1995年は、携帯電話が手持ちサイズになった時期ですね。
気付けば、ハリーの誕生日である7月31日を迎えた。
猫達の世話をしていると、外から車の発進する音が聞こえた。音の方角からして向かいのダーズリー家だ。
思わず、表情を輝かせたクローディアをフィッグが窘める。
「まだだよ。向かいに行くのは、連絡があってからにしな」
ミスタ・プレンティスの毛並みを仕上げた時、廊下の電話が鳴りだした。
フィッグが電話を取ると、深刻そうに何度も頷いている。受話器を下したフィッグは、肺に溜まった息を吐き出した。
「バーノン達はトトが上手くやった。クローディアはハリーの傍にいてやんな。そのまま、次の連絡を待つんだ。いいね?」
待ちに待ったハリーに会える時だ。同時に、世話になったフィッグの家を出る。十二分に面倒を見てもらったクローディアは、感謝の気持ちを込めて家主の両手を握りしめた。
「いままで、お世話になりました」
困ったような笑みでフィッグは、クローディアの頭を撫でた。
「大したことなんさ、してないとも。元気でな」
「はい、フィッグさん」
フィッグの足元に集まった猫達を見下ろしたクローディアは、別れの意味で手を振った。
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呼び鈴の鳴る音がする。
しかし、玄関に行くことは出来ない。扉は部屋の外から、鍵をかけられているせいだ。内側からは決して開けない。ヘドウィックも戻らない部屋で、ハリーは独りごちる。
「ハリー」
玄関口から、クローディアの声が聞こえてくる。バーノン達がいなくなったから、来てくれたに違いない。飛び起きたハリーは、開けっ放しの窓から下を見下ろす。
真下の芝生でクローディアが2階を見上げてくる。
「クローディア」
嬉しさでハリーは胸が満たされる。溢れ出た感情は涙となって目に浮かぶ。
「ハリー、そこに行くから窓から離れていてさ」
ハッキリと口にしたクローディアに、ハリーは反応し損ねる。
地面を蹴ったクローディアの体が2階の窓へと飛び込んできた。否、舞い降りてきた。まるで、箒に乗って飛んできたかのような光景だが、彼女は丸腰だ。かといって、芝生から2階の窓までやってくるなど、跳躍力だけでは説明がつかない。
「お邪魔します」
律儀にお辞儀するクローディアをハリーは呆然と眺める。
「どうやって、跳んできたの?」
困惑するハリーに、クローディアは悪戯っぽく微笑む。
「私は魔女なんだから、空だって飛べるさ。うちのお祖父ちゃんだって出来るしさ」
能天気なトトが箒なしで空を飛ぶ。そんな光景を浮かべたハリーは、噴出す。軽く笑うと、腹の筋肉が突っ張る感覚になる。久しく笑っていなかったせいだ。
「すごい寝癖だけどさ。櫛は何処さ?」
室内を物色するクローディアの言葉で、ハリーは4日も髪を梳いていないことに気付く。昨晩はシャワーを浴びてから、髪を乾かさずに寝たせいで更に癖だらけの髪型だ。 急いでハリーは机の引き出しから、髪ブラシを取り出す。
クローディアはハリーから髪ブラシを取り上げ、彼を寝台へ座らせた。
「じっとしてるさ」
背後からハリーを抱きかかえるように、クローディアは彼の髪を梳き始める。人に髪を梳かれる感触は、妙にくすぐったい。だが、嫌ではない。
「この髪は、なかなかの強敵さ」
「うん、ペチュニアおばさんも嫌がってるよ。不衛生だって」
髪を梳くことを諦めたクローディアは、ブラシを手元に置く。すると、ハリーの背中に重さを感じる。彼女の手と顔らしき感触を服越しに察した。
「無事で良かったさ……」
か細い声に聞き逃しかけた。
クローディアもフィッグから、ファッジの死を聞いているはずだ。至極、当然の反応だ。ハリーにしてみれば、その日に来てほしかった。微かな不満が喉まで出かかった。
――プルルルルルル。
唐突に鳴りだした電話の音、クローディアがハリーの背から顔を上げる。
「お祖父ちゃんかもしれないさ」
ハリーを飛び越えたクローディアは、扉のノブに手をかける。鍵がかっていることを教えようとしたとき、扉が簡単に開いた。
「あれ?」
鍵穴を見つめる。外側から、鍵が刺さったままだ。
「バーノンおじさん、鍵をかけ忘れたんだ……」
珍しく不用心な行動をだと、ハリーは呆れ果てる。不思議そうな顔をするクローディアに、手振りで問題ないと伝えた。
電話は絶えなく鳴り続け、ハリーは慎重に受話器を持ち上げる。
「もしもし、ダーズリーです」
〈よく聞け、日が暮れてから迎えを寄越す。それまで、家を出てはならんぞ。いつでも、出発できるように支度しておけ〉
挨拶もなく伝えてくるトトの声に、ハリーは喜びの感情が溢れた。クローディアは読みが当たり、話を聞こうと受話器に耳を寄せてくる。
より情報を得ようとハリーは、会話を繋ごうとする。
「トトさんも迎えに来てくれます?」
受話器の向こうでトトは、口ごもっている。
〈ハリーが頼りにしておる者が行くから、待っておれ〉
優しい口調だが、ハリーは不安に心拍が高くなる。それを感じたクローディアは、彼の背を慰めるように撫でた。
途端に、受話器の向こうが騒がしくなる。
〈ハリー! もうすぐ会えるぞ!〉〈ロン、そんなに大きな声出さないで!〉
〈ハリー!? 聞こえる!〉
〈これでハリーに私達の声が聞こえるの!?〉〈ハリー、何か喋ってみろ!〉
〈離せ、やめんか!いい加減にせんかい!!〉
ハーマイオニー、ロン、ジニー、モリー、シリウスの声が聞こえたかと思えば、激怒したトトの怒鳴り声と共に電話が切られた。
唖然としたクローディアとハリーは、残念に思いながら受話器を戻した。
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『不死鳥の騎士団』本部では、ハリーをこの屋敷へ護送すると先発護衛隊の面子を決めあう会議が長々と続いていた。
あまりにも希望者が多い為、先発護衛隊を指揮するムーディは苛立っている。
会議に参加しなかったトトは、これからの行動に備えてお手洗いを占領し、一時の休憩だ。耳を澄ませていると無数の足音が玄関から聞こえてくる。
会議が解散したと理解し、トトはお手洗いを出て階段を下る。厨房から出てきたムーディが唇を尖らせる。
「ようやく決まったわ。どいつもこいつも緊張感が欠けておる」
「それは上々、時間は予定通りじゃな?」
相槌を打つムーディに、トトは承知する。ムーディは先発護衛隊の面子との更なる打ち合わせがあるため、客間へと足を運ぶ。
その直後、胸ポケットにある携帯電話が鳴りだす。トトは誰もない厨房へと行き、携帯電話に表示された番号を確認する。ダーズリー親子の接待を頼んだ知人からだ。
嘆息して電話に出ると、首尾よく事を運べているという報告と親子の性格の悪さに対する愚痴だった。
会話を終え、トトはフィッグの家に電話し、二言・三言で切る。
携帯電話を見つめ、トトは深く息を吐く。フィッグの家に預けたクローディアに対し、薄情なまでに干渉をしないで、よくも祖父などと名乗れると自嘲する。
悲しみに暮れる孫娘を抱きしめ、安心させてやりたい。だが、計画を実行に移すまで後、僅かだ。それまで自分が動かなければならない。腕時計を見ると、次の行程まで少し余裕がある。
ダーズリー家の番号を押し、トトは発信音を聞く。
〈もしもし、ダーズリーです〉
程なくして、ハリーが電話に出た。
「よく聞け、日が暮れてから迎えを寄越す。それまで、家を出てはならんぞ。いつでも、出発できるように支度しておけ」
単刀直入に話すトトは、電話の向こうにいるクローディアのことを想う。
〈トトさんも迎えに来てくれます?〉
思わぬ問いかけに、トトは苦渋に満ちた表情で唇を噛む。
廊下から数人の気配がこちらに近寄ってくる。足音と声から、モリーやハーマイオニー達だ。
ハーマイオーが厨房に入ろうとしたが、携帯電話を持つトトと目が合う。彼女は、申し訳なさそうに頷いて下がっていく。
クローディアの大切な友人達なら、安心して任せられる。
「ハリーが頼りにしておる者が行くから、待っておれ」
我が孫に話すように、悟らせた。
突然、ハーマイオニーが厨房に突入し、慌てたようにトトの携帯電話を指差してきた。
「もしかして、ハリーと電話してるの!?」
トトが返事をする前に、ロンとジニー、モリーとシリウスが競うように現れた。
「ハリーがどうしたの?」
「トトさんがハリーに、電話しているのよ」
ハーマイオニーが指差す携帯電話に、視線が集まる。嫌な予感がしたトトは、逃げようとした。その前にシリウスが強い力で、携帯電話を持った手を掴んだ。
ロンが張り裂けんばかりの声で叫ぶ。
「ハリー! もうすぐ会えるぞ!」
「ロン、そんなに大きな声出さないで!」
両耳を押さえたハーマイオニーが叱りつける。しかし、ジニーもロンに倣って大声を出した。
「ハリー!? 聞こえる!」
しかも、モリーまでトトの腕にしがみついてきた。
「これでハリーに私達の声が聞こえるの!?」
「ハリー、何か喋ってみろ!」
纏まりのない光景に、トトは怒りが込み上げてくる。脳細胞にまで熱が伝わったところで、限界が来た。
「離せ、やめんか! いい加減にせんかい!!」
――一喝。
トトが叫んだ瞬間、ブラック家そのものが揺れた。それだけの衝撃を眼前で体感したハーマイオニー達は、動くことを忘れたように静止する。
シリウスの手を払ったトトは、携帯電話を耳に当てなおす。だが、雑音もなく異様に静かな電話に、疑問する。そこで、指が『切』のボタンを押していることに気付いた。電話を壊さなかっただけ、マシといえる。
口中で嘆息を殺し、トトは携帯電話を胸ポケットにしまう。
「ご、ごめんなさい。私達、ハリーの身が心配で」
冷や汗を掻いて謝ってくるハーマイオニーに、トトは静かに首を横に振る。
「ワシは、これにて失礼する」
誰の顔を見ずに、トトは一直線に玄関へと向かった。
厨房に『姿現わし』してきたフレッドとジョージが、黙り込んだ人達に首を傾げる。
「いま、家が揺れなかったか?」
「なんで、そんなに静かなんだ?」
誰も答えられず、モリーはスコーンを焼く準備を始めた。慌てたようにジニーは、モリーを手伝う。シリウスもそそくさと先発護衛隊の打ち合わせに逃げて行った。
ハーマイオニーは、咳払いして宿題を片づけに部屋に行く。残ったロンが双子に捕まり、表現が曖昧な説明を繰り返す羽目になった。
清掃用品の買い出しから帰ってきたジュリアは、双子に問い詰められるロンの姿を珍しがった。
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荷造りを済ませたハリーは、クローディアが寝台の下を覗き込む姿を見た。
「何してるの?」
クローディアは唸りながら、答える。
「エロ本ないかと思ってさ」
「ないよ。そんなの。誰も買ってくれないし、自分じゃ買えないし」
予想できないクローディアの発言に、ハリーは羞恥心のあまり耳まで真っ赤に染まりあがる。しばらく寝台の下を探った後、クローディアは不満そうに起き上る。
「別にエロ本は買わなくても、公園に落ちていたのとか、ゴミ箱から拾ってきてもいいさ」
「なんで、そんなこと言うの? 僕にエロ本を拾ってこいってこと?」
真顔な彼女の返答に困り、ハリーは頭を抱える。ダドリーとて、エロ本の為にゴミ箱は漁らない。
しかし、ハリーは魔法界の情報欲しさに、新聞を漁った。それを見られたのかもしれない。彼の動揺する姿に、クローディアは愉快そうだ。
「ハリーってさ。学校と態度、違いすぎさ。おもしろいさ」
「そんなことないよ」
ぶっきらぼうに答えたハリーは、全ての荷物を抱えて部屋を出る。クローディアの一言で、退学の危機に陥っていることを思い出した。
眉間に皺を寄せたハリーの態度から、クローディアは深刻なモノを感じ取った。
「学校に行くのが、嫌さ?」
階段を下りながら、クローディアが問いかける。居間への戸に手をかけたハリーは、気づいた。
クローディアは、魔法省から受けた勧告を知らないのだ。
「僕、退学になるかもしれないんだ」
知らずと自嘲を込めて答えたハリーは、クローディアの反応を見るために階段を振り返る。彼女は、笑顔と共に硬直していた。
それも束の間、必死の形相でクローディアはハリーに迫り、胸ぐらを掴んだ。
「どういうことさ!?」
怒声を吐くクローディアの剣幕に、ハリーの背筋を冷たい感触が走り抜ける。
すっかり怯えたハリーは、弱弱しく答える。小声で聞きづらかったらしく、彼女は何度も聞き返した。
ダドリーを守るため、『盾の呪文』を使用した為、退学勧告を受けたと説明できた。
「そんなはずないさ! 『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』で命が脅かされた時に、魔法を使っていいさ!」
「だから、魔法省で尋問するんだ……。……8月2日に魔法省で、ファッジ大臣の件も含めてね」
息絶えそうにハリーが言い終えると、悲痛に唇を噛んだクローディアは彼から手を離す。
乱れたハリーの服を直し、クローディアは呟く。
「ごめん、知らなかったさ」
焦燥が残ったハリーは、深呼吸してから頭を振るう。
誰もいない居間、ハリーはどっと疲れた。遠慮なく、ソファーにもたれかかる。クローディアも彼の隣に腰かけた。
「ハリー、誕生日おめでとうさ」
当然のようにかけられた祝いの言葉を耳にしたハリーは、肩をビクッと痙攣させた。クローディアの誕生日には、何もできなかった。そして、何も言えなかった。それどころか、祖母を亡くした彼女に、慰めの言葉すらかけていない。
それにも関わらず、ハリーはクローディアに哀れんで欲しかった。彼女がどれだけ苦しもうとも、気にも留めなかった。
(最低だ……)
器の狭い自分が悔しい。ハリーは爪が手の平に食い込む程、拳を握りしめた。唐突に、クローディアが肩にもたれかかってきた。
驚いたハリーが振り返ると、クローディアは瞼を閉じて寝息を立てているのだ。突拍子もない行動に、思わず溜息をつく。しかし、彼女の規則正しく、それでいて安らかな寝息を聞いているうちに、瞼が重くなっていく。
ここのところ、ハリーはよく眠れなかった。しかし今なら、安心できる。
ハリーは眠気に逆らわず、彼女にもたれかかった。
灯りひとつない廊下を進んでいる。灯りすらないはずの場所を廊下だと判断できるのは、視界が形を捉えているからだ。
長い廊下を進んでいく。扉が見えた。
扉の前には、1人の男が立っている。
――――ボニフェース。
男の名を呼ぶ。微笑んだ男は扉にもたれかかって、腕組みをする。そこを通さないつもりだと、判断した。敵意を向ける自分に対し、男は親友と世間話をするような態度で、唇を動かす。
「起きなよ、ハリー。迎えが来た」
――――それは、俺様の名ではない。
意識が覚醒したハリーは、頭が冴えていた。
ソファーに横になっていたハリーの体には、トランクに詰めたはずのローブがかけられていた。窓の外が暗いので、時計を見ると日暮れの時間が過ぎている。
水が流れる音がすると、戸が開いて閉まる音がした。飄々と居間に入ってきたクローディアがハリーに手で挨拶する。
「起きたさ? 我慢できなくて、お手洗い借りたさ」
「それは、構わないけど……誰が来た?」
瞬きするハリーの隣に座ったクローディアは、周囲を見渡す。
「誰も来てないさ」
ハリーが頷こうとした瞬間、ソファーの後ろから『姿現わし』の音が弾けた。驚いたハリーは、ソファーからずり落ちてしまう。
咄嗟にクローディアは、机に置いてある灰皿を手に構えた。
「それは杖の代わりか?」
振り返った先には、ムーディが仏頂面で立っていた。
「マッド‐アイ! あんたが迎えさ?」
意表を突かれたクローディアは、灰皿を机に置く。慌てたハリーもローブを脱ぎながら、起き上ろうとする。
途端に、『姿現わし』の音がいくつも起こった。ムーディの他に、8人の魔法使い・魔女が現れた。その内の1人を目にし、クローディアの強張っていた心臓が解され、ハリーの表情が嬉しそうに緩んだ。
髪がボサボサのルーピンが2人の視線を受けて、歩み出た。
「待たせて、ごめんね。迎えに来たよ」
いつもと変わらない穏やかな微笑みに、クローディアは必死に笑顔を作る。ハリーも一生懸命、口元に力を入れているが、力み過ぎて笑みになっていない。
「わああ、私の思ってたとおりの顔をしている」
興奮した声を出した魔女に、クローディアは覚えがある。シリウスを保護観察していた『闇払い』だ。あの時は、緑色だった髪は紫に変わっていた。
「この2人は確かに本人か?」
警戒したムーディの雰囲気が張りつめる。
「マッド‐アイ、この子達を疑う必要があるのか」
シルクハットを下ろしたディグルが冷ややかにムーディに問う。彼の事をハリーは覚えていた。初めて『漏れ鍋』を訪れた時、握手してくれた魔法使いだ。そして、己が魔法使いだと知る前に、一度だけ街で擦れ違った事もある。
クローディアは、ディグルに向かって挨拶の意味で頭を下げる。
「こんばんは、ディグルさん」
「ああ、クローディア。……無事でよかった……」
涙を堪えるように、ディグルはクローディアの肩に触れた。
「マッド‐アイ。この子は、本人だ。挨拶の際、お辞儀をするのは、この子の習性だ。『死喰い人』が我々に頭を下げることはせん」
「そうだな、娘は間違いない。だが、ポッターは……本人しか、知らないことを質問せねばな」
青い義眼が絶えず、クローディアとハリーを交互に凝視し続ける。そして、義眼がハリーに釘付けとなった。
思わず、ハリーは唾を飲み込んだ。
「おまえさんが『透明マント』を被って、わしの前に現れたとき、何色の下着を穿いていた?」
「……青の縦縞」
緊張感が消えそうな問いかけにハリーは戸惑いながら答える。本人だと確証できたムーディは、満足そうだ。
「なんで、マッド‐アイがハリーの下着の色知ってるさ?」
「色々あったんだよ」
無意識にクローディアは疑問をぶつけ、ハリーはぶっきらぼうに答える。それからルーピンを見やる。
「出発するんだね? 何処に?」
「見つからないところに設置した本部にだよ。準備に時間がかかったがね」
何故だが、クローディアには物騒な印象を受けた。ルーピンの口から説明されても、自分達が安心できる場所とは思えなかった。
「ねえねえ、私達って、お邪魔じゃなかったわよね?」
声を弾ませた魔女がクローディアの後ろから耳打ちしてきたので、思わず振り返る。一瞬、自分の目を疑う。先ほどまで、嘘くさい紫色の髪をしていたはずが、黄色に染まり上がっていたのだ。
「そういう質問は、失礼だ。ニンファドーラ」
鮮やかな緑のショールを巻いた魔女が厳しい口調で咎める。それを聞いた途端、黄色髪の魔女は唇を尖らせ、相手を睨んだ。
すると、髪の色が見る見る黄から赤へと変色していく。
「あのね、ニンファドーラって呼ばないでくれる?」
そのやりとりにクローディアは、何気なく尋ねる。
「マッド‐アイみたいな通り名さ?」
髪を変色させた魔女が慌てて頭を振るう。
「違う違う。そうよ、自己紹介してないわ。私はトンクスよ」
「ニンファドーラ=トンクスだよ。クローディアは面識があるね?」
ルーピンの紹介に、トンクスは不満そうにしている。彼女の変色ぶりに呆気にとられていたハリーは、我に返る。
「もしかして、シリウスの保護観察者?」
少しだけ、ハリーの声に活力が戻る。トンクスはウィンクで肯定を露わす。思わず、シリウスの近況を聞こうとしたがルーピンに遮られた。
「皆の紹介をしておこう。こちらは、キンズリー=シャックルボルト」
この中で一番背の高い黒人の魔法使いが、紹介に応じて会釈した。
「エルファイアス=ドージ」
緊張しているせいか、肩を震わせて頷いてきた。
「ディーダラス=ディグル」
「以前、お目にかかりましたな。ハリー=ポッター」
「はい、覚えています」
声をかけられ、ハリーは答えた。
「エメリーン=バンス」
トンクスを叱ったショールの魔女が毅然と微笑んだ。
「スタージス=ポドモア」
男性陣では一番若い魔法使いがウィンクしてきた。
「そして、ヘスチア=ジョーンズ」
やっと自分の番だと、黒髪の魔女が上品に手を振る。
挨拶が終わったとき、クローディアはここにコンラッドが来ていないことを納得している自分に気付いた。しかし、ハリーは見知らぬ大勢よりもシリウスがいないことに、少しだけ残念に思っていた。
「時間だ。行こう」
ルーピンが告げると、ムーディが先頭を切る。
クローディアとハリーは、トンクスに急かされるようにムーディの後ろに続く。ポドモアがトランクを持ち、ジョーンズが鳥籠と箒を運び出した。
ハリーの箒を見たトンクスが目を輝かせる。
「わお、これ『ファイアボルト』じゃない? 私なんか、まだ『コメット260』に乗ってるのよ」
「シリウスがくれたんです」
まんざらでもない気分に、ハリーは少しだけ喜んだ。
街灯に照らされた道路は、静寂を守っている。家々は、灯りとは反対に静まり返り、夜を歩く猫の気配もない。
ムーディの義足すら、全く響かない。
ジョーンズがハリーに箒を渡すと、ムーディが松葉代わりの杖で道路を叩く。突如として、クローディアの眼前に『銀の矢』が現れた。無論、ルーピン達にも各々の箒が現れた。
トンクスがクローディアの箒を見て、気づく。
「それって『銀の矢』? ああ、しかも『銀の矢64』!? マニアも欲しがるレア物よ!」
「ニンファドーラ、いい加減にしろ」
流石にうんざりしたのか、ムーディが低い声で咎めた。名前を呼ばれ、気分の悪さを現わすようにトンクスの肌が紫に染まり上がった。
「隊列を崩すな。誰かが殺されようと、振り返るなよ」
クローディアは箒に跨ったとき、向かいの家を見やる。窓から、フィッグがこちらを見ていた。
迷わず、フィッグに小さく手を振る。
「飛べ!」
号令に答え、箒が地面から放たれて舞い上がった。速度と夜風が耳元で騒がしい音を立て、視界が空へと向かっていく。住宅地は模型のように小さくなり、街灯が宝石のように散りばめられている光景を見下ろす。
だが、悠長に眺めている余裕はない。下手をすれば、ムーディに置いて行かれるのだ。
それでも、空を自由に飛び回る高揚感にハリーが吠えていた。
まるで解放された鳥のような叫びに聞こえた。
閲覧ありがとうございました。
エロ本を隠す定番の場所は、ベッドの下!