ジョージがクローディアを探しに、大広間を抜けたって?そんなわけなかった……。
追記:16年3月9日・誤字報告にて修正しました。
寝台で寝返りを打つと同時に、クローディアは目が覚めた。布団を捲り、自分の姿を見下ろす。着替えた覚えはないが、寝巻き姿で化粧も落ちていた。
去年も目を覚ませば、医務室で寝ていた。
あれは、ダンブルドアに騙されて酒を飲まされたせいだ。だが、この後頭部の痛みは、酔いではない。それに、去年はハーマイオニーが付き添ってくれたが、今は何故かジョージが椅子に腰掛けて目を瞑っている。昨晩の盛装したままなので、一晩中、付き添っていたのだと理解した。
見渡せば、寝台に横になった生徒は他にもいた。腹を押さえたり、顔に包帯巻いたりしている。宴の犠牲者というべき生徒かもしれない。
そこに新しいシーツを抱えたマダム・ポンフリーが、挨拶してくる。
「おはようございます。ミス・クロックフォード、昨晩は災難でしたわね。覚えていますか?」
確認するような手つきでマダム・ポンフリーは、クローディアの後頭部に触れる。腫れた部分に触れられ、反射的に手を避けた。
「痛みがあるのでしたら、痛覚が正常ということですね。では、後は痛み止めを飲んでおしまい。帰ってよし。ミスタ・ウィーズリー、朝ですよ」
クローディアの反応を見たマダム・ポンフリーは、容赦なくジョージを叩き起こす。肩を叩かれた彼は変な声を上げ、瞬きを繰り返し、周囲を眺める。
「やあ、おはよう。クローディア、具合はどうだ?」
「痛み止めを飲むだけで大丈夫だってさ。私、どうしたさ?」
マダム・ポンフリーから飲み薬を貰い、クローディアは苦い味を思い知る。
空きになったグラスをマダム・ポンフリーが回収していく姿を見届けた後、ジョージはクローディアの耳元に顔を寄せる。
「君が慣れないヒールのせいで、廊下を転び、頭を強く打った。……ってことにしてある」
最後の記憶を思い返す。確かに、後頭部に強い衝撃を受けた。だが、決して転倒ではない。
「詳しい話をしたいからさ。グリフィンドール寮に行ってもいいさ? ハーマイオニー達にも、話したいさ」
深刻な表情で尋ねるクローディアに、ジョージは真摯な笑みで頷いた。
浮かれ楽しんだ宴の朝は、まさに静寂。
「殴られたですって!!」
ハーマイオニーの叫び声さえなければの話だ。
「ハーマイオニー、五月蠅い!」
ロンが鋭く叱りつける。自分の声が大きすぎたとハーマイオニーは反省した。普段の通りに跳ねた髪を手櫛で梳き、咳払いする。膝にクルックシャンクスを乗せ、話の続きをジョージに促す。
「俺はバグマンに用があって、大広間を抜け出すところを追いかけた。逃げ足が早い奴でな。探し回っていたら、クローディアが倒れているのを見つけたんだ」
「どうして、バグマンさんに用があったの?」
思わず問いかけるハリーをロンが小突く。今は関係ないと言いたいのだ。
一旦、口を閉じたジョージは眉を寄せる。
「なあ、ハリー。君の名前がゴブレッドに入っていたことが、誰かの企みだってのは、わかるぜ。でも、正直、俺や他のグリフィンドール生にはどうでもいいことだ。でも、クローディアが殴られたことも、ハリーの件に含まれるのか?」
低い声にハリーの体温が下がる。クローディアはジョージの含みが気に入らず、じろりと彼を睨む。ロンも不機嫌に嘆息し、兄を睨んだ。
「どうでもいいわけないぜ。おかげでハリーは、ドラゴンと死闘だ。他の2つの課題もそれだけ危険なんだぞ」
「ハリーなら、やり遂げると俺は信じてる」
決定的な断言に、ハリーは緊張する。ロンは反抗的な態度でジョージに噛み付きだした。
「クローディアを殴ったのは、ボーバトンかダームストラングか、それともただの嫉妬した女子の仕業かもしれないじゃん。なんで、ハリー絡みになるんだ?」
「スネイプがクローディアを責めているのを聞いた。ハリーの為に、クローディアが死ぬのを彼女の親父さんが認めないとか」
あの会話を聞かれていた。寒気のような驚きにクローディアは、表情を強張らせる。反論の文章を脳内で作成する前に、ジョージは投げ出すように両手を広げる。
「仮に、昨夜のことが嫉妬のせいだとしても、クローディアを1人だけにしないでくれ」
切実な表情で訴えてくるジョージに、口を出そうとしたハーマイオニーは呆然とする。ロンも初めて目にする兄の真剣な態度に、言葉を失う。妙に気まずい雰囲気になり、ハリーはわざとらしく咳き込む。
「ジョージ、確かに昨夜の事は僕のことが絡んでいると思う。だから、クローディアを絶対に1人にしない。誓うよ」
納得しきれないが十分だとジョージは、ハリーと握手する。気難しそうな顔つきのままジョージは、男子寮へと帰っていった。
4人だけになり、クローディアは胸中に溜まった息を吐き出す。
「私、寮に帰るさ。気絶していただけで、あんまり寝てないさ」
「見送るよ。夕べ、異常がなかったかベッロに聞きたいし」
「クルックシャンクスを連れていって、ベッロと情報交換してきて」
ハーマイオニーは、押し付けるようにクルックシャンクスをハリーに手渡した。しかし、クルックシャンクスはハリーの腕が気に入らないのか、不機嫌に床へと飛び降りた。
絵の住人も幽霊さえ寝坊し、まるで夜更けのような静かな廊下だ。クルックシャンクスが我が物顔で歩く。その後ろを着いていくクローディアとハリーは、何の会話もない。
沈黙のまま、寮への階段を降りる。初めてこの階段を使うハリーは、慎重な足取りだ。
壁に刺さったドアノッカーの真下で、ベッロがトグロを巻いて待ち構えていた。クルックシャンクスとベッロが身体を寄せ合い、彼らなりの挨拶を交わす。
ハリーはすぐにベッロと蛇語で会話し、その光景をクローディアは外国語がわからない気分で眺めた。
「ベッロとクルックシャンクスは、パーティーの様子を見ようと大広間に降りて来たんだって。そこで虫の姿をした人間を見つけて、追いかけていたらしいよ」
「虫の姿さ?」
非公式の『動物もどき』かもしれない。だが、それはずっとベッロとクルックシャンクスに追われていたなら、犯人ではないだろう。少なくとも、クローディアに関してはだ。
「でも、君らしくないね。相手の顔が見えないくらい、油断していたなんて」
触れられたくなかった点に、クローディアは脳裏にルーピンの姿を浮かべる。まさか、失恋に泣いていましたとは、ハリーに言いたくない。
「本当に、ちょっとした油断さ」
煩わしげに答えたクローディアは、ベッロを担いでドアノッカーに近づこうとした。
「クローディア。……パーティーの時、真っ先に僕に誘われたほうが良かった? 最後の手段じゃなくて……」
いままでと打って変わった質問、クローディアはハリーを振り返る。彼は真剣にその問いを発している様子だ。言うべき答えは既にある。
「次があったとしても、私はハリーを最後の手段にしたと思うさ」
簡単に告げるクローディアに、ハリーは安心したように息を吐く。
「そうだよね、僕らはそれでいいんだ」
それで話は終わったとハリーは、クルックシャンクスと階段を上っていった。残ったクローディアはベッロと顔を見合わせ、首を傾げる。
「……どういう意味だろうさ?」
ベッロは横に首を振り、理解不能と反応した。
寝台で眠りこけるパドマはピクリとも動かず、リサはクローディアより遅く帰ってきた。
「朝帰りしてしまいました。ダームストラングの方で、とっても紳士的な方でしたわ。クローディアは、どなたとご一緒でしたの?」
化粧を落としながら、リサは期待に目を輝かせる。クローディアは、わざとらしく大げさに肩を竦める。
「ジョージと一緒だったさ。医務室でさ」
「あら……、恋話も何もありませんわね」
残念そうに、リサは溜息をつく。寝巻きに着替え、さっさと寝台へと横になる。その様子を見ていたクローディアは、リサに報せるべき事をひとつ思いつく。横になったままの彼女に声をかける。
「リサ、私さ。ルーピン先生にフラれたさ」
今まさに眠ろうとしたリサは、目を見開いてクローディアの眼前に飛びついてきた。その迫力に押され、短い悲鳴をあげた。
「告白さなったのですね。素敵ですわ。私といたしましては、卒業式の後が乙な物ですが、それで?」
クローディアの両手を握り締めるリサは、愛らしく瞬きし詳細を請う。
苦笑し、昨晩の状況をあるがまま打ち明けた。要約すれば告白に近い疑問を投げかけ、一蹴されただけだ。
興味津々だったリサは、急に笑顔を消す。それでも瞳の輝きを保ったまま、口元に手をあてて頷く。
「貴女の勇気と度胸に感服してしまいましたわ。もし、ルーピン先生の講義がお辛ければ、私が微力ながらお助けいたしますわ」
「ありがとうさ。でも、大丈夫さ。ちゃんと、泣いたから」
今の心境を口にし、クローディアは自分の胸元に手をあてる。ルーピンについては、これ以上行動する気はない。平然としていられる自信はある。否、しなければならない。
「さあ、ゆっくり眠るさ」
「ええ、おやすみなさい」
話が終わり、リサは布団に身を包めると同時に眠り込んだ。
欠伸をひとつしたクローディアは、筆記用具の中から適当な紙を取り出し、ボールペンで走り書きする。その紙を折り込み、ベッロに銜えさせる。
「これ、ジョージに届けておいてさ。よろしくさ」
ベッロは承知し、這いずりながら扉を抜けていった。
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夕食の時間になれば、空腹を満たすために生徒は大広間へと集まる。昨夜の宴が冷め切れない何人の生徒は、惚けた表情で食事をしている。また、手痛い目にあった生徒は、少々不機嫌であった。
「俺、スネイプに見つかって減点されたけど、ペストラとは別の場所で盛り上がったぜ」
ザヴィアーのように、自慢げな生徒も勿論いた。
様々な想いを胸に秘めた生徒の中で、ジョージは殊更機嫌が良い。鼻歌を歌いながら、寮席を抜けて教員席へと出向く。笑みを絶やさず食事しているルーピンの前で、ジョージは足を止めた。
「こんばんは、ルーピン先生」
フォークの手を止め、ルーピンは愛想よく笑い返す。
「こんばんは、ジョージ。どうしたのかな?」
尋ねるルーピンに、ジョージは笑顔で丁寧に包装されたチョコレートを差し出した。
「ハニーデュークスの余りです。先生にあげます。これからも色々よろしく」
無理やりルーピンにチョコレートを手渡したジョージは、上機嫌にグリフィンドール席へと戻っていった。
意味がわからないルーピンは、それでも包みを解いてチョコを頬張る。その様子にハグリッドが驚く。
「リーマス、チョコレートは飯が済んでからにしたほうがええぞ。デザートは別だろうに」
「ああ、そうだね。つい」
そんなやりとりを遠巻きに見つめたジョージは、レイブンクロー席を視界に入れる。半分寝ぼけたクローディアが、皿に盛られたサラダを苦もなく平らげていく。
ほんの数時間前、ジョージはクローディアから手紙を貰った。
【昨晩は、ルーピン先生に振られたショックで落ち込んでいたから、油断しただけさ。心配かけてごめんさクローディア】
解決していない事、心配すべき事が多い。それでも、いまのジョージは、この上なく気分が良い。不気味そうにフレッドが視線を投げかけてくる。
「どうしたんだ? ジョージ……、気持ち悪いぞ……」
「え? ああ、俺って最低だなって思ってな」
フレッドには、理解不明の回答だが、ジョージには筋が通っている。クローディアとジュリアを対等に愛し、クローディアの失恋を喜ぶ。
これを最低と言わずして何という。
だが、ジョージの心は幸福に満ちていた。
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年が明けると、休暇は瞬く間に終わり新学期を迎えた。
初日、談話室の掲示板に告知が貼り出され、生徒は大いに湧いた。
【『姿現わし』練習コース
現在、または8月31日までに17歳予定の者は、魔法省より派遣される『姿現わし』の講師による12週間コースを受講する資格がある。
参加希望者は、下に氏名を記入されたし。
受講料 12ガリオン】
6年生が期待に胸を膨らませ、氏名を書き込んでいく。
「貴女も書くでしょう?」
クララに声をかけられ、クローディアは自分も当てはまると気づいた。
「これって、絶対さ?」
「いいえ、参加は自由よ。私も受講しないわ。こっそり、親戚からご教授頂いているの。寧ろ、受講せずに合格してみせろって。17歳になれば、資格試験のお知らせは来るわ。これも、希望だから、自信がついてからにしてもいいしね」
つまり、夏休暇中だ。
「私、休暇中が誕生日だからさ。その場合って、試験会場に行く事になるさ?」
「ええ、大体、誕生日の2週間前には案内が届くはずよ」
丁寧に説明して貰い、クララに礼を述べた。彼女と同じように、トトから特訓されている身だが、あくまで自己流だ。
まだ色々と未熟な自分は、資格は時期尚早。しかし、受講は必要と思い、希望者として名前を記入した。
『第2の課題』が迫り、選手たるハリーは、いまだ卵の問題が解けていない。そのせいで、ハーマイオニーから叱責を食らう日々だ。
「ハリーったら、ようやく、自分なりの謎を解いたんですって」
土曜日。『ホグズミード村』への外出の為、生徒は早々と支度する。
クローディアもハーマイオニー、ハリー、ロンと雪が半分溶けて湿った校庭を歩く。この4人が揃って出かけるなど、非常に久しぶりだ。
不意に湖から水しぶきの音が聞こえたので、クローディアが振り返る。停留している船の傍で、微かな波紋が浮かび、ビクトールが沈んでは浮かびを繰り返して泳いでいた。先に気づいたハリーが慄いて声を上げた。
「いま、クラムが……船から飛び降りたよ……。しかも、パンツ一丁で!」
意地悪くクローディアは、ハリーの肩に手を置く。
「寒中水泳さ。感心するさ。ハリーもやれば?」
「嫌だよ。凍えちゃう」
激しく横に首を振るハリーを無視し、ハーマイオニーが湖のビクトールを眺める。まるで、問題集の解説をするように話し出した。
「あの人は、もっと寒いところから来ているの。あれでも結構暖かいと感じているんじゃないかしら?」
「でも、あいつらさ。いっつも、暑苦しい外套着てるさ。暑苦しくないさ?」
「さあ、きっと着てないと落ち着かないんじゃね?」
クローディアの素朴な疑問に、ロンが適当な口調で言い放つ。ビクトールを無碍に扱うロンに、ハーマイオニーは悲嘆を込めて顔を顰める。
「あの人は、本当にいい人よ。ここがすごく好きだって、私に言ったわ」
ロンはハーマイオニーから顔を逸らし、何も答えない。この露骨な態度に、わざとらしく面倒そうにクローディアは、吐き捨てた。
「ロン、男の嫉妬は醜いさ。マルフォイみたいさ」
おそらく、ロンは瞬時に、頭に血を昇らせクローディアを蹴ろうとした。
しかし、ロンが足を伸ばした瞬間、クローディアは軽々と飛び跳ねて避けた。勢いをつけていた彼は、体勢の均衡を崩して地面に倒れこんだ。
益々不機嫌になったロンがクローディアと別行動を望み、仕方ないとハーマイオニーが彼を『ハニーデュークス店』へ連れて行った。
クローディアとハリーは、『三本箒』でバタービールを味わうことになった。
大盛況の酒場は、人で犇めき合っていた。
顔を真っ赤にしたハグリッドが、カウンターに座っていた。酔っぱらった彼の相手は、面倒だ。声をかけずに、2人は空席を探して店内を見渡す。
「あれは、バグマンさん?」
奇妙な光景を目にした。薄暗い隅の席で、蒼白なバグマンが大勢のゴブリンに囲まれていた。しかし、彼はハリーに気づき、席を立った。
ゴブリンを適当にあしらったバグマンは、ハリーに駆け寄ってくる。先ほどの緊張を消した無邪気な笑みが、クローディアには不気味に思えてならない。
「ハリー! 元気か? 君にばったり会えるなんて、実に運がいい! すべて順調かね?」
「はい、ありがとうございます」
丁寧に挨拶を返すハリーの肩をバグマンは、遠慮なく掴んだ。
「ガールフレンドとのデート中は、悪いんだが、ちょっと2人だけで話したいんだ。どうかね、ハリー?」
ガールフレンドという単語を否定すべく、クローディアは無機質に目を細める。
「バグマンさん。私はただの友達ですので、ハリーを煮るなり、焼くなり、好きにしてください」
「煮ても焼いてもいいなんて、寛大な子だ。そうだろう、ハリー?」
すぐにバグマンは、返事をしないハリーを隅の席にまで引っ張って行った。
残ったクローディアは、カウンターにハグリッドの姿がないことに気づく。空いた席に座り、マダム・ロスメルダにバタービールを2つ注文した。
入れ替わりの激しい客の中で、【ザ・クィブラー】を手にしたルーナを見つけた。クローディアはルーナを手招きすると、すぐに寄ってきた。
カウンターに座ったルーナに、マダム・ロスメルダは愛想よく歓迎した。
「新しい号を持ってきてくれたのね。ありがとう、ルーナ。1本、おまけしておくわ」
ルーナは【ザ・クィブラー】をマダム・ロスメルダに渡し、クローディアを振り返る。
「置かしてもらえるようになったさ?」
「そうだよ。バーベッジ先生が、持って来て皆に読ませてくれたの。ハグリッド先生もマダムに進めてくれたんだ。そしたら、マダムが私に購読したいって手紙をくれたもン。今回はクリスマスパーティの特集にしたんだ。コリンが写真をいっぱいくれて、どれを使おうかで時間かかったんだよ。さっき、パパから届いたばかっりなんだ。後で一部あげる」
嬉しそうに話すルーナに、クローディアが相槌を打つ。その間にマダム・ロスメルダがバタービールを三杯持ってきた。
飛びついたルーナは瞬きもせず、バタービールを一気飲みした。
「ジニーと約束があるから、私行くね。クローディア、ゴブリンとは関わらないように」
重要な忠告だと、ルーナはクローディアに耳打ちし小走りで外へ出て行った。その直後、バグマンがいそいそと店を出て行く。ゴブリンもバグマンを追っていった。
案の定、ハリーがクローディアの隣に座る。
「何か言われたさ?」
「金の卵のことで、助けたいって」
意外な答えに、クローディアは驚いてハリーを二度見した。
「正気さ? そんなことしたら、マッド‐アイが絶対、許さないさ。バグマンさんだけでなく、あんたもさ」
「だから、断ったよ」
バタービールを口にし、ハリーは真剣な表情のままだ。
「ディゴリーにも、バグマンの話に乗らないように忠告しておくべきさ?」
「その必要はないよ。セドリックには教えないって、僕の事が気に入ったとか言ってた」
露骨な贔屓に、クローディアは少し苛立つ。
「それよりも、あのゴブリン達だ。どうして、バグマンさんに詰め寄っているのかって聞いたら、言葉を濁された」
「バグマンさんが、ゴブリンに恨みを買ったか、何かさ」
バグマンの心配などしていられないし、興味もない。素っ気なくクローディアがバタービールを飲み干す。深刻そうなハリーもバタービールを飲み干そうとした。
しかし、スキーターがカメラマンを従えて酒場に入ってきたのを目にし、噴き出しそうになる。
「(『透明マント』を持ってくればよかった……)」
焦るハリーは、スキーターから死角になるようにクローディアの影に隠れた。
「(気づかれないように出るさ)」
代金を払い、クローディアは人混みを利用してハリーを隠し、酒場を出ようとした。
「ハリー!? 何をコソコソしちょる?」
お手洗いから現れたハグリッドがハリーを呼び止めてしまった。
ハリーが恨めしそうに森番を見上げる。その視線を受けたハグリッドは、スキーターの存在に気付く。ビクッと肩を痙攣させたが、もう遅い。
「ハリー! こんなところで会えるなんて、素敵ざんすわ」
数年来の友人のように、スキーターは他の客を押しのけて来る。クローディアは、ハグリッドの背にハリーを押し付けた。毅然とした態度で、スキーターを迎え討つ。
「ハリーは、ここにはいません」
「なんざんすか、この小娘は? ハリーのガールフレンド?」
興味津々に眺めるスキーターは、鰐皮バックから自動速記羽根ペンを取り出す。
「第一の課題のときとは、別の子ざんすね。ねえ、ハリーは女子をどんな風に扱うのかしら?」
「ノーコメント」
「貴方たちは、いつからお付き合いしているのかしら?」
「ノーコメントです。ミス・スキーター、貴女が【ザ・クィブラー】に記事をお載せになるなら、取材にお答えしますよ」
爽やかに微笑んだクローディアの発言に、スキーターは目を見開き口元を痙攣させた。専属カメラマンが驚いたように口を開け、自尊心を傷つけられたスキーターを何度も視線を送る。
「きちがいの雑誌に、あたくしの記事は載らないざんす。ああ、お嬢さん、あなたは相当……」
「その話、長くなりますか? 私は行くところがありますので、失礼します」
わざと語調を強くしクローディアは、スキーターの話を遮る。適当にあしらわれた記者が喚き声をあげていた。周囲の見物客が、忍び笑いを洩らす。
クローディアは視界と意識から遮断し、酒場を後にした。
雪が降り積もる道、酒場の死角になる建物でハリーがクローディアを待っていた。
「ありがとう。お陰で、スキーターから逃げることが出来たよ」
「全く、時間稼ぎとはいえさ。ああいう人とは、話したくないさ。まあ、真面目な記事を書く人だったら、ちょっとは嬉しいけどさ」
『ハニーデュークス店』に向かいながら、クローディアが嘆息する。
「あの人の記事は、本当にでっちあげだよ」
店の前で無事、ハーマイオニーとロンに合流する。4人はお互いに起こった事件を話した。
ロンの場合は、ジョージが新作のお菓子を彼が奢ってくれたそうだ。絶対に裏があると、戦慄していた。ハリーがバグマンとゴブリンの話をしたが、ハーマイオニーもクローディアと同じ見解を述べた。
「ゴブリンは魔法族と真っ向から戦える力があるわ。だから、とっても慎重なの。きっと、バグマンさんはゴブリンの逆鱗に触れたかもしれないわね」
そして、スキーターと鉢合わせした事を話すと、ロンが嫌そうに眉を寄せた。
「変な記事を載せられるかもしれないぞ。大丈夫か?」
「そうなったら、虫に変えてベッロの玩具にしてやるさ」
ハリーとハーマイオニーは、クローディアの冗談に爆笑した。
「あんまり、楽観視しないほうがいいと思うよ。うちのパパとママもあの人には、本当に困っているんだ」
ロンだけが心配そうに考え込んでいた。
閲覧ありがとうございました。
ハグリッド程の巨体が入れるトイレって…。