ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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これは、闇に葬られた知られざる戦いの歴史、その一ページ


外伝
知られざる闘い――月は堕ちた【episode TWO前後】


 窓の無い、裸電球だけが吊るしてあるコンクリートで囲われた部屋。一面には、マジックミラーが張られている。そこに、「パァン!」と弾けるような音が響いた。

 

「――どうだ、吐く気になったかね?」 

 

 ねっとりと、絡みつくような口調でその尋問者は言った。ボルサリーノを被り、コートを着ている気障な男だ。

 

 苦痛に顔を歪ませる男が椅子に縛り付けられ、顔の向きまで固定されている。だが、目の前の惨劇を尋問者に見せつけられてなお、折れぬ闘志がその顔に宿っていた。

 

「くっ! やるなら、一思いにやれっ!」 

 

 怒りに満ちた表情だ。決意も堅い。長時間苦痛に晒されても、彼には守るべき者が有った。

 

「やる? とんでもない。命は大事だ。――それに、貴方にも協力してもらいたいと思っている」

 

 コツコツと歩み寄り、顔を寄せ男の肩を優しく叩く。

 

「協力だと、巫山戯るな! 俺は、俺は仲間を決して売らない!」

 

 唾を吐きかけ尋問者の顔に吐きかける男。だが、尋問者は怒りの欠片も見せずにハンカチで顔を拭いた。

 

「良い仲間意識だ。さぞ信頼も厚いのだろう。ああ、それ故に多くの情報を持っているのだろうが――教えてもらえないのが残念だ」

 

 首を横に振り体全身を使って残念なしぐさを表す。やけに芝居がかったその口調と仕草が、男の勘定を逆なでする。

 

「貴様の様な奴には解るまい、俺達の絆が――例え、俺が消えても俺の大切な物は残る!」

 

 眩しかった。こんな異臭のする光刺さない世界で、男は輝いていた。それ故に、尋問者は何とも残念だった。この輝きがもう二度と見れなくなることが。

 

「そうか――出来れば穏便に済ませたかったのだが――時間が無い。強引な手段を使わせてもらおう――」

 

 端末を取り出すと、何処かへ連絡を入れる尋問者。「そう、そうだ。ああ、彼は強情なのでね」

 

「っ!」

 

 今までの尋問が強引では無かったのか!? 驚愕する男。だが、覚悟は決まっていた。何があろうとも口を割らないと。そう、それを見るまでは。

 

 ドアが開くと、男の表情は凍りついた。まるで空気が急激に薄くなったかのように、呼吸が早くなる。

 

「そ、それ、は……」

 

「そうだ。貴方の大切なものの片割れだ――。勿論、もう一つの方も我々は確保しているがね」

 

 信じられなかった。信じたくは無かった。あれは、仲間が護っていた筈――なのに、なのに何故――。

 

「分かるだろう? ここにこれが有る意味が。そう、貴方の仲間は貴方程仲間想いでは無かったらしい」

 

 なんという悲劇だろうか。男の口調は悲しそうだった。

 

「そんな、嘘だ、嘘だ、嘘だ……!」

 

 必死に目の前の現実を否定しようと、必死に頭を振る男。

 

「おや、貴方なら嘘か真か分かる筈だ――。ほら、よく確認すると良い」

 

 それが、男の側に寄せられる。心が必死に否定しようと、目を瞑っても分かってしまう。頭がくらくらする。意識が遠のく。これは、これは、これは――。男の魂が理解していた。これは、間違いなく本物であった。

 

「貴方が否定し続けるなら、残念ながらこれを穢さなければならない――。この液体がかかれば、これはもう二度と治すことは出来ないだろう――」

 

 尋問者は近くのテーブルからビーカーを取った。強烈な薬品臭い。これは、これは、猛毒だ。嫌だ、嫌だ、止めてくれ……!

 

「や、止めてくれ……お願いだ……」

 

 男は震える声で懇願した。

 

「ああ、止めようとも。貴方が頷いてくれればすぐにでも。そうすれば、前の貴方の仲間に変わり、我々が貴方の友となるのだ――」

 

 尋問者の声は猛毒であった。人の魂を穢し、弱らせ、毒を染みこませる。だが、それでも男は最後の一線に踏み止まっていた。

 

「そうか、では残念だ。」 

 

 また、尋問者は悲しそうに首を振った。ビーカーを少しずつ傾ける。

 

「あ、あ、あ、あ……」 

 

 壊れてしまう。他のすべての想いが消え、それだけが男の心を占めた。

 

「わ、分かった。協力する。だから、だから、お願いだ――」

 

 心が折れた。男の輝きはもう、何処にも見えなかった。

 

「そうか、そうか、ありがとう友よ」 

 

 尋問者は優しい声色でそう囁いた。

 男は、それから知っている限りのことを話した。アジトの位置、会合の場所、隠し場所等――。

 いつの間にか、尋問者の後ろでは多数の人間が情報を纏めていた。

 

「友よ、まずは貴方に礼をしよう。貴方の大切なものはそのまま貴方に引き渡そう」

 

 息を吐いた。心から、男は安堵していた。「だが」 だが?男は即座に顔を上げた。なんだ? 一体何だと言うのだ?

 

「貴方に罰も与えよう。長い間粘られたおかげで、既にアジトはもぬけの殻だったのだ」 

 

 悲しそうに尋問者は首を振ると、ビーカーを持ち上げた。

 

「お、おい、止めろ、話が、話が違う!」

 

 何とか阻止しようと暴れる男。だが、無情にも頑丈な椅子と拘束具はびくともしなかった。ほんの2mも無い距離が、男には絶望的に遠く感じられた。

 

「そう、これは契約の証」 傾いたビーカーから液体が流れる。少しずつ浸され、変色していく。

 

「あ、あ、あ、あ、あ……」

 

「我々の友情の。慈悲と罰を象徴する我々の聖像(イコン)

 

 時の流れのように少しずつ変わったそれは、時の流れのようにもう元には戻らない。

 

「安心し給え。もう片方には誓って手を出さない」

 

 片割れを取り出し、テーブルの上に置くと、尋問者は背を向けた。ゆっくりと唯一のドアへと歩いて行く。

 

「あ、あ、あ、うあ、うあああああ、うああああああああああああああ」

 

 意味の成さない声が男から発せられ続ける。ドアを開け、閉める直前に尋問者はこう言った。

 

「ああ、そうそう。君の友だったものは、最後まで君を裏切らなかったよ――」

 

 そう言うと、ドアが閉じて男は独りになった。拘束具が外れると、男はそれを掻き抱いた。

 

「うあ、うあ、うああああ、うああああああああああああああ!」

 

 灰色の生地にうさぎと月のアップリケ。独り野で月を見上げる様からその銘は孤月。その片割れは、強力な洗剤に浸され永遠にその香りを失った。男側にはたらいと洗濯板が有り、周囲には男が大切にしていたコレクションが丁重に洗われ干されていた。尋問者は、手首の強烈なスナップだけで余分な水を弾き飛ばしてそれで凄まじい音がしたのだ。

 

 大切なものの片割れを失い、友を裏切った彼には、もうハンターに戻る道は残されていなかった。彼は、少なくともそう己が魂に烙印を押してしまったのだ。こうして、生徒会に新たなスパイが生まれることとなる。

 

 独りの御曹司が家で客を歓待していた。髪の長い、好青年である。と、青年の携帯電話が何時もと違うメロディを流した。

 

「おっと、失礼。緊急の電話のようです」

 

「ええ、お構い無く。紅茶が美味しいので、ゆっくり楽しませて貰いますよ」

 

 品の良い紳士はそう笑顔で青年を見送った。

 部屋を幾つか跨ぎ鍵を掛けると、青年は表情を変え電話に出た。

 

「どうした、バット。定時連絡の時間では無い筈だが」

 

 青年は嫌な予感がした。電話の相手は、この件で無駄なことをする男ではない。

 

「支部の一つが奇襲を受けて陥落。幾人かが敵の手に落ちました」

 

 途端に顔を険しくする青年。

 

「馬鹿な、あそこは極秘だった筈……!」

 

 焦りが浮かんだ。ハンターの結束は堅い。まさか裏切り者がいるとは思いたくもなかった。

 

「ここ最近、生徒会連合に一人の男が加入したそうです。コードネームはホッシュ(HOSH)。Hound of Socks Hunter ……我々を狩る者のようです」

 

 電話先の声には、強い警戒心が有った。

 

「Hound of Socks Hunter ......」

 

 忌々しそうに青年が言った。とてつもなく強大な敵が現れたような気がしたのだ。

 

「そして、もう一つ。未確認情報ですが孤月が奪われたようです」

 

「なんだと!?」

 

 ば、馬鹿な……あれの警備には、最新の技術と莫大な金が掛けられていたはず――。

 

「タイガー。これから暫く活動は最小限に。我々に、大きな嵐が来る予感がします」

 

 電話先の男からギャグがまるで飛ばない。つまり、それほどの事態と言う事だ。

 

「分かった――。では、用事があるのでここで切る。何か情報が入り次第また教えてくれ」

 

 そう言うと、タイガーと呼ばれた青年は携帯を切った。

 

「嵐、か……」 

 

 青年はそう呟くと、客を歓待するために戻っていった。終われば、直ぐにコレクションの警備を極秘で見なおすつもりだった。

 

 

 

 

「あー疲れた」

 

 ふぃーとボルサリーノとコートを外す猫宮。そして念入りに手洗いをする。

 

「お疲れ様です!」

 

 周りの生徒会や風紀員が敬礼をしてお茶を渡す。

 

「お、ありがとう」 受け取ると一息に飲み干す猫宮。異臭の漂う空間に長く居たため鼻が若干麻痺していたが、それでもお茶が美味しかった。

 

 猫宮が脱いだボルサリーノとコートは、風紀委員が念入りに消臭をしている。

 

「流石は猫宮さんです!」

 

「何人ものハンターをこちらに堕とした手腕、流石です!」

 

「ふふっ、まあ女の子にあれはキツイだろうからね」

 

 数ヶ月物のソックスを大量に抱えて一部屋に篭もるとか洗濯板で洗濯するなどは、流石に年頃の乙女には過酷すぎた。故に、この方法を行える猫宮は頼りにされていたのである。

 

「じゃあ、そろそろ転びハンターにもこの方法をさせてみようか。元ハンターが仲間の目の前でソックスを洗濯する――きっと心に来るよね」

 

『流石です!』 

 

 と周りの子達が言った。こうして、猫宮はハンター達からは死神のように恐れられ、忌み嫌われる事となる。

 これは生徒会連合とソックスハンター達の、知られざる(つーか知らせられない)戦いの歴史の一ページ。

 

 

 

 

 

 終われ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




朝っぱらから何書いてるんだろう、俺。
尋問中の声のイメージはCV:土師孝也 と言うかスカルフェイス。
続きは……気が向いたら書くかもしれない。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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