クシナに告白した日から僕と彼女の関係はギクシャクしている。当然か。彼女は彼女で僕を避けようとするし、僕は僕でつらくて彼女の姿を見ることができない。彼女の姿を見てしまうと告白したことを後悔してしまう気がするから。僕の一世一代の告白を後悔したくなかった。クシナに告白したとき。クシナは優しいから、友だちでいようねって言ってくれたんだ。このままでいようって。でも僕は断った。
「クシナを見れば見るほど好きになってしまうんだ。君を友だちとは思えない!」
予想外の答えだったのか、ポカンとした顔でクシナは僕を見つめていた。僕だって逆の立場ならそうなっただろう。でも、このときの僕はどうかしていたんだ。
「初めて話したときに僕は君に恋をしてしまった!なにをしていても君のことが頭から離れないんだ。そして僕は君と結婚したいとさえ思った!君との間に子どもを授かりたいとも思っていた!君でない他の女性を愛することなんてできない。僕は君が、だれでもない君だけが好きなんだ。」
「へ!?」
クシナの顔がさっき告白したとき以上にみるみる赤くなっていった。
「クシナ、僕と付き合って」
クシナの顔に手を伸ばそうとした。クシナはぎょっとして飛びのいた。僕は避けられたことにショックを隠しきれなかった。
「わた、私、結婚とか子どもとかまだ全然考えていないし、なにより私の中では一クラスメイトのミナトが、私との未来を勝手に想像してるのは本当に気色悪いってばね!!」
気色悪いだって!?
「そ、そんな…」
「寄らないで!来ないで!こっち見ないで!もう話しかけないで!」
こんなことがあった。僕はもうクシナと話せない。というよりクシナが話してくれない。僕はもう立ち直れない…。あのステキな笑顔を近くで見ることはもう叶わないんだ…。僕が死ねばまたやり直せるんじゃないか?最近、そんな考えがしょっちゅう頭をよぎる。クシナと幸せになれない未来しかないこの人生になんの意味があるんだろうって。それならいっそのこと死んでやり直してしまえばいいじゃないか。いや、だめだだめだ。本当は人はだれしも人生は一度きりなのに僕だけが都合よくやり直せるなんて不公平じゃないか。この過去へと戻る力はクシナのための力だ。戻るとしても、それはクシナのためだけに戻るんだ。
クシナが僕を愛していなくても、僕は愛している。僕は君を守る。
僕は嘘をついた。他に好きな子ができた。もう君のことは好きじゃなくなったから安心してくれ。そう言うと、クシナは神妙な顔でうなずいた。
「おじさん、こんばんは」
「ミナトか!いらっしゃい!今日はお前さんが一番客だ!」
「開店から2時間経ってるのに?」
「おっと!痛いところつくなぁ。仕方ねーだろ、このラーメンはまだ無名だ。でも将来必ず有名になる!お前さんのようにな!」
「ふふっ!ラーメンお願い!」
「あいよっ」
「おじさん、奥さんはいるの?」
「いねぇよ。過去に引っかけた女は山ほどいるがな!今はラーメンが俺の女だ」
「へぇ。食べ物が彼女って変なの」
「あ、お前今俺のこと見下したろ?ガキのくせに生意気だな!」
「大人のくせに僕の心遣いが分からないかなぁ。これでも本音をにごしたほうだよ〜」
「えっ、それでもにごしてるの?おめーは見かけに反して口悪いところあるよなぁ…。そーいうとこ直したら、例の女の子も振り向いたかもねぇ?」
「おじさんの口の悪さには負けるよ。あのさ、ここに来る前にその子に会ったんだ。僕はその子のことを好きじゃなくなったと伝えたよ。他に好きな子ができたって言ったんだ。」
「そりゃ、おめー、大変な道を選んだなぁ」
「うん…今、すっごく…後悔してる」
そう、後悔した。嘘をつくのってとても苦しいことだったんだ。僕は知らなかった。
「俺も嘘ついて後悔したことあるわー。なめられたくなくてよぉ、嘘ついて見栄はっちまったんだ。見栄はったって弱いことには変わりねぇ。見栄はって嘘つくやつは弱虫ばかりだ」
「本当のこと言わなかったの?」
「…あぁ。言わなかった。嘘つきものと思われたくなかったからな。ミナト、お前は良いやつだ。毒舌でクソガキと思うことも多いが、人助けするところや愛に熱いところ、何より俺の作ったラーメンをうまいと褒めてくれるところを俺は気に入っている!嘘つきものがこの年まで生きてみろよ。俺みたいにラーメン作る羽目になるぜ?それでもいいのか?」
「ラーメン屋さんはとてもステキなお仕事だと思うよ。でも、ありがとう。今日のラーメンも最高だったよ!おじさん、行ってくるね」
「また来いよ!」
「次来るのはいつになるかなぁ。うん、またね!」
雲が動いている。
男の木の葉の額当てが太陽の光を反射して輝いていた。
雲は動き続けている。
「わっ、ミナト!」
僕を視界に入れたクシナは少し困った顔をした。僕はアカデミー帰りのクシナを待ち伏せした。
「突然でごめん。君を待っていた」
「何の用…?」
僕は覚悟を決めて口を開いた。伝えたいことがある。だが伝えたら僕は里にいられなくなる。それでもいいと思って今日僕はここにいる。今から言うことはすべて真実だ。どうか聞いてほしい…
クシナが口を開く前に、僕はこれから起こることを話した。クシナは理解したようだが腑に落ちないらしい。不満げな顔を僕に向けていた。幼さと大人の女性の雰囲気が入り混じった顔立ちの魅力に僕は酔ってしまいそうだった。だが頑張って自制した。
「仮に、仮にだよ?」
クシナが念押しをしてから話し始めた。
自分が誘拐されるとして、なぜ火影様のような強い忍びではなく私本人に伝えたのか?
もっともな疑問だろう。
僕は君が誘拐されることには賛成なんだ。だから、火影様に伝えることをしなかった。
私を守りたいのか守りたくないのか、どっち?
僕は君を守りたい。この前の話は嘘だ。僕は君に避けられ続けるのが耐えられなくて嘘をついて君との関係を元に戻そうとした。でもやっぱり僕はクシナのことが好きだから守りたいんだ。君は九尾の人柱力となるためにこの里に来たんだろう?今から約10年後、九尾を暴走させて里を破壊することをたくらむ輩が木の葉にやってくる。そのとき、九尾を抜かれた人柱力は死んでしまうんだ。君が九尾の人柱力になってしまったら、同じ運命をたどることになるだろう。だから僕は君を九尾の人柱力にしたくない。でも君が木の葉にいたら必ず人柱力にさせられてしまう。
だから僕はこれまで、誘拐された君を助けて一緒に里抜けをしようと考えていたんだ。2人とも誘拐されたことにしてして里抜けがばれなければ、君の一族の名を汚すこともないだろう?でも、3回目で君を助けようとしたら君に怖がられてしまって、助けることができなかったんだ。きっと4回目の今回もそうだ。だから、こうして君に打ち明けたのは、僕を信じてほしかったんだ!多里の忍びが現れたら僕に君を守らせてほしい。あるいは、今すぐ一緒に里抜けをしてくれないかな。
待って。まず、どうして九尾を暴走させる人が来ると知っているの?
「僕は人生を3回やり直しているんだ。未来を見てきたからだ。」
「そんなこと信じられると思う?」
クシナは眉をしかめていた。
「無理だろうね」
苦笑するしかなかった。
「多里と緊張状態にある今、木の葉の里の警備はいつも以上に厳重よ。多里の忍びが入り込む隙はない。ごめんなさい、ミナト。あなたの話を鵜呑みにできるほど私は幼くないの」
「そっか。ん、仕方のないことだと思うよ」
「それじゃ、私は行くから…!?」
そう言って背を向けようとしたクシナに幻術をかけて眠らせた。崩れ落ちたクシナの体を支えた。手荒な方法だけど許してくれよ。眠るクシナを背負って、里の出入り口の門へ向かった。クシナをこのまま木の葉に置いておくわけにはいかない。危険すぎる。
門番に一度止められたが里の外の祖母が危篤だと言うとあっさり通してくれた。
さて、これから問題になるのはクシナを誘拐しようとたくらんでいる他里の忍びだ。木の葉の忍びの中にいたスパイはクシナと会う前に処理した。残りの3人は里にはいなかった。里に入るのは今晩だろうか。鉢合わせてしまう危険を避けるために、霧隠れの里の方向とは逆へ行こう。火の国を抜けて土の国、岩隠れの里へ。