ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
「ところで善行よ、何故猫宮だけが先に黒森峰へと呼ばれたのだ?」
と、芝村が問うた。その言葉に一斉に善行の方へ向く1組一同。善行はメガネに手をやると、苦笑しながら言った。
「これも政治というやつでしてね……。知らない人も多いかもしれませんが、黒森峰戦車中隊は会津派閥と薩摩派閥に所属している中隊でして。で、これが大戦果を上げて喜んだと思ったのもつかの間、一緒に戦っていた機体はなんと芝村派閥。しかし、この戦果と人材は惜しい、そして人型戦車の有用性も目を向けた――と言う事で猫宮君を取り込みにかかったのですね。」
「ふむ、なるほど。手が早いことだ」
「ええ、まったくです」
思わず善行も頷いた。昨日の夜、早速準竜師から連絡がかかってきて猫宮を明日の早朝から黒森峰へと行かせろと連絡がかかってきたのだ。なんでも、西住中将から直々に連絡が来たとのことだ。
「やはり人の親なのだろうな」
とは準竜師の言だ。娘の戦場は逐一見ているだろうし、猫宮が来なければ娘の一人は恐らく戦死していたであろう。それを考えると、真っ先に連絡をしてきたのも頷けるというものだ。
「あ、あの、委員長……じゃあ、猫宮はひょっとしたら他の隊に行っちゃうんでしょうか……?」
滝川が不安そうに聞いた。仲間が他の隊に行くなど、考えたくなかったのだ。速水や壬生屋や石津も不安そうである。
「その可能性も否定はできません……が。私はその可能性は非常に低いと考えています」
「え、えっと……」
よくわからないのだろう、困惑する滝川。
「皆さん、考えてもみて下さい。彼が、猫宮君が――我々を見捨てて離れると、そう考えられますか?」
穏やかな声で、善行はそう言うと、一瞬きょとんとした後、それぞれが納得の表情をした。その様子を見て、笑顔になる善行。
「そういうことです。だからまあ、余程の事がない限り大丈夫でしょう」
「例えば、向こうでお気に入りのお嬢さんが見つかる――とかですか?」 瀬戸口が茶化して言った。
「さて、彼ならば大丈夫だとは思いますがね」
実際、そんな狙いも有ったのだろう。美人揃いの女所帯に独り身の男子高校生一人……招いた方は期待もするだろう。
さて、そんな猫宮はと言うと……。
「と、このように士魂号の視認性を逆に利用して己を囮にし……」
「この時、私がこの配置にした理由は……」
どこかで出会った3人に見つかってしまったと内心冷や汗をダラダラと流しつつ、西住みほと二人で前に出て昨日の戦術の説明を中隊及び蝶野中尉に行っていた。蝶野中尉は、西住中将が来れない代わりに派遣されてきたらしい。何度もメモを取りつつ、真剣な面持ちで聞いていた。それを説明する猫宮も真剣である。
「やはり基礎火力及び被弾率の低さはL型の方が優れていますので、互いの長所を組み合わせればその戦闘力は相乗効果で何倍にも跳ね上がると思います」
「昨日の戦闘では、私達第3小隊の機体は、何時もより遙かに幻獣のマークが少ない状態でした。そして、人型戦車は対空能力が高いので実質的な高機動対空砲としても使え……」
何の打ち合わせもしていないのに、スラスラと説明を重ねていく二人。この一言一言が、新たな戦術理論の萌芽となるに値する言だ。まほとエリカと蝶野は、特に熱心にメモを取っている。
……そして、その明快な言と真面目な表情、そして醸し出す雰囲気で猫宮の株がぐんぐんと上がっていく。そもそも、他の戦場で出会う男は何処か憧れの目線を向けてきたり、だらしない視線を向けてきたり、頭悪そうだったり、最悪下品な目線を飛ばしてくるものだが、猫宮はそのようには見えない……。いや、他の学兵もそれなりな兵も居たりそこまで悪くなかったりするのだが、やはり質の低い兵が目立ってしまうし、ガードも硬いので中々話せないしで印象が悪くなってしまう。そんな中、訪れた猫宮である。女学院故にどこか男の子に憧れを抱く少女達の視線がやや熱い。
(あ、拙い、失敗したかも) せめて最初におちゃらけた雰囲気で第一印象を微妙にしておくべきだったかも思ったが後の祭りである
「えっと、大体こんなところですかね?」
「あ、はい、大丈夫だと思います」
「では、以上が先日の戦闘の総括です。えっと、なにか質問などは……?」
と、猫宮が問うたが、特に無かった。やはり、それだけ二人の総括の完成度が高かったのだろう。
「では、これで終わります。それじゃ、自分はこれd……」
「はい、ありがとうございました。で、所で猫宮君、ここに色んな子たちがいるけど、気になる子って居る?」
逃げようとしたところを蝶野に速攻で追撃され、思わず吹き出す猫宮。
「えっ、いやいやいやっ!? ま、まだ出会ったばかりですし!?」
「ほら、第一印象とかも大事よ? うちの子達、可愛い子ばかりでしょ?」
と、グイグイ押していく蝶野。勿論これには理由がある。蝶野自身は前に荒波と一緒の戦場に出たこともあるが、あれは戦術が完全に荒波小隊だけで完結していて、また戦術も殆ど荒波の天才性に依存したものだった。しかし、昨日この二人が見せた戦術は、マニュアル化でき、しかも絶大な戦果をあげられる新機軸の戦術だ。おまけに、人型戦車や装輪式戦車、その他のどの兵器と組み合わせ、数を増やしても柔軟に対応できる可能性がある。しかし、その「核」として、人型戦車は絶対に必要だ。
故に、その起点の一人である猫宮を、なんとしてでも確保するつもりであった。勿論、教え子たちの生存性も上がるだろうし、ハニートラップだと言われようが兎に角全力である。ちなみに、そんな思惑に気がついたが故の猫宮の後悔であった。
「そうねえ、例えばみほさんなんかはお似合いじゃないかしら?昨日はあれだけ息が有っていたし」 「おお、たしかにそうかも知れませぬな、西住殿!」 「い~な~みぽりん」「えっ、いやっ、あのっ、私なんかじゃきっと吊り合わないかもですし!?」「じゃあ、逸見さんとか」 「ええええっ、いやっ、私ですかっ!? あのっ!? そのっ!?」 「エリカが真っ赤、珍しい……」 「本当ですわね……」 「それじゃあ、姉のまほさんとか」 「……わ、私がですかっ!?」
……女性が3人集まり姦しいと書く。……ならば37人集まったならば? 答え:手がつけられない。
「え、えっと、いや、自分は昨日知り合ったばかりですしね、隊の仲間も居ますしまずはお知り合いから……!」
「ということは、紹介してくれるのねっ!」 「あっ」
猫宮、まさかのポカをやらかす。そして、この大騒動はしばらく続き、解放された頃には猫宮は憔悴しきってるのであった。
――以下、どうでもいいおまけ――
【黒森峰女学院決戦前夜!立て!ソックスロボ!】
「いいか、ロボよ。今回の以来は非常に重要だ。Mr.BもOB連も莫大な報酬を確約して下さったばい……」
「ええ、彼らのようなお嬢様学校に合法的に入れる機会など早々ありません……是非、顔繋ぎから初め、できれば安定供給を……。特に、くるぶしが綻んだ靴下には望むままの対価を」
「ふふふふふ、お嬢様学校いい、凄くいいいいいいいっ!」
「わ、分かった……!」 緊張につばを飲み込み、そして莫大な報酬に夢を見る滝川。
場所は校舎裏、男4人集まって話しているのは靴下の話題である。と言うかお前ら、授業や仕事はどうした。
「だが焦るなロボよ。そこは宝の山と同時に、生徒会連合の総本山……少しでも隙を見せたら、生きては帰れんぞ」
「あ、ああ、最初はおしゃべりからにしておく……」 頷く滝川。
「君のその性格は、相手の緊張感をまったく誘わないでしょう……」 「そこで、箱入りお嬢様に漬け込んで靴下を……ゲエエエエットするのです!」
シミュレーターを使った合同訓練が有るというので、パイロットがこれから何度も招かれることになるだろう……そしてそれは、ソックスロボを合法的に送り込む機会でもあった。
この野望が完遂するかは、全てはロボにかかっている。立て!ソックスロボ!神秘のベールに包まれたお嬢様学校を攻略するのだ!
終われ
短編が出るとしたらどんな話が良い?
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女の子達とのラブコメが見たいんだ
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男連中とのバカ話が見たいんだ
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九州で出会った学兵たちの話
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大人の兵隊たちとのあれこれ
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5121含んだ善行戦隊の話