様の汚らしい牙が掠りでもすれば、生まれたことを後悔させてくれる」
脅迫する断言。
生真面目に睨んでくるスネイプを目にし、ルーピンは堪らず噴出す。そして、腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハハハハハ! 笑い事じゃない……でも、ハハハハハハハハ!」
床に座り込んでも笑い続けるルーピンは、笑いすぎて呼吸困難で咳き込んだ。ルーピンの様子を冷めた目で傍観したスネイプは、笑いが治まるまで待ち続けた。
ひとしきり笑い終えたルーピンは、息苦しいがそれでも満面の笑みでスネイプに向き直る。
「こんなに笑ったのは、何年振りだろう。いや、もしかしたら、初めてかもしれないよ」
余韻で少し笑うルーピンに、スネイプは冷ややかな視線で返す。
「一体、何がおかしかったのでしょうな?」
「コンラッドと同じことを言われたからだよ。君達は根が深いところで通じ合っているみたいだ」
予想外の名にスネイプは一瞬、動揺する。狼狽する姿をルーピンに去らぬように咳払いして平静を保つ。
「我輩からの話は以上だ。くだらん憶測をしている暇があれば、身なりを整える用意でもしていたまえ!」
乱暴に顔を背けたスネイプは扉が閉じていることも忘れ、出口に突進する。ルーピンは警告もせずに見守っていると案の定、彼は顔面を扉に思い切りぶつけた。
☈☈☈☈
流石に立て続けに振られるのは、キツい。
壮大に溜息をつくクローディアは寮に戻らず、夕食の為に大広間へ直行した。玄関ホールには他校の生徒も混ざり、多くの人がいた。廊下の隅ではボーバトンの男子生徒がハンナに踊りの相手を申し込んでいた。
「僕と!! 一緒にダンスを踊ってください!!!」
玄関ホールを突き抜ける叫び声に聞き覚えがあり、クローディアは振り返る。
顔面を耳まで赤くしたロンがフラーに向かい、手を差し出していた。周囲にいる生徒の誰もが、2人を遠巻きに眺める。フラーはロンを怪訝な視線を返すだけで口さえ開かない。
段々、ロンは瞬きし小さく呻いてから、その場を一目散に走り去った。一連の出来事がなかったようにフラーは玄関ホールの外へ歩き出した。
その態度にクローディアは怒りが湧き起こる。フラーが既にロジャーと組んでいることは知っているが、断るにしても必死で申し込んだロンに対し、酷すぎる。
知らずとクローディアの足はフラーを追いかけ、追い越していた。眼前に現れた不審者にも、選手たる威厳は損なわれない。
「フラー=デラクール。いまの態度は何さ? いまの男子生徒は、孔雀の恰好で屋上から飛び降りる気持ちで、あんたに申し込んだのに返事すらしないなんて、無礼にも程があるさ」
鼻を鳴らしたフラーは自慢の髪を撫で、尊大な態度でクローディアを値踏みする。
「あな~たに関係あ~りません。今の子が可哀想なら、あなたが~踊ればよろしい。あなたなら、とても~お似合い~ですよ」
せせら笑うフラーをクローディアは敵意を込めて睨む。
「可哀想の意味をご存知さ? その身を持って教えてあげるさ。言っとくけど、私は取っ組み合いであんたに負ける要素は、ひとつもないさ。ご自慢の魅惑の術も、女の私には無力さ」
皮肉を込めたクローディアは嫌味に微笑む。そして、両腕の力を抜き、足を肩まで開いて姿勢を保つ。小うるさい蝿を見る目つきでフラーは、懐から杖を取り出そうとした。
「「は~い♪『カナリア・クリーム』は、いかが?」」
呑気な声でクローディアとフラーの間に割って入ったのは、シュークリームの乗せた皿を両手に持つフレッドとジョージであった。
双子の登場にクローディアは視線で去るように訴えたが、フラーは毒気を抜かれて魅力的な笑みを振りまきだした。
「おいとつ、いただきま~す」
フレッドの皿からひとつシュークリームを摘んだフラーは、クローディアを一瞥し気取った足取りで家馬車へと帰っていく。追いかけようとした彼女の腕をジョージが無理やり掴んで引き止めた。
フラーが完全に見えなくなってから、ジョージはクローディアを離した。
「まあまあ、クローディア。ひとつあげるから、カリカリするなって、な?」
クローディアの口に、ジョージは無理やりシュークリームを突っ込もうとしたので避ける。
「クロックフォードも短気だな。相手は代表選手だぞ? 学年も上だし、君が知らない呪文もあるだろう?」
呆れたフレッドにクローディアは両腕を組み、悠然と答えた。
「殴り合えば、絶対負けないさ。杖を構えるより先に、討てばいんだからさ」
「「そうだね、君はそういう子だったね」」
おおげさに震える双子は、口元が笑っていた。
「それでさ、ジョージはペネロピーと行くと聞いたさ。フレッドはさ?」
「僕はアンジェリーナと行くぜ。そっちは?」
陽気なフレッドにクローディアは空振りを教える為に大きく肩を竦める。フレッドが可笑しそうにケラケラと笑い返した。
「それよりも、味見してくれよ。新作なんだ」
ジョージがシュークリームを押し付けてくるので、クローディアは夕食も忘れて逃げ出す。
レイブンクロー寮へ降りる階段に向かう曲がり角にハリーがいた。クローディアは彼と正面衝突、する前に彼女は一歩下がって踏みとどまった。危機一髪だ。
クローディアに気付いたハリーが振り返る。無気力に彼は挨拶してきた。
「やあ、クローディア」
突然、ハリーはクローディアを目にして気づく。
おそらく、いままでほとんど意識していなかった。クローディアは女子生徒だ。いまを逃せば、彼女は寮に帰ってしまう。ハリーは前置きもなく問いかける。
「クローディア、僕とダンスパーティー行かない?」
――刹那の沈黙。
2人の胸中は実に奇妙であった。男子生徒のハリーが女子生徒であるクローディアに舞踏会の相手として申し込んでいる。当然のことが何故、いままで気づけずにいたのか、不思議すぎる。
それでもクローディアは冷静に思考する。
「ハリー、本当に踊りたい相手はいないさ? ちなみに私は全員、撃沈さ」
確認の意味だと察したハリーは気恥ずかしいが素直に答える。自分を振ったチョウの名は伏せた。
「いたけど、振られたんだ。もう、相手が決まっていた」
少なくとも、クローディアが取り残されるのが、可哀想で声をかけたのでない。納得した彼女は親指を立て、快活に笑う。
「わかったさ。一緒に行くさ」
「ありがとう」
安堵の息をつくハリーは力なく、微笑んだ。
ハーマイオニーの報告する為、ハリーに招かれてグリフィンドールの談話室に入る。クローディアは激しく落ち込むロンを目にする。血の気のない顔色で談話室の隅に座り、ジニーが必死だが優しく慰めている。
驚いたハリーがロンへと駆け寄り、事情を聞く。
その間、ハーマイオニーが談話室に入り、ロンの様子に驚いた。
「クローディア、ロンはどうしたの?」
「フラー=デラクールに振られて落ち込んでいるところさ」
気の毒そうな視線をハーマイオニーはロンに向ける。彼はハリーにブツブツと経を唱えるように泣き言を繰り返していた。
不意にハーマイオニーは躊躇いながらクローディアに尋ねる。
「(クローディアの相手は見つかったの?)」
「(ハリーさ)」
親指でハリーを指し、クローディアは報告する。ハーマイオニーは肩を跳ねて驚く。
「(もしかして、最後の手段なのかしら?)」
「(まあ、そんなところさ)」
それまでの経緯を説明しづらいので、クローディアは結果だけを教える。呆れた表情でハーマイオニーは、ハリーとロンを眺める。常日頃から傍にいるため、お互いが男女であることを忘れる。
理解はできるが、納得し難い男子の心情にハーマイオニーは苛立つ。
ハーマイオニーを宥めようとしたクローディアは急に異質な視線を感じた。
談話室にはクローディアとハーマイオニー、隅にハリーとロン、ジニー、男子寮と女子寮から何人か生徒が出入りしている。彼らからの視線ではない。壁にかけられた絵を見渡す。絵の住人はチェスやバックギャモンに興じている。
(この視線は何処からさ? 敵意はないけど、……なんだろうさ? すごくムカつくさ。いますぐ殴りかかりたい気分さ)
首を傾げるクローディアは暖炉の火花が飛び散る音を耳にする。暖炉の薪が足りなくなったのかと、何気なく近寄り、炎を眺めた。炎は何の問題もなく燃え続け、談話室を暖める。
――はずの炎に、シリウスの顔が浮かんでいた。
「ぎゃああ!!」
動揺したクローディアは防衛本能で杖を炎に向けて水を放った。まともに水を食らった炎から微かな悲鳴が上がり、細い煙をと共に鎮火した。それを見ていたハーマイオニーは慌てた。
「何してるのよ! 寒いじゃない!」
「ふ、不審火が、火が……」
驚きすぎたクローディアの杖を持つ手が小刻みに震える。動悸が激しく脈打ち、この寒気の中を嫌な汗が身体を濡らす。挙動不審な態度にハーマイオニーは返答に困る。
「暖炉なんだから、火があるのは当たり前よ」
必死で宥めるハーマイオニーの手を掴み、クローディアは低い声で訴える。
「……だって、火に顔が……、不審火が!」
慄くクローディアの言葉を聞くとはなしに聞いていたハリーは、勢いよく振り返る。ロンをジニーに任せて暖炉へ駆け寄り、湿った薪を注意深く確認した。
「な、何もいないよ。クローディア、きっと、ピーブズの悪戯か何かだよ。そうだろ? ハーマイオニー?」
「そうね、『煙突飛行術粉』を使って……、でも、寮の暖炉でそんなことできるものかしら?」
脳内の情報から検索するハーマイオニーを何故か、ハリーが思考停止させようと振舞いだす。
「ハーマイオニー、それよりもロンの踊りの相手を探すことが先だと思うんだ。誰か心当たりないかな? クローディアも君の友達に当たってみてくれない?」
クローディアとハーマイオニーをハリーは無理やり暖炉から連れ出し、彼は変に緊張し声が上擦っている。
怪訝な顔つきになるクローディアはハリーの腕を振りほどく。
「私、今夜はここで寝るさ。絶対、あの炎はおかしいさ。不審火さ」
この提案に、ハリーの顔色が見る見る青ざめる。
「正体を突き止めるまで、起きてるさ!」
断言したクローディアは『呼び寄せ呪文』で寝巻きとベッロを取り寄せ、談話室の隅を占領する。ハーマイオニーは馬鹿げた行動だと呟く。
それでも、クローディアに付き合うと決めた。自室から宿題を運び込んだ。
2人の説得をハリーは諦めた。偶々談話室に戻ってきたパーバティを掴まえ、ロンの踊りの相手を頼んだ。
☈☈☈☈
夜遅くまで騒ぎ賑わう生徒も眠気には、勝てない。
クローディアとハーマイオニーも同じ、日付が変わるまで粘り続けた。それでも、瞼の重さに勝てず意識を手放すのは当然のことだ。
談話室から人の声がなくなった頃、寝巻き姿のハリーが忍び寄る。ソファーで身を寄せ合い寝息を立てる彼女達を確認し、暖炉へと歩み寄る。暖炉の炎は水を浴びたせいで湿気たため、火力が弱い。
それでも、ハリーは炎に声をかける。
「(シリウス、見てる?)」
ハリーの微かな声に応え、炎の中にシリウスの顔が浮き出てくる。己の確信にハリーは、心を躍らせて拳を強く握る。
「(夕食のときもいたよね? 何してたの?)」
「(すまない、ハリー。そろそろ休暇の時期だし、年が終わる前に君の顔を見ておきたかったんだ。まさか、水をかけられるとは、おかげでずぶ濡れだ)」
小さく笑うシリウスを目にし、ハリーは先ほどのクローディアの行動が彼を怒らせなかったことに安心する。
「(昨日、私の元に届いた手紙に、舞踏会に出席しなればならないとあったが、相手は見つかったか?君のことだ。さぞ、いろんな女の子から誘われたろ?)」
親しみの意地悪な笑みに、ハリーは思わず噴出して笑う。
「(誘われはしたけど、その……行きたい相手がいたんだ……。でも、その子はダメだった。それで……その……えと……結局……、クローディアと行くことになったんだ)」
何故だが、シリウスに伝えることが後ろ髪を引かれる気分になり、ハリーの声が段々と小さくなる。
シリウスは相手の名に、目玉が飛び出んばかりに見開き絶句する。
「正気か? いや、失礼。だが、彼女はクロックフォードの身内だぞ? 君の友達だとは、私も理解しているが、もしも、いいか、もしも恋人にでもなってみろ。あの男のことだ。君のことは、ただじゃおかないぞ」
多少の嫌悪が含まれた口調に、ハリーは叱責を受けた気分になり、項垂れる。シリウスの言葉通り、コンラッドはスネイプ同様、ハリーを憎んでいるのだ。2人は学友で、シリウス達とは犬猿の仲だ。
その構図を脳裏に浮かべたとき、強い疑問も浮かんできた。何故、スネイプはクローディアを憎んでいるのか、いまでも、その態度が変わらないのかということだ。
「ねえ、シリウス。話が変わるんだけど、コンラッドさんとスネイプは本当に友達だったの?」
唐突な質問の内容にシリウスは顔を顰め、回想するのも煩わしいという表情で頷く。
「そうだ。奴らは常に一緒だった。クロックフォードは血の気が多い男でな。俺は、いつも殴られていた。一度、叩きのめしてやろうとしたが、返り討ちにあって半殺しにされたこともあったな」
最悪の失態とシリウスは炎の中で頭を振る。
「だが、私達が卒業した……少し後だったか、奴の母親が……!!??」
突如、言葉を区切るシリウスにハリーは問いかけようとした。
「アグアメンティ(水よ)」
ハリーの背後から、バケツ一杯分の水が暖炉の炎へとぶっかけられた。突然の出来事にハリーは床に這いつくばりながら振り返る。そこに半眼で杖を構えるクローディアが幽鬼の如く立ち尽くしていた。
「不審火……、不審火……」
完全に寝ぼけたクローディアは寝言を繰り返す。
「消えた! 火は消えたから! ね!」
両手を挙げ、降参の姿勢を取るハリーは暖炉の炎を一瞥する。完全に鎮火し、更に水浸しになっている。これではシリウスはもう来られない。残念に溜息をついたハリーに、焦点の定まらないクローディアは杖を突きつける。
「不審火ない?」
「ないない、僕はもう寝るから」
こちらにまで水をかけられては堪らない。クローディアをゆっくりソファーに案内し、ハリーは即座に自室に逃げ込んだ。
ソファーの陰で寝ていたベッロが忍び笑いを洩らした。
閲覧ありがとうございました。
はい、ハリーと踊ります。
暖炉の炎に顔があったら、普通に怖い。
シリウスの「正気か?」は、それだけでクローディアへの感情がわかる一言です。