こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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今回、ヒロイン不在のハリー視点です。



10.ハリーの忙しない日々

 金曜日の真夜中、談話室にハリーはいた。

 ロンとハーマイオニーも一緒だ。3人は宿題に励む。ベッロとクルックシャンクスは遠慮なく、寝そべっている。ハリーは自分の分をなんとか終わらせ、シリウスからの手紙を何度も読み返す。

「仕方ないとはいえ、この時間に会うのは睡眠妨害だわ」

 レポートを仕上げ、ハーマイオニーは欠伸をひとつ。

「そりゃあ、誰かに見られるわけには行かないじゃん」

 清書をハーマイオニーに確認してもらい、ロンも肩を解す。

 暖炉の炎は、ハリーの期待していた異変を起こす。炎と薪がシリウスの顔を形成し、親しい声で挨拶してきた。

 現象に驚いたハーマイオニーは、両手で口を塞ぐ悲鳴を殺す。

「シリウスおじさん、どう調子は?」

「半々だ。そちらはどうだ? ハリー傷は痛むか? どんな変化も、ちゃんとダンブルドアに言うんだぞ」

 自分だけを心配してくれる大人、シリウスの存在にハリーは穏やかな気持ちになる。やはり、彼は自分だけのは家族だ。

「本部の暖炉を使っているの? そうだ、クリーチャーはお元気?」

 ハーマイオニーは興味津々に暖炉を眺める。彼女から出た名前にシリウスは若干、不機嫌になる。

「いいや、仲間の家だ。本部は君達がいなくなってからは会議以外に使っていないよ。普段はモリーとクロックフォードに管理を任せっきりだ」

「それはよくないわ。クリーチャーのご主人は……」

「ハーマイオニー、時間がないんだ。手早くしようぜ」

 ロンに窘められ、ハーマイオニーまで不機嫌になる。

「アンブリッジは学校で何をしている?」

「部活制限したり、授業の査察をしに来るよ。服装の乱れも許さないみたい、廊下で何人も身だしなみを直されてた。僕も正直、わざと選手から外されるんじゃないかって思ってたけど、無事チームに残れたよ」

 キャプテンのアンジェリーナは心底、ホッとしていた。

「正直、ルーピンを追い出した奴だから、もしかして『死喰い人』かもって警戒してたんだけど」

「う~ん、アンブリッジの事は非常に嫌な女だとしか知らんな。人狼や水中人なんかの半人間を毛嫌いしている。……『死喰い人』の噂は欠片もない」

 ロンとシリウスは考え込み、変な唸り声を上げる。

「そういえば、ルーピン先生には会ってる?」

「先週、本部で一度、見たきりだ。かなりアンブリッジにブチ切れていたが、……まあ、リーマスは元気だ」

 本気で切れたルーピン。怖いもの見たさで、見てみたい。

「新任のドーリッシュ=ダートは、どうだ? まともに授業しているか?」

「ええ、……うん。なんというか、ルーピン先生のやり方を……なぞっているという感じよ。ルーピン先生の時より、人気はないけど……それでも試験を控えた私達は大助かりね。まあ、試験は……」

 丁寧に言葉を選び、ハーマイオニーは新任の評価を述べる。

「そうだろうな。トンクスから聞いたが、あいつは職務に忠実らしい。ただ臨機応変に弱いとか、どんな仕事も断らんから、厄介な案件を押し付けられるそうだ」

「つまり、教授の仕事は厄介ってわけ?」

 殊更、おかしそうにロンは笑う。

「ダートが雇われたのは『闇払い局長』スクリムジョールの案だ。局長もヴォルデモートの帰還を信じて、行動している。勿論、局長としての権限内で外国の『闇払い』と協力して『死喰い人』の調査を……」

「魔法省でそんな動きがあるなんて、【日刊予言者新聞】に書いてないわ。ハグリッドの言っていた巨人との同盟も全然、載らないじゃない」

 ハーマイオニーが厳しく言い放つ。ハリーは一瞬、心臓が震える。折角、シリウスは親切に説明してくれているのに、気分を害して去ってしまう恐れを感じた。

「……もしかして【ザ・クィブラー】を読んでいないのか?」

 シリウスの口から出た雑誌は、ルーナの父親が出版する雑誌だ。意外な名前に、吃驚しすぎたハーマイオニーは『数占い』の教科書を落とす。そのせいで、クローディアから誕生日に貰った新しい羽根ペン(魔法のガラス製)が絨毯に転がった。

「【日刊予言者新聞】は『死喰い人』も読むからな。【ザ・クィブラー】なら、その心配がないと、ジニーに勧められたんだ。編集長には重労働を強いて悪いが、夏から重宝させてもらっている」

「あ、ああ! ネビルが言ってたわ! ネビルのお祖母さまも【ザ・クィブラー】を読んでいるって! どうしよう! 私、クローディアにも「この記事、読んだ?」って聞かれたのに、宿題に逃げちゃってた!」

 自分の発言すら、信じられないとハーマイオニーは愕然とする。あまりに彼女が驚くので、2人は反応に困った。

「ハーマイオニー、君の大切なペンフレンドは何も教えてくれなかったのかい?」

 ロンに咎められ、ハーマイオニーは耳まで真っ赤になる。彼女のペンフレンドは、ビクトール=クラムだ。彼からサインを貰っておきながら、ロンは交流に不満げだ。

(……ロンが自覚してくれないと、ハーマイオニーも自棄になるのに)

 ハリーが胸中で呟くと、シリウスは何かに気づく。

「いかん、そろそろ戻らんと。ハリー、これからの手紙はハグリッドに渡してくれ。彼から、送ってもらう。そのほうが安全だ。それから、クローディアの事を……頼む」

 早口で告げたシリウスの顔が炎を強くして消えた。

 時計を見たロンは、欠伸をひとつする。それがハーマイオニーにも伝染した。

「【ザ・クィブラー】はどうする? ネビルに借りる?」

「いいえ、……ルーナに頼んでみるわ。自分達が読むんだから、ちゃんと申し込む」

 散々、馬鹿にしてた雑誌がまさかの今一番の情報源。その事実がハーマイオニーは納得出来ない。

 それと同じではないが、ハリーもシリウスに納得できなかった。ブラック家の屋敷で、出来るだけ避けていたクローディアの名を口にした。それも、ハリーの身を案じる時のような優しい口調だった。

 心臓がチクッと痛んだ。

 

 ――――僕の名付け親だ。

 

 ハグリッドも涙を堪え、新入生を出迎えに行ったのはクローディアの為だと言っていた。

 ――――僕の友達だ。

 

 そもしも、クローディアはハリーの為に入学を遅らされたはずだ。

 ――――僕の為にあるべきだ。

 

 脳髄の奥から、思考という網を放ち、脳そのものを包もうとする感覚。

「ハリー」

 低い声はシリウスではない。

 

 ――――ボニフェース。

 

 網膜に焼きついたボニフェースの表情は一切、笑わない。また廊下の奥、扉の前に立っている。そこを開けたい。開けさせて欲しい。

 

 ――――どけ、どくんだ。

 

「それは、おまえの感情じゃないって言っているだろ。ここに来るな!」

 一喝から、意識が覚醒した。

 

 グリフィンドールの談話室。赤を基調とした暖かい内装、優しい火の音を出す暖炉、教科書や宿題のレポートを片付けるロンとハーマイオニー、そして、ベッロとクルックシャンクスがハリーを見ている。

[ハリー……おまえは……ハリーでいいんだな?]

 心配してくるベッロの意味がわからない。

「僕はハリーだよ。どうして、そんなこと言うの?」

[そろそろ、……保てないのかもしれない。……ただでさえ、忙しい奴だが、手を借りるしかないか]

 ハリーに答えず、ベッロはするりと談話室を出て行った。

「あら、ベッロったら帰るのかしら?」

「わからないけど、そうだと思うよ」

 ハーマイオニーの疑問に、ハリーはそう答えるしかない。自室に戻ろうと起き上がれば、汗ひとつ掻いていないのに全身が干からびたように乾いている気がした。

 

 クィディッチの猛練習を済ませ、ハリーとロンはハグリッドの家に行く。

 【ザ・クィブラー】を読む為だ。ネビルに借りようとしたが、行き先を告げずに出かけたらしい。ディーンに教えて貰った。ちなみに、ハーマイオニーはクローディア達と勉強会だ。そのついでにルーナに雑誌の購読を頼むそうだ。

「なんだ、おめえさん達、持ってなかったのか。通りで昨日もその辺の話をしてこねえとわけだ」

 やれやれと肩を竦め、ハグリッドは紅茶を4人分入れる。

「仕方ないね、私もこんなマイナーな雑誌に投稿する羽目になるなんて思わなかったし」

 何故か、トンクスがハグリッドお手製サンドイッチを貪る。今日の姿はハグリッドと変わらない大柄な男だ。お陰で、室内が普段より狭く感じた。

「シリウスと一緒じゃないの?」

「一緒にいる事になっている、かな? ちょっと用事があるのよ」

 任務らしく、内容は教えてくれない。

【魔法省、巨人と同盟を結ぶ】

 ロンは巨人への恐怖めいた感情を抱いているが、それでも興味津津に記事を読みふける。ただ、ハリーはトンクスを見ていて不意に疑問を口にする。

「ねえ、どうしてバグマンさんが大臣になったの?」

 この質問に、トンクスが酸っぱいものを食べたように口を尖らせる。そして、記事を指差す。

「皆、疑問に思ってたけど、このヘンリー=マンチから聞いて、もう驚き、桃の木!」

 深く息を吐き、トンクスはしゅるしゅると元の女性としての姿に変ずる。

「ファッジのせいよ」

 意味不明と、ハリーとロンは目を合わせる。

 7月の頭、ファッジはバグマンとマンチを個人的に呼び出して会合した。バグマンは競技大会の審査員であり、マンチはバーサ=ジョーキンズ捜索部隊にして、遺体の第一発見者だった。

 話題は、ハリーから『死喰い人』になり、いつの間にか飲酒した3人は、べろんべろん酔っ払った。酔いの勢いに任せ、バグマンは賭けを言い出した。

 賭けの前に、3人は自らの罰をそれぞれ決めた。ファッジは大臣の後任をバグマンに指名する。マンチは巨人と盟約する。バグマンは『例のあの人』を倒す。提案を誓約書に認め、サインまで行った。この誓約書は、外交との取引でのみ使う事が許される強力な魔法契約がかけられたモノであった。

「結果、バグマンは独り勝ち。マンチは巨人探しに旅に出て右往左往。疲労困憊で帰還すれば、ファッジは死んで、バグマンが大臣だもの。マンチは最初、バグマンが我慢出来なくて殺したんじゃないかって疑ったらしい」

 言い終えて、トンクスは自分で話した内容に疲れて深く椅子へもたれかかる。

「「「そんな、馬鹿な」」」

 呆れを通り越し、疲れた。

「一体全体、どんな勝負で決まったんだよ。それ」

 げっそりしたロンは、何気なく口にする。トンクスは懐から、硬貨を取り出し指で弾いた。

「コイントスよ。3回勝負だったんですって」

 これで話は終わりだと、トンクスは降参の意味で万歳した。

 重要で重大な決定がただのコイントス。衝撃すぎて、反応できないハリーとロンは頭を抱える。泥酔経験のあるハグリッドは、そっと目を逸らす。

「まあ、あれだ。酒は飲んでも、飲まれるなってこった。俺も、ちょいと、いや、しばらく、禁酒しねえと……」

 明日は我が身と思い、いそいそと酒瓶を片付け始めた。

 

 トンクスの話に疲れたハリーとロンは、早々に城へ戻る。入れ違いで、アンブリッジが馬車に乗ろうとする姿を目撃する。フィルチが名残惜しげに、尋問官の手提げ鞄を馬車に詰める。

 顔を合わせると面倒だ。2人は物陰に隠れ、忍ばせていた『透明マント』で身を隠す。

「それでは、火曜日にお会いしましょう。ミスタ・フィルチ。貴方達も……書き取りの続きは火曜日の放課後に行います。努々、忘れぬように」

 嘶きを上げ、セストラルは馬車を引く。馬車に悪戯をしたくなる衝動が起こる。しかし、それでは責任はセストラルになってしまうので、耐えた。

 馬車が去ると、そこにはネビル、レイブンクローのモラグ、ハッフルパフのクレメンスとデレクの4人がいた。フィルチが4人に解散を命じると、ゆっくりと歩き出した。

 『透明マント』を脱ぎ、ハリーとロンはフィルチに礼儀上の挨拶してから、ネビルに声をかける。

「ネビル、何処にいたんだ?」

 ハリーに声をかけられ、一瞬、ネビルは強張る。しかし、唇を噛みしめて答えた。

「アンブリッジの所で、罰則を受けていたんだよ」

「君達、全員?」

 ロンの追及に、モラグは神妙に頷く。

「ただの書き取りだ。大した事ない」

 クレメンスがぶっきらぼうに呟くと、デレクが強く唇を噛みしめて肩を震わせる。

 明らかに様子のおかしい4人に、フィルチは明るい声で笑う。

「ああ、素晴らしい罰則だったな。もっと前から、するべきだったのだ。いやあ、あの方は素晴らしい」

 6人の睨みを受けても、フィルチは怯まない。それどころか、早く城に戻るように命令した。

 クレメンスはデレクの肩に優しく触れ、歩くよう促す。それにつられて彼らは歩き出した。余程、悔しい罰則だったのか、誰も口を開かない。

 だが、ハリーはクレメンスの手を見てしまう。その手の甲に薄いが、確実に刻まれた文字を見た。

【僕は 嘘を ついては いけない】

 背筋が熱くなる。

 フィルチが見えなくなり、ハリーはロンと共に4人を隠れ戸に押し込む。この隠れ戸は時折、気まぐれに現れる戸だ。フィルチも知っているが、出現時間が定かではない。

「これ、どうしたの?」

 ネビル、モラグ、デレクの手にも、その赤い文字……傷はあった。

 聞かれたデレクは、堪え切れずしゃくり上げた。

「だから、罰則だよ。書き取りの」

 モラグが感情を押さえ込む口調で言い放つ。

「僕たち、アンブリッジに抗議したんだ。木曜日にね……。バスケ部は僕らに必要だって、話した」

 目つきを鋭くし、ネビルは手を引っ込める。

「部活があったから、僕らはとっても成績良かったんだって、そしたら、罰則を言い渡された」

「じゃあ、医務室に……」

 ハリーの提案をネビルは、拒んだ。

「……まだ、終わりじゃない。火曜日に続きがあるんだ」

「しっかりと、身に刻むまでやるんだと」

 クレメンスの締めくくりに、ハリーは絶句した。ロンは残酷な罰則に、嫌悪を露にする。

「校長先生に言おうぜ! 許されるもんか、こんなの」

「駄目だ、これもきっと、ダンブルドアを挑発する罠だ」

 モラグが慌ててロンを引き留める。

「レイブンクローじゃ、皆、そう言っているぞ。アンブリッジは校長先生を退職に追いやろうと様々な事をしてくるぜ」

 ダンブルドアの退職。それは絶対に避けなければならない。2年生の折に、ルシウス=マルフォイの企みで危うかった。沸々と湧き起こる怒りの中で、ハリーは冷静に思い当たる。

「つまり……、彼女が部活を取り上げられたのに大人しいのは、そのせいなの?」

 彼女が誰を意味するのか、この場にいる誰もがわかっていた。

「……はい。だから、僕ら、ちゃんと、ちゃんと話せば、わかってもらえると……」

 涙声でデレクは、ゆっくりと述べる。一言話す度、涙が零れる。クレメンスがハンカチで彼の頬を拭う。惨たらしい現実に、誰も何も言えなかった。

 

 沈痛な面持ちで解散し、ハリーとロンはネビルと自室に戻った。

 宿題をしていたディーンとシェーマスは、ネビルの手を見るとはなしに見てしまい、同じく絶句して慄いた。

「ありえねえ! だから言ったろ。部活なんて、あの婆がいない間にこっそりやっちまえばいいんだよ!」

 事情を聞いて、シェーマスは憤慨して飛び出して行った。ディーンはタオルを水で濡らし、ネビルの手をそっと冷やして上げた。

「痛むか?」

 頷くネビルの手をもう一度見る。

 ダーズリー家に居た時でさえ、ハリーは刃物による暴力は散髪以外はなかった。

 6年生のコーマックが告げた「いつまで、持つか」とは、これだったのだ。ケイティに彼の話を聞いた際、「選考に出れなかった憂さ晴らしよ」と返されたが、違った。

 自分の甘さや大人が突きつける理不尽に、眩暈が起こりそうだ。

 そこにベッロが飄々と現れ、口に手紙を銜えている。

 ハリーに差しだしてきたので、躊躇いなく受け取る。差出人を見て、また絶句した。

 スリザリンのセオドール=ノットからだ。彼の父親は『死喰い人』だ。墓場にも馳せ参じ、忠誠を誓っていた。

 呪いを疑い、ハーマイオニーの部屋に行こうと女子寮に突入した。すると、女子寮へ続く階段は滑らかな滑り台へと変じた。登ることもできず、ハリーは滑り落とされた。

「あら、すごーい♪」

 3年生ロミルダ=ベインは、ハリーに愉快そうな笑みを向ける。

「女子寮へ行こうとしたの? それは無理よ、男子への対策魔法がかかっているんだから♪」

「どうも」

 親切なロミルダへ、ぶっきらぼうに返事をする。

「すげえな……、ハーマイオニーがいつも男子寮に来るのに、そっちは罠作ってんのかよ。通りで誰も女子寮に忍び込まないはずだ」

 様子を見ていたロンは、男女差別に苦言する。愉快そうなロミルダと入れ違いに、ハーマイオニーはジニーと戻ってきた。

「ロミルダ=ベインから、貴方達が待っているって聞いたわ」

 ハーマイオニーに聞かれ、ハリーはすぐに封筒を見せる。彼女は厳しい顔つきで、封筒を繁々と眺める。そして、杖を封筒へ向けた。

「スペシアリス・レベリオ(化けの皮 剥がれよ)!」

 呪文の効果は何もない。

「何それ?」

「休暇中に、マッド‐アイに教えて貰ったの」

 仕方なくハーマイオニーは鞄から手袋を取り出し、ロンに渡す。ジニーは静かにハリーの後ろへ隠れる。

「僕が開けるんかい」

 渋々、ロンは手袋で手を完璧に保護し、慎重な手つきで封を切る。何も起こらなかった。安心と期待外れを半分ずつ味わい、ハリーは手紙を読み上げた。

【ハリー=ポッターへ

 おまえが赤ん坊の時に、闇の帝王を退けた魔法を教えてほしい。代わりに、ファッジを殺した犯人を教える。10月5日ホグズミード村、ホッグズ・ヘッドにて待つ。こちらは、けむくじゃらに変装して行く。そちらも出来るだけ変装して来い。  セオドール=ノット】

 4人は手紙の内容に、賛否両論だ。ハリーは、場所に警戒した。『ホッグズ・ヘッド』は奇妙な客人が寄る店だと、ハグリッドから聞いた事がある。

 ロンは間違いなく、罠だと宣言した。

「『死喰い人』は『例のあの人』から色々と聞いてんじゃん。今更、ハリーに何を聞くんだよ」

 ジニーも同意見だ。ただ、ハーマイオニーは挑戦的に受け取っていた。

「でも、ベッロが持って来たって事は、きっと意味があるわ。罠を疑って出来るだけ対策して行きましょう。そうね、皆で『ポリジュース薬』で変装していくっていうのは?」

「皆って……、皆もついてくるの?」

 正直、独りでは心細い。嬉しさで声を上げたハリーに、ロンは目を丸くする。

「当たり前だろ、スリザリンでしかも『死喰い人』の息子だぞ。マルフォイの罠だろうし、1人で来いなんて書いてない……」

 言い終えてから、ロンは急に閃く。

「ハリーが僕に変身した事にすればいい」

 最高の提案とばかりに、ロンは3人を見渡す。突然の思いつきに、ジニーは吃驚仰天した。誰にも聞かれていないのに、彼は続ける。

「僕がハリーのフリをして、軽く変装して……、ハリーは『透明マント』を隠ればいい! 僕の後ろをついてくれば、完璧じゃん!」

「ロン……あなた、冴えてるわ!」

 ハーマイオニーが歓喜し、ハリーは咄嗟に否定した。

「待って、危ないよ。ロンに何かあったら、どうするの!?」

 自分の代わりに、ロンに危害を加えられる危険性にハリーは慄く。すると、ジニーはやれやれと溜息をついた。

「ロンを心配しなくても、私達が守るわ。だから、遠慮なくロンに守られて」

 至極、当たり前と言わんばかりにジニーは言い放つ。ロンに対する信頼が感じられた。過剰でも不足でもなく、心地よい情愛を感じられた。

 反対するのは寧ろ、彼らへの信頼の裏切りである。

 ハリーは素直な気持ちで提案を受け入れた。

「そういえば、【ザ・クィブラー】はどうなった?」

「ちゃんと、頼んできました。ルーナのお父様、とっても忙しくてピリピリしているそうよ」

 厭味ったらしいハーマイオニーの口調は、3人の笑いのツボをついた。

「さあ、クローディアにも伝えましょう」

 急に胸の暖かさが消える。嬉しいはずなのに理由がわからない。

 ハリーは笑顔を取り繕い、その場を凌いだ。

 

 ネビル達の罰則は、すぐに3人の寮監に知る所となった。

 抗議の声は上がったが、アンブリッジは全く物ともせず、魔法省より与えられた権限だと主張した。しかも、自分への抗議は魔法省への反乱だと述べた。

 ハリーは、ダンブルドアが対処してくれると思っていた。しかし、校長は巨人の盟約への調整と騎士団への指示で多忙が過ぎると、ハグリッドは教えた。

 理不尽な状況にハーマイオニーがマーラップの触手による溶液で、ネビルの手を癒した。

「クローディアに教えてやればいい」

「彼女は傷薬があるじゃない。それに罰則が終了してから、モラグとデレクを治してあげていたわ」

 ハーマイオニーの説明に、ハリーは疑問を感じざる終えない。

「僕とクレメンスは遠慮したんだ。祖母ちゃん、僕の事、ちょっと褒めてくれた。権力に屈しないって! だから、これは残しておくよ。クレメンスはセドリックに頼まれたんだって……なんか証拠にするとか」

 ボウルの液体に手を入れ、ネビルは癒しに浸る。

「クローディアは、君らのケガに対して何か言ってた?」

「そりゃあ、カンカンだったよ。退学になってもいいから、あの婆にドロップキックをかますって……。あ、ハリー。部活で抗議した事は内緒にしてくれる? 絶対、自分を責めちゃうから」

 クローディアを気遣うネビルは、とても穏やかだ。だが、ハリーの胸中はより搔き乱される。

(なんで皆、クローディアを守ろうとするんだろう)

 

 ――彼女は強いのに。

 

 浮かんだ言葉を咄嗟に否定した。

 実際、アンブリッジにキレている場合ではなかった。ハリーは週2日はクィディッチ戦の特訓、ロンはそれに加えて監督生としての役割、ハーマイオニーは2人より多くの授業課題があった。

 特に特訓中は、ロンの腕前が恐ろしく下手で別の緊張が走っていた。

 もっとも忙しいはずの双子は、余裕綽綽で『ずる休みスナックボックス』の作成と実験を繰り返していた。時間調整が得意なのだと思い知り、見習おうとしたらハーマイオニーが必死に止めた。

 

 

 変化の多かった9月は終わり、10月。週末はホグズミード村への外出だ。

 『占い学』の授業は、ハリーには本当に精神的苦痛だ。目の前にいるトレローニーがヴォルデモートに関わる『予言』を2度も発した張本人だからだ。否、この教室にいるハリーとネビルについての『予言』でもある。自覚がないのは、まさに不幸中の幸いだ。

 ただのインチキなら、もっと良かった。

「今日は予兆的な夢のお勉強を続けましょう」

 夢。

 正直、最近の夢はもっぱら暗く長い廊下、そしてボニフェースだ。最後に彼を見た時、普段の笑みが消えていた。

 まさか、そんな内容を夢日記に書くわけに行かない。いつも通り、ロンと適当にでっちあげる。

(そういえば、校長先生が言っていた日がすぐ傍だ)

 10月3日はクローディアが己を知る日。確か、ダンブルドアはそう教えた。急に胸を不安が支配する。彼女に責められる恐怖で、胃が痛い。

 トレローニーは目敏く、ハリーの表情に喰いついた。

「どうなさったのです……ああ、まさか……そんな……」

 いつもの不幸予言が始まってしまい、ハリーはげんなりする。彼の夢日記を見ながら、トレローニーは腹から呻き声上げて同情めいた視線を向けた。

「貴方はなんということでしょう。死者にとりつかれています……。そして、それは辛い別れとなるでしょう」

 いつもの事だ。トランス状態の時とは、違う。その場のインチキだと自分に言い聞かせる。

「ああ、見えます。ミスタ・ポッター、貴方が彼との別れに涙する姿が……」

「彼?」

 思い当たる節があり、思わずハリーは返事してしまう。

「ええ、あたくしは何か感じますわ……。その別れは、更なる死を呼ぶと……」

 反応された嬉しさで、トレローニーはペラペラと喋りだし、自称弟子ラベンダーとパーバティは真剣に先生の話に聞き入っていた。

 結局、いつもの不幸な予言で授業は終わった。

 

 木曜はアンブリッジの訪問日。

 しかも、今日は一時限目から『魔法薬学』。普段と全く変わらないネチネチとしたスネイプの授業がある。ドラコ達もハリーがどんなに無視しても、視線や顔で小馬鹿にしてくる。

「では、『安らぎの水薬』の復習を行う。先月に教授したばかりだ。よって、我輩は一切の助言をせぬ。どの棚に必要な材料があり、手順を自分の頭で思い返し、完成させて教壇の机に提出せよ。提出が済めば、自由時間としよう」

 早めに休憩が貰える。それにハリーと共に何人かが表情を輝かせる。一度、調合経験があれば簡単だ。

 

 ――そんなわけない。

 

 いつも、どん底の成績のネビルは材料がわからず、教科書を開きながら、薬棚を右往左往した。シェーマスは早速、手順を間違えて鍋に穴が空いた。ロンは鍋の火が消えた。パーバティやラベンダーの鍋は、湯気が出ないので首を傾げていた。

 それはスリザリン生も同じだ。ドラコは余裕綽綽な態度で手順を間違え、真っ黒い煙が上がっていた。

 ハリーも鍋からくる煙や熱気と緊張で、材料や手順を正確に行えたにも関わらず、液体の色が真赤だ。教室を巡回していたスネイプは、わざわざハリーの鍋を眺めにやってくる。予想通りだったしく、小気味そうに嗤う。

「ミスタ・ポッター。少々、我輩自ら、説法する必要がありそうだな。授業の後は残っていたまえ、なあに、次の授業までには間に合わせるとも」

 非情な宣言に、ハリーは血の気が失せた。

 結局、まともな調合はハーマイオニーを含めた数人だけだ。彼女達は早々に地下牢を出ていく。終業まで10分を切ったところで、低成績組も提出を済ませて出て行った。

 片付けられた教室で、スネイプと2人きりは精神的にキツイ。黒真珠の瞳は、いつも彼を苦しめては喜びに輝く。それなのにドリスやクローディアはこんな男を信頼している。

「ハリー、そう緊張せずともよい。何も叱りつけはせん」

 しゃがれても穏やかな声に、急いで振り返る。薬棚の隙間から、ダンブルドアがするりと出てきた。絶対に人が入れない隙間すらない場所、信頼する校長の登場は嬉しさと驚きを呼んだ。

「いつから、そこに!」

「たった今じゃよ、ホグワーツ校長は色々と移動手段を持っておる。アンブリッジがうるさくて、逃げておったところじゃ」

 やれやれとダンブルドアは、肩を解す。

「そして、話があるのはわしじゃ。スネイプ先生に協力してもらったのでな」

 知らずに、安堵の息を吐く。スネイプは本意でないと顔を歪めた。

「ハリー。君が勉学や選手として練習に励んでおるのは、わしは重々承知じゃ。しかし、君にひとつ、授業を追加したい。来週からがよいじゃろう」

 一瞬、理解が遅れた。

 多忙な5年生である自分に授業を足す。胃が捩じれそうだ。

「その科目を『閉心術』という、外部からの侵入に対して心を防衛する魔法じゃ。あまり、知られておらぬ魔法での。きっと、ハリーの役に立つとワシは信じておる」

 『閉心術』。全く聞いた事のない魔法だ。あまり、知られていないなら、ロンに聞いてもわからないかもしれない。一応、ハーマイオニーに聞いておこうと決めた。

「誰が教えて下さるんですか?」

「我輩だ」

 勝ち誇った声に、ハリーはげんなりした。

「週に一度だ。ポッター、誰かに聞かれたならば『魔法薬』の補習と答えるように」

 補習を受けねばならぬ程、成績が酷い。他人はそんな印象を受けるだろう。それが本望だと、スネイプは嗤っている。

「ハリー、君はこう思っておる。何故、わしが教授してくれんのか……と。それはな、君がスネイプ先生を苦手じゃからのう。この術は苦手な相手ほど、効果を発揮しやすい。納得してくれたかの?」

 凄まじく、納得した。だが、嫌だ。そんな態度を出すわけにもいかず、渋々承諾した。しかし、表情に出ていたらしくダンブルドアは苦笑した。

「見事、『閉心術』を習得できれば、わしからの個人授業が待っておる。励んでおくれ」

 ダンブルドア自らの個人授業。7年生から聞かされた有意義な時間がご褒美とくれば、心も躍る。

「はい、頑張ります」

 スネイプを視界に入れず、ダンブルドアのみ返事をした。

 

 『魔法史』を終えて、大広間に行く途中。ベッロを首に巻いたルーナが歩いている。彼女はハリーを見かける度に励ましてくれた。そして、セストラルの見える味方だ。

「やあ、ルーナ」

 ハリーの挨拶にルーナは振り返る。ベッロもじっとこちらを見やる。

「はい、ハリー。今日は機嫌いいね」

 確かに、今のハリーは上機嫌だ。ルーナには何でも見透かされる。

「クローディアなら、心配いらないよ。受けるもン。いままで、そうだったもン」

 脈絡のない話に、反応が遅れた。だが、今日はクローディアが色々と知るだった。昨日、それを思い出したせいでトレローニーから不吉予言の的にされたのだった。

「うん、そうだね。きっと大丈夫だよ」

 願いを込める意味でも、ハリーはそう答えるしかなかった。

 




閲覧ありがとうございました。
大人ども、お酒はほどほどにね。
棚の間から、するりと出てくるダンブルドアかわいい。校長は城の中を移動できる手段があると勝手に思っています!
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