こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
ほっかいろ、最強。

追記:16年3月11日、17年3月4日、誤字報告により修正入りました。


8.足の傷

 11月に入り、クローディアの周囲は極僅かに変化した。まずは気温が急激に下がり、城の周囲が寒気に見舞われた。城を囲んでいた緑は灰色に変わり果て、湖は鋼より頑丈に凍りついていた。

 ハーマイオニーの話では、イギリスの冬季では珍しくない光景だと説明してくれた。クローディアやパドマのような温暖な気候で育った人間には、堪える寒さだ。母がホッカイロを何枚も送ってくれたので、パドマやリサと共に、深く感謝した。

 しかし、チョウやフレッド、ジョージ達は興奮を極め、寒さなど凌いでいた。

 クィディッチ・シーズンが到来したからだ。今月はグリフィンドール対スリザリンの試合が行われることもあり、初試合のハリーは自然に緊張していた。しかも、期待の新シーカーであることは極秘に触れ回っているため、激励と罵倒の両方がハリーに降り注いだ。

 クローディアに絡んでいたジュリア達は、挨拶程度しかしてこなくなった。何故か彼女がトロールを倒したことで、点を稼いだことを耳にしたようだ。下手に諍いが起きる要因がなくなったことを素直に喜んだ。

 硝子瓶の件で、ハグリッドはクローディアが罰則を受けて運んでいたことを教員達に話した。それを耳にしたフリットウィックは癇癪を起して、スネイプに抗議した。

「彼女の寮監は私です。私抜きに勝手に罰則を与えないで下さい」

 そのお陰かは定かではないが、スネイプは不用意に罰則を与えないと約束したらしい。代わりに授業での態度が一層厳しい視線で見られることになった。

 それよりも、クローディアにとって衝撃だったのは、ハーマイオニーの行動だ。

「ハリーの宿題、手伝わないといけないから」

 これまで、クローディアの誘いを一度も断らなかったハーマイオニーがハリーの為に、誘いを受けなくなった。

 彼女たちが仲良くなってくれたことは勿論、嬉しかった。ハリーとロンも前より、クローディアと温かい態度で接し、ベッロのことも距離はあるが恐がらなくなった。

 だが、寮の部屋で行う勉強会や、ベッロの散歩にハーマイオニーがいないことが心に穴が空いて二度と埋まらないのではないかと嘆いた。

 

 明日の寮対抗試合でグリフィンドールとスリザリンの間が、通常より空気が張り詰めていた。

 この学校に運動会がない分、盛り上がりも相当なのだ。

「明日は斥侯よ、クローディア。絶対、見に行きましょう」

 チョウがクローディアの手を握り締め、力強く何度も頷いてきた。

 思えば、明日の試合観戦もハーマイオニーからの誘いはない。

 淋しい気持ちに駆られたクローディアの頭に、何かが落ちてきた。肩に爪の感触がして振り返ると、シマフクロウが銀色に近い灰色の羽を治めながら、金色の瞳で瞬きしていた。

(誰のフクロウさ?)

 痛みを感じた箇所を撫でながら、クローディアはシマフクロウが運んできた藍色の包みを開く。布を解けば、無印の紅い印籠が漆の光沢を放ち、和紙の手紙が添えられていた。手紙を読んで、座ったまま跳ねた。

 太く威厳と整然さがある筆の文字は、祖父の物に間違いない。

【魔女の卵へ

 怪物との戦闘、勝利を治めたことに賞賛すべしことなり

 さて、堅苦しいのは一行で十分じゃ。怪我はないそうじゃが、無理はいかん。おまえはまだ、ヒヨッコなんじゃ。だが、よくやった。褒美をやろう。

 これは、貴重な『呪解薬』じゃ、ネーミングセンスは悪いが、読んで字の如くどんな呪いも解くことが出来る。もし、誰かに呪いをかけられたら、それを飲めば解決じゃ、ふふふ。

 追伸 数に限りがあるので考えて使うのじゃぞ。草々】

 手紙を何度も読み直したクローディアは、胡散臭そうに印籠を物色する。

(お祖父ちゃんって医者じゃなかったさ?)

 冗談だとは、思えない。

 頭を過ぎったのは、スネイプの初授業での言葉だった。

〝微妙な科学と厳密な芸術〟

 薬剤師の資格もある祖父なら、魔法薬に近いモノを作り出せるかもしれない。きっと、病気に効く万能薬だと理解した。クローディアは即座に返事を書き、シマフクロウに持たせて返した。

(そういえば、シマフクロウって、絶滅危惧種さ?)

 如何にして捕縛したのか、気にかけはしたが絶対に知りたくなかった。

 

 授業に向けて歩く廊下も冷たい風が吹いて寒かった。絵たちは感覚がないが、生徒達が寒がる様子に、気分が寒いとボヤいている。

 ホッカイロをローブの下で擦りながら、クローディアは寒さを誤魔化した。

 何気なく中庭を視界に入れると、見慣れた人物達を発見する。ハーマイオニー、ハリー、ロンの3人組が、何故か凍りつくような寒い中庭に出て寄り添っていた。

(仲が宜しいことでさ)

 嫉妬に似た思いを抱くも、スカートのポケットに手をいれた。まだ未使用のホッカイロを3人に分けることにした。

「ハーマイオニー、ポッター、ウィーズリー」

 声をかけられて驚いた3人は、思わず肩を跳ねる。すぐにジャム瓶を背中に隠した。しかし、相手がクローディアとわかれば、すぐに緊張を解いて挨拶を返した。

「何してるさ? こんなところで寒いさ」

「平気よ、イイモノがあるから」

 ハーマイオニーは背中に隠したジャム瓶を見せた。瓶の中で炎が揺らめいている。その炎が瓶を暖かくしているようだ。クローディアはイタズラっぽい笑みを浮かべて、未使用のホッカイロを3人に見せ付けた。

「お母さんから、イイモノ貰ってたさ。これ、温かいさ♪」

 何故だが、ハーマイオニーはジャム瓶を後ろに隠した。ハリーも慌てたような表情で、クローディアの後ろを目配りしている。 

「ほお、それはイイモノのようだ。ミス・クロックフォード」

 影がクローディアを包んだと思えば、闇色の声が4人に降り注ぐ。焦燥の意味で身体が火照ってきた。

「寄越しなさい。レイブンクロー3点減点」

 振り向く前に、手にしていた未使用のホッカイロがスネイプに取り上げられた。

「スネイプ先生、それは防寒具です。マフラーと変わりません」

 スネイプに向き直り、クローディアは胃が引きつった状態で抗議した。黒曜石の瞳は冬のせいで更に冷たく感じる。

 スネイプはホッカイロを物色し、鼻を鳴らした。

「それだけ、脂肪があれば問題あるまい」

 雷を打たれたのと同じ衝撃で、絶句した。

 なんとスネイプは、太っていると指摘した。確かに、イギリスに来てから食生活に変化で体重の増加は二桁に達してしまったが、それでも日本の平均体重を極かしか越えてはいない。確認していないが、そうだと思いたい。

 すっかり落ち込んだクローディアは、両手で顔を覆う。そんな彼女を余所に、スネイプはハリーを見回して、何か小言になる口実を探していた。

「ポッター、その手にしているのは何かね?」

 渋々だがハリーは、素直に【クィディッチ今昔】を差し出した。

「図書館の本を郊外に持ち出してはならん。寄越しなさい。グリフィンドール5点減点」

 スネイプはクローディアとハリーから没収し、片脚を庇うような歩き方で去って行った。

 スネイプが去り、ハリーは怒りを露わにした。

「規則をでっち上げたんだ。絶対、僕らが憎いんだ。クローディア、これでわかったろ?」

 ハリーが質問を投げかける。そんなことより、クローディアは自分の腹を触り、悲痛な溜息をつく。その表情はとても暗い。

 あまりに落ち込むクローディアをハーマイオニーとロンが慰める。

「元気出せよ。全然、太ってないって、クラップとゴイルに比べれば」

「ロン、それじゃ元気になれないわ」

 明るく言い放つロンに、ハーマイオニーがツッコミを入れる。

 クローディアに苦笑し、ハリーは何気なくスネイプが去った後を見つめた。

「だけど、あの脚はどうしたんだろう? 引きずってたけど、怪我でもしたのかな?」

 重症でなければ、引きずるまで至らない。いくら、嫌いなスネイプであってもハリーは心配になった。

「知るもんか、でもものすごく痛いといいよな」

 良い気味だとロンが吐き捨てる。クローディアは、暗い表情のままハリーを振り返る。

「脚って、何さ?」

「気づかなかった? スネイプの片脚、引きずってたよ」

 被りを振るクローディアは、ハリーの言葉を注意する。

「ちゃんと先生をつけるさ。スネイプ先生が足を引きずるなんて、なんで医務室!」

 更に電撃が走ったように、クローディアは叫んだ。

「医務室……、スネイプ先生にお礼言ってないさ」

 残念そうに呟くクローディアに、ロンが首を横に振るう。

「なんだか、知らないけど。スネイプに礼なんていらないって」

「ちゃんと先生をつけるさ」

 クローディアは無気力に言い返しただけで、悔しそうに項垂れた。

 

 宿題を済ませたクローディアは、家族の写真を眺める。

(今更、ハロウィンの話をしてもさ)

 まだスネイプの事を考えている自分が、馬鹿馬鹿しい。しかし、ハーマイオニーとの時間が減ったことにばかり気を取られ、スネイプに礼を言いそびれていた。それすらも、昼間の時まで忘れていた。そのまま忘れていれば良かったが、思い出すと考えてしまう。

(今から、言えば)

 昼にホッカイロを没収されているため、媚を売りにきたと誤解されるに違いない。

 写真を手に呻くクローディアの首に、ベッロが巻きついてきた。冷たい鱗の感触が肌に触れるのは、もう慣れてしまえば驚かない。

「ベッロ、起きてたさ?」

 気温が下がり、ベッロは木曜以外を冬眠状態で食事も取らず虫籠に籠る。週一とはいえ、冬に起きてくるなど、それだけでも通常の蛇とは違う。ベッロの鼻先をクローディアの指が触れて、観察する。

 ベッロは細く素早い舌で、クローディアの頬を撫でた。

「先生に会いに行けってさ?」

 冗談で尋ねると、ベッロが頷く仕草を見せた。目の錯覚かと疑いクローディアは、ベッロを凝視した。鱗と同じ真っ赤な瞳が不思議な魅力を感じさせる。

「一緒なら行けるさ」

 力強く頷き、善は急げと寒気に満ちた城へと出向いた。

 薄暗いが、まだ消灯時間ではない。その証拠に、生徒が何人も廊下や中庭にいる。空き教室では、ロジャーがグリフィンドールのアリシア=スピネットを口説いていた。

 職員室前にも、生徒の姿があった。

 ハリーだ。

「やあ、クローディア。ベッロも一緒? こんばんは」

 ハリーもクローディアに気づき、愛想よく挨拶を交わした。ベッロは相変わらず彼から目を背けて、ローブに顔を突っ込んだ。

「ちょうど良かった。僕、スネイプ……先生に本を返してもらおうってね」

 助っ人が来たと喜ぶハリーと違い、クローディアは間の悪さに顔を顰めた。これでは、更に媚を売りに来たという印象を強くする。

(まいっか、言えたもん勝ちさ)

 媚でもいいから、とにかく礼を言おうと腹を括ったクローディアは、職員室の扉をノックした。間を置いたが、中から返事がない。

「誰もいないさ?」

「誰かはいるはずだけど」

 今度はハリーがノックしたが、やはり何も返ってこない。

「覗いてみる?」

「そうさねえ。魔法学校の職員室って、すご~く興味あるさ」

 小声で2人は顔を見合わせ、意見が一致したことを確認しあう。

 クローディアがノブに手をかけ、隙間を開けてハリーが中を覗く。

 すぐに目にしたのは、椅子に座っているスネイプと包帯を手にしたフィルチがその前に屈んでいる。

「スネイプ先生さ」

 クローディアが確認で呟くと、ハリーは鋭く咎めた。

 その理由は、すぐに知れた。

 スネイプがガウンを膝までたくし上げ、片方の脚を晒している。その脚は皮膚が深く裂け、赤い身を露にし、新たに流れる血で赤くなっていた。

 怪我から血が流れている。出血の度合いによって、人は死ぬ。

 死を連鎖してしまい、クローディアは眩暈に襲われた。自然と扉から離れた彼女に、ハリーは気付かない。

「忌々しいヤツだ。3つの頭に同時に注意するなんてできるか?」

 会話が気になるハリーは、中の様子をよく見ようと扉の隙間を広げた。

「ポッター!」

 静けさを裂く怒声に、クローディアは思わず廊下に倒れ込んだ。怒鳴られたハリーは、自分の胸元を掴み、緊張に負けぬよう声を出した。

「本を返してもらえたらと思って」

 応えるようにスネイプは、ハリーに没収した本を投げつけた。

「出て行け、失せろ!」

 言われるまでもない。

 急いで扉を閉め、ハリーはクローディアの腕を掴んで全速力で廊下を走りぬけた。

 階段まで来ると、安全圏に入った気がしてハリーは壁にもたれた。まだ緊張が解けず、肩を上下させて荒く深呼吸した。壁の絵の住人が注意していたが無視した。

 目に焼きついた鮮血に、クローディアは怯えた。

「ポッター、先生の怪我……、先生が血を……」

 クローディアはか細い声で繰り返す。彼女の動揺をハリーは、違う意味で受け取った。

「スネイプだ。ハロウィンのとき、トロールを入れたのは」

 確信のあるハリーに同意できず、寧ろ困惑したクローディアは喘ぐ。

「血を流して怪我していた! なんで、すぐに手当て……。マダム・ポンフリーに」

 血相を変えたクローディアから、尋常ではないと感じたハリーは言葉を探す。

「クローディア……。スネイプは医務室に行けないんだよ、きっと。三頭犬に噛まれたなんて、人に言えないんだから」

「人に言えない……傷」

 スカートのポケットに手を入れたクローディアは、閃く。ハリーを階段に残して、クローディアは職員室へと走り戻った。

 職員室前まで来ると、クローディアは薬入れを確かめるように握り締める。コンラッドが[人に言えない傷]を受けた時に使えと寄越した。今がまさにその時だ。

 自分で渡しに行けば、スネイプは逆上する。ベッロに薬を銜えさせ、スネイプの椅子まで運ばせることにした。

 職員室の扉を少し開け、覗くと誰もおらず静まり返っていた。

 ベッロを職員室に入れようとした瞬間。扉が中に引き込まれた。反動でクローディアも中に足を踏み入れた。

(あれえ、魔法のドアさ?)

 それは甘い考えだとすぐに気づいた。

 扉の向こうの影に一体となってスネイプが幽鬼の如く仁王立ちしていた。黒真珠の瞳が細く鋭い刃のように磨かれ、クローディアに突き刺さった。味わったことのない威圧感に、身体が強張った。

「あ……、失礼しま……」

「何だ?」

 深淵から響く怒りの声がクローディアの思考を鈍らせる。

「えと……、薬を」

 唇が震えても、クローディアは紡ぎだした言葉を示すようにベッロを抱えた。ベッロはスネイプに怯まず、銜えた薬入れを差し出した。

 沈黙したまスネイプは、ベッロの口にある薬入れを手にした。

「使ってください!」

 叫んだクローディアは、脱兎の如く職員室を後にした。

 

 明日はクィディッチの試合観戦のため、皆、早めに就寝した。

 クローディアは布団に潜り、何時間も寝付けないでいた。パドマとリサの健やかな寝息だけが部屋を満たす。

 不眠の原因は、活性化した思考にある。

 冷静にハリーの言葉を思い返せば、大事件だ。

〝スネイプだ。ハロウィンのとき、トロールを入れたのは〟

〝三頭犬に噛まれたなんて、人に言えないんだから〟

 ケルベロス(仮)は、『禁じられた廊下』にいるはずだ。そこにスネイプは近づいたことになる。だが、それはトロールを入れた証拠にはならない。しかし、入れていない証拠にもならない。

 トロールの件を省いたとしても、何故、『禁じられた廊下』に近寄ったのかが問題だ。しかも、トロール騒動が起こった時を狙っていくなど、不審すぎる。

(お父さんなら、どうしたさ?)

 自分で考えても仕方ない。クィディッチの試合の後にでも、コンラッドに相談することにした。結論を出すと、睡魔は早く訪れるものだ。

 




閲覧ありがとうございました。
スネイプはやせ我慢せず、医務室行きなさいよ。痛々しいわい。
●アリシア=スピネット
 グリフィンドール・クィディッチチーム。なのに、映画で出番ほとんどない。
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