ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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みんなで生き延びるために

「えー、そんな訳で補強材が足りない場合の塹壕の作り方は――」

 

 昼前、猫宮、若宮、来須の3名は演習場で大勢の学兵たちの前でボードやパソコンを使い、塹壕戦の戦い方を教えていた。ここに来れなかったメンバーには、端末で写真やら音声やらも送ってあるし、授業のように撮影もしていた。

 遠坂と契約して以来、遠坂財閥に多数の有用な様々なソフトと引き換えに、猫宮は大量の端末などを手に入れ、それを知り合った学兵のグループに配っていた。そうやって、配った端末で各々が戦場でのことを報告したり、アドバイスを受け取ったりと様々に情報交換をして、生存率をあげていたのだが――やはり、学兵たちだけでは限界があった。

 

 というわけで、猫宮が実際に場所を借りて講習会を行うことにしたのであるが、そこに若宮と来須もついてきたのだ。若宮がついてきた理由は、かつての女子グループの連絡であり、来須はそんな様子に興味を持ってついてきたというわけだ。元々、ひな鳥を守るという理由で5121小隊に来た男でも有る。やはり、新兵は気になるのだろう。

 

 

「ほらそこっ! 土の盛りと固め方が甘い! そんなことじゃすぐに吹き飛ばされるぞ!」

 

 若宮はノリノリだ。昔から新兵を扱く教官役をしてきたことも有り、やはりはまり役だ。来須はその横で、口数少なく、黙々と手直しをしている。

 見れば若い男女の集団であり、またガラの悪い連中も多かったが、それでもこの教官役3人には素直に従っている。やはり、彼らも兵である。実力がある人間が分かるのだ。呼吸をするように軍規を守る生粋の歩兵である若宮、プロパガンダ映画から抜け出してきたかのような存在感を持つ来須、そして得体のしれないながらも驚くほどの実力と知識を持つ猫宮。この3人のいうことを聞けば、少なくとも生き残る確率は上がる――皆そう思っているのだ。

 

 基本的な塹壕の作り方に、ケース別の機銃などの配置の仕方、そしてベテランが知っている幻獣の殺し方や習性などなど……。多数の知識が集まり、集合知を作り上げていく。様々な戦場から知識が集まり、集約される。今まで軍なら当たり前に出来ていたが、学兵故に出来なかったこと……これが、どんどんと改善されようとしていた。

 

 

「おおい、猫宮君、昼飯が出来たばいね!」

 

「あ、はい、了解です。じゃあ、皆一旦休憩、お昼にしよう!」

 

『はいっ!』 一斉に歓声が上がる。

 

 そう、端末を届けたのは何も学兵たちだけでなく、裏マーケットの親父やら農村に漁村の人々、後は商店街の人々――など、他にも様々な人に配っていたのだ。そして、今日の訓練を聞きつけた農家や漁村の人たちが、炊き出しを申し出てくれたのだ。美味い飯にたっぷりとありつけるなら、やはり皆の気合の入りようも更に良くなる。

 猫宮も、丁重に下ごしらえされた野菜と魚のスープに舌鼓をうち、蒸かしたじゃがいもをもりもりとかきこんだ。

 

「やれやれ、本当に新兵の教育がなっとらんな……」

 

「――歩兵は損耗が多い。学兵なら尚更だ。そういうものだ」

 

 猫宮の左右に、若宮と来須がやってきた。二人共、猫宮に負けず劣らず山盛りである。

 

「で、様子はどうですか?」

 

「お前の用意してくれた端末やソフトのお陰もあって、やはりよく進むな――あれは新兵教育に良いぞ」

 

 若宮がそう言うと、来須も頷いた。

 

「そうですか、それは良かった」 猫宮もほっと一安心といった表情で笑っている。

 

「しかしまあ、良くもこんなに集めたもんだ」 

 

 若宮が呆れながら言った。3桁に軽く届く人間が集まり、更にその集まった人間もそれぞれに教えるのだ。その影響はかなりの人数になるだろう。

 

「ああ、街をうろついていると、どうも知り合いが増えちゃて」 猫宮が苦笑しながら言う。

 

「で、あちこちに首を突っ込んだり人助けをしたりか……。この間の助けた子も言っていたぞ、『あちこちで猫宮さんに助けられた人がいる』って。全く」

 

 そう言うが、若宮の表情は満更でもなさそうだ。来須も口をほころばせている。

 

「ああ、津田優里さんですか、あの人、あれ以来よく手伝ってくれるんですよね」

 

 オートバイ小隊のあの助けた子だ。オートバイ小隊だけにあちこちに顔が出せるのだろう。話を広めたり、スケジュールの予定を立ててくれたり、場所を借りてくれたり、秘書のようなことををしてくれている。曰く、自分たちのような人を少しでも少なくしたいらしい。

 

「その御蔭で俺も女性からの連絡が増えてな。最も、男からも増えているんだが」 

 

 端末を使い、戦場の写真や塹壕の写真を送って添削したりアドバイスしたりといったこともだんだんと増えてきた。

 

「あははっ、でも若宮さん、そうやって助けてるとその内きっと彼女が出来ますよ」

 

「そ、そうかあ?」 照れ気味に頭をかく若宮。来須もその横で頷いた。

 

 

「あっ、猫宮さん、皆そろそろ食べ終わりましたっ!」

 

「あ、津田さん了解、じゃあ次は銃器の講習に移るよ」

 

「はいっ! 了解です!」

 

 

 昼食の後は、腹ごなしも兼ねて銃器の扱いだ。整備から撃ち方の姿勢から、また基本的なことを叩き込み直す。来須や若宮だけでは足りないので、銃器に慣れたメンバーも教える側に回って、それぞれを見ていた。

 その間猫宮は何をやっているかというと、学兵では手におえないような損傷を受けた銃器の整備である。戦場で壊れたり、あちこちボロくなった銃器を持ち込ませ、それを猫宮が直して足りないところに配るのだ。知識を教えるだけでなく、こうして銃器や弾薬、その他食料雑貨品など足りない物の融通をしあう―― 一種の互助会のような役割の会にまで膨れ上がっていた。

 物資を持ってくるときや、帰る時はそれぞれが出しあった車両で各地を回ったりもするのだ。

 

 こうした猫宮の草の根活動は――確かに、各地の死傷率の低下という形で現れていた。だが、それでも、やはり死者は出るのである。

 銃を手入れしながら、やはり猫宮は悲しく思うのだ――。

 

「……どうしたんですか? 猫宮さん?」

 

 そんな様子を見たのか、津田がアドバイスを切り上げてこちらへ来た。

 

「あ、うん、ちょっと、ね……」

 

 と言いつつも、その手の動きは全く澱みがない。この動きは、何時見ても凄い――そう津田は思っている。

 

「――大丈夫です。みんな、猫宮さんには感謝してますよ」

 

「……津田さん?」

 

「確かに、死んじゃたりするかもしれません。でも、それ以上に、沢山の人をきっと猫宮さんは救ってるんです。私達みたいに。だから、大丈夫です!」

 

 そう、津田は必死になって猫宮を元気づけようとした。しばしの後、くすっと笑う猫宮。何だか、少し心が軽くなった。

 

「うん、そうだね。だから、もっともっと助けられる人、増やさないと。だから、自分はもう大丈夫だから、津田さんも教える方に戻って、ね?」

 

「はい、了解です!」

 

 そう言うと、津田は笑って教えに戻っていった。そんな様子を見守る若宮と来須。

 

「まったく。戦場では、死は当たり前なんだがなぁ……」

 

「その当たり前が嫌なのだろう。だから、こんなことをする」

 

 来須が見渡してそう言った。みんな、生き延びるために、貪欲に知識を吸収しようとしていた。こんな光景を見てると、二人も、全員を生きて返したくなる。

 

「次も次も、そのまた次も助ける、か……」

 

「?」

 

「いや、猫宮が言っていたんだ。初めの一人を助けた時、な」

 

「そうか」

 

「……ま、付き合ってみるのも悪くないな。こうやって誰かを助ければ、どこかの戦線が楽になって5121も楽になる……」

 

「ふっ、気の長いことだ」 しかし、口元は笑っている。

 

 それは夢物語。しかし、そんな夢物語をこの二人も信じたくなった。こうした、一人から始まった些細な抵抗は――きっと、実を結ぶと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




津田優里:学兵という生き物 に登場した女の子。猫宮に体を売ってでも銃を手に入れようとした中々にアグレッシブな子。助けられて以来、自分もほかの人を助けようと猫宮を手伝う


Q:新兵の練度低すぎない?
A:決戦前夜やもう一つの撤退戦の描写を見る限り、本当に銃の撃ち方だけ教えて最前線って感じだったものだったのでこの様な描写に

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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