ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
日が殆ど傾いた頃、猫宮と若宮の二人は指導を終えた。集団で授業をサボったオートバイ小隊の面々に教師が注意しに来たものだが、カクカクシカジカと事情を説明されると、手をとって頭を下げられた。その話が伝わったのか、放課後には校長までが頭を下げに来た。
担当の教官は、必要最低限の事だけ教えると次の部隊へと移ってしまったらしい。まったく――。
「……本当なら、毎日でも顔を出してしごきたいところだが、そうもいかん」
若宮は溜め息を付いた。指導を終えた後、即席教官の二人に女子生徒たちは先を争って連絡先を押し付けてきたのだ。当然の如くそんな経験が初めての若宮は、ひどく戸惑ったものだ。
「今までこんなに女性に寄られたことはなかったんだがなあ?」
若宮は不思議そうに首を傾げた。
「みんな若宮さんの腕を感じ取ったんですよ。強い人といれば生き延びられるかもって」
「そうか」
何となく、腑に落ちたようだった。兵士達の間では、腕の有るやつ、度胸の有るやつ、頭のいいやつが頼られる。彼女たちも、女子高生とはいえ兵士だったのだ。
「強いオスがモテる。戦争という死に直面して、男女の間もシンプルになったのかもしれませんね」
「……そうだな」
また、半島を思い出した。女は競って数少ない物資を漁った。化粧で、衣装で、しぐさで、少しでも自分を着飾ろうとした。美しい女に真っ先に手を付けられるのは、頭の良い兵士、屈強な兵士、リーダーシップが有る兵士だった。自然、金や物資が多く与えられた。
とりとめのない話をしながら、トラックは人も車も殆ど通らない裏道を走る。闇夜に赤い色が見えた。二人は、口を閉じる。
「――居ます」
「馬鹿な、ここは市街地だぞっ……!?」
残った二丁の銃に若宮は弾を込め、猫宮は路肩に軽トラを止めた。軽トラで突破するのはあまりにもリスクが大きすぎた。装填した銃を渡し、二人は死角をカバーしつつ車外に出た。エンジンはつけたままだ。
憎悪や殺意を、猫宮は敏感に感じ取った。赤い目が、闇夜に浮かぶ。若宮は即座に発砲して、ゴブリンを薙ぎ払った。連射された弾がゴブリンの体を貫通し、効率よく複数にダメージを与えていく。
60発程度撃った所で猫宮からの銃声も加わった。リロードするタイミングをずらすため、交互に撃つ二人。戦闘は一分程で終了した。
「クソっ! 憲兵は何をやっていたんだ!? 」
地図を見る猫宮。目つきがどんどん険しくなっていく。
「若宮さん、ここ……」
若宮がはっと目を見開いた。使われていない、古い地下道だ! その入口の一つがこの近くにあった。なんてこった、奴らは足元にうごめいていやがるのか!
携帯端末を取り出す猫宮。電話先はいつもの憲兵だ。
「もしもし。ああ、また君か。で、次は何処の不良が問題を起こしたんだ?」 苦笑が入った響きだ。
「いえ、人ではなく幻獣です。それも、市街地に」 息を呑む気配がした。
「馬鹿な、街中だぞ!?」
「今は使われてない、古い地下道有りますよね?」
「っ! そうか、地下道かっ!? 今、何処にいる!?」
「ああ、場所は――」 現在地を教えると、足音が近付いて来た。
「えーっと、派手に銃声鳴らしちゃったんで憲兵さんがやってくるみたいです。説明をお願いします」
「うむ、分かった。共生派と誤解されないように両手は上げておいてくれ」
そう言うと、強烈な光で二人が照らされた。
「動くなっ! 両手を上げて膝を付け!」
黙って銃を置いて両手を上げる両名。地面に押し付けられ、拘束される。二人共一切の抵抗はせずにそれに従う。
油断なく二人に銃を突きつけている憲兵達。と、そこへ一人の憲兵に通信が入る。
「――はっ。分かりました。拘束を解け。開放してやれ。そいつらは白だ」
「はっ」 近くに居た兵が拘束を外した。みんな、辺りの戦闘の名残に気がついたのだ。
やれやれと立ち上がって汚れを払う猫宮と、苦笑しつつ起き上がる若宮。
「二人共、所属と階級は?」
「第62戦車学校付き戦士、若宮康光であります」
「第62戦車学校訓練生、猫宮悠輝です」
二人共敬礼をすると、周りの憲兵も返礼をした。
「すまん、近頃共生派の活動も活発で脱走兵も多いのでな」
「誤解が解けたなら問題はありません」 猫宮は真面目な顔でそう返し、
「皆様は職務の遂行に尽力しただけであり、本官もそれに協力しただけであります」 若宮は堂々とそう返した。
「助かる。で、幻獣だが……」 戦闘が終わってまだ少ししか経っていない。幻獣の体液も、生臭い臭いもまだ残っていた。幻獣が居たのは明らかだ。
「おそらく、古い地下道からでしょう」 猫宮が端末から地図を見せると、憲兵の顔は深刻なものになった。
「くそっ! 旧軍の置き土産か! 徹底的に掃除せねばならん……!」
慌ただしく指示を飛ばすと、数名がチームを組んで地下道を偵察する。
「今日は助かった。お陰で、これから起きる大惨事を防げたかもしれん。何か出来ることがあれば言ってくれ」
「えーと、そうですね……じゃあ……」 猫宮は空っぽのマガジンを拾い
「使った弾丸、後で補填をお願いします。後、夜に出歩いていても補導は勘弁を」そう、イタズラっぽい表情で言った。
「了解した。まあ、ある程度は目を瞑ろう」
「おいおい……」
規律を破ることを願う訓練生と、それを黙認する憲兵。まったく、まったく。何度まったくと思ったか。若宮は、随分なところに来てしまったとまた思うのだった。
こうして、これから起こる悲劇の一つが消えた。
夜、善行は若宮の報告を聞いて悩んでいた。悩みの種は勿論猫宮の事である。
どこからどう見ても、誰がどう聞いても今までが普通の学生の訳が無いのである。何処からからの工作員かはたまた共生派のスパイかとも思ったが、若宮の話を聞く限りどうもそうでも無いようだ。
ただのスパイや工作員が、まるまる一小隊分のサブマシンガンと弾を無償で寄付するとは、どうしても善行には思えなかった。ひょっとしたら準竜師が送り込んだとっておきなのだろううか?
「…………どう思います?」
「はっ。とりあえず優秀な歩兵の資質は有るようです」
車からの降り方、連携の取り方、銃の命中率や判断、リロードスピード――ほんの二、三分程度の戦闘で若宮は実力の程を悟ったのだ。
「……そうですか。分かりました」
八方手を尽くしても、ベテランのパイロットはどうしても手に入らなかった。確保できたのは、ベテランの歩兵が二名だけである。だが、猫宮ならひょっとして――。
「嬉しそうでありますな、委員長」
若宮がそう言うと、善行は口元を抑えた。
「ええ。ひょっとしたらひよっこ達の中核になってくれるかもと思いましてね」
「さて、どうでしょうな。あいつは他のサポートに回りがちですから」
「それならそれで結構。他四人を何とか立たせてもらいましょう」
「やれやれ、相変わらず人使いが荒いですな」
若宮は、声を上げて笑った。
備品である軽トラを返した後、猫宮はふらふらとプレハブの空き室――後の整備員詰め所に入った。家まで帰る気力もなく、とりあえず寝たかったのだ。安物のベッドにぶっ倒れる猫宮。まぶたが重かった。
「…………だい……じょう……ぶ?」
小さな声が聞こえた。重いまぶたを持ち上げると、フランス人形のような美少女がこちらを覗き込んでいた。
「あ、あはは。徹夜でちょっと辛いかな?」
少女は振り返ると、戸棚を漁った。取り出したのは、サプリメントのようだ。
「これ……飲んで……。回復が、はやくなる……わ……」
おずおずと水とサプリを差し出す。猫宮は笑って受け取ると、一息で飲み干した。
「ぷはっ、ありがとう。――見ない顔だけど、転校生?」
制服が同じだったのでそう尋ねた。少女はこくんと頷くと、何と言ったら良いか分からずに俯いてしまった。
「自分は猫宮悠輝、よろしくっ! 」
そんな少女に笑って元気よく挨拶する猫宮。それを見て、勇気を出したのか顔を上げて
「石津……萌」 と名乗った。
「石津さんだね、よろしく!」
石津はこくんと頷いた。
「もう、寝ても、大丈夫……」
「それじゃ、お言葉に甘えて」 倒れ伏す猫宮。体中の力を抜いた。
石津は、近くの椅子に座ってじっとその様子を見ていた。光が、猫宮の周りを護るように浮かんでいた。今まで見てきたものたちと似ているようで、何処かが違うもの。それは、とても綺麗に思えた。
手を伸ばすと、その光は石津の周りを回った。なんだか、とても暖かかった。
「起きなさいっ!」
「うわわわわっ!?」 「きゃっ!?」
朝、壬生屋の怒声で目が覚めた猫宮。慌てて起き上がると石津の声も聞こえた。首を振って周りを見てみると、横では顔を真赤にして怒っている壬生屋の姿が見えた。
「ふ、ふ、ふ、不潔ですっ!」
「不潔って、ええええっ!?」
混乱する猫宮。ふと前の方を見ると、自分のお腹の辺りに石津が突っ伏して寝ていたようだ。
「て、て、て、転校してすぐの少女を手籠めにするなど、は、は、恥を知りなさいっ!」
顔を真赤にして石津を抱いてかばう壬生屋。猫宮も負けずに声を張り上げた。
「そ、そんなことしてないからっ!?」
「お、お黙りなさいっ! 男女七歳にして席を同衾せずという言葉を知らないんですか!?」
「ふ、古いよ壬生屋さん! それに何もしてないから! 」
言い争う二人。そんな中石津は「あ、あの……」と何かを伝えようとした。だが、その小さな声はかき消され、手を伸ばそうにも壬生屋の腕の中でもごもご動くだけであった。この二人の不毛な争いは二階から本田がエアガンを乱射しに降りてくるまで続くことになる。
本田に強引に授業に出席させられた猫宮は、本田の無茶苦茶な国語の授業が終わると大きくあくびをした。
「おおっ!? 猫宮お疲れじゃん、やっぱり昨日の夜なんかあったのか?」
「おやあ、それは気になるなぁ。ほらほら、早く白状したほうが身のためやで」
滝川と加藤の脳天気組が聞いてきた。猫宮は苦笑すると、どうしたものかと善行の方を見た。首を横に振る善行。どうやら、話さないほうがいいらしい。となると、適当にごまかすしか無いのだが。
「いやいや、ちょっと遅くまでバイトしてただけだよ」
「ああ、コイツは随分と遅くまで裏マーケットに居たもんだ」 若宮もフォローする。
ちぇ~っとつまんなそうにする二人。
そして話題は本田の話に移った。恋の悩みだろうと瀬戸口が盛り上げ、それを確認するために全員で確認しに行くこととなった。逃げようとする猫宮。だが疲れの残っていたためかあえなく捕まり若宮を除く全員で本田を見に行くこととなった。
さて、大人が飲みに行っている時刻は子供はあんまりうろつかない時刻でも有る。そんな中、袴をつけている壬生屋や幼い東原を連れているこの集団はそれはもう目立った。そんな訳で、初めは『早く家に帰りなさい』程度の注意をしようとしたのだが、壬生屋が猛然と反発したお陰で憲兵は強硬な態度に出ざるを得なくなった。おまけに普段猫宮がうろつかない場所だったので、知り合いの憲兵も居なかった。
動揺する集団を横に頭を抱える猫宮。とりあえず、知っている憲兵に連絡して説明してもらおうと携帯端末を取り出した所、間の悪いことにものすごい酔っ払った本田が出てきた。憲兵を無視して話し始める本田に、憲兵が怒って詰め所へと連行しようとする。
端末を持っていた猫宮は止めるのが遅れた。他のメンバーも止める間も無く、見事に大外を決める本田。
「わっはっは! かわいい生徒にインネンを付けた報いだ、正義は勝つっ!」
凍りつく一同。善行は飛び出し、猫宮は大急ぎで電話をかけた。
「第62戦車学校・善行忠孝千翼長である! この件については後日っ――!」
困惑する憲兵達は善行の迫力に押され、直立不動の姿勢をとって敬礼した。返す刀で本田の背をバンっと叩いた。
「おっ、善行じゃねえかどうした?」
事の重大性がまったく分かってない酔っぱらいに、さしもの善行もブチ切れた。
「この役立たずの酔っぱらい! とっとと走れっ! それとも体がなまって動かないか!?」
本当に、ほんっと~~~~~に珍しい、善行忠孝のマジギレシーンである。いや、この後こんなに感情を露わにしてマジギレしてたことあったっけか。
一方猫宮は放心している憲兵の一人に端末を渡していた。説明を受け、額を抑える憲兵。
「野郎! 俺様が走れねえだと? 走ってやらあ、何ならフルマラソンでも構わねえぞ!」
「けっこう。私に追いついたら教官と認めてあげます」
そう言うや、駆け出そうとする二人。それを後ろから掴む猫宮。二人はつんのめってズッコけた。
「あなたまで何なのですか、猫宮君!」 マジギレモード継続の善行。
「てめえ猫宮、邪魔すんじゃねえ!」 いや、黙れ酔っぱらい。
「あ、いや、とりあえず知り合いの憲兵さんに事情説明してもらったんで……」
善行がそちらを向くと、何とも言えない顔をしていた。ふと、我に返る。今の状態や、醜態がどうしようもなく恥ずかしかった。
こうして、第62戦車学校の一同は酔っ払っていびきをかいている本田を横に平謝りすることとなる。
ガンパレード・オーケストラのおすすめのキャラ紹介を活動報告に載せました。
アニメ版とは違い、可愛い子達が凄く多いので是非お勧めです。
特に、工藤百華は一押し!
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