伊吹君もどのぐらいの強さにしていいか迷う。
後、展開が無理やりすぎて泣ける。
「ちょっと! 私の目の前で何当たり前のようにルール無視しようとしてるの!」
今にもまだ幻想郷に来て間もないであろうエリザベスに飛びかかろうとする萃香。当然、霊夢は博麗の巫女としてそれを見過ごすわけにはいかないので声を上げて止めに入る。
けれども、鬼の癖に霊夢の考えを先読みしていたのか、そこからの萃香の動きは豪快ながらも素早いものであった。
「おっと、怖い怖い。こうしちゃいられないね! お嬢さん、ちょっと失礼するよ!」
そう言うと萃香は小さい体に似つかわしくないスピードでエリザベスを抱え上げた。
片方の手を首の周囲に、そしてもう片方の手は膝裏を抱え込むようにして。俗に言うお姫様抱っこである。
「まぁ……私、この年にして初めてのプリンセスハグ。感無量でございます」
エリザベスはエリザベスで案外まんざらでもなく今の状況を楽しんでいる様子で萃香にされるがままで身を投げ出している。
それを確認した萃香は少し口角を上げにやけ面を披露すると、霊夢が呆気に取られている内に鬼の膂力を最大限に利用し、地面をけり上げた。
「あっ! ちょっと、待ちなさい!」
すぐさま我に返った霊夢はあまり効果があるとは思えないがもう一度制止の声を上げる。
しかし、もちろん霊夢の予想通り萃香が素直に待つはずも無く、周囲には萃香によって爆発的に巻き上げられた境内の砂が煙幕の様に広がっていく。萃香はこれを狙ったのかどうかは不明だが霊夢は残念なことにそれによって萃香とエリザベスの姿を見失っていた。
「あんた帰ってきたら覚えていなさいよ!」
徐々に晴れていく霧。霊夢は辺りを見渡すが当然そこに彼女らの姿は無く、気だるげに肩をすくめることしかできなかった。
『鬼が人を攫うのは平安の世からの決まり事ってな。まあ、殺しはしないから安心しなって』
そんな霊夢の耳に何処からか飛び込んできたのは能天気な酔っ払いの少女の声だけだった。
◆◆◆◆◆
霊夢を上手く撒いた後、白髪ショートボブの女性を軽々と持ち上げ、景気よく風を切りながら地を走る伊吹萃香は考える。
(んー……にしても、なんで私はここまでこの人間に興味を持ったんだろう?)
実の所、萃香は霊夢の怒りを買ってまでこの女と弾幕ごっこ抜きの決闘をする明確な理由を持っている訳では無かった。一応、強そうな奴が居るから腕試しをちょっくらやってみるか、という気持ちは存在していたが幻想郷でのルールを破るには至らない。
では、いったい何が彼女を突き動かしたのだろうか? 今のところその答えは彼女にも分からなかった。
けれども萃香は纏まらない答えを延々と考えていられるほど繊細ではないので、ある程度神社から離れた場所に着くなり、取り敢えずその疑問を頭の隅に追いやる。
今は萃香にとって目前の事だけを考えるのが重要であった。
「……っとと。このぐらい来れば流石に霊夢も諦めるだろう」
今まで神社の裏手の森を直進してきて現在も深い森の中に居るのは間違いないのだが、萃香が辿り着いたその場所だけは妙に開けた自然の広場となっていた。そこへつくなり萃香は今まで抱えていたエリザベスを地面へと下ろす。
そこで萃香はもう一度白髪ショートボブの女性と向き直った。
青で統一された服装の彼女。エリザベスは萃香の目を真っ直ぐ見つめずっと持っていた分厚い本を目前へと掲げる。
「さっきも思ったけど、見た目によらずあんた結構好戦的だよねぇ」
見るからにやる気満々なエリザベスの様子に、萃香は呟く。彼女の言う通りエリザベスからはいつ始めても大丈夫であるという雰囲気を醸し出している。
「ええ。私、『答え』を得たとはいえ、強者との闘いは今でも楽しみにしている所存でございますゆえ」
エリザベスはそう言って、本を開くと中から一枚のカードを取り出した。見た目は高級そうな意匠が凝らされた青色をしているカード。一見ではとても武器に見えないそれに萃香は何かしらの力を見出していた。
「へー。答えってのが何なのかは聞かないけど、あんた結構、珍しい術を使うみたいだね」
萃香はその不思議なカードを見て、過去幻想郷以外にも神秘が溢れていた時代に何人か居た式神を使役して妖怪退治を生業とする集団を思い出す。細かい所が違うので断言はできないがどうやらエリザベスの戦闘方法は召喚術の類だろう、と萃香は大雑把に見切りをつけた。
「初見で私が何をするのかお気づきになられるとは……。流石は鬼でございます。私、感服いたしました」
エリザベスも萃香が自分のやろうとしていることに気付いた事に勘付き素直にそう述べる。実際には彼女の能力は萃香の言う陰陽師の式神とは大分異なるのだが、そんなことは些細な事である。
萃香は、そこで会話を打ち切ることにして、足元の砂利を踏みにじり拳を強く握った。
「伊達に長く生きてないからね。……まあ、話はこんぐらいにしてそろそろやろうか。追いかけてきた霊夢に中断されるのも癪だしね」
せっかく相手も乗り気な喧嘩だからなのだから。
萃香は大きく息を吸って割とさっきから高揚していた気分を収め、エリザベスの挙動をじっと見つめる。
少なからず萃香は鬼としての威圧感を妖気と交えて放出していたのだが、エリザベスが圧に負け尻込みしている様子は見受けられない。その様子に萃香は悪い癖だとは思っているものの、少しばかりこの人間が何処までやれるのか腕試しをしてみたくなっていた。
「よし! 最初の一撃だけはここから動かないから、あんたの出せる全力をドンとぶつけて来なよ!」
そして、萃香は目の前の女性がどんな存在なのか知らないままそんなことを言い放った。いや、一応は人間は基本的にパワーより技術といった種族なので萃香がどんな攻撃でも鬼の防御力を貫くことはないと考えるのも自然な事ではあったのだが、それにしたって少しばかり相手が悪かった。
そのことについてはこの数十秒後、萃香も思い知ることになる。
「ふふ、全力で撃ちに来いと言われたのは私も初めてでございますゆえ、少しばかり興奮します。では」
今まで、発言の割にはあまり動かない表情をこの時ばかりはエリザベスは歪め、喜色満面な笑みを浮かべる。
それは大人びた美女が浮かべる妖艶な笑みのようでもあり、子どものような無邪気な笑みであって、萃香はそれに何となく嫌な予感がし、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
けれども、鬼としていまさら先の発言を撤回することは出来ないので事の成り行きをただ見守る。
「ドローペルソナカード『ピクシー』」
エリザベスは本から取り出したカードを掲げ声だかに宣言する。するとそこには背中に虫のような四枚の羽根を生やし、紫がかった服に赤い髪をした生き物が現れた。簡単に言うとそいつは幻想郷でもポピュラーな生き物である妖精のような風貌をしていた。
萃香は依然嫌な予感を感じつつも、逆にこいつが何処まで出来るのかという期待をしつつエリザベスを見つめる。
「コンセントレイト!」
鈴のような声が深い森に響く。他ならぬエリザベスの声なのだが、彼女はその宣言の後にピクシーと呼ばれた生き物から放たれた青白い光に包まれていた。
(なんだ? 何かは分からないが、アイツから出てる圧力が倍加した?)
萃香はその光がただの光ではない事もエリザベスの力の増加により察していた。
「これで準備完了でございます。では行きます。ペルソナチェンジ『マサカド』!」
すると今度は先ほどまでの小さいピクシーが消え去り、大きな成人男性が現れた。隈取をした歌舞伎に出て来そうな風貌をして大きな刀を持ったそいつに萃香はついに来るかと、体に力を入れる。
刀を持っていることから、どう見ても物理攻撃で来ると萃香は思ったのだろう。
けれども、その予測を裏切ってエリザベスは次の言葉を宣言する。
「これが私の全力全開、メギドラオンでございます!」
彼女の宣言の後、マサカドと呼ばれた男性が刀を横に持ち、それを少し抜く。萃香は刀ぐらいなら大丈夫だろとまだ思っていたが、次に生じた強烈な光の奔流にその考えは間違っていた、と上方を見つめ、口を半開きにしながら思った。
そこにあったのは、ただ暴力的なまでの魔力の塊。
ここまでのものを萃香は長い経験の間でも見たことが無かった。しかもそれが螺旋を巻きながら、
隕石なんて目じゃない。そう思わせるには十分で、とても一個人が放って良く無いモノを前に萃香は思わず能力を行使して、その塊を疎めようとした。
「ちょちょちょ! いくらなんでも密度が高すぎるってば!」
しかし、萃香の想像以上にその魔力の高まりは高純度、かつ高密度であったようだ。
少しは威力は減衰したものの未だに勢いは衰えることは無く――――
ついに萃香の元へと着弾してしまった。
瞬間、ほとばしる閃光、遅れてやってくる轟音、辺りにあった木々は根元から吹っ飛び、着弾地点の周囲は一瞬にして荒地と化した。
立ち上った砂煙が晴れるとそこに立っていたのは満足気な顔をしたショートボブの女性ただ一人だった。
どう見てもやりすぎである。
伊吹萃香
大江山の酒呑童子がモデルとされる鬼。幼女。多分HP30000ぐらいある。
ピクシー
メガテンシリーズでおなじみのペルソナ。人修羅の恋人。
マサカド
歌舞伎おじさん。P3のエリザベス戦ではこいつのターン、インフィニティかヴァルホルを使わないと問答無用で主人公は死ぬ。
メギドラオン
主人公が使うと万能属性で大ダメージという感じの能力でそこまでぶっ壊れでは無いのだが、ことエリザベスにおいては作中最大ダメージである9999をたたき出す。
相手は死ぬ。
コンセントレイト
魔法ダメージ二倍。つまりべス様メギドラオンの威力は19998。相手は死ぬ。