ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

21 / 100
遅くなって本当に申し訳ございません……。
もしよろしければ、また見ていただけると幸いです

*2018/04/13 改稿


episode TWO
改変の波紋を広げていく


「一に隠れて二で撃って。三、四が無くて五に移動。隠れて撃って移動して、隠れて撃って移動して。戦場では『カバー命!』 これを徹底すれば生き残れるよ~!」

 

「くっ……」

 

「だ、大丈夫、芝村さん……?」

 

「も、問題無い。私に気にせずに続けよ」

 

 4機の士魂号が瓦礫から瓦礫へ、窪地からビルへ、丘から家の陰へ。せわしなく動き続けている。緩急の激しい動きに、芝村は胃がひっくり返りそうになりつつも、標的をロックし続ける。

 

 第62戦車学校の一同は、演習場にて4機の士魂号で訓練を行っていた。朝も早くから出動し、様々な戦場が再現された演習場で、まず猫宮が徹底して行わせたのが移動・展開の訓練である。

 兎に角、移動してから撃つ、の動きを徹底的に反復させ、常に何かしらの遮蔽物の近くへ居ることを徹底させた。人型兵器は被弾面積が通常兵器に較べて遥かに大きいため、被弾リスクを出来得る限り下げる訓練である。最も、これまでシミュレーターでも散々に訓練を行っていたため、今はどちらかと言うとシミュレーターの経験を実機にすりあわせているような状態だ。やはり、機体のGの有無は大きい。

 だが、戸惑うよりも先に全員が実機で思う存分に動かせ、発砲も出来るという状況に気分が高揚していた。

 

「へへっ、ジャイアントアサルト、随分と当たるようになってきたぜ」

 

「ふむ、あの類人猿も中々にやるな」

 

 射撃訓練に精を出す2,3,4号機。それに比べて、1号機の動きはやや精彩を欠いていた。

 

「ええと――こうでもなく――」

 

 2刀の超高度大太刀を振るい、イメージ上の幻獣に必死に剣を振るっているが、やはりイメージ上にしても戦場の標的にしても本物ではない。ダミーバルーンなどすぐに穴が空く。それに実戦経験も無いので、壬生屋の動きにはその迷いや戸惑いが顕著に現れていた。

 

「壬生屋さん、ずっと悩んでいるみたいだね……」

 

「射撃じゃなくて白兵戦だからね。士魂号同士でチャンバラやって練習するわけにもいかないし、お手本になるような教本も殆ど無いし、こればっかりは実戦で掴むしか無いかも?」

 

 速水の心配に猫宮が答えた。史実では、壬生屋と速水は戦場の経験を積むことで急激にその実力を伸ばしていったのだ。だから、猫宮はその成長を助長させる仕込みを色々と入れるつもりだった。それに、初戦で死なないようにとの想いもある。

 

「しっかし、猫宮は92mmライフル上手く当てるよなぁ。何かコツとかあんの?」

 

「あ、それは僕も気になる」

 

 反動の大きい92mmライフルの扱いに四苦八苦する二人が聞いてきた。

 

「射撃の反動を上手く逃すのがコツだね。機体全体で上手くバランス取って、連射はしないように。初めは伏せたり地形に当てたりして安定させるのがいいかもね」

 

「こ、こうか?」 「こ、こう?」

 

 見よう見まねで窪地から92mmライフルを出して狙う2号機と3号機。慎重にロックをした後に連続して発砲、見事に複数の的に命中する。

 

「よっしゃ!」 「やった!」

 

「命中率を上げる基本は歩兵と変わらんな」

 

 喜ぶ速水や滝川を尻目に、冷静に命中率や反動を比べている芝村。

 

「まあ、『人型』戦車だしね。ただ、こうやって良いポジション確保に苦労した後は、ついついそこにこだわっちゃうんだけど」

 

「ふむ? 心理的なものか」

 

「そう、苦労して確保した地点は、今までの苦労に報いたくて固執してしまう。一方的に狙い撃てる地点は、その美味しさがあるから何処までもいたくなる」

 

 美味い位置だからと長時間粘っているスナイパーはFPSでもいい的である。

 

「それは注意せねばなるまいな」 

 

 頷く芝村。戦闘に慣れない内はほぼ間違いなくそういう事態に陥るだろうと想像できるので、猫宮としても初期の内は他三機の動きには特に注視するつもりだ。くどいようだが原作で本田もチュートリアルで言っていた通り、基本戦場では止まるな、である。

 

 

 

 

「では、そろそろ時間ですので、皆さんは訓練を終了してください」

 

 士魂号に乗って3時間は経った所で善行の声が響いた。

 

「あ、あの、もう少し動かしたいのですが……」

 

「もう予定より1時間も過ぎていますよ、休憩し問題点を洗い出すことも大事な訓練です」

 

「あ、はい、了解です……」

 

 もう少しと粘ろうとした壬生屋に、善行が穏やかな声で諭す。そうすると、他からも安堵の声が上がった。

 

「ふぇ~、今日も一杯訓練した!っと」

 

「うん、大分動き慣れてきた感じがするよ」

 

「まだ終わりではないぞ、善行の言った通り、検討会もきちんと行うので覚悟しておけ」

 

 浮かれる二人に釘を刺す芝村。百翼長で上官であるので、憎まれ役も仕事の内だ。

 

「わ、分かってるって。じゃ、帰ろうぜ!」

 

 それぞれが装備していた武器をコンテナトラックに積み込み、指揮車を先頭にゆっくりと尚敬高へと歩き出す。行きも帰りも、この4機の巨人は何処でも注目の的だった。それだけなら仕方が無いのだが、オペレーターの独特のトークが変な注意を引き、おまけに今回は残りの整備班も合流して道路で立ち往生。更に衆目を集めてしまった。交通誘導小隊の目も痛い。溜息をつきつつ、相変わらず善行はどうしたものかと頭を悩ませるのであった。

 

 

 さて、尚敬高へと帰った後、チョコの奪い合いと言う微笑ましい青春の光景が発生したが、すぐに収められ、パイロット5人に善行を含めた検討会が行われた。紅茶とクッキーの香りを漂わせた室内で、芝村が真っ先に口を開いた。

 

「現時点での我々の機体運用に関して、率直な意見を聞かせて欲しいのだ」

 

 善行は眼鏡を押し上げると、微笑して静かに話し始めた。

 

「……訓練時間から考えると、あなたたちの機体運用は驚異的と言っていいほどに成熟してきています。無駄な動きも日毎に少なくなっていく……正直、空恐ろしさすら感じます」

 

 善行の言葉に、気を良くする速水、滝川。しかし、壬生屋は複雑な表情だ。

 

「あ、あの、私はまだ、あまり……古流の剣術の鎧断ちを再現しようとしているのですが、中々……」

 

 おずおずと言葉を紡ぐ壬生屋に、善行はまた優しく語りかけた。

 

「いえ、士魂号での近接戦闘はまだ殆ど確立されていません。幸い、あなたは古流剣術の覚えがあり、また超硬度大太刀を使う意志があります、この調子で頑張ってください」

 

「は、はいっ!」 

 

 どうやらこの調子なら大丈夫そうだと、善行は壬生屋の様子に満足を覚えた。情緒不安定な所もだんだんと落ち着いてきて、そして自分の成すべき事も分かっている。あの幻獣たちに白兵戦を挑むその精神力は特筆すべき者だ。

 

「ふむ、壬生屋も己のスタイルが確立しつつ有るな」 芝村も満足そうに頷いた。

 

「スタイルって言えば……猫宮は一番そういうのしっかりしてそうだよな」

 

 ふと、滝川がそんな事を言うと全員の目が一斉に猫宮に向く。何だかんだで、皆気になっていたようだ。

 

「自分のスタイル?それは、戦場の全てを有効活用すること、かな?」

 

『全てを?』 猫宮が答えると、数人の声が重なった。

 

「そう、地形から味方の戦力から、敵の配置による移動遅延まで……全部を利用して、戦局を有利にする――って感じ」

 

 真面目な表情をして応える猫宮に、芝村や善行は今までのシミュレーションを思い出して深く頷いた。

 

「なるほど。では、猫宮君はその調子でお願いします。他の皆さんも、是非スタイルを見つけて行って下さい」

 

 そう言った善行の表情には、笑みが浮かんでいた。全員が、シミュレーターに乗ってからと言うもの驚異的な速度で成長している。もう少し時間を稼げば、全員無事に返せるかもしれない。そう思うと、あれこれ時間を稼ぐための算段を脳内で立て始めた。

 

「えっと……委員長、僕の独自のスタイルってなんでしょう……?」

 

 と、そこへ速水が不安そうにおずおずと聞いてきた。滝川もそれに続いて、すがりつくような目線を善行へ飛ばす。

 

「他人から教えられて、はいそうですかでは、独自のスタイルとはいえないでしょう。可能なかぎり演習場を使用できるように手配をするので、一刻もはやく見つけて下さい」

 

 と言い残して、善行は食堂を後にした。

 

 善行の後ろ姿を見送って、芝村は二度三度、大きく頷いた。

 

「ふむ、善行の言うことは正しい」

 

「けどさ、僕、自分のスタイルって分からないんだよ。猫宮はその辺り、しっかり分かってるみたいだけどさ」

 

 速水が戸惑いがちに言った。誰にも頼らず生きるのがスタイルだったとはいえ、それが最近変わってきたような気がするし、士魂号の戦闘には関係ないだろう。……と思っていたら、芝村の表情が見る間に険しくなっていく。

 

「まあ、訓練初めてそんなに経って無いし、速水も滝川もいきなり答えを出すのは難しいでしょ」 

 

 と、速水が慌てて言い繕おうとした時にやんわりと猫宮がフォローを入れる。

 

「そうそう、そんな事言うなら芝村はどうなんだよ?」 そこに滝川も追従した。

 

 むっ、と逆に自分が問われたので、何時も通りの自信に満ちた表情で

 

「ならば言おう。わたしのスタイルはどんな状況であろうと生き残って、敵に出血を強い続けることだ。そう決めた。そなた達も念頭に置いて欲しい」

 

 芝村は周りを睨むように見渡した。それをそれぞれ受け止める他のメンバーたち。

 

「それって具体的じゃないよ」

 

「わたしとそなたで具体的にするのだ。時間はまだあるぞ」

 

 そう言うと、芝村と速水は二人でまたシミュlレーションを開始した。

 

 

「二人共熱心だね。それじゃ、自分もこれで!」 そう言うと、猫宮も食堂を後にする。

 

「では、私も……」 壬生屋も同じく後にして、滝川も黙って後にした。

 

 

 

 

 夕刻、日が傾いている中、遠坂が屋上で干していた布団を取り込んでいた。そこに、やってくる猫宮。

 

「や、手伝おうか?」 片手を上げて挨拶する猫宮。

 

「いえ、趣味ですのでお構い無く……。あなたは確か、猫宮さんでしたね」

 

 猫宮の方を向いて、微笑みつつ挨拶を交わす遠坂。品の良さが全身から滲み出ていた。

 

「うん、猫宮悠輝だよ、よろしくね」 そう言えって微笑むと、遠坂が取り込むまで待つ猫宮。

 

「お待たせいたしました。さて、わたしに何か御用ですかな?」

 

 綺麗に畳まれた布団を整備員詰め所へ運びながら、遠坂が答える。

 

「うん、ちょっと儲け話を」 

 

 猫宮がそう言うと、遠坂の表情がとたんに険しくなる。こういう手合は、それこそ掃いて捨てるほどによって来ていた。ここでもまたそういう輩が来るのか――と思わず腹が立つ遠坂。

 

「あ、怪しい話じゃなくて、現物はちゃんと有るんだ――」 

 

 そう言うと、起動してあった整備員詰め所のPCから、一つのソフトを立ち上げる。それは――今で言う、Tower Defense と呼ばれるジャンルのソフト――。

 それが、塹壕と建物と、相手を幻獣にしたシミュレーションソフトとして立ち上がる。思わず、遠坂は画面に齧りついた。

 

「ほら、鉄条網から塹壕の深さ、規模、兵の練度から装備に至るまでいろいろと変えられる――」

 

 それは、場所に合わせた歩兵たちが生き残るためのシミュレーションソフト。

 

「――私に、これをどうしろと――?」 思わず息を呑みつつ、遠坂が聞いた。

 

「儲け話って言ったでしょ?軍に納入すると――これ、かなり儲かるよね?」

 

 そう、猫宮が微笑みつつ、更に携帯端末を出す。そこにインストールされたのは、LINEやカカオと呼ばれるような、現代のSNSツール。また、遠坂が食いついた。

 

「――貴方の目的は、何ですか……?」 

 

 どう反応したらいいかわからない、複雑な表情で遠坂が聞く。

 

「この戦争で、ひとりでも多くの人間を生き残らせること。そのために、こういう端末や、ソフトを、一つでも多くの部隊に広めたいんだ。だから、利益と引き換えに――力を貸して欲しい」

 

 そう言って、猫宮は深々と頭を下げた。その姿に、衝撃を受ける遠坂。しかし、やや時間を置いて、微笑んだ。

 

「利益が出ると有っては、私も商人です。お受けしない理由がありません。――その話……お受けしましょう」

 

 出会ったばかりの人間が持ってきた新基軸のソフトの話。何もかもが眉唾物だが、頭を下げる目の前の人間に、遠坂は他の人間とは違うものを感じた気がしたのだ。

 

 運命の改変は、ここから更に広がって行く。

 

 

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。