ついに、総合評価が1000Pを超えました。本当にありがとうございます!
追記:17年3月8日、18年9月2日、20年1月4日、誤字報告により修正しました。
クローディアがスキーターの記事へ怒るのは、ハーマイオニーを侮辱されたからである。決して、ハリーとの恋人説やコンラッドの『死喰い人』容疑などに、怒りも呆れも悲しみも何も感じなかった。
だが、それは昨日までの話。
もっと詳しく述べるならば、本日、活動を終了した部室に施錠する瞬間までだ。
隔週のお楽しみ、バスケ部。いつものように意気揚々と部室の準備をし、クローディアはハーマイオニーと部員を待った。
今回はハリーとロンも一緒だ。
これまで、簡単な練習試合は何度も行われた。次回は本格的な試合を試みる為に戦力計算したチーム分けをしたい。皆が来るのを今か、今かと待ちかまえた。
午前11時、部室開放。直後にデレクとシーサーが来た。2人は肩慣らしにパスの練習を始めた。
午前11時半、パドマとリサが見学に訪れた。部室の隅に座り、ハーマイオニーと模擬試験の内容について話し合い出した。
午前12時、様子を見に来たバーベッジが人の少なさに吃驚していた。
午後1時、デレクが呼びかけに向かう。ハリーとロンも一緒に付き添ってくれた。
午後1時10分、ネビルがディーンと訪れた。ネビルは徹夜で植物の本を読み漁り、倒れたらしい。心配したディーンが彼を医務室に連れて行ったそうだ。
午後1時半、ミムとコーマック、クレメンス、ローレンスがやってきた。次いで、ロジャーとザヴィアーも現れた。部員の少なさに彼らは先日のホグズミードで皆疲れていると解釈した。
午後1時40分、テリーとエディー、チョウがやっときた。チョウからバーナードは試験範囲の見直しで来られないと伝えられた。12人集まったので、体格差があるチョウとシーサーは、フリースローとパスの練習。残り10人で5対5の対戦をした。得点係をパドマが率先して行った。
午後2時、ルーナ、ジニー、コリンが来てくれた。コリンに弟はどうしたのかと問えば、彼は気まずそうに返した。
「上級生が【週刊魔女】の話題で盛り上がったらしくて、ナタリー=マクドナルドが偶然それを耳にして1年生中に広めちゃったんです。デニスにも来るように言ったんですけど……」
「ハリー=ポッターを惑わせる女子はお断りなんだって」
浮ついた口調一切なく、ルーナは冷たく言い放つ。それには、デニス達への軽蔑が含まれていた。
「私、グリフィンドールでそんな話が流行っているなんて知らないわ!」
ハーマイオニーが癇癪を起こし、ジニーは窘める。
「ハーマイオニーの前で【週刊魔女】を広げて、堂々と話すわけには行かないでしょう」
ぐうの音も出ず、ハーマイオニーは黙りこくる。ジニーはクローディアに向けて言葉を続ける。
「同じ学年のスリザリン生エドマンド=ハーパーから伝言。本当はザビニとグリーングラスからだけど、『良い暇つぶしだった。もう2度と行かない』だそうよ。それと、デメルサは体調不良で休みたいって」
クローディア達と同学年のスリザリン生には【週刊魔女】の記事が知れ渡っている。あの2人は『死喰い人』に批判的だった。真偽はどうであれ、関わりを避けることにしたのだろう。
「……まあ、あの2人にしてよく私に付き合ったもんさ…」
正直な気持ちは残念だ。クローディアを抜きにして、バスケを好きになって欲しかった。
午後3時になり、ロンは1人で戻る。デレクとナイジェルが怪我をし、ハリーが医務室に連れて行ったそうだ。
「デレクがナイジェルと喧嘩したんだ。ハッフルパフの1年生の間でも、記事の話が広まっているらしいぜ。アーミーが1年生に質問攻めにされて、困ってたよ。僕らで弁解しようとしたら、ナイジェルがハリーにクローディアは悪い女だって……。そしたら、デレクが怒りだしてよ。もう殴るわ蹴るわの大騒ぎ!」
眩暈に襲われたクローディアは頭を抱え、座り込んだ。
「2人はどれくらいの怪我さ?」
「大丈夫、マダム・ポンフリーがすぐに治してくれるぜ。けど、デレクはクローディアに怪我を知られたくないから、黙ってほしいんだと。だから、見舞いには行かない方がいい」
苦虫を噛み潰したような表情でロンは忠告する。納得できないクローディアはただ溜息を吐く。心底、疲れた態度で彼女は荷物から、包装されたお菓子を取りだした。
「ロン、これをガーションに渡して欲しいさ。バレンタインのお返しってさ。今日はホワイトデーじゃないけど、渡したかったさ」
「わかったよ。任せておいて」
そそくさとロンは医務室も向かった。
午後5時、ハリーとデレクは戻らず、他は誰も訪れなかった。
皆を帰し、クローディアは1人で片づけを行う。正確には1人になりたかった。そして、自分なりの考えを纏めた。
記事は多くの人に読まれる。反応はまさに十人十色、無視する者・笑う者・批判する者・真に受ける者がいる。どんな記事にも、人は何かしら影響される。
部室の扉を施錠した時、クローディアは自分の為にスキーターに対し、怒り狂った。
(許さん! 絶対に許さん!)
湧き上がる怒りを発散させるように、クローディアは扉に頭突きを喰らわせる。ゴッという鈍く激しい音が扉を振動させた。
ベッロにホグワーツ敷地内でスキーターを発見次第、連れて来るように命じた。クルックシャンクスやシヴァ、キュリー、果てはトレバーにも連携を組ませた。
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日曜に学生がすべきことは、明日の月曜からの授業に備えるために休むべきだ。
昼間でも薄暗く、緑色の灯りに照らされた談話室。ソファーにもたれたドラコは独り、天井を見つめる。
【週刊魔女】を読んだ母ナルシッサから、叱責の手紙が来た。己の母親はどんなにドラコが失態を犯そうとも決して叱りはしない性分だ。それなのにコンラッドが『死喰い人』と触れ回り、挙句、三流記者に漏洩するなど何事かと激怒していた。
実際、ドラコはパンジーにその話をした。そして、彼女はスキーターから取材を受けたい際、包み隠さず話してしまった。
母親に叱られたからではなく、ドラコ自身も話すべき相手を間違えたと後悔した。
女子寮から、パンジーが寝巻きのまま姿を現す。彼女に気付いても、ドラコは無視する。
「どうして、あなたが深刻な顔をしているの?」
「うるさい」
覗き込んでくるパンジーから顔を逸らしたドラコはわざとらしく溜息をつく。彼の隣に座り、彼女は真剣な表情で訴えかける。
「まだ、リータ=スキーターの取材に答えたこと怒ってんでしょ?」
煩わしそうにドラコはパンジーを視界に入れ、眉を顰める。
「スネイプ先生は話題にするなとおっしゃったぞ! 僕も同じだ! いいか、もし、あの記者が君と一緒にいるところを見かけたりしたら、幻滅するからな!」
怒鳴り声を張り上げ、ドラコは机に拳を叩きつけた。
「わかんない」
震えた声で呟いたパンジーは唇を噛み締め、目に涙を浮かべる。
「クロックフォードの為にドラコがムキになる理由は何? まさか……」
「君が考えていることはわかっているつもりだ。それは絶対に違う。僕はクロックフォードを庇わないし、慰めもしない」
ソファーから腰を上げ、ドラコはパンジーを見向きもせず男子寮に戻ろうとした。その背を睨み付けた彼女は拳に力を入れて震えだす。
「取材はもう受けないわ。けど、好きにさせてもらうから……」
涙ぐんだパンジーが吐き捨て、ドラコは一瞬だけ足を止めた。しかし、それでも振り返ることなく、談話室を去った。
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湖の波で微動する船は風もなくただそこにある。赤を基調とした壁紙と絨毯に覆われた自室で、スタニスラフは彫りの良い二段寝台の下段に腰かける。手には女生徒が入手した【週刊魔女】を握り、眉間にシワを寄せる。上段の寝台に寝転んだビクトールも心配そうに、記事を見下ろす。
〔その記事は本当だろうか? 確かにハーマイオニーはハリー=ポッターと仲が良い。でも、彼女の友達のことも悪く書かれていて、可哀想だ〕
〔十中八九、スキーターの嘘だろ。グレンジャーのことはハリー=ポッターに聞けばいい。しかし、クローディアのお父上の件はやりすぎたかもな。もしかすると、しばらくこの人の記事は読めなくなるかもしれないぜ?〕
寝台の手摺りに手をかけたビクトールは軽々と絨毯に着地する。
〔何故だ? もしかして、魔法省から圧力がかかるとか?〕
〔まさか、それより悪いことだよ。このスキーター氏にとってな〕
意味不明と首を傾げるビクトールにスタニスラフは含み笑いを見せた。杖を振るい、【週刊魔女】を燃やした。
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フクロウ郵便の時間、クローディアは複数のフクロウが運んできた大量の手紙を見て絶句する。全ての手紙が差出人不明だ。嫌な予感がする。案の定、ベッロが手紙に向かって威嚇した。
「見て! クローディア、これ!」
慌てたハーマイオニーが自分宛の手紙1枚だけ、見せつけてきた。新聞の文字を切り抜き、まるで脅迫文だ。
【ハリーを傷つけるなんて、最低、ビクトールからも離れろ】
クローディアは呆れながらも、その手紙を破る。こうしている間にも、フクロウ達が2人に差出人不明の手紙を運んできた。
ハーマイオニーが別の手紙の封を切ろうとしたので、やめさせた。そして、2人分の誹謗中傷手紙を大広間の暖炉に投げ込んだ。量が量だけによく燃え、悲鳴を上げる手紙もあった。
「ハーマイオニー、こういう手紙は開かず燃やすのが一番さ」
「ええ、その通りだわ。全く、皆、なんて馬鹿なの!?」
だが、これだけで手紙の嵐は治まらないだろう。
そして、クローディアは徹夜し、手紙を食う箱を作り上げた。手のひら程の箱に手紙を入れれば、書いた者に強制的に送り返す魔法をかけておいた。
ハーマイオニーの分を渡したとき、彼女は表情を輝かせてクローディアに抱きつき、箱に名をつけた。
「『返送箱』がいいわ! ありがとうクローディア! 最高だわ!」
その言葉だけで、クローディアは幸せだ。
早速、ハーマイオニー宛の不審な手紙が届き、『返送箱』で送り返した。同時刻、ダームストラングの船から、手紙の呪いに悲鳴をあげる女子生徒がいたらしい。
勿論、そんな手紙だけでなく、家族からの便りもある。コンラッドにスネイプとカルカロフの相談に関しての返事が来たが、文章は短かった。
【カルカロフは放っておけ】
これだけでは、どんな意味にも捉えることが出来てしまう。危険から回避させる為か、あるいはカルカロフを庇い立てしている。クローディアとしては、コンラッドが『死喰い人』などとは露にも思っていない。
(泳がせておけってことかもしれないさ)
ハリーに報せると、彼は違う意見だった。
「シリウスがね、あの記事を読んだんだ。あれも僕らを陥れる企みかもしれないって、言いだしたんだ。それで対抗試合が終わる……つまり6月になるまで絶対、危ないことするなって手紙をくれたよ。きっと、コンラッドさんも同じ気持ちなんだ」
それは考え過ぎだと思う。あの記事が誰も企みであれ、スキーターに弁解の余地などないのだ。
『薬草学』の時間、クローディアは興味と怪訝、疑問に満ちた視線を受け続けた。スリザリン生が主だが、それ程、親しくないレイブンクロー生の視線も混ざっている。パンジー達は仲間と耳打ちしては彼女を何度も指差す。その度、くすくすと嘲笑する。
しかし、ダフネは笑っておらず、我関せずだ。
「気にするな。あいつらは誰かを笑っていたいだけなんだ。その内、治まるよ」
心配そうにマイケルが声をかけてくれた。クローディアは彼に大丈夫だと、頷き返した。
『魔法生物飼育学』でも、ハッフルパフ生の視線は痛かった。
マダム・マクシームが珍しく、ハグリッドの授業を見学に訪れていた。そのせいで、彼はすっかり骨抜き状態で授業を行った。
この隙を狙ったようにザカリアスがクローディアに質問しようとした。しかし、パドマとジャスティンが盾になってくれた。
「私、パーバティから聞いたわ。スネイプ先生がスキーターの記事について話す生徒は、スリザリン生でも容赦しないって! とてもお怒りだそうよ。どうしても、クローディアに聞きだそうとするなら、スネイプ先生にお話しするわ」
生徒の間で戦慄が走る。スリザリン生でさえも、その怒りの対象になるなど前代未聞だからだ。それだけ意味のある話なのだと、ザカリアスは興味深そうだ。
下手に隠すと面倒である。仕方なく、クローディアはパドマの前に出た。
「スミス。どうしても、私のお父さんについて知りたいなら、マッド‐アイに聞けばいいさ。お父さんはマッド‐アイの信用を得ているさ」
不審よりも驚愕がその場を満たした。当然の反応である。シリウスもマッド‐アイを理由にコンラッドが『死喰い人』でないと決めている。
「もう質問はないでしょう? 誰も」
勝ち誇ったように、パドマは周囲を見渡していた。彼らの視線は次第にザカリアスへと集中する。
「やめましょうよ。あんな嘘の記事の為に、私達が猜疑心に駆られる意味はないわ」
不安がるハンナの言葉を聞き、ザカリアスは不快そうに頷いた。
授業が終わり、ハグリッドがマダム・マシームを家馬車まで見送るのを待つ。クローディアとパドマ、そしてジャスティンがファングと待ち詫びる姿を見て、彼は驚いた。 そして、例の記事にもっと驚きを見せた。
「コンラッドが『例のあの人』に手を貸すなんざあ、ありえねえことだ。俺が保障する。噂なんざ、放っておけ。その内、皆、飽きるもんだ。ただ、変な手紙は読まずに捨てろ。碌なもんじゃねえぞ」
「重々承知さ」
ハグリッドの激励を受け、クローディアはパドマとジャスティンと一緒に城へ帰ろうとした。
「ハグリッドは貴女のお父さんを知っているの?」
「うん。お祖父ちゃんと友達だったからさ、そういう繋がりさ」
「へえ、そんな前から……ハグリッドって、ここにいるんだ」
どうやら、ジャスティンはハグリッドが『秘密の部屋』の事件で容疑がかかったことを忘れているらしい。もしくは、その部分だけ知らないのだろう。
「それにしても、あのマダム。何かとハグリッドと話したがるわ。まるで、ロジャーとフラー=デラクールね」
楽しそうにパドマは言い放つ。何故だが、嫌味に聞こえた。
一週間程、中傷手紙は続いた。最悪な時は『吼えメール』も来ていた。『返送箱』で送り返すと、送り主はレイブンクロー生だったらしく、談話室で『吼えメール』が爆発したそうだ。そのせいで記事を知らなかった生徒(主に男子生徒)にも、クローディアとハリーの恋人説が露見した。
「どおりで女性陣の様子がおかしいと思ったら! クローディア、ハリー=ポッターだけはやめておけ!」
癇癪を起こすようにロジャーはクローディアを責め立てた。
「本当にクローディアがハリーと恋人なら、第2の課題で人質になっているはずでしょう?」
マリエッタの一言に、ロジャーはあっさり納得した。
しかし、噂は生徒だけでなく幽霊にも広がっていた。これは特に問題はない……はずだった。
お手洗いに行く度、『嘆きのマートル』から水浸しの攻撃を食らわされた。
「あんたのせいよ! あんたなんかにハリーはあげないんだから!」
得意の癇癪を起しては『嘆きのマートル』は水道を破裂させてお手洗いに被害を巻き散らした。まさか、ハリーが彼女にまで好かれているなど、誰も予想できない事態だ。
「私とハリーはただの友達さ! あんたの目には恋人同士にでも見えるってさ!?」
「全然、見えないわね。あははははは!」
滅多に見せない上機嫌な笑顔を向けながら、『嘆きのマートル』の嫌がらせは止まらなかった。流石にキレたクローディアは彼女が繰り出す水を火力の上がった炎で蒸発させた。
水が一瞬で消え去る様を目の辺りにし、『嘆きのマートル』は幽霊でありながら、血の気がなくなっていた。
ようやく、嫌がらせはなくなった。
模擬試験に取り組まなければならない時期、週刊誌の記事について騒ぎ立てる暇はない。
ロジャー、クララやザヴィアー達6年生が監督した模擬試験は無事終わっても、チョウやマリエッタは『O・W・L試験』に神経を尖らせていた。しかし、『N・E・W・T試験』で殺気立っているペネロピーよりはマシだ。週刊誌の話題を口にした生徒は、『勉学に励め』と激しく責められた。
そのせいか、学校内の生徒はクローディアに中傷手紙を出さないし、ハリーとの関係についても聞いてこなかった。
その分、ハリーが女子生徒から質問攻めにあったらしく、うんざりしていた。
『姿現わし』の試験が4月と告知され、6年生は僅かな楽しみを喜んだ。
「僕は問題ないね。5回も成功している。でも、クララはいいのか? 練習に出てないけど?」
「いいのよ、ぶっつけ本番が真の実力なの」
【顔のない顔に対面する】を睨むクララは心配してくれたザヴィアーに悪態ついた。
「クローディアは試験は休暇中だよね? 僕が合格したら、『付添姿現わし』しようよ」
ロジャーからのお誘いを丁重に断った。
復活祭の休暇は宿題を消化に追われ、過ごす。自室で参考書を開いたまま寝落ちしていたクローディアは周囲を見渡した。
夜明け前で薄暗い部屋で、リサとパドマも半開きの参考書を手に床で寝転んでいる。2人をそれぞれの寝台に運んでいるとき、妙な視線を感じた。ベッロかと思ったが、また何処かに出かけている。
「誰さ?」
呟いてみると、足元に気配を感じて見下ろす。そこにはウィンキーが見上げてきた。見間違いかと、眉間を指で解した。やはり、『屋敷妖精』が身を縮め、上目遣してくる。
「ウィンキー……、どうしたさ?」
「お嬢様、ご主人様がお呼びでございます。お部屋にいらして下さい。出来れば、お1人でとご主人様は申しておりました」
ウィンキーが呼ぶご主人はクラウチだ。脳裏に浮かんだのはシリウスが話したクラウチ親子の悲劇。かつては、『死喰い人』を裁いていた役人がクローディアに用件があると呼び出す意味を考える。
「ウィンキーは傍にいてくれるさ?」
身を屈めて尋ねるクローディアをウィンキーは恥らうように身を捩じらせる。
「魔法使いさまのご談話に顔を出すなど、恐れ多いのでございます」
「ウィンキーが私の傍にいてくれたら、心強いさ。ね? お願いします」
両手を合わせて頭を下げたクローディアを見て、ウィンキーは飛び跳ねた。
「ああ、あたちはお嬢様になんてことを! 頭を下げさせるなんて! ウィンキーは悪い子です!」
甲高い声で叫ぶので、パドマとリサが起きてしまう。クローディアは指先でウィンキーの口を塞ぐ。
「支度するから、待ってて欲しいさ」
自分の口を両手で塞いだウィンキーは命令どおりに扉の前で待った。
着替え終えたクローディアがウィンキーと談話室に降りると、思わぬ先客に足を止めた。絨毯の上でルーナが逆立ちし、つま先で細工の良い壷を弄んでいる。感心していいのか、呆れていいのか、反応に困る。
一先ず、ルーナの前に座り込む。
「頭に血が通うと、良い案が浮かぶとかいうけどさ。昇りすぎるのはいけないさ」
「その子はナーグルに呼ばれてきたの?」
返答せず目だけを動かし、ルーナはウィンキーを見る。
「私に用事があるって人がいてさ。呼びに来てくれたさ」
説明を聞いたルーナは壷を適当な椅子に蹴り飛ばし、後転して起き上がった。そして、クローディアの腕にしがみ付く。
「私も行くよ。だって、クラウチ氏は男の人だもン」
霞が消えた強い口調で断言するとき、ルーナは説得は聞き入れない。ウィンキーの立場もあるが仕方ない。
2人は一緒にウィンキーを隠しながら、クラウチが待つ部屋へと急いだ。
変わらず書類だらけの室内ではフクロウ便が行き交い、机の上では5本の羽根ペンが羊皮紙に文章を綴っていく。椅子に尊厳よく深くもたれたクラウチはクローディアの隣で首の運動をしているルーナを怪訝している。
余分な来客である上、クラウチには奇怪な行動する少女に思えたに違いない。クローディアにはルーナが書類を汚さないように注意を払っているときの動作だと理解できるので、特に不思議はない。
「早速、本題に入ろう。ミス・クロックフォード」
クローディアに視線を向けたクラウチは机に【週刊魔女】を放り投げた。誰も手が触れず、ページが捲られ例の記事を開く。
「この件について、もっと早く君と話したかったが何分、先に片付けなければならないことが多くてね」
薄手の手袋を嵌めた指先で、記事を突いたクラウチをじっと見たルーナが首を傾げる。
「手袋してるんだ?」
ルーナに答えず、クラウチはわざとらしく咳払いした。
「君の父上は本当に『死喰い人』かね?」
率直で真っ直ぐな問いかけに含まれた俄かな敵意、クローディアの心臓が痙攣するような圧迫感を覚える。それだけ、クラウチが『死喰い人』に対する憎悪が強いのだ。
「存じ上げません」
断言するクローディアは臆することなく胸を張る。眉間のシワを強くしたクラウチは椅子から腰を上げた。
「家族が互いに何をしているのか、知らないことのほうが多い。だからといって、引き裂かれるのは、あまりにも辛いものだ」
途端、悲痛な表情で苦悶するクラウチに少なからず動揺した。
己の息子のことを思い出しているのかと、クローディアは何か気の利いた言葉を探した。
「わかるよ。時々、淋しくなる」
純粋に、それでも相手の気持ちを考慮するに相応しい言葉をルーナは簡単に言い放つ。クローディアが横目で覗き見た彼女は淋しそうな雰囲気を放っている。
「『例のあの人』が倒れてから、いまだ逮捕されない『死喰い人』は多い。これは許しがたいことである。いまの私には彼らを見つけたとしても、逮捕する権限はない。だから、知っておきたいのだ! 故に今一度、問おう。君の父上は『死喰い人』かね?」
拳を握ったクラウチは訴えかけるような必死さを見せた。尊厳と威厳を捨て去ったような態度で、クローディアは身に摘まされるような思いになる。
「クラウチさん、お答えしたいのは山々ですが、私は父が何をしてきたのか、何も知らないのです。ですが、私が父を知る限りでは『違う』とお答えします。それでお許し下さい」
背筋を伸ばして頭を下げたクローディアをクラウチは驚いて口を開ける。
クローディアとしては目上への礼儀でお辞儀をしたのだが、クラウチは深刻に受け取り狼狽した。
「そんなつもりはなかったのだ。どうか、頭を上げなさい。ミス・クロックフォード」
椅子に腰掛けたクラウチはグラスに入った水を飲み干し、息を吐く。
「君の言葉を信じよう。もう、行きたまえ。ウィンキー、お2人がお帰りだ」
彼女たちの足元にいたウィンキーが扉に立ち、しっかりとお辞儀する。クローディアは、会釈してクラウチに背を向けるが、ルーナはまだ彼の手袋を気にしているのか、じっと見つめる。
「手袋が好きなの?」
一度、クラウチは手袋を見下ろし、答えた。
「インクで手が汚れるからだよ」
ウィンキーが扉を閉めるまでルーナは瞬きせず、クラウチの手袋を見つめ続けた。
寮に帰る廊下で、クローディアは興味本位でルーナに尋ねる。
「そんなにクラウチ氏の手袋が気になったさ?」
唇を八の字に曲げたルーナはクローディアの腕にしがみ付く。
「ナーグル避けにしては、ちょっと妙な手袋だと思っただけ」
普段のように浮ついた口調だが、意味深な印象を受けたクローディアはクラウチの姿を思い返す。
(手袋……いつも手袋してるさ。潔癖症か神経質さ?)
歩きながら考え込んでいると、背後に忍び寄る気配を感じ取った。クローディアが振り返る前、ルーナが相手に挨拶する。
「スネイプ先生、おはようございます」
その名に、クローディアの背筋で悪寒に走る。
ぎこちなく振り返ったクローディアを尖った黒真珠が怪訝そうに睨んできた。おそらく、クラウチの仮執務室から出てきたところを見られたのだ。
「おはようございます。スネイプ先……」
「こんな朝早くに、何をしておられるのですかな?」
反論と拒否を許さぬ詰問が2人に降り注ぐ。
「クラウチさんと話をしてたんだ。あの人の手袋は、ナーグル避け」
素直に話すルーナはクローディアと話すときと言葉遣いが同じなので、スネイプの機嫌を損ねないかと危惧してしまう。
だが、スネイプは慣れたようにルーナの話を聞き、目を細めてクローディアを視線で責める。
「何を聞かれた?」
「ある記事に関して、質問されました」
隠しても意味がない為、正直に答えたがスネイプの眉間のシワは一層深くなる。
「何と答えた?」
「『違う』と答えました」
一瞬、驚いたように口を開いたスネイプだが、すぐに唇を噛むように噤んだ。そして、ルーナを一瞥してから黒外套を翻す。
「君の我儘に付き合える友人は少なかろう。大事にしたまえ」
廊下に足音を響かせ去っていくスネイプを見送ったクローディアはルーナが見つめてくることに気づく。
ルーナは嬉しそうに口元を緩ませている。
「スネイプ先生、褒めてくれたね。私達のこと、良い関係だって」
ほとんど皮肉に聞こえたスネイプの言葉をどうすれば、そう解釈できるのか謎だ。だが、ルーナは独特で優しい感性を持っている。
ルーナにしか感じえないモノがあるのだろうと、彼女の頭を撫でた。
復活祭休暇が終わる頃には、嵐のような中傷手紙は来なくなった。
それでも、好奇心が消えるわけではない。リータの記事への関心が薄れた頃、クローディアがハーマイオニーと『数占い』の教室へ向かう途中、デニスに捕まった。
「ハリーと貴女はどういう関係ですか? 本当のことを話してください」
必死な態度でデニスはクローディアを問いつめる。
偶々、通りかかったコリンとジニーがデニスに気付いて止めに来た。
「デニス、やめろ。この人はハリーとはただの友達だって言っているだろ」
「そうよ。いい加減にしないと私が怒るわ」
「あ、違う! 待って待って、違うんだ」
ジニーとコリンの剣幕にデニスは慌てて頭を振るう。
「僕、考えたんです。ハリーが幸せなら、相手は誰でもいいんじゃないかって……。ハリーが好きな人を皆で寄ってたかって批判するのは間違いだと思うから……」
一呼吸置き、デニスは曇りのない真っすぐな瞳でクローディアを見上げた。ジニーが視界の隅に映るが、彼女に動揺は見られない。
「ハリーは僕らの憧れです。だから、幸せになってほしいんです」
真剣だ。憧れの人の幸せを願う。この気持ちの意味を考えたとき、クローディアは一瞬、ハーマイオニーに視線を向けた。
ハーマイオニーが誰かと幸せになる。その時、自分は祝福できるのかと自問した。
――まだ無理だ。
脳髄の奥で、自分の声が囁いた。
「ハリーはあくまでも、大切な友達さ」
戸惑いも躊躇いもなく、クローディアは答えた。デニスは残念そうだが安心しているようにも見える。
「なら、貴女のお父さんが……」
ハーマイオニーとジニーに凄まじく睨まれ、デニスは口ごもった。そのまま、彼はコリンに連れられて行く。
クリービー兄弟がいなくなり、ジニーはわざとらしく溜息をつく。
「ハリーもずっと、質問攻めよ。見ているこっちが嫌になるわ。まあ、いつまでも恋人を作らないハリーにも問題あるけどね。勿論、貴女もよ。だから、とっととロジャー=ディビーズと付き合えばよかったのに、フラー=デラクールに取られて!」
ぷりぷりとジニーはクローディアを可愛らしく睨んできた。
「ジニーだって、ハリーと付き合えばいいさ」
「それは無理よ。ジニーはマイケルと付き合っているもの」
解答問題が間違っていると言わんばかりのハーマイオニーの指摘、クローディアは一瞬、理解する時間が必要となる。理解はしても、信じたくなかった。
「え!? ジニー! コーナーと付き合っているさ!?」
「そうよ、クリマスからね。ほら、ダンスパーティーで気が合ったの」
吃驚するクローディアをからかうような笑みで、ジニーは付け加えた。
「まさか、ジニーもロジャーみたいに自分を磨くとかするつもりさ?」
動揺したクローディアは思わず口走る。途端にジニーから笑みが消えた。
「そんなわけないでしょう。ハリーのことは諦めたのよ。ホグワーツの男子生徒はハリーだけじゃないわ。それに世の中には男がいっぱいいるの。この際だから、言っておくわ。ダンスパーティーにはジョージは貴女と行きたがっていたわ。けど、ジュリアに邪魔されたの。だから、貴女にちょっとでも好意を持っていそうな男子が誘わないように、ジョージが手を回したのよ」
衝撃の真実を聞かされ、クローディアは絶句した。ハリー以外から誰にも誘われず、また断られ続けていた。正直な気持ちを言うなれば、淋しかった。それがジョージの仕業とわかり、段々と怒りが湧く。
「どういうつもりさ? 私に部屋の隅でメソメソしてろってことさ?」
「貴女が最終的にジョージを頼ろうとすることを期待したからよ! やりすぎだと思ったけど、結局、貴女はハリーと踊ったわ」
そもそも、ジョージの恋人はジュリアだ。クローディアが誰と踊ろうが、関係ない。 そして、クローディアとハリーがパートナーを組んだのは最後の手段に過ぎないのだ。
「他の人と付き合っていても、好きな人を『好き』でなくなるわけじゃないわ」
言い放つジニーは真剣そのものである。何の恥もない。つまり、今でもハリーを好きだということだ。まるで、クローディアに非があるように思えてしまう。
ジニーの清々しい堂々とした態度を見れば、そう感じずにはいられない。
クローディアは何も言えず、堪える。口を開けば、ジョージに対する罵りしか出て来ないとわかっていた。それも妹であるジニーの前では聞かせたくない程、酷い言葉ばかりだ。
「ジニー、遅れるわよ」
デメルサに声をかけられ、ジニーはしかめっ面のまま行ってしまう。クローディアは呼びとめなかった。
ハーマイオニーが遠慮がちにクローディアの肩に触れる。
「ねえ、クローディア」
「ああ、行こうさ。授業」
胸に渦巻く怒りを露わにしたまま、クローディアも歩き出す。おそらく、ハーマイオニーは別の意味で声をかけた。わかっていながらも、無視する他に対応が浮かばなかった。
終業の鐘が鳴り、本日の授業が全て終えた。黒板の数式が消え、生徒も騒がしい音を立てる。
「クローディアは恋しないの?」
教科書を鞄に詰めるハーマイオニーは図書室に誘うのと同じ口調だ。完全に気が動揺したクローディアは折角、鞄に詰めた教材を全て滑り落とし、床にぶちまけてしまった。
ハーマイオニーは驚かずにクローディアの教材を拾う。言葉は続いた。
「恋愛に興味がないって、悪いことだとは思わないわ。けど、良くないとも思うわ。本当にハリーをただの友達としか思っていないの? 貴女達がそうなれば、すごく素敵だと思うけど」
興味本位や冗談ではない。ハーマイオニーがクローディアを本気で心配している。純粋な彼女の眼差しが痛いほど、ぶつかってくる。それとなく目を逸らしてから、口走った。
「失恋したばっかりだから、そうそう新しい恋はいらないさ」
――刹那の間、沈黙。
「は? 失恋?」
怪訝するハーマイオニーは目を見開いた。低い彼女の声を聞き、クローディアは己の失言に気付いた。焦燥のあまり脈拍が早くなる。
ルーピンへの恋心を一切話していなかった。それをうっかり忘れていた。
「あら、知らなかったの?」
「ハーマイオニーはご存じだと思っていましたわ」
くすくすとパドマとリサがハーマイオニーに笑いかけた。
ハーマイオニーに教室の隅で詰め寄られた。言葉でなく、視線のみだ。クローディアは、嫌な汗を書きつつもハロウィンの頃から意識が始まったルーピンへの感情を暴露した。
勿論、ハーマイオニーへの気持ちは伏せた。
「ルーピン先生に対する態度が変だなって思っていたけど、やっぱり恋だったのね。私もそうじゃないかなって思っていたんだけど、勘違いだったらいけないと思って聞けなかったの。どうして、相談してくれなかったの!? そんなおもしろそうなことに!」
拗ねたハーマイオニーがクローディアから、顔を背ける。その頬はわざとらしく、膨らんでいた。
ハーマイオニーの反応はもっともだが、クローディアにしてみれば恋している相手に二股感情を相談などできない。
「ハーマイオニー、私がお父さんと同じ年頃で、しかも教師を好きって変だって思わないさ?」
「実際、両思いになったら大問題だけど、ただの片恋なら何の問題もないわ。それに、パパとママの友達にも元教え子で夫婦だって人がいるし、私は気にしないわ」
英国人の許容範囲が広いのか、それとも偶々クローディアの周囲は心の広い人が多いのか、考えるところだ。
「ひとつ、確認してもいいかしら?」
声を抑えたハーマイオニーがクローディアの耳元まで顔を近づけてくる。一瞬、心臓が喜びで高鳴った。
「もしも、ジョージがジュリアと別れて、貴女と付き合いたいっていったらどうする?」
「断るさ。ジョージは本当に良いと友達って感じで、恋愛感情が湧かないさ」
即答したクローディアに、ハーマイオニーは複雑そうに眉を寄せる。
「貴女らしいけど、少し酷くない?」
「下手に期待を持たせるほうが相手に失礼さ」
話しながら教室を出たとき、偶然ルーピンが通りかかる。擦れ違う生徒達と挨拶を交わしていた。
突如、クローディアに羞恥心が襲う。顔を真っ赤に染め上げて走り去った。
夕食を求め、クローディア達は大広間に着く。慣れたレイブンクロー席では随分と人だかりが出来ていた。バーナード、クララ、マリエッタ、セドリックもいれば、何故か、フレッドとジョージもいた。誰もが深刻な顔をしている。
一番、手前にいたセドリックに向かい、クローディアは思い切って声をかけた。
「ディゴリー、皆、どうしたさ?」
呼ばれたセドリックは躊躇うように周囲を警戒する。彼が答える前に、ジョージがクローディアの肩に顎を乗せてきた
「……バーサ=ジョーキンズが……死体で発見されたんだよ」
囁かれたジョージの声は暗い。見知った魔女の訃報、クローディアの背筋が悪寒に襲われ、同時に胃も刺激されて竦んだ。
「記事になったさ?」
「いいや。たったいま、バーナードが教えてくれた。あいつの親父は捜索隊に加わっていたから、報せてくれたんだよ。まだ、公にされていないが、明日にでも新聞に載るだろうな」
反射的にバーナードを見やる。悲痛そうな彼の手には手紙が握られていた。
「バグマンのせいよ。すぐにでも捜すべきだったのに!」
目に涙を溜めたクララが声を上げ、マリエッタが労わるように彼女の背を優しく撫でる。この場にいる者はジョーキンズの死を悼んでいる。噂好きでお喋り好きで詮索好きだが、好かれていたのだ。
額に浮かぶ汗を拭った時、クローディアは腕輪に『トロフィー室』と刻まれているのが見えた。
ハリーは『占い学』の授業中から、起こった出来事を洗いざらい話した。突然の悪夢と額の傷が痛みに襲われ、トレローニーは嬉しさで興奮していた。医務室を口実に授業を抜け出した。医務室には行かず、前持ったシリウスの助言に従い校長室へ向かった。
そこではダンブルドアが対抗試合の中止をファッジに訴えかけていた。理由はジョーキンズだ。しかし、大臣は脅しに屈するようなものだと断固拒否した。
ハリーの訪問を知り、ファッジは愛想良く取り繕った。話は終わったとダンブルドアは、大臣を見送りに出かけた。校長が戻るまで、ハリーは待たされることになった。
その間、ハリーは『憂いの篩(ペンシープ)』という水盆を興味本位で覗き込んだのだ。途端、憂いの中へと放りこまれた。ヴォルデモートが倒れた後に行われた『死喰い人』狩りの裁判を見たという。
カルカロフ、バグマン、そしてクラウチJrの3つの法廷だ。
鎖で雁字搦めされたカルカロフが釈放の為、仲間の名をあげた。その名にスネイプもあったというのだ。彼はダンブルドアが保証人である為、既に無罪であった。
バグマンは法廷で尋問されたが、彼を支持する魔法使いや魔女によって難を逃れた。今よりも若いスキーターが裁判を傍聴していたらしい。
『死喰い人』の仲間と連行されたクラウチJrは死に物狂いで父親に縋った。何の情けもなく、クラウチはアズカバン行きを命じた。クラウチ夫人が無慈悲な決断に気を失ったらしい。
「前に見た夢で、マグルのお爺さんがいた。同じ時期に、フランク=ブライスって人が行方不明になった。ダンブルドアがマグルの新聞を読んで、前の時と同じだって……」
必死に記憶を呼び起こすハリーは苦しそうだ。ハーマイオニーは聞き洩らしがないように羊皮紙にメモを取っていた。
「待ってね、OK。以前、夢に出てきたお爺さんは実際にいて、今は行方不明。クローディアのお父様から、カルカロフが自由と引き換えに仲間を売ったという話はこれで真実になったわ。その時の名前はマルベール、トラバース……全部、新聞に載っていたわ。それで、バグマンさんはルックウッドに情報を流した……。前にウィンキーがバグマンのことを悪い魔法使いだって言ってたでしょう。このことだったんじゃない? クラウチ氏はバグマンが刑を逃れたことを腹立てて、家でウィンキーに話したのよ」
「そうだろうけど、バグマンさんは、その……ルックウッドが魔法省での職を世話してくれるって言葉に乗せられただけって言っていた」
ハリーにも自信はなかった。だが、疑いたくもない様子だ。
クローディアも疑いたくない相手がいる。
「スネイプ先生が……本当に『死喰い人』だったなんてさ。つまりは、やっぱり……」
コンラッドも『死喰い人』かもしれない。その疑念が強くなり、クローディアは胸が重くなる。
「そうかしら? カルカロフが保身の為に、スネイプ先生の名前まで出してクローディアのお父様の名前を出さなかったなら、仲間じゃないのかもしれないわ。そりゃあ、マルフォイのような連中もいるけど、彼らは無実を主張したからよ」
ハーマイオニーの正論に、クローディアは幾分か救われた。確か、一度でも容疑をかけられ、それを弁解する機会を得ていないのならば、コンラッドは指名手配の扱いを受けてもおかしくない。ましてや、ダンブルドアやムーディが黙っているはずもない。
「以前……、マルフォイの父親はドリスさんにコンラッドさんへの伝言を託していた。『逃げられはしない』って、もしかして……コンラッドさんは『死喰い人』の誘いから逃げたのかもしれない。ドリスさんに何も言わなかったのは巻き込みたくなかったから……とか?」
ハリーの憶測にクローディアは沈黙する。目配りだけで判断不可能と返した。
「なんというか、校長先生は、スネイプ……先生を信用しているんだろ?」
「うん、校長先生とスネイプ、先生の問題だって……」
躊躇うロンに答えたハリーは寒気に襲われたらしく、身を震わせる。
「ハリー、夢の話を聞いてもいいさ?」
ようやくクローディアが声に出すと、ハリーは頭を押さえて記憶を思い返す。
「ワシミミズが、ヴォルデモートに何かを報せたらしい。……それをクィレルが怒っていた……。よくわからないけど、そんなはずがないとか……。けど、ヴォルデモートは予定を変えないって」
クィレルがヴォルデモートの傍にいる。聞くだけで、クローディアの心の奥底が竦んでしまう。
(しっかりするさ。とっくにわかっていたことさ)
自分自身に喝を入れたが、表情で丸分かりのようだ。ハーマイオニーは何も言わず、クローディアの肩を撫でる。温かな手に慰められた。
「ハリー、クラウチJrの裁判だけどさ。他に3人の『死喰い人』がいたのは、なんでさ? 他の人は1人ずつだったのにさ」
まるで痛みのある傷に触れられたように、ハリーはビクッと痙攣した。
「同じ罪状だったからだよ。『闇払い』の人に『磔の呪文』をかけて拷問した罪だって」
それ以上、ハリーは何も答えなかった。
閲覧ありがとうございました。
バーサ、ごめんね。助けられなかった。