ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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想いは紡がれ続いていく

 ソックスハンター(中村)と邂逅してから数日、猫宮は授業を所々サボりつつ精力的に動いていた。既に猫宮が介入しているこの世界では、バタフライ効果で何処まで影響が出るかわからない。だから、原作で死ななかった、大丈夫だった――と言う保証はもはや何の気休めにもならないのである。最悪四肢や内蔵程度なら再生医療が有る世界なので何とかなるが、死ねば終わりだった。だから、猫宮は5121小隊の生存率を上げるため、何でもするつもりだった。

 

「――射撃訓練の実施の要請、ですか」 眼鏡を押し上げつつ善行が言った。

 

「はい。ののみちゃん以外の全員に、自衛手段としてサブマシンガン程度は使えるようになってもらおうかなと」

 

 士魂号は、原作で何度も撃破されている。だが、コックピットに入れている自衛手段がお粗末だった。カトラスでも強い壬生屋や速水なら兎も角、滝川などはコックピットに入れていた武器はなんとハンドガン一丁である。こんな運次第ではあっさり殺されるような状況を何とかするため、猫宮はパイロット全員分の88式軽機関銃(装弾数120発)とシグ・ザウエルを入手していた。ただ、それらは高かったので他のメンバーに対してはより安価な70式軽機関銃(装弾数90発)と白式拳銃であった。それに、これから数日後にはシミュレーターが使えるようになり、パイロットは皆そっちに篭りっきりになる。猫宮もそうするつもりなのでタイミングがこの辺りしか無かったのも有る。

 

「了解しました。では、場所を手配しておくので翌日に実施しましょう。」

 

「はっ、ありがとうございます!」 敬礼する猫宮。

 

 

 翌日、加藤や石津も含めて、全員への銃の講習が始まった。教官は若宮であったが、何処から聞きつけたか本田がノリノリで乱入してきた。ついでに坂上もそれに付随してやってきた。だが、丁度扱う銃が分かれているので、教官はふた手に分かれて教える事ができた。

 

「う、うぅ……」

 

「くっ!」

 

 壬生屋と芝村が苦戦していた。銃の分解整備において、この二人が成績最下位争いを行っている。古い武家の家で、機械に弱い壬生屋と、時計の電池を変えることの出来ない芝村。この二人の手つきの危なっかしさときたら、教官が揃って額に手をやるレベルである。

 逆に、意外にも猫宮以外で最もスムーズに整備を行っているのが滝川であった。プラモデルをよく作っていたためか、覚えがいい。他にも、石津が意外な才能を発揮していた。

 

「へっへ~ん、出来たっと!」

 

「うむ、合格だ、滝川」

 

 その出来に太鼓判を押す若宮。

 

「ぬ、ぬぐぐぐぐぐぐっ、ま、まさか類人猿に負けるとはっ……!」

 

「へっへっへ、芝村にも苦手なことってあったんだなぁ」 調子に乗る滝川。ものすごい得意げである。

 

「ぐぬぬ、ぐぬぬ、ぐぬぬ……!」 凄まじい屈辱に顔を真赤にする芝村。お陰で更に作業工程が乱れる。

 

「あ、あの、わたくしには剣が有りますので……」 何とか逃げようとする壬生屋。

 

「そりゃ、剣が有れば護身は出来るだろうけどさ。銃使えば遠い味方も助けられるじゃない?」 

 

「そ、それはそうですが……」

 

 抵抗を正論で封殺する猫宮。

 

「あ~! なんやねん、ウチ事務官やのに!」 音を上げる加藤。

 

「ゴブリンなんて前線だろうが後方だろうが何処にでも現れるんだから、ラインかテクノとか関係なし!」

 

「うぐっ……」 加藤の文句も封殺する猫宮。

 

 普段はニコニコしてたり穏やかだったりする猫宮ではあるが、本日は至って真面目な表情である。時々こうして雰囲気を変えるが、それは何時も命にかかわるような真面目な時だった。周りのメンバーも薄々と感じ取ってるのか、泣き言や文句等もコミュニケーションの潤滑油程度ですぐに収まった。

 

 

 分解整備が終わると、いよいよ射撃訓練である。こちらは、パイロット組は大体が良い成績を残した。それぞれ勘が良いのか、マガジンを幾つか使うと動作が手馴れてきた。壬生屋も、武器として銃を使う事自体はそこまで苦手では無いようである。

 なお、このパイロット組の中でも一番成績が振るわなかったのは芝村であった。狙いを付ける勘は良いのだが、やはり単純な腕力の少なさが響いた。サブマシンガンは弾をばらまく武器なので、連射をする必要がある。だが、芝村はその制御に一番苦戦をした。

 

「こ、このような屈辱……いかほど以来であるだろうか……!」 

 

 悔しさにわなわなと震える芝村。スコアがパイロット組最下位である。加藤や石津より高かったことなど、何の慰めにもならなかった。

 

「ま、まあまあ誰にでも得手不得手は有るし……」 

 

 何とかなだめようとする手下一号。だがその努力を無に帰そうとする二人が居た。

 

「そーそー、誰にでも苦手なものはあるって、な!」 弱点を知れて嬉しそうな滝川。

 

「そうですね、うふふ」 顔をほころばせる壬生屋。

 

「くっ……!芝村は敗北したままでは終わらぬ! 今に見てるがよい、すぐに貴様らを追い抜いてやる……!」

 

「……訓練時期、間違えたかなぁ」 

 

 猫宮は、そう呟くと遠い目をして空を仰いだ。3月の空は、爽やかだった。

 

 

 

 訓練終了後、猫宮は市街を歩いていた。恰好も雰囲気も普通の学生とそう変わらないが、ちょくちょくと学兵や憲兵に挨拶をされた。ここ最近、猫宮はこの街でどんどんと有名になっていった。右に事件があれば駆けつけて鎮圧し、左に困った学兵がいれば首を突っ込んであれこれ世話を焼いた。裏マーケットでは時々、自衛軍相手にガンスミスのような真似までしていた。自衛軍とは言え、今は再編中である。熊本にも自衛軍の新兵は幾らか配置されていたのだ。

 そうして猫宮は、沢山の知り合いを作っていた。連絡先を集め、猫宮の知り合い同士を繋ぎ、物資の交換や融通、虐めに遭遇した学兵の転属、隊が全滅した学兵の斡旋や保護など、ひっきりなしに連絡をしては世話を焼いていた。

 情けは人の為ならず。その言葉の意味を猫宮が実感するのはもう少し先の話。

 

 

 次の日、地獄の二十キロ行軍には今度は全員参加をしていた。食料も物資も揃えてもらったので、そろそろ隊員との交流をとの善行の判断である。ついでに猫宮が増やした行軍時に持つサブマシンガンとハンドガンの分を肩代わりさせるつもりでもあったが。が、その目論見は意外なところから外れることになる。

 

「それにしても、馬並みの馬力だな」 呆れるのは瀬戸口だ。

 

「なんかパワフルになった感じですよね。どうしちゃったんだろ?」 首を傾げるのは速水である。

 

「いいことでもあったんでしょ」 とは猫宮の言だ。どこと無く、表情が良くない。

 

 地獄の二十キロ行軍、滝川はやけに張り切っていた。装備の重さも無視して、落伍仕掛けた石津・加藤の装備を引き受けて、アニメの主題歌を行軍歌代わりにずんずん進んでいく。

 そんな滝川を、皆は感心半分呆れ半分で見守っているのだった。

 

「わはは! 良い汗かいた!」

 

 若宮流の豪傑笑いをする滝川を、女子たちはこわごわと避けていった。

 

「ご機嫌だね、滝川」

 

「すっかり無敵モードだね」

 

 両脇に座る速水と猫宮。滝川が上機嫌だと、速水も気持ちが良くなった。

 

「へっへっへ、そう、ご機嫌。ドンウォーリー・ビーハッピー、イエッ、な無敵モードって感じね」

 

「聞いていいかな?」

 

 速水が遠慮がちに尋ねると、滝川はまたしても高笑いをあげた。善行が眼鏡を直し、首を傾けて遠ざかっていく。

 

「聞いて驚くな。この滝川陽平、暗い青春からおさらばしてついに女神様を見つけた!」

 

 滝川はラブコメから引っ張ってきたようなこっ恥ずかしいセリフを堂々と言い放った。恐れるものなど何もない感じだ。

 

『女神様?』 猫宮と速水の声が同時に響く。

 

「速水は知ってるだろ? 猫宮は知らないかな、ほら、戦車の広告に出てた人。味のれんで出会って、お近づきになったのだ。親友たちよ、俺の幸せを祈ってくれ、なんてな」

 

「そういうことか」

 

 速水は相槌を打ったが、どうも疑問だった。そんな滝川にそれは誤解だと話す。

 余程嬉しいのか滝川は二人に色々なことを話し、そして何処へと去っていった。速水は芝村へ報告に、猫宮はまたバイトだろうか。

 

 

それから更に数日後。夕刻から夜にかけ、東の空では砲声がこだました。猫宮は、祈っていた。知り合った戦友達の無事を。知り合わなかった戦士たちの無事を。これから数ヶ月で、民間人を含め230万もの人間がこの九州で死に行くのだ。一人でも多く救おうと足掻いたが、果たしてそれの効果は出ているだろうか。

 何処かで砲声が響く日を跨ぐ度に、連絡の取れない知り合いは増えていった。

 

 夜、砲声は収まっていた。後には街の残骸と兵器だったもの、そして物言わぬ人の肉だけが残る。死体の残らない、捕虜もいない戦争において、これが普通の光景だった。これは歴史のどうでもいい一ページ。特筆すべきこともなく、幻獣が現れてからずっと、日常的に続いている光景である。

 

 

 月明かりの下、ウォードレスを着た二人の姉妹と銀髪の少女が戦場跡を歩いていた。三人とも、歴戦の戦車乗りである。だが、今日は激戦であり被弾してしまったのだ。何とか死者は出なかったものの、回収されるまでは手持ち無沙汰である。

 だから、少し周囲を見て回ることにしたのだ。

 

 ふと、銀髪の少女が目を細めた。こんな戦場跡に、ウォードレスも着用せずに一人少年が立っていた。

 

「隊長、あそこに」

 

「む、下がってろ、みほ」

 

 銀髪の少女はウォードレスに装着していたポーチからハンドガンを取り出し、隊長と呼ばれた少女もそれに続いた。こんな所に無防備に居るなど、共生派でもおかしくはなかった。

 

「お姉ちゃん、エリカさん、あれ……」

 

「何か見えるのか?」

 

 みほと呼ばれた少女が指した方を二人は見た。よく見ると、少年の周りには猫が居た。犬も居た。イタチも居たしリスもモモンガも。近くの木にはツバメやカラスも止まっていた。

 

 月明かりの下、少年の周りに沢山の動物たちが集っていた。不思議と幻想的な光景にしばし、どうしたら良いかよく分からなくなる三人。

 逡巡してると、少年が歌い出した。

 

 猫宮は、祈りを捧げながら鎮魂歌を歌っていた。最後まで闘いぬいた戦士の魂が、世界に大切にされてきたもの達の想いが、光となって猫宮の周りを漂う。

 死してなお、世界を護るために力を貸そうと、想いを託そうとしていた。周りの動物たちは、一斉に月へと声を上げた。

 

 

 神話の世界に迷い込んでしまった三人は、知らず知らずのうちに涙を流していた。

 なぜだか、涙が出た。なぜだか知らなかったが、ありがたい気になったのだ。そして、今日ここで死していった戦士たちが救われた気がしたのだ。

 

 歌が終わると、少年は動物たちを引き連れて夜の闇へと消えていった。残された三人は、この時の体験を一生忘れなかった。

 

 

 数日後、滝川は授業をサボった。悲しみが心を満たしていた。少年の恋は、死によって引き裂かれた。号泣する滝川。そんな彼に、かけられる言葉を猫宮は持っていなかった。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話
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