ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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5121小隊の日常を見返してみると、エピソード的に使えないのが多い……
いやはや、オリジナルエピソードが大多数になりそうです。


和水町防衛戦

 黒森峰戦車中隊は、精鋭である。初期から徴兵され、ある程度の配慮が有ったとはいえ、戦場で生き残り続けてきた。

 5121小隊は、成長著しい隊である。訓練期間僅か2週間と少々で実戦に投入され、1戦1戦毎に成長し、驚異的な戦果を叩き出してきた。

 

 そして、この2つの隊が合わさった時、必然的に送られるのは戦闘の激しい戦区となる。

 

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 玉名市北部、和水町。ここが、本日の戦場である。南と西を川に囲まれ、東には山岳が。北からくる幻獣を食い止めるのが、本日の任務であった。

 

 インター近く、やや広めの平野に黒森峰中隊は東西に広く分布していた。そして、その北側に、4機の士魂号がそれぞれ地形を活かし隠れていた。

 

 2,3,4号機の側には、それぞれバズーカが2本ずつ置いてある。

 

「ハロハロー、お耳の恋人瀬戸口さんだ」

 

「え、えっと、武部です」

 

 5121と、黒森峰のオペレーターから緊張をほぐすためか声が聞こえてきた。

 

「もうっ! 瀬戸口さんまじめにやって下さい!」

 

「ははは、スマンスマン。それで、敵の陣容だ。小型は何時も通り数知れず、中型は約50、ミノタウロスからナーガに至るまで、よりどりみどりだ。そして、航空ユニットの情報もある……まあ、数が多いって事だ」 瀬戸口が答える。軽口のように思えて、何時もよりやはり声の調子が少し違う。

 

「ふむ、支援のほどはどうだ?」 

 

「あ、はい! 多数の塹壕陣地があります。迫撃砲による支援が期待できます」

 

 芝村の問に、今度は武部が答える。

 

「ふむふむ。じゃあ連絡を密に、だね。誤射されたら洒落にならないし」

 

 タクティカルディスプレイを弄くり確認する猫宮。この数ならば、それなりの支援は期待できそうだ。

 

「だな……。では、黒森峰中隊は5121が一番槍を入れた後に動く、それまでは全車、隠蔽場所に待機」

 

『了解』

 

 まほの命令に、緊張した返事が響く。

 

 今日は、最初から予定されていた合同任務である。そして、そのお陰で激戦区に回された。しかも、この戦区の中核部隊として。大多数のメンバーに、緊張が走っていた。

 

「ま、大丈夫大丈夫、シミュレーターでは何度も訓練してうまくいくようになったし、きっと勝てるよ!」

 

 そこに、猫宮の明るい声が響く。少しでも緊張をほぐそうとしているようだ。

 

『は、はいっ!』 

 

 しかし、返事はまだ緊張の色が残る。

 

「それに、終わったらお菓子用意してるんだ。クッキーとか、特製プリンとか、ケーキとか。砂糖とかはちみつ手に入ってね、味は保証するよ!」

 

「ほ、本当ですか?」 「あ、私、プリンで!」 「ケーキ、生クリームたっぷりでお願いします!」 

 

 やはり、女の子はお菓子が好きなようだ。こんな会話で、少しずつ緊張が解れていく。そして、それを苦々しげに聞いている芝村。

 

「まったく、猫宮は何を言っているのだ……」 

 

「あはは、舞、でも、緊張が解れてるみたいだよ?」

 

「そんなことはわかっている!」 ドンっと、速水の背後に振動が来る。また蹴られたらしい。

 

「お菓子か、楽しみだな~。甘い物、戦闘のあと欲しくなるんだよな」 「わ、わ、わたくしも、ぜひ……」

 

 それを聞いて、戦闘後に意識を向ける滝川と壬生屋。まったく――

 と、そこへ善行から通信が入る。

 

「さて、皆さんおしゃべりはそこまでにしましょう。敵幻獣、近づいてきます。全機全車両、準備を」

 

『了解!』

 

 

 幻獣は、空中にはスキュラを、地上にはミノタウロスを先頭にして、多数の中型、そして無数の小型幻獣が迫ってきた。そのおぞましい光景に、闘志が掻き立てられるもの数名。

 

「行くよ、滝川、スモーク!」

 

「了解!」

 

 滝川の20mmから、戦闘が始まった。スモーク弾が、白煙を上げながら幻獣の前方に落ちる。有視界での確認ができなくなった。

 

 そこへ、2機の士魂号からバズーカが飛ぶ。サーモセンサーを使い、各々がスキュラをロックして、射撃。バズーカの一撃で、2匹のスキュラが落ちる。

 攻勢任務ではなく、待ち伏せである。なので、待機場所に予めバズーカを多数置いておけたのだ。

 

「命中、次!」

 

「分かっている!」

 

「よっし、俺も!」

 

 続いての射撃。2体のスキュラと、1体のミノタウロスが爆発、炎上する。強酸を撒き散らし、多数の小型を巻き込んでいた。

 そして、戦場からスキュラの脅威が消える。

 

「黒森峰中隊、動けるぞ!」

 

 芝村が叫んだ。その間に、3,4番機は装備を拾い、2番機は更にもう1発、ゴルゴーンを屠った。

 

「了解だ! 全機、一斉射撃!」

 

 と、建物の中から、地形の影から、9発の120mm弾が飛翔する。命中、スモーク越しにまた幾らかの幻獣が屠られる。

 

「キメラ1、撃破!」 「ミノタウロス、損傷!」 「ナーガ撃破!」 

 

 各々から報告が上がり、直後一斉に移動する。少しして、今までL型がいた辺りにあてずっぽうな生体ミサイルが飛んできた。

 そして、煙が邪魔なのか速度を上げる幻獣たち。地響きが響き渡った。

 

「参ります!」 

 

「3番機、1番機の援護に回る!」「2番機も同じく!」

 

 そこへ、壬生屋が突撃した。2丁のジャイアントアサルトの援護を貰い、ミノタウロスへ豪剣一閃、一撃で倒れ伏した。

 4番機は、東の山へ駆け上がる。そして、敵の目は3機の士魂号に向いた。

 

「敵の注意が逸れたぞ! 全小隊、士魂号の援護に回れ!」 

 

 遮蔽から遮蔽へ、2,3番機が移動しながら射撃をする。4番機も、ついでとばかりに小型にばらまき、ナーガやキメラ諸共屠る。そして、1番機は敵の只中で暴れまわる。士魂号に攻撃をしようと隙を見せる幻獣たちに、また一斉にL型の砲撃が襲いかかる。さっきよりも射撃の距離が近いことも有り、殆どが命中。次々と撃破していく。

 

「っ! 2号車、近いぞ!」

 

「あ、し、しまった……!?」

 

 2号車に、ミノタウロスが突進し、手を振り上げる。途端、その腕が吹き飛ばされた。

 

「はいはい、援護は任せといて! でも、気をつけて!」

 

 丘へ駆け上った4番機からの92mm砲弾だ。

 

「あ、ありがとうございます!」 「どういたしましてっ!」

 

 山や丘の傾斜は、幻獣に不利な地形である。幻獣は木々をかき分けるのも、傾斜を登るのも苦手で、進軍速度が劇的に落ちるのだ。

 丘の上から92mmを連射する猫宮。戦場を見下ろし、危機を未然に防ぎ、きたかぜゾンビを叩き落とす。一箇所で派手に暴れ、多数の幻獣が丘を登ろうとしていた。

 

「猫宮っ! そちらへ注意が行ったぞ!」

 

「了解っ!」

 

 芝村の叫びを聞くと、伏せてレーザーや生体ミサイルを避ける。多数の損害にムキになったか、慣れない地形を登ろうとするミノタウロスやキメラ。だが、隙だらけである。

 

「第2小隊、4番機の援護に回る」

 

 そこを目ざとく観察していたエリカが、小隊を全て回す。スットロイ動きしかできない幻獣を釣瓶撃ちに次々と命中させ撃破、そしてさっと移動する。そして、注意がそれたらまた4番機が立ち上がり、射撃を加える。

 

「ゴルゴーン、撃破!」 「キメラ3,撃破!」 「きたかぜゾンビ2,げきは!」

 

 戦果報告がひっきりなしに響き渡る。敵幻獣は翻弄され、攻撃先を定められず、常に横から後ろから攻撃を加えられる。やがて、損害に耐えられなくなったか、撤退を始める幻獣たち。そこに、すべての機体が追い縋った。

 

 本日、和水町戦線における中型の撃破数73。中隊及び小隊の損害は0。たった1中隊と1小隊の戦果、損耗率共に空前の数値であった。

 この日をもって、5121もエース部隊として全軍にその名を轟かせるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やはり戦闘を描くのが難しいですね……文字数のバランス、描写の詳しさ、それに活躍のバランス……
日常に比べて遥かに難しかったりします。

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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