ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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撃墜数を下方修正。それでも多いのですが!


きっとこれは運命の出会い

「聞こえるか、猫宮? 日頃から何だかお嬢さんにモテそうなお前さんに更にいいニュースだ。お前さん、しばらく居残りだ。向久原方面に3キロ前進、友軍を支援してくれ。お相手は黒森峰女学園のお嬢さん方だ。どうやらそこの第3小隊が敵中に取り残されているらしい」

 

 瀬戸口の柔らかな声が猫宮のコックピットに響き渡る。本日の戦闘は敵が次々と現れて、まだ不得手な面もある他3機は漏れ無く被弾していた。元気なのは一番暴れまわっていたはずの4番機であった。

 

「自分だけ……で、取り残されている戦車小隊を救助と。責任重大ですね」

 

 ふむ、と付近の地形図を確認する。

 

 http://maps.gsi.go.jp/#15/32.667558/130.696492/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0l0u0f0

 

 左右が山の盆地、適度な遮蔽物も有り……。士魂号の戦闘にはピッタリの地形だ。ただ、通常の装輪戦車はあまり動きやすいとは言えないだろう。猫宮はそう分析すると、地形図を頭に叩き込んだ。

 

「そういうことだ。なるべく急いで欲しいとの連絡だ。旗色が相当悪いらしいし、なにせ、彼女たちは看板でもあるしな。ま、それにふさわしい見た目も実力も持ち合わせているけどな」

 

 日本中に放映されるプロパガンダの主役の部隊だ。練度も高いし、他よりも優先度は高いのだろう。

 

「後は俺と補給車1台も居残りだ。寂しくないぞ」

 

「ふふふふふ、黒森峰女学園の生徒さん達……良い、凄く良いぃいいいいい!」

 

「こらっ! バット! 落ち着くんだ!」 「あ、あの、えっと……」

 

 何やらテンションを上げてる連中もいる模様。田辺は思いっきり引いていたが。

 

 

「ははっ、了解です、じゃあ、弾薬補給した後飛ばしていきますよ!」

 

 手早く弾薬を補給した後、駆け抜けていく4号機。9mの巨人が駆け抜けていくさまは、どこか頼もしさを感じられるのだった。

 

 

 

「みほっ!どうやら増援が来るようだっ!」

 

「本当ですか、数はっ!?」

 

「それは……1機だとっ!? ふざけるなっ!?」

 

「そ、そんな、たった1機なんて……」

 

 そう言ってしまうのも無理は無いだろう。黒森峰戦車中隊の、西住みほが率いる第3小隊は、向久原で分断され、他の戦車随伴歩兵小隊と共に取り残されていた。そして、間の悪いことに弱点と見られたのかこの地に、中型幻獣が多数接近しているのだ。たった3輌の士魂号L型と、歩兵たちだけで止めきれるものでもなかった。

 

「しょ、小隊長、西から3機、きたかぜゾンビが!?」

 

「っ!?建物に突っ込んで下さい!早くっ!」

 

 きたかぜゾンビは、地上ユニットの天敵だ。みほの心に、更に絶望が広がる。もう、終わりなのだろうか――。きたかぜゾンビの銃口が一斉にこっちを向いた時、走馬灯が――

 

「っとと、たった1機でごめんなさいっと!」

 

 突然、3機のきたかぜゾンビが撃墜される。ふと、銃声がした方を見ると、山の上に巨大な銃を構えた巨人がそこに立っていた。

 

「え、えっと、ありがとうございます……あなたは?」

 

「5121小隊4号機パイロット、猫宮十翼長です、援軍に来ましたっ!」

 

 そう言うと、持っていた銃を入れ替え、巨大なライフルに入れ替えて遠くの敵を狙撃する。生体ミサイルを発射しようとしていたミノタウロスとゴルゴーンが爆発、回りの小型幻獣に強酸を撒き散らした。そしてまたジャイアントアサルトに持ち替えて、突撃する。

 ジャイアントアサルトを撃ちながら突撃してくる巨人に、敵の目が一斉に集まった。ミノタウロスやキメラ、ナーガ等の中型幻獣が一斉に4号機へと向かう。そして駆け抜ける最中、右手のグレネードランチャーで、拠点に殺到していた小型幻獣を何割か吹き飛ばした。

 

「突っ込んで囮になります! その隙に、L型で攻撃を!」

 

 すさまじい命中率で駆け抜けながら、要望を出す猫宮。

 

「っ! 了解です、全車輌、散開!」

 

 一方、西住みほも即座にその状況に対応した。厄介な中型はみんな横や後ろを向いている。その隙に、3輌の士魂号L型を三角形の形で配置。柔らかい横腹や後ろを、3門の120mm滑腔砲が食い破っていく。そして、小型幻獣の脅威が遠くに行った陣地も、少しずつ迫撃砲での砲撃を再開する。

 

 猫宮の、4番機の登場で、向久原の戦況が、息を吹き返してきた。

 そして、猫宮も西住みほの采配に舌を巻いていた。自分が敵を引き付けるごとに、有機的に陣形を変え、常に包囲しながら四方八方から攻撃を浴びせ続けている。共同戦果が、加速度的に増えていった。

 

 

「猫宮っ! 東方面からきたかぜゾンビが4機!」

 

「了解っ!」

 

 となると、優先するのは航空ユニットの撃墜である。きたかぜゾンビが近づくたびに、瀬戸口の報告を受け92mmライフルに持ち替え、遠距離から撃ち落としていく。そして、その隙だらけ(に見える)4番機を攻撃しようとする中型を、L型が襲う。

 この時、猫宮も、西住も、各々の小隊だけでは到底出しきれない戦果を叩き出し続けていた。

 

「西住さん、次ミノタウロス3体、お願い!」

 

「了解です、本車はそのまま、8号車、南へ回って、キメラを先に!」

 

 廻る、廻る、3輌の士魂号L型と1機の士魂号が、戦場を廻る。時に囮になり、時に囮として、幻獣を翻弄し続ける。

 陣地を使い、設置武器を使い、地形を使い、敵を使い、そして、味方を信頼する。

 

「なんだ、これは……」

 

 瀬戸口が、絶句した。戦場の所々で、万歳の叫び声が上がる。アレだけ自分たちを苦しめてきた、殺してきた幻獣が、一方的に殺戮されている。

 圧倒する。蹂躙する。突き崩す。叩き割る。この世の目に見える理不尽を一緒くたに叩き込んだかのようなこの戦場は、歩兵に希望と、安堵をもたらした。

 初めて、自分たちが人間でよかったと思えたのだ。この、恐るべき戦車隊を敵に回したのなら、確実な死が訪れると、そう確信する。

 

 そうした殺戮劇にも、やがて終わりが訪れる。付近の中型を集めて殲滅し続けたが故に、他の戦線が楽になり、他の黒森峰女の戦車6台を含めた援軍の到着により、幻獣側の戦線が崩壊、撤退を開始した。弾薬不足の為に超高度大太刀1本で追撃戦に更に参加する4号機に、そこかしこから歓声が上がる。

 

 黒森峰第3戦車小隊、撃墜数48。内、隊長車の撃墜数23。5121小隊4号機、撃墜数31。伝説は、ここより始まった。

 

 

 翌日、ホームルーム。善行が猫宮を除いた1組のメンバーの前で話し始める。

 

「昨日の戦闘の結果より、人型戦車と装輪式戦車の組み合わせで絶大な戦果をあげられる可能性が示唆されました。よって、これより黒森峰戦車中隊との合同訓練等が入るかと思われます」

 

「おおっ、あのかわいこちゃん達とですか、良いですねえ」 嬉しそうな瀬戸口、そしてそれにすぐさま「不潔です!」と言う壬生屋。まあいつもの光景だろう。

 

「……昨日の、すごかったよね」

 

「ああ、凄まじい、可能性であった」

 

「囮なら、俺も役に立てるかな……?」

 

「私も、前線での立ち回りなら……」

 

 それぞれが、昨日の戦闘で何かを感じ取っていた。

 

「あ、あの、委員長、ところで猫宮は何処に……?」 と、滝川が質問をする。

 

「ああ、彼なら……」

 

 

 

 その頃、猫宮は黒森峰女学園へと呼ばれていた。用事は、先日の戦闘の検討会との事で、先に呼ばれていたのだ。

 多数の女子生徒の前で、流石に緊張する猫宮。部屋へ入ると、一斉に視線が向いた。

 

『あっ……』 と、みほ、まほ、エリカの3人の声が重なる。

 

「ええと、5121小隊所属、猫宮十翼長です、今日はよろしくお願いします」 

 

 きっと、これは運命の出会い――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




西住みほは第3小隊、7号機に乗っていて、8、9号機の3台を指揮しています。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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