うずまきクシナを知ってるかって?もちろん。ここ最近のアカデミーの話題は彼女がさらっているんだ。何もしなくても耳に入ってくるよ。編入早々で火影になると言いはるなんて勇気があるよね。この前なんて男子と言い争いをしていたかと思えば、怒った彼女が相手の男子に金タマキックだよ…。見ていた僕はつい身を引いてしまったよ。真っ青な男子の顔が印象的だったなぁ。でも彼女も悪気があったわけじゃないと思うんだ。金タマを蹴るつもりはなかったんじゃないかな、多分。蹴ったあとの彼女ものすごくバツの悪そうな顔していたもの。でも意地っ張りだから謝らないんだろうなぁ。教室を出て行って一人で落ち込んでいたよ。そんな彼女を励ます勇気がない僕はダメダメだなぁ。見てることしかできなかった。何か声をかけることだってできたのに。後悔するのは女々しいだって?あはは、よく言われるよ。明日こそ彼女を励ませるように頑張るよ。
次の日僕はクシナに話しかけることに決めていた。今まで彼女と話す勇気が出なかったから一言二言くらいしか話したことがなかったんだ。今日こそはと意気込んでアカデミーに向かった。でも彼女はアカデミーに来なかったんだ。最初は欠席かと思ったんたけどそうじゃない。クシナは昨夜だれかに連れ去られてしまっていた。なぜ連れ去られてしまったのかはよく分からない。だけど大人たちは血相を変えて彼女を捜索した。彼女の遺体が見つかったのは5日後のことだった…。チャクラを使い切ったことによる枯渇死だったため彼女の身体はやせ細っていたという。おそらく無理やり忍術を使わされたのだろう。仲間のだれにも気づかれずに死んでいくのは怖かっただろうな…。クシナ…!あぁ…!クシナ…。気丈に振る舞うけど本当は寂しがり屋なクシナ。僕はそんな君を守ってあげたかったのに。君の周りの異変に気がつくことすらできなかったなんて。僕に力があれば君は今でもこの世界にいられたのかもしれない。この時の後悔が僕を修行へと駆り立てた。来る日も来る日も修行して、強くなった。そして僕は暗部に入り、1年でトップにまで上り詰めた。
謎に包まれたクシナ誘拐事件の真相究明。
このために僕は暗部に入った。任務を手早く遂行し、余った時間で事件の手がかりを探す。いい加減に諦めろという人もいる。だけど僕は犯人を許すことができない。なぜクシナは殺されなければならなかったのか…?その真相を知る日はすぐそこまでやってきていた。
敵の頸動脈を切ろうとしたときだった。命乞いをしながらクシナの名前を口走ったのである。
「おいお前今何て!?」
「うずまきクシナは木の葉を守って死んだんだ」
「どういう意味だ?」
「里が滅びたうずまき一族には他の忍は持たない特別なチャクラがある。そのチャクラを巡って各地で小競り合いが起きていて、うずまきクシナは中でも強いチャクラを持っていたから最も狙われていたんだ。このまま里にいつづけて巻き込んでしまうわけにはいかないが、チャクラを渡してしまうわけにもいかない。悩んだ彼女は自ら命を絶ったのさ」
「そ…そんなの嘘だ!!」
頭が真っ白になった。クシナが自殺…?なら、僕は今までなんて勘違いしていたんだ…
動きが止まった僕を見かねて、敵は逃走した。
君が死んだ理由が君が望んだからだなんて、小さい君がなぜそこまで重荷を背負わなければならない?そんなことさせたくなかった…!僕が支えることができていたら…!
「…あっ!?」
世界が突然ぐにゃりと歪んだ。幻術…いや、時空間忍術か!?
「くっ…!!」無理だ、跳ね返せない!
***
「私の名前はうずまきクシナだってばね! よろしく!」
クシナ…?
僕は呆然としていて、つい拍手をし忘れていた。そんな僕に気づいたクシナは少し怪訝そうな顔をすると先生に案内された席についた。僕は1秒たりとも彼女の後ろ姿から目を離すことができなかった。後々聞いた話では、そのときの僕は無意識のうちに泣いていたらしい。仲間の一人が僕の肩を激しく揺さぶるまで、僕の頭の中はクシナのことでいっぱいだった。
「ミナト?お、おいおい!涙出てるしすごい汗だぞ?一体いきなりどうしたっていうんだ」
「いや、だって、クシナがいる…。クシナが…」
我に帰ると急に頭がふらついてきて、めまいがした。
「ごめん、ちょっとだけ寝かせて…」
そのまま机に突っ伏して寝てしまった僕が起きたのは、その日の授業が終わった後だった。うん、幾分か頭がすっきりした。やっと冷静になれそうだ。まず、どうやら僕は昔に戻ってきたらしい。あのとき感じた時空間忍術のチャクラ…とてつもないチャクラだった。でもどこか知っているような…?過去に飛ぶ忍術なんて聞いたことがない。だが起きたことは事実だ。とりあえず現状を受け止めて、クシナが生きていることを喜ぼう。そして半年後のクシナ誘拐事件を防ごう。そのためには、力が必要だ。
技術はもうあるから、チャクラ量を増やすことだけに集中した。アカデミーでも空き時間は常に修行をした。暗部時代の名残りで口数が少なくなっていたから、他のクラスメイトには寡黙な修行バカに見えたことだろう。なぜかクシナにも距離を置かれてしまっている。まぁ、僕から近づこうとしていないのも原因だとは思うけれど…。
そしてついにその日が来た。
「クシナ、さがって!」
「ミ、ミナトくん!?どうしてここに!?」
「ガキ一人で何ができる?」
クシナを誘拐しようとたくらむ忍びは不敵な笑みを浮かべていた。その忍びの背後に配置しておいた影分身がその忍びを羽交い締めにする。飛来身の術はまだ僕にはできない。だがその代わりに編み出した術がある。速変化の術!時空間忍術は時空を超える術だ。まだ不完全な僕は中途半端な時空間忍術しか使えない。中途半端な分、時空のゆがみが外に漏れ出して体感速度を変化させてしまう。本来僕にしか感じないものであるが、こうして人と接触していれば、触れた人の体感速度も変わる!
急にのろくなった敵の忍びに、僕はクナイを振り下ろした。かと思いきや、その手は突然現れた別の忍びに止められてしまった。
「こいつを殺せば終わりだとでも思ったか?おー、こんなガキに俺の仲間が2人もやられたのかよ。やだねぇ」
なっ…木の葉の額当て!?
「木の葉を裏切るのかい!?バカな真似はよせ!」
「お前が来なけりゃもう少し木の葉にいられたんだがなぁ…」
地面に押さえつけられた僕は身動きが取れなくなってしまった。
「ミナトくんを殺さないで!!」
クシナが涙を流しながら裏切り者の忍びに訴えたが、忍びはバツの悪そうな笑顔を浮かべた。
「ごめんな、これも任務だ」
「忍びの業なんだよ…」
***
「私の名前はうずまきクシナだってばね! よろしく!」
首…繋がっている!?ここは教室か!また僕は過去に戻ってきたのか…?拍手が起こる。今回は2度目ということもあってか幾分か冷静だったので拍手することができた。照れくさそうに微笑んだクシナはぎこちない足取りで着席した。今少し目が合ったような。その日の放課後僕はクシナに話しかけようと思った。次の日に延期して後悔するのはもう嫌なんだ。クシナの肩を軽く叩くと艶やかな髪がふわっとなびいて、そこから少し驚いたクシナの顔が現れた。わずかにただよう花の香りが僕の鼻をくすぐった。
「あっ、え、えーっと。うずまきクシナさん、初めまして。僕は波風ミナトって言うんだけど、」
「ミナト…くんって言うんだ!よろしくだってばね!」
遠目でしか見たことなかったのに、今は僕の目の前に彼女の笑顔があった。幸せすぎる…!
「ミナトでいいよ。その代わり、クシナって呼んでいいかな?」
「もちろんよ!」
「ありがとう」
「?」
駄目だ、何を話せばいいのかもう分からない。どこから来たの、はクシナの里が滅んでいるからタブー。なぜ来たの、も途中編入のクシナにはタブー。髪の毛良い香りだねってセクハラかなぁ。笑顔がステキだよ…って、僕は女たらしじゃない!
「ミナト、ごめん。私もう帰らなきゃ!ミト様とお話があるの」
「あっ、ウン、引き止めてごめんね」
「またね!」
何も話すことができなかった…。でもクシナに僕のことを覚えてもらえたから良しとしよう。それにしても、僕はまた過去へ戻ってしまった。これは何なんだ?1度目は動揺している内に戻った。2度目は殺されて戻った。もしかして3度目、4度目もあるのか?クシナには生きていてほしいと思っているし、そのための努力をしたいとも思う。ただ、このまま戻り続けてしまったら僕の終わりはいつ来るんだ?永遠に繰り返すのか?
…考えるのをやめよう。考えても無駄なことは無駄だ。心の中にもやもやが少し残っている。だが今はクシナが生きていること、クシナと再び話せたことを喜ぼう。
夕日に照らされながら僕はあてもなく里の街中を歩いていた。ん、敵意はないけど誰かが僕の後についてきている?
「だれ?」
「さぁ、だれだろうか」
三代目火影様がにこやかにあごひげを撫でていた。
「火影様!お散歩ですか?」
「そうとも言えるしそうでないとも言える。ワシはいつも同時に様々なことをしておるからのう」
「もしや、あなたは影分身ですか?」
「さぁ、それはどちらでもよかろうて。ミナトよ。なんでかのう…ワシは君が少し年をとったように見えるのだが?」
「僕は疲れていませんよ?」
「あいや、それはそうだろう。まだまだ若いんじゃから上忍共のような鬱々としたお疲れオーラは君からは感じんよ。代わりに感じるのは、チャクラの冷たさかのう。」
「人のチャクラを冷たい呼ばわりですか。人をチャクラで判断するのはよしてください」
「何があった?」
「別に何もありませんよ。火影様こそ、年をとられましたね。前髪が後退してきているんじゃないんですか?」
「わしの髪はまだまだ現役じゃ!」
「ははっ、そうですか。それじゃ失礼します」
第三次忍界大戦、暗部のリーダーとしての暗躍、僕の心は冷たくなっているのか?いや、それでも僕のクシナへの愛情は変わらない。それだけで十分じゃないか。
「やめてミナト!!」
クシナの声でハッと我に帰った僕は、一時混乱する。僕の手に首を絞められて青くなっているクラスメイトの顔が最初に目に入った。
「わたっ、私の髪が少し切れただけで、そ、そこまでやらなくたっていいのに…!」
首から手を離すとクラスメイトは地面に崩れ落ちた。ふと目に入った僕の右手には自分のではない血がついていた。そうだ、思い出した。クシナに暴言を吐いていじめるやつらが、ついにクシナを暴力を振るおうとしたから。許せない、そう思うと体が勝手に動いてしまった。何度も殴りつけた。相手の意識が飛ぶと首を締め上げた…。
その日から僕はアカデミーで一歩距離を置かれる存在となってしまった。別にそれはいい。でもクシナにまで距離を置かれてしまった。誘拐される日が近づいてきてもクシナは僕から遠ざかっていくばかりだ。危ないから一緒に帰ろうと誘っても断られ、それが何日も続くと、クシナは僕を無視するようになった。だけど、僕は君を守りたい。そして、
***
「私の名前はうずまきクシナだってばね! よろしく!」
また、失敗(クシナの死)してしまった…。今回は敵の人数を正確に把握しているし成功すると思っていたが、僕が現れるとクシナは僕を恐れて遠ざかってしまい、まんまと捕らえられ、僕は隙をつかれて昏倒させられ目が覚めるとクシナは忍びと共に消えていた。5日後、クシナは死体で見つかった…。僕は自殺した。だが、こうしてここに戻ってきた。戻れたことは嬉しくもあり、怖くもあった…。
なぜこうも毎回クシナを死なせてしまうのだろう?
人生の1度目は知らない内に死んでいた。2度目は増援が来たから僕が負けて死んでしまった。3度目はクシナが僕を恐れていたから結果的に死んでしまった。
1度目、2度目は仕方がないとしても、3度目は僕の過失だ。クシナが僕を恐れなければいいんだ。僕がだれに対しても優しければ、クシナが僕を恐れることはないだろう。
その日から、僕はだれに対しても優しくあろうとした。友人の頼みは必ず聞き入れ、他人に対しても善意を尽くす。無償の愛をだれかれとなく振りまき続けた結果、ついたあだ名は八方美人。うん、…うん、上出来だ。上出来だよ。八方美人のおかげで、周りに僕を恐れる人はいない。もちろんクシナも。でもクシナは僕を見てくれない。思い切って告白した。でも、八方美人は嫌だって断られた。やっぱりクシナをいじめているやつらにすら優しくしてしまったのが失敗だったかな…。死のうと思ったがなんとか踏みとどまることができたのは、最近できたラーメン屋さんの絶品ラーメンを食べたからだ。こんなに美味しいラーメンと出会えたこと、ひいては生きていることに喜び、泣きながら食べていたら、店主が替え玉を無料でくれた。ありがとうございます…!
「ミナト、また来いよ!」
店主はラーメンを茹でながら新規の常連客のことに思いを馳せていた。波風ミナトという下忍の坊主だ。初めての出会いは、通りを死んだような顔で歩いていたから、つい話しかけてしまい、ラーメンを振る舞ったことだ。ラーメンを一口食べた途端、ポロポロと涙を流した。この子のことは知っていた。街でも良い意味で有名な子だったから。失くしたものを一緒に捜してくれた。道案内をしてくれた。重い荷物を持って歩いていると僕がやりますよ、と言って担いで家まで運んでくれた。など、良い噂はそこら中に転がっている。いつでもニコニコ人の良い笑顔を浮かべているのが印象的な子どもだった。でもその笑顔はどこか愛想笑いを浮かべているようにも見えた。そんな子がここまでストレートな負の感情を露わにしているところを見てしまったら、声をかけずにはいられない。ラーメンをすすりながら、坊主はぽつぽつと話し始めた。
僕には好きな女の子がいて…、命に代えてもその子を守りたいと思っている。
おお、良い恋してるなぁ、坊主!
でもさっき振られたんだ…。
マジかよ…。
僕はもう立ち直れない…。
サービスしてやる、と替え玉を差し出すと、ミナトは涙の残る顔に満面の笑みを浮かべてお礼をのべた。ミナトは今どきの子どもにはいない情熱的な男だ。涙でぐしゃぐしゃで今は面影もないが、実は顔立ちも良い。きっと新しいステキな恋を見つけることができるだろう。ミナト、頑張れよ。俺は応援してるぞ。