こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
そろそろサブタイトルが浮かばなくなってきました。

追記:16年5月5日、16年9月2日、18年1月8日、誤字報告により修正しました。


13.勝手な大人

 11月、待望のクィディッチ・グリフィンドール対スリザリン戦。

 スリザリン観客席からの精神攻撃合唱をロンは、辛くも乗り越えた。グリフィンドールの勝利で幕を閉じるはずが、観衆の面前でハリーとジョージはドラコに暴力を振るってしまった。

 ハリーの身の上と、ウィーズリー家そのものを侮辱したからだ。

 悲鳴による制止も聞かず、2人はハグリッドに掴まれるまで、ドラコを殴りつづけた。そのままハグリッドとマクゴナガルに連行され、説教され一週間の罰則を命じられた。

 しかし、アンブリッジはハリーとジョージの凶暴性を指摘し、フレッドも含めて出場禁止を宣言。マクゴナガルは、尋問官の権限外だと主張したが、先日、バグマンから権限を捥ぎ取った証書を見せつけられた。

 その時点で呆然としていたが、ダートにトドメを刺された。【魔法は偉大なり】と刻まれた腕輪、それをハリーの腕に填められた。その腕輪は、『磔の呪文』と同等の激痛が腕を襲う拷問具だった。

【試作品であり、それ程、痛くない】

 ダート自前の小型黒板に書かれた補足に、絶句した。無論、マクゴナガルとハグリッドは拷問など認めないと激怒して訴えた。

「素晴らしいわ、ドーリッシュ! ええ、ミスタ・ポッターには必要な処置です。痛みを知れば、無暗に他人を攻撃しようなどとは思わないでしょう。尋問官として、腕輪の使用を認めます」

 アンブリッジは意気揚揚と、ダートと共に部屋を出た。

「ポッターは、……今日まで、見事な忍耐を示して下さいました。それなのに、……この仕打ち……」

 絶望と失望を表情にし、マクゴナガルは弱弱しく座り込む。しかも、罰則を取りやめると告げた。あまりにも、哀れな寮監の姿にハリーは自らの失態を悔いた。

 寮に戻り、ロンやネビル、ディーン、シェーマスが必死に腕輪を取ろうとしてくれた。しかし、外そうとする者にも、表現出来ぬ激痛が走るという代物であった。

 

 ――理不尽で不公平だ。

 

 フレッドはドラコを殴れなかった分、腹立たしい思いだった。

 

 ハーマイオニーから昨晩の状況を説明され、クローディアは我が事のように気負う。

「お三方がDAに専念できると思うしかありませんわ」

「そうそう、前向きになるのよ。あの双子は、確か商売してたじゃない。あれもこれもやっていたら、頭がパンクするわ」

 同じ部屋で話を聞いていたパドマとリサは、一応、励ましてくれる。

「何か、ハリーを元気づけられるものがあったらいいさ」

 何気なく、写真立てを見やる。そこで記憶が刺激された。シリウスから貰った『不死鳥の騎士団』創設メンバーの写真だ。急いでアルバムを捲り、例の写真を発見した。

「すっかり、忘れてたさ」

「ん、何それ?」

 ハーマイオニー、パドマ、リサも興味津津に写真を覗き込む。

「前回、ヴォルデモートと戦った人達さ」

 ヴォルデモートの名に、パドマとリサはビクッと肩を竦める。

「もう、2人とも、まだヴォル……デモートの名前を恐れているのね。ゆっくりでいいから、せめて平気になりましょう」

 ハーマイオニーは優しい口調で、2人を勇気づける。そして、彼女は写真の人々を眺めていく内に、驚愕に目を見開いた。震える指先が1人の男を指す。

「ハーマイオニー、この人、気になるさ? 校長先生の弟さん、アバーフォースさ」

 クローディアから紹介された写真のアバーファースは、煙たそうに仲間の群れに隠れた。更に、ハーマイオニーの驚愕は強くなる。

「……ホ、『ホッグズヘッド』の……バーテンよ」

 思わず、全員で2度見する。しかし、肝心のアバーフォースは見えなくなった。あの無愛想なバーテンに見覚えがあるはずだ。写真で会っていたのだ。

「全然、気づかなかったさ」

「それで、あの店は出入り禁止じゃないのね。どう考えても古臭いし、汚いし、客は危なそうだし、店は汚いし! 校長先生の弟が店を経営しているからなんだわ」

 パドマは納得して、「汚い」を2回言う。ハーマイオニーも同意した。

「次のお出かけで、ちょっとだけお店に行ってみますわ。勿論、興味本位ですわ」

 表情を輝かせたリサは、正直者だ。

 ハリーの両親も写っているので、写真を贈ろうと決めた。

 

 次のDAにて、セオドールはげっそりした顔で現れる。

「あのアンブリッジ婆、スリザリンから『高等尋問官親衛隊』を選ぶんだと……。留守中に婆の代わりに、ホグワーツを見張らせる為だと……、毎日、毎日、土日も欠かさず、就寝まで、空いた時間は全部、巡回しなきゃいけなくなる。俺は確定だと……、……だと、……だと」

 小声でぶつぶつ呟かれた。要約すれば、アンブリッジは留守中を任せる『高等尋問官親衛隊』を発足、その隊員はスリザリン生から選抜され、セオドールは問答無用で確定だ。

「ああ、嫌だ! そんなチマチマした活動するくらいなら、勉強したい!! あいつら、俺が予習復習してんの、知ってんだろうが!! 試験に落ちたら、どうしてくれるんだあ!!」

 絹クッションを叩きながら、セオドールは嘆く。ロンさえも、彼を哀れに思った。

「アンブリッジの親衛隊って、マジか……。それって罰則の権限も持っているのか?」

「いいや、減点の権限だけだ。あの婆のお気に入りだけだから、俺やダフネは除外だぜ」

 それが幸運と、ブレーズは肩を竦める。

「減点ですって、そんなの許されないぞ。監督制度が狂ってしまう」

 アーニーが真っ青になって否定する。

「なんか、ここのところ、アンブリッジの意見がよく通るにえ。どうなってるにえ!」

 憤慨したエロイーズに、クララは深く溜息が出る。

「ルシウス=マルフォイの仕業よ! あいつがバグマンと賭けをして、アンブリッジの法案を通させているらしいわ。自分の身柄を賭けにしてね」

 聞きたくないマルフォイ氏の名に、室内は空気が重くなる。

 これ以上は、ただの愚痴の言い合いだ。

 すぐに特訓を始める。セオドールの気合の入り方が凄まじく、『粉々呪文』で壁に亀裂が走った。

 楽しい時間は、瞬く間に過ぎた。クローディアはハリーを呼び止め、ハーマイオニーと共に皆が部屋を出て行くのを待つ。3人の姿を見て、ロンも自然と残る。

 4人だけになり、クローディアはポケットから写真を取り出す。

「ハリー、これ、あげるさ」

 案の定、ハリーは目を丸くする。そのまま、写真の住人について、1人1人、説明した。

「ネビルの両親……へえ。後で、ネビルに見せてやろうぜ」

 ロンが明るい声を出す。しかし、反対にハリーは暗く口元が複雑そうに歪んだ。

「ありがとう、貰っておくよ」

 絶対に喜んでいない。予想外の反応、クローディアとハーマイオニーは何を言うべきか、目配せする。

「ねえ、この写真、誰に貰ったの? 校長先生?」

「新学期に、ブラックから渡されたさ。ハリーに渡してくれってさ」

 クローディアは素直に答えた。ハリーは何も言わなかった。不気味な程、沈黙していた。

「ノットをどうするか、考えよう。『高等尋問官親衛隊』が始まれば、ノットを呼べなくなる」

「『逆転時計』みたいな魔法道具があればいいんだけど、ハーマイオニー、今からマクゴガナル先生に頼めないか?」

 冗談っぽく、ロンはハーマイオニーへ話を振る。それを聞いて、クローディアの記憶が刺激された。

 リサとセシルが授業の為に、『逆転時計』を所持しているはずだ。2人に頼みこむしかない。

「良い方法があるさ! リサとセシルが……」

 説明しようした時、クローディアは扉に気配を感じる。勢いよく開けてみれば、セシルが聞き耳を立てていた。

「壁に耳をつけても、中は聞こえないさ」

「……何事も実験は必要だし」

 恥ずかしそうにセシルは、もう1度、部屋に入る。扉を閉め、すぐに彼女へと迫る。

「丁度、良いところに来たさ。セシル、『誰にも言わない約束』を貸して欲しいさ」

 突然の懇願をセシルは、神妙な顔つきで呻く。

「……何の為に?」

 クローディアは順を追って、『逆転時計』の必要性を話す。状況を把握したハーマイオニーとハリー、ロンもセシルを説得に加わった。

「どうして、ノットの為にそこまでするの? あいつに恩を売って、どんな得があるの?」

 興味本位ではなく、知識の疑問点を追求する口調だ。

「僕らは、ヴォルデモートと違う。それを証明する為だ。ノット自身に、僕達自身への証明なんだ」

 胸元に手を当て、ハリーは宣誓の如く告げた。

 態度、表情、仕草、言葉。何処にも嘘はない。

 真剣なハリーを頭から靴の下まで、セシルはじっくりと眺めた。試験用紙に、書き抜かりを確認している様子に似ている。

「いいよ。その代わり、ひとつだけお願いを聞いて欲しいの。ハリー、貴方に」

「勿論」

 即答したハリーの手をセシルは優しく握り締める。

「バジリスクの牙、あれが欲しい! 『秘密の部屋』にあるでしょう? 私、今日まで暇を見つけてはマートルのトイレに行ってたんだけど、全然、開けないの! それだけ、頂けたら……私は文句を言わない!」

 打って変ったセシルの声で、呆気に取らされる。彼女の勢いに、ハリーは知らずと承諾してしまった。

「セシル、リサの承諾はいらないさ?」

 念のため確認すれば、セシルはニンマリと笑う。

「リサはね、とっくに貴女の考えを見抜いているよ。DAに誘われた時から、きっと『逆転時計』を必要とするだろうって」

 リサのさり気無い気遣いが嬉しい。本当に彼女は良い友人だ。感動のあまり、クローディアの目尻に涙を浮かべた。

 自室に戻った時、クローディアはリサに深く感謝して、礼を述べた。

 

 就寝時間、『透明マント』を被ったハリーは『秘密の部屋』からバジリスクの牙を取ってきた。久々に彼が女子トイレを訪問し、『嘆きのマートル』は殊更、喜んでいたそうだ。

 お陰で、クローディアとハーマイオニーが彼女からの恨めしい視線を受けなくなった。

 念願の牙を得たセシルは、リサと共に、『逆転時計』をセオドールと相談して使う事を誓ってくれた。

 

 『高等尋問官親衛隊』は、翌週から始まった。

 独自の権力を得たドラコを中心としたスリザリン生は、証のバッチを胸に城内を巡回だ。まずは、自らの怨敵を減点するという所業に出た。

「ワリントンめ、私を見るなり「顔がダサい、5点減点」とか言いやがった!」

 スリザリン6年生ニコラス=ワリントンに減点されたミムが憤慨した。彼女のように、実に個人的感情を含めた減点ばかりだった。ハーマイオニーもドラコから「『穢れた血』だから、10点減点」と宣言された。

 勿論、クローディアもパンジーと合同授業の度に減点された。

 DAにて、セオドールは説明の為、皆にバッチを見せつける。監督生や首席の物と同じ、何の変哲もないバッチだ。

「自由な権限じゃないぜ。1日、1人につき10点までしか減点できない。それ以上、減点しようとするとな、このバッチにかけられた呪いで、気絶するまで笑い転げる羽目になりやがる。ミリセントに試させたら、泡吹いて倒れるまで、止まらねえのなんのって」

「それって、ダート……先生の仕業?」

 忌々しそうにハリーが問い、セオドールはげんなりして頷く。多忙な毎日だが、『逆転時計』で、時間の余裕ができ、セオドールは嬉しそうだ。

 

 学校の規則は、アンブリッジ色に染まりつつあった。しかし、DAや部活の存在がクローディアに活力を与えた。理不尽も後に待つ、自由時間を思えば、皆も耐えられた。

 本日、クローディア、ネビル、クレメンス、デレク、ジニー、エロイーズの6人でこっそり活動する。そこに、ルーナがデニスを連れて現れた。

「ちょっと、魔法から離れたくて参加します」

 3対3を組んだり、4対4を組む。皆の疲労を確認して、休憩を取る。それの繰り返しが楽しい。

 水分補給中に、モラグはデニスを褒めた。

「デニス、上手いじゃん。今まで、組んだことなかったから、知らなかったな」

「はい、僕の得意なんです。マグルの学校では、同級生で一番上手かったんです」

 自信に溢れたデニスは、ボールを弄ぶ。思いつきでクローディアは、彼をからかう。

「そんなに上手いなら、ダンクシュートとか、できるさ?」

 デニスは一度、動きを止めてから、急に座り込んでシューズの紐を結び直しだした。

「ダンクシュート?」

「バスケの必殺技だ。あれは、難しい。なんども練習したけど、ボール持ってゴールに叩きこむなんてな」

 ネビルの質問に、クレメンスがやれやれと肩を竦める。

「そんなに、難しいにえ?」

「うん、私も成功させたことないさ。あれは、本当に達人技さ」

 エロイーズに、クローディアが答えた時、座っていたデニスは立ち上がる。

「できますよ、見ててください」

 当たり前のように答えたデニスは、ジニーの持っていたボールを持ってコートに立つ。

「え? デニス……ちょっと、今、ダンクシュートは達人技だって話を……」

 ジニーの反応に返事をせず、デニスは地面にボールを打って体勢を確認する。そして、一気に疾走して跳躍した。

 海老のように仰け反った体は、そのままリングにボールを叩きこんだ。

 

 ――ゴオン。

 

 ボールはリングを通り抜け、真下の床へとぶつかる。技を決めたデニスは、リングにぶら下がった揺れを利用して床へ舞い降りた。

 一連の動作は、まさにダンクシュート。

 吃驚したクローディアは、茫然とデニスを見るしかなかった。彼女の反応を待っていた一同は、デレクによって沈黙を破られる。

「そんなに簡単にできるの?」

「簡単じゃないですよ。2回に一回は、失敗しますし、試合中に成功したことありません」

 それだけ悔しそうにデニスは、ボールを拾った。

 やっと、現実を受け入れたクローディアは、その場に平伏した。

「デニス先生! 皆、デニスに師事されるさ!」

 明らかに動揺しているが、ルーナ以外は、倣って平伏す。

「やめて! 僕にそんな事しないで! 僕、教え方ヘッタクソだから! ちょっと、ルーナ、なんとかして!」

 上級生に平伏され、狼狽したデニスは思わず、ルーナの助けを求めた。

「アップルパイ食べたい、まだ、大広間にあるかな?」

 浮ついた口調で、ルーナは呼びかけた。それをきっかけに、今日の部活動は終了だ。

 クローディアは、しばらくデニスを師と仰いでダンクシュートのコツを教わろうとした。嫌がった彼は、部活に顔を出さなくなった。

 

☈☈☈☈☈

 12月、クィディッチ・レイブンクロー対ハッフルパフ戦。接戦を極め、ハッフルパフの勝利で幕を閉じた。セドリック曰く、3年生ペロプス=サマービーは期待の新人だそうだ。

 ロンの監督生としての業務を愚痴が増えた。

 愚痴を言いたいのは、ハリーだ。選手から外され、拷問の腕輪まで着けられた。コーマック達、グリフィンドール生から憐みの眼差しが、毎日、うっとおしい。

 アンジェリーナから、代理選手の話をされた。彼の代わりはジニー、双子はアンドリューとジャックになった。3人は、ハリー達には劣るが試合で十分通用する腕前らしい。

「不安がないわけじゃない。けどね、出場停止が解かれない限り、貴方達は……」

「わかってるよ、教えてくれてありがとう」

 煩わしさが態度に出ぬように、ハリーはアンジェリーナに礼を言う。

 

 ――姿形を変えて、ハリーは責められる。

 

 今日も課外授業を終えた。

 スネイプの課外授業は、本当に最悪だ。忘却していた惨めな過去を強制的に思い返される。今学期中に、取得は不可能と断言された。

「ポッター、2ケ月も特訓しておきながら、全く進歩が見られん。これは怠慢だ」

 普段通り、軽蔑した口調でスネイプは吐き捨てる。

 様々な大人の身勝手な押し付けに、ハリーは心は閉じるどころか、より搔き乱されてしまう。

 クローディアから貰った写真。

 自分の未来も知らずに、団結力を誇示した『不死鳥の騎士団』は虚しさしか感じなかった。しかも、シリウスが彼女に渡した事実は、嫉妬も何も通り越して呆れた。

 どうせ、渡されるなら、シリウスから渡されたかった。彼はクローディアを信頼し始めている。ハリーの友達としてではなく、彼女自身をだ。

 その考えがハリーの心に、黒い滴を落としていく。

 シリウスは様々な事を手紙で確認してくる。課外授業、ダートの拷問腕輪、クィディッチの代行選手、しかし、クリーチャーとの和解については一切触れない。

 だから、ハリーも写真を受け取った話はしない。

 

 ――お相子だ。

 

「何度も言うが、ポッター。何も考えずに、心を閉じよ。クロックフォードの事も、一切合財だ」

 聞き分けのない子供を叱る口調で、スネイプに追い出された。

 勿論、縋る気はなく、ハリーは研究室を出て行く。今日はクローディアとの記憶ばかり掘り返された。初対面の時、石化された時、ルーピンに噛まれた時……。

 見られたのは、意図した事ではない。しかし、一度、開いてしまうと記憶が刺激されて次々と浮かんでしまう。それを防ぐ為の『閉心術』は、上達している気がしない。

 

 ――彼女のせいだ。

 

 脳髄の奥から、囁く声がした。

 空腹に大広間を目指すと、空き教室から声がする。聞くとはなしに聞いていると、チョウとセドリックだ。

「ハリーは、誰よりも頑張っているじゃない! それなのに、貴方は何をマゴマゴとしているのよ! ねえ、セディ。貴方のお父さんに遠慮していたら、魔法省はマルフォイの私物になってしまうわ!」

「……、わかっているよ」

 

 ――バアンッ。

 

 平手打の音が響くと同時に、チョウが涙顔で廊下に飛び出してきた。ハリーと目が合い、袖で顔を隠して走り去った。

 手形の付いた頬をセドリックは痛そうに撫でながら、出てくる。覗き見た罪悪感で、思わず、変に明るい声で挨拶してしまった。

「やあ、ハリー。その顔じゃ、聞いちゃった? みっともないところを見せちゃったね」

「……いや、いま、きたところだよ。大丈夫、頬?」

 出来るだけ自然に盗み聞きを否定し、ハリーはセドリックの頬を心配する。

「痛いよ。けど、仕方ない。父さんが僕の意見をここまで聞いてくれないなんて、思わなかった。……ごめんな、ハリー。役に立てなくて」

「なんで、セドリックが謝るの? 僕、セドリックに信じてもらえて、本当に心強いよ」

 これは本心だ。それは伝わり、セドリックは優しい表情で笑ってくれた。

「でもね、信じるだけじゃダメなんだ。何か形を示さないと、ハリーを助けられないって、チョウに怒られちゃった。裁判の頃から、チョウは君に夢中みたい」

 笑い所か、ただの情報か、セドリックは世間話として教えた。

 チョウがハリーに夢中になっている。

 地下牢での陰湿さが吹き飛ぶ程、嬉しかった。ここしばらく、胸でもやもやして霞さえ、浄化された気分だった。

 

☈☈☈☈☈

 クリスマスの近づきは、休暇への一歩。生徒と教師陣は、安らぐ時間が来ると日々を我慢していた。

 しかし、アンブリッジが冬休暇を学校で過ごすという報せが学校中を震撼させる。ピーブズさえも、親衛隊を襲って抗議を示した。

【休暇の初日、汽車内にて待つ。行くべきところがある。  コンラッド】

 ほとんど電報と化した手紙がコンラッドから、届く。学校から去れる理由が出来た。クローディアは胸を撫で下ろす。

 フリットウィック曰く、ここまで学校に生徒が残らないのは、2年ぶりだと苦笑した。

「ハリーは、ロンの家に行くそうよ。ロンったら、伝えるの忘れたみたい」

 ハーマイオニーはぷりぷりしながら、教えてくれた。

「ハーマイオニーは、どうするさ?」

「一応、両親とスキーに行く予定よ。デニスじゃないけど、偶には魔法界から離れたいわ」

 クローディアは、笑いのツボを押されてしまい噴き出した。

「よお、クローディア」

 呼びかけに振り返り、アンドリューと目と目が合う。

「俺さ、フレッドの代わりにビーターになったんだ。多分、君のおかげだから、礼を言っておこうと思ってよ」

 意味不明とハーマイオニーと顔を見合わせ、アンドリューは必死に言葉を選びながら続ける。

「バスケの経験があったから、選ばれたんだろうって、思うんだ。実際、俺と一緒にビーターになったジャックも、シーカーになったジニーも、バスケをやってた。それで、その、君が大変な時に何にもしなくて、悪かった……」

 予想外の謝罪に、クローディアは驚いて目を丸くする。ジニーとジャックの件も初耳だ。その情報こそ、アンドリューなりの詫びなのだと、感じる。

「ありがとうさ、アンドリュー。その気持ちが嬉しいさ」

 素直な気持ちを述べ、アンドリューは耳まで真っ赤になり、小走りで去った。彼が去ってから、ハーマイオニーは我に帰る。

「そうよ、ジニーがシーカーになったんだったわ。彼女ね、6歳の頃からフレッドとジョージの箒をこっそり使って練習してたんですって。そもそも……」

 そのまま、ネタが切れるまでハーマイオニーの蘊蓄は続いた。

 

 今学期、最後のDA。

 クローディアは一番に、部屋へ来た。

 この部屋も、クリスマスに彩られていた。その飾りつけの中に、何故かハリーの似顔絵がある。恥ずかしがる彼を想像し、気遣う意味で外した。

 ちょうど、ハリーが来たので似顔絵を渡す。予想通り、羞恥心で真っ赤に染まった。

「ドビーとウィンキーの仕業だよ。ほら、ここに名前がある」

 ハリーは丁寧に折り、ポケットに片付けた。

「はい、クローディア、ハリー。素敵な飾りだね。2人でやったの?」

 現れたルーナは、室内を見渡して聞いてくる。ドビーとウィンキーのお陰だと、教えた。

 天井にあるヤドリギをルーナは指差す。

「ヤドリギだ。2人とも、もしかして、キスしちゃうところだったの?」

「ち、違うよ!? 僕らはそんなんじゃないから!?」

 必死に否定するハリーに構わず、クローディアはヤドリギを見上げる。

「そういえば、よくヤドリギの下でどうのこうのって聞くさ。あれって、何かにのジンクスさ?」

 素朴な疑問に、ハリーとルーナは硬直する。その反応から察するに、魔法界など関係のない常識のようだ。

「やあ、もう来てたの?」

 ジャスティンの登場で、ヤドリギ話は逸れた。

「次のDAまで、三週間も空いてしまう。よって、今日はこれまでの復習だ。2人一組になって、初めてくれ」

「いつになったら、希望した魔法を教えてくれるんだ?」

 セオドールは文句を言いながら、ブレーズに『妨害の呪文』をかけた。気合いの入った彼の魔法は、目に見えて上達している。

 次に、ネビルだ。杖での上達は勿論、杖なし状態でも『武装解除の呪文』をやってのけた。

 一時間後、ハリーは解散を言い渡した。

 皆、ハリーに別れの言葉の代わりに「メリー・クリスマス」と告げて行く。これが親しい人へ「お元気で」という意味になると、クローディアはようやく知った。

 見送っていると、ネビルが寄ってきた。

「ちょっと、いいかな? ずっと、話したいことがあったんだ」

 深刻な表情に、部屋の隅へと2人は寄り添う。

「あの……写真をありがとう。ハリーに見せて貰ったよ。彼と僕の両親が……写っている」

 早口で捲くし立てられたが、聞きとれた。確かに、あの写真にネビルの両親はいた。確か、死ぬより悲惨な目に遭ったと聞いた。

「僕の両親は、『闇払い』だったんだ。それで、……『例のあの人』が滅んだ後、『死喰い人』は……両親を襲った……。自分の主人に何があったのか、情報を得る為だった。両親は……、決して屈しなかった……決して……『磔の呪文』で、拷問されても……」

 『磔の呪文』で拷問された『闇払い』。

 その単語で結びついたのは、クラウチJrと共に裁判にかけられたレストレンジ夫妻だ。

「レストレンジ……」

 思わず、呟いてからクローディアは慌てて口を閉じる。ネビルは、レストレンジの名に一瞬、表情が強張った。しかし、唇を動かして話を続ける。

「両親は、今も『聖マンゴ魔法疾患傷害病院』にいるんだ。僕が行くと、嬉しそうに笑ってくれる」

 そこで、ネビルの口は止まった。入院中の両親の姿を脳裏に浮かべているのだろう。

「……君のお祖母ちゃんのこと、ずっと前から知ってた。だって、病院で何度も僕の祖母ちゃんと話してから……。すっごく腕の良い癒者で、僕、将来は癒者になろうって思ってたよ。……君のお祖母ちゃん、両親の事を誰かに教えるか、正直、心配だった。でも、ドリスさん、僕が話すべきだから、誰にも言わないって……約束してくれて。ドリスさん、残念だったね……」

 ネビルは泣いていない。涙は零れていない。だが、顔をくしゃくしゃにして唇を噛みしめる表情は、泣いているように見える。

 ずっと、ネビルはドリスを哀悼していた。言葉にすれば、優しい心根の彼には涙は絶対だ。強がりではない。泣きたいのは、クローディアだから、気を遣っていたのだ。

 今、この場で口にしたのは、言うべき覚悟が出来た事とクローディアはもう大丈夫だと判断したのだろう。

 その気遣いに応えるのは、本心を述べる以外ない。

「ありがとう、ネビル。私さ、ネビルが友達でいてくれて、本当に……嬉しいさ」

 ネビルの目に涙が浮かんだ。だが、快活に笑い返してくれた。

「メリー・クリスマス」

 それだけ告げ、ネビルはハリーにも「メリー・クリスマス」と声をかけた。

 いつの間にか、ハーマイオニーとハリー、ロン、チョウとセドリックという少人数になっていた。

「メリー・クリスマス」

 クローディアは、皆にそう声をかけた。ハーマイオニーが着いてきた。廊下に出ると、ロンとセドリックまで追い出されるように部屋から出てきた。

「チョウはいいさ?」

「……いいよ、このところ、上手くいってないんだ」

 感情の籠らない口調で、セドリックは足早に行ってしまった。

「チョウとセドリックは、どうなっているの?」

「う~ん、ミムからだと、破局間近らしいさ。そんな失礼な話、チョウに聞くわけにもいかないさ」

 やれやれと、クローディアは肩を竦めた。

「仮に、ハリーがチョウと付き合うなら、僕は応援するぜ。それが友達ってもんだ。そうだ、君とビッキーとの仲、応援して欲しい?」

 飄々としていたはずが、ロンは急に剣吞な態度でハーマイオニーに問う。

「次に、その口からビッキーが聞こえたら、石にするわよ」

 杖を構えるハーマイオニーに、ロンは鼻を鳴らしてさっさと行った。険悪な態度の原因に、見当がついている。しかし、ロンを責める気にはなれない。

 クローディアもまた、態度に出さないだけで、ハーマイオニーとビクトールの文通に嫉妬中だ。

 

 明日からの休暇に、自室では早めの荷造りが始まる。必要最低限の物以外は、鞄へ片付けた。

 ずっと着けていた腕輪を外して机に置く。これだけは、緊急用に着けていた。偽金貨がある今は、あまり必要性はない気がして来た。

「きっと、あっという間に新学期だわ」

 パドマは卑屈な態度で、不用品をゴミ箱へと投げる。同調したリサが苦笑を返した時、マリエッタがノックもせずに乱入してきた。

「ねえ、あなたはハリーとどうなっているの?」

「何もないさ」

 即答すれば、マリエッタは不快に眉を寄せる。

「チョウったら、ハリーとキスしたって! 硬派だと思ってたのに、浮気だわ! ねえ、クローディア! ちゃんとハリーを捕まえていてよ!」

 ハリーとチョウのキス。それを聞き、クローディアは自然と納得していた。

(予想通りって奴さ)

 少しも胸が痛まない。きっと、ただの友達だからだ。

「というか、なんで私が怒られるさ? チョウを叱るさ」

「あの子、逆上せあがって、私の話聞かないもの。もう、寝るわ。休暇で頭を冷やしてくれるといいけど」

 寧ろ、マリエッタはクローディアの話を聞いていない。きっと、不満を吐き出したいのだ。

「メリー・クリスマス」

「ええ、皆さん。メリー・クリスマス」

 乱暴に告げ、マリエッタは部屋を出て行った。彼女に倣い、3人は早々に布団へ潜りこんだ。

 まどろんだ意識の中で、時間の経つも忘れて眠る。確かに、眠っていた。だが、突然の胸騒ぎに意識が覚醒し、室内を見渡す。

 寝台横の机をベッロは睨んでいた。

 机には、腕輪がある。杖で灯りを照らすと、腕輪には文字が浮かんでいた。

 

 ――『神秘部』と。

 

 目の錯覚を疑い、瞬きして目を擦る。そして、凝視した。魔法省の部署に、ハリーがいるはずはない。そこに呼び出されるなど、不可能だ。

 盗難を疑い、文字を見続けた。

 

 ――『神秘部』、『神秘部』、『神秘部』。

 

 文字の主張は、終わらない。対の腕時計は、ハリーの『蛇語』に反応する。もしや、彼の寝言を聞きとっているのかもしれない。『神秘部』は、裁判の際に魔法省へ訪問した事が原因なのかもしれない。

 かもしれない憶測を立てていると、文字は変化した。

 

 ――『アーサー=ウィーズリー』。

 

 ロンの父親の名、全身にゾッと寒気がする。不吉な予感に近い。

「ベッロ。ハリーに、ロンに、フレッドに、ジョージに、ジニーに、とにかく皆を起して!」

 クローディアの意味不明な命令より先に、ベッロは部屋を素早く行ってしまう。

 胸中に不安を抱え、布団から出て窓の傍に立つ。ベッロでも誰でもいい、情報を運んでくれるまで待った。

 朝陽が昇り、ようやくベッロは戻って来た。

 何処かに導きたい様子だ。

 迷わず、着いていけば、グリフィンドール談話室だ。その前で、ダンブルドアとハーマイオニーが立つ。2人とも、クローディアを待っていたとわかる。

「ウィーズリーのお父上が危篤状態になってのお。緊急入院してしもうた。ハリーとウィーズリー兄弟は、お見舞いへ向かったのじゃ」

 予感の的中に寒気は強くなったが、既に対応されていた事を喜んだ。

「ベッロが知らせてくれたが、君のところにも、何かあったそうじゃな」

 確認の口調に、クローディアはハーマイオニーに目配せをする。

 ハーマイオニーは状況が状況なだけに、頷く。彼女の了解を得て、素直に腕輪をダンブルドアへ見せた。腕輪の対である腕時計の仕組みに、校長は慎重だが納得してくれた。

「それは、君達を助けるものじゃ。わしは決して、取り上げはせんとも」

 クローディアとて、ダンブルドアは没収しないと頭で理解していた。改めて言葉にして貰い、安堵の息を吐く。安心すると、疑問も浮かんだ。

「校長先生、ベッロと話せるんですか? それとも、ベッロの心を読んだのですか?」

「君もハーマイオニーと同じ事を言うのお。良い着眼点じゃ、わしは『蛇語』が話せるんじゃよ。ハリー程、上手くはないのお。わしも精進せねば」

 冗談っぽい口調は、彼女達を励まそうとしている。

 そんな優しさに、昨夜からの不安は拭えた。その分、眠気に襲われてしまった。0分でも眠ろうと、2人に礼をして寮に戻る。

 螺旋階段を下りた先で、隅に靴が置かれていた。見慣れたルーナの靴だ。

「こんなところに、なんでさ?」

 靴を拾い、ドアノッカーの謎かけに答えて談話室へ入る。暖炉の傍で、ルーナは火かき棒で薪を突いていた。

「ルーナ、螺旋階段で靴を見つけたさ」

「ありがとう、昨日から探してた」

 火かき棒をポイッと投げ捨て、ルーナは靴を受け取る。慣れた様子に、クローディアは不愉快な気分になる。

「また、ナーグルの仕業さ? そのナーグルがこんな悪さするなら、私、懲らしめに行くさ」

「懲らしめなくていいよ、無くなっても、ちゃんと返ってくるんだ。そんなに心配しなくて、大丈夫だもン」

 靴を抱きしめ、ルーナはハッキリとした口調で反論した。追及を逃れるように、小走りで女子寮へと去って行った。

 唐突に消える階段や見え隠れする扉など、この学校は意外と危険が多い。ピーブスのような悪戯好きもいるのだ。物を隠したがる何かがいてもおかしくはない。

 だが、再々ルーナは狙われている。

 念のため、ピーブズに警告しに行く。彼はクローディアを目にし、小馬鹿にして逃げ去ろうとした。そこを影でひっ捕まえる。得体の知れない力に押さえられ、彼は狼狽した。

「あんたに悪戯をやめろなんて、言わないさ。ルーナに悪戯する奴をあんたの力で、庇うさ。それだけ、約束して欲しいさ」

 努めて冷静な態度でお願いすれば、ピーブズは渋々、承諾した。

 




閲覧ありがとうございました。
高等尋問官親衛隊は、原作より早く出来上がりました。生徒の皆さん、ごめんね。
ダンクシュートを生で見たことないので、迫力が伝わらないかもしれない不安。

神秘部の表示シーンを書く時、夜中だったので、自分で怖かったです。
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