ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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ちょっと論戦の所を修正。見返すと上から目線過ぎた……


士魂号到着!

 滝川が号泣した翌日、第62戦車学校が間借りしている尚敬高校の戦車シミュレータに、人型戦車用のソフトが入ってからパイロット候補生――速水、芝村、壬生屋、滝川、猫宮は夢中になってシミュレータに入り浸りとなった。

 パイロットとして育成されることを伝えられてきたが、今までやってきたのは殆ど座学や基礎訓練である。それが、ようやくパイロットとしての本分に触れられるのだ。全員が全員、やる気に満ちていた。また、パイロットとしての適性や潜在能力を問う意味もあったので、全員が様々なオプションを試していた。

 ただ、このシミュレーションは通常の戦車シミュレータに無理矢理人型のソフトをぶち込んだものなので、色々と不具合があった。特に、ゴブリン1体を轢いただけで動けなくなるなどシミュレータとしては論外である。なので、そのあたりの細々とした修正は猫宮が真っ先に行っていた。Yagami様々である。

 

 試行は多岐にわたった。複座型のパイロットを全ての組み合わせで試したり、全員が軽装甲または重装甲で出撃したりと。何度も繰り返す内に、複座型は芝村・速水ペアが担当するのが最善であると結論付けられた。勿論、彼らだけの約束事では有ったが、芝村の相棒を務めるのに最適なのは速水が一番であった。

 次点は猫宮で、彼は完全にオールマイティー型だった。誰と組み合わせてどのポジションに座らせても一定の戦果を上げられたが、やはり複座に限って言えば芝村・速水ペアが一番である。

 

 また、敵についても講義では味わえないリアル感が有り、中型幻獣の対処に全員が四苦八苦していた。勿論、猫宮は未来の確立された戦術を知っている。だが、今この段階では全員で考えぬいて結論を出すのが練度を高めるためにも考えさせるためにも一番いいとの結論を出したのだ。

 

 また、訓練後の検討会を欠かさず行い、時には善行や坂上を同伴して行ったり、歩兵の観点から見るために若宮や来栖にシミュレーションを見てもらったりした。

 

 問題となったのは、やはり滝川である。才能が無い訳ではない。だが、どうしてもその判断が遅れがちで軽装甲に載せるのは猫宮を除く三人が無謀だと感じていた。戦死率も、ダントツでトップである。

 

 数日に及ぶ訓練の後、検討会で芝村は熱弁を奮っていた。

 

「軽装甲は被弾すればすぐに戦闘不能になる。どころか、パイロットの安全も心もとない。絶対、被弾しないという自信があれば軽装甲を使用することも可だろう。しかしそんなパイロットはまずいない。被弾することを前提として、士魂号を運用するのが現実的というものだ」

 

「けどよ、俺は軽装甲が好きなんだよ」 

 

 と滝川。軽装甲をけなされたと思ったのか懸命に口を挟む。

 

「我々は幼稚園児ではないのだ。好き嫌いの次元で話をするな。私が思うに単座の重装甲三機に複座型一機が最良の編成だ。軽装甲は、戦車小隊ではなく、スカウトの隊に配属し、小型幻獣の掃討など、歩兵支援任務に当たらせるのがよいだろう」

 

 芝村は他のパイロットを挑発するように断定的に言った。楽しそうだ。しかし、速水と壬生屋は挑発に乗らず、黙ったままだ。自分たちが決めることではないと割り切っている。

 

「――10点、だね」 

 

 楽しそうな芝村に、猫宮がそう言った。何か言おうとした滝川があわあわと慌て、他の二人も凍りついた。

 

「――ほう、何故10点なのか理由を聞きたいものだな」

 

 挑発に乗られたことが嬉しいのか、論戦が出来ることが嬉しいのか、芝村はにやりと笑うと聞き返した。

 

「前半の編成の話だけなら60点はあげられたんだけどね。後半の配備の話でマイナス50点、かな。芝村さん、大事な視点が抜けてる」

 

 真面目な顔でそう返す猫宮。芝村はマイナス50点も付けられたことに少々ムッとして聞き返した。

 

「ほう、では何処が悪いのかご教授願おうか」

 

「コスト」

 

 芝村の問いに返した言葉は僅か三文字。だが言った瞬間、芝村は「しまった!?」というような表情に変わった。

 

「人型戦車のコストは恐ろしく高いよね? 普通の戦車とは比べ物にならないほどに。ついでに、武器も適してない。一番口径の小さい武装で20mmだからね。せめてキメラやナーガ辺りの掃除ならマイナスはかなり低くなったんだけど」

 

 悔しそうにする芝村。昔から、彼女は天才であり頭脳も知識量も大人顔負けであった。それに、周りは性格が最悪でも優秀な芝村一族である。大人から散々に嫌な性格で鍛えられもしてきたので、同年代の学生になど負けることはなかった。だから、同年代に論破されることに凄まじく慣れてないのである。

 

「そして前半は60点の理由。厄介な中型をピンポイントで狩れる複座型を敵中央部に運ぶにはそこそこ悪くない編成だから。ただ、重装甲三機が敵に突っ込んで被弾前提だと整備にかかる手間が凄まじくなっちゃうだろうけどね」

 

 悔しさを感じながらその中で、芝村は今言われた戦術論を必死に刻み込んでいた。ただ負けるだけでない所は間違いなくこの少女の美徳であり、強さでも有る。

 

「じゃ、じゃあ軽装甲でも活躍できるのか!?」

 

 芝村が言い負かされたことにより軽装甲に希望を見出した滝川。

 

「うん、活躍できると思う。実際に荒波千翼長って言う実例が有るしね。でも……」

 

「でも?」 首を傾げる滝川。

 

「やっぱりあの動きは相当な天才じゃないとねえ」 

 

「うむ、あれは天才中の天才故、な」

 

 猫宮の言葉に同意する芝村。滝川はがっかりした表情になる。頭の良い二人から否定されると、ダメな気がしてきたのだ。

 

「――だけど、軽装甲は他のどの機体より、人型戦車最強の武器と盾を使いこなせる可能性を秘めている。滝川でも、ね」

 

「ほ、ほんとか!? 最強の武器と盾って一体なんなんだよ猫宮!? 」

 

 一転して希望を与えられ食いつく滝川。何としても、軽装甲を乗りこなしたかったのだ。

 

「まずは人型戦車最強の盾。それは地形――」

 

「ち、地形……?」

 

 よく分かっていない滝川。だが、他の三人は表情がどんどんと真剣になる。一言一句聞き逃せない気がしたのだ。

 

「人型戦車は立てば高さは9m。だけど、普通の戦車と違ってかがむことも伏せることも出来る。だから、その辺の家が盾となり障害物となり、敵のレーザーや生体ミサイルから避けることが出来るし、好きな時に顔を出して攻撃もできる。まあつまり、重装甲型以上の装甲がその辺に転がってるのと同じだね」

 

 猫宮は四人に注目され、同時に疑問も持たれていた。何でこんなに詳しいのだろうと――。しかし、怪しまれるリスクを考慮しても、出し惜しみを避けることにした。史実と違い今度は四機――。初めからより危険な戦区へ回される可能性も有った。滝川と壬生屋は初陣で凄まじい失態を見せたが、あれは人型戦車乗りでなかったら死んでいてもおかしくない失態である。精神的な成長を多少阻害する危惧はあったが、それでも安全を取ることにした。

 

「建物だけじゃない。河川敷の斜面とか小高い丘、森みたいな地形もね。特に中型幻獣って、山岳地帯とかが凄く苦手みたいだし」

 

 反論や質問もなく、一言一句に聞き入る一同。猫宮は更に続ける。

 

「そして、最強の武器はその機動力だね。戦車には出来ない移動――ジャンプして建物を超えたりビルの上に登ったり荒れ地を踏破したり林や森に分け入ったり。奇襲、追撃、逃走、おびき寄せと取れる移動オプションがとても多い。流石にヘリには負けるけど、代わりにあっちは一発当たったら終わり、それに地形も凄く使いにくいしね」

 

「え、えっと、じゃあ軽装甲が一番使いこなせるって言うのは……?」 滝川が更に質問する。

 

「軽装甲は一番移動速度が早い。だから、地形と機動力を、もっとも早く選んで使えるんだ」

 

 滝川は頭が良くない。だが、その頭で必死に消化して飲み込もうとしていた。他の三人もそれぞれ、頭のなかで必死に戦術を組み立てていた。

 

「――ふむ。猫宮、そなた、一度指揮を取ってみるか?」

 

 しばし考え込んでいた芝村がそう言った。

 

「うん、良いかもしれないね」

 

「私も賛成いたします」

 

「俺も。猫宮、指示してくれよ」

 

 他三人も同様に賛成する。それぞれ四人が、猫宮の戦術論に何かを感じ取っていた。

 

「――了解。じゃあ、またシミュレーション、行ってみようか」

 

 頷く猫宮。こうして五人は、またシミュレーションへと入っていった。

 

 編成は一番機:壬生屋。武装は超高度大太刀二本。

    二番機:滝川。武装はジャイアントバズーカ三本・ジャイアントアサルト。

    三番機:速水・芝村。武装はジャベリンミサイル・ジャイアントアサルト。

    四番機:猫宮。武装は超高度大太刀・92mmライフル・ジャイアントアサルト。

 

 

 

「距離2000にゴルゴーン3体。丸見えだね。滝川、お願い。撃ったらすぐに次へ移動してね。壬生屋さんは砲撃が届かない西のミノタウロスを。後は自分が牽制するから、複座は中央に突っ込んでミサイルで」

 

「了解……、うし、命中!」

 

 猫宮の指示に従い、滝川がゴルゴーンへとジャイアントバズーカを放つ。単発式なので狙いは慎重につけ、見事に命中。思わずガッツポーズをする滝川。

 

「滝川、浮かれている暇は無いぞ。次だ」 

 

「わ、分かってるよ!」 芝村に言われ慌てて場所を変えた。次のバズーカに持ち帰ると、再び狙う。

 

 一方西側では、ミノタウロスを全面に控えてナーガが取り囲んでいた。レーザーを屈折させるため、煙幕弾頭を打ち込む猫宮。そこに壬生屋の重装甲が突進した。

 

「参ります!」 

 

 スモークでナーガのレーザーを屈折させ、その隙にミノタウロスに一閃、撃破する。後は、スモークが効いている内にナーガを殲滅するだけだ。

 

 猫宮はスモークを撃ち終わると、92mmライフルへと持ち替えた。ゴルゴーンの砲撃範囲内のキメラやミノタウロス等に砲撃を加えていく。複座型は、ジャイアントアサルトでそれを援護するが、猫宮は慌てて建物の影に入った。まだ生き残っていたゴルゴーンからの砲撃である。

 

「うわっち!? 滝川、早いとこよろしく!」

 

「わかってるって! へへっ、今片付けてやるから!」

 

 バズーカを持ち替えて三発目。最後のゴルゴーンを片付けてバズーカを捨て、ジャイアントアサルトに持ち替える。そして、敵の外周部付近の建物へと走り出す。

 

 砲撃が止むと、猫宮は射撃を再開する。狙うは中央部への道を阻む中型だ。射線の通っている敵を潰し、脇が高い建物で囲まれている大通りががら空きになった。

 

「三番機!今!」

 

「了解!芝村さん、ロックを!」

 

「任せておけ、すぐに終わる」

 

 三番機が大通りを走りながら、敵をロックする。芝村により驚異的な速さでロックが終わると、24発のジャベリンミサイルが敵中型に寸分違わず突き刺さる。爆発し、撤退を始める幻獣たち。そこへ先回りしていた滝川の射撃が襲いかかり、他三人も追撃へと参加する。

 後に善行が内容を見て絶句したほどの速さと戦果である。

 

 

 消耗しつつも、満足そうに息を整えて出てくる五人。猫宮を除く四人は、あまりにもしっくりと自分に合うような気がする戦術に軽い混乱をも覚えていたかもしれない。未来の自分が使っていた戦術である。それぞれ四人の中に、明確なビジョンが生まれつつあった。

 

 

 検討会の時、また真っ先に芝村が口を開いた。

 

「――時に猫宮よ。そなたはやや敵中より引いた位置に居るな。速水と同じで積極性が足りないのではないか?」

 

「ええ、怯えや恐れとはやや違うんですが――積極性はやはり足りない気はします」

 

 壬生屋も同意した。口には出さないが、速水も感じていた点である。もう少し踏み込める――と何となくそう思えるのだ。

 

「えーと、皆をフォロー出来る位置に陣取っているから……かな?」

 

「フォロー?」 

 

「フォローですか?」

 

 全員の頭に疑問符が浮く。

 

「詳しく説明を」 芝村が続きを促した。

 

「人型戦車って、稼働率が低い機体だよね。だから、何時不具合を起こすか分からない。それに、人は絶対にミスをする生き物だから。絶対にミスをしない想定ってのは、何かが起きると脆いんだ。だから、誰がミスや事故を起こしても対処できるような位置や立ち回りをしているんだ」

 

 考えこむ全員。

 

「し、しかし戦果は下がってしまうのでは……」 壬生屋が疑問を呈する。

 

「例えば1%の危険を犯して行動したとする。確率はたった1%だけど幻獣の数は膨大。だから、その1%を試す回数はとても多くなる。1%の確率を100回試せば63%は事故が起きる――」

 

 よく分かってないけど頑張って理解しようとする滝川。うんうん唸っている姿に苦笑して猫宮は続けた。

 

「えーと、だからまあ、事故にあう確率を限りなく減らして敵を多く倒そうってこと。20体の敵を無理に倒すより、15体の敵を安全に倒し続けて戦果を上げよう――って事かな。途中で死んじゃったら、今までの訓練も全部無駄になるし敵を倒せなくなるしね」

 

 頷く芝村と、いまいち納得しきれてない他三人。

 

「例えて言うならそうだなあ――百メートル走は凄く早く走れるけどすぐに疲れる。でもマラソンの速さなら40キロ以上も走れるとか。そんな感じ」

 

 この例えを出されて、成る程と頷く三人。そのような例えを出せば良いのかと学習する芝村。

 

「まあ、後は情けない理由なんだけど……」 

 

『だけど?』 重なる四人の声。

 

「戦闘しながら指揮するのに、やっぱりある程度の余裕は欲しくて」

 

 ああ、と納得する芝村以外の三人。だが、芝村は問題が有るならそこを改良しようとした。

 

「ふむ、つまり猫宮を更に戦地の奥へと呼びこむには、我らが自己判断を向上させれば良いということだな」

 

「まあ、そんな感じかな?」 頷く猫宮。

 

 

 と、議論が白熱していたがそこへ加藤が「まいど」と入ってきた。

 

「みんなご苦労さん。毎日毎日、凄い真剣やねえ」

 

 加藤は感心してそう言った。毎日毎日ぶっ続けである。よくもまあ出来るものだと感心していた。

 

「加藤さん、事務講習の方はどう?」

 

 速水が素早くジャスミン入りの紅茶を差し出す。

 

「ぼちぼちやな。そんなことより、大、大、大ニュースや! ええい、持ってけドロボー、特別にタダで教えたるっ!」

 

 加藤のハイテンションに、パイロットたちはまたかという顔になった。猫宮だけは加藤が明るい真意を知っているので笑顔であるが。

 

「……ど、どうしたの?」

 

 しぶしぶと速水が尋ねる。

 

「ふっふっふ、聞いて驚くな。……士魂号が来たんよ!」

 

「ええっ!」 五人が同時に声を上げた。

 

「裏庭はなんや凄いことになっとる。――って、行ってしもうた。くすん、寂しいわ」

 

 取り残された加藤は、ため息を付いて紅茶をすすった。

 

 

 

 グラウンドへ行くと、工兵隊が突貫作業を行っていた。みるみる四体の士魂号の周りに足場が組まれ、その周りをテントが囲っていく。嵐のような作業場の雰囲気に全員がこわごわと見守っていたが、僅か一時間程で整備テントが組み立てられた。関係者だけとなり、人口密度の減ったテントには四体の士魂号が鎮守していた。

 

 全員が、それぞれの想いを胸に士魂号を見上げる。

 

「すげー、これが士魂号か」 見上げながら感極まる滝川。

 

「複座に重装甲に通常型に軽装甲か。これが我らの剣であり盾だ」

 

 芝村の声も、抑えているようだが声が弾んでいる。

 

「……これにわたくしたち、乗るのですね! なんだか武者震いがします」

 

 壬生屋も息を呑んで士魂号を見上げている。

 

「――これが、士魂号。第5世界、最強の兵器――」 

 

 そう呟く猫宮。ここから、始まる。そう思うと、未来の愛機になるであろう、通常型を見上げた。

 3月中旬。もうすぐ桜の咲く季節であった。

 

 

 

 

 

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