こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
これが締め回です。

追記:17年3月8日、誤字報告により修正しました。


25.敵対

 翌朝、目を覚ましたクローディアの眼前にドリスがいた。誰が相手でも、寝起きに人の顔は吃驚する。安心していいのか、正直、戸惑った。

「何も言わなくていいわ。ええ、何もね」

 ドリスはクローディアとハリーを交互に抱きしめ、そう囁いた。

 不安と安堵の籠った声を聞く限り、昨晩の出来事をドリスは知っていると察した。何も言葉が浮かばなかったクローディアは、頷くことしか出来ない。それはハリーも同じだ。

 無事な姿を見て安心したらしく、ドリスはすぐに帰った。

 入れ違いで、ハーマイオニーとロンが駆け込むように面会に現れた。

 ハーマイオニーは密封したガラス小瓶を取り出し、見せつけた。中には、コガネムシが一匹だ。それがスキーターだと、クローディアとハリーには理解できた。

「ベッロがクルックシャンクスと捕まえたの。『割れない呪文』で出られないようにしてやったわ」

 昨晩の窓辺での騒ぎは、スキーターを捕まえる為だったようだ。特ダネを掴む為に、危険を承知で城内に入りこむとは良い度胸だ。

 初めての朗報といえる。

 ハーマイオニーとロンは、昨夜のことを追及しなかった。それが2人なりの気遣いだと、すぐにわかった。

 その日の夕方、フレッドとジョージが見舞いに来た。モリーに悪戯道具を持っていないか、入念に確認を受けてから、ようやく入れてもらえた。

「マッド‐アイがクラウチJrを連れて行ったよ。もう2人は学校にいない」

「魔法省の分からず屋を納得させるために、証言させるんだってよ。マッド‐アイの『目』を誤魔化すなんて、狂気の沙汰だぜ。クラウチJrって奴は」

 報せてくれたフレッド、ジョージにハリーは礼だけ述べた。クローディアと話す前に双子は、モリーによって早々に追い出された。

 

 それから丸一日経ち、クローディアとハリーは退院した。

 ハーマイオニーとロン、パドマとリサが迎えに来てくれた。

「今朝、校長先生が全校生徒に諭していたわ。クローディアとハリーから何も聞かないようにってね」

 非常に有難かった。

 その言葉通り、質問はない。その代わりに、ヒソヒソ声や視線が何処を歩いても付き纏った。

 ドラコは常に何か言いたげな視線を送ってきた。しかし、クローディアには必ず誰か着いていたので、彼も話しかけてこなかった。

 もっともルーナが自前の防衛グッズを身に着けて、クローディアに付き従えば、違う意味で話しかけづらい。

 

 気楽に過ごせたのは、ハーマイオニー達は勿論の事、あの晩クローディアを助けてくれたルーナ、ジニー、ロジャーといる時だ。

 しかし、ハリーは出来るだけ、ロンとハーマイオニーと過ごした。

[ありえん、もう本当、信じられん!]

 退院してから、ベッロはクラウチJrに対する怒り以外は口に出さなかった。それがハリーを気遣ってなのか、ヴォルデモートとのことを話題にしたくないのかは、わからなかった。

 

 【改訂版ホグワーツの歴史】の修正が終わり、クローディア達はハグリッドの家を訪れた。ベッロはファングとお互いの方法で挨拶を交わす。森番は大歓迎で、家に入れてくれた。先程まで、誰かと茶を楽しんでいた痕跡があった。

「オリンベとお茶を飲んどったんじゃ。たったいま帰ったところだ」

 ベッロがいそいそと食器を流しに移す。ハグリッドはベッロを眺めた。

「もうベッロは大丈夫そうじゃな。まさか、こいつを錯乱させるたぁな。エゲツねえことするもんだ」

「その話はしないほうがいいよ。ベッロも随分、悔しいみたい」

 ハリーに頷きながら、ハグリッドは4人分の茶を用意する。その間に、ベッロが生焼クッキーを皿に盛った。

 ベッロを抱き上げ、ハグリッドは椅子に腰かける。

「大丈夫か、ハリー?」

 何に対してかは、ハリーはすぐにわかった。

「うん」

「いや、そんなはずねえ。だが、すぐに大丈夫になる。奴が戻ってくることは、わかっとったことだ。ハリー、おまえさんが叔母夫婦のところに引き取られる頃から、ずっと……」

 ハグリッドの言葉に驚いたハリー、ハーマイオニー、ロンは彼を見上げた。クローディアだけは目を伏せ、記憶を掘り越していた。

〝ヴォルデモートは滅んでいたのではなく、弱っていただけ〟

 そんな話を誰から聞いたのか、忘れた。

「俺達は奴が戻った事を受け止めて、戦うんだ。それはダンブルドア先生も同じだ。あの先生がいる限り、俺は心配なんざあしていねえ。くよくよしても始まらん」

 見栄でも意地でもないハグリッドの本心に、クローディアは自然と頷く。

 ハリー達はまだ驚いていた。

「来るもんは来る。来た時は受けてたちゃええ。ハリー、おまえさんがしたことを聞いたぞ。おまえさんは、親父さんと同じくらい大したことをやってのけた。これ以上の褒め言葉は、俺にはねえ」

 大切な父親と同じ、それはハリーの胸を暖かくさせた。ハグリッドが穏やかに微笑んでくれたせいでもある。彼の丸くクリクリした瞳がクローディアに向けられる。

「俺とオリンベは、夏の間、ちょいと仕事をせにゃならん。ダンブルドアから依頼された。だから、俺からは手紙が出せねえだろう。それだけ、遠くに行く事になる」

「ハグリッドも頼まれたの?どんな?」

 ハリーが飛び付くように尋ねる。

「言えねえ事だ。さて、最後になったスクリュートを見て行かねえか?」

「最後さ?」

 場の空気を変えようとハグリッドが明るい声を出すが、クローディアは疑問する。

「ああ。先日、スクリュートが共食いをやってな。一匹だけになっちまったんだ」

 残念そうにハグリッドは溜息をつく。

 聞いているクローディアは、少々気分が悪くなった。同族を喰らい、生き残る。まるで、呪詛のようだ。しかし、スクリュートに哀惜の念はないだろう。救いといえば救いだ。

「私、見て行くさ」

 クローディアの返事をハーマイオニーが阻止しようとしていたが間に合わなかった。

 上機嫌になったハグリッドに案内され、3メートルに成長したスクリュートと対面した。

 以前見た姿は幼虫? だったらしい。その頃がまだ可愛げがあった。否、なかった。スクリュートから話題を逸らそうと、口を開く。

「そうそう、ハグリッド。私とハーマイオニーで【改訂版ホグワーツの歴史】を作ったさ。ハグリッドに質問したことも書いてあるさ」

「ほお! そいつはすげえ! おめえはいろんなことに挑戦するな。すげえことだ。本当に大したもんだ」

 誇り高いと言わんばかりに、ハグリッドはクローディアの頭をくしゃくしゃに撫でた。

 

 学年末の宴は、しめやかに行われた。大広間は紫の垂れ幕がかけられ、寮席が取り払われて、まるで教会のように座椅子が並べられていた。

 それでも、習慣の為か、自然と寮が固まって座られる。空いた席にダームストラングとボーバトンの生徒が座っていく。

 クローディアの隣にスタニフラフが挨拶をしながら、座り込んだ。

「(ブルガリア魔法省から正式に『例のあの人』復活を公表しました。フランス、ドイツが共同戦線を張るということです)」

 囁いてきたスタニフラフに、クローディアは頷く。場の空気のせいか、囁くような話し声だけしか聞こえて来ない。

 全校生徒、職員が大広間に集まったのを確認される。

 ダンブルドアが椅子から立ち上がる。それを合図としていたように、大広間が誰もいないように静まり返った。呼吸さえ、聞こえない。

「今年も終わりがやってきた。皆は、疑問していることだろう。第三の課題で何が起こり、ハリー=ポッターの優勝を祝わないのか。それは、信じたくないであろう事件が起こってしもうた。ヴォルデモート卿が帰って来たのじゃ」

 その名に、スタニフラフが唾を飲み込んだ。

「魔法省は、この事を口止めした。しかし、すぐに皆も実感するであろう。そして、実感した時には、何もかも手遅れであろうてな。ヴォルデモート卿はじっくりと、確実に君達の暮らしを蝕んでゆくぞ。その証拠にイゴール=カルカロフ校長は、奴を恐れて逃亡しおった。知っている者もおろうが、彼は元『死喰い人』であった。奴の恐怖を知り尽くしておった。だから、逃げ出したのじゃ」

 ダームストラング生が一瞬、ざわついた。

 クローディアも驚き、鳥肌が立つ。ダームストラングがそんな大事になっているなど知らなかった。そんな彼女をスタニフラフは気にしない。

「ハリー=ポッターは、辛くもヴォルデモート卿の手を逃れた。自分の命を賭して、クローディア=クロックフォードを連れ帰った。かの魔法使いと対峙し、ありとあらゆる意味でこれ程の勇気を示した者は、そう多くない。その勇気をわしは讃えたい」

 ダンブルドアの視線そのものが、既にハリーへ拍手喝采だ。

「ハリー=ポッターに!」

 突然の若い声、セドリックが立ち上がった。そして、ビクトールとフラーも勢いよく立った。クローディアも立ち上がると、後に続くように生徒達が立ち上がっていく。

 スリザリン生でも、何人か立ち上がっている。無論、ドラコ達は縫いつけられたように座り込んでいた。

 

 ――ゆっくり、着席が終わる。

 

 次にダンブルドアは、三大魔法学校対抗試合の目的、ヴォルデモート陣営と戦うには揺るがぬ絆が必要だと語った。

「皆さんは、いつでも、好きな時にこの学校を訪れてください。ここは貴方達の家でもある」

 ダームストラング、ボーバトンの生徒を1人1人見渡し、ダンブルドアはいつもの優しい声で話を終えた。

 

☈☈☈☈

 皆のハリーを讃える様子(一部を除いて)を見て、大切な事を思い出す。ハリーは、セドリックに優勝杯に触れさせようとしたのだ。

 咄嗟の機転でセドリックがハリーに優勝を譲った為、彼は難を逃れた。危うくヴォルデモートの前に晒す所だった。否、最悪、殺されていた。

 この危険に、ハリーは恐怖で身ぶるいした。

 宴が終わり、ハリーは急いでセドリックに駆け寄った。

「セドリック、僕、僕は……」

「ハリー、僕はね。君が優勝してよかった。心からそう思うよ。父さんもわかってくれる」

 慌てふためくハリーと違い、セドリックは親友への態度であった。自分の命が危うかったというのに、彼は少しも一欠けらもハリーを責めない。

 余計にハリーは、セドリックへの申し訳なさで詫びた。

「本当にごめんね、セドリック、ありがとう」

 ロンに声をかけられるまで、ハリーはセドリックの手をしっかりと握りしめた。

 

 ――感謝を込めて。

 

☈☈☈☈

 談話室にて、フリットウィックが試験結果表を配っていく。

 4年生の学年1位は、クローディアであった。そのことをペネロピーは、我がことのように喜んでくれた。

 ペネロピーは文句なしの最高点を獲得し、大学の受験も合格した。心置きなく、彼女は卒業していく。

 汽車に乗る時間まで、クローディアは部室にいた。壁に座り込み、瞑想する。今日までの事を自分なりに纏めていた。

 無論、独りではない。『灰色のレディ』といる。クローディアの隣に座り、同じように瞑想している。

「私は、ここにいることしか出来ない。でも、もう未練もないの」

 罪を告白する口調で、『灰色のレディ』は語りだした。何の話かわからないが、クローディアは視線のみで答える。

「ただ、気がかりな事が出来たわ。貴女よ、貴女が卒業する姿を見るまで、私はここにいるわ」

 途端に愛の告白に似た宣言は、クローディアを照れさせた。『灰色のレディ』程の淑女にそんな事を言われて、悪い気はしない。

「ありがとうさ、レディ。また新学期に会おうさ」

 再会の約束に、『灰色のレディ』は満足げだった。

 

 玄関ホールでは、馬車待ちの生徒達がダームストラングとボーバトンの生徒と別れを惜しんでいた。握手や肩を抱き合い、住所を交換している者もいる。

 ハーマイオニーがビクトールから紙切れを渡されている。おそらく住所だ。それを見たクローディアは、ほんの少し嫉妬した。

 スタニフラフに見つけられ、クローディアは声をかけられる。

「クローディア、近いうちにお会いするでしょう。それまで、お元気で」

「ペレ……スタニフラフこそ、気を付けて欲しいさ」

 会釈したクローディアに倣い、スタニフラフもお辞儀を返した。

「サイン、もえらえないかな?」

 クローディアの後ろで、ロンがビクトールに羊皮紙の切れ端を差し出していた。驚いたビクトールは、快く羊皮紙の切れ端にサインした。

 以前、ロンはビクトールのサインを欲しがっていた。やっと、素直に頼めれたのだ。

(結局、サインもらってるさ)

 微笑ましく思っていると、クローディアの肩が叩かれた。振り向くと、フラーがガブリエルと親しみを込めて挨拶してきた。

「迷路でぇ、私を助けぇてくれましたぁね。マッド‐アイが教えてくれまぁした」

 クローディアが返事をする前に、フラーは頬にキスをしてきた。柔らかい唇の感触を受け、目を丸くする。

「あなたも、お元気で」

 ロンを見つけたフラーは、その頬にもキスをした。ロンは、瞬きして微笑んだ。

 ハーマイオニーが眉を顰めていた。

 

 汽車の中で、4人はコンパーメントを独占した。盗み聞きされないように、ベッロとクルックシャンクスが戸を塞いでくれた。汽車がキングズ・クロス駅を目指して走り出し、クローディアとハリーは、ハーマイオニーとロンに、墓場での出来事、クラウチの正体、ファッジとのやりとり、ダンブルドアの指示について、包み隠さず話した。

 ハーマイオニーとロンは、全ての話を受け入れた。

「じゃあ、ワールドカップのとき、ハリーの後ろにクラウチの息子がいたっていうのかよ?」

「そうだよ。そして、クローディアのお母さんを好きになった」

 ロンの疑問にも、ハリーは素直に答えた。

「杖をクィレルに奪われたままだわ。どうしましょう!?」

「取り戻すさ。杖だけじゃないさ。私があいつを心配した時間も気持ちも、何もかも、必ず、取り返すさ」

 知らずに、クローディアは拳を強く握り締めた。

「念のため、オリバンダーさんの店に入ったほうがいいよ」

 ハリーの忠告をほとんど聞き流していた。

「ママが校長先生に聞きに行ったんだ。夏休みに入ったら、そのまままっすぐハリーを僕の家に連れて行っていいかって」

 ロンは確認のように、モリーから聞いたことを話す。

「だけど、校長先生は、最初だけは必ずダーズリーのところに帰って欲しいんだって」

「え? なんで?」

 少し嫌そうにハリーは、ロンに小さく当たる。ロンは物ともせず、意味不明と肩を竦める。

「ママ曰く、校長先生には校長先生なりの考え方があるんだろうって。信じるしかないんじゃない?」

「きっと、いつか話してくれるさ。その考えってやつをさ」

 納得しにくい顔で、ハリーは溜め息を吐いた。

 硝子の向こうに、フレッドとジョージが手を振ってくる。ハリーがベッロを窘め、戸を開かせた。

「「爆発スナップして遊ばないか?」」

 5回目のゲームの途中で、ハリーが思い切ったように双子に尋ねた。

「誰かを脅迫してたよね。誰なの?」

「ああ、あのこと」

 一気にジョージが暗い表情になり、フレッドが苛立った。

「たいしたことじゃない」

「俺たち諦めたのさ」

 ジョージが肩を竦め、話を切ろうとした。だが、4人に迫られ、ついに双子は折れた。

「わかった、わかった。そんなに知りたいのなら、ルード=バグマンだ」

 フレッドの口から聞きたくなかった名に、クローディアは「げえ」と呟いた。

「あいつが『炎のゴブレッド』に、僕の名前を入れたこと知ってたの?」

 ハリーの言葉に、フレッドとジョージが吃驚する。

「まじかよ。あいつにそんな度胸があったとはな。くそ、知っていたら……。なんでもない」

 フレッドは悔しそうに歯噛みした。

 この双子とバグマンの接点をクローディアは思い出した。ワールドカップの折、彼らは賭博に興じていたはずだ。

「もしかして、今回もバグマンと賭けをしたさ?」

「……いいや、ワールドカップの時のことだよ」

 暗い声を出しながら、ジョージが話し出した。

 双子はワールドカップの折に、全財産を賭けてバグマンと勝負した。こちらが勝ったとき、バグマンはレプラコーンの金貨で支払って誤魔化した。一晩で金貨が消え、双子は抗議の手紙を送ったが、未成年が賭博をすべきではないと返した。故に、元金の返金を求めたが、取り合わなかったのだ。

 バグマンは、賭博が原因で大勢の人と問題を起こしている。リーからその話しを聞いたとき、全てが遅かった。

「ゴブリンも取り立て目立てでバグマンに迫ってたわけさ?」

 呆れたクローディアに、フレッドは肩を竦める。

「そう、あいつ。ゴブリンの借金を賭けで清算したよ。ハリーの優勝に自分の全てを賭けたんだ」

「だったら、バグマンさんは貴方達に元金を返せるはずでしょう! どうして諦めるの?」

 ハーマイオニーの憤慨に、ジョージは深いため息をつく。

「あいつは、無一文のまま自由の身になっただけなんだよ。本当にひっくり返しても銭ひとつ出ない。それどころか、……『例のあの人』が帰って来たのか、賭けようって言われて、俺がキレちまった」

 ジョージは、バグマンの腹に拳を叩きこんだようだ。そこだけ、クローディアは小さく拍手した。

「仕切り直しだ」

 カードを切り始めたフレッドが呟く。ゲームのことではなく、彼らの夢・店のことだ。

 ここまで落ち込んだ2人を見ていることが正直、辛かった。しかし、金銭面でクローディアに出来ることなどない。

 

 汽車はキングズ・クロス駅に到着し、生徒は下車の支度をする。

 クローディアも鞄と虫籠を抱え、ホームに降りた。迎えにきた家族が、生徒を出迎えて呼びかける。ドリスを探そうと人混みを見渡す。

 腕が誰かに掴まれた。

 クローディアが確認する前に、人混みへ引き込まれていく。鞄と虫籠を置き去りに、強引に連れて行かれる。腕を掴む相手をみたいが、人混みを分けるので精一杯だ。

 適当な汽車の車両に連れ込まれたところで、やっと相手が見えた。

「マルフォイ?」

 驚いたクローディアに答えず、ドラコは彼女の肩を掴んで壁に寄り添わせた。

「いまから、僕と来るんだ。母上が迎えに来ている。おまえの家族は、父上が必ず守る。承知してくれ。クロックフォード」

 ドラコの父親、ルシウスは確かにクローディアを助けたと言っても、過言ではない。だが、理由もわからず命……、家族を預けられるほど、信頼してはいない。

「マルフォイ、私から言えるのは、これだけさ」

 クローディアの膝がドラコの腹を蹴りたくった。

「ハーマイオニーの分さ」

 腹の一撃に呻きながら、崩れゆくドラコはそれでもクローディアを離さない。

「母上も……おまえが来るのを待っているんだ……。頼む……」

 爪が皮膚に食い込む程の握力が肩にかかる。

〝離すんじゃないよ〟

 ジョーキンズの声が耳に蘇った。クローディアにとって、離してはならない手はドラコではない。

 迷いなく、クローディアはドラコの手を振り払った。彼の表情が見る見る失望へ変わっていく。

「君は、負け組を選んだ……。もう取り返しがつかなくなるぞ、クロックフォード!」

 懇願に近いドラコの叫びに、クローディアは答えない。答えないまま、車両を降りる。もう彼は追って来なかった。

 

☈☈☈☈

 月さえも雲に隠れ、足元も見えぬ夜。

 ヴォルデモートは灯りなしに歩く。主人から離れて、下僕も付き従う。彼らには同行を命じてはいない。勝手に付いてくるのだ。

 ちなみに、クィリナスはいない。片腕を失い、自ら作成した義手が身体に馴染むまで療養しているからだ。

 文字通り、身を粉にして闇の帝王を復活させたクィリナスには休息が必要である。ヴォルデモートより療養を命じられても、彼の忠義は揺るがない。

 そのクィリナスがいない間に、己の忠誠心を示そうと躍起になっている節があるのは、事実。

 ご苦労な下僕どもを振り返らず、ヴォルデモートは目的地に着いた。

 岩場が目立つ川原には、不釣り合いな大木があった。木の枝と根っこは細く伸びきっているにも関わらず、その幹は詰め込まれたように太い。

 ヴォルデモートは大木を見上げ、懐かしむようにほくそ笑んだ。

「墓標と呼ぶには、粗末になったモノだな。それとも、棺と呼ぶべきか?」

 幹の裂け目に向かい、語りかけた。暗く隙間にヴォルデモートの手が触れる。まるで、旧友との再会を喜ぶ手つきだ。

 月を隠していた雲が風に流れ、夜を照らす光が大木にもかかる。幹の隙間の奥にあるモノを見るには、十分な光だった。

 

 ――骸骨だ。

 

 埋め込まれているというより、木に包まれているというべき状態である。

 緊張で、下僕の誰かが唾を飲み込んだ。

「貴様の孫に会ったぞ、……よく似ていた。良い意味でも、悪い意味でも……」

 喉を鳴らして、ヴォルデモートは嗤う。嗤いながら、幹の隙間に爪を立てた。

 途端にヴォルデモートの顔から笑みが消え、激昂を露にした。

「コンラッドでは駄目だったが、あの小娘ならば俺様の役に立つだろう! 貴様はそれを黙って見ているがいい! それが、俺様が貴様に与える罰だ!」

 判決を下す裁判官のように宣言し、ヴォルデモートは杖を振るった。轟音と共に大木は木端微塵に吹き飛んだ。下僕の誰かが低い悲鳴を上げた。

 破片はヴォルデモートに触れることなく、その手は骸骨を掴んでいた。

「俺様のすぐ傍でな。これが俺様のせめてもの慈悲だ」

 ヴォルデモートは手にした骸骨を蔑んだ。

 骸骨は大木が吹き飛んだ衝撃で、ヒビが入っていた。眼球を填め込む部分を真っすぐに割れており、涙を流しているようにも見えた。

 




閲覧ありがとうございました。
これにて、炎のゴブレッドを終わります。
お付き合い下さり、ありがとうございました。

次回から、不死鳥の騎士団です。
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