こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
ダンスの練習時間って、自分達で作るしかないんだろうなあ。

追記:16年3月8日、3月9日、5月5日、17年3月7日、18年9月2日、誤字報告により修正しました


14.踊らされた会場

 肉体に意識が戻るが瞼が重く、手足や肩が硬い。

 クローディアは無意識に宙を掴もうと手を伸ばす。寝起きに関わらず、身体の間接が痛む原因を覚醒したばかりの脳で考え込んだ。

(そういえば……、グリフィンドールの……談話室で寝たんだったさ)

 ソファーにいる自分の状況を確認し、頬に当たるのはハーマイオニーの感触のはずだ。しかし、女子にしては筋肉が硬い。寝起きで身体が強張っているせいだ。そう考え、瞼を開く。

「やっと起きたな。クローディア、わざわざソファーで寝るなんて男子かよ。おまえは」

 隣にいたのは、苦笑する赤髪の双子ジョージだ。

 きっと、自分はまだ寝ぼけている。

 瞬きし、自分の頬を軽く叩くクローディアに冷たいタオルが投げ渡された。突然の冷たさに、まどろみが消える。

「グレンジャーなら、便所だ。おまえがあんまり気持ちよさそうに寝てるから、俺が枕代わり。ほれ、俺に感謝の言葉は?」

 経緯を理解したクローディアは反射的に頭を下げる。

「……うん、ありがとう」

「よろしい。んじゃ、俺はこの辺でな。顔を洗えよ」

 含みのある悪戯っぽい笑みを向けた後、ジョージは男子寮への階段を上っていった。入れ替わりに、肖像画の穴からハーマイオニーが現れる。彼女はソファーのクローディアの顔を見た途端、両手で口を押さえ肩で笑う。

「どうしたさ?」

 問いかけるクローディアにハーマイオニーは咳き込む。

 お手洗いに連れて行かれ、洗面所の鏡を見つめた。鏡に映る顔を確認し、ジョージに如何なるお返しをするべきかを真剣に考えた。

 寮の自室に戻ったクローディアは寝台に置いていたはずの罰則用レポートがない。

(なくしたってことは……ないさ?)

 寝台周辺を探すクローディアに寝台から起き上がったパドマが声をかける。

「今朝早くに、ベッロが持っていったわよ」

「ベッロがさ? なら、問題ないさ。ありがとうさ。パドマ、まだ寝てていいさ」

 優しい声で返答すると、パドマは布団を被って眠りだした。

(夕食の後に提出するって、スネイプ先生には言ったけど……まさか、勝手に期限縮めたりしてないさ?)

 櫛で髪を梳きながら、クローディアは一抹の不安を覚える。

 

 ベッロを追いかけようと寮を出て、クローディアは階段を登り切る。

「失われた髪飾り!」

 待ちかまえたように、厚着したルーナが飛びついてきた。首が絞まり、クローディアは悶える。別れの挨拶だと解釈した。

「馬車が出るまで、まだ時間あるさ。ルーナ」

「あるけど、見つけたから、渡さないと」

 何の脈絡もなく、ルーナはクローディアの眼前へ少し古い精巧な細工の髪飾りを突きつけた。

 それはクローディアにも見覚えがある。談話室にあるロウェナ=レイブンクロー像の頭部にも掘り飾られている物と全く同じだ。

 髪飾りに小さく刻まれた【計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり】の文字が、その証拠ともいえる。

「これは像の複製物さ? それともこっちが本物さ?」

「贋物なんてないけど、これはすごく危ないもの。マッド‐アイに見せる前にクローディアに先に見せたかったんだもン」

 浮つきのない深刻な声がルーナの真剣さを物語る。不意にクローディアは2年生の頃を思い返す。あの頃も、ルーナはトム=リドルの日記を危険視していた。

 髪飾りと日記の繋がりは見えない。女物の髪飾りがトム=リドルの持ち物とは思えないが、全く無関係とは言い難い。

「これ、何処で手に入れたさ?」

「クローディアの髪にね。似合う物ないかなって考え込んでた。そしたら、いろんな物が置いてある部屋があったんだ。そこで見つけた」

 大雑把な説明だが、この城の中で見つけ出したのだと理解した。

 ならば、髪飾りの危険性は極めて高い。

 確信を得るには、ベッロに見せるのが一番だ。それとも、専門であるルーピン、もしくはムーディに確認してもらうべきだ。

「ちょっと貸してさ」

 クローディアは手の中で髪飾りを弄ぶ。

 重厚な見目だが軽く、手触りの良い滑らかさは、飾り物に疎いクローディアでも素晴らしい一品と感じ取れる。僅かな錆も歴史的価値を伝えるに十分な美しい芸術品。危険な物だと判断されれば、壊さなければならないのは少し勿体ない。

 

 ――――このままジブンのモノにしてもいいのではないか?

 

 途端に言葉が脳裏を支配する。湧き起こる独占欲が髪飾りを愛おしくさせる。何故、貴重な髪飾りを他人の手に渡しあまつさえ、壊そうなどと考えたのかと首を傾げる。

 

 ――――これはワタシのモノだ。

 

「違うよ」

 脳髄に囁かれた親しい声がクローディアを我に返させた。そして、髪飾りを髪に挿そうとしている自分に少なからず驚く。

 まるで、誰かがクローディアに『服従の呪文』をかけたように何の疑問も浮かばなかった。否、それよりもより自然に従っていた。

 

 ――全身を巡る悪寒。

 

 他者の判断を煽る必要はない。

 クローディアは空き教室に飛び込み、髪飾りを床に叩きつけた。着いてきたルーナを扉まで下げさせる。杖を取り出し、迷うことなく髪飾りに杖を向ける。

 ルーナは止めなかった。

「レダクト! (粉々になれ!)」

 呪文は正確に発動した。しかし、髪飾りは何事もなかったように無傷であった。

「ディフィンド! (裂けよ!)」

 床に切れ目が出来たが、やはり髪飾りは傷ひとつない。

 これがただの髪飾りではない証明である。

 焦燥のあまり、クローディアの頬へ汗が流れる。汗を拭いながら、必死に記憶を手繰り寄せる。ハリーが『秘密の部屋』での出来事を話して聞かせてくれたとき、日記はバジリスクの牙で破壊したと語ったことを思い返した。

(バジリスクの牙……いや、毒に匹敵する力……)

 杖を睨んだクローディアは歯噛みする。己の魔法ではこの髪飾りを破壊できない無力感。心臓が焦燥と苛立ちで脈打ちを速くする。

 いっそ、叩き壊してやりたいとクローディアは杖を鞭のように振るい下ろした。

 

 ――耳奥に木霊したのは、微かな悲鳴。

 

 床の上で髪飾りが大きくヒビ割れた。そして、生気を失うように赤黒く色へと染まりあがると髪飾りはただの錆びついた物へと変貌した。

 全てが一瞬の出来事。

 この状況に困惑したクローディアはルーナを振り返る。流石に彼女も慄き、腕へとしがみ付いてきた。

「……た、叩けばよかったさ?」

「うん、多分。叩けばよかった」

 お互いを見やり、安心と共に微かに拍子抜けする。時計に目をやれば、髪飾りを壊しにかかってから、半時間も過ぎていた。よく誰も来なかったものだ。

「この髪飾り、なんであの像と同じ形さ?」

「それは、失われた髪飾りだからだよ。聞いたことあるでしょう?」

 噂程度なら、クローディアも耳にしている。ロウェナ=レイブンクローが亡くなったと同時に姿を消した『失われた髪飾り』。城の何処かにあるのではないかと、フリットウィックが寮監に就任した際、生徒と共に捜索に乗り出したらしい。

 間を置いてから、クローディアは状況を纏める。

「……? つまり、これは本物ってことさ?」

「だから、贋作なんてないって言ったでしょう? それに危険だったもン」

 不思議そうに首を傾げるルーナと違い、クローディアは段々と焦燥感で心拍が早くなる。

 

 ――よりにもよって伝説の品、しかも創設者の遺品を破壊してしまった。

 

 何故か、ルーナは破壊して当然という態度だ。

「よし、気付かなかったことにするさ」

 肝が冷えたクローディアは髪飾りの件をルーナに口止めした。

「でも、パパには話していいでしょう?」

「それなら、いいさ」

 嬉しそうにルーナはクローディアの腕にしがみ付いた。

 

 ハンカチに割れた髪飾りを包んだクローディアは玄関ホールでルーナと僅かに帰省していく生徒達を見送る。馬なし馬車が校門を抜けていく頃合に、足元へベッロが這いずってきた。

「レポート渡してくれたさ?」

 問いに頷くベッロに感謝し、クローディアはそのままムーディのいる部屋を目指す。向かおうとした矢先に、廊下の向こうからネビルと他愛ない会話を行うムーディを目にした。

「ハッキリ言っておこう。おまえさんに才能はない。だが、良い意味で才能がないのだ」

 顔を顰めても納得する様子のネビルがクローディアに気づく。すぐにムーディに礼を述べ、慌てた様子で彼は中庭へと走り去っていった。

 ネビルも気にかけたが、クローディアは髪飾りの件を優先する。ムーディに事の次第を説明し、ハンカチで包んだ割れ物を見せた。義眼が髪飾りを眺め、胡散臭そうに唸る。

「全く痕跡が見えん。おまえの話も眉唾すぎる。何故、壊す前に持ってこなんだ? しかし、おまえの行動は正しい。よかろう。これはわしが預かっておく。次に同じような物を見つけたら、触れる前にワシに報せろ」

 出来れば、そんな代物には2度とお目にかかりたくない。

 口に出さなかったが、クローディアは露骨に嫌な顔つきになる。ムーディはさも面白そうに顔を歪めて笑った。

 

 午後、図書館で宿題を片付けるクローディアは、髪飾りのことをハーマイオニーに話して聞かせた。彼女も胡散臭そうにしていたが、髪飾りの危険性を信じた。

「『例のあの人』であろうとかなろうと、そういう道具はルーピン先生に見てもらってね」

 危険なことをした罰だといわんばかり、ハーマイオニーは鞄でクローディアの頭を軽く小突いた。

 心配かけたことを詫び、クローディアは自分の杖を眺める。髪飾りに何か呪いがかけられていたとしても、創設者の遺品を破壊せしめたのだ。

(柳に……グリフォンの羽根の杖……。……柳か、それともグリフォン……)

 マダム・ピンスが杖を触るクローディアを睨んできたので、考えることをやめた。

 図書館の奥の席で、エロイーズがダームストラング生に踊りの相手を申し込まれていた。大声を上げて承諾した彼女は司書に叩きだされた。

 

 休暇が始まった2・3日は城のあちこちで身体に羽根を生やした生徒達が続出した。原因はフレッド、ジョージお手製『カナリア・シュークリーム』、口にした人間の身体に羽根を生やすという悪戯菓子だ。

 ハリー曰く、本来はカナリアに変身させるらしいが、それを双子は改良したのだ。フラーは身体から羽根が生えることが、己の見栄えをより引き立たせる。そう考え、双子から大量に購入している姿をクローディアが目撃した。

 クローディアには、そんな趣味はないので決して双子から食べ物を受け取らないと心から誓った。

 

 第2の課題に向けて、クローディアはハリーと卵の謎に取り組もうとした。しかし、彼は折角の休暇に頭を使いたくないと逃げ回る。そんな悠長なハリーに、クローディアとハーマイオニーは呆れた。

「まあまあ、休暇くらいは休ませてやれよ」

 ロンに諭され、クローディアとハーマイオニーは諦めた。

 

 誰もが待ち遠しいクリスマスは、すぐに訪れた。夜の舞踏会を楽しみに生徒達は自分に届いた贈り物の開封に勤しんだ。

 クローディアも勿論、友人達から贈り物を貰う。だが、どういうわけか全ての品がアロマテラピーやお香、香りつき匂い袋など、精神を安定させる効果のある物ばかりだ。ハーマイオニーと贈り物を交換したときも『幸福のビスケット』というその名の通り、口にすると幸せな気持ちになるお菓子を貰う。

「そりゃあ、あなたは新学期になってから、気分の浮き沈みが激しいんですもの。ハリーのせいじゃないかって噂もあったのよ」

 パドマの説明を聞き、クローディアは出来る限り自分の表情に気を使うことにした。

 

 クリスマスの昼食は賓客への持成しが含まれ、例年より豪華な料理が寮席に並んでいた。焼けた七面鳥が百匹も用意されており、半分以上をダームストラングの生徒が食べ尽した。

 午後になり『楽団部』は最終予行練習の為、『呪文学』の教室へと集合する。クローディア、ハーマイオニー、ハリーとロンは校庭へ雪合戦に赴く。

「目が覚めたら、ドビーが僕に贈り物をくれたんだ。それで僕はドビーに靴下をあげたんだ」

 フレッドに雪玉を投げつけたハリーが話し、クローディアはロンが投げてくる雪を避けながら頷く。

「もしかして、ロンはセーターをあげたさ?」

「そうだよ? なんでわかったの?」

 問い直すハリーにクローディアはジニーとジョージから集中攻撃されるロンを一瞥する。

「あんたもフレッドとジョージも、ジニーもセーター着てるのに、ロンだけ着てないさ」

 納得したハリーは油断し、フレッドから一撃雪玉をまともに受けた。

 

 5時を過ぎると女子は盛装の為に寮へと戻り始めた。雪合戦に熱が入ったクローディアも例外なく、迎えに来たパドマとサリー、セシル、マンディに連行された。

「ハリーと踊れるなんて、いいな♪いいな♪」

 サリーが嬉しそうにクローディアの背を押す。

「納まるところに納まったって感じね」

 マンディがからかうように笑うと、セシルがそれに頷いた。

 女子の行動は大体決まっている。まずは、シャワー室で香りの良い石鹸で身体を洗い、何度もシャンプーで髪を洗い、素敵な香りのリンスで髪を念入りに手入れする。部屋で体型を良く見せるコルセットを着ける。コルセットは慣れないと1人では着けられない。誰かは必ず誰かを手伝った。

 無論、クローディアはそんな上等な下着はつけない。寧ろ、付ける必要もない。何故なら、悲しいことにないからだ。

 折角、ドリスが用意してくれたコルセットは無意味だ。パドマと比べても、ない。

 パドマは衣装の関係でコルセットは着けなかったが、それでも上等な下着を身につけている。

 支度を済ませたペネロピーがクローディアの体型と胸元を見やる。

「このくらいなら、どうにかなるわ。胸元を詰めればいいのよ。私も昔はよくやったわ」

 クローディアにコルセットを着せた後、ペネロピーは綿のような固まりを取り出す。それを胸元へと詰め込んでいく。全身鏡に映る姿を見て、感嘆の声を上げた。

「おお、あるさ……。ちゃんと……、ありがとうさ」

「いいわねえ、余分な脂肪がなくて……」

 恨めしそうにペネロピーは、クローディアの腹回りを眺めた。

 パーティドレスに着替え、髪を頭の天辺で纏める。母が送ってきた簪をつけ、顔にも簡単に化粧を施す。パドマやペネロピーが化粧の指導をしてくれたので、ほどよく頬に色が塗られる。藤の香水を脇と足首に半滴浸し、手袋を嵌めれば、クローディアの支度は完成だ。

 パドマは上等なシルクから作られたでトルコ石色の衣装(サリー)、髪にも網目の髪飾り、両腕は金の腕輪を輝かせていた。

 慌てて部屋に戻ってきたリサも黒い金色の刺繍を縫いつけたドレスに着替え、髪をお団子に纏め黒いリボンで結び、顔を化粧で彩る。一番遅いはずのリサが3人の中で、丁寧かつ上品に仕上がっていた。

 宴には参加できないベッロ、シヴァ、キュリーは自分達の主の寝台を我が物顔で占領する。使い魔に留守番を言いつけ、談話室に下りると男子生徒も着飾る姿を目にする。

「では、私はお先に失礼いたします」

 品性のある小走りでリサが談話室を後にし、クローディアもパドマと後に続く。

 狭い階段を慣れないヒールで上がるのは、クローディアには困難だ。廊下へ出たとき、隠れてでもヒールを脱いでしまいたかった。

「クローディアよね? 素敵よ」

 ハーマイオニーの声に振り返ると、クローディアの心臓が平らに大きく跳ね上がった。

 フワフワと広がった栗色の髪が滑らかに押さえつけられ、頭に巻きつけるように纏めあげている。睫毛がハッキリわかるように跳ね、ハーマイオニーの円らな瞳をより魅力的にする。更に淡い桃色のパーティドレスが少女の純粋かつ純情さを見事に、形にしているのだ。

「き、綺麗さ。ハーマイオニー!」

 完全に見惚れたクローディアは唇が痙攣し、言葉を上手く紡げなくなってしまった。

 

 大広間の前に行くと、待ち合わせの生徒で溢れていた。見慣れない光景、本当にここが学校なのかと疑ってしまう。タキシードで盛装したジャスティンに気づいたパドマは、すぐに彼へと駆け寄り大広間へ入っていく。雄雄しい闘牛士の恰好をしたビクトールがハーマイオニーに気づいて、勇ましく挨拶する。何故か、2人は入り口の前で立ったままだ。

 ハリーの姿がないクローディアは周囲を見渡す。既に到着していたロジャーは背中に羽を生やしたフラーを必要以上に眺めた。セドリックもチョウと緊張した顔つきで話し込んでいた。黄緑のパーティドレスで着飾ったクララとやはり闘牛士姿のスタニフラフが腕を組んで大広間へ入って行くのを目にした。

 

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 踊りたくないハリーは胃が痛めつけられる。

 パーバティはロンの(彼曰く骨董品)恰好に怪訝そうな顔を隠そうともしない。彼自身も衣装を恥ずかしく思い、ずっと俯いている。

 浮かれ声で満ちた大広間の扉前で、ハリーは急いでクローディアを探す。廊下の壁にもたれる彼女を見つけ、彼は目を見張った。

 そこにいるのは、確かにクローディアだ。フリルだらけの私服を見慣れている。しかし、身体の曲線を露にした衣服、しかも化粧で顔を塗る彼女に、素直に目を奪われた。

〝クローディアは、綺麗とは程遠い〟

 いつしか、ハリーがクローディアに告げた言葉を今なら、撤回できる。いまの彼女は、まさにしとやかな淑女そのものなのだ。優美にして可憐が彼女に相応しい。

 クローディアがハリーに気づき、控えめに手を振る仕草が信じられない。

 

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「ハリー、遅いさ」

 ロンを視界に入れたクローディアは、激しく瞬きし言葉を選ぶ。

「……ロン。その服、目の色に合っているさ」

「どうも」

 ぶっきらぼうにロンは返事する。

「それでハーマイオニーは何処なんだ? どっかでメソメソ泣いてたりする?」

 クローディアは背後でビクトールと並び立つハーマイオニーを意識する。

 ハーマイオニーもロンに背を向けているので、気づいていない。クローディアが答える前に、品よく盛装したマクゴナガルが声を弾ませ、ハリーへと声をかける。

「ポッター、ようやく着ましたね。選手は貴方で最後ですよ」

 マクゴナガルはロンを見た瞬間、硬直した。

「……ミスタ・ウィーズリー、ミス・パチルを連れて大広間へお行きなさい」

 戸惑った声で指示するマクゴナガルにロンは気のない返事をした。口を曲げたパーバティと大広間へ行くと、二重扉が音もなく閉じた。

 マクゴナガルが廊下に残った8人を見渡して整列させる。クローディアとハリーは、最後尾に配された。

 ハリーと並んだとき、クローディアは彼の顔色を確かめる。緊張と困惑、逃避と様々な思いが込められた肩が同じ高さにある。

(……ハリーって、こんなに背があったさ?)

 思い返す暇もなく、楽しげだが厳格さを残したマクゴナガルの声が響く。

「私に続いて入場なさい」

 8人が期待と緊張で表情を強張らせ、背筋を整えると同時に二重扉が静かに開く。

 

 大広間は氷河を削ったように、色もなく輝き別世界へと誘っている。寮席の代わりに円食卓が並び、その周囲を生徒達が囲みながら、行進する四組を拍手で出迎えた。

 氷芸術の美しさに興奮しつつ、クローディアはハリーと腕組みして行進する。漆黒のビロードで高貴さを主張したドラコと偶然、目を合わせた。奇妙な動物を見る目つきをしながら、何故か彼の顔が赤くなっていた。反対側の食卓付近で盛装したジョージは、蒼白な顔色で今にも倒れそうだ。

 一番奥の円卓席に8人を誘導され、そこには微笑したダンブルドア、不可解な物を目にした顔でビクトールとハーマイオニーを眺めるカルカロフ、麗しいドレスを着込んだマダム・マクシーム、趣味を疑う派手な紫に星柄のローブを来たバグマン、気難しさを表現した盛装のクラウチが座っていた。

 8人分の空席に各々座りだす。カルカロフの隣にビクトールとハーマイオニー、クローディアとハリー、フラーとロジャー、セドリックとチョウ、その隣がクラウチという席順になった。

 円卓の為、何処を向いても誰の顔も見られるが、クローディアはハーマイオニーの隣に座れるだけで満足だ。

 空の金食器にダンブルドアが『ポークチャップ』と声をかけると、料理が忽然と現れる。それに倣い、皆も食器に食したい料理を注文した。

 優雅にして豪華な食事の席で、ビクトールは食すことを忘れてハーマイオニーに語り続けた。普段から口数が少ない印象を受けていたクローディアは必死に話す姿は衝撃だ。

「ヴぉくたちのところは四階建ての城です。でも、校庭はここよりも広いです」

「これこれ、ビクトール! そんなにお喋りではいけないな!」

 親しげな笑みと冷たい目つきで、カルカロフはビクトールがダームストラング校の説明をすることをやめさせた。学校の場所を明かしたくない。その秘密主義にクローディアは警戒心を強くした。

 どういうわけか、ダンブルドアは食事中におまるの部屋について語りだした。

「わしは、これからも見逃さぬよう気をつけようと思うておる」

 ダンブルドアの話を聞くとはなしに聞くクローディアに、ハリーが肘で突き囁いてきた。

「(ねえ、クローディア。さっきから凄く睨まれてる気がしない? なんか、寒気を感じるんだ)」

 もしや敵かもしれない。

 クローディアは大広間の飾りを見上げる振りをしながら、周囲の席を確認する。同じ席の面子は誰もハリーを見ていない。ロジャーは骨抜きにされきった緩い顔でフラーをひたすら眺めては、ただ頷く仕草を繰り返す。友人の姿にセドリックが苦笑している。

 ドラコ達のいる席でこちらを気にかける者はなく、他の生徒も大いに食事と雑談を楽しんでいる。そうなれば、残るは教員席。

 嫌な予感で、胸騒がする。小さく呼吸し、教員席を視界に入れる。野暮ったい毛に覆われたハグリッドが目立つ。彼を間に、普段と変わらないがそれでも上等な布地の黒衣に身を包んだスネイプと黒い背広姿のルーピンがいた。

 当然、睨んでいたのはスネイプだ。ただならぬ気配を漂わせ、その鋭い眼光でハリーの背を睨んでいる。それを確認したクローディアは、わざとらしく咳払いする。

「ハリー、気のせいさ。どんどん食べるさ?」

「本当に気のせい? なら、いいんだけど……」

 テーブルナプキンで口元を拭きハリーは背中に突き刺さる視線を無視し、食事を続ける。

「ハリー、踊りの用意は万全かね?」

 突然、バグマンが身を乗り出してハリーに微笑みかける。彼は気まずそうに小さく首を横に振る。

「僕は、その、あんまり踊ったりしないので……」

「なら、これは君には試練だな。選手は最初に踊ると知っていれば、名乗りをあげなかったろ?」

 気の毒そうに話すバグマンの言葉に驚いたクローディアは口にした『ポークチャップ』を喉に詰まらせかけた。何とか飲みきり、ハリーを睨む。

「最初に踊るって何さ?」

「ダンスだよ。代表選手が最初に踊るって……僕言ってなかったけ?」

 悪びれないハリーは瞬きし、クローディアに媚びた視線を送る。不機嫌に口元を曲げ、丸い眼鏡の奥を覗き込むように睨む。

「私、そんな話、全然聞いてないさ」

「あれ? ……なら、今言いました!」

 焦り顔で目を逸らしたハリーの頭を鷲摑みにしたクローディアは、満面の笑みで彼の頭を丁寧に揉み解す。

 その行為に、痛みを感じたハリーは悲鳴を堪えるように歯を食いしばった。

「(私、盆踊りとか阿波踊りとか鳴子踊りとか、それくらいしか経験ないさ。まあ、後は授業でフォークダンス程度さ)」

「(最初のヤツは知らないけど、フォークダンスのノリでいいと思うよ。というか、僕もちゃんと踊れるわけじゃないよ)」

 つまりは、初心者素人丸出し2人組み。

 大勢に混ざれば目立たないが、四組では無理だ。だが、後には引けない。ハリーから手を離したクローディアは不安が増して動悸が早まる。無情にも時が過ぎ、料理皿が空となった。

 満腹したダンブルドアが立ち上がり、視線で皆に起立を促す。

 クローディア達も腰をあげ、それぞれの相手へと寄り添う。ダンブルドアが杖を振るい、円卓は壁際へと追いやられた。不意に気づくと、校長の後ろにフリットウィックと『楽団部』が待機していた。

 フラーとロジャーが大広間の中心に歩き出したので、他もそれに続き、適当な場所で踊りの構えをとる。しかし、ハリーはクローディアの手を取るだけで腰に手を当ててこない。緊張が最高潮に達しているせいで、目が泳いた彼はほとんど錯乱している。

 『楽団部』の演奏が始まったので、クローディアは無理やりハリーの手を腰に回させた。

 曲調に合わせ、一、二、三に足を動かす。

 形にはなっているが、2人の動きは硬い。ロジャーとフラーはお互いの呼吸を合わせ、見事に舞っていた。2人を参考にしてクローディアが動きを先導し、困惑しつつもハリーはそれに着いていく。

 やがて、ネビルとジニーが中央に歩み出て、踊り始める。生徒の後はダンブルドアもマダム・マクシームと優雅に躍り出る。ルーピンもバーベッジと手を取り、後に続く。ベクトルとバブリングも意気揚々と踊りだす。

 なんと、ムーディまでシニストラと踊りだした。義足に踏まれまいと彼女は神経質な踊りを披露した。それでも、スネイプとマクゴナガルがお互いを睨みながら、手を取り合う姿よりは平和的といえる。

 いつの間にか、会場に紛れこんでいたコリンがカメラのフラッシュを焚き、撮影し続ける。

 大広間が踊りあう男女に満たされる中、クラウチのみ、踊ることなくただその光景を眺めていた。

 

 一曲分の演奏が終わり、息切れしたハリーはすぐにクローディアから手を離す。

「座ろうか?」

「何でさ、踊りのコツは掴んださ。もう一曲さ」

 気力絶えたハリーは踊り足りないクローディアの反論を聞かず、壁際の椅子に連れて行こうと手を引く。しかし、行く手をドラコが現れたせいで、遮られた。

「おや、ポッター。大広間を抜け出して、何処にいくつもりだい? まさか、別のダンスでも踊るのかな? 品がないぞ」

 嘲笑するドラコを睨んだハリーは構わず進もうとした。

 しかし、何故かドラコはクローディアの手を握り、ハリーから引き離す。唐突な行動に彼女は間抜けな声を発する。

「パンジーが化粧直しに行ってしまった。一曲分、僕の相手をしろ」

「「は?」」

 同時に返したハリーとクローディアがお互いを見やる。

 構わず、ドラコはクローディアを引っ張り大勢の中心へと進んだ。残されたハリーは、彼女を傷つけるような真似が出来るわけがないと考えた。

 壁際の椅子にロンとパーバティがいることに気づく。一度、クローディアを振り返ってからハリーはそちらへと向かった。

 当然、抵抗するクローディアはドラコの手を振り切ろうとした。

「ちょっと、どういうつもりさ?」

「暇つぶしに付き合え。言っとくが僕の靴を踏むなよ」

 乱暴に吐き捨てたドラコは、クローディアの手に指を絡ませる。しかも、腰に回した腕を固定した。普段より確実に近い距離、拒もうとしたとき、先ほどとは打って変わった激しい音程の曲が始まった。

 皆、豪快に踊りだした。

 特に、フレッドとアンジェリーナは周囲に体当たりする勢いだ。巻き添いを恐れ、皆は逃げるように避けていく。

(あれだけ、派手にしていいさ)

 フレッドとアンジェリーナに倣い、クローディアは足に力を入れる。ドラコを持ち上げるように一回転した。

「おい! 何のつも……り!!!」

 身体の微かな浮遊感に動揺し、ドラコは悪態を付こうとした。クローディアは彼の両腕を掴んで勢いよく振り回した。足を丸投げさせられ、彼は目を瞑り悲鳴なく廻り続ける。

「アハハ、これ超楽しいさ」

 身体を駆け巡る高揚感が募り、クローディアは曲が終わるまでドラコを振り回し続けた。

 解放されたドラコは罵声を口にする気力もない。覚束ない足取りで、戻ってきたパンジーに抱きとめられた。

 パンジーがクローディアを睨んできたが無視した。

 しかし、流石に汗を掻いた。喉を潤そうと飲食物が並べられた卓へと足を運ぶ。

 炭酸の入ったジュースを飲み干し、喉を潤したクローディアは大広間を見渡す。化粧直しに行く女子生徒の姿を何人も見かける中、満面の笑みでザヴィアーがベストラと廊下へと出て行くのを目にした。

(ステンビスと……ハッフルパフの監督生さ、2人で何処に行くさ?)

 怪訝するクローディアが二重扉を眺める。気づけば、隣で襟元を緩めたルーピンがワインを飲み干していた。

 教職員はこの席でも、生徒を監督するはずだ。堂々と飲酒しているルーピンに驚いた。

「ルーピン先生……それワインですよね? 職務中に飲酒はよろしいのですか?」

 グラスを置いたルーピンが飄々としてクローディアに笑いかける。

「ワインなんて、水と同じだよ。酔わない、酔わない」

 言い切った。

 そこまで堂々たる態度は違う意味で尊敬する。

 それなら、最早クローディアは突っ込まない。

「あ……ルーピン先生……すごく素敵ですよ。いかにも、英国紳士って感じです」

 口にしてから、クローディアはルーピンを強く意識してしまった。途端に心臓が心地よく高鳴る。

「クローディアも……その恰好、すごく綺麗だね」

 追い討ちをかけてくる一言で、クローディアの顔が紅潮する。その様を勘違いしたルーピンは彼女の背を優しく押して、廊下へと導く。

 ルーピンに従い、クローディアは廊下を歩くと、中庭の変貌に驚いた。今朝までは、ただの庭だった場所が、いつの間にか、潅木の茂み迷路になっている。

「なんですか? これは、いつの間に……」

「ダンブルドア校長先生の趣味かな?」

 思わず呻くクローディアに、ルーピンはやんわり答える。

「人に酔った生徒とかは、ここで落ち着くといいんだ」

 茂みに置かれた見事な彫刻のベンチに、ルーピンはクローディアを座らせる。

 急にクローディアはルーピンと2人きりという状況、緊張し唇を強く噛む。

 ルーピンもクローディアの隣に腰かけ、空を仰いだ。

「それにしても、君がハリーと踊るとは傑作だね」

 ほろ酔い加減のせいか、ルーピンは普段よりも柔らかい表情でクローディアに微笑んできた。口の中で深呼吸し、彼女も微笑み返して話を繋げる。

「お互い、相手がいなかったんです。そしたら、ハリーが誘ってくれたんです。ハリーったら、肩を張るばかりで無駄に力が入りましたし……、あ、さっきマルフォイと踊ったんですけど、あいつ目を回したんです」

 ベンチから立ち上がったクローディアはその場で足首の筋肉を使い、一回転する。それを見たルーピンは優しく拍手する。

 拍手に応じたクローディアは礼儀正しく、ルーピンにお辞儀した。

「おや、雪か……。また降ってきたね」

 クローディアとルーピンが空を見上げる。氷が刻まれた粉が降り注いでくる。同時に大広間から、微かだが音楽が漏れ、まだ舞踏会が続いていることを思い出した。

 ベンチに座るルーピンに、クローディアは自然と手を差し出した。その手の意味を理解し、躊躇いつつもベンチから立ち上がってその手を握る。2人は身を寄せ合い、足並みを揃えて踊りだす。驚くほど自然な行為に現実味をなくし、心がただ弾む。

「生徒とは踊らないんじゃなかったさ?」

 意地悪くも敬意を込めて笑うクローディアに、ルーピンは惚けた表情で笑い返す。降り積もる雪、心地よい音楽、手を取り合い踊る2人の光景を他人からは、何に見えるかをクローディアは思考する。

 脳裏に思い浮かんだ言葉、勝手にクローディアは口元を緩ませる。

「ルーピン先生、もしも、私が先生と同じ歳だったら……、私達、どうなってたさ?」

 興奮したクローディアが漏らした言葉に、ルーピンは曲が終わっていないのにも関わらず、踊る足を止めた。

 突然、踊りをやめられ、クローディアは不安げにルーピンを見上げる。彼はゆっくりと体を離し、普段と全く変わらない穏やかな笑みを浮かべた。

「きっと、お互い気付く事なく、過ぎ去っていただろうね」

 冷ややかな拒絶が籠もった発言。

 胸中に溜まっていた高揚感が、穴が開いたように抜けていく。代わりにクローディアの目頭が熱くなる。熱さが零れる前にルーピンから走り去った。慣れないヒールで走りにくく、速度も遅いが彼は追うこともなく見送りもしなかった。

 廊下の柱まで走ったクローディアは涙を堪える。口元で手を覆い、柱に身体を預け蹲る。心を乱し、周囲の状況は把握できない。

 もしも、普段の状態であったならば、棍棒を手に自分の背後へと歩み寄ってくる気配に気づけたはずだ。

 

☈☈☈☈

 ハーマイオニーがビクトールと踊り、ロンは嫉妬の感情を剥き出したにした。

「あいつは君から卵やハリーの情報を聞きだすつもりだ」

「親睦を深める席で、よくもそんなことが言えるわね!」

 激昂したハーマイオニーはさっさとビクトールの元へと走って行ってしまう。パーバティはダームストラング生から誘われ、呆気なくロンを見限った。

 ロンをただ見ていたハリーは大広間を見渡す。クローディアの姿が何処にもない。ドラコはパンジーと手を取り合い、踊っている。

「クローディアは何処に行ったんだろ?」

「さあ、お手洗いじゃないか?」

 ぶっきらぼうに答えるロンは更に椅子にもたれかかる。ハリーも気にはしたが、それ以上詮索する気はなかった。そこへ飲み物を手にしたスタニスラフが声をかけに来た。

「やあ、喉が渇かない?」

 差し出されたグラスをハリーは戸惑いながら受け取る。胡散臭そうにロンも受け取る。スタニスラフは、お互い踊りの相手を失った2人を交互に眺め、瞬きする。

「クロックフォードは何処に行ったんだい?」

「お化粧直しだと、思うよ」

 ハリーの答えにスタニスラフは眉を寄せる。空いている席へと乱暴に腰かけた。

「気分を害して悪いが、ハリー=ポッター。君は誰かに嵌められて今回の対抗試合に参加させられたんだろ?」

 警告めいた口調と音程でスタニスラフはハリーを睨まない程度に目を細くする。忘れていたわけではないが、他校の生徒に指摘され、胃の緊張感が戻ってきた。極端に喉が渇き、手にしたグラスの水を飲み干す。

「僕が犯人なら、君に親しい人間に警告を込めて危害を加えるよ。そうだな、今夜みたいに浮かれて教職員の注意力が緩慢になったときに、1人でいるところをね」

 熱い大広間の中で、ハリーは悪寒に襲われる。スタニスラフの言葉と冷たい眼差しは、反応を確認して席を立つ。

「女子を待たせているので、失礼する。ハリー=ポッター。僕の言葉を忘れないで欲しい。君が本当に狙われているなら、君の友達は確実に巻き込まれる」

 スタニフラフが離れる前にハリーはすぐに席を立ち、外へと走り出した。ほとんど話を聞いていなかったロンも慌てて後を追いかける。

〔脅かしすぎたかな?〕

 だが、これでハリーの注意力は増すと信じたい。肩入れしすぎかと、スタニスラフは溜息をついた。待ちわびるクララのところに足を向けた。

 

 走る先は、いつの間にか潅木の茂みで作られた小道を行く。途中でハグリッドとマダム・マクシームにぶつかりそうになったが、ハリーは振り返らなかった。

 ハリーの肩を掴んだロンに止められ、2人はその場で息を吐く。

「ハリー、どうしたんだ? アイツに何か言われたのかよ?」

「クローディアを見つけよう。彼女が無事かを確認しないと」

 何処からか聞こえる噴水の音の中に、人の声が混じっていた。それに気づいたハリーは、言葉を中断し耳を澄ませる。だが、闇色の声は誰のモノかすぐに理解できた。

「我輩は何も騒ぐ必要はないと思うが、イゴール」

「セブルス、何も起こっていないふりをすることはできまい!」

 冷静なスネイプと恐怖と声を必死に押さえ込むカルカロフの声だ。

「この数ヶ月の間に、ますますはっきりしてきた」

 見つかると厄介な事になるのは、必須。

 ハリーとロンは反対の小道へとそそくさと逃げる。

「なら、逃げろ。我輩が言い訳を考えてやる。しかし、我輩はホグワーツに残る」

 素っ気無く答えるスネイプの声が遠くなっていく。

 その後も迷路を探索したが、仲良くしている男女以外を発見出来なかった。流石に苛々してきたロンが無理やり、ハリーを城内に引き戻した。

「ハリー、こういうものなんだけど、クローディアも……その誰かと取り込んでるかもしれないだろ?」

 一瞬、ハリーもそれを考えた。しかし、スタニスラフの言葉があり、この目で無事を確認しない限り安心は出来ない。

「1人かもしれない。それで、何かあったら……」

 不安になり呻くハリーとロンは、廊下の曲がり角で人にぶつかりそうになった。それは珍しく動揺したジョージだった。しかも、何故かクローディアを背負っている。

「なんだ。クローディアはジョージと一緒だったのか」

 ロンが気まずそうにするが、ジョージはそれ所ではない様子だった。嫌な予感がしたハリーはその背で意識のないクローディアを注意深く見やる。

 彼女の髪が乱れ、化粧を施した顔が赤く汚れている。その赤は、彼女の頭から流れる血に他ならなかった。

 悲鳴にならない絶望感に襲われたハリーをジョージが手で制する。

「騒いじゃダメだ。俺がクローディアを医務室に連れて行く。いいか、もしクローディアが何処に行ったのか聞かれたら、俺と一緒だったと答えてくれ」

 極限の緊張で真摯な態度なジョージは目配りで大広間へ戻るように示唆した。今宵の宴で怪我人が出たことを他校に知られれば、安全面と名誉に傷がつく。

 ジョージの場合はそんなことを気にしてはいまい。おそらく、クローディアが襲われたことを広めたくないのだ。

 ジョージはクローディアを背負い直し、医務室の方角へと急いでいく。

 蒼白のままハリーはロンと大広間の喧騒へ帰ってきた。彼に支えられるように椅子に腰掛ける。

 冷や汗を拭ったロンは必死にハリーに言葉をかける。

「ハリー、その……深く考え込んじゃダメだ。君のせいじゃないよ」

 慰めを受けたハリーはロンに向かってただ頷く。誰がクローディアを襲ったかはわからない。だが、確実な敵が身近にいる。

 不意にハリーはハンガリー・ホーンテイルとの死闘を思い返し、死に接したときの感触で身震いする。

 舞踏会が終わるまで、ハリーはロンとただ黙って椅子に座り続けた。

 




閲覧ありがとうございました。
油断している時が一番、危ないんですよね。ペネロピーを放ってクローディアを探してくれたジョージに感謝!
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