ガンパレード・マーチ episode OVERS   作:両生金魚

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完全オリジナルのアナザー。これから彼女達はこの物語で重要な役割を担っていくことになります。


黒森峰戦車中隊、前へ!【OPENING前】

 夕刻、西住しほは二人の娘と向かい合って座っていた。二人共ある程度の予感があったのだろう。緊張した面持ちだ。

 

「みほ。まほ。あなた達に召集令状が届きました。二日後には黒森峰女学園に教官が来ます。あなた達は戦車兵として訓練されることとなりました」

 

「はい」

 

「は、はいっ」

 

 彼女の娘はそれぞれが、真剣な顔でこの事実を受け止めている。だが、それだけに――それだけに、その少女の顔に残るあどけなさがよく分かった。

 

 西住しほは、会津閥と薩摩閥の両方に所属しているとも言える軍人である。成長著しい芝村閥に対抗するため、会津閥と薩摩閥の融和の一つとして、薩摩閥である彼女は、会津閥である夫とお見合いの後結婚することとなったのだ。

 彼女は代々軍人の家系だった。自分もまた軍人になるように生きてきたし、結婚相手が決められてしまうのも仕方のない事だと割りきっていた。だが、お互いにとって幸運な事に西住しほは良き妻であり、入婿としてやってきた常夫は良き夫であった。

 やがて二人の子を儲け、軍人としても階級もゆっくりと、しかし順当に上げていった。だが、幸せは長くは続かなかった。

 

 1996年、西住常夫の大陸への出征が決まる。日に日に日本へ近づいてくる幻獣の波に対処するため、日本政府も次々と大陸への出征を決めていた。常夫もまた、その一員に選ばれたのだ。

 残される三人を前に、きっと帰ってくると笑顔で行った常夫であったが、三人はもう二度と常夫の顔を見ることはなかった。

 1997年、ユーラシアから人間は公式に生存圏から消えた。西住家には、常夫の代わりに二階級特進の知らせと傷ついた獅子勲章、そして大陸で勇敢に戦った英雄の意思を次いで戦う妻という物語が与えられた。しほは、弱音を誰にも吐くことが出来ず、夜に独りで泣く事しか出来なかった。

 1998年、しほは八代会戦へと参戦する。圧倒的な幻獣の群に、同地の8割以上を焦土として闘い、しほは損害率62.5%の戦場を生き延びた。そして彼女には昇進とまた耳障りの良い英雄としての物語が与えられた。

 1999年、政府は14歳から17歳までの少年少女を即席の兵士として集める法案を可決。西住まほと西住みほも、その対象に入っていた。そして、政府高官や軍首脳部の子供達が徴兵を逃れられる中、「英雄」の一家である西住家では、その様な手段は使えなかった。むしろ、学兵の広告塔として真っ先にみほとまほの姉妹は徴兵されることとなった。

 

 国の為、民の為、そして我が子たちの為、この身や夫を捧げてきた。だが、国はまだ足りないと言う。――何も出来ない自分が、酷く無力に思えた。

 

「あなた達は、西住家の者です。故に、ずっと注目され続ける事となります。常に、西住の名に恥じない立ち振舞を意識しなさい」

 

「はい」

 

「は、はいっ」

 

 厳しい母の言葉に、緊張した面持ちで返事をする二人。出てくる言葉は皆、母としての言葉ではなく、軍人としての言葉だった。

 

「最後に。――必ず、生きて戻ってくるように」

 

『はいっ!』

 

 だから、最後に母が出した優しさ――言葉に、二人は強い決意で頷いた。

 

 

 二日後、黒森峰女学園の戦車兵の「志願者」達は、校庭に集められ一糸乱れぬ整列をしていた。校長や教頭、教師の言葉が延々と続いた後、自衛軍の制服を着た女性が壇上に上がる。

 

「自衛軍から教官としてやってきた蝶野亜美中尉よ。これから短い間だけどみんなにに士魂号L型を教えることになるわ。まあ、長々と喋るのも教えるのもなんだし、まずは全員シミュレータールームへと駆け足!」

 

『は、はいっ!』

 

 いきなりシミュレーターを使えとの発言に驚く全員。だが、驚きつつもいきなりシミュレーターに触れられるとの事で全員が何処か高揚した気分を持っていたかもしれない。

 

「みんなが乗る士魂号L型は運転手、砲手、車長、装填手の4人で操縦することになるわ。という訳で、まずは4人組を作って各シミュレーターに入ること! それから色々と役割を変えて色々と動かしてみなさい!」

 

『はいっ!』

 

 みんなが思い思いに4人組を作りシミュレーターへ入っていった。おっかなびっくり様々な役割と試す少女たち。それを蝶野は一つ一つチェックをしていって適性をおおまかに振り分けていった。自衛軍ならきちんと様々な適性検査等をするのだが、彼女たちには時間がなかった。だから、彼女たちの直感やひらめきを重要視するようにしたのだ。適性が無い子でも、装填手にすれば単純な反復運動なので慣れれば誰でもある程度には出来るという計算もあった。

 

 幾度かの休憩を挟みつつ、くたくたになるまでシミュレーターへと入り続けた少女たち。その様子を見て、蝶野は満足そうに頷いた。

 

「よし、みんなやる気が溢れていて良いわね。じゃあ明日から基本的な体づくりに加えて座学、そしてシミュレーター訓練を交えるわ。以上、今日は解散。しっかり食べてしっかり休むこと!」

 

『はい!』

 

 

 解散してまほとみほも帰ろうとした時、蝶野から声がかかった。

 

「はぁい、西住まほさんとみほさんね。西住准将はお元気かしら?」

 

「は、はい、元気です」 ぺこりとお辞儀をしつつ答えるみほ

 

「そう、良かった……中々お会いする機会がなくて」

 

 嬉しそうにする蝶野。

 

「教官は、母とはお知り合いですか?」 まほが尋ねた。

 

「ええ、八代会戦で、あの人の部下だったの。――手紙でね、あなた達を含めて学兵の子たちをよろしく頼むって」

 

「そうだったのですか……」

 

「――あなた達を、出来る限り生き残れるようにするわ。だからその分ビシビシ行くけど、しっかりついて来てね」

 

『はい!』

 

 心から子供達を想う蝶野に、二人はそう返した。

 

 

 次の日から、戦車兵としての総合的な訓練が始まった。ウォードレスの着方からメンテナンス方法、戦車の簡易的な整備からアサルトライフルやハンドガンの撃ち方、戦車を動かす上での座学等々――。

 

 通常の授業は全て脇へ追いやられ、兎に角生きるための速成訓練が行われた。蝶野の口調は優しげながらも厳しいスケジュールで彼女たちをしごき、彼女たちもまたそれによくついていった。後から徴兵されていく戦車随伴歩兵の学兵たちとは違い、初期から訓練を受けている彼女たちの士気は平均的に高かったのだ。

 

 様々な訓練を行っていく内に、少女たちの意外な才能が開花していく。寡黙でおとなしい少女が目を見張るほどのアグレッシブな操縦技術を身に着けたり、明るく大雑把な少女が砲撃となると意外な計算高さと勘で次々と難しい目標に命中させて行ったりと。

 

 そして、指揮能力だ。この黒森峰女学園の戦車兵候補達の中では、特に三人の才能が際立った。沈着冷静で、常に安定した戦術と対処を指示していける西住まほ。命令を順守し、またその時々に応じて状況を判断して確実に任務を遂行できる逸見エリカ。柔軟な発想により、地形や状況を利用して多数の敵を撃破し不利を凌いでいける西住みほ。

 全員の話し合い及び教官の判断により、この3台を率いる小隊長をすることが決まった。1小隊に士魂号L型が3台、3小隊で1中隊の編成、この9台で黒森峰戦車中隊となる。

 中隊長はまた話し合いで、第1小隊小隊長兼中隊長に西住まほを。副官として、第2小隊小隊長逸見エリカを置き、西住みほは第3小隊で状況に応じて別働隊のような役割もしたりする。

 

 訓練開始から3週間も過ぎた頃、黒森峰女学園へと軍広報からの取材が来た。

 

「今日、私5時半に起きちゃった。お風呂入ってドライヤーかけてお化粧して……」

 

「いやいや遅い遅い、私なんて5時だよ?」

 

「ふっふっふ、あんた達情報が遅いね。軍広報が来るんだから、メイクアーティストも来るに決まってるじゃない! 私はその人達にやってもーらおっ!」

 

「「あっ! ずるーい!」」

 

 テレビに映る為か、キャピキャピとはしゃぐ少女たち。

 

「まったく。弛んでいますね、隊長……って、隊長!?」

 

 そんな様子をやれやれと見ていたエリカ。だが、まほの方を見て驚いた。

 

「まあそう言うな。訓練漬けの毎日だからな。少し位息抜きがあっても良いだろう」

 

 そこには妹の顔に真剣に化粧を施している姉が居た。常々思っていたことだが、やはりこの姉は妹思いらしい。

 

「くっ……」 羨ましそうな顔で見るエリカ。それを見てみほが苦笑する。

 

「あはははははは……あ、そうだ、私が終わったらエリカさんにもやってあげましょうよ」

 

「そうだな。エリカ、もう少し待っていてくれ」

 

「は、はい、了解です!」 途端に嬉しそうな顔になるから現金なものである。

 

 と、そんな風にはしゃいでいる時に蝶野が来た。

 

「はい、みんな注目。これからリハーサルの為の台本配るから、読んでおいてね。あ、隊長3人は特にセリフが多いから頑張って」

 

『はいっ!』

 

 蝶野の言葉に、元気よく返事をする少女たち。言わされる言葉も表情も決まっていたが、それでもテレビに出れて楽しかったのだ。それに、宣伝されることで補給等も優先される――と言う即物的な打算も有った。

 だからこそ、みほも、まほも、プロパガンダに使われるという事を我慢できたのかもしれない。

 

 何度かのリハーサルの後、本番が撮られ、編集され放映される。

 

「――はい。大陸で立派に戦った父や、八代会戦で戦い抜いた母の様に、私達も幻獣たちと命あるかぎり闘いぬく所存です」

 

 一糸乱れぬ列を作り、決められた言葉を偽りの感情を込めて話すその姿が、日本中へ。また、一部は他の国へも流れる。その姿を離れた場所からテレビで見る母は、どうしようもない、悲しさを覚えるのだった。

 

 毎日が忙しく、また体も頭もクタクタになるまで使う毎日だった。だが、何処かやりがいがあり、まるで部活動をしているような感覚だったかもしれない。――その時が来るまでは。

 

 

 1999年3月初旬早朝。朝は、かつて無いほど真剣な面持ちの教官の一言から始まった。

 

「皆さんの初陣が決まりました。出撃は3日後。1中隊全員でです。各自、遺書を用意しておくように」

 

 教室の空気が、一瞬で凍った。だが、そんな中まほは冷静に手を挙げる。

 

「教官、通例によれば1年は編成訓練の時間が与えられるはずですが」

 

 だが、それに沈痛な表情で蝶野は答える。

 

「……皆さんの卒業が早まりました。正規の教育期間は6ヶ月ですが、これからは1ヶ月にと。――あなた達は十分訓練したとの、司令部の判断です」

 

「………………」

 

 みんなの表情が、様々に変わる。怯え、怒り、恐怖、絶望――ただ、明るい表情は一つとしてなかった。

 

「……なるべく、敵の少ない戦区に回してもらうように掛けあってみます。ただ、覚悟はしておいてください」

 

 返事を、みんなする事ができなかった。

 

「――教官、指導を。少しでも、生き残る確率を増やすために」 

 

 だが、そんな空気をまほが破った。目には強い意志が見えた。それに感化され、教室の雰囲気も少しずつ変わっていく。

 

「――そうね、駆け足! 今日は実機訓練よ! 私の持つ、全部を伝えるわ!」

 

『はいっ!』 一糸乱れぬ返事が、蝶野へと返った。

 

 全員が、全力だった。少しでも生き残る確率を増やすために。

 

 

 そうして、2日が過ぎた夜。みほとまほは、母のいる実家に呼ばれた。エリカも一緒である。

 家に帰ると、懐かしい香りがした。母の手料理の匂いだ。

 

「おかえりなさい。それと、いらっしゃい、そちらのお嬢さんも」

 

「は、はいっ! お初にお目にかかれて光栄です! 西住准将!」

 

 思わず敬礼をするエリカ。だが、それに笑って首を振るしほ。

 

「今日は階級を付けなくていいわ」

 

 家に来たのは娘の友達であるが、階級有りきの軍隊という組織が、この時は何とも不便に思えた。

 

「えっ、あ、は、はい……に、西住……さん……?」 

 

 おそるおそるさん付けで呼ぶエリカにも、しほは母親のような笑みで応えた。

 

 全員で夕食を食べ、とりとめもない話をする。学校のこと、訓練のこと、熊本の物価や軍人の多くなった街、少し悪くなった治安に友達の恋の話――。かけがえのない日常が、そこにあった。

 

 そして、夕食が終わる頃、しほは自分の部屋からお守りを3つ、持ってきた。靖国より持ってきた、武運長久を祈るお守りである。

 

「これを、貴方達に渡します」

 

 それぞれ、真剣な表情で受け取る3人。手渡すと、しほは後ろを向いた。

 

「――その中には、あの人の……夫の遺髪が入っています。――どうか、武運を」

 

『っ!?』 驚愕する3人。貰ったお守りを大事に胸にしまうと、『はい!』と返事をした。

 

(どうか、この子達を守って下さい) 

 

 涙を隠しながら祈るその表情は、准将としてのものではなく、紛れも無く母としての顔だった。

 

 

 次の日の朝、校庭には戦車兵全員と整備員全員、また教師に他の生徒にPTAやらマスコミやら何処かの政治家までが集まって、何やら出征式を行った。長々とした演説に、焚かれるフラッシュ。まほやエリカやみほは政治家に握手を求められ、その写真もまた撮られる。それを、戦車兵の子たちは、何処か遠い世界の出来事のように見ていた。

 今日、死ぬかもしれないのにこんな儀式に付き合わされ、今までの日常とは違う世界の住人のような気がしたのだ。

 

 しかし、最後の蝶野の言葉になると、全員の雰囲気が変わる。この2ヶ月に及ぶ訓練で、教官と生徒たちには確かな絆が生まれていた。

 

「ここまで来て、長々と言う事はしません。短い時間でしたが、私の持っている全てを皆さんに教えてきました。それを思い出せば、きっと生き残れます。以上!」

 

 蝶野が敬礼をすると、1中隊36名全員が一糸乱れぬ答礼をした。

 

「必ず、生きて戻ってきます。全員、乗車。戦車、前へ!」

 

『了解!』

 

 まほの命令に全員が乗車する。エンジンに次々と火が入り、士魂号L型の6輪の車輪が動き出す。その光景を、整備員達は一糸乱れぬ敬礼で見送った。

 

 

 戦場では、既に多数の兵士が塹壕を掘り、陣地を形成していた。彼女達黒森峰戦車中隊は、足りない直接火砲の穴埋めとして、分散して配備されることとなった。

 

「狙いは中型幻獣を。特にミノタウロスが出たら集中砲火ね。機銃は余程接近されないかぎり撃たなくていいわ」

 

 蝶野から配置と動きを伝えられ、緊張した面持ちで戦術パネルを動かす指揮担当の兵たち。彼女達にとって、永遠とも思える待機時間の後、砲兵の曲射が始まった。

 

「来たわ! 全員、戦闘準備!」

 

『了解!』

 

 幻獣との戦争も、まずは重砲の砲撃から始まる。膨大な数の小型幻獣を擁する中型を中心に、次々と砲撃を叩き込んでいく。だが、数が膨大である。やはり、抜けてくるものもいた。そこに、次は中迫撃砲、その次に小型迫撃砲と次々と送り込まれる火力が増えていく。

 が、それでも多数の中型幻獣が抜けて来た。重装甲のミノタウロスを中心に、キメラやナーガ等の遠距離型が距離を詰めてくる。

 

「全車、射程に入った中型を順次射撃。兎に角数を減らせ」

 

『了解!』

 

 まほの命令に、次々とL型から120mm砲の徹甲弾が送り込まれる。着弾し、存在を保てなくなった幻獣が爆発、強酸性の体液を撒き散らしながら消滅していく。

 

「2号車、キメラ1撃破!」

 

「6号車、ナーガやりました!」

 

「8号車、ミノタウロス共同戦果です!」

 

 次々と上がる撃破報告。それと共に、全員の戦意が高揚していくが、それでも幻獣はゆっくりと、しかし確実に距離を詰めていく。陣地に幻獣が近づくにつれ、やがて直射砲が、対戦車ライフルが、機銃が、小銃が弾を吐き出す。

 数に劣る人類が幻獣に対抗するために火力を集中させる。それは1945年より変わることのない、絶対の戦術であった。

 

 距離が近づくにつれ、人類側の火力が増えていく。小型も中型も陣地には近づけず、このまま終わると誰もが思った時、不意に砲撃陣地にレーザーの奇襲が起きた。空中要塞、スキュラが現れたのだ。と、そこへゴルゴーンも現れた。直接火砲はゴルゴーンの射程外、そして迫撃砲はスキュラにやられてしまった。外敵のいない戦場で、ゴルゴーンは悠々と陣地へと砲撃を降らせ始めた。

 

「っ!全車、建物の影に隠れろ!ミサイルが来るぞ!」

 

 まほが指示を飛ばし、遮蔽に隠れた後にミサイルが着弾、周囲を焦がす。迂闊に頭が出せなくなった。

 

「まずい、このままじゃ陣地が崩れる……!」

 

 蝶野は歯噛みした。楽な戦場を選んだつもりだが、やはり戦場は不確定だ。対空車両はスキュラに手一杯、他の車両も陣地の防衛に機銃と主砲をフル稼働させている。しかし、黒森峰の車両はまだ機動戦闘の経験が――

 

「きょ、教官! ゴルゴーンを狙える場所が!」

 

 考えを巡らせている時、みほから連絡が入った。

 

「っ! 何処に!?」

 

「ここです、立体駐車場がここに!」

 

 端末に座標が送られてくる。見ると、確かにそこには立体駐車場が存在した。だが、そこに行くまでには多数の小型幻獣が――

 

「では、第3小隊の穴はこちらでフォローしよう。エリカ、分散を」

 

「はっ!5号車、レストランへ突っ込め。6号車は角の民家へ。大きいのを優先しろ」

 

『了解!』

 

 蝶野が迷っている内に、まほは即断した。どの道、このままではジリ貧である。そして、第3小隊の各車両のハッチが開き、各機銃座から12.7mmの銃弾が小型幻獣をなぎ払う。

 

「第3小隊、榴弾砲装填!広域射。目の前、まんべんなく吹き飛ばして下さい!」

 

『了解です!』

 

 更にみほの言葉に装填する弾薬を変え、小型幻獣が小隊単位で消滅していく。幻獣の海に、穴が空いた。そこへ突撃すると、周囲を機銃でなぎ払いつつ立体駐車場へ突入した。

 

「8号車と9号車は1階に残って入り口で足止めして下さい!屋上へは私達だけで行きます!」

 

「了解です、上へは一匹も登らせませんよ!」

 

「小隊長、ご無事で!」

 

 L型は装輪式なので、幻獣を轢き殺すと死骸が消滅するまでタイヤに絡まり走れなくなるという欠点がある。それを恐れての殿だった。駆け上っていく7号車。屋上へたどり着くと、ゴルゴーンへの射線が通った。

 

「目標、ゴルゴーン。装填、なるべく急いでお願いします!」

 

『了解!』

 

 屋上からは角度が付き、民家の裏に居たゴルゴーンへの射線が何とか通ったのだ。

 

「撃ちます!」 

 

 砲手が撃つと、ゴルゴーンの背へと着弾。誘爆しながら倒れ伏した。ゴルゴーンは、火力が高い代わりに装甲が薄いのである。

 

「次弾、確認を取る必要はありません、どんどん射撃を!」 

 

「はいっ!」 

 

 屋上の120mm砲が徹甲弾を撃つ度に、ゴルゴーンは数を減らしていき、砲撃の止まった陣地が復活していく。およそ半数のゴルゴーンが倒れ伏した時、幻獣の動きが変わった。撤退を始めたのだ。戦場の各所で歓声が上がり、人類と幻獣の攻守が逆転する。幻獣は、狩られる側になった。

 

「行ける――全車、問題のない車両は追撃を!」 蝶野が叫んだ。

 

「了解。第1、第2小隊はそのまま追撃を。第3小隊はいい位置に居るな。そこから側面へ回り込め。前を塞がないように」

 

 蝶野の指示に、まほが中隊へと指示を出す。

 

『了解!』

 

 こうして、追撃に参加する黒森峰戦車中隊。彼女達の中隊は、中型幻獣撃破53、共同撃破81という戦果を上げた。そして、この結果は大々的に報道され、またプロパガンダとして利用されることとなる。

 

 

 

 夕刻、日の傾いた戦場跡から黒森峰戦車中隊は帰還した。全車生存及び全員生存、更には戦果も上げたのだ。学校へと戻った時、爆発的な歓声が上がった。整備員から、生徒から、教師たちから囲まれる戦車兵の面々。その日、学校ではそのまま戦勝のパーティーが行われた。贅沢品となった肉も使って、多数の料理が振る舞われたのである。

 

 楽しむ中隊の面々から離れ、感慨深げにその光景を見る小隊長3人。そこへ、蝶野がやってきた。

 

「あら、混ざってこないの?」

 

「っ、教官っ!」

 

 思わず敬礼をする3人に蝶野は苦笑した。

 

「今は無礼講よ、気にしないで。……で、どうしたの?」

 

「あ、いえ……」

 

「その、なんて言えばいいか……」

 

「えっと……その……みんな生きて帰れたなぁ……って」

 

 蝶野の問いに、上手く答えられない3人。だが、その様子に蝶野は笑顔を見せた。

 

「うん。貴方達のおかげで自衛軍の被害も減って、生きて帰れた。――貴方達は、私の誇りよ」

 

「教官……」

 

 蝶野の優しい表情と言葉に、なんだか3人は胸が暖かくなった。

 

「……それでね、私も原隊へ戻ることになったわ。――だから、これからは貴方達が全部判断して戦わなければならない」

 

「っ!?そ、そんな、私たちはまだっ!?」 

 

 エリカが声を荒げた。まほとみほも、表情を曇らせる。だがそれに、蝶野は優しげに、そして少し寂しげに見つめて返した。

 

「大丈夫よ。今日、貴方達はちゃんと自分たちの判断で戦えていたもの。――私が、貴方達を危険な場所に送り込むかどうか迷っていた時にもう、ね」

 

 ふふっと微笑む蝶野。

 

「だから、今度会うときはもう教官と生徒じゃない。――戦友よ」

 

 そう言った蝶野の表情には、誇らしさと、寂しさと、悲しさと、申し訳無さと。様々な感情が同居していた。

 

『――はいっ!』

 

 それに、3人は一糸乱れぬ敬礼で、感謝を表したのだ。

 

 

 これは、黒森峰戦車中隊の第一歩。これから、彼女達はより過酷な戦場で、幻獣と戦っていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q:あんこうチームのメンバーはどうしたゴルァ!
A:士魂号L型は4人乗りだからミポリンが余ることに……(震え声)

Q:カメさんチームは(ry アヒルさんチームは(ry 以下略
A:あ、あんまり多すぎると5121小隊じゃなくてガルパンがメインになっちゃうし……(震え声)何人かは出したいんですが……特に自動車部。

Q:アッサムを出せやボケェ! ケイが出ないとは、法定で会おう! カチューシャ様の御姿を出さないとは貴様はシベリア送りだ! 以下略
A:本名を出して下さい……

Q:ダー様出さないとは紅茶を沸かす薪にするぞクルァ!
A:田尻凛って名前でもいいですか……?

Q:ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!
A:ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!

短編が出るとしたらどんな話が良い?

  • 女の子達とのラブコメが見たいんだ
  • 男連中とのバカ話が見たいんだ
  • 九州で出会った学兵たちの話
  • 大人の兵隊たちとのあれこれ
  • 5121含んだ善行戦隊の話

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