やっと、ここまで来ました。展開遅くてすみません。
追記:16年3月17日・誤字報告により修正しました。
学期末試験期間が発表され、最終日は第3の課題と重なった。期待感がより募り、例年とは比べ物にならない緊張感が城内を漂っていた。
クローディア達は、試験勉強の合間にハリーの訓練相手をしようとした。しかし、彼自身が丁重に断ってきた。
勉強に集中して欲しいという心遣いが、クローディアは少し嬉しかった。
それに対し、ハーマイオニーと最後までハリーに付き合うと宣言した。
「心配しないで、少なくとも『闇の魔術への防衛術』では最高点を取ると思うわ。だって、授業以外でこんなにたくさんのことを学んでいるんですから」
「ああ、僕らが『闇払い』になる為には十分かもしれないぜ」
上機嫌なロンが『妨害の呪い』を迷い込んできたスズメバチに命中させた。スズメバチは、ポトリッと撃ち落とされた。
「……『闇払い』か……、それもいいかもしれない」
ベッロの頭を撫でながら、ハリーは誰に言うわけでもなく呟いていた。
「じゃあ、今日は杖なしで魔法を使ってみるさ。ハリー、私から『武装解除』で杖を取り上げてさ」
クローディアの提案に頷き、ハリーは杖をロンに預けた。気合いを入れる為に袖を捲り、彼の視線は彼女の杖に釘付けだ。
「魔法をかける対象から、目を逸らさないでね」
念押しするハーマイオニーの助言を耳に入れ、ハリーは唱える。
「エクスペリアームズ!(武器よ去れ)」
クローディアの手にある杖は、一瞬だけ見えない力に押された。ただそれだけで、手から取れなかった。やはり、杖を持つ時と違い、効力が弱いことは一目で知れた。
「ハリーが得意の『武装解除の呪文』でこの威力だと、……他はたかが知れるわね」
ハーマイオニーの指摘を受け、ハリーは残念そうに自分の両手を眺めた。
「クローディアも杖なしで、僕に『武装解除』してみてくれる?」
ハリーは杖を構え、クローディアは杖をハーマイオニーに預ける。
クローディアは、ハリーの杖に意識を集中した。ボールをゴールに入れる時と同じ感覚が自然と神経を通って行く。
「エクスペリアームズ!(武器よ去れ)」
クローディアが叫ぶと同時に、ハリーの手から杖が弾かれた。そのまま杖はロンが受け取った。ハーマイオニーが満足そうに頷く。
「クローディアなら、このくらい造作もないわね。ハリー、杖なしでは『武装解除の呪文』を徹底的に練習しましょう」
「どうやってやるんだ?」
真剣な態度で問いかけるハリーに、ロンは閃く。
「ハリー、前に親戚のおばさんを風船みたいに膨らませただろ。それと同じだよ」
「つまり、強く意識するってことか……」
色々と練習にしている内、マクゴナガルに空き教室ばかり使用していることがバレた。
「言って下されば、教室の使用許可を与えますとも」
授業がない間だけ『変身術』の教室を使う許可が下りた。教室に案内され、ハーマイオニーは口開く。
「マクゴナガル先生、杖なしで魔法が上手く出来るコツありませんか?」
その質問に、マクゴナガルは怪訝する。
「杖を奪われた時の為に、対抗策を練っているんです」
ハリーからの強い口調に、マクゴナガルは一瞬、躊躇う。しかし、自らを納得させて「いいでしょう」と呟いた。
「本来でしたら、『魔法史』で6年生から教える内容ですが……まずは杖使いの歴史について簡潔にお話しします」
黒板に、「杖使い」と書き込まれた。
「学校に来る前、我々は杖を使わず、魔法を発動させた事を覚えていますか?」
ハーマイオニー、ハリー、ロンは勿論と頷く。クローディアは一切、そんな出来事がないので、便乗して頷いた。
「魔法族は、元々、ゴブリン、『屋敷しもべ妖精』などの妖精族のように杖を持たなかったのです。しかも、妖精族より、劣っていました。それが紀元前1000年頃から……この辺りは歴史家が研究中ですが……杖を使い、魔法をより正確に精密に行う術が生まれ始めました。ですが、妖精族は、どんな杖を用いても、魔法をより強力にすることは叶いませんでした。こうして、杖使いたる魔法族と杖なしの妖精族との差が生まれたのです」
「では、私達は杖使いなのですね?」
羊皮紙にメモを取るハーマイオニーに、マクゴナガルは当然と返す。
「ですから、ミスタ・ポッター。杖を無くして魔法が使えないというのは、実は、ただの気のせいなのです。正しくは、杖に依存してしまったというべきでしょう。杖を手放す事態になっても、普段の通りに魔法を使える自分自身を想像するのです。杖はあくまでも手段のひとつだと忘れなければ、貴方は魔法を失いません」
授業中の態度で言い放たれ、ハリーは緊張で深呼吸する。
「でも、フリットウィック先生は? あの人は妖精族ですよね?」
ロンの素朴な疑問に、マクゴガナルは笑いを堪えるように目を細める。
「その通り、本来、杖使いとなれる妖精族は人間との混血だけです。しかし、あの方は魔法史の中で、唯一、杖使いとなれた妖精族出身の魔法使いです」
我が事のように自慢するマクゴナガルに、4人は呆気に取られた。
(フリットウィック先生……そんなに凄い人だったさ)
4人の反応が乏しく、マクゴナガルの怪訝な視線が送られた。慌てて、4人は大袈裟に驚いて拍手した。
時間と場所の確保が出来たせいか、ハリーの呪文の腕があがった。『妨害の呪い』、『粉々呪文』、『四方位呪文』が扱えるようになったが、『盾の呪文』だけがうまく行かなかった。杖なし状態での『武装解除の呪文』は、10分の1の確率であった。
「杖がない状態で魔法が使うと超能力者になった気分さ」
「あら、それだと無言呪文も出来るようにならないと駄目だわ。気が早いわよ」
クローディアとハーマイオニーは、そのまま超心理学の話に花を咲かせた。
ハーマイオニーは、日本での超能力者の研究が盛んではないことに驚いていた。
「私もそんなに詳しくないけどさ、有名どころは福来博士の念写実験くらいさ」
それも世界大戦前に行われた実験である。
「実はね私、ホグワーツから手紙が来るまで、自分の力をPK(念力)だと思っていたの。実際に簡単なテストも受けたわ。関係性は全くなかったけど、魔法族の為にも、PK(念力)やESP(超感覚的知覚)の研究はしっかりしておかないと、本物ばかりが糾弾されて詐欺師どもがのさばってしまうわよ」
ハーマイオニーの言い分は、最もだろう。日本において、超能力者の扱いは正直言って悪い。ある時期、多くの子供達が有名な超能力者の影響を受けたゲラリーニが誕生した。しかし、そんな子供達は世間やマスコミから、守られなかった。今になってわかるが、福来博士の千里眼事件がその例だ。2人の超能力者が世間の中傷によって、精神的に追いつめられ、その命を縮めた。大学教授たる福来博士でも、2人の人間を守り切れなかった。マスコミメディアによる弾圧を僅か十代の子供達が乗り切れるはずがはないのだ。それなのに、人々は容赦なく子供達を批判し、批難し、否定した。
まさに、中世の魔女裁判の如き行いだ。めげずに中傷から生き延び、成人して尚も超能力者として活躍する者は、僅か一握りである。それだけ多くの子供達が耐えきれなかったのだ。
魔法を否定している時点でマグルの世界に魔法は存在しない。それと同様、マグルの世界に超能力は存在しない。
だが、魔法界はある。それ故に、超能力などの非科学的なモノも確実に存在している。
クローディアの中で、ゲラリーニを弾圧した記者達がスキーターと重なった。きっと当時の記者達も真実よりも話題性を重視し、記事に着色を加えたりしたのだろう。
「ハリー、スキーターのことは何の心配もいらないさ。存分にやるさ」
「うん……、ありがとう」
クローディアは知らずと暗い重い声で、ハリーに励ましの言葉をかけた。
ハリーにしてみれば、機嫌の悪いクローディアのほうが心配だった。
課題の日が一週間前に迫り、シリウスとドリスからの手紙が競うように毎日届いた。ハリーは、十分、勇気付けられた。
シリウスの手紙を意識するだけで、クローディアがピリピリと苛立った。
待ちに待った第3の課題日は、最終試験日。
談話室でペネロピーから放たれる殺気に、皆が息を飲んだ。おそらく、いまの彼女はハリーよりも神経を尖らせているに違いない。7年生全員はこの試験で進路が決まるのだから、当然だ。
廊下を歩くペネロピーの手には、単語帳がいくつも握られている。
(そっか……、卒業……、ペネロピーは卒業するさ)
突然、胸に淋しさが過る。入学の頃から、ペネロピーに随分と助けられてきた。
(学年一位を目指すさ。ペネロピーが自慢できる友達であれるようにさ)
ペネロピーの背を見つめ、クローディアは決意した。
食パンと目玉焼きを齧じると、リサが【日刊預言社新聞】を隠すように見せてきた。その態度に、クローディアはスキーターの記事が記載されていると察した。目を通してみたが、【横暴な少女】や【蛇女】など、これまでより随分と幼稚な文面であった。
城内は使い魔達が厳重にコガネムシを見張るようになり、隠密行動も取れない。しかも、スネイプの命令で生徒は絶対、スキーターの取材に応じられないのだ。情報が不足し、どうにか記事を書いているといったところだろう。
クローディアは適当に流す態度なので、リサは安心した表情を見せた。
午前中の試験が終わり、集中力で激しく体力を消耗した生徒は大広間へと向かう。クローディアもパドマと一緒に、午後の試験予想問題集を見ながら、廊下を歩いた。
「どなたかしら?」
先を歩いていたリサが指差す方向に、スタニフラフと見知らぬ魔法使いが絵を眺めていた。シワの刻まれた顔は、何処となく威厳がある。目立たない色合い外套を纏っても、着こなし方が上品さを教えている。
「ペレツ! 家族の人さ?」
手を振りクローディアが、スタニフラフに声をかける。気づいた彼も魔法使いに耳打ちした。すると、魔法使いはシワを更に増やして微笑んだ。しかも、勢いをつけてクローディアの迫り、唐突に両頬を抓りだした。パドマとリサが思わず、小さな悲鳴を上げた。
〔こいつが孫か! いやあ、東洋系は顔の判別が難しいが、母親そっくりだ!〕
しかも、知らぬ言葉で快活に笑い出した。
「なひぃをすりぃんですか? はにゃせ」
「何をなさっているのですか? おやめください」
戸惑いに手を震わせたリサが魔法使いを咎める。しばらく傍観していたスタニフラフが魔法使いを窘める。魔法使いはクローディアから手を離し、満足した顔で息を吐いた。
「すみません。こちらは、以前お話した僕の曾祖父イリアン=ワイセンベルクです」
「こいつの手紙でぇ話は聞いておるぞぉ。ワールドカップのときに、君のお母上にぃお会いしたが、ソックリだぁ! っと、さっきはぁ叫んでいたのだぞぉ」
スタニフラフの頭を叩きながら、今度は豪快に笑い出した。気さくというべきだろうが、迫力がありすぎてクローディア達は苦笑するしかない。
しかし、それでは無礼だとクローディアは背筋を伸ばした。
「はじめまして、ワイセンベルクさん。ワールドカップの際は、ご挨拶できませんでした。申し訳ありません」
礼儀正しく頭を下げるクローディアを見下ろしたワイセンベルクは、見惚れたように口元を緩める。
そして、クローディアの髪を引っ張り出した。軽く触れているつもりかもしれないが、地味に痛い。
「女の子はぁ可愛らしいなぁ。まるでぇ娘の若い頃を思い出す。それもぉ何年の前だったか思いだせんなぁ」
結局、思い出すのか出さないのかどちらなのかと疑問する。
「そろそろ、ダンブルドア先生とのお約束の時間です」
助け舟と言わんばかりに、スタニフラフが報せる。わざとらしく残念がったワイセンベルクは、クローディアの髪から手を離す。
解放されたクローディアは、乱れた髪を手櫛で整える。
「またな、お嬢ちゃん…………」
背を向けたワイセンベルクが最後に何かを呟いた。微かな小声だったので、クローディアには聞き取れなかった。嵐が去った後は、空腹が襲ってくる。
「あの人、何処かで見たことあるような気がするんだけど」
急ぎ足で大広間を目指しながら、何気なくパドマが呟いた。
グリフィンドール席にいる来客に、クローディアは少なからず驚いた。生徒に混じってウィーズリー家のモリーと長兄・ビルが座っている。挨拶に近寄ると、ハリーの隣でモリーが今まで見たことない冷たい眼差しを向けてきた。
「こんにちは、モリーさん。どうして学校にさ?」
「こんにちは、クローディア。私たちのことはお構いなく」
丁寧に返す言葉には敵意が含まれる。驚くことも忘れ、クローディアの心臓が跳ねた。
「クローディアは僕の彼女じゃありませんよ。って言わなくても、モリーおばさんはわかっていますよね?」
ハリーが全力の作り笑顔でモリーを窘めると、急に暖かい雰囲気が周囲を包んだ。
「あら!? ええ、勿論、わかっていますとも! 私たちね、ハリーの家族として学校に招待されて来たのよ。ドリスも来たがっていたけど、残念だわ」
打って変わったこの態度、流石にロンも恥ずかしそうに身を縮ませた。ハーマイオニーも大広間に来たので、クローディアもグリフィンドール席に座って昼食を摂った。
第3の課題になると、選手の家族が招かれるのが通例らしい。本来なら、ハリーはダーズリー家かシリウスが呼ばれるところだが、特別な処置としてウィーズリー家が招待を受けたそうだ。
「選手の家族が呼ばれるのは、わかるけどさ。なんで、ペレツの家族まで来てたさ?」
「ペレツって、あのダームストラング生? あいつの家族がホグワーツに来ているって?」
クローディアの隣に座ったジョージが堂々と皿に盛っていたミートパイを摘まむ。
「ジョージちゃん、女の子の食事に手を付けるんじゃありません」
厳しくモリーがジョージを咎めた。
そこに、ダンブルドアがワイセンベルクと共に、大広間に現れた。
大広間で偶々、談話していたダームストラグ生達がワイセンベルクに気付く。男女問わず、背筋を伸ばして起立する。咄嗟の行動に何人かが驚いた。
〔食事を続けなさい〕
ワイセンベルクが外国語で指示すると、ダームストラング生達は緊張を解かぬまま着席した。
「あの人がペレツの曾祖父ちゃんさ」「あの人はブルガリアの魔法省大臣だよ」
クローディアとハリーは、ほぼ同時に話した。
「それは、ペレツの曾祖父さんは魔法省大臣ってことさ?」
確認を口に出してから、クローディアは吃驚した。動揺のあまり、手にしていたフォークをネビルに向かって投げ放った。
飛んできたフォークをネビルは慌てて皿で防ぐ。
「何するの!? 僕を殺す気!?」
「ごご、ごめん。気が動転してさ」
つまり、トトはブルガリアの魔法省大臣と交流があるのだ。何に驚いていいのか、わからない。
「あの人が魔法省大臣? まあ、ファッジ大臣とは随分、雰囲気が違うのねえ」
見惚れたようにモリーが呟く。
「親父が教えてくれたけど、あの方は、お忍びでこの国に来ているんだよ。そのせいで、ファッジも来るらしい」
楽しそうにビルが笑う。
「フランスの魔法省大臣は来られないのですか?」
何気なく聞き返したクローディアに、ビルは小さく口元を曲げる。
「どうかな? あっちの大臣が来ただけでも、魔法省は本当に大騒ぎだ。パーシーも秘書の仕事が忙しすぎて、てんわやんわしているってよ」
ビルの話を聞きながら、クローディアは視界の隅に、ハリーを映す。他国の魔法省大臣まで観戦にきたことが下手に緊張させないかと不安になる。しかし、そんな心配を余所にハリーは黙々と牛乳を飲んでいた。
食事を終えたクローディア達は、午後に向けての追い込みがある。ハリーに別れを告げ、大広間を出て行く。
二重扉の所で、パドマがクローディアの腕を掴んで耳打ちする。
「(思い出したわ。さっきの人は、ブルガリアの魔法省大臣よ。ワールドカップのときに見かけたわ)」
「(ウィーズリーさんに聞いたさ。お忍びにこの試合を見に来たんだってさ)」
頷いたパドマは、二重扉から大広間の教員席を失礼のないように覗き込んだ。そのパドマを避けるようにチョウがマリエッタと通りかかる。
「チョウ、ディゴリーのご両親が来ているらしいけど、会ったさ?」
「ええ、さっきセディが紹介してくれたわ。そうそう、セディのお父様から聞いたけど、ブルガリアの魔法省大臣がお忍びで学校の来ているんだって」
ここまで話が広がれば、もうお忍びではないとクローディアは苦笑した。
「ところで、セディって誰さ?」
「セドリックのことに決まってるでしょ。私、チョウは硬派だと思っていたのに、いちゃいちゃしてくれちゃってね」
不貞腐れたようにマリエッタがチョウの腕に、肘打ちする。恥ずかしさでチョウの顔色が見る見る内に真っ赤に染まった。
「ほら! 最後に追い込みするわよ!」
マリエッタのローブを掴んだチョウは、急ぎ足で廊下を進んでいった。チョウとマリエッタが先に行っても、パドマは大広間を覗くのをやめない。
「パドマ、先に行くさ」
「置いておきますわよ」
クローディアとリサに呼ばれ、パドマは軽く咳払いする。
「マルフォイのヤツが魔法省大臣に話しかけてたわ。でも、大臣は軽く流している雰囲気で、全然相手にしていなかったわ。いい気味ね」
「流石、マルフォイ。ちょっとでも、お偉いさんと縁作りってわけさ」
ドラコの名を聞いたとき、ここしばらくの授業でも彼と口を利いていないことに気づいた。おそらく、自分と話す興味が失せたのだとクローディアは結論づけた。
遂に試験が終わり、発表までの自由な時間が約束された。レイブンクローは例年ならば、答え合わせがある。しかし、日暮れからの第3の課題の為に備えて、十分に休憩するようにフリットウィックが提案してくれたのだ。
一番、解放されたのはペネロピーだ。緊張の糸が切れ、すっかり表情を綻ばせていた。
「抜かりはないから、後は結果を待つばかり」
談話室のソファーに体重を預けるペネロピーは、完全に気を抜いている。試験前が嘘のようだ。豹変にも近い、態度の変動っぷりにクローディアは感心と共に苦笑する。
「ペネロピーの進学は何処さ?」
「政経学部に行くわ。目指すは首相の秘書ってとこよ」
壮大な目標に意表を突かれ、クローディアは我が耳を疑った。しかも、魔法使いの職ではない。
だが、クローディアには馴染みのない職だ。
「かっこいいさ。政治家の仲間入りってわけさ? ペネロピーは教師とか、弁護士とか似合ってそうさ」
「よく言われるわよ。うちの両親も弁護士だし。でも、魔法界との関係を保ちつつ、仕事するには政治関係に就いていたほうがいいのよ。ほら、シリウス=ブラックのことをニュースで取り上げたでしょ? 有事の際は、魔法省がマグルに協力要請しやすいように、公務員にも魔法使いや魔女達がいるの。マグル出身者でもないと、職に就くのは難しいらしいわ。いきなり首相は無理でも市議秘書から順を踏んでいく!」
前向きな計画を立てているペネロピーは素晴らしい。
「魔法界とマグルの架け橋か、すっごく大役さ。頑張るさ」
「架け橋なんて、大袈裟よ。悪い気はしないけど……、そういえばクローディアは将来のこと考えていたりする?」
何気ない質問にクローディアは、脳裏に浮かんだ職業を口にする。
「あ~、スポーツ関係さ? バスケット選手になりたいって本気で考えたことはあるさ」
「いいじゃない。となると、大学進学は必然ね。日本と英国のどちらに行くとして、バスケの強い所を調べたほうがいいわ。魔法学校卒では、プロのチームにスカウトなんてされないしね。はっきり言うけど、勉強が倍になるわよ。大学受験もあるから、覚悟しておいて」
適切な助言だ。魔法界に拘りすぎ、魔法学校を卒業してから、改めて将来を計画する。そんな発想が全く浮かばなかった。大学のバスケットチームで成績を残せば、スカウトも夢ではない。
(電話で田沢にも相談してみるさ)
夢が広がり、高揚していく。
しかし、『N・E・W・T試験』と平行して受験を行うなど、一種の狂気だ。だが、ペネロピーは珍しい選択をしたと説明した。
「従来だと、卒業してから大学受験に向けて1年勉強するのよ。マグルの常識もじっくり勉強してね。でも、私はマグル出身だから、正直二度手間になると思って、一度に受けることにしたのよ」
実行したペネロピーを祝福する為、クローディアは拍手を贈る。
「そういう選択肢もありさ。でも、私は遠慮さ。大学進学にしても、1年はしっかり勉強したいさ」
すると、今度はペネロピーがクローディアに軽く拍手を返した。
「そうよね、学校にいると世間一般の常識が結構ズレるのよ。特にクローディアは外国育ちだし、その辺りは大丈夫なの?」
「その前に、この国の情勢も把握しきれてないさ」
まるで世捨て人だ。
苦笑し合う2人を眺め、バーナードが嘆息する。
「よくお喋りする気力が残ってんな」
「2人とも、長話していないで夕食に行きましょう」
延々と続くかと思われた雑談は、クララの掛け声で終わった。正確には夕食という単語に、クローディアとペネロピーの腹が反応したのだ。
「クララは将来どうするさ?」
螺旋階段を上りながら、クローディアはクララに問う。
「前に言わなかったかしら? 私は『闇払い』を目指しているの。マッド‐アイと話してみたけど、私は才能がないからやめておけ、ですって。悔しいったらないわ」
眉間にシワを寄せたクララは、何処か気晴れしたような表情で微笑んだ。不思議そうに首を傾げるクローディアの額に、クララは人差し指を突かせる。
「やめておけって、言われるほど成し遂げないといけないって思わないかしら? 私は思っているの。マッド‐アイの期待を裏切る『闇払い』になるつもりよ」
悠然と構えたクララは、余裕綽々と鼻歌を歌いながら大広間の席に着いていく。
「期待を裏切る……さ」
そんな考えをしたことはなく、クローディアには斬新な発想だ。それを成しえたとき、大いなる達成感に見舞われるだろう。
皿に野菜を盛りつけたクローディアの傍に、ハーマイオニーが座り込む。
「随分、嬉しそうね。試験に確かな手応えを感じたの?」
野菜を口に含み、もしゃもしゃと食べてからクローディアは頭を振るう。
「違うさ。進路のことをちょっと考えてたさ」
意外そうにハーマイオニーは、感心の声を上げた。
「そっか、そうよね。5年生になったら、進路について取り組まないといけないし、いいことだわ。それで、いまの進路は?」
「ミス・クロックフォード」
突然、誰かが呼んだ。振り返って視線を下げると、フリットウィックが立っていた。
「早く見つかって良かった。ミス・クロックフォード、緊急のお話があります」
ハーマイオニーと見合わせたクローディアは、すぐにフリットウィクに着いていった。
連れてこられたのは、職員室だ。夕食時で教師のほとんど人がいない場所にダンブルドア、バグマン、クラウチ、ムーディがいる。
そして、何故かその後ろでスネイプが睨んでくる。何かの叱責にしては、豪華すぎる面子だ。しかし、賞賛を受ける覚えもない。
理由を考えている間に、親しげにバグマンが手を握ってきた。
「君を呼び出したのは、他でもない。今夜の課題について、君の協力が必要だ」
「わ、私の協力ですか?」
突然の申し出に、クローディアは全身の血が速度を上げて循環する。第2の課題では、ハーマイオニーら4人の生徒が人質となった。今回も人質を頼むつもりかもしれない。
「心配しなくても、人質ではないぞ。君には優勝杯を守ってもらいたい!」
人質の心配はなくなったが、更に責任重大な役目を言い渡された。あまりの緊張感に全身が痙攣し、クローディアは音程の悪い悲鳴を上げてしまった。
「わ……わたしは、ただの生徒です……。無理です」
「君が1年生の折に、ハリーと活躍したことを知らぬと思っているのかね! これは君だからこそ、頼めるのだ。さあ! さっそく準備にかかってくれたまえ!」
まだ受けるとも答えていないのに、バグマンは乗り気でクローディアの肩を叩く。助けを求めようと、ダンブルドアに視線を送る。しかし、校長は微笑ましく目を細めるだけで何も口にしない。
「バグマンの思いつきには、こちらも驚いている」
終始黙っていたクラウチが眉間にシワを寄せつつ、バグマンの隣に立ってクローディアを見下ろした。
「しかし、君ならば出来ると私は信じている」
厳しい口調の中に含ませた優しい音程がクローディアの緊張を一瞬、解かせた。
「我輩としては賛成しかねます。ミス・クロックフォードはハリー=ポッターの友人です。贔屓を起こさないと言い切れません」
冷徹に言い放ったのは、スネイプだ。案の定、反対してきた。敵意を込めた眼差しはクローディアを射抜く。
「ミス・クロックフォードもご自分の実力を過信せぬのであれば、どう答えるべきかおわかりでしょうな?」
「スネイプ先生は、私には荷が重過ぎると申されるのですか? 役目を果たせはしないと?」
口調にトゲを込めて言い返したクローディアは、一度、視線を床に落とした。
「やります。役目を成し遂げてスネイプ先生の期待を裏切ってみせます」
スネイプを睨み返したクローディアは断言する。一瞬、彼の口元が痙攣した。
「よくぞ言った! さあ、他にも迷路に仕掛けをする教師がいるから、一緒に行こう!」
空気を壊すようにただ笑うバグマンにひっぱられクローディアは、職員室から連れ出された。クラウチとムーディもそれに続く。
「心配ですが、ミス・クロックフォードならやり遂げるでしょう。私も迷路近くまで着いていきます」
フリットウィックはダンブルドアに会釈し、職員室を出て行った。
残されたダンブルドアとスネイプは、お互いの顔を見やる。スネイプは土気色の顔色を更に青くする。
「……我輩は……、決してそんなつもりは……」
「セブルス、子供は成長するもんじゃよ。望もうと望むまいとな。さあて、わしらは食事を済ませてから、会場に行くとしようかのお」
含みを込めた口調でダンブルドアは、和やかだ。しかし、目つきは何処か緊迫している。頭を抱えたスネイプは、校長の微かな異変に気付けずにいた。
職員室を出た途端、マダム・マクシームがいた。麗しい巨体に吃驚したのは、クローディアだけではない。
「やあ、マダム。どうしたね? 職員室まで来るとは!」
快活なバグマンの会釈に、マダム・マクシームも挨拶を返す。ムーディの義眼がマダム・マクシームを警戒していた。
義眼を気に留めず、マダム・マクシームは職員室の扉を眺める。そして、クローディアへと声をかけた。
「アグリッドは、どちらに? 家にも居ませんでした。あなた達の試験が終わったら、フラーのご家族を紹介しようと約束していたのですが」
「第3の課題を準備していると思います」
クローディアの答えに、マダム・マクシームは納得した。
「アグリッドへ待っていると伝えて下さい」
「承りましたよ、マダム」
クローディアに話しかけたはずが、何故かバグマンが上機嫌に答えた。
クィディッチ競技場は最早、その面影をなくし薄気味悪い茂みに覆われていた。第一の課題では、まだ競技場の形は残していたが、これは恐怖感を煽る。しかも、いまはまだ周囲が明るいが夜になれば、更に不気味さが増してしまう。
迷路への入り口で、仕掛けの用意をする教師が準備をしていた。そこに現れたクローディアに、ハグリッドだけでなくルーピンも驚きを隠せない。しかも、迷路で優勝杯を守る役となれば尚更だ。
「本当に大丈夫か? 怖くなったり、危なくなったら、すぐに報せろ。俺が助けに行ってやる」
「ありがとうさ、ハグリッド。私なら、大丈夫さ。それと、マダム・マクシームが呼んでいたさ」
ルーピンが真剣な表情でクローディアに顔を寄せる。油断していた彼女の心臓が高鳴った。
「ベッロはいなくていいのかい?」
「バグマン氏に聞いてみたんですけど、ダメだって言われました。でも、私なら大丈夫です」
実際は、緊張で脈拍が騒がしい。
「ミス・クロックフォード、こちらに」
クラウチに呼ばれ、クローディアはハグリッドとルーピンに頭を下げてから向かった。
「落としてはいけないよ」
緊迫したクラウチは、上等な布に包まれた荷物を慎重な手つきで渡された。クローディアは興味深く布を見つめる。重くもなく、それでも軽くはない包みの形を布越しに確かめた。
「これが優勝杯ですか?」
「その通りだ。迷路に入ったら、君がここだと思う場所に置いてから、布を解きなさい。そして、選手の誰かが来てから、一緒に優勝杯に触りなさい。それまで、絶対優勝杯に触れないように、いいね?」
ここが重要だと強く念押しされる。クローディアは緊張で呼吸が苦しくなりながらも、頷く。腕の中に優勝杯が抱かれているのだと、意識してしまうと慄いて手が震えてしまう。故に、良い壺を託されたのだと、自分に言い聞かせた。
「クラウチさん、優勝杯を守るというのは具体的に何をすれば良いのでしょう? 選手の皆さんと殴りあいですか?」
殴りあうという単語に、クラウチは吃驚していた。
「そんな必要はない。今回の競技大会、私の目から見ても何者かの介入工作があるのは明らかだ。これまでの課題には影響が無かったが、最後の課題は人目がない。介入者がいるとすれば、迷路こそが一番危険なのだ。かといって、迷路内に見張りを置くわけにいかん。そこで、バグマン氏が生徒を置こうと提案してきたのだ」
真剣に説明するクラウチを余所に、クローディアは敵の妨害を強く意識した。そして、【敵】という単語に、脳裏でクィレルが連想される。
誰のも目から遠ざかる迷路。仕掛けの多い場所なら、選手の身に万が一の不足の自体が起ころうとも、誰も助けられない。敵がハリーに害を与えるなら、絶好の機会。
(勢いで引き受けたけど、これならハリーを近くで守れるさ)
もしくは、クィレルに会えるかもしれない。
再会を恐れ、または期待する感情を殺す為、クローディアは拳を握り締める。そうしたところで、胸中を騒ぐ焦燥を消せはしないとわかっていた。
迷路に仕掛けをするハグリッドとルーピンに続き、クローディアは迷路へと飛び込んだ。耳につく茂みの音が周囲の薄暗さと重なって、より不気味な雰囲気を作る。
(ちょっと怖いさ、お化けとかでそうさ。今回ばっかりは、ピーブズが悪戯しないといいけどさ)
周囲を見渡しながら進むクローディアは、無意識に前を歩くルーピンのローブを掴んでいた。
「幽霊除けの魔法がかかっているから、ピーブズの心配もいらないよ」
ルーピンが優しく声をかけてきたので、クローディアは彼のローブを掴んでいることに気づく。驚いて優勝杯を落しそうになった。
「べ……別に、怖くなんかありませんよ。ちょっと……本当にちょっとだけ、緊張しているだけです」
「素直になっていいんだよ。さっき、ハグリッドが言ったように危なくなったら、杖を空に向けて白い花火を上げなさい」
広い手がクローディアの頭に乗せられた。
暖かい手の感触が皮膚に伝わり、クローディアの体温が一気に上がる。
「はい、前向きに検討致します……」
ハグリッドとルーピンは仕掛けを施すために、迷路の途中でクローディアと別れた。
1人になったクローディアは、茂みの騒がしい音に息を飲む。じっとしているわけにも行かず、出来る限り奥へと進んだ。外との距離感が掴みにくくなったが、歩数を思えば迷路の中心まで来られた。
(ハリー達、この中を進んでくるさ。さて、私はこの辺にするさ)
その場で蹲り、クローディアは布に包まれた優勝杯を慎重に地面へと置く。地面に置かれたことを察知した布が勝手に解かれた。そして、布は瞬く間に銀色の台へと姿を変えた。
(こういう仕組みさ)
布にかけられた魔法にも感心したが、中身である優勝杯は、更に魅力される輝きを上品に放っていた。 肉眼でも把握できる金属とは違う質感、水面のように滑らかな輝きを自ら放っている。繊細な文様に馴染むように【優勝杯】と刻まれた部分は、より一層輝きを強い。
――ああ、何と美しい。
(綺麗さ、これをハリー達が取りにくるさ)
教師が仕掛けた罠を潜り抜け、この優勝杯を手にする目的のためだ。
優勝杯を眺めているうちに、周囲が段々暗くなる。空を見上げると一番星が瞬いた。初夏の時期とはいえ肌寒く、クローディアはローブで体を包みんだ。優勝杯の淡い光を頼りに体育座りする。
「紳士・淑女の皆さん! 第3の課題、つまり最後の課題が始まります! 現時点の1位であるセドリック=ディゴリーとハリー=ポッターが最初に、迷路に入ります!!」
バグマンの挨拶が草のざわめきの合間を縫って、クローディアの耳に届く。緊張と共に高揚感が湧き起こり、体温が上昇してきた。逆に熱くなった体を冷まそうとローブを脱ぎ捨てた。
「大砲の合図で開始します!」
バグマンの叫びと同時に、大砲の轟音が響いた。最後の試験開始に、観衆の雄叫びがクローディアに届くが、流石に遠いため、熱狂感までは伝わらない。
轟音はクローディアの中でも、一種の合図となった。
敵を迎え討つ。
ただの衝動が脳髄さえも支配した。最早、怯えも戸惑いもない。
(クィレル、姿を見た瞬間に、全ての決着をつける!)
クローディアの内なる声に応えるが如く、周囲の草が一瞬で枯れ落ちた。
閲覧ありがとうございました。
欧州はESPの研究が盛んなので、マグル生まれは、まず超能力と誤解されるのでは?と勝手に推測しました。
フリットウィック先生は、ゴブリン×OO族の混血だと勝手に思っています。