俺達は茅場にプレイヤーが集められた広場へ戻る。
戻る途中幾人ものプレイヤーとすれ違う。
ベータテスター達や戦う決意をしたプレイヤーはもう攻略へ乗り出しているのだろう。
だが攻略を始めたプレイヤーの数はそう多くない。
おそらく二割もいればいい方だろう。
広場へたどり着くとそこには多くのプレイヤーがいた。
SAOのプレイヤーの数はサービス開始時に一万人、茅場の言葉にあった犠牲者二百十三名、そこに攻略へ出た者達を合わせ、合計二千名としてもとしてもここにはまだ八千人のプレイヤーがいることになる。
座り込み沈んだ表情で俯く者、依然として不満を告げる者、罵り合う者。
雰囲気は当然良くないが、まだ最悪にはなっていない。
少し経てば外部からの救援がくるかもしれないと。
茅場の言葉を真実だとまだ信じていないからだ。
だがそれが裏切られた時、必ず犠牲者が出る、それも攻略とは関係ない形で。
このままではログアウトの魅力に逆らえず、自ら命を絶つ者が出てくる。
プレイヤー数は減りはしても消して増えることはない。
このままではゲームのクリアは不可能になる。
「クラインさんはご友人と合流してください」
俺がそういうと、クラインは頷きすぐに駆け出す。
彼には幸か不幸かこの世界に顔見知りがいる。
合流するに越したことはない。
気心知れた友人がいれば少なくとも自ら命を絶ちはしないだろう。
問題はそれ以外の孤独なプレイヤーだ。
「キリトさん、呼びかけをします。広場で一番目立つところはどこでしょうか?」
「それなら多分、こっちだ」
キリトの誘導で講演台の様な物のある場所へ移動する。
「NPCが何かのイベントでそこで集まっているところを見たことがある。ここからならそれなりに声は通ると思う」
「ありがとうございます」
俺はキリトに礼を言って講演台の前に立つ。
こんな大勢の前でしゃべった経験なんてない。
それでも何もしないより効果はあるはずだ。
息を吸い込み、できるだけ大声で広場のプレイヤー達へ語り掛ける。
「皆さん聞いてください。先の茅場からの説明が真実だとすれば、現実へ帰るためにはゲームをクリアするしかない。その為にはモンスターと戦うことになるでしょう。ですが、私達はヒットポイントが零になればナーヴギアによって死んでしまう。そんな危険を犯すより、安全に助けを待つ方がいいと考える人もいると思います」
突然話し始めた俺に、視線が殺到する。
ポリゴンでしかないはずの体に緊張が走り、心臓を掴まれたような感覚を覚える。
「今、プレイヤーの中には既に攻略を始めている人たちがいます。そんな彼らを馬鹿だと思う人もいるでしょう。茅場の言葉は真実である保証はない。そんな言葉に踊らされず、外部からの救援を待つべきだと。ですが茅場の言葉がもし真実だったとしたら。その場合私達は全員が協力し合わねばなりません。何故なら先の言葉が真実であった場合に、私達にの体にはタイムリミットがあるからです。」
「先の説明で茅場は私達の死の原因となる脳内破壊シークエンスの条件に2時間のネットワーク切断と言いました。外部電源の断絶が十分であるのに対してこちらは二時間、変だとは思いませんか?」
「帰還の手段がこのゲームのクリアしかないのであればそれは一日二日で終わるものではありません。もしこのままログアウトできなければ私達は現実世界で体を動かすこともできません。ゲームクリアするまで食事もできないことになります。それでは私達は死んでしまう。おそらくネットワーク切断の猶予は現実での体、リアルボディを病院等の施設へ移動し、延命環境を準備するためのものです」
「たとえそれがなされたとしてもそれは延命にすぎません。体を動かせない以上筋肉は衰える。クリアに時間をかけすぎればいずれリアルボディの方が限界を迎えてしまうでしょう。だから私達は早急にこの世界から脱出しなければなりません。すで攻略を始めた彼らは最悪を想定し、いち早く行動を始めたともいえます。」
「攻略に死が常に付きまとう以上、私は全プレイヤーが協力し合う必要があると考えます。全員でモンスターと戦えと言っているわけではありません。戦闘適性が低い人だっているでしょう」
「情報を集める、食料を調達する、モンスターと戦う。ほかにもやれることはたくさんあるはずです。このゲームに参加したのは一万人、これ以上は増えることはありません。だから皆さんにお願いがあります」
「まず決して死なないで下さい。プレイヤーは増えることがないのなら今いる人数で協力するしかない。一人一人の力が小さいとしても、塵だって積もれば山になるんです。私は現実へ帰りたい。皆さんだってそれは同じはずです。全員が協力し合えば生きて現実へ帰ることだってできるはずです。私はこれから自分にできることを一つずつ始めます。だから皆さんもできることを考えて一つずつでもいいんです。始めてみて下さい。」
「希望を捨てないで、今やれることをやっていきましょう。これで私の話したいことはすべてです。皆さんどうか協力をお願いします。」
と言って話を終わる。
するとまばらな拍手が起こり、それは周囲に広がり広場が音に包まれた。
途端に心臓が思い出したかのように暴れ始める。
俺は逃げるように広場を後にした。
しばらく歩き、適当な宿屋へ逃げ込む。
ようやく緊張も収まって来た。
「度胸ありますねタクトさん、俺だったらあんな大勢の前で演説なんて絶対無理だ」
「キリトさん、居たんですか」
どうやら俺はキリトがついていたことも意識の外だったようだ。
「居たんですかって酷くないですか。それより、これからどうします?」
「しばらくは情報を集めつつ、レベルを上げていきたいところですが、恐らく始まりの街周辺はプレイヤーでいっぱいでしょうね」
キリトとこれからの方針を練っているとシステムアラートが鳴る。
キリトにメールがきたようだ。
「クラインからです、友人と合流できたから紹介したいって言ってます。ここの場所を伝えてしまっても大丈夫ですか?」
「わかりました。お願いします」
キリトが何やら操作をしクラインへ返信する。
メール機能か、確かに使ったことがなかった。
しかしなぜクラインは直接こちらに送ってこなかったのだろうか。
SAOではフレンド間でしかやり取りができない決まりでもあるのだろうか。
「キリトさん、クラインはどうしてこちらに直接送ってこなかったのでしょうか?」
「ああそういえばタクトさんには教えてなかったですね。SAOは初期の設定だとフレンド以外からは受信できない設定になっているんです。オプションをいじれば設定は変えられますよ、ベータでも気づいたのは二日目でしたからたぶんみんな知らないんじゃないかな」
「なるほど、しかしそれは不便ですね。こういった面でも知識の差がありますね。知識の共有これも問題点の一つか」
等と話しているとクライン達が来たようだ。
ちょうど近くにいたらしい。
クラインがこちらを見つけ、メンバーの紹介をしてくれた。
皆クラインの友人だけあって気のいい人物のようだ。
「それとこいつはディアベル。さっき会っったんだけどなかなか話せる奴でさ。二人の話をしたらどうしても会って話がしたいって言うんで連れてきた」
「初めまして、俺はディアベル。気持ち的にはナイトをやってます」
これはこの男なりのジョークなのだろう。
俺とキリトも自己紹介をする。
「無理を言って連れてきてもらったのはタクトさんに話があったからなんだ。俺はベータテスターだ。知識も情報もベータの物は一通り把握している。第一層の攻略はベータテストでも時間がかかった。これから一ヵ月後を目途に第一層のボスを攻略する。そこでタクトさん、あなたには攻略の指揮を執ってもらいたい」
それからディアベルは熱心にこう語った。
まず一ヵ月の間に情報を集め、ボスのいる部屋を捜索する事。
ボスフロアと呼ばれるそこにはフィールドモンスターとは比べ物にならない強敵がいるるという事。
ボス討伐には参加できる人数が限られていてパーティは七つまでだという事。
ボスフロアを捜索している間に戦闘力の高いプレイヤーに声をかけ上限人数でボス攻略を行う事。
ボス討伐における最後の攻撃を行ったものには強力なアイテムが手に入る、いわゆるLAボーナスがあること。
そしてボス討伐の指揮を俺に任せたいという事だった。
「話は理解しました。ですがそこまで考えているのであれば私でなくともあなた自身が攻略の指揮をとればいいのではないしょうか。なぜ話したこともない私に指揮を?」
「確かに最初は俺もそう考えていた。でもあの広場であなたの演説を聞いて思ったんだ。あなたには人の心を掴む力がある。俺なんかよりもずっとうまくやれるはずだ。あの場にいたプレイヤーに君の言葉は届いていた。」
「俺もタクトさんになら任せて大丈夫だと思う。俺は茅場の言葉の後、クリアするために行動しようとしたけど、それじゃ犠牲が多すぎることがわかった。タクトさんは状況を理解してこのSAOにいる全員でゲームをクリアしようとしてた。タクトさんならきっと犠牲者をより少なくすることができると思う。」
ディアベルとキリトはそう言ってくれるが俺にはそこまでの自信はない。
ボス討伐には危険が伴う、俺の指揮で誰かが死ぬかもしれない。
そう考えてしまうとすぐに返事はできなかった。
「少し考えさせてください。答えはすぐには出せませんが私達もボス攻略には参加するつもりでしたのでそれまでには覚悟を決めておきます」
「わかった。俺はこれから説明した通りにボス討伐の為に動く。日程が決まったらまた連絡からそれまでに返事をしてくれれば構わない。できればいい返事を期待しているよ」
ディアベルはそう告げると宿屋から出ていく。
俺達はボス攻略に参加する為、装備を整え攻略を開始し、情報を集めに動いた。
一か月後、ディアベルから招集をかける連絡を受け、俺達はボスフロアの前に集まった。
ディアベルに答える言葉は決まった。