破軍所属の盾壁使い   作:楽信

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始まりは最強と最弱で

 

 

伐刀者(ブレイザー)

 

 

 それは己の魂を《固有霊装(デバイス)》として顕現させ、魔力を用いることで異能の力を武器に戦う者達。

 

 人の力を越え、まさしく“魔法”の領域へと踏み入れた彼らは世界の均衡を保つため、仇為すものを打ち取るために日々研鑽を重ねている。

 

 

 《魔導騎士制度》

 

 

 これは国際機関の許可を受けた専門学校を卒業した者たちに『免許』と『魔導騎士』という称号を与えることで社会的達立場を与え、各自が保有する能力の使用を許可されるというものである。

 何ともめんどくさそうな制度であるが《伐刀者(ブレイザー)》相手には現代兵器が全くと言っていいほど太刀打ちできず、今や戦争を起こす場合ですら《伐刀者(ブレイザー)》が居なければ成り立たなくなってしまったこの現代において彼らをまとめあげるために一定の制度を設けるのは当然と言える。

 

 日本にもこの魔導騎士育成専門学校は存在しており、現在は7校が名を馳せている。

 今自分がいる『破軍(はぐん)学園』もその一つ。

 都心である東京に膨大な敷地を保有しているこの学校は、生徒の強さは兎も角、立派な専門学校なのだ。

 ちなみにこの学校だけの話ではないが寮生活というものがある。これは遠くからやってくる者達の暮らしを助けるというものだけでない。この学園は東京ドーム10個分(イメージが湧かなければ兎に角大きい敷地と考えていい)膨大な敷地を有しているため、様々な施設を所持している。これらを使いながらも《伐刀者(ブレイザー)》の卵たちを監視する役割も担っていると考えていいだろう。

 危険分子は予め印をつけたり、直せるのならば叩き直す。そんな部分も出てくるだろう。

 

 

「うーむ。さてさてこれはどうしようか?」

「どうしようも何も私達でどうしようも出来ない問題だと思いますが、えぇ、はい」

 

 

 寮生活と言えども個室ではなく、相部屋だ。

 理事長の話を聞くからに男女が相部屋になることもあるようで、自分たちはその例にはまってしまったのだ。

 自分の目の前にいる彼女は当然不服があるのだが、規則だと言われると強く言えなかったために先ほどから不機嫌なご様子。ちゃぶ台を挟んで座っている自分は彼女の不機嫌さに対してなにも出来ず、ただただ正座をして機嫌を直してくれるのを待っているだけだったのだが・・・

 

 

「 いやぁああああああ!!ケダモノぉぉぉおおおおお!! 」

 

 

 隣の部屋からかわいらしい叫び声と同時に思いっきり平手打ちをかましたような音が鳴り響く。

 気まずい雰囲気になっていたのもあるが、突然の叫び声に不機嫌であった彼女も表情を変えた。

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 

 叫び声がなくなってから互いに顔を見合わせる。部屋に沈黙が降り立ち、少し経ってから声をかけた。

 

 

「・・・どうやら隣も俺達と同じ問題に当たってしまったようですね」

「そのようですね。こうなるのであれば何故私は隣部屋の女性と同じになれなかったのでしょうか・・・」

「いや、そればかりは上の考えだからわかりませんよ」

「はぁ・・・」

 

 

 女性はこちらを一瞥してこちらからでもわかるようにため息を吐く。正直凹む。

 

 先ほどから女性と記しているがここらで目の前にいる女性を説明しよう。

 名前は瀬戸内(せとうち) 優奈(ゆうな)

 学年クラス共に自分と同じ1年1組で、伐刀者ランクはBランク。

 能力パロメーターをグラフ化したものを見ればわかるのだが、かなりの優秀な一株だ。

 

 175㎝ほどの身長を持った自分と近く、166㎝という女性にしては高身長で和の印象を持たせる黒髪美人。スタイルも素直に言うがすばらしい女性だ。というか騎士学校の環境に身体を慣らすために早めに部屋へと入ったのだが、その際に見かけた女性の大半が綺麗だったぞ。なんだこの桃源郷は!

 

 おっといけない。こんなところで男のロマン(事実)を語っていては再び目の前の女性――瀬戸内さんから冷たい目で見下されてしまう。それは勘弁願いたい。

 

 ドタドタと走っていく音を聞きながら男の叫び声が遠のいていく。どうやらお隣さんのいざこざが一時的に落ち着いたのだろう。

 

 

「・・・私は隣の部屋の方に会いに行ってきます。あなたはどうしますか?」

「うーん、ならこっちはさっき走って行った方に会ってくるよ。ついでに何か飲み物でも買ってこようかな」

「そうですか。ならついでにサイダーを買ってきてください。量は多いものを所望します」

「了解ー。んじゃまた」

 

 

 部屋を出て一旦別れる。

 男と相部屋になるという事実は諦めたのだろう瀬戸内さんはお使いを頼んだ。

 どう嘆いても結果は変わらないとわかっている以上、どうにかして良い関係を築き上げていくのが建設的というものだろう。自分もその方がいい。でなければ胃が持たない予感がある。

 

 買い物を済ませながら、先ほどの騒動の中心人物を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

「で、2人の間で色々と話があった後に決闘することになったと。それも負けた方が勝った方に一生服従(・・・・)か・・・。いくら頭に来たとは言えど、少々やりすぎな気もしますね」

「全くだ。それにしても驚いた。まさかご近所さんがかの《紅蓮の皇女》だったなんて。そんな有名人がこの学園に来たってのは当然ながら、対戦相手が落第騎士(・・・・)とあっては面白そうでたまらないね」

 

 

 そこまで言って心底楽しそうに笑う。

 片やヴァーミリオン家の第二皇女の超新星(スーパールーキー)

 片や伐刀者の底辺に位置する落第騎士(ワーストワン)

 

 愚直に見れば瞬殺されるのが目に見えた勝負。それゆえに今この第三訓練場にいる見学者の大半は皇女の姿を一目見るべく集まった様なもの。

 それをわかっていながらそんな結果にならない(・・・・・・・・・・)と確信している自分に対して瀬戸内さんが言葉を飛ばす。

 

 

「私の捉え方が間違っていなければ、貴方はまるでどんでん返しが起こると言っているように聞こえましたが?」

「その捉え方で合ってるよ。俺は敢えての男にかける(ギャンブル)さ。賭けてもいいね」

「では私は皇女(友達)の方に。もしあなたが負ければ次の月の食費を全て賄ってもらいますのでお覚悟を」

「なんだろう。これで負けたら俺の全財産が飛んでいくような気がする」

 

 

 済ました顔で言い切る美女に冷や汗をかきつつ、勝ってくれと願うのだった。

 

 

 

「それではこれより模擬戦を開始する。双方、《幻想形態》で展開しろ」

 

 

 理事長の指示通り《幻想形態》――人間に対してのみ、物理的なダメージの代わりに体力を直接削り取る形態――で固有霊装(デバイス)を展開する双方。

 

 大剣型の固有霊装(デバイス)妃竜の罪剣(レーヴァテイン)』を手にする ステラ・ヴァーミリオン

 刀型の固有霊装(デバイス)『陰鉄』を正面に構える 黒鉄 一輝(くろがね いっき)

 

 試合開始と同時にステラが大剣を振り下ろす。

 炎を纏った一撃は瞬時に衝撃が第三訓練場に行き渡り、会場そのものが激震した(・・・・・・・・・・・)

 

 

「うっは!こいつはすげぇ」

「荒々しく見えつつもかなり鋭い一撃・・・かなりの研鑽を積んでいますね。そして初動を避けた彼も・・・」

 

「なんて威力だ。理事長室の時とは比べ物じゃないな」

「当然。あそこで本気なんで出しちゃったら公舎が壊れちゃうもの。入学早々公共施設崩壊なんて御免よ!!」

 

 

 横薙ぎに振るわれたその攻撃を刀で受けずに一輝は体を滑らすように躱していく。が、それを無意味だというようにステラは魔力で機動力を強引に上昇。速度を上げ、火力も上げて、粉砕するかの如く大剣を振り落としていく。大剣に込められた魔力が焔となって訓練場そのものの温度を上げる。

 

 

「っ・・・!」

「ふ――っ!!」

 

 

 力で一撃の下に叩きつぶすように振るわれこそすれど、ソレは力任せなどではなく、学んでいるものが振るえる剣だ。

 だがそれでも拮抗とまではいかなくとも攻防が続いている。その異常さにどれだけの者が気づいただろうか。

 

 戦っているのは《天才騎士(最強の一角)》と《落第騎士(最弱の一角)》。最高位と最底辺。ランクだけ見ればそれだけだが、そんな2人の戦いで、攻防が続いていること(・・・・・・・・・・)自体おかしいのだ(・・・・・・・・)

 

 

(な、なによ、これは・・・アタシが、あしらわれている(・・・・・・・・)!?)

 

 

 ステラが抱いた感情はまさに驚愕。

 底辺の男が己の攻撃を受け流しているという事実だけではない。一撃一撃に本気を込めて打ち込んでいるのだ。比喩でなく、相手を一発で沈めるほどの威力を以て攻撃を繰り出しているというのに当たる気配すら見えない。

 そして何よりも、次に目の前の男が魅せた技が何よりも異常だった。

 刀型固有霊装(デバイス)『陰鉄』を日輪を表すかのような剣筋へと変化し、ステラの大剣を押し返したのだ。そしてその剣筋はこの訓練場においてステラが一番よくわかっている。

 

 

「―ッ!!ありえないでしょ・・・どうしてソレ(・・)をあんたが使えるのよ!!?」

 

 

 攻めに転じた黒鉄 一輝のその剣技。それは先ほどまで、そして今もステラが使用している(・・・・・・・・・・)剣技であったからだ。

 日輪の如く剣を滑らせ、対象を豪快に叩き切る。それに合わせてステラが誇る抜刀絶技(ノウブルアーツ)妃竜の息吹(ドラゴンブレス)』を組み合わせることで彼女の剣に破壊力を付与しているのだ。

 幼いころから学び、磨いてきた剣技 《皇室剣技(インペリアルアーツ)》。皇室の者が学べる剣技は当然他の者が見て真似できるレベルではない。だが、目の前の男はそれをやってのけたのだ。

 

 彼が元々この剣技を知っており、誰かから学んでいた?

 否。

 

 この剣技を学べる以上《魔導騎士》としての素質を必要最低限は有している。目の前の男は留年しているFランクの男。そのような剣技を学べるとは到底考えられない。

 

 ステラはそこまで剣を振りながら、ある考えに辿り着いた。

 そしてそれは合って欲しくない最悪の想定。

 

 

「この剣を・・・《皇室剣技(インペリアルアーツ)》を・・・この試合に見て盗んだ(・・・・・)っていうの!?」

「生憎僕は昔から嫌われ者でさ。誰も僕に対して何かを教えようなんてことはしなかったし、そもそも話そうなんて人もいなかった。だから自分なりに剣を振りながらも他人の剣を見て盗むぐらいできなくちゃならなくてさ・・・こういうことばかりうまくなってしまったんだ。だけどそのおかげで大抵の剣術は打ち合えば理解できるよ」

 

 

 《模倣剣技(ブレイドスティール)

 それこそが一輝の剣術。視認し、打ち合うことで対象の剣技を盗むその能力にステラは戦慄が奔った。

 

 言うは易し、行うは難し。

 長い歴史の中で生まれ、洗礼されてきた技術を見て、打ち合うだけで理解するという離れ業を飄々とやってのける異常さ。そしてなにより、誰もがやってみようと思い、そして挫折するはずの領域を学生という若さで達していることがどれだけものか。どんな状況下で独自に学んでいけばその域に達するのか。

 そしてその技を魔力を使わずに体術だけで再現するのにどれだけ血の滲むような修行をすればよいのかはステラにはわからなかった。が、それを知ったことで認識を改めた。

 

 

(強い―――ッ!!)

 

 

 ステラの剣技(オリジナル)と遜色ない、それどころか自分よりも洗練されている動きに対して認めた。彼の剣術は自分よりも遥か上に位置していると。

 

 

(でも、だからこそ裏をかける――!)

 

 

 瞬時に思考を変えてたステラは逆にそれを利用しようと考えた。

 すべて見切られているというのなら、それを囮に技を放つという意志で大剣を振り下ろす初動を見せる。

 剣技を見切り、取り込んだ一輝は次にどのような攻撃が来るのかを理解し、『陰鉄』を下から振り上げた。

 

 掛かった!

 

 ステラは剣を振り下ろさずにそのまま後方へ下がる。

 それによって振り上げられていた刀は大きく空を斬ることになった。

 今まで「攻め」を行っていた彼女が、初めてみせた「逃げ」の動作にしてやられたのだ。

 

 振り上げた腕で表情は見えないものの、ステラは一輝が驚愕の表情をしていると確信していた。完全に見切っていた動きが変化したのだ。模倣剣技を利用されたことに驚いているだろうと。

 当然考えこそすれど、動くことを止めない。

 振りかぶっていた妃竜の罪剣(レーヴァテイン)をがら空きの腹部へと滑り込ませるように動かし、思い切り薙ぎ払い、そしてそれを躱された(・・・・)

 

 

(―――えっ?)

「太刀筋が寝ぼけているよ」

 

 

 ここぞという場面で大振りになった攻撃と、それを避けられたという事実にステラは頭が一瞬真っ白になる。が、一輝の言葉で瞬時に我に返り大剣を盾のように前に構えようとして、『陰鉄』による一閃がステラを袈裟に切り裂いた―――。

 

 

『決まった!?』

『嘘だろ・・・Aランクのステラさんが・・・?』

『油断していたんだろ・・・そうに決まってる・・・!』

『いや、あれを見ろ!』

 

 

―――はずだった。

 

 観客が見た光景は一輝が握る『陰鉄』が、ステラの身体に触れた状態で静止している光景であった。

 

 

「うーん、やっぱりこうなったか・・・」

 

 

 ここで初めて一輝が悔しさを滲ませたような表情を見せた。

 全力で振り下ろした刀がダメージを与えることができなかったからだ。これはつまり一輝ではステラに傷を与えることが出来ないという証明でもあった。

 

 魔力を有する《伐刀者(ブレイサー)》同士の戦いは、己に有する魔力量によって決まるのだ。

 どんなに優れた技術を持っていようとも、元々持っている魔力が無ければ《伐刀者(ブレイサー)》にダメージを与えられない。体内に持つ魔力がバリアの役割も果たすためだ。例え重火器を持ってきても、一般市民では伐刀者相手に戦うことは出来ないのはこれが理由である。

 

 黒鉄 一輝がFランク(留年生)にいるのもこの魔力量が要因である。

 通常の伐刀者の十分の一程度の魔力しか持っていない一輝はこれが原因で実の家系からも疎まれていたのだ。

 

 同じ《伐刀者(ブレイサー)》であれども、どれだけ卓越した技を放とうとも、大切な資質が欠如している一輝の攻撃はステラの魔力の壁を越えることが出来ない。それが紛れもない真実であり、慈悲もない現実だ。

 

 

「かっこ悪いわね・・・こんな勝ち方」

 

 

 ぽそりと呟くステラ。

 彼女自身もわかっていたのだ。一騎打ちを挑む最初から、負けることはありえない(・・・・・・・・・・・)ということが。

 

 

「わかってた。わかってた上で勝負を申し込んだ。魔力じゃなく、剣で勝って、アタシは才能だけの人間なんかじゃないと証明したかった。・・・でもそれは叶わなかったけどね・・・認めるわ。この一戦、アタシが勝てたのは才能のお陰だったってことを」

 

 

 だからこそ――と言葉を続けるステラに対して一輝は『陰鉄』を構えた。

 攻撃は通らなかったと言えど、勝負を降りるつもりはさらさらない。こんなところで折れるほど、軟な鍛え方をしていない。

 

 

「アタシの最大の敬意を以て、アンタを全力で倒してあげる」

 

 

 その言葉に悔しさが混じっていたことに気づいたのは黒鉄 一輝その一人だけだったであろう。『妃竜の罪剣(レーヴァテイン)』を天に掲げた時、真紅の瞳にわずかな涙を溜めていたことも。 

 

 

「蒼天を穿て、煉獄の焔」

 

 

 その詠唱と共に剣に宿る炎が一層輝きを煌めかせ、光度と温度を滾らせた。

 太陽の如く輝くその炎は、光の柱如く立ち上る。その光の柱が天井を貫くようなことはなかったが(・・・・・・・・・・・・・・・・)、その威力に観客たちは阿鼻叫喚。一輝に至っては苦い顔をした。

 

 英雄になることが決められている《紅蓮の皇女》。その騎士が誇る最強の《抜刀絶技(ノウブルアーツ)》。

 彼女はすでにまともに戦うなんていう選択肢を頭に浮かべてなどいない。

 剣士として遥かに優れている黒鉄 一輝という男に向けての最大級の敬意と尊敬を込めて、戦場全てを焼き払うことを選んだ(・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 

「・・・終わりよ。足掻くなんてことはせずに、素直に負けを認めなさい。その方が、アンタにとっても幸せよ」

「それは無理だね」

 

 

 ステラが示した提案をあろうことか笑って(・・・)一輝は否定する。

 《魔導騎士》としての素質がないことなぞ、百も承知。それでもこの道を選んだのだ。

 

 

「・・・ッ、なんでよ」

「よく妹にも言われたんだ。『お兄ちゃんは魔導騎士以外ならなんでもなれるんだからそっちを目指した方がいい』ってね。確かにその通りだし、僕自身も魔導騎士の才能がないことなんてわかってる。だけどそれでも退けない・・・いや、退かない(・・・・)。僕が僕であるために、自分の夢を進むために、この場を降りるなんて行為は何よりも僕を僕たらしめる誓いが許さない」

 

 

 才能がないがために存在をないものにされた(・・・・・・・・・・・)一輝の過去を知っている者は殆どいない。元々期待などされておらず、生まれていないにも等しい扱いを受けてきた一輝にとって、ここで折れてしまうことを何よりも許さなかった。

 

 

「考えたんだ。僕が、最弱が最強に勝つためにどうすればいいのか。僕を貫くためにはどうすればいいのかを考えた。それを今―――この場において、答えを示す」

「・・・ふざけないで!魔力がないアンタはアタシに傷すらつけれないのはさっきのでわかったでしょ!世の中は才能なの。どれだけ努力しようが、才能には敵わないのよ!!」

「なら――僕が、それは違うと証明する。努力は決して裏切らないことを、今・・・ここで!」

 

 

 刀を構えた一輝の目はまっすぐにステラを見据えている。

 

 

「――僕の最強を以て、君の最強を打ち破る!!」

 

 

 その宣言の元、一輝の身体から、『陰鉄』の刀身から、淡い輝きが生まれていく。

 先ほどまで感じられなかった異変。それはまさに一輝からあふれる可視化した魔力そのものだ。

 

 生まれ持った量以上にも以下にも変化することはないその魔力が、増幅している(・・・・・・)という現実に目を見開きながらも、ステラには関係はなかった。

 最強の技を出したからには、どんな力も灰燼と化すのみ。負けるなどあり得ないのだと。

 今更自分を倒せるようになったからと言っても、その刃が届かなければ意味がない。

 双方の距離は六十メートルは離れている。ならば自分の光の刃が先に当たる。

 

 

「ならばアタシを倒して証明して見せなさい!アンタの剣が、私に届くってことを!!全てを燃やし尽くせ!!《天壌を焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》ァ!!」

 

「《一刀修羅》!!」

 

 

 戦場では勝負は一瞬。それは今回の対決も同じ事。

 交わるは最強の焔と最弱による修羅の一撃。

 

 焔が消え、訓練場全体が静寂に包まれる。

 会場へと視線を移して見たものは、その場に崩れ落ちたステラ・ヴァーミリオンと刀を支えに立っている黒鉄 一輝の姿であった。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

「いやぁ、今年の代表選抜戦は見物だね。面白いものが見れると思って来てみたらまさかの収穫だ」

「それは良かったですね。黒鉄 一輝・・・かっこいいと素直に思えますよ」

 

 

 Aランク(最強)Fランク(最弱)の勝負は見事に最弱が勝利を掴んで幕を下ろした。

 あの時の戦いで熱を当てられた後、気を失ったステラと抜刀絶技の代償に立つことすら困難になった一輝はそのままタンカで運ばれた。会場には殆ど、というよりも自分と目の前にいる着物を着崩した女性しかいない。

 ちなみに瀬戸内さんはステラ氏のお見舞いと称して退席している。

 素直な感想を述べたと言うのに女性は呆れたような表情に変わる。

 

 

「全く以て謙虚だのぉ・・・あの時他の奴を護っただろうに」

「・・・はてさて、なんのことやら?俺じゃあのタイミングに合わせて破壊を防ぐなんて芸当は出来ませんよ」

「あのタイミングとか言ってる時点で確信犯だろお前は。それにしても他の奴が情けない。あの焔で会場が壊れないことに違和感を持ったのは果たしてどれだけいるのかね」

 

 

 そう、ステラが放った攻撃は本来天井を溶かして貫くほどの威力を有していたのだ。だがあの場でそのような些細な事を指摘するような者は居らず、そもそもその事実に気づいている者も少なかったためにそういう技なのだと思った人も多い事だろう。

 平然と返す自分に呆れたように言葉を零す女性は鉄扇を消して(・・・・・・)腕を組む。掛かっていた軽い重さが無くなるのに合わせて自分も構えていた固有霊装(デバイス)を解除する。

 

 

「まぁ違和感を感じないほうが自分としてはありがたい話です。つまりはそれだけ自分の実力が向上できたということなんですからね。でもやはりまだまだ未熟ですねー現に気づかれていますし」

「全く口が減らん男だ。うちでも見抜けなかったらそれこそ異常だよー。Cランクのお前さんも立派なランク詐欺勢だねぇ」

「いやいや詐欺勢は黒鉄氏のような人を言うのであって俺は立派なCランクですよ。ただただ普通の伐刀者です」

「只の伐刀者に防がれるとあっちゃあうちにゃ立つ瀬がないんだけども、全く・・・まぁいいさ。くーちゃん・・・あぁ、神宮寺ね。あいつが色々と変えてたから察しはついてると思うけど、お前さんも参加するんだろう?」

 

 

 悪い笑みを浮かべながらも彼女の言葉が何を指しているのかを察する。

 それは七星剣武祭のための『選抜戦』。真剣での実践形式で行われるトーナメントだ。

 

 

「参加はする予定ですけど、あまりにも内容がひどいようなら辞退も考えてますよ。まぁどうぜ出るなら全霊で、ですけどね」

「それならいいさ。うちは観戦させてもらうさね。んじゃあ楽しみに待ってるとするよ、藤堂(とうどう) (まもる)君」

 

 

 着物を着崩した女性はそのまま踵を返して会場を出ていく。

 それによって会場にまだ残っている人は自分のみとなったのを確認して、思いっきり息を吐いた。

 

 

「はぁ~・・・はっ・・・は・・・ぐっ・・・」

 

 

 ずっと堪えていたものが溢れ出る様な感覚に陥りながらも噛みしめて耐える。

 誰が好き好んで訓練場に一人で寝なければならないのか。吹き出る汗を拭いながらそう自分の身体に喝を入れて強引に機能させる。

 

 

「はっ・・・はァ・・・ったく、ずっと負荷をかけて来てからに・・・お陰で消せなかったし・・・いや、それが目的かな?」

 

 

 こちらのきわどいラインで能力を止めた着物の女性(彼女)は自分の限界を測っていたのだろうか。最も本人に聞いてみなければならないため、今その理由がわかることはない。

 一杯食わされた感覚を覚えながらも藤堂 護は会場を後にするのだった。

 

 

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