攻略開始を目前に控え、俺達四人は打ち合わせを始める。
「まず私達四人のパーティのすることを確認します。私達四人はF隊として行動し、ボスとともに現れると仮定するルイン・コボルト・センチネルをDE隊と連携し早期撃破後、ABC隊の足止めする大ボスのインファング・ザ・コボルト・ロードを全隊で連携し撃破。一階層の踏破です。ここまではいいでしょうか」
「ああ」
キリト、エギルが相槌をうち、フードのプレイヤーは頷く。
「と、その前にもう一度自己紹介をしておきます。私はタクト。メインアームは片手剣です」
「俺はキリト。同じく片手剣だ」
「俺はエギル。獲物はこれだ」
エギルのメインアームは斧だった。
強面のこの男が装備すると無駄に強そうだ。
もっともSAOではパラメーターによって威力は計算されるので、見た目は威力に関係ないのだが。
しかし斧をメインアームにしている以上見掛け倒しという事はない。
ここに呼ばれたのは皆が皆現在のトップレベルのプレイヤーだからだ。
最後の一人、フードのプレイヤーは細剣をこちらへ見せる。
どうやらそれが彼のメインアームなのだろう。
「この四人であれば前衛はエギルとキリト、私と彼が後衛が良さそうですね。キリトと私は武器は同じですが私は全体への指揮も行いますので」
「なら必然的にパーティリーダーはタクトさんにやってもらう形で。俺とエギルが前衛を固めます。スイッチのタイミングはお任せします」
「ああ、それでいいだろう。」
エギルとキリトはそう言いフードのプレイヤーに視線をやる。
彼も反対意見は無いようだ。
その他細々とした対処法を確認し終わり、パーティを組む。
「ではパーティ申請を送りますのでお願いします」
「了解だ」
キリト、エギル、フードのプレイヤーへ順番にパーティ申請を送っていく。
だがフードの人物への申請中にタクトの手は止まってしまった。
「Asuna?」
「どうして私の名前を知ってるの?」
フードの人物が不審そうに反応する。
だがやはりその声は想定していた男の声ではなく透き通った女性の声だった。
「失礼しました。パーティ申請を送るときにプレイヤーネームが表示されるので」
「そうなんだ。なら別に謝る必要なんてないでしょう」
申請を送り受諾される。
パーティウィンドウにTakt、Kirito、Agil、Asunaの文字が表示される。
「いえ、女性がここにいるとは思いませんでしたので、先ほどは勘違いで男性扱いをしてしまいましたからそちらの謝罪です」
「そういうこと。それなら私が女だって言わなかったのが悪いだけ。やっぱり謝る必要なんてない。ばれちゃったなら仕方ないしこれはもういいかな」
そういうと彼女はフードを下し顔を上げる。
明るい栗色の髪が流れて黄色がかった薄茶色の瞳がこちらを見ている。
小ぶりだがスッと通った鼻筋の下で薄ピンクの唇が目を引く。
かなり整った容姿だが驚いたのはそこではない。
俺はその顔に見覚えがあった。
「アスナお嬢さん?」
「え?」
「お嬢さん?」
彼女が困惑した声を上げ、二人も疑問の声を上げる。
無理もない、現実世界で会ったのは一度だけ。
俺が彼女に会ったのは父に無理やり連れだされた商談の席でたまたま居合わせたアスナに自己紹介をした程度。
「朝倉さん?」
「アサクラさん?」
キリトが怪訝そうな顔でこちらを見ている。
仮想世界で現実の本名を出すのはマナー違反だ。
ゲームなんてほとんどしたことがないアスナにはそんなことはわからなかったのだろう。
説明の為に俺は事情を話す。
「彼女は現実世界で一度だけお会いしたことがありまして。他に呼び方も知らないと思いますのでとっさに出てしまったのだと思います」
「なるほど。でもアスナさん、今後はその名前では呼ばない方がいいですよ。ネットでは嫌がられることもありますから」
「ごめんなさい、私ネットのマナーには疎くて。Takt、タクトさんでいいのかな」
キリトがそういうとアスナは慌てて頭を下げた。
そこまでかしこまらなくてもいいと思うのだが。
エギルは大人の対応で聞かなかったことにしたようだ。
「まさかこんなところで知っている人に会えるなんて思わなくて。すみません、失礼しましたタクトさん」
「いえ、私もこんなところでお会いするとは思いませんでした。ですが今はボス討伐まで時間がありません。皆さん準備はいいですか?」
「いつでも行けますよ」
「おう、任せろ」
「ええ、行きましょう」
三人がそれぞれに答える。
なぜ良家のお嬢様がこんなとこをにいるのか気にはなるが今はボスの攻略が最優先だ。
装備やアイテムの確認を終えるとそろそろ定刻だ。
他パーティのリーダーも報告にきて準備は完了したとのこと。
ついに第一層のボスとの対決だ。
「私から言えることは一つです、皆さん、生きてこの戦いを終わらせましょう」
俺はディアベルに一言頼む、と視線を送る。
ディアベルは意図を呼んでくれたようだ。
「俺もからも一つだけ。この世界のみんなのために、勝とうぜ」
プレイヤー達は大きな声で答える。
そしてボスフロアの扉をあけ、全員が広間に躍り出る。
扉の先には大小二体のモンスターいる。
大きな方がインファング・ザ・コボルト・ロードだろう。今のところタルワールは装備しておらず片手にこん棒らしき武器を装備している。
取り巻きの方もルイン・コボルト・センチネルで間違いがなさそうだ。
「今のところは想定通りです。ABC隊はボスの足止めを。DEF隊は取り巻きの撃破です。情報と違う動きをする可能性があることを忘れないように」
タクトが大声で指示を出し全員が己の役割をこなす。
「ABC隊は連携してボスの注意を集める。前衛、厳しくなる前にスイッチだ、常に余裕をもって対処しろ」
ディアベルも受け持ちの隊を率いてしっかりと足止めをこなしてくれている。
俺達と合同で取り巻きの撃破に回ったDE隊もいい動きだ。
順調に取り巻きの体力を削っていく。
E隊のリーダーから一人がそろそろイエローゾーンに差し掛かると連絡が来た。
「一人イエローです。DEF隊後衛準備。キリトさん、タイミング任せます」
「了解です、スイッチ」
セリフと同時にソードスキルを放つキリト。
片手剣から放たれた三連突き、ヴォーパルストライクが命中し一瞬取り巻きがノックバックする。
そこにエギルが斧のソードスキル、スマッシュで強烈な切り下しを食らわせた。
ルイン・コボルト・センチネルが大きく体勢を崩す。
DE隊も連携して攻撃を入れ、前衛後衛が入れ替わる。
「入れ替わったらポーションで最大回復まで待機。何があるかわかりません、死角のフォローを頼みます」
「了解」
指示を出しつつ全員の戦いぶりを確認する。
アスナにはフォローが必要かと思っていたが俺は彼女を甘く見ていたいたようだ。
彼女の振るう細剣は高速でかつ的確に敵に命中している。
硬直の少ないソードスキルを織り交ぜ効果的に体力を削っていく。
恐らく総合力ではキリトや俺に劣らない。
ここまでは良いペースで削れている。
ルイン・コボルト・センチネルの体力はあと半分といったところだ。
回復が終われば次のスイッチでこいつは倒しきれる、そう判断し指示を出す。
「ポーションでの回復が終わり次第全員でソードスキルを打ち込んでこいつを仕留めます。最大回復したら教えてください」
「了解です、あと十秒。よし、いけます」
「各自合わせて下さい。初撃は私が行きます」
俺は突進突きのソードスキル、ソニックリープを放つ。
続けてDEF隊全員のソードスキルが命中し、ルイン・コボルト・センチネルは倒れる。
周囲を見渡しながら指示を出す。
「DEF隊全員で周囲の警戒をお願いします、回復が必要な人は今のうちに。増援がなければABC隊へ合流します。ディアベル、状況は」
「こちらはようやくボスのゲージ一本を削ったところだ、予想以上にボスのステータスが高い。なんとかイエローなった者から各々スイッチさせているが、このままだとまずい」
「わかりました。こちらはもうじき最大回復です。DEF隊で前に出ます、その内に回復を行ってください」
「助かる。ABC隊は次のスイッチで一旦下がるぞ。交代したらポーションで最大回復」
「DEF隊はディアベルのタイミングで交代に入ります。ディアベルは回復と警戒しつついつでもスイッチできるようにフォローをお願いします。タイミング任せます」
「行くぞ、スイッチ」
DEF隊も合流し残すは大ボスのインファング・ザ・コボルト・ロードのみ。
ボスの防御が予想以上に高かった以外は順調だ。
DEF隊もうまく攻撃をいなしている、今のところは問題ない。
ABC隊の回復が終われば押し切れるだろう。
そして二本目のヒットポイントゲージを削り終わり残り二本に差し掛かったところでインファング・ザ・コボルト・ロードは大きな咆哮を上げた。
「ディアベル、回復状態はどうですか?」
「九割回復しているあと十秒。ABC隊前衛は用意、よし、いいぞ、タイミング任せる」
「DEF隊下がります。交代後は回復をしつつ周囲の警戒を。行きます、スイッチ」
ソードスキルを放ちディアベルのABC隊と交代する。
回復をしつつ全員で周囲の警戒を行う。
後方を確認していたアスナが叫んだ。
「さっきの取り巻きが復活してる、でもヒットポイントは半分くらいみたい」
「体力が半減しているなら一パーティで抑えられないか?どの道このままじゃ大ボスを削り切る前にABC隊のポーションが無くなるぞ」
エギルの言う通りこのままでは押し切れない。
ならここは俺達で抑えるしかない。
「F隊で取り巻きを足止めします、DE隊はABC隊と連携して大ボスの撃破に、ディアベル、DE隊の指揮も任せますよ」
「了解した、俺は指揮に徹する。D隊は前衛と攻撃参加だ。以降同隊を攻撃隊とする。E隊はABC隊後衛と合流だ。以降同隊を防御隊とする。交代タイミングは俺が支持を執る、あと少しだ、気を抜くなよ」
「F隊は復活した取り巻きを足止めを開始します。四人同時に行きます、回復も四人の中で回します、攻撃は全部避ける気で行きますよ」
F隊の三人に呼び掛ける。
「任せてくださいタクトさん」
「油断するなよキリト、まぁ、カバーはしてやるがな」
「私達が取り巻きを抑えられれば、みんながなんとかしてくれる。行こう、タクトさん」
キリト、エギル、アスナが答える。
俺達は復活したルイン・コボルト・センチネルと戦闘を始める。
正面にエギル、左右に俺とキリト、背面にアスナだ。
「大ボス隊の邪魔をさせずに封殺します。前後左右、全方位から連携で攻めますよ」
「了解」
エギルの斧が足を払い、キリトと俺がわき腹を切り裂き、よろめく小型の後頭部をアスナの細剣が穿つ。
隙を見て連携を重ねていくが三隊で攻めていた先ほどまでとは火力が落ちる。
ましてや回避優先で手数も少ない、削れるゲージは多くはない。
だが大ボスを抑える本隊は順調にヒットポイントを削っている。
もうじきゲージは最後の一本になる。
「ディアベル」
「ああ、全員敵の攻撃に備えろ。強力な攻撃が来るぞ。あと少しだ、みんな頑張ってくれ」
そしてヒットポイントは残り一本となる。
ボスは装備していた武器を投げ捨て、腰に携えていた一本の武器を抜く。
刀身はタルワールの特徴である曲線を描いていない。
日本人に一番馴染みのある形状で、普通の物よりもかなり刀身が長い。
あれは・・・。
「キリトさん、ボスの武器は刀に類する野太刀です。あれのスキルは?」
「野太刀だって?あれは初層の敵が使うような武器じゃない、まずい全員下がれ」
「攻撃隊全員下がれ。範囲攻撃が来るぞ、とにかく下がるんだ」
キリトの声を聞いたディアベルが全員に交代命令を出す。
だがインファング・ザ・コボルト・ロードの攻撃の方が早い。
それを悟ったディアベルは単身、ボスへと肉薄する。
キリトが叫ぶ。
「馬鹿野郎なにやってんだ」
「駄目だ、後退するよりボスの攻撃の方が早い。一瞬でも誰かがソードスキルで行動遅延をしなければ」
ディアベルのソードスキルは発動し、インファング・ザ・コボルト・ロードに直撃する。
僅かな騒動遅延が起こり、攻撃隊は後退に成功した。
ソードスキルによる硬直中のディアベルへ野太刀の一閃が振るわれる。
当然硬直中には回避も防御もできはしない。
ディアベルは攻撃隊の後退を認めて満足そうに笑った。
ボスの攻撃がディアベルに直撃する。
誰一人として動くことはできなかった。
ただ一人攻撃隊で後退せずにいたその男以外には。
「このええかっこしいが、ワイはあんさんを認めてへん。せやかてこんなかっこつけも認められんわ」
野太刀がディアベルに吸い込まれる瞬間そこに割り込んだのはキバオウ。
武器を盾にして野太刀を受け、そのまま二人は吹き飛ばされる。
「キバオウ、おい、生きてるか」
庇われたディアベルのヒットポイントもレッドゾーン間近だ、しかし気にも留めずに立ち上がり彼はキバオウに探す。
「レッドじゃのうてドットやけどな、ぎりぎり生きとる」
立ち上がったディアベルのさらに後方でキバオウは返事をした。
後退していた攻撃隊が駆け寄り、ディアベルとキバオウを中心にして防御陣形を組み上げる。
「なんのためにワイが攻撃受けたんや、ディアベルはん、あんさんのやるべきことはまだあるんと違うか」
「すまない、感謝するキバオウ。防御隊はボスの相手を頼む。あの攻撃はもう見たはずだ、分散して当たれ。攻撃隊は警戒しつつ最大回復、すまないが俺とキバオウの回復時間を稼いでくれ」
防御隊はすぐさまボスへと向かう。
取り巻きを相手していた俺達も負けていられない。
復活した後も削られ続けたヒットポイントは残り四分の一といったところ。
「キリト、エギル、アスナ、俺達もこいつを片付けて応援へ向かうぞ。まさかできないなんて言わないよな」
「当たり前だ。ようやく敬語がとれたなタクト。そっちの方がらしいんじゃないのか」
俺の問いかけにキリトが皮肉っぽく答える。
こいつも俺に敬語が取れてるくせに。
「いつでもいけるぜ、タクト。これでやれなきゃ男じゃねぇ」
エギルは白い歯を光らせそう答える。
黒い肌とのコントラストが眩しい。
「もちろんです、タクトさん。私もいつでもやれるわ」
アスナの敬語は変わらないが雰囲気が柔らかくなった気がする。
瞳はやる気に満ちていて今にもルイン・コボルト・センチネルに突っ込んでいきそうだ。
三人の意思を確認して俺達は攻撃を仕掛ける。
「出し惜しみ無しだ。一気に決めるぞ」
一気に間合いを詰め、ソードスキルを発動させる。
まずはアスナがソードスキル、アヴォーヴで動きを止める。
動きが止まったところへエギルのソードスキル、スマッシュを叩き込む。
スマッシュの命中を確認した俺とキリトは左右からソードスキル、スラントを放つ。
「合わせろよ、キリト」
「任せろ、タクト」
左右から同時に放たれた斬撃は中心で重なりあい衝撃力を逃さず降りぬかれた。
今度こそポリゴン片を散らしながらルイン・コボルト・センチネルは消えていく。
その間大ボス隊も上手く野太刀の攻撃範囲を外しながら戦っている。
「ディアベル、F隊は攻撃隊に合流するぞ」
「了解だ。みんな、ここが正念場だ。次の合図で攻撃隊、防御隊は全員ソードスキルをボスに放て。俺達も全員最大回復している、いけるな、キバオウ」
「当たり前や、こんなおもろいとこてへたれられへんわ。タクトはん、合図は任せんで」
「任せろ、みんな準備は良いな。行くぞ、スイッチ」
スイッチを合図にボスと対面していた防御隊全員のソードスキルがボスに突き刺さる。
ボスのヒットポイントが見る見るうちに半減する。
続いてディアベルとキバオウ含む攻撃隊もスキルを放つ。
だがまだボスは倒れない。
攻撃隊も防御隊も消して短くない硬直があるはずだが彼らの表情に不安はない。
まだ攻撃は終わっていないのだから。
「おいしいとこやけど譲ったるわ」
「決めてくれ、みんな」
キバオウ、ディアベルが笑顔でそう告げる。
「ああ、あとは俺達F隊に任せろ」
これだけの期待を受けて決められないわけがない。
裂帛の気合を込めた、俺、アスナ、エギル、そしてキリトのソードスキルはがインファング・ザ・コボルト・ロードに命中する。
ポリゴン片が舞い、ファンファーレとともにCongratulationsの文字が表示される。
二千二十二年十二月。
この日俺達は高きアンクラッドの頂への一歩を踏み出した。