ガンパレード・マーチ episode OVERS 作:両生金魚
『何か手伝って欲しい事は無いですか?』 猫宮
『休んでください!』 津田
『無いです』 本郷
『あ、おっかしいな、猫宮さんの通信が見れないぞ?』 甲斐
『休め』 来須
『今日と明日、仕事禁止だぞ』 若宮
「……………」
暇なので、端末で連絡をとってみたらけんもほろろに休めと言われる猫宮。思わず空を仰ぐ。吸い込まれそうなくらい、青かった。
「……いやいや、そうだ、仕事がダメなら訓練でも……」
と、鉄棒へ向かう猫宮。後ろから、テクテクと石津がついてくる。
「あ、あの、石津さん……?」
じ~とこちらを見る石津。何やら気配が怖い。
「…………訓練……したら……呪う……わ……」
「え、えっと、でもね?」
「……ダメ……」
「ほ、ほら、やること無いし……」
「…………」 涙目になる石津。
圧力と呪いをこれでもかとかかけられた挙句、これである。もう全面降参するしか無かった。
「……はい……」
結局、負けてトボトボと歩き出す猫宮。
「休日か……」
思えばこちらの世界に介入して、そんな日など1日たりとてなかった。ずっと何かしらの活動をしていたのだ。
と、そこへ巨大な猫がのしのしとやってくる。もちろん、ブータである。
(悩んでいるのう、若者よ)
ゴロゴロと笑うブータ。猫宮の側にやってきて、丸くなる。
(今までずっと仕事でしたからね。一体何をしたら良いのやら)
ため息一つ、悩む猫宮。
(誰かを遊びに誘うなり、のんびりするなり自由にするといい)
そう言うブータは、とても寛いでいるようである。
(のんびり、か……)
そう言うと、草の上に寝っ転がる猫宮。さわやかな風が駆け抜け、大地の香りを運ぶ。
(いざというときのために休むのも戦士の勤めじゃ)
ふぁ~とアクビをするブータ。猫宮は、ひたすら流れる雲を見る。
ゆったりとした時間が流れる。訓練で走っている掛け声や、様々な話し声、車の音、鳥の囀り。それがゆったりと流れて消えていく。しかし、仕事や訓練や他の皆のあれこれを考えてしまうのは、悲しい性だろうか。
イマイチ休めてない様子の猫宮。と、その側に1匹の猫がやってきた。いつぞやの三毛猫である。にゃ~と鳴いて、猫宮に寄り添った。
「や、ミケ、どうしたんだい?」
そう尋ねると、猫宮の頭をポフポフし始めた。
「……気を使ってくれてるの?」
そう尋ねると、にゃ~と鳴く。少しの間、そうされている猫宮。すると、今度は柴犬が来た。
「お、チョビ? 君も来たの? 餌はないよ?」
そう言うと、そんなもんいらんとばかりに猫宮の側に来て、肩をポフポフする。
「ははっ、くすぐったいよ」
動物に犬と猫にもふもふされる猫宮。と、まあそれだけなら良かったのだが……1匹、2匹、3匹、4匹と、どんどん集まってくる。もこもこに埋もれる猫宮。
「……皆、気を使ってくれてるの? ありがとう」
くすっと笑うと、ぽふっと寝っ転がる。そうすると、犬猫も皆丸くなる。微笑ましい光景が出現し…………それをじ~~~~と見つめる約一名。
「……芝村さんも来る?」
「な、な、な、なななななっ!?」
気が付かれて顔を真赤にしてびっくりする芝村。
「ただし、今度は殴らないようにね~?」
そう言いつつ、くすくす笑う猫宮。
「…………」 苦悩
「………」 逡巡
「……」 葛藤
「…!」 決意
「私は……行く……!」
と、猫宮と少し離れた場所に座る芝村。それを見て、何だなんだと寄ってくる犬猫。
わふっ とか にゃ~ とかいう鳴き声と、もふもふに囲まれる芝村。顔を真赤で、しかし嬉しそうな表情を抑えきれていない。
「手のひら上にして、下ろしてみて?」
「こ、こうかっ!?」
そう言われて下ろす芝村。チョビが、ポフッと手に手をおいた。所謂お手である。
「~~~~~~!」
嬉しさからか言葉が出ない芝村。その様子を見て、猫宮はクスクスと笑うのだ。そして、真っ赤になったので心配したのか猫たちが芝村の足へてしてしと猫パンチする。あまりの可愛さに鼻血が垂れる芝村。慌てて、血を止める。
「なんと、なんと、なんと……!」
その様子を微笑ましげに見守る猫宮。面白すぎる。
そして、更にその様子をじ~と見ている人がいた。石津である。
「あ、石津さんもこっち来る?」「な、何だとっ!?」
石津に醜態を見られて動揺する芝村。だが、石津は芝村よりも動物たちに目が行っていたようだ。少し考えると、トテトテとやってくる石津。芝村の横に来ると、優しく撫でていく。それを見て、見よう見まねで撫でる芝村。ガチガチである。
「もっと……力を……抜くの……」
「こ、こうか……!?」
「……そう」
微妙に撫でるのが上手くなっていく芝村。機嫌がどんどん上向いてく。
「うわ~、ねこさんもいぬさんもいっぱい!」
「あ、ののみちゃん、こっちにおいで」
「は~い!」
そして、東原もやってくる。とててててと駆け寄ってきて、動物たちの中心へ。囲まれる東原。ブータを抱っこして幸せそうだ。
「……ま、たまにはこんな日も良いかもね」
くすりと笑うと、また寝っ転がりまったりする猫宮。雲は、ゆったりと流れていた。うつらうつらといつの間にか目を閉じて、開いた時には、すっかり日が傾いていたが、もふもふに囲まれて、全く寒くなかった。
そして帰り際、自炊でなく、味のれんでコロッケ定食とご飯をたっぷり食べた後、家路につくのだった。
翌日、猫宮はたっぷりと寝て起きたのは朝の9時である。こんな遅くまで寝たのは、この世界に介入して初めてである。必要最低限なもの以外何もない殺風景な部屋から起きだし、朝食をとって、歯を磨く。何もすることが思いつかなかった。なので、とりあえず猫宮は新市街でも散策することにした。家にいてもすることはなし、学校に行くとどうしても手伝いや訓練をしたくなるからだ。
ぶらりと、新市街を歩き出す猫宮。どんどんと商店街のシャッターが上がっていき、街が活性化し始める時間だ。学兵たちも、どんどんと増えてくる。
「この辺りの店もまだまだ大丈夫……かな?」
熊本は、時間が進むたびにどんどんと店の疎開が進んで行き、遊べるところも食べられるところも減っていく。だが、実はこの世界では史実よりもほんの少しだが、その速度は落ちたりしていた。
「ん~、たい焼きひとつ下さい!」
とりあえず買い食いをする猫宮。寂しい中身の財布からお金を取り出し、購入する。美味しそうに、ハムっとかぶりつく。そして、次は何処に行こうかと迷っていると、ふと後ろから声をかけられた。
「猫宮さん、大丈夫ですか……?」
「あ、逸見さん。うん、もう大丈夫! 強制的に休みとらされちゃったけどね」
振り返ると、逸見エリカが居た。珍しく、私服である。
「猫宮さんもですか。私達黒森峰も、今日は非番なんです」
「そうだったんだ。逸見さんも、新市街周る予定?」
「あ、いえ、行こうとしていた店が疎開してしまって……どうしようかと」
そう、困ったように言うエリカ。
「ふむふむ……何のお店?」
「生活雑貨とか、小物を売っているお店で。この近くにあったんですが……」
「ああ、そのお店。ん~、それに似ているお店って言うと……ちょっと歩くことになるけど、いい?」
「は、はい、大丈夫です。じゃあ、場所は……」
と、言っている内に歩き出す猫宮。
「あ、あの、猫宮さん?」
「自分も暇だし、案内するよ」
振り返って笑いながらそう言う猫宮。エリカは少し照れると、後ろをテクテクとついていくことにした。
「猫宮さんは、熊本出身ですか?」
「ううん、違うよ?」
「そうですか……それにしては、地理に詳しいなと」
「こっち来て、街中歩きまわったからね」
くすりと笑いつつ、ゆっくり辺りを見渡しながら歩く。また、シャッターが降りている店が増えていた。その視線に気がつくと、エリカも表情を曇らせる。
「……疎開、進んでますね……」
「うん、自分がここに来た時よりも、少しずつ寂しくなってる」
「……九州に幻獣が出現してから、少しずつ、この街が寂しくなっていったんです」
「逸見さんは、ずっとここに?」
「はい、熊本で生まれて、ずっと住んでいました」
そう言うと、寂しそうに辺りを見渡す。
「昔はもっと、活気がありました。学兵だけでなくて、もっといろんな人が歩いていて。商店街も、殆どにお店が入っていて」
「……そっか。故郷なんだ……」
「はい。……私は、この街が好きなんです。だから、守りたくて……でも」
「でも?」
そう言うとエリカははっとして、続きを言うのを躊躇う。それに対して、微笑んで促す猫宮。
「何かあったら、相談に乗るよ? 戦友だし、この間助けられたしね」
それを聞いてエリカは少し逡巡した後、ポツリと呟く。
「……私は、西住隊長とみほさんに比べて、指揮能力に劣っています。それが、それが……」
違う部隊の猫宮だからこそだろう。今まで押し殺していたコンプレックスが、溢れだしてしまったようだ。
エリカの方を向く猫宮。微笑みを消して、真剣な表情になる。
「……こういう時、そんなこと無いって言うのは簡単だけど、そんな慰めはいらないと思うから、はっきり言うね」
見られ、足が止まるエリカ。はっきり言うと言われ、覚悟を決める。
「確かに、安定した状況のまほさんの安定した全体指揮能力や、みほさんの混沌とした状況での判断力の速さ、応用力や閃きは、確かに逸見さんにはない」
はっきり言われ、更に俯くエリカ。
「でも、部隊がついた時の支援の上手さや、こちらの動きやすさは、一緒に戦っていて逸見さんが一番良い」
そう言われて、顔を上げるエリカ。
「ほ、本当……ですか?」
「命がかかっている問題や悩みに、下手な慰めは言わない。これは、一緒に戦ってきた経験から言えること。和水町の時、素早く、支援してくれたよね。あのお陰で、早くまた山頂で狙撃を再開することができた。大丈夫、貴女は二人の下位互換なんかじゃない。別の能力が優れている、指揮官だ」
まっすぐ見据えられ、はっきりと伝えられる。エリカの顔が、赤くなった。
「戦場で頼りにしてます。だから、そんなに自分を追い込まないで」
そう微笑むと、「は、はい……」と頷くのだった。
「それじゃ、もうすぐだし行こうか」
再び歩き出す猫宮と、それについていくエリカ。その店は、まだ疎開していなかった。
「うん、まだやってた。それじゃ、また」
そう言うと別の場所に行こうとする猫宮。それを、エリカが慌てて止めた。
「あ、あのっ!」
「ん?」
立ち止まる猫宮。エリカは意を決すると、半ば叫ぶように言った。
「せ、せっかくですし、何か見て行きませんか?」
それを聞くと猫宮は、そう言えばすることがなかったと頷く。そして、二人で店の中へ入っていくのだった。
中は、カラフルな小物類や雑貨であふれていた。色とりどりの空間に、目を輝かせるエリカと、キョロキョロと珍しそうに観察する猫宮。
店内をうろつき、小さな鉢植えを見つけると、それを手に取るエリカ。
「胡蝶蘭? ああ、今からちょうど咲き始める花だよね」
「はい。部屋にあると綺麗かなって。私、この花が好きなんです」
そう言うと、それをカゴに入れるエリカ。一方、猫宮はまだ何も選んでいない。
「……あ、や、やっぱり欲しいもの無いですか?」
「あ、ううん、と言うより、こういう所来たことなかったから、どういうの選んだら良いか悩んでて」
苦笑する猫宮。それを聞くと、エリカは選ぼうと棚を見る。
「何か希望はありますか?」
「えーと……つけていて危なくなかったり、あまり邪魔にならないもの、かな?」
それを聞いて難しそうな評定をするエリカ。アクセサリー系は、じゃまになる場合が多々あるかもしれなかった。そして、ふと香水で目を止める。
「その、香水とかどうですか? 香りを身につけるから、邪魔にならないと思います」
「うん、それいいかも! じゃあ、どれにしようかな……」
試供品を取り出して、香りを確認していく。でも、いまいちピンとしない様子だった。それを見て、選ぶエリカ。
「あ、あの、これなんてどうですか?」
小さな瓶の、リーズナブルな香水。少し付けると爽やかな香りが駆け抜ける。どことなく、気に入った猫宮。
「うん、これが良いかも」
「じゃあ、これにしましょう」
そう言うと、それもカゴに放り込むエリカ。
「あ、会計は、自分で出すよ!」
「いえ、お礼をさせて下さい。それに、私結構お給料貰ってますから」
そう言うと、微笑むエリカ。その評定を見ると、何も言えなくなる。
「うん、じゃあ……ありがとう」
そう言うと、猫宮は笑顔でその好意を受け取るのだった。
嬉しそうに、店を出るエリカ。そして、それを微笑んで見てる猫宮。――だが、それを目撃してしまった人がいたのだった。
そうして別れた後、また新市街を探索していると、速水、滝川、茜の3人が一緒に歩いていた。
「お、こんにちはっと!」
「おっす、猫宮!」 「あ、猫宮、大丈夫?」 「ふっ、体調管理はしっかりするんだな」
猫宮が話しかけると、三者三様の挨拶をしてくる。
「あはは、大丈夫大丈夫。それで、どうしたの3人共?」
「ん、俺の家でこれからポカドン!やるところだけど……そうだ、猫宮もやろうぜ!」
「ああ、4人でできるし丁度いいな」
誘う滝川に頷く茜。そして、それを笑ってみている速水。
「うん、それじゃせっかくだしやるよ!」
「オッケー、決まり! じゃあ行こうぜ!」
そう言うと、滝川の家にたこ焼きを買いながら移動する4人。コントローラーを4つ接続し、ポカドン!を4人対戦で始める。
「よーし速攻だ!」
「ふっ、君のことだから必殺をしてくるだろうと……何っ!?」
「え、えーと、あ、なんか良さそうなアイテム出たよ!」
「ふふふふふ……魔法を連発して……」
「おいふざけんなよ、動けないだろ!?」
「良くもやってくれたな、サタン化だ!」
「わわわわわ、こっち来ないで!?」
「漁夫の利頂きぃ!」
「ふざけるなよ!」
「集中砲火だ、二人共行くよ!」
「「おう!」」
「ちょ、こんな時だけ息合わせるなよ!?」
どんどん険悪になっていく空気、始まる言い争い、やがてとっつかみ合いにまで発展する。ドタバタと暴れだし、いつしかゲームがそっちのけに。
……とまあ、こんな感じに猫宮の休日の終わりは、喧々囂々の大げんかに発展しつつ、結果的に熱中しすぎてコンセントが抜けてしまってのドローに終わったのであった。尚、これ以来ポカドン!は封印されることとなる。
次の日。
善行と原がいぢわるそうな笑顔を浮かべている。なんだか嫌な予感がする猫宮
「おやおや、昨日はお楽しみだったようですねえ」
「ええ、とっても楽しそうだったわ」
「いや、あれデートじゃないですから!?」
「まあ聞きました奥様?」
「ええ聞きましてよ奥様。プレゼントまでしてもらってデートでは無いなんて」
腹の立つ口調で畳み掛ける善行と原。それに物を投げつける猫宮。
「まあなんて乱暴な」
「この分じゃ、きっと香水の意味もわかってないですよ奥様」
そうゲラゲラ笑うと、二人は逃げていった。それを、猫宮は怒った様子で見送るのだった。
プレイヤー「え、ゲーム内で遊んでもパラメーター増えないしNPC助けられないよね?」
な感じを地で行っていた猫宮君でした。なお、これ以降石津が何度も体調を注意しにやってくる事になります。……次は西住姉妹を動かしたいな……。
しかし、敬語だけだとエリカが別キャラに見える……難しい……
とりあえず、原作でも有った西住姉妹へのコンプレックスを軽減しようとこうしました。
二人が優秀すぎるだけで、エリカ自身も平均以上とっていて悪くない……って、何処か滝川と似てますよね。
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