ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
朝、裏マーケットの親父は不機嫌そうであった。そして、その横で黙々とまた銃器を整備している猫宮。
そして、不機嫌の原因も猫宮である。猫宮の整備する銃やら兵器やらは品質がよく、高値で売れるのだが、忙しいのか最近来る頻度が減っていた。
そんな訳で、猫宮は久々に顔を出すなり、いきなり多数のボロい銃器を押し付けられたのだ。中には、名指しで整備を頼まれた銃もある。
「うへ~……結構有りますね……」
「……最近来てないからな。だから、こんなに溜まる」
「せやで~、猫宮君の銃、人気だから需要が何時も途切れんのよ」
まるで宿題をほっといた子供に言うような口調で発する親父。そして、同意するバイトの加藤。それに猫宮は苦笑するしか無い。
「……それと、この銃は最優先だ」
「おっ、これは……」
ボルトアクションライフル、最新の素材を使い、見れば16倍率のスコープまで付いている。明らかに、弾をばらまくことが信条の対幻獣用の兵器ではない。恐らく、対人戦用の物だろう。
「随分な贅沢品ですね」
一応全部バラしてパーツを磨き、かみ合わせをチェックする。どれも特注品のパーツで、コストを度外視している。
「うわ~、これ、車2,3台買えますよね……」
「そ、そんなにするんかこの銃!?」
思わずびっくりする加藤。駆け寄ると、しげしげと眺め始める。
「一丁の銃にそんなに金かけるとかアホとちゃうか……」
「最高級品だからね、超一流が扱うべき銃だよ。……で、誰が使うんです?」
「もうすぐ来る」
そう言うと、親父は珍しく愉快そうに笑った。
暫くして、来須がやってきた。マーケットを巡る時は珍しくほんの僅かに、楽しそうな気配を見せるので、それを見るのも猫宮の楽しみの一つだ。
「お、来須さん、何か探してる?」
器用に整備をしながら、猫宮が声をかける。それを見かけると、来須が寄ってきた。
「サメの皮は有るか?」
「サメの皮……サメの皮……無いね、今じゃ……。古美術商にでも行けばひょっとして――とか、古い刀の剥がして――なら?」
「そうか」
表情を変えず、それだけ言う来須。そして、また商品を探し始める。状態のいい銃を手に取り、しげしげと眺めている。
「……相変わらず、良い腕だ」
「あはは、ありがと!」
銃は既に足りているが、見てしまうのはやはりスカウトの性だろうか。のんびりと銃器や置かれた兵器、更には雑貨をのんびりと見て回る来須。
と、そこへ親父が音もなくぬっとやってきた。
「面白い商品が手に入った、どうだ?」
ぶっきらぼうに誘う親父。来須は黙って帽子のひさしに手を当てる。興味があるという意思表示だ。
「加藤、さっき猫宮が整備したライフルを持って来い」
「ああ、あの高級品……はいな!」
そう言うと、加藤は店の奥へ走っていった。慎重に慎重に、持ってくる加藤。その態度を、少し訝しんだが近くで見て来須は納得した。最高級の銃である。金にうるさい加藤が慎重になるのも当然だろう。
「よく手入れされている」 「そこのがやったからな」
口元を綻ばせる来須。いい仕事だ。
「二脚付き、着脱可能。自衛軍の試作品でな。大陸での対人、対テロ用の設計だが、中止された。スコープの倍率は16倍までの可変式」
「なるほど」
来須が無表情に頷く。確かに、これは量産するには高すぎるだろう。そして、人の悪い笑みを浮かべる親父
「欲しいか?」
「……ああ」 頷く来須。
「弾は?」
「7.62mm競技用フルメタルジャケット、カスタマイズしてあるから30発、これもそこのが確認している。これを付けて300万といったところだな」
「さ、300万やて!?」
思わず叫ぶ加藤。その反応に苦笑する猫宮。
「無理だな」 そして、にべもなく言う来須。しかし、親父は笑ったままだ。
「……と言うのは冗談だ。持ち帰っていいぞ。これを使うのにふさわしい相手を探してくれと、当の技術者が持ち込んだものだ」
思いがけぬプレゼントに、目をむく来須。そして、ふっと口元を綻ばせる。
「な、なあ、来須くん……ただより高いものはないって言うで……?」
心配そうに言う加藤。来須も同じことを思っていた。そして、低い声で笑う親父。
結局誘惑には勝てず、持ち帰ることにした。それを苦笑して見ている猫宮が、妙に気になった。更には、この親父準竜師の知り合いでも有るという。しかし、余計なことを考えるより今は性能を試したかった。
さて、猫宮がバイトを終えて5121へ戻ると、芝村が司令室へと歩いて行くところだった。それについていく猫宮。部屋の中では、来須と善行が話し込んでいた。内容は、戦場に現れる狙撃手のことだ。
「……どんな相手だ?」
「その点に関しては私が答えよう」
来須の問に、答える芝村。そして、その後ろからついてくる猫宮。どうやら犠牲者は、芝村に怨恨が有る人間らしい。
「どんな戦法を使う?」
「戦場の一点に潜んで待つ。必ず一発で仕留める。標的を仕留めたら姿をくらます。一日に一人。決して無理はしない」
貴重な情報だ。
「優秀なスナイパー、だね」 猫宮がつぶやくと、来須も頷いた。
「狙う箇所は?」
芝村は不機嫌な表情を崩さず、指で頭部を指した。
「訂正、超優秀なスナイパー……だね」 猫宮が更に言う。対幻獣戦の技術ばかりが磨かれるこの世界で、そんな技術を持っているのはかなり絞られるだろう。
「狙撃は幻獣との戦闘直後、戦後処理のため将校が露出しやすい。実はこのタイプの狙撃手は多いのだが、生粋の共生派であったら戦果を広めようと欲張る、と私は考えた。また、芝村派を特定するだけの情報を持っているかも疑問だ。犠牲となった将官は現在11名だが、全員芝村の子飼いだ。佐官級も二人。当戦区における芝村は将校の割合は1割に満たぬというのにな」
なるほど、それでは依頼を出されるわけだ。そして、準竜師に遊ばれたお返しに、出しぬいてやろうと芝村が極秘情報を出す。一人の女性将校だ。おまけに、共生派らしい。芝村は知的好奇心に目を輝かせながら語っている。
「……とにかく、行ってみよう」
「うん、自分も行く」
来須の言葉に、猫宮も続く。それを聞いて、来須は頷いた。善行も、頷いて追認した。
「わたしも同行しよう」
「芝村さん、あなたはお留守番です」
「むっ……猫宮も行くのだぞ、何故私はダメなのだ!?」
おもちゃを取り上げられた子供のように文句を言う芝村、それに善行は苦笑する。
「あなたまで行くと3号機まで出撃不能になります。戦闘もせずに戦力の半分が消えるのは容認できません」
そう言うと、更に不機嫌になる芝村。
「こ、コヤツは行くというのに……」キッと猫宮を睨みつけると、足をドスドスと鳴らして出て行ってしまった。
「では、お二人にお願いしても宜しいですか?」
「ああ」 「了解です!」
正直な所、猫宮はもう心配しても無駄だろうというのが善行の本心である。と、そこへドアを開けてひっそりと石津が入ってきた。
「どうしました、石津さん?」
声のトーンが柔らかくなる善行。
「こ……れ、加藤……さん……に」
石津は少し考えて、来須と猫宮の間をすり抜け書類を提出する。薬品の陳情のようだ。許可をもらい、振り向く石津。そして、二人の方を見た。
「……二人共、とっても、危険……」
そう言うと、はっとしたように目を伏せた。
「なぜ、わかる?」 来須がボソリと尋ねた。猫宮も、優しげな表情だ。
「……わかる、の。わたしが……きっと、変化要因になる……」
「そうか」 「そうなんだ」 頷く二人。
「連れてって……役に……立ちたいの……」
突拍子もない言葉に思わず顔を見合わせる善行と来須、そして微笑んでる猫宮。
「石津さん、あなたは自分が言っていることの意味がわかっているんですか?」
善行の言葉に、頷く石津。そして、いつの間にかブータも居た。床から石津を見上げている。
「ブータも……頑張れって……」
呆気に取られる善行、考えこむ来須、微笑んでいる猫宮。
「……俺達が教える」 来須は口元を引き結ぶと、厳しい表情で言った。そして、猫宮も頷く。
もうどうしたら良いかわからない善行。そして、来須と石津は司令室を去り、猫宮も敬礼して出て行った。
3人は、直前の狙撃が起きた現場に向かっていた。石津は距離の計算と地形図の書き込み、猫宮は双眼鏡で狙撃地点と思われる付近を観察していた。
最新式のウォードレス・武尊に身を包み、背中に狙撃用のカスタムされた銃をぶら下げ、尋常でない気配を漂わせている来須。ほっそりとした女性用のウォードレスを着込んだ、フランス人形のような少女の石津。そして、カトラスをぶら下げ銃剣を取り付けたアサルトライフルを背負い、銃剣を取り付けたサブマシンガンを腰にぶら下げ、ナイフも多数取り付け、それでもって両手には手甲を嵌めている猫宮。
このとんでもない3名の組み合わせは、それはもう目立った。周りの兵は、恐る恐るといった様子でこちらを見ている。
兵に質問する来須、そしてその情報を元に探す猫宮。弾痕が、見つかった。ナイフを取り出し、銃弾を取り出す。それを見て、来須は絶句した。
なんてやつだ……5.56mm弾、おまけにアサルトライフルの弾丸である。およそ、300mの狙撃に使う銃ではない。
猫宮も、まるでゴルゴ13だなと呆れる他無い。
「武器にこだわりは無し……かな」
そう言う猫宮にうなずき、来須は相手の性格を考えていた。そこへ、石津が話しかける。
「……ブータが、言っていた……わ。歯車……が……狂っているって。相手は、普通の人……だって……。歯車が……ひとつだけ……おかしいの……」
「なるほど」
確かに、隠れ場所も銃もありきたりである。だが、対人戦に慣れた兵が居ない戦場であっては、合理的であった。
「さて、厄介なのか厄介じゃないのか……」
自分が介入することで、どうなるかわからない。さて、どうするかと悩む猫宮であった。
「ふん、エースがこんなことをしているとはな」
中尉の階級章を付けた芝村が、皮肉げな笑みを浮かべていった。
「いろいろとありまして」 指に鳥を乗せ、肩をすくめる猫宮。何やらコソコソと言った後、鳥は飛び立った。
恵まれた装備、恵まれた陣地に囲まれているこの芝村は、箔付けのために戦場に居た。そして、己に絶対の自信を持っていた。
「要は、姿を見せなければいいだけだ」
「その通り」 来須はしかたなく応じた。
「まあ、戦場でそれがしにくいから苦労するんですが」 猫宮は肩をすくめる。
その様子に、不機嫌そうになる芝村。
「その様な、心配など無い」
傲慢な様子で、そう言う芝村。周囲には、あからさまな遮蔽物なども存在していた。どうやら、己の策略に絶対の自信があるらしい。
「じきに日が暮れる。トラックに便乗して、おまえらも引き上げたらどうだ?」
この芝村にとって、規格外な来須や猫宮は本能的に嫌いなようだ。
「対共生派のテロに関しては、論文を書いたことも有る。万全の措置は尽くしている」
「あのワナの事か?」
「そうだ。隠れる場所は残骸以外にはない。それぞれの残骸には集音マイクが仕掛けてある。狙撃者の気配を察知次第、火力を集中する」
「子供だましだな」
「単なるテロリストじゃなくて元自衛軍、しかも狙撃を11回も成功させてる相手なんだけどねえ……」
来須と猫宮が、バッサリと切り捨てる。当然、気に触った。しかし、表情を芝村らしく冷静な表情にすると、下士官に命じる。
「こいつらを原隊まで送り届けろ」
「は。しかし、準竜師の委任状を……」
「あんな紙ッペらはどうでもいい。この3人は邪魔だ」
そう言われ、複数の兵が3人を取り囲む。が、猫宮と来須の視線に出会うと、誰も手をかけられない。
「何をしている?」 中尉は苛立った声を上げた
その時だった。
「中尉殿、ネズミがワナにかかりました!」
興奮した声がトーチカに飛び込んできた。通信兵が受話器を外すと、中尉に渡した。中尉はしばらく耳を澄ましていたが、やがて大きく頷いた。
「攻撃」
直後、陣地のあらゆる火砲が車両の残骸に向かって発射された。残骸は四散し、跡形もなく消えた。
と、迂闊にも外へ出ようとする芝村。そこを、猫宮が蹴り飛ばした。
直後、銃声。1秒前に頭があった位置を、銃弾が通過した。そして、飛び出す3名。
来須が、位置に当たりをつけ狙撃する。猫宮が、サブマシンガンを手に駆け出していた。その後に、続く来須。が、時間切れだ。
下へ戻ると、芝村が呆然とした。今まで、幻獣相手に圧勝しか経験しておらず、芝村のねじ曲がった優秀さゆえ、人も自分に敵う相手は殆ど居なかった。が、今日。もし助けられなければ確実に死んでいただろう。
「ば、馬鹿な……」
「はい、あそこ」
猫宮が指を刺して双眼鏡を渡すと、呆然と受け取る芝村。そして、指さされた方を見る。犬が、肉を食っていた。
「瓦礫に肉を投げてれば犬が寄ってくるってね。まあ、単純すぎる引っ掛けだよね」
肩をすくめる。来須も、頷いた。人類側は、あまりにも対人への経験がある兵が少なすぎた。
「まあ、何やら治安維持とかで小難しい論文書いてるみたいだけど……もうちょっと足元固めないとね。論文も平時の想定ばっかりだし」
己が書いた論文までコケにされ、怒りがいつの間にかこみ上げてきた芝村。
「俺の書いた論文は認められてるぞ!」
「治安維持なら、そんな後方のじゃなくてむしろ今みたいな有事のが再優先でしょ?」
「有事の、だと……」 芝村が食って掛かる。
「例えばほら、山口のここに上陸されたとしたら……初動はどうなる?」
端末から地図を出され、論戦をふっかけられた。気に食わない、論破してやろうと意気込む芝村。
「ふん、まずは水際で当該地区の部隊が足止め、その隙に回りの部隊が……」
「違う違う」
「何が違う」 苛ついたように問う芝村。本当に、腹が立つ。
「民間人のこと」
「民間人だと……それぞれシェルターにでも入るのではないか……?」
意外なことを言われ、少し考えこむ芝村。
「うん、例えばこのシェルター。定員200人だけど。何時、締めるの?」
「それは全員集まった時に決まって……」
そこまで言って、はっと気がつく芝村。優秀である、問題点に即座に気がついた。
「そう、戦場でそんな定員待ってる暇、無いよね」
イラツキが消えていき、話題に食いついていく。
「その地区で避難訓練などは行っているのか?」
「行ってても、極偶に」
「シェルターを閉める判断は?」
「その時々の住民の判断。責任者も居るだろうけど高度な判断は出来ないと予想される」
顔が、険しくなっていく。
「その時は、誰が指示するのだ……?」
「その地区の、防災担当の課長さんとか?」
虚を突かれた芝村。そして、呆れた表情をする。
「馬鹿か」
「馬鹿だよね」
それに、肩をすくめて同意する。
「他にも、戦災にあった地域の復興の法案とか何時のか知ってる?」
「……何時だ」
「太平洋戦争前」
「…………」
完全に呆れ果てた芝村。そして、懐から紙を取り出し、ペンと共に猫宮に押し付ける
「泰守だ。芝村をやっている。連絡先を書け。そして、連絡したら出ろ」
泰守は傲慢な顔で言い放った。
「随分強引だなあ」 苦笑しつつ、連絡先を書く猫宮。それを受け取ると、丁重に懐に仕舞う泰守。
「今日は助かった。後で勝吏に言え。望むものを届けさせる」
そう言うと、部下を連れ撤収していく。その様子を、やれやれと見送る3人であった。
芝村泰守 オリジナルキャラクター。5121小隊の日常Ⅱに殺されるチョイ役としてできた姓だけのキャラクターに名前をつけた。書いた論文に治安維持等が含まれたため、民間人の対応の問題点を提起するキャラクターに。芝村であるので傲慢な面はあれどやはり優秀である。
なお、芝村一族の男の例に漏れずデブである。
ちなみに、史実では吹き飛ばされてしまった野良犬は、猫宮のおかげで肉だけ持って助かったりしています。
しかし、最近お気に入りも評価も増えてきて本当にありがたい限りです。活動報告ではガルパンのSSまとめサイトでも紹介されたと有りましたが、他にも紹介されたりしてるんでしょうかと非常に気になります。
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