「ログアウトボタンがない?」
流石に稼働してすぐだからかこんなバグもあるのだろうか。
「仕方ない、出前の受け取りの前にまずはGMコールかな、こりゃ」
「こんな深刻なバグならみんな問い合わせしてるんじゃないか?繋がらないかもしれないけど取り合えずやってみろよ、クライン」
キリトにそう言われ問い合わせをするクライン。
だがやはり混雑しているのか反応がない。
「なぁキリト、ほかにログアウトするコマンドとかってないのか?」
「ちょっと待ってくれ。いや、無いな。SAOにはそれ以外の方法でログアウトする方法はない」
「そりゃあ困るぜ、このままだと俺のアンチョビピッツァとジンジャーエールが届いちまう」
ログアウト出来ないという事実よりも飯のほうが大事なのか。
と言うかピザだったんだな、とどうでもいいことを考えていると、
突然鐘のような大音量のサウンドが響き渡り、全員の体が光り出す。
光量はどんどん増して行き、目も開けられなくなる。
一瞬の浮遊感の後、光と音は収まり、目を開けたクラインが言う。
「なんだぁってここは・・・始まりの街の広場か?」
「そうみたいだな。ってことはバグに対しての何かしらの説明とかか?」
あたりを確認すればそこは確かに最初にログインした始まりの街の広場だ。
同じく強制的に移動させられた多くのプレイヤーたちが同じように辺りを見回している。
「上だ、上を見ろ」
誰かが叫びその場にいた全員が空を見上げる。
そこには真っ赤な文字で【Warnig】【System Announcement】二つの単語が表示された真っ赤な帯が回っている。
「どうやら運営からのアナウンスがあるようですね」
と、俺はつぶやきやっとこれでログアウト出来ると溜息を付きかけた。
それが途中で止まったのは生理的不快感を覚えたからだ。
なぜなら見上げた頭上の帯は血のような赤黒い血液のように変形し、やがて一つの形に変わっていく。
それはフードを被った顔のない、巨大なヒトガタだ。
【プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の存在だ】
この時点でこれの脳内は嫌な予感で埋め尽くされていた。
あの茅場晶彦が、アナウンスだと?
彼はメディアへの露出も控えていたその紹介記事がある雑誌も数える程しかない。
そんな男がこれから何を説明しようというのか。
この世界をコントロールできる唯一の存在だって?
【メインメニューからログアウトボタンが消えている事に気づいているプレイヤーも多いだろう、君たちはこのゲームのクリア、即ちアインクラッドの百層をクリアするまで自発的にログアウトすることは叶わない】
自発的にログアウトが出来ないだって?
アインクラッドとはこのゲームのダンジョンなのか、或いはこの世界自体なのか。
混乱する思考の整理に手間取っている内になおも茅場は告げる。
【外部の人間による強制的なログアウトも不可能だ。強制的なナーヴギアの解除、停止或いは破壊が行われた場合、ナーヴギアの信号素子が発する強力なマイクロウェーブにより君達の脳を破壊する】
一瞬言われた意味がわからない。ナーヴギアが脳を破壊する?
ナーヴギアとはこのゲームを行う上で装着するヘットギア式の筐体だ。
首から下への電気信号を遮断し、ゲーム内のアバターの操作を行う。
ナーヴギアから脳へ送られる信号を脳は認識し、この風景を見ている。
その信号素子を増幅し、高出力のマイクロウェーブによって脳を破壊するだと?
それはつまり、現実世界における【死】に他ならない。
やがてプレイヤーたちの理解が追いつき始め、ざわめきが広がる。
「何を言ってるんだ、つまりログアウト出来ずに、現実から外そうとしたら死ぬってのか?そんな冗談みたいなことがあるはずないだろ・・・?」
クラインがナーヴギアを外す仕草をする。
当然そこには何もないし、現実の体が動いてナーブギアを外すことはできない。
そもそもここは仮想で、脳からの命令はナーヴギアが全て遮断している。
この世界にいる限り、現実の俺達は指一本動かすことができない。
俺はナーヴギアの原理を整理するため口に出して確認する。
「ナーヴギアは微弱な電磁波を発して脳に擬似的感覚信号を与えている。云わば電子レンジの発展上にあるもの。その出力を上げるようなバッテリーがあれば原理的には可能?」
「タクトさん?まさかあいつの言ってることが本当だって言うんですか?」
「ええ、そうです。そしてナーヴギアは結構重たいですよね?その重量の三割はバッテリーセルの重さです。つまり茅場の言うことが真実なら、現実の私達の脳内を破壊することは不可能ではない」
信じられないという表情のクライン。
俺も信じたくはなかった。
だがそんな俺たちを無視し、さらに茅場は言葉を重ねる。
【脳内破壊シークエンスは具体的には十分間の外部電源の断絶、二時間のネットワーク切断、ナーヴギアの強制的な解除あるいは破壊。これらが確認された場合に実行される。またこの条件は現実世界で当局やメディアを通し、世間に公表をされている、それらを無視して行われた親族、あるいは友人による強制的なナーヴギアの解除行為により】
茅場はそこで言葉を区切り、間を置いて告げた。
【現時点で二百十三名のプレイヤーがこのアインクラッド、そして現実から永久退場している】
茅場の言葉は広場を恐怖と混乱に落とし込んだ。
そしてその元凶は状況の説明を続ける。
【諸君らにとってこの世界はもうひとつの現実である。この現実から脱出するにはSAOをクリアする以外には方法はない、そしてこの世界での諸君の命、ヒットポイントが零になった時点でナーヴギアは脳内破壊を開始する】
ゲーム内でヒットポイントが尽きたとき、お前は死ぬと。
茅場はそう言っているのだ。
現実へ帰還したければゲームをクリアするしかない。
これはゲームであって遊びではない。
命をかけた戦い、デスゲームだ。
おれは声を潜め、キリトに問いかける。
「キリトさん、聞きたいことが二つあります」
「・・・なんですか、タクトさん」
「以前君がプレイしたとき、何層まで進むことができましたか?そして何回ヒットポイントは零になりましたか?」
「・・・それは」
「成る程、その反応だけでもわかりました。恐らく百層には程遠く、また一度や二度の死亡では決してきかない」
「・・・そうです」
「ありがとうございます」
すべてを真実だと仮定すれば現実への帰還は恐らく年単位、それも一年や二年では足りない。
如何に犠牲を出さず、攻略できるかが鍵になる。
そんなことを考えているうちにも説明は続く。
【最後に諸君へこの世界がもうひとつの現実である証拠を見せよう。アイテムストレージをこちらで開く、そこに私からのプレゼントを用意した】
強制的にアイテムストレージが開かれるとそこにはアイテムがひとつだけ。
手鏡、というアイテムが選択されプレイヤー全員の手にオブジェクト化される。
手鏡を覗き込んでみるがそこにはメイキングされたキャラクターが映っているだけ。
これが何の証拠になるそう考えていると、手鏡から光が溢れ出し広場全体が眩い光に包みこんだ。
耐えられず目を閉じ、やがて光は収まった。
瞳を開けて手鏡を確認する。
そこにはメイキングされたキャラクターではなく、現実世界の俺の姿が映っていた。
顔を上げて周囲を見渡すが、ここは現実ではなくSAOの始まりの街だ。
視界の端にKiritoの文字を見つけ、その人物を確認する。
パーティを組んでいたキリトの姿はなく、大人しめの黒髪に中世的な顔立ちの少年がこちらを見ていた。
「キリトさん?」
「タクトさん・・・?」
お互いにパーティウィンドウを確認し、そこにいる人物が先程までと変化していることを認める。
もう一度自分の手鏡を確認する。
やはりそこには精密に再現された現実の自分の顔があった。
「ナーヴギアは信号素子で顔全面を覆っている。それを利用してスキャニングしているのか・・・」
キリトがつぶやくように言う。
確かにナーヴギアによって顔全面を信号素子が覆っているならばそれをもとに再現することは不可能ではない。
ナーヴギアは頭全体を覆うヘッドギアの形状をしている、なら体格はどう再現した。
思い出せ、午前中に行ったナーヴギアの設定方法を。
「身長や体格は初回設定時に行うキャリブレーションで大体の再現可能だ・・・」
キャリブレーションとはナーヴギアの本体設定時に全身に手を触れさせ、手をどれだけ動かせば自分の体に触れるかを測る作業だ。
「今ここに存在する私達は限りなく近く再現された現実の姿です。アバターのヒットポイントは自身の体であり命であると。茅場はそう言いたいのでしょう」
「なんでそんなこと・・・」
「それについては茅場自身が答えてくれるのではないでしょうか。まだ彼は彼がこんなことをした目的を話していません。」
俺の言葉にキリトとクラインは茅場へ視線を戻す。
茅場は今までの感情の乗らない説明口調から変化し、ほんのすこし、ある種の憧憬を浮かばせたような声で語りだす。
【この世界を見る、その為だけに私はナーヴギアを作りSAOを造り上げた。この世界、この状況こそが私の目的だった】
この世界を見る、それが目的?
まるで説明になっていない。
【諸君らへのチュートリアルはこれにて終了とする。諸君らの健闘を祈る】
茅場はそれ以上語ることはなく、そのまま空へ溶けるように姿を消した。
「ふざけるな」
「これは夢だ・・・夢なんだ」
「こんなのは嫌・・・現実へ帰して」
プレイヤー達は口々に呟く。
不満は伝染しあっという間に広場は喧噪に包まれた。
そんな中、キリトが何か言いたそうに出口を顎でしゃくる。
「すぐにここを出よう、クライン、タクトさんついて来てくれ」
言われるがままに出口を抜け、ある程度離れたところでキリトはこう言った。
「俺はこのまま街をでて次の村へ行きます。茅場の話が本当だとすれば先に進む以外現実に帰ることはできない。すぐに始まりの街周辺のモンスターはプレイヤー達で狩り尽くされる。そうなる前に次の村を拠点にしたほうがいい。俺はベータで安全な道を確認しているから今の段階でもたどり着くことだってできる。二人も一緒に来たほうがいい」
「確かに茅場の言うことが真実ならこの先はゲーム内のリソースの奪い合いになりそうですね。キリトさんの言うことは最善かもしれません」
「すまねぇキリト、俺は一緒に行けねぇ」
「クライン?」
「俺はダチと一緒に並んでこのゲームを買ったんだ。あいつらもあの広場にいるはずだ。お前さんが俺とタクトさんを助けてくれようとしてるのはわかる。でも、あいつらを見捨てて俺だけ先に行くなんて事、俺にはできねぇ」
「・・・クラインさん。キリトさん、私も一緒には行けません」
「タクトさんまで?」
「個人であるならその方法は最適でしょう。VR初心者である私を連れて道中を抜けるより、キリトさん一人の方がより安全に街までたどり着ける。違いますか?」
「・・・そんなことない、一人より二人の方が安全です」
「あなたが優しい人だということはわかりました。でもそんなことで君までここで足踏みをする必要はありません。私は広場で混乱の収束に努め、情報を集めて君を追いかけます。だから君は先に行ってください」
「・・・そうかわかった」
「キリト、誘ってくれて嬉しかったぜ。俺もダチと合流したらお前を追いかける。お前は自分の為に先に行ってくれ」
クラインと俺はパーティを抜け、キリトの背中を押した。
だが、キリトは一歩に進もうとしない。
「二人共何を言っているんだ?」
何ってそれは。
「確かに二人を置いていった方が俺は早く進むことが出来るかも知れない。でもふたりがそう言うなら置いていくことなんてできないし。それにタクトさん、混乱を収めて【情報】を集めるんでしょう?ベータテスターの俺が持ってる情報、役に立つんじゃないですか?」
「キリトさん・・・そうですね、君が一緒に来てくれるならより情報も集められるでしょう。すみません、君まで巻き込んでしまいますね」
「ありがとよ、キリト」
思ってもみなかったキリトの答えに俺は苦笑を浮かべて答える。
クラインはちょっと涙ぐんでいる、VRの世界でも涙は出るんだな、と。
そんなことを思いながら俺達は広場へと引き返した。
誰が喋ってるかわかりにくいな・・・わかりにくいですよね・・・。
キリト君はこの話ではビーターにはなりません。
初めての投稿なのに大丈夫かなぁ・・・。